※この作品はR-18です。

淫魔王ハジメは世界最強   作:木崎楓

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口先の弁護

「なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

 現在ハジメとユエは、アルフレリックと向かい合って話をしていた。

 内容は、ハジメがオスカー・オルクスに聞いた“解放者”のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であり、七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと。

 それともう一つ、自分の能力を封じるための手段が、神代魔法にあるかもしれないということも話した。

 

 アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。

不思議に思ってハジメが尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。

 神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。

 聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もあるはずがなく、あるとすれば自然への感謝の念くらいだ。

 

 ハジメ達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。

 それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。

 

 ハルツィナ樹海の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が“解放者”という存在であることと、仲間の名前と共に伝えたのだという。

 解放者が何者なのか、ということは伝わっていないようではあったが。

 フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。

 最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だろう。

 

 そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「それで、資格を持っているというわけか……」

 

 アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。

 しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。

 

 ハジメとアルフレリックが話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。

 ハジメ達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。

 どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。

 ハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

 階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。

 部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。

 シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 

 ハジメとユエが階段から降りてくると、彼等は一斉に鋭い視線を送った。

 熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 必死に激情を抑えているのだろう。

 拳を握りわなわなと震えている。

 やはり亜人族にとって、人間族は不倶戴天の敵なのだ。

 しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。

 熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

 しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子で。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

「そうだ」

 

 あくまで淡々と返すアルフレリック。

 熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そしてハジメを睨む。

 

 フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。

 裁判的な判断も長老衆が行う。

 今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしいのだが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

 アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう。

 アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ。

 だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。

 

 そんなわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

 いきり立った熊の亜人が突如、ハジメに向かって突進した。

 あまりに突然のことで周囲は反応できていない。

 アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 そして一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、ハジメに向かって振り下ろされた。

 

 しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

 バキッ!

 

「ギャァァァァアアア!!?」

 

 衝撃音と共に振り下ろされた拳は、ハジメの顔面に的中した。

 的中した、はずなのに。

 叫んだのは、熊の亜人の方だった。

 

 熊の亜人の拳が、ぐにゃりと変な方向へ折れ曲がり、その激痛により叫んでいた。

 

 ハジメはパッと見、何もしていない。

 むしろ無防備に殴られただけにしか見えない。

 殴られたハジメはほぼ無傷で、殴られた部分が少し赤くなっている程度、しかもそれも数秒で元通りになる。

 だからこそ、この場にいるユエ以外の全員が、ハジメに恐怖した。

 

「……魔法による身体強化、それにより僕の肉体は常に硬化している。下手に僕を殴れば、むしろ殴った方が怪我するよ」

 

 ハジメ側には一切の非がない。

 なんせ、防御を行っただけなのだから。

 熊の亜人が怪我をしたのも、勝手に殴りかかったからというだけで、殴らなければ、決して怪我はしなかった。

 

 もちろんそのことは、この場にいる誰もが理解している。

 故に、誰もハジメのことを責め立てることができなかった。

 

「さて、多分僕の力に疑問を持ってる人も多いだろうし……認めてもらうには、何をするべきか……」

 

 倒れている熊の亜人を見ながら言うハジメ。

 少し考えた後、彼は周りの人達に聞こえるくらいの声で呟く。

 

「……いっそのこと、お前達全員と僕で、戦ってみるか?」

 

 その言葉と共に、長老達の全会一致でハジメの力は認められた。

 

 

 

 

 

 そんなことがあったが、アルフレリックが何とか執り成し、他の亜人族の長老にも事情を説明した。

 一応、腕が折れた熊の亜人は、治療され、回復済みだ。

 それでもしばらくは、片腕はあまり使えなくなってしまったようだが。

 

 現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族(俗に言うドワーフ)のグゼ、そして森人族のアルフレリックが、ハジメと向かい合って座っていた。

 ハジメの傍らにはユエとカム、シアが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。

 

 長老衆の表情は、アルフレリックを除いて緊張感で強ばっていた。

 戦闘力では一、二を争う程の手練だった熊の亜人のジンが、ハジメを殴っただけで腕が折れたのだから。

 もし仮にハジメが攻撃をしてきたらどうなるか、そう思うと、過剰に恐れてしまうというものだ。

 

「それで、これからどうするつもりで? 僕としては大樹の所へ行きたいだけで、敵対する気はないんだけど……次もあんな風に攻撃されたら、流石に行動方針を変えざるを得なくなる」

 

 ハジメの言葉に、身を強ばらせる長老衆。

 

「そっちが危害を加えてこないのなら、僕達がわざわざ攻撃する理由も無いからね」

 

 なんせその言葉は、下手に何か攻撃してきたらやり返す、最悪の場合フェアベルゲンを滅ぼすと、そう言ってるように聞こえてきたのだから。

 

「あっ、そうだ」

 

 ピクリと、全員に緊張が走る。

 

「シア達……ハウリア族は見逃してね」

 

 数秒間、沈黙が走る。

 だがすぐに、怒りを露わにする人達が出てくる。

 

「そんなことができるはずがあるか! こいつらは忌まわしき魔物の性質を持つ忌み子――」

 

 だがそこに畳み掛けるように、ハジメは続ける。

 

「ああそうだ、忌み子だ。僕が犯したからな」

「……は?」

「シア・ハウリア。髪色とかは違うけど、彼女は元々魔力を持たない、普通の亜人だった。けど見てよ、これ」

 

 そう言いながら、ハジメはシアを隣に連れてきて、その下腹部に魔力を流す。

 すると淫紋が、眷属の証が浮かび上がる。

 

「アルフレリックには少し話したけど、僕には“魅了”という能力がある。けど僕のは少し特殊で……制御ができないんだよ」

「やはりこれは魔物の――」

「止めないか。……っと、続けてくれ」

「シアは僕の魅了にやられた。僕も意図せずしてしまったけど……一度魅了してしまえば、もう僕以外の人を好きになれなくなる。だから犯して、眷属へと変えた。シアが魔力を得たのは、その時だ」

 

 もちろん、こんなのは嘘だ。

 シアは最初から魔力を持っていた。

 けど、ハジメの能力を利用することで、シアは最初は魔力を持たなかった、という風に説明した。

 

「そもそも君達は、魔力を探知できるのかい? 魔力探知にも魔力を使用するというのに」

「……我々亜人族の五感は人間よりも優れていてね。集中すれば、魔力の有無による気配の違いくらいは容易に見抜けるんだよ」

 

 狐人族の長老であるルアが、そう説明する。

 確かに地球でも、動物は人間よりも優れた五感を持っていることが多い。

 亜人族もそうだとしたら、魔力を直感的に感じ取れる、そんな能力を持っていてもおかしくはないかもしれない。

 

「そうか……じゃあカム」

 

 ハジメは少し考えた後、カムに耳打ちする。

 

「……なるほど」

「僕が後ろ盾になる。だから連れてきてほしい」

「分かった……すまない。家族を五人、ここへ連れて来させてほしい。ハジメ殿との性行為を経て、魔力を得た()()だ」

「なっ……」

「五人も、魔力を……?」

 

 その言葉を聞き、亜人族の長老達は驚く。

 なんせシアだけと思っていた忌み子が、六人に増えたのだから。

 しかもハジメの能力的に、おそらく忌み子は増やそうと思えばいつでも増やせる。

 事情を聞くために、急いで呼んでこいと、長老達はカムを急かした。

 

 そして少しすると、ハジメの眷属となった五人の女性の兎人族がやって来た。

 

「えっと、なんでしょうか……」

 

 五人とも、何故呼ばれたのか困惑している。

 それもそのはず、ハジメは、彼女らが魔力を得たことを、まだ伝えていないのだから。

 まだ彼女達は、忌み子になった自覚が無いというわけだ。

 

「なっ……本当に魔力を得ている!? 気配が明らかに違う……ッ!」

 

