ここで時間は少し遡り、ハジメが奈落に落ちてから数週間後の話。
まさかの死者が出たということもあり、多くの人が多大なショックを受けてしまった。
ハジメはクラスの中心というわけではないが、嫌われ者というわけではなく、クラスでは皆とそれなりに仲良くやっていたため、影響は大きかった。
その中でも、立ち直れないくらいにショックを受けてしまったのが、香織と雫だ。
クラスメイトは誰一人として知らないが、二人はハジメの恋人だ。
故に、ハジメの死にひどくショックを受け、引きこもるようになってしまった。
「うぅ……ハジメ、ハジメぇ……」
布団の中で、雫は泣き続ける。
王都へ戻ってからは、ほとんど食事を取ることはなくなり、部屋に閉じこもり、涙を流し続けていた。
香織の方はまだマシではあるが、そちらも似たような状況だ。
クラスメイトは、心優しい二人だから、ハジメの死に心を痛めていると言っていたが。
そんなのじゃない。
最愛の人が目の前で死んだ、それがどれだけ辛く苦しいことか。
皆の危機を救ったハジメが、成す術無く、トラップか魔法かも分からない何かによって死んだ。
ショックどころの話ではなかった。
今日も涙が止まらなかった。
ドドドドド……
「……?」
ふと、廊下を勢い良く走る音が聞こえてきた。
雫は布団から顔を出し、不思議そうに見る。
そもそもクラスに、こんな騒がしく廊下を走るような人はいなかったはず……そんなことを考えていると、音はどんどん大きくなっていく。
というか、自分の部屋に近づいてきている。
ドバン!
そして、勢い良く扉が開き、
「雫ちゃん!」
香織が、雫に勢い良く抱きついてきた。
「えっ、あの、香織……?」
面食らったかのように、おろおろと困惑する雫だが、香織はそんなことは気にせずに言う。
「雫ちゃん! ハジメくんが……ハジメくんが、生きてる!」
「……え?」
ハジメが生きてる。
あの光に飲み込まれ、死に、消えた、それが雫の出した結論だったが。
香織は生きていると言った。
ただひたすらに、何でなのか、意味が分からなかった。
「ほら、これ見て!」
そんな首を傾げる雫に、香織は自分のステータスプレートを見せた。
====================================
白崎香織 17歳 女 レベル:10
天職:治癒師
筋力:90
体力:180
耐性:110
敏捷:160
魔力:400
魔耐:400
技能:回復魔法[+回復効果上昇]・光属性適性・高速魔力回復・魔力操作・武装顕現(妃)・封印[+解放Ⅰ]・言語理解
====================================
見せられたステータスを、ジッと見る雫。
「解放、それと、武装顕現……?」
そして、新たなる技能に気が付いた。
封印が一段階解かれ、新たなる技能が追加されている。
自分達は、封印を解くようなことは何もしていないのにも関わらず。
「そう! 多分ハジメくんが生きてて、何かしたんだよ! だから私達の方も、封印が解放されたの! ほら、雫ちゃんも多分同じ風になってると思うから!」
「え? う、うん」
雫も言われるがまま、自分のステータスを見てみる。
====================================
八重樫雫 17歳 女 レベル:10
天職:剣士
筋力:170
体力:200
耐性:160
敏捷:500
魔力:150
魔耐:150
技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]・縮地・先読・気配感知・隠業・魔力操作・武装顕現(妃)・封印[+解放Ⅰ]・言語理解
====================================
そこには、香織と同じく、新たな技能が現れていた。
「本当だ……まさか、本当に……」
「うん! 生きてるんだって! それに私達、まだ眷属じゃなくなってないし!」
「……!」
ハジメが死んだら、眷属は眷属ではなくなる。
ハジメが死ねば、眷属の下腹部に刻まれた淫紋は消え、ハジメの支配から解放される。
つまり淫紋が消えれば、ハジメは死んだと言い換えることができる。
雫は、改めて自分の下腹部を見てみるが、淫紋は、残っていた。
「そういえば確かに……何で、気付かなかったんだろう」
取り乱しすぎて、そんな単純なことにも気が付かなかった。
自分達がまだ眷属である以上、主であるハジメは確実に生きているというのに。
「……ねぇ、雫ちゃん」
「うん」
「頑張ろう、一緒に。ハジメくんは絶対に戻って来るから、その時のために」
「……そうね」
そうして二人は、立ち上がるのであった。
・白崎香織:めっちゃショックを受けて寝込んでいた。が、雫よりはマシで、ある程度立ち直れてはいた。
・八重樫雫:精神面で言えば、香織よりも酷い状態だった。ろくに食事も食べずに、誰とも会わずに部屋に閉じこもっていた。
・リリアーナ:ここでは出てきていないが、彼女も眷属なので、けっこうショックを受けていた。流石に二人ほどではないが。