朝。
ハジメはティオを眷属にした後、防衛ラインの準備のため、“錬成”を利用して外壁を作り上げていった。
壁の高さは、ハジメの錬成範囲が半径四メートル位で限界なので、それほど高くはないが、大型の魔物であっても、時間稼ぎにはなるはずだ。
町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。
魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着するだろうと。
もちろんパニックになる人も多く出てきたが、ハジメがいない間に、愛子が何とかしてくれた。
“豊穣の女神”とも呼ばれ、人々からの信頼が厚い彼女だからこそ、人々を安心させることができたのだ。
「避難は完了、防衛ラインも整えた。これで……できることはやったかな?」
ハジメがやったことといえば、外壁を作り上げたくらいで、住民の避難のような重要なことは、愛子や彼女と一緒にいたクラスメイト達がやってくれていた。
「南雲君、他に必要なものはありますか?」
「いや……大丈夫、準備は万全。ティオが眷属になったこともあって、僕もさらに強くなったし」
振り返らずに簡潔に答えるハジメ。
彼は自分の手を見て、ゆっくりと動かし、感触の微妙な変化を感じていた。
(ティオの竜化……多分僕も、それが使えるようになってるんだろうな)
ティオの扱えていた竜化。
おそらくは、彼女が属する竜人族の固有能力なのだろうが、ティオが眷属になったことにより、ハジメまでもがそれを扱えるようになっていた。
「……お、近いな」
そんなことを考えていると、北の山脈地帯の方に、濃密な魔力の気配を感じ取る。
目隠し越しだし、かなり距離が離れているが、それでも魔力が視える。
それほどに、魔物の魔力で大地が埋め尽くされていた。
「う、うぅ……ご主人様……」
そんな時間になってやっと、ティオが目を覚まし、ハジメ達の元に合流した。
「それにティオも来たし……始めるか」
「ん、ようやく戦うんだ」
「うん。とは言っても、僕が魔物の群れを吹き飛ばすから、ユエとティオは取りこぼしを処理してくれればそれでいい」
「……そこまでの自信が、あるのか?」
「ある。まぁ見てれば分かるよ」
ユエとティオは後衛。
ハジメが大半を狩り、その残りを処理する役割だ。
魔法による超高火力の範囲攻撃を行える彼女達なら、適任だろう。
「えーっと、それで、私は……」
だがそれでは、シアに役割が無い。
「シアは僕と一緒に魔物の群れに突っ込む。やり方に関しては……その時になったら教える」
「はい!」
そうして最終確認を終えると、ちょうど魔物が見えるようになってきた。
これは下手したら一万すら超え、二万、三万くらいの魔物が集まっている可能性すらある。
「さーてと……ぶっつけ本番だけど、やってやるかぁ!」
そう声を上げた瞬間。
ハジメを中心に、魔力の奔流が渦巻く。
あんな魔物の群れなど比べるまでもない、混沌とした濃密な魔力が、青空を暗雲へと変え、嵐を巻き起こす。
雷鳴が轟き、暴風が吹き荒れ、天変地異の前触れのような、恐ろしき気配を放つ。
そして、それらが収まった時、
『……なるほど、これが竜化か』
ハジメが立っていた場所には、巨大な龍が座していた。
それはスフィンクスやグリフォン、ペガサスのように四つの足を持ちつつも、大きな翼を持っている。
鱗は全て逆立っており、漆黒でありながら光の反射により虹のように輝いても見える、特異としか言いようのない姿。
これは本当に竜なのか、さらに上の龍神の類なのではないか。
竜人族であるティオですらそう感じさせるほどの威厳を持っていた。
そして、ハジメのクラスメイト、特にその中でも男子生徒達は、その姿を見て、一斉に叫んだ。
「「「ア○バ○リオンじゃねーか!!」」」
そう、ハジメの竜化は、某モンスターを狩るゲームの、名前すら上げることを憚るような災厄の龍にそっくり過ぎた。
まぁそれもそのはず、様々な女性を眷属にし、眷属にした女性の力を扱えるようになったのだから。
言ってしまえばこの姿は、ハジメと眷属にした女性全員の竜化形態を、良い感じに融合させたようなものだ。
もしハジメが普通の人間で、眷属がティオ以外に一人もいない状態で竜化していたら、今回とは違う姿になっていたことだろう。
『……よし。シア、背中に乗れ』
そうしてシアを乗せ、竜化したハジメは敵の軍勢に向けて飛び立つのであった。
◆◇◆◇
(何だよ、これは……何なんだよ、これは!!)
ウルの町を襲う数万規模の魔物の大群の遥か後方で、即席の塹壕を堀り、出来る限りの結界を張って必死に身を縮めている少年、清水幸利は、目の前の惨状に体を震わせながら言葉を失った様に口をパクパクさせていた。
ありえない光景、信じたくない現実に、内心で言葉にもなっていない悪態を繰り返す。
そう、魔物の大群をけし掛けたのは紛れもなく、行方不明になっていた愛子の生徒、清水幸利だった。
とある男との偶然の末に交わした契約により、ウルの町を愛子達ごと壊滅させようと企んだのだ。
しかし、容易に捻り潰せると思っていた町や人は、全く予想しなかった凄絶な迎撃により未だ無傷であり、それどころか現在進行形で清水にとっての地獄絵図が生み出されていた。
――ゴアァァァァアアアアアアッッ!!!
漆黒の鱗を持ちつつも、虹色の輝きを放つ巨大な龍が、魔物の軍勢に突っ込んだその瞬間。
空は暗雲に染まり、暴風が吹き荒れ、大気中を黒い稲妻が走り、大地は爆ぜて破壊を巻き起こす。
辺り一帯が焦土と化しつつも、同時に永久凍土へと変わっていく。
あの龍の近くにいた魔物は一瞬にして消し炭と化し、死体すら残らない。
少し離れていたとしても、龍の全身から迸る黒い稲妻にあてられると、一瞬にして爆散し、絶命する。
少し前に使役に成功した黒竜……ティオと比べるまでもない、怪物。
言うなれば、天災を具現化したかのような、禁忌と言っても憚られない凶悪な力を持った、神にも勝るほどの、悪魔の如き存在。
町の方にも強力な魔術師がたくさんいるっぽいが、そんなものはどうでもよかった。
どうでもよくなってしまうほどに、目の前で黒く輝く黒龍が、恐ろしく強かった。
だから隠れ続けていた。
「いた! はぁぁあッ!!」
そこを、何者かに見つかり。
清水幸利は、後頭部を追い出され、意識を落とした。
「よし! ハジメさま〜!! 終わりましたよ〜!!」
何者か……シアは、気絶した清水を適当に背負い、黒龍の元へと駆け寄り、その背に飛び乗った。
『終わったか。なら、全て吹き飛ばす』
黒龍は炎を吐き出す。
それは全てを焼き尽くし、残っていた魔物を完全に殲滅し尽くすのであった。
・南雲ハジメ:某モンスターをハントするゲームに出てくるアルバ何とかみたいな姿になった。もしエヒト関連の誰かを眷属にしたら、ミラ何とかみたいになるかも。