※この作品はR-18です。

淫魔王ハジメは世界最強   作:木崎楓

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 今回はかなり長いです。


地雷

 愉快なブルックの町民達を思い出にしながら、正面門にやって来たハジメ達を迎えたのは商隊のまとめ役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。

 どうやらハジメ達が最後のようで、まとめ役らしき人物と十四人の冒険者が、やって来たハジメ達を見て一斉にざわついた。

 

「ヒェッ……デストロイヤー“ナグモ”……」

「隣の二人はめっちゃ可愛いけど……」

「やめとけやめとけ、手ェ出したらナグモにぶっ殺されるぞ……五十人はやられたって噂だ」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

 

 ユエとシアの登場に喜びを顕にする者、股間を両手で隠し涙目になる者、手の震えをハジメ達のせいにして仲間にツッコミを入れられる者など様々な反応だ。

 ハジメは苦笑いを浮かべながら近寄ると、商隊のまとめ役らしき人物が声をかけてきた。

 

「君達が最後の護衛かね?」

「はい。こちら、依頼書です」

 

 ハジメは、懐から取り出した依頼書を見せる。

 それを確認して、まとめ役の男は納得したように頷き、自己紹介を始めた。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

「……もっとユンケル? ……まぁいいや、南雲ハジメです。今日はよろしくお願いします」

 

 日本のとある栄養ドリンクを思い出させる名前に、ハジメはなんとなく微妙な顔を浮かべながらも挨拶をする。

 

「それで、こっちはユエとシア」

「それは頼もしいな……ところで、この兎人族……売るつもりはないかね? それなりの値段を付けさせてもらうが」

 

 モットーの視線が値踏みするようにシアを見た。

 兎人族で青みがかった白髪の超がつく美少女だ。

 商人の性として、珍しい商品に口を出さずにはいられないということか。

 奴隷の無骨なそれではないが、綺麗な首輪はついており、おそらく奴隷であるということは何となく察することができる見た目だ。

 それを見て即行で所有者たるハジメに売買交渉を持ちかけるあたり、きっと優秀な商人なのだろう。

 

 その視線を受けて、シアが「うっ」と嫌そうに唸りハジメの背後にそそっと隠れる。

 

「あ?」

 

 瞬間、ハジメはこれまでの穏やかそうな声は一変し、ドスの効いた低い声へと変わる。

 

「もう一度言え。場合によってはお前をここで……」

 

 金属の目隠しがあるせいで、表情は分かりにくいが、一瞬にして怒ったのだと、誰もが速攻で理解した。

 

 が、流石に言葉だけなのにここまで怒りを露にしたのはマズいと後から思ったのか。

 ハジメは即座に謝罪した。

 

「あっ、すみません。二人のことになると殺気立ってしまうのが悪い癖で……とにかく、たとえ神が欲しても、シアは手放しませんよ」

「……なるほど、随分と気に入られているようで。仕方ありませんな、ここは引き下がりましょう。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

 

 普段は温厚そうな人物が見せる殺気ほど恐ろしいものはない。

 それに、下手をすれば聖教教会から異端の烙印を押されかねない、とんでもない発言。

 一応、魔人族は違う神を信仰しているし、歴史的に最高神たる“エヒト”以外にも、崇められた神は存在するので、直接聖教教会にケンカを売る言葉ではない。

 とはいえ、そういう風に誤解されかねない言葉であることには違いないので、ギリギリの発言めたるこも(ら変わりなかった。

 故に、モットーはハジメがシアを手放すことはないと心底理解させられた。

 

 ハジメが、すごすごと商隊の方へ戻るモットーを見ていると、周囲が再びざわついている事に気がついた。

 

「すげぇ……女一人のために、あそこまで言うか……痺れるぜ!」

「流石、決闘スマッシャーと言ったところか。自分の女に手を出すやつには容赦しない……ふっ、漢だぜ」

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ」

「いや、お前、男だろ? 誰が、そんなことッあ、すまん、謝るからっやめっアッーー!!」

 

 ハジメは、愉快? な護衛仲間の愉快な発言に頭痛を感じたように手で頭を抑えた。

 やっぱりブルックの町の奴らは阿呆ばっかりだと。

 

 早朝の正門前、多数の人間がいる中で、背中に幸せそうなウサミミ美少女をはりつけ、右手には金髪紅眼のこれまた美少女を纏わりつかせるハジメ。

 商隊の女性陣は生暖かい眼差しで、男性陣は死んだ魚のような眼差しでその光景を見つめる。

 とはいえ、目隠ししているハジメが、そんな視線を感じるはずがなかった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 ブルックの町から中立商業都市フューレンまでは馬車で約六日の距離である。

 

 日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。

 それを繰り返すこと三回目。

 ハジメ達は、フューレンまで三日の位置まで来ていた。道程はあと半分である。

 ここまで特に何事もなく順調に進んで来た。

 ハジメ達は隊の後方を預かっているのだが、実にのどかなものである。

 

 この日も、特に何もないまま野営の準備となった。

 冒険者達の食事関係は自腹である。

 周囲を警戒しながらの食事なので、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないのだろう。

 別々に食べるのは暗黙のルールになっているようだ。そして、冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。

 ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるからなのだという。

 代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだとか。

 

 そんな話を、この二日の食事の時間にハジメ達は他の冒険者達から聞いていた。

 ハジメ達が用意した豪勢なシチューモドキをふかふかのパンを浸して食べながら。

 

「カッーー、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる! シアちゃんは俺の嫁!」

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」

「な、なら、俺はユエちゃんだ! ユエちゃん、俺と食事に!」

「ユエちゃんのスプーン……ハァハァ」

 

 うまうまとシアが調理したシチューモドキを次々と胃に収めていく冒険者達。

 初日に彼等が干し肉やカンパンのような携帯食をもそもそ食べている横で、普通に“宝物庫”から取り出した食器と材料を使い料理を始め、それを振る舞った所から、この関係は始まった。

 それからというもの、冒険者達がこぞって食事の時間にはハイエナの如く群がってくるのだが、最初は恐縮していた彼等も次第に調子に乗り始め、ことある毎にシアとユエを軽く口説くようになったのである。

 

 まぁハジメとしては、口説いてくる程度なら大したことでもないので、放置していた。

 襲おうとしたら、流石にその時は容赦しないつもりではあったが、今の所は特に何事もなく。

 

 

 

 そんな感じに、割と平和に進んでいったところではあったのだが。

 

 残す道程があと一日に迫った頃、遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

 

 最初にそれに気がついたのはシアだ。

 街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。

 

「敵襲です! 数は百以上! 森の中から来ます!」

 

 その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。

 現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではない。

 何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全は、それなりに確保されている。

 なので、魔物に遭遇する話はよく聞くが、せいぜい二十体前後、多くても四十体くらいが限度のはずなのだ。

 

「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

 護衛隊のリーダーであるガリティマは、そう悪態をつきながら苦い表情をする。

 商隊の護衛は、全部で十五人。

 ユエとシアを入れても十七人だ。

 この人数で、商隊を無傷で守りきるのはかなり難しい。

 単純に物量で押し切られるからだ。

 

「あー……僕がやりますよ。皆さんは下がっててください」

「え?」

「ま、見といてください」

 

 そう言うと、ハジメはそこら辺にあぐらをかく。

 戦闘する気のない様子に、ユエとシアを除いた全員が困惑の表情を浮かべる。

 

 そして、一体目の魔物が現れた瞬間、

 

 ザシュッ!

 

 その魔物は、サイコロ状に斬り裂かれる。

 超高速の、視認不可能な斬撃が走る。

 端から見れば、何が起きたのかすら理解不能、それどころか認識すら不可能。

 魔法を使った様子も、武器を使った様子も見えない。

 

「は? ……え、何だ今の?」

 

 誰もが困惑する中、ハジメは平然と皆に呼びかける。

 

「動かないでくださいよ。攻撃に巻き込まれる可能性がありますので」

 

 地味にしか見えない絵面。

 しかし、魔物が出てきた瞬間にサイコロ状に変わり、死ぬ。

 いや、それすら手加減に過ぎず、ハジメは段々と攻撃範囲を広げ、索敵範囲内の魔物のみを的確に狙い殺していく。

 

 そこにはただ、斬撃音だけが響いていた。

 

 そして、約一分後。

 

「……多分これで終わった。シア、どう?」

「あ、はい。もう動いてる魔物はいません」

 

 襲ってきた魔物は全員死んだ。

 

