真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜 作:葉隠小太郎
痴漢
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
6か月以下の懲役
または50万円以下の罰金が課せられる。
※東京都の場合。
尚、此れ等は本編とは全く関係がないので悪しからず
裁判所。
犯罪や事件等で有罪か無罪かで争い、その判断材料で決め、刑を言い渡す法治国家における司法の城。
場合によってはを民事、つまり法的能力が効いている契約等で争う事でも利用され、年に100万件以上の刑事裁判や民事裁判が行われている。
とはいえ、訴訟大国のアメリカや各国よりも少なく、年々減少している事もあったりしている。
恐らく東京地方裁判所をモデルにしたであろう巨大な建物が其処にはある。
視界いっぱいに広がるその施設は、数多くの裁判の沙汰を決め、多くの被告人を有罪無罪を言い渡しただろう。
「……此処って…」
「裁判所…ですね。石標にもそう彫られています」
部屋のドアは消え、外に出されたラビアンと友奈が目を見開き、信じられない光景に立ち尽くすしか無かった。
「……用が無きゃ来ることのない施設って官庁系がダントツだと思うんだ」
「分かります。小学校の時、社会見学で厚生労働省とか財務省の造幣局とか行きましたけど、確かに目的無いと行きませんよね」
「私もシスターカレンと確定申告を出しに国税庁には行きますが確かに…」
裁判所に向かうという行為は傍聴マニアや有名人の其れ等で聴く者は居るものの、フラッとなんの気なしに入るには難易度が高い。
そもそも、裁判という存在は争いに発展しかねない事態に第三者が調停、裁定を行う為の行為である。
其れ等が無いならば来ることもない。
「というよりヤクザマンションの裏側が裁判所とはこれ如何に?」
「それって、どういうことですか?」
宮本が腕を組みつつ、述べた疑問に友奈が首を傾げる。
「いや、パレスってのはその主の欲望が具現化した認知世界であって、主悪魔が異界を造るのと同じな訳だ」
「でありましたら、このパレスは?」
「ヤクザが裁判受けて贖罪するか?と思う」
宮本の疑問に2人は納得する。
認知世界の中でも"パレス"はその主が持つ欲望が具現化した物。
素晴らしい教職員が裏では裸の王様を気取ってやりたい放題行う城のようなパレス。
有数の画家が若い画家を養わせる代わりにゴーストアーティストを強要させ、その画家達を肖像画として飾る美術館めいたパレス。
認知世界に於いて集団的無意識が強く働くと、地位の高い人物達が自身の欲望を肥大化させ、酷く歪み、醜く育つと言われている。
パレスはそんな異界の一種であるが。
「今まで見てきたが、此れは初めての感覚だ」
パレスから脱出する為にも、主を倒す為にも、深部へ向かわねば解決出来ない。
宮本達は周りの景色を見ながら建物内へと入り、広いエントランスを抜けて受付前へと着く。
「………これにサインをするのか…」
受付の前には傍聴券と個人情報を書き記す書類が置かれている。
あまり裁判所に行ったことのない宮本達にとって、これに書くのが現実世界でも正しいのか?
少々不安を覚えつつ、置かれているペンを手に取り、名前や住所を書き記していく。
「傍聴席の抽選でしょうか?」
「一応、書いとかないと入れない仕組みですね」
ラビアンと友奈が書き終わり、案内表示に従い、書類を置いておくプリンターらしき機械に置いておく。
すると、すぐ横に設置されている傍聴券取出口から数字が書かれた丸いプラ板が音を立てて出てきた。
その数字が恐らく席番号なのだろう。
友奈とラビアンはそれぞれ手にとって準備が整い、向かおうとするが。
「………これじゃないのか」
宮本が書類の所で手間取っていた。
「宮本さん。どうしたんですか?」
「あっ…いや……これで良いな」
「???」
ようやく何かに気が付いたのか、氏名記入欄に名前を書き記していく。
その横から友奈は何気もなく視線を欄の方へと見る。
「…〔ヒデト〕?」
「ん?どうかした?」
「あっ、その……宮本さんの名前って…」
書いてある名前と宮本自身の名前が異なる。
その理由を問いかけようと口を開くが。
「ああ。どうやら
先に話され、その理由が判明する。
「本名らしい?」
「ああ。出来る限り調べてみたけど、どうにも〔宮本真之介〕は一つ一つが出鱈目な経歴で、何らかの改ざんが認められたけど、その本元があった役所も倉庫から出火して全部燃えたってさ」
身元を証明する物も焼失し、まるで自分個人を示す物を他人事の様に振る舞う宮本の姿に、友奈はよく分からない不可思議な感覚を覚え、息を呑む。
軽い。
その一言で表せる人間性が宮本にあった。
宮本は書類を置くと直ぐに傍聴券が出てきたことを確認。
プラ板を手にとってから足を進めた。
「さ。行こう」
「あっ…はい」
少し不安があった。
言い表すことが出来ない物で、其れをどう表現するべきかすら分からない。
だがそれでも。
────信じてみたい。
どんな人間なのかは兎も角、父親の弟弟子である〔宮本真之介〕ならば、信頼したい。
父と共に育ち、強くあろうと戦い続けてきた友だと聞いてきたからだ。
「……うん」
丹田に力を込め、息を吐く。
宮本の事は今は後にし、此れから向かうパレスの中心に何が待ち構えているのか。
自身でも気を付け、宮本達の後を追う。
マンション駐車場
時刻は夕方に差し掛かった頃。
黒塗りのマイクロバスが2台駐車場を占領するように停まり、ドアが横にスライドし、大きく開かれる。
設置されたステップを踏み鳴らし、現れたのは全身黒一色のライダースーツを着た者達。
手には光学機器や減音器を取り付けた
【主席連合】の精鋭部隊。
身に包んだケブラー繊維と炭素加工のプレートを縫い合わせた防弾仕様のスーツは個人携帯火器でも7.62mm弾まで貫通せず表面に留める程度抑えることが出来る。
そして、日本警察で採用されている通常の防刃ベストでは止めることの出来ない5.56mm高速弾仕様の突撃銃も、壁に隠れても撃ち抜ける貫通力を誇っている。
どれも対人戦闘というカテゴリー上で優位に立てる武装を施され、此れから向かう場所が自分達のテリトリーに変貌させる事を自負する勢いに歩を進めていく。
『…
下ろされたバイザーからはギラリと眼光が覗かせる。
数多くの離反者を殺してきた。
数多くの造反者を殺してきた。
『………管理者を探せ』
『ラジャ』
数にして20人。
リーダーらしきユニットから指示を受けて5人程がマンションの管理人室へと向かう。
外から見ても法治国家たる日本でこの様な集団が居れば忽ち通報されかねない。
が、その様な普遍的一般社会人がこの地域に居るはずもなく、うつろ誰が此処を支配しているのか?其れを改めて確認させる様に部隊が展開されていく。
部隊が向かうのは連絡のあった不審な闖入者らしき者達。
連絡の内容で、1人が興信所の人間であること。
もう2人がその助手で、異質さを覚える顔ぶれだったとも聞いている。
『…フォールン1よりフォールンリーダー。応答をどうぞ』
『フォールンリーダーだ。何があった?』
リーダーが耳元に2本指を当てて問う。
『管理者が死んでいる。繰り返す…管理者が死亡している』
管理者、其れは連絡を入れた柳龍光である。
何故死んでいるのか?その奇妙な状況をリーダーが問い詰めた。
『その男は管理者、柳龍光か?』
『はっ…!間違いありません。暗殺業を生業とした〔猛毒 柳〕本人です』
『……そうか。ではどうやって殺された?一線から退いているとはいえ、容易く殺されるような相手では…』
『いいえ。自殺です…。
『………どういうことだ?』
聴き慣れない言葉が耳に入り、疑問が起こる。
暗殺を行う際に偽装工作として自殺を装う事は珍しくない。
しかし、柳龍光が
ボールペンで自殺という明らかに柳龍光らしくない死に方に疑問が浮上する中、マンションのエントランスへ入り。
『………何だ?』
何かが変わった。
コンマ数秒のレベルではない視界の切り替わりの速さは如何なる訓練をし続けた精鋭部隊でも判明させる事は出来なかった。
『…全員セーフティ解除。我々以外は総て敵と認定』
『ラジャ』
全員がセレクターを解除し、単発に設定される。
何時でも撃てる。
引き金に指を置き、銃を構えながら進む。
目的の部屋へ向かいながら訳も分からない中をただ冷静に足を踏み入れる。
自分達に絶対的な自信がある。
盲信的に進むことが正しいと。
血の滲むような訓練と冷徹な精神。
そして、
この
1人が突撃銃の下部に取り付けた
金属製と言えども破壊に特化した形成炸薬弾によってドアの機能を失わさせる。
直ぐに、後続がドアを蹴破り、部屋の中へと進んだ。
『……何だこれ?』
開けて視界に入った瞬間。
傍聴券を手に入れた事で裁判所内の法廷へ足を踏み入れる事が出来た。
傍聴席は折りたたみ式のパイプ椅子が置かれ、前での方に弁護士側と検察もしくは相手側弁護士が対に座る席、被告人や証人が立つ証言台、そして一般抽選の裁判員、裁判官、裁判長が座る席が見える。
因みに傍聴席にはまばらに顔が見えない老若男女の人間?が座っている。
「……あの。どうするんですか?」
「………まぁ、一応聴いとこうぜ?相手の主張ってやつを」
「そ…そう…ですか…」
内容がどうであれ、主張は主張。
どんな判決になるのかが掛かってくる以上、聴いておいても損はない筈だ。
「さっ、座ろうぜ?」
「あっ、はい」
「分かりました」
丁度空いた席3つ、友奈ちゃんとラビアンさんの間に座る。
すると舞台装置が起動したかのように法廷で動き始めた。
音が響く。
映画が始まる時のあのスピーカー音が場を鳴らし、法廷の照明が一つ一つ消えて、辺りが暗くなっていく。
舞台。
演劇やオペラでも始まるのか?と思われる演出が場に流れながら法廷をジッと見る。
何かが動いては立ち止まる。
配役が所定の位置に付くのをイメージし、娯楽めいた劇が始まるのか?
初めは楽観的な想像であった。
「静粛に。静粛に」
男の声と共に、ハンマーが叩かれる音が鳴り響くと、照明が一気に付き始めた。
見えたのは、人形劇でよく見るその他大勢の人型ベニヤ板が裁判員席、裁判官席、対の検察弁護士席に座っている異様な光景。
但し、裁判長のみが紛れもなく生身の人間で、ハンマーを叩いた声の主であった。
「…これより、被告〔山田真耶〕に判決を言い渡す。本人、証言台へ」
いつの間にか証人質問や冒頭陳述は終わっていたのか、判定手続に入っている。
流石に省き過ぎ無いか?と思っていると、被告人である女性〔山田真耶〕が現れ、証言台へと立たされる。
眼鏡美人。
眼鏡をしてなくとも一度は夜のお誘いをしたいと思える美貌と好みどストライクなグラマラスボディをした女性だ。
しかし、何日も拘束されていたせいでか顔つきが宜しくはなく、やつれて目元に隈が出来ており、折角の美人が喪われつつある。
次に男の方を見る。
司法における裁判官は日本国内で相応しいかどうかを選挙時、国民審査で辞めさせることが出来る。
正直に認知度がほぼ無い最高裁裁判官を辞めさせるかどうかを選挙で丸を付けるにも難しいだろうが一応民主主義国家として権利を度々主張しなければならない。
其れが国家組織でありつつ、政府とは独立した法執行機関の役割だろう。
しかし、男は若い好青年で普通の大学生にも見えるものの、その瞳にある闇の存在を見つけ、薄ら寒い感覚が背筋に走った。
「……被告、山田真耶。被告は度重なる裏切りを行い、1人の男を死の淵へ落としかかった事を踏まえ…」
男を"左眼"で見る。
薄っすらと隠された物を見透かし、相手の真意を探る。
どんな人間であろうとも隠す事は不可能。
ある種の
「…被告、"死刑"を判決する」
男の言葉に立ち上がり、口を開いた。
「異議あり…!本件は行き過ぎた処罰に該当する…!!」
「異議あり…!本件は行き過ぎた処罰に該当する…!!」
男が吠えた。
法廷に居るべきではない存在が怒りを露わにする獣の如く、吠え立ててはその姿を晒す。
まるで、法治国家を愚弄するかの様に声高く叫び散らす事は法廷侮辱罪に当たる可能性が有るのに。
「傍聴人は発言権はありません。直ぐ着席を願います」
「ほう。そうかそうか……
男は芝居がかった立ち振る舞いを行い、拒絶した。
人間性に難があるとしか言いようがない態度は少々苛立ちが募ってきそうだ。
「フフンッ、裁判長殿。如何に喜劇がお好きであってもこれじゃあ出来損ないの"ブラックコメディ"でしか無いでしょ?」
能弁を垂れ、舞台に上がるように証言台付近にまで足を踏み入れてくる。
さながらハムレットとでも成り切っているかの様に。
「木の板に人の絵を描いてなんてどんな仮装大賞なんだろう?と思いますよ?其れとも此れでもまさか本気で思いついたアイデアとか?物凄くうっすら寒いギャグで風邪引きそう」
これだけは分かる。
今自分を
「傍聴人。貴方は今法廷侮辱罪で…「では被告の満足な弁護が出来ていない部分は裁判に於ける権利侵害に当たる可能性がありますが?」…何?」
満足な弁護?
