男女比1対9の幻想郷に転生した魔理沙くん(♂)のお話 作:チノちゃん
思ったより投票が偏っていたのでびっくり
495年目の魔法使い
『──弾幕ごっこしようぜ』
初対面ながらに開口一番、そう言い放った白黒魔法使いの第一印象を表すなら、変わった女。それに尽きた。
当然の如く完膚無きまで叩きのめしてやったら翌日の早朝、人の安眠を妨害して再戦を申し出て来る。二度目の勝負も、私の圧勝。その後平然と神社に居座ろうとしたのがムカついたので追い出した。それでもう二度と来ないだろうと思っていたのに、そいