白兎のガチ恋
脱出のために魔法陣に乗り、光に包まれる。
何も見えなくなるが、同時に空気が変わったことを、ハジメとユエは実感した。
湿気た空気から、カラッとしたかのような空気へ。
そうして光がおさまったところに現れたのは、またしても洞窟だった。
だが、そこを少し進んで、オルクスの紋章が刻まれた行き止まりに突き当たる。
そこに死んだオスカーが持っていた指輪をかざすと、光に包まれ、
◆◇◆◇
出た場所は、峡谷の底だった。
燦々と輝く太陽、雲一つ無い青空。
そして、ジメッとした洞窟とは異なり、カラッとした爽やかな空気。
「ついに、ついに出たのか……」
「んっ」
「そうかぁ」
穏やかな表情で、ハジメは腕を大きく広げ、空に輝く太陽の光を全身で浴びる。
「いい、天気だ……」
「……ん。いい天気、気持ちいい」
拠点にあった人工の太陽とは異なる、天然の太陽。
そのポカポカする日差しを全身に浴びる。
しかし、そんなことをしていたら、当然というべきか、魔物に囲まれる。
「っと、こんなことしてたら囲まれたか……」
日差しの影響か、魔物に囲まれても穏やかな雰囲気を崩さないハジメ。
それもそのはず、この程度の敵なら、
「とりあえず死ね」
一瞬で、細切れ肉に変えることができるのだから。
見えない何かによって斬り裂かれ、魔物は数センチ程度のサイコロ状に切り刻まれ、絶命した。
ハジメの“武装顕現(王)”によって出現させた、十二の宝具。
その第五の宝具である“宝剣”、それを数百個に複製し、周囲の景色と同化させて遠隔で動かし、敵を斬り裂いた。
そして残るのは、空中に浮かぶ無数の豪華な剣のみ。
「……なにこれ」
これまでユエにすら見せてない秘密兵器。
ユエは当然、何が起きたのか理解できず、困惑する。
「ほら、“武装顕現”ってやつ。僕のは武器も出現させられるんだ」
そう言いながら、空中に浮かぶ“宝剣”は消し、別の武器……ハジメはとりあえずと、“猟銃”を出現させる。
「コレなんかは、因果律を操作することで、どんなモノにでも弾丸を命中させられるんだってさ」
「ん……えっと、すごいんだね」
どうやらユエも、ハジメが何を言ってるのか理解できていない様子。
とはいっても、ハジメ本人も、その言葉の意味を完全には理解できていないのだが。
「それにしても、ここ……魔力が分解される」
「あっそうなの? ならかなり魔法の効率は悪くなりそうだ……」
ここはライセン大峡谷。
魔力が分解され、通常の人なら魔法発動はほぼ不可能な場所だ。
魔力量が多く、かつ技量も優れているユエだから、何とか魔法を使えているのだ。
それでも、威力減衰は大きいし、普段よりも数倍、下手したら十倍くらいの魔力を必要としてしまうほど。
となれば、ユエはあまり戦えない、戦うべきではない。
「なら、僕に任せて。こいつらなら、ここの敵くらいなら余裕で狩れるから」
ハジメはそう言いながら、魔力駆動二輪……いわゆる魔力で動くバイクのようなものを出現させる。
戦闘手段については、“武装顕現”により出現する武器だけで基本事足りるので、移動用だったり野営用だったりの道具を、ハジメは色々作っていた。
魔力駆動二輪も、その一つだ。
これをオスカーの持っていたアーティファクトの一つである宝物庫というものの中に入れておいて、必要になった時に取り出すという形で運用している。
「こういう時は、遠隔で動かせる“宝剣”が一番だな」
そう言って“猟銃”を消すと、再び宝剣を出現させた。
まぁ、ハジメ以外には見えない状態ではあるが。
そうしてハジメはユエを後ろに乗せ、移動を開始した。
魔力駆動二輪は、魔力バッテリーからエネルギーを供給しているので、このライセン大峡谷でも、数時間程度なら問題無く動かすことができる。
足りなくなったら足りなくなったで、乗ってるハジメ自身から魔力を吸収するようにしているので、しばらくはどうにかなるはずだ。
「それで、ハジメ。今からどこに向かう?」
「多分ここライセン大峡谷でしょ? ならとりあえず樹海の方に抜けようかなって思ってる。砂漠側は、まぁ……流石にもう少し準備がいるだろうし」
ライセン大峡谷は、基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。
そのため脇道などはほとんどなく、道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。
確か大迷宮があるとされた場所ではあるので、それに注意しながら、ハジメ達はバイクで進んでいった。
魔物についても、ハジメの顕現させた遠隔で動く“宝剣”が、あっという間に細切れにしていくので、安全に進んでいった。
「だずげでぐだざ~い!」
そんな風に、のんびり魔物を虐殺をしながら進んでいくと、前方の方から小さく女性の声が聞こえてきた。
「ん? あ、魔物」
流石にそこそこ遠くて分かりにくいが、青っぽい人影が一つある。
そしてその後ろには、頭が二つになったティラノサウルスのような魔物が、その人影を追いかけていた。
「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」
見える範囲まで近づいてみるとそこには、ウサ耳生やした少女が、必死で逃げる姿があった。
彼女はハジメ達を認識すると、とんでもない形相で助けを求めてくる。
「あらら。ま、助けるかな」
呑気にそう言いながら、ハジメは“猟銃”を出現させる。
“宝剣”でも余裕で殺せばするが、あればかり使うのもどうかと思ってか、別の武器を使うらしい。
ハジメはその“猟銃”を……魔物のいる場所とは明らかに外れた方向に銃口を向け、二発、撃った。
バァン! バァン!
