※この作品はR-18です。

淫魔王ハジメは世界最強   作:木崎楓

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淫魔王の狂気

 ユエを助けてから数日。

 ハジメはユエに魔法を教わっていた。

 

 ユエの技能を扱えるようになったとはいえ、魔法は自分で練習しないと使えない。

 武術だってそうで、雫と同じ技能を持っていても、地球で剣術を学んでいた彼女と同じようには立ち回れない。

 一応技能があるので、技術を覚えるのはかなり速くなっているが、練習は必要なのだ。

 

「……ハジメ、凄い。覚えるのが早い」

 

 実際、ユエにそう褒められていた。

 元々光属性の魔法は使えていたし、それの別属性に変えて使えばいいと考えると、割と簡単ではあったようで。

 既にオリジナルの魔法をいくつか編み出していた。

 

「ん、敵だ」

「倒す」

 

 ユエに言われた方向に、ハジメは魔法を放つ。

 掌に出現した赤黒い炎、それを矢のように高速で飛ばし、着弾した瞬間に大爆発を発生させる。

 

 あまりの破壊力に、ガラガラと落盤し、瓦礫が落ち、道は崩れる。

 魔物は一体だけで、死体が見えないから生死は分からないが、ここまでやれば、死んでいることだろう。

 

 これは、ハジメのオリジナルの火属性魔法、名前は無い。

 複雑な術式とか派手な演出とか、そんなものは必要無い。

 敵を殺すのであれば、極限まで破壊力を高め、魔法のコントロール精度を上げるか、あるいは高速で射出するか。

 あるいは、単純に飽和攻撃を仕掛けることで、相手に回避不可能な状況を押し付けるのもいい。

 

 とにかく、ハジメは強くなっていた。

 

「……うん。個人的には、ひとまずこれくらいでいいかな?」

 

 各属性の強力なオリジナル魔法は作り終えた。

 一点に威力を集中させる単体攻撃と、物量重視の飽和攻撃、最強の二種、それを各属性毎に用意すれば、とりあえずの対応はできる。

 

「ん。じゃあ、進む?」

「そろそろ行こう。これからはちょくちょく戦闘しながら」

 

 ある程度の実力はついてきたので、ハジメ達は次の階層へと進むこととなった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 そしてハジメ達は、特に何の苦労も無く、最下層まで到達できた。

 危険そうな階層も特に無く、二人とも自動再生を持っていたので、それを利用して階層まるごと焼き払ったり、あるいは凍らせたりする荒業で突破していった。

 唯一一階層だけ、精神操作系の固有魔法を持つ魔物がいたが、それはユエが撃破した。

 ハジメが操られかけたが、ユエは眷属であるためなのか、全く効果が無く、突破できたのだ。

 

 そして現在最下層。

 その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。

 柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。

 完全に一直線に、道は続いていた。

 

「何かあるな、これ」

 

 ハジメは一目見た瞬間、そう呟いた。

 他の階層とは違い、階層まるごと人工で作られたかのような造りとなっている。

 何かがあると思うのは確実だろう。

 

「“錬成”……ん? あれ?」

 

 何が起きてもいいように、地面に穴を開け、地中から先に進もうとしたのだが、上手く行かない。

 一メートルすら穴を開けることができない、これでは隠れることができない。

 

「“錬成”が効かない……」

 

 階層と階層の間を“錬成”で変形させて移動できなかったのと同様に、この下に対して“錬成”を使っても、地形を変更することはできないらしい。

 

「ユエ、警戒しよう」

「んっ」

 

 二人は警戒しながら進む。

 そうしてゆっくりと二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。

 いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。

 全長十メートルはある巨大な両開きの扉があり、美しい彫刻が彫られている。

 特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「あの扉がゴールか? でもあの扉のマークは一体……」

「……多分、反逆者を示す文様」

 

 そう、扉に刻まれた文様について、ユエは言った。

 

「反逆者……聞いたことはある。扉の向こうはその隠れ家ってどころか? けど今はどうでもいい、あそこがゴールなんだ」

 

 ゴールは多分目の前。

 そのことにハジメは笑みを浮かべ、一歩踏み出す。

 そしてハジメとユエは、扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

 その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。

 

「ッ、来たか!」

 