「オイオイ。あの板っ切れが弁護士だって言うならひでぇな本当に」
「意味が分かりません。どういう事ですか?」
「どういう事?死刑判決が言い渡されるなんて普通考えたら刑事裁判位なもんだし、刑事裁判ともなれば裁判所から国選弁護人を呼ばなきゃ駄目だろ?それなのに裁判長であるあんたが選んだのが板の絵弁護士?糞だろ?」
男はずっと捲し立てるように伝え、押し込んでくる。
何でだ?
僕を"裏切った"女を裁くのに弁護士なんて必要ない。
十三階段を昇り、荒縄で首を結って奈落へ落とす。
一瞬の内に首の骨が折れて直ぐに死に至る人道的な処刑方法だ。
少なくとも、この男が述べた事は間違っている。
「この法廷を仕切っているのは僕です。故に判決を下す事も僕が行うのです」
「ハハァン〜。女に振られてムシャクシャしたから誘拐した犯罪者の言い分にも聞こえるな…。しかも恋愛関係にもなれなかった事で尚更腹がたったみたいに感じるねぇ〜?」
何なんだ。
いちいち癇に障る言動で逆撫でしてくる。
まるで何がミスディレクションをしているみたいだ。
「…はっ…!?」
「気付くの遅いぞ?」
そう。
気付くのが遅かった。
既に山田真耶は居らず、男と一緒に居たとされる女2人の姿も無い。
わざとらしく身振り手振りで声高らかに話す理由も、此方側に注視させる事が目的だった。
何よりも、同時に男は右手に持っていた金属の筒状の物を目の前に投げ入れてきた。
一の矢を放つと同時に二の矢を射るという心臓に毛が生えている感覚の度胸持ちだと気づくべきだった。
防ぐ術もなく、金属の筒からは強烈な光と音の強襲で目と耳を狂わせては脳を揺さぶる。
世間で言われる"スタングレネード"*2と呼ばれる低致死制圧用兵器で、その様な武器を日本国内で所有しているとは流石に思っても見なかった。
「がぁっ…く…くそぉ……!!」
鼓膜内でトライアングルを長く鳴らすような甲高い金属音と強い光で視界を真っ白に染めた攻撃は、うめき声を上げ続けるしか無かった。
やられた。
怒りが込み上げてくる。
今まで毅然に徹してきた筈が、まるで此方を翻弄する言葉遣いと態度に憤怒の感情がフツフツと湧き上がる。
「……逃がすか…!!」
此処は僕の世界。
何処へ逃げる事も出来ない。
故に外敵は滅さねばならない。
パチンッと指で音を鳴らし、板状の裁判官達がこぞって立体化し、立ち上がる。
此処は僕の
絶対に勝つ。
その為に多くの"シャドウ"を率いる。
走る。
走り続ける。
「ふぅ…ふぅ…はぁ…はぁ…」
短い息遣いのみが場に響く中、彼女達は走り続ける。
「友奈さん…!左にシャドウが2体!!」
「っ!?はっ、はい!!」
裁判所の警備に当たっている刑務官らしき服装をした黒いモヤは警棒を手に振るって攻撃を行う。
但し、単調な軌道でやって来る攻撃を友奈は見破り、上体を横に反らしてから拳を一発打ち込んだ。
「■■■■■■!!?」
「ハァァァアアア!!」【鬼神楽*3】
シャドウの黒いモヤの身体を砕き、四散させ、消滅させる。
【九十九針】
【九十九針】
「…っ!当たれっ!!」【ブラストアロー*4】
放たれる硬質な針を回避し、ラビアンは背から折り畳んだ弓を広げ、光で創り出された矢を射る。
瞬く間にシャドウは串刺しとなり、身体を消滅させていく。
「今のうちに…!」
「あっ…!はい!!」
シャドウの追走から逃れるべく、友奈は精根尽き果てて気絶する真耶の身体を肩に担ぎ、ファイヤーマンズキャリーを行う。
矢をつがえるには両手が無ければならないラビアンよりも筋力と速力を持っている友奈の方が制限が少ない。
包囲網が完成する前に、パレスからの脱出を行い、宮本の元へと向かわなければならず、2人は深く息を整えながら出入り口と思われる場所を探す。
しかし。
「やはり見当たりません!?
