魔王と異世界、ついでに神
彼は、気付けば魔王になっていた。
彼の記憶の中では、自分は地球という星に住み、日本という国で生まれ育っただけのただのサラリーマンで、それなりに性欲が強かったが、それでも優れた才能なんてない。そう、ただの人間でしかなかった。
そのはず、だった。
しかし唐突に、何の前触れもなく、彼は魔王として畏れられていた。魂を砕く、最低最強、そして最悪最凶の魔王、グドゥラニスとして。
自分がグドゥラニスという魔王になったことに気づいた彼は、そこでようやく『グドゥラニス』という存在が辿る未来がどういうものなのかを思い出した。
グドゥラニスという魔王は────いずれ世界を侵略し、全ての生命を恐怖のドン底に陥れ、しかし異世界の勇者に破れ、滅びる運命にある負け組であることに。
それを知った彼は、グドゥラニスは激怒した。最初から、誕生したときから自分の行く末が決まっていることに。
───ふざけるな!認めないぞ!そんなこと、認めてなるものか!
それからの彼は、今までのグドゥラニスとしての悪虐にさらに拍車をかけるように力を蓄え始めた。
魂を砕く───それはつまり、相手に次をなくすことができるということ。転生を行えなくすることができるということだ。
しかし魂を砕く術は、グドゥラニスにとっては切り札であり、滅多に使えないもの。
だから彼は、まず魂を砕く術を磨いた。いつでも使え、手札として気軽に使えるように。
神を、生き物を、その内にある魂を殺し砕く。幸いにもグドゥラニス自身に才能があったおかげか、術はすぐに鍛えることが出来て、手札の一つとして使えるようになった。
しかし、これで満足してはならない。魂を簡単に砕けるようになったなら、次はいずれ彼を滅ぼす存在が使えた術、魂を喰らう術を得ようとした。
魂を手で砕くのではなく、内側に取り込み砕く。
正直、これは魂を砕くよりも難しかった。魂を喰らい、取り込むのは至難の業で、才能のあった彼でも何万年もの時が必要だった。しかしグドゥラニスは、ついに魂を取り込む術を会得した。
それからは、手当り次第だった。
生物は放っておき、いずれ訪れる世界の崩壊に備えて他の神々を喰らい続けた。一柱喰らう度にグドゥラニスの力は増していき、新たな力を得た。
命乞い、降伏をしようとする神もいた。しかしグドゥラニスはそれを無視して神々を喰らい、力をつけていった。
他の神々がいなくなるまで、延々と。
他の神が息絶えるまで続くと思われた殺戮は、しかし終わりが来た。グドゥラニスのいる世界の崩壊が始まったからだ。
グドゥラニスは予め大量に生成していた異形の生物たちと、残された神々を配下に連れて、彼の知る世界へと侵攻を始めた。
そして、始まったのは蹂躙だった。
その世界にいた大神を蹴散らし、分離させた分体も使って一気に侵攻し、瞬く間に一つの大陸を支配した。
そして分体越しにこの世界を汚染する魔境やダンジョンを生成し、侵略していった。
龍、巨人、獣。それらの三柱の大神は最初の侵攻時に魂を喰らい、自身の力へと変えた。
彼自身の知るグドゥラニスよりもさらに苛烈に、容赦なく、そして素早く侵略を行っていったグドゥラニスは、ついに大神の大半の力を削ぎ封印し、あとは残り二柱だけとなるほどに追い詰めた。
残りの大神に及ばない神々や亜神も多くいたが、グドゥラニスにとっては雑兵に等しい。そのため殆どの神は喰らい滅ぼした。
途中で自身の知るシステムを作り、稼働させようとした大神がいたが、その神をグドゥラニスは優先して見つけ出し封印。そしてシステムそのものを乗っ取り、自身の配下の力とした。
そして、その時点でグドゥラニスにも余裕ができた。自分の欲求を優先させようかと思うくらいには。
しかしグドゥラニスは最後まで手を緩めず、残りの二柱の大神も封印し、残りの神々も喰らうか封印を施して対処した。
そしてついに、グドゥラニスはその世界─────ラムダを完全に征服することに成功したのだ。
あまりにも、あっけなく。
そうして安心を得たグドゥラニスは、まずはラムダの大神が生み出した人間を一箇所に集めさせ、その魂と肉体を汚染した。
なんてことはない。グドゥラニスに従い、それに疑問を持たないよう加工しただけだ。それ以外は弄ることはなく、自身の管理下で復興、発展させることにした。
そしてそのあとは、力を削ぎ封印した大神を一柱ずつ、封印を解除してその魂を喰らった。
ただし、魂の記憶を洗い流すように、ただの大神としての役割しか持たないようにして。
長年の捕食経験から、グドゥラニスはこのような器用なことまで出来るようになっていた。
ただしそれは、性別を持たない、あるいは男神だけに限った。それは一体なぜなのか。
────戦いは終わり、我の勝ちとなった。しかし、何もない世界というのはつまらない。