 ユエを掴んで後ろへ退くハジメ。

 あの、ベヒモスが出現した時のような魔法陣、だが今回は、それよりもはるかに巨大なものだった。

 魔法陣に刻まれた術式も複雑怪奇なものとなっており、明らかに、ベヒモスよりも強力な何かが現れる予兆がしていた。

 

「ユエ、気をつけるぞ! こんなこと言うのはアレだけど、僕一人じゃ流石にキツそうだ……!」

「ん、分かった」

 

 魔法を教えてもらってからは、ハジメはほぼ一人で戦っていた。

 やはりユエを危険に晒したくないという想いはあり、眷属となった彼女は、安全な所にいてほしいのだ。

 だが流石にあの魔法陣から出てくる敵は、そうは行かなさそう。

 

 ユエも戦闘体勢をとる。

 

 それとほぼ同時に、魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。

 咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメとユエ。

 光が収まった時、そこに現れたのは……

 

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。

 例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 身体の髄まで震わせるような咆哮。

 しかしハジメはすぐに正気に戻り、小手調べと言わんばかりに、敵の頭の一つを氷魔法で撃ち抜く。

 

 バキバキバキッ!

 

 狙いは六つの頭部のうちの、赤色の頭。

 着弾すると同時に、赤頭は氷に包まれ、頭部ごと破砕してしまう。

 

「おっ、意外といける……?」

 

 思った以上に簡単に吹き飛ばせたと思ったハジメ。

 しかし直後に白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。

 すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻った。

 白頭は回復魔法を使えるらしい。

 

 ハジメに少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

「なるほど……ユエ、白からやるぞ!」

「んっ!」

 

 当然ハジメ達も、回復役の白頭から倒そうと動く。

 青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避しながら、二人は白頭を狙う。

 

「“緋槍”!」

「はいドンッ!」

 

 ユエの閃光と燃え盛る槍が、白頭に迫る。

 その後方からは遅れつつも、ユエの魔法よりも圧倒的に速い光線が発射される。

 両方とも白頭に直撃かと思われたが、その前に黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。

 そして淡く黄色に輝きハジメの光魔法もユエの“緋槍”も受け止めてしまった。

 衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している。

 

「盾役、回復役……となれば他は攻撃役か。色と属性が対応してるってところか」

 

 ハジメは冷静に分析こそしているが、正直な所、かなり厄介ではあった。

 

 全体へ攻撃を与える広範囲攻撃魔法は、威力を上げないとあまりダメージが入らなさそうだし、そうすると魔力的にあまり連発できなくなる。

 おそらくユエもそれは同じで、最上級魔法とも呼ばれる強力な魔法を使えば、頭を複数破壊できるのだろうが、魔力的にしんどい。

 

 黄色頭に攻撃を続けると、やっとダメージを与えることに成功する。

 が、即座に後ろの白頭が回復してきて無意味と化す。

 

「はいココ! 燃え上がれ!」

 

 ハジメはここで、広範囲高火力の火属性魔法を放つ。

 一時的に動かなくなった白頭をめがけて一発の炎弾を放ち、命中させる。

 それは一瞬にして爆ぜ、周囲の頭もまとめて燃え上がらせる。

 流石にこれには、白頭や黄頭だけでなく、他の色の頭も苦しんでいる。

 

 このチャンスを逃すかと、ハジメが追撃を行おうとした、その時だった。

 

「いやぁああああ!!!」

「!? ユエ!」

 

 ユエの悲鳴に動揺するハジメ。

 その動揺に付け込むように、赤頭と緑頭が炎弾と風刃を無数に放ってくる。

 身体は焼かれ、肉は引き裂かれ、左腕は吹き飛ぶ。

 が、それでも敵のことは気にすること無く、“自動再生”で強引に肉体を再生させながら、ユエに駆け寄り、ついでに近くでユエをジッと見ていた黒い文様の頭を破壊し、柱の影に隠れた。

 

「ユエ! 何があった!?」

「……」

 

 ハジメの呼びかけにも反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。

 肩を揺さぶり、彼女を何とか正気に戻そうとする。

 しばらくすると、虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。

 

「ユエ!」

「……ハジメ?」

「うん、ハジメだ。大丈夫か? 一体何があったんだ?」

 

 パチパチと瞬きしながらユエはハジメの存在を確認するように、その小さな手を伸ばしハジメの顔に触れる。

 それでようやくハジメがそこにいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

「……なるほど、理解したよ」

 

 それだけの言葉で、ハジメはユエに何が起きたのかを理解した。

 あの黒頭に、悪夢を見させられたのだ。

 

「とりあえず、ブチ殺す!」

 

 ハジメは、自ら作り上げた強力な単体攻撃魔法を複数バラ撒く。

 単発式で直線的な魔法であるが故に、回避は容易ではあるが、それは一発だけならの話。

 同時発動しまくって、事実上の飽和攻撃にしてしまえば、回避はそれだけで難しくなる。

 しかも威力が高いとはいえ、単純な魔法がほとんどなので、魔力消費もめちゃくちゃ多いという程ではない。

 

「ハジメ……」

 

 複数属性の攻撃で、強引に敵の頭に傷を付けていくハジメ。

 攻撃はほとんど回避せず、強引に魔法の火力だけで力押しようとする。

 が、流石に一人の火力だと限界がある。

 殺し切ることはできず、敵の攻撃でハジメの身体もボロボロになっていく。

 

「私も……ハジメを、守らなきゃ……!」

 

 その姿を間近で見させられたユエは、ハジメに感化され、立ち上がる。

 そして、矢継ぎ早に魔法を放っていく。

 

「“緋槍”! “砲皇”! “凍雨”!」

 

 とんでもない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。

 攻撃直後の隙を狙われ死に体の赤頭、青頭、緑頭の前に黄頭が出て防御するが、

 

「そこだぁぁア!!」

 

 ハジメの一発、威力を圧縮した魔法で、黄色頭を破砕するどころか、その後方にある赤頭、青頭、緑頭もまとめて破壊した。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 怒りによるボルテージがおさまってきて、敵の攻撃も激しかったせいで、一気に疲労感を感じてきたハジメ。

 そのせいで、気付かなかった。

 柱の影から現れる、黒頭に。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「……!」

 

 そこには、無数の死体があった。

 見ず知らずの死体ばかりではあるが、共通していたのは、全て女性の死体であるということ。

 

「なんだ、これ、は……」

 

 見ず知らずの死体であるはずなのに、ハジメの身体は、魂の底から震え上がる。

 思わず、その場で膝をついてしまう。

 

 そして、しばらくして気が付いた。

 

「香織……雫、リリィ……ユエ、も……」

 

 その中に、ハジメが眷属にした者達が混ざっていたことに。

 そしてハジメは無傷であることに。

 

 守り切れなかった。

 

 自分の制御できない力で魅了して心を奪い。

 眷属にして、事実上の奴隷に仕立て上げた。

 罪のない人達を洗脳して、奴隷にするなんて、何と罪深いことだろう。

 

 だから、その代わりに、自分が一生をかけて、命を賭けて、眷属にした人達を幸せにすると誓った。

 守り抜くと、誓った。

 

「ごめん……」

 

 でも、守り切れなかった。

 

 ハジメは悲しみに震えながら、剣を抜く。

 

――ハジメっ!

 

 そして、自分の顎下に剣先を当てると、脳天に向けて、剣を突き刺した。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「ハジメっ!」

 

 目の前で、ハジメが自殺した。

 剣を迷い無く自らの顎に突き刺して、その場で、ハジメは倒れた。

 

 ユエは慌ててそこへ駆け寄る。

 息一つ無いハジメを揺さぶる。

 剣を顎から引き抜くと、ドバッと血が溢れ出る。

 

「……ク、ソ、が」

 

 すると、あっという間に傷は塞がっていき、ゆっくりとハジメは立ち上がる。

 

「ハジメ!」

「……ユエ。僕は、大丈夫」

 

 静かにハジメはそう言うが。

 明らかに、その表情は怒りで満ち溢れていた。

 

「潰す……よくも、あんなとんでもない悪夢を見せてくれたな……!」

 

 眷属を死なせるだなんて、そんな禁忌のよつな悪夢を見せられた。

 ハジメはそれにより、苛立ちが頂天へと達した。




・南雲ハジメ:眷属が死んだらブチ切れる。そして眷属が全員死んだら自分も自殺する。

・ユエ:ハジメが秒で迷い無く自殺したことにとんでもなく動揺した。
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