外へと出る出入り口は見つからない。
想定はされていたものの、最悪の場合に該当してしまった。
「………セーフハウスを作ります。友奈さん」
ではどうするべきか。
ラビアンの一言で、友奈は思い出し、安全を確保できる場所を探る。
廊下の先、各部屋の室名プレートを見ていく。
会議室は広いが、囲まれやすくあまり籠城には向かない。
視聴覚室は会議室よりはマシでも、同様に向く物ではない。
頭を悩ませ、良い方法を探ることはとても難しいものだと改めて理解させられ、ただただ呻くしかない中。
「……あれ?」
1つ思い出し、受付で置いてあった総合案内のマップを見ていく。
「……用度課…民事〇〇部…"動産管理室"?」
聴き慣れない名前の部屋を見つけ、少し考えを巡らせた後。
「ラビアンさん。こっちです」
警戒をし続けるラビアンへ目を向け、彼女が静かに首を縦に振る。
友奈が見つけたのは、裁判所が執行する慰謝料請求等で動かせる【動産】、つまり直接競売を行う物品を管理する部屋である。
何故彼女がこの部屋を使うことを決めたのか?
其の理由に1つ。
「動産って、言うであればお金になり得る物ですし、それを保管するならある程度頑丈で、壊しちゃ不味いものも多いですよね?」
「あっ…成る程」
友奈が述べた通りであれば、施設の警備を行うシャドウ達にとって、動産管理も仕事の内。
壊れ物も多く扱うであろうその室内であれば無理矢理突破など実行出来るとは考えられないであろう。
そう想定し、階段を数階上がり、目的の部屋へと向かう。
「………あった!」
フロアマップ上に書き記された場所に、動産管理室が見えた。
問題は鍵が閉まっている可能性であるが。
「チョリァァァアアア!!!」【ギガンフィスト】
渾身の一撃でぶち破る。
ドアは蝶番ごとへし折り、吹き飛ばされて跡形もなくなり、悲しい姿を晒されるも、そんな事はお構いなしに2人は室内へと入った。
中は大小様々な段ボールが積み重なる棚が幾つも立てられ、天井いっぱいまで高く、首を90度曲げなければ見ることはかなわない程。
動産を出す為の折りたたみテーブルにパイプ椅子等、ある程度部屋の目的に合わせた光景が広がっていた。
「此処でセーフハウスは出来ますか?」
「ええ。部屋の構造とかは其処まで関係してませんので御安心を」
そう言って、ラビアンが入口手前の床へ陣を書き記す。
十字教由来の特殊な魔術、考えられる辺り防衛結界の類と思われる。
「……我等が主よ。此処を我等の心の拠り所とする事をお赦し下さい…Amen」
目を閉じ、両手を握り締めて唯一神に祈りを紡いでいく。
すると陣から淡い光が浮かび上がり、部屋全体をゆっくりと多い始めていく。
その光は言うであれば人である者を優しく包むゆりかごの様なもの。
暖かさと安らぎを与え、落ち着きを取り戻せる癒やしの空間を創り上げた。
「少し休みましょう。山田真耶さんも此処で一眠りしたら回復すると思います」
「……はい」
今は体力を回復する事。
少々もどかしい気持ちではあるが、受け入れる事も必要。
宮本が戦い続ける中で後ろめたさを思うものの、万全に近い状態に戻す事も重要である。
『ベストコンディションを維持するよりバッドコンディションとどう付き合うかを考えるべきだ。まあ体力回復を目処にしとこう』
軽い組み手をした際に宮本からのアドバイスを思い出しながら、バックパック内の栄養ドリンク瓶を手に取る。
【マッスルドリンコ】
ラベルに貼られた文字を見てからキャップを開き、口に付けてから一気に傾ける。
喉を鳴らしつつ奇妙な甘ったるさと薬効成分故の不可思議な風味が口いっぱいに広がり、多少の不快感を覚える。