 その言葉に、ハジメは不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうです? 五人とも魔力を持っていることが分かりましたね?」

「ああ、もちろんだよ」

「そうか、よかったよ――」

 

 ルアに尋ねると、魔力の気配を感じたと言う。

 だがその言葉を聞いた瞬間、

 

「――嘘をついたことが、わかって」

 

 ハジメは、邪悪にも見える笑みで、そう言った。

 

「……は?」

「確か……ルア、だっけ? お前はここに呼んだ全員が、魔力を持っていると言ったね? ……残念ながら、僕が眷属にしたのは四人だけなんだよ」

「なっ、え……」

「残りの一人は、何の関係も無い。眷属になってないから、魔力は持ってないよ」

 

 ルアに指を向けて、ハジメは続ける。

 

「見抜けてないじゃないか、魔力の有無を。本当に、村を去る前のシアは、魔力を持っていたのかい? それを、証明できるのかい?」

「ッ……」

 

 一応、ルアの言っていたことは嘘ではなく、亜人族には魔力を探知する感覚があるにはある。

 だが、精密な探知までは不可能だ。

 あくまで、近付く魔力の気配を探るというもので、誰が魔力を持っているのか、そこまで詳しいことは分からない。

 だから、五人全員が魔力を持っていると、誤認してしまった。

 

「……まぁ能力を聞いた感じ、あくまで鋭い感覚で気配を探るだけだ。感覚的なものだから、確実とは言えない。それは今ので分かったんじゃないか?」

 

 戦闘においては優秀な感覚だ。

 だが、今この場で判断ミスしたという事実は、とんでもなく大きいものだった。

 もしかしたら、シアが魔力を持っていたと誤認してしまった、その可能性を見せつけてしまったのだから。

 

「……つまり君は、私達が、シア・ハウリアは魔力を持っていると、誤認していたと言いたいのかね?」

「はい。現に今、誤認したではありませんか。それと同じことが起きてしまった可能性はある。特にシアの雰囲気は他の子と違うから、誤認しやすかったのかもしれない」

 

 ここまで来れば、ハジメのペースだ。

 わずかな疑念が、とんでもないスピードで大きくなっていく。

 ハジメの言葉によって、誤認してしまったかも、という雰囲気が作られていく。

 

 少し考えてから、アルフレリックはゆっくりと頷き、結論を出した。

 

「……確かに、私達の感覚は鋭いが、確実とは言えない。私達が間違えていた可能性もあるから……うむ。シア・ハウリアは忌み子であるという判決は、撤廃する。故にハウリア族の指名手配も、これにて取り消すこととする」

 

 長老達はざわめく。

 これでは、忌み子だったシアを、他にも忌み子と化した四人を見逃すことになるのだから。

 このままでは批判は確実に出る、それを予測してか、アルフレリックはさらに続ける。

 

「ただしシア・ハウリアは、これ以降、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。疑いがある以上、流石に彼女を放置することは出来ん。故に追放とする。……以上だ、何かあるか?」

「いえ、充分過ぎるくらいです。むしろ無理を通してもらって何よりです。というか……他の眷属になった子は、放置なんですね」

「彼女達は被害者である。故に無罪とする」

 

 流石にシアは追放処分となったが、他の人達は無罪となった。

 シアがハジメの眷属になる前、本当に魔力を持っていたのか疑わしくなった以上、処刑などの強硬手段は取れなくなった。

 それ故の減刑、そして無罪だ。

 

 一通りの取り決めを終えると、ハジメはカムの方を向く。

 

「カムさん。シアは……僕が連れて行ってもいいですか。絶対に幸せにします」

「もちろんだとも。シアを……頼んだぞ」

 

 こうして、とりあえずの取り決めは終わり、夜は更けていくのであった。




・南雲ハジメ:内心めっちゃバクバク。ヤバいくらい緊張していた。

・シア:家族を守ってくれて好感度がカンストを通り越して上限突破した。

・長老達:ハジメに騙された。アルフレリックだけは、ハジメが嘘言ってることに気付いてるかも。
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