故に、残った女神を使って種族を増やそう。どうせ別の未来ではそうなる予定だったのだし、それを我がやったところで構わないだろう。
グドゥラニスは、このときになってようやく自身の欲求を優先させたのだ。もう逆転の目はないと、そう確信して。
多くの神を取り込んだグドゥラニスは、その姿も異形そのものだ。混ざりすぎて、元が何の神だったのか検討もつかないほどに。
だから、大量の種族が生まれるだろう。存在するはずだった種族に加えて、新しい種族も増えるかもしれない。
グドゥラニスはまず、生命の女神と謳われる大神の封印を解き、襲い犯した。
最初は抵抗した女神であったが、徐々に力は失われ抗うことをしなくなった。
そして次々に腹の中から新たな生命を産んでいった。それを確認したグドゥラニスは、女神の神格を喰らい大神から零落させて封印した。
そしてそれを、他の大神にも実行した。
それによって世界は彼の知るものと殆ど変わりないものとなり、邪魔な神々もいなくなった。
しかし、問題もある。世界の維持には神の力が必要であったからだ。
管理の仕方は喰らった記憶から把握しているため、やろうと思えば彼一人でやれないことも無い。
だからグドゥラニスは、世界を維持するためだけの、神の力を分けた分体を生成した。
それによって世界を維持する問題は解決し、ラムダは本当の意味でグドゥラニスのものとなった。
そして、彼は自身の欲望を満たすために、残った人間や生み出した魔物を使って、この世界を発展させることを決めた。
結局連れてきたはいいが、今の今まで放置していた邪悪な神々も、もはや敵ではなくなっていたため放置することにした。自身が新たに再造する世界に他の神々がいても面白そうだと思ったからだ。
女神の腹から生まれた種族も、彼は有効活用しようと決めている。何万年と掛かるかわからないが、発展してからが楽しみだとグドゥラニスは思った。
だが、その前に。
あの無遠慮にこちらを覗いてくる輪廻転生の神は喰い滅ぼしておこうと、グドゥラニスは心の奥底で考えた。
あれから、何万年の時が経過したのか。
『原作』の通りならば、約十万年の時が経過しているのだろう。
死にたくない。滅ぼされたくないと思い、ここまで行動してきた。邪魔者は消した。敵は殺した。障害となるものは何もいない。
唯一の懸念であった輪廻転生の神も、早々に喰らい全てを奪い去った。これからはグドゥラニスである我が、輪廻転生を司るだろう。
輪廻転生の神格を喰らってから何年か経ったとき、ふと思いついたことがあった。
それは、いずれ我を滅ぼしていたであろう勇者の魂の末裔────ヴァンダルーを作れないか、ということだった。
勿論、そのまま再現したならばいずれ脅威になる。故に一手間加える。
ヴァンダルーが転生するまでの状況をある程度再現し、魂だけとなった時に『原作』とは違う呪いをかける。
そのためには、舞台となる世界が出来上がる前に長い下準備をしなくてはならない。
ヴァンダルーと成りうる存在を作るのもそうだが、いずれヴァンダルーの敵として現れる者たちも再現しなくてはならない。そのほうが楽しそうだからだ。
何も全てを全て、再現する必要はない。我は我のしたいように作ればいい。
そうして十万年もの間、下準備を行ってきた。
そして、時は来た。
『ようこそ、生を終えた魂たちよ』
外見だけはそれらしく整えた分体を、102人もの魂たちの前に出す。ここにある魂たちは、地球の神を脅してこちらの世界の魂と交換させた。
最終的にこちらに流れて来る魂ではあるが、前世の経験というものは必要なものだ。
分体越しに手早く、簡潔に、状況のわかっていない魂たちに説明していく。
この102もある魂の中に、自身の作り上げたヴァンダルーとなる魂がいることも確認している。過去にどのような経験をしたのかも、全て把握済だ。
説明を終えて、魂たちに与える能力を配っていく。『原作』と同じように、均等に、平等に。
そして転生することを選ばなかった一名を除いた、本命の最後の一人が残った。
現時点での名前は、天宮博人。過去も自身の知っているものと同じ。状況も、才能も、魔力の性質も全て一致している。
思わず笑ってしまいそうになったが、堪える。今はまだ、その時ではない。
『天宮博人』
名前を呼び、力を分け与える───フリをする。
見た目は神々しい光る玉だが、その中身は『原作』と同じ呪いを3つ。今から転生する世界では何の意味もないものだが、こちらの世界に転生したときに大きく影響することになるだろう。
そして力を分け与えられた天宮博人は世界『オリジン』へと転生した。他の者と同じように。
『くっ……はは!』
ついに笑いを抑えられなくなる。
なんて愉快、なんという愉悦!あのヴァンダルーを、いずれ我を滅ぼしていたであろう存在を手駒にできる。あぁ、なんと素晴らしい!
これから天宮博人は、想像を絶する不幸を味わうことになるだろう。ここに戻ってきた時、怒りのままに力を降るわんとするだろう。
しかし全て無意味だ。ここに来た時点で、もう詰んでいる。
『はははは!愉快!愉快!愉快なり!』
あぁ楽しみだ。奴がここに来るのが楽しみだ。
これからは我の玩具となって、楽しませてくれ。
「死ねぇぇぇぇっ!」
死亡した天宮博人が、こちらに殴りかかってくる。
予定通りに不幸な人生を歩み、同じ転生者に殺されたのだろう。その魂は痛々しく傷付き、そして禍々しい魔力を纏っていた。
間違いない、グドゥラニスの持つ死の魔力だ。
天宮博人の攻撃は、しかしこちらには通らない。あまりに格が違うからだ。
天宮博人は罵倒を繰り返す。元凶である我に向かって、拳を振りかざす。それが意味のないものだとわかっていても、繰り返す。それは、怒りと憎悪によるものだろう。
しかしこちらにはそんなものを延々と受けてやる理由などない。
手から作り出した新たな呪いを、天宮博人に投げつける。痛みはないだろう。痛みをつける理由などないからだ。
天宮博人は困惑したまま動きを止めた。
『君には、第三の生が与えられる。次の生では不幸になることはないだろう。無論、それは他の転生者にも言えることだ』
ここまで言えば、察しはつくだろう。他の転生者も、いずれは同じ世界に来るということに。
そこで考えるのは復讐だ。憎悪に突き動かされるまま、天宮博人は転生者を殺すだろう。
───構わない。殺そうが殺さなかろうが、こちらの目的は既に達成されている。
ヴァンダルーを生むための母体も、既に用意している。あとは天宮博人の魂を母体に入れるだけなのだ。
「そうか……だったら次の世界で奴らを殺してやるっ! 俺を殺した奴らを、一人残らず殺すっ!
俺が最初に死んだんだろう!? だったら俺が最初に二回目の転生をする訳だっ、だったら俺が一番有利だっ、今度はこっちが奴らを殺してやるっ!」
『そうすればいい。他の魂がどうなろうと、君さえいれば我の目的は達成される』
憎悪の言葉を吐き出す天宮博人に、淡々と事実を伝える。
天宮博人はピタリと動きを止めて、こちらを見上げた。
「……目的?いや、俺さえいれば、だと?」
『そうだ。ここまで来たのなら話すが、我の求めた魂は一つだ。他の魂はついででしかない』
「……おい、待てよ。それってまさか」
『天宮博人。君は不幸のドン底にまで落ち、その魔力を得た。それこそが我が望んだ結果だ。君がそうなるように、我は何万年と時間を掛けた』
「はっ?」
意味がわからない。そんな顔をしている。分かってもらおうなど思っていない。
話したのはついでだ。何せ、ここで話した記憶は全て抹消するつもりなのだから。
『改めて言おうか、天宮博人。ようこそ我の世界へ』
その言葉と共に、天宮博人の足元が黒く淀んだ沼へと変化する。
「!!??」
そのまま抵抗もできずに藻搔き苦しみ、そして沼の底へと落ちていった。
ここで、最初に与えた呪いに加えて我にとって都合のいい呪いを追加していく。
それが終わったとき、お前は既にヴァンダルーとなっているだろう。
『これからは、我の玩具として楽しませてくれ』
かつて思った言葉を、もはや聞こえていないであろう天宮博人に向かって言い放った。
転生者はグドゥラニスなのでだいぶ性格が寄ってる。
あと原作の書籍版は性欲が高まる。続きが見たい。
ハートマークとかオホ声とか好き?
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