 意味の分からない攻撃に、誰もが恐怖している中、唯一まともなリーダーガリティマは、そんな仲間達を見て盛大に溜息を吐くとハジメ達のもとへやって来た。

 

「……確かによく見てみれば、死体……というか血肉がゴロゴロ転がってんな。とにかく、感謝する」

「いえ、これも仕事なので」

「はは、そうか……で、だ。さっきのは何だ?」

「これですよ」

 

 ハジメは手元に、ガラスでできたような透明な剣を出現させた。

 

「この剣は、僕の思考通りに動きます。そして……」

 

 その剣を何度か空中で振り回すと、剣を増やした。

 

「こういう風に、増やすこともできる。個数に限界は無いし、どこにでも出現させることができる」

「……なるほどなぁ」

「この目隠しで魔力を探知することで、敵の居場所を把握している。そうすれば、好きな場所に剣を置いて、斬撃を放てるってわけです」

「……強過ぎるだろ、それ」

「強いですよ。まぁ僕にしか扱えないっぽいですけど」

 

 剣を消して、ハジメはそう言う。

 そして今度はガリティマも、あまりの強さにビビるのであった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 そんなこともあり、フューレンに到着した。

 

 商隊のリーダーであるモットーと一悶着あったりはしたが、まぁ別段大きな問題もなく、仕事は終わった。

 

 

 

 そして、中立商業都市フューレン。

 

 

 

 高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。

 あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。

 観光で訪れる者や取引に訪れる者など、出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

 

 その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。

 この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。

 東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。

 メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなりアコギでブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多い。

 その分、時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

 

 そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド・フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら聞くハジメ達。

 話しているのは案内人と呼ばれる職業の女性だ。

 都市が巨大であるため需要が多く、案内人というのはそれになりに社会的地位のある職業らしい。

 多くの案内屋が日々客の獲得のためサービスの向上に努めているので信用度も高い。

 

 ハジメ達はモットー率いる商隊と別れると、証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。

 そして、宿を取ろうにも何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられたのだ。

 

 そして、現在、案内人の女性、リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのである。

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

「なるほど、なら観光区の宿にしとくか。僕達の性質的にも、サービスは良い方がいい。オススメはありますか?」

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

「ま、それもそうか。なら……食事が美味くて、あと風呂があるといいかな? 立地はあまり考慮しなくていい。あと責任の所在が明確な場所がいいな」

 

 リシーは、にこやかにハジメの要望を聞く。

 最初の二つはよく出される要望なのだろう「うんうん」と頷き、早速、脳内でオススメの宿をリストアップしたようだ。

 しかし、続くハジメの言葉で「ん?」と首を傾げた。

 

「あの~、責任の所在ですか?」

「あー……僕達、何かと厄介事に巻き込まれることが多いので。争い事とかで被害者側になった時、宿内での損害について誰が責任を持つのか……ってのが、明確な方が嬉しいです」

「え~と、そうそう巻き込まれることはないと思いますが……」

 

 困惑するリシーにハジメは苦笑いする。

 

「この二人が……まぁ、目立つので。前の街でも襲ってくる人が後を絶たなかったから、注意しておこうと思って」

 

 ハジメの言葉に、リシーは、ハジメの両脇に座りうまうまと軽食を食べるユエとシアに視線をやる。

 そして、納得したように頷いた。

 確かにこの美少女二人は目立つ。

 現に今も、周囲の視線をかなり集めている。

 特に、シアの方は兎人族だ。

 他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ちかける商人やハメを外して暴走する輩がいないとは言えない。

 

「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……」

「ならそれでお願いします。安全性は一番重要。特に僕達にとっては」

 

 そして、ユエとシアの方に視線を転じ、二人にも要望がないかを聞いた。

 出来るだけ客のニーズに応えようとする点、リシーも彼女の所属する案内屋も、きっと当たりなのだろう。

 そうして話を聞き、ユエは風呂に関する要望を、シアはベッドに関する要望をした。

 

 なんてことない要望だが、ユエが付け足した条件と、シアの要望を組み合わせると、自然ととある意図が透けて見える。

 リシーも察したようで、「承知しましたわ、お任せ下さい」とすまし顔で了承するが、頬が僅かに赤くなっている。

 そして、チラッチラッとハジメとユエ達を交互に見ると更に頬を染めた。

 

 

 

 それから、他の区について話を聞いていると、ハジメ達は不意に強い視線を感じた。

 目隠ししていて視線に疎いハジメですら気付くほどの視線。

 特に、シアとユエに対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。

 視線など既に気にしないユエとシアだが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰める。

 

 ハジメがチラリとその視線の先を辿ると……太った人物がいた。

 

 目隠ししているため、ハジメにはそれ以上は分からないが、体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。

 身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。

 そのブタ男がユエとシアを欲望に濁った瞳で凝視していた。

 

 その太った人物は、重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐハジメ達の方へ近寄ってくる。

 どうやら逃げる暇もないようだ。

 ハジメが逃げる事などないだろうが。

 

 リシーも不穏な気配に気が付いたのか、それともブタ男が目立つのか、傲慢な態度でやって来るブタ男に営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。

 

 ブタ男は、ハジメ達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。

 そして、今まで一度も目を向けなかったハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

 ドモリ気味のきぃきぃ声でそう告げて、太った男はユエに触れようとする。

 ハジメは即座に目の前にやって来た魔力の塊が、男であることを理解した。

 そして、金でユエとシアを買おうとする奴だということも。

 

 おそらくコイツにとっては、ユエはもう自分のものなのだろう。

 好き勝手に奪おうとしやがって。

 

 

 

 万死に値する。

 

 

 

 ――死ね。

 

 

 

 ザシュッ!

 

 

 

 瞬間、太った男の身体は、縦に真っ二つに斬り裂かれた。

 

 頭頂から股間まで、縦一文字に斬り裂かれる。

 斬り裂いたのは、ハジメの第五の宝具“宝剣”だが……アレによる斬撃を認識できる者は、どこにもいない。

 

「キャァァァアアア!?!?」

 

 誰もが悲鳴を上げる。

 

 誰のものとも分からない、魔法の詠唱の気配すら無かったというのに、人が斬られ、死んだ。

 恐怖を覚えずにはいられないだろう。

 

「……ッ!」

 

 ハジメも、目隠しを外して、自分が殺した男を目に焼き付ける。

 流石に、自分が殺したのだ、その死体を見れば、目を丸くして、震えが止まらなくなる。

 

「マジか。一瞬で真っ二つに……」

 

 そこに、一人の男がやって来る。

 全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士の風貌の巨漢だ。

 彼は、ハジメに声をかけた。

 

「ちょっといいか? 俺はレガニド、一応坊ちゃん……コイツの護衛をやってたんだが……もしかして、お前がやったのか?」

「い、いや……そんなわけない……というか、できるわけがない……」

 

 実際は自分が殺している。

 ハジメは一発で見抜かれたのかと思い、誰からでも分かるような震え声で答える。

 演技なんてできるはずがなく、あからさまである。

 

「……ま、あんな意味分からねぇ攻撃を、お前が使ったとは思えねぇがな」

 

 とはいえこの状況だ、目の前の死体に動揺しているだけと思われたのか、疑われることはなかった。

 そもそも、魔法の詠唱も無かったし、何も見えなかったのだから、疑う要素も無いのだが。

 

「ただまぁ、事情聴取は受けなきゃいけないっぽいな。俺も含めて」

「……あの、申し訳ありませんが皆様。あちらで事情聴取にご協力願います」

 

 そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員がハジメ達を囲むように近寄った。

 あの状況、最も近くにいたハジメ達や、殺された人物の護衛をしていた、このレガニドという男を疑うのも当然といえば当然だ。

 

「あー、えっと……聴取を受けた時点で犯人扱いとか、そういうことは、ないですよね……?」

「そういったことはありませんので、ご安心ください」

「まぁ、それなら……」

 

 わざわざ騒ぎを大きくする意味もないので、ハジメは目隠しを付けると、職員達に連れて行かれるのであった。

 ユエやシアも、ハジメに続き、奥の部屋へと連れて行かれるのであった。




・南雲ハジメ:ユエとシアに無無理矢理手出しをする奴等は殺す。死体を直接見たらビビったとはいえ、殺す瞬間は確固たる殺意を持ってノータイムでやった。異常者。

・ユエ:殺した云々はともかくとして、ハジメに守ってもらえたことを嬉しく思っている。

・シア:流石にノータイムで人を殺したハジメにはちょっとビビった。それはそれとして守ってもらえて嬉しく思っている。
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