「……ぐぇ…」
飲み慣れていない故に思わず乙女がしてはいけない声を出しながら嫌悪感で顔が歪む。
「…マッスルドリンコですか…。あまり常用はオススメしませんけれど…」
「うーん。でも【食いしばり】含めて此れで体力全回復出来るので使う人多いと思いますけど?」
「マッスルドリンコ症候群…という体力回復のギャップによって引き起こされる状態異常やその他の合併症も確認されています」
「…………まぁ緊急用で」
自分よりも先輩であるラビアンからの忠告に、空ビンを静かにバックパックへと仕舞う。
同じ様な症候群に悩まされた者達を見てきたであろうその瞳は例に漏れず強く光らせる物だった。
「……良し」
友奈は
漲る闘志も、余剰上乗せによって長く戦うことも出来るだろうと思い巡らせ、両手を強く叩いて気合を入れた。
「宮本さんと合流しましょう。何か良い方法を見つけたかもしれませんし」
「ええ。その方が攻略もしやすいです」
攻略。
出口が無い以上、パレスの主である裁判長を倒さなければ脱出は不可能と判断する。
であればどう攻略するべきかを考え始めると。
「前にドクターから聞きました。パレスには"オタカラ"と呼ばれる物があり、其れが鍵になると」
「オタカラ…?」
聴き慣れない用語で何となく察する。
「ええ。一度【心の怪盗団】を名乗る人から教わったとか?」
「あの大物政治家の不正を暴いたり、芸術家がゴーストアーティストをさせてたりの?」
「ええ」
心の怪盗団のワードは友奈も知っている。
突如として隠蔽や不正を行う悪人達の心を盗み、改心させる謎の怪盗であり、世間では世の悪事を赦さぬ義賊として注目されていた存在。
ただ、まさか悪魔業界に関わるとは思っても居なかったが。
「オタカラはその人物に於いて重要な物。このパレスの何処かに必ず存在します」
「其れを探せば脱出出来るんですね?」
「はい。少なくとも、鍵にはなります」
脱出手段を見出し、2人は先ず鍵となるオタカラ探しを開始する。
しかし闇雲に探すことでは見つけられる可能性も低く、下手をすれば主によって安置されている場所から移動される事も考えられる。
迅速かつ慎重に。
思考を巡らせつつ、道中のシャドウから隠れては目星を付けるべくフロアマップを確認していく中。
「………お父さま?」
ふと何も無いはずの廊下の先をラビアンが見る。
何か視界の外へ向かう見たことのある背中を追うも、やはり何も無い。
キョロキョロと不可思議そうに目を泳がせる姿は何処か異質さを感じさせるものの、それを友奈は知る由もなく。
「どうしました?」
「あっ…えっ?」
不思議そうな表情で見る。
「………いえ。何でもありません」
「そう…ですか」
一瞬の間に不可解な沈黙が流れる。
────何であろうか?
疑問は尽きないけれど、今は其れ所では無い。
一刻も早く殿を務めている宮本に加勢するためにもオタカラを手に入れなければならない。
「……これって?」
フロアマップを指で辿り、見つけたのは建物の中央に位置する部屋。
"懺悔室"と記載されている。
裁判所にあっただろうか?
まるで後付された異物めいたその文字に友奈は疑問がガムの如く貼り付き、離れる事が出来ない。
この疑問を晴らすべく、ラビアンへ問おうと振り返る。
「ラビアンさん、もしかしたら此処……あれ?」
直ぐ側に居たはずのラビアンの姿がない。
「ラビアンさん?……ラビアンさん!!」
少女の声が廊下の端まで木霊す。
しかし、その声が呼びかける主の耳に入ることは無かった。
to be continued