しかし出るのは音だけで、銃弾は発射されない。
「……えっと、ハジメ?」
「大丈夫。三秒後に魔物の頭に当たる」
3、2、1……
そして、ゼロになった瞬間、ウサ耳少女を追う魔物の頭部に風穴が空き、ドスンと音を立て、その場に倒れて絶命した。
この“猟銃”は、武装顕現にて扱える宝具の一つ。
実際に視認したことのある存在や物体のみ、という制限があるものの、その条件を満たす存在に対して、弾丸を放つことが出来る。
そして、狙った存在や物体に対しては、どんな状況だろうが、必ず命中する。
どれだけ堅牢な防御であろうが貫くし、もっと言えば、たとえ対象が異次元空間にいたとしても、本当にどんな状況であろうと、因果律を捻じ曲げ、必ず命中させる。
そんな魔弾を発射することができるのが、この“猟銃”なのだ。
ウサ耳の少女は、後ろでした地響きに振り返り、今まで追ってきていた相手が死んでいるのを見た。
「し、死んでます……ダイヘドアがあんなあっさり……でも、何で……」
ウサミミ少女は驚愕も顕に目を見開いている。
反応的に、おそらくこのティラノみたいなのは、この大峡谷の中では上位の強さを持つ魔物なのだろう。
「あ、えっと……」
困惑しながらも、魔物を倒してくれたハジメの方に、少女はトテトテと寄ってくる。
「あっ……」
そして、ウサ耳の少女は、ハジメの顔を見て、その場で立ち尽くした。
身体をわずかに震わせる、目には涙を浮かべ、そして、喜びや感動に似た気持ちを抱いているようだった。
オロオロと、何をすればいいか迷いながらも、彼女は、
「あ、ありがとうございます……!」
その場で三つ指付いて膝をつき、額を地面に擦り付けて、自分にできる最大の方法で、感謝を伝えたのであった。
(あーダメか……)
その様子を見て、内心ハジメは乾いた笑い声を上げる。
「……ハジメ、これって」
「多分魅了したな、うん」
魅了はしないようにと注意していたにも関わらず、してしまった。
どうやら今のハジメの時点で、可愛かったり綺麗な少女は、ハジメが認識した時点で有無を言わさず勝手に魅了されてしまうようだ。
ただ、魅了してしまった以上、やることは一つだ。
「とりあえず顔を上げて」
「えっ、はい」
「にしてもその耳は、亜人族の……」
「あっ、えっと……自己紹介ですね! わ、私は……兎人族ハウリアの一人、シアといいます……です!」
少女はしどろもどろになりながらも、シアと名乗った。
亜人族の中でも、兎人族と呼ばれる種なのだという。
ウサギっぽい耳や尻尾があるということで、何だか可愛らしい雰囲気……というか、相当な美少女だ。
「それじゃあシア。今から君を眷属……いわば奴隷にするけど、いいよね?」
「はいっ! ハジメ様の奴隷にしてください!」
魅了されてしまった人は、眷属にしないと不幸になる。
なぜなら、魅了された人は、ハジメ以外のことを好きになれなくなるからだ。
眷属にして、自分のものにしなかったら……それはシアにとって、とても辛いことになるだろう。
うっすらと残る前世の記憶では、魅了してしまった人を眷属にせず放置したら……その人が一ヶ月後には自殺していた、ということもしばしばあった。
だから、魅了してしまった以上、眷属にする。
実質奴隷になるようなものだが、魅了された彼女にとっては、それすら嬉しいことなのだろう。
シアは心から喜び、ハジメに抱きついた。
そして、下腹部に眷属の印である淫紋が刻まれるのであった。
「じゃ、行こっか」
「はい……❤️」
ハジメに抱き寄せられ、尻を揉まれながら、三人は峡谷の入り組んだ影の場所へと移動した。
・南雲ハジメ:武器が強すぎて無双状態。
・ユエ:ライセン大峡谷では流石にお荷物。原作より相当魔力は増えてるけど、流石にね?
・シア:ハジメに出会って一秒で惚れた。