Original Phantom of the Opera 始まりはゲームから 作:木桜 春雨
バイオリン弾きの娘に何をした、刃物を首筋に押し当てられて女は恐怖の為か、最初のうちは無言だった、だが、黙っていても殺されると思ったのかもしれない、絞り出すような声で髪をと呟いた。
「きっ、切ったの」
それだけかと聞く、すると逃げるように目をそらした、隠しているな、全部白状させてやるとナイフを持つ手に力を入れた。
「それだけでは駄目って一人が言い出して、子爵に二度と会わないようにって」
女の話を聞いているうちに怒りが沸いてきた、殺してやりたいと思った、目の前の女を、いや、子爵の取り巻き全員を酷い目にあわせてやりたい。
だが、今は駄目だ、怒りを押し殺した、聞き出さなければいけないことがある。
脅しだけでは駄目だと重い、薬を与えることにした。
昼間、街へ出るのは普通の人間ならたいしたことはない、だが仮面をつけた自分のような人間にはよからぬ事を考えるやからがいないとも限らない。
危険な目に遭ったときの、万が一の為に持っていたのは毒だけではない、薬もだ。
だが、貴族達が阿片窟や娼館で使うようなものでもない、薬を飲んだ女は、ぼんやりと虚ろな表情になった。
耳元に顔を寄せて話しかける、もっと欲しいかと尋ねると女はこくりと頷いた。
湖で別れてから二週間ほどが過ぎた、ここ数日、ラウルは忙しい日々を過ごしていた、理由は兄だ。
今まで亡き両親から受け継いだ財産、領地の管理いで十分ではないかと思っていた。
だが、貴族だからといって、それだけで暮らしてはいけない、事業をはじめると言い出したのだ。
周りの貴族たちが成功している様子を見て兄は触発されたのだろう。
爵位があり貴族と呼ばれていても皆が裕福な生活を送っているわけではない。
同じだと思っていた階級の貴族達が自分より贅沢な暮らしをしている様子に兄は羨ましくなったのだと思っていた。
そうなると次男坊だった自分も何もせずにというわけにはいかない、仕事の為に外国に行くと言われた時には驚いた。
留守の間は家のことを頼むと言われて慌てて執事や周りの人間に自分のするべき事は何かと尋ね、現在は奔走しているのだ。
両親が亡くなり、親代わりの兄から甘やかされていたので慣れないことばかりだ。
そんな最中、彼女との約束の時間に遅れてしまった。
怒っているだろうと思った、以前にも遅れたことがあるからだ、だが、ちゃんと謝れば彼女は許してくれると思った。
自分の周りにいる友人、女性たちもそうだからだ。
大丈夫だと思っていた、ところが。
湖での待ち合わせの時、彼女は一人ではなかった、見知らぬ男と一緒だったのだ。
それも白い仮面をつけて素顔を隠した男とだ、怪しい人間だと思ったのも無理はない。
だが、彼女は男と楽しそうに話していた。
そして自分が遅れた事に不満げな様子を見せたが、その男と一緒に行ってしまったのだ。
ショックだった、約束の時間に遅れたのは悪かった、だが、本来なら自分と行くべきではないのかと思った、だか、あのときは追いかける元気さえなかったのだ。
クリスティーナ、彼女と初めて会ったのは別荘のパーティだ。
招待されたときは最初、気乗りはしなかったが、兄から貴族の付き合いというものは大事にしなければと言われたのだ。
主催の貴族は堅苦しいのは嫌いらしく、曲芸や見せ物だけでなく、ジプシーの踊り子もいた。
初めて見るものばりで驚いた、その中でヴァイオリンを弾く男性と娘がいた。
歌う姿に見とれてしまった、話がしたくて歌い終わった彼女に声をかけた。
「素敵だった、上手なんだね」
今まで出会った女の子達は僕が誉めると嬉しそうに顔を赤らめていたけど、彼女は違った。
ありがとうといって頭を下げると、すぐに父親の元に行ってしまった。
「どうしました、ラウル坊ちゃん」
僕に声をかけてきた大人に尋ねた、彼女のことを。
「ああ、旅回りの、あの娘は外国人ですよ」
僕の表情に気づいたのだろう、東洋人ですよと大人は笑った。
驚いた、黒い髪と目に、てっきりジプシーかと思ってしまった。
ジプシーといっても色々だ、呪術や魔法を使ったり怪しい薬で男でも女でも虜にするとか。
でも、全然違った、魔法も怪しい術を使わなくても
一度しか会っていないのに気になってしまった。
出会いから数年が過ぎた今でもだ。
この間は本当に悪かったと思っている、会いたいからと手紙を書いて、彼女が泊まっている宿に手紙を届けた。
ところが、返事がこない、どうしたんだろう、こんな事は初めてだ。
もう一度、手紙を書いて今度は使いの人間に、その場で返事をもらってくるようにと頼んだ。
「彼女に会えなかったのか」
その日、使いを頼んだメイドは頷いた、彼女ではなく父親が出てきたという。
「もう会わないって、彼女が言ったのかい」
「父親ですが、ラウル様」
何故、理由はと尋ねるとメイドは首を振った、何か隠しているんじゃないかと思った。
いや、知っていても言わないだろう。
もし、これが兄ならメイドは隠すなんことはしないだろう。
「わかった、もういい」
こうなったら直接、会いに行くしかないと思った。
翌日、彼女の泊まっている宿屋に向かったが、驚いたことに宿の主に出て行ったと言われて驚いた、宿の主に聞いても行き先は知らないと言う。
どこか他の宿に泊まることにしたのだろうか、パリを出るなんて事はないはずだ。
彼女に会いたい、いや、会わなければと思って宿を出た後、どうすればいいのかと途方にくれてしまった。
こういうとき頼れるのは友人だ、カフェに行ってみようかと思ったときだ、シャニュイ子爵と声をかけられた。
誰だろう、聞いたことのない声だと思った、いや、兄の知り合いかもしれない、振り返った瞬間、はっとした、湖で彼女と一緒にいた仮面の男だ。
「クリスティーナ嬢に会いに来たのか」
静かな声、だが、体中が震えるような感覚を覚えた青年はしばし呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
やっと続きをUPできました。
ヒロインは宿で休んでいると思ってください。
あんな事があった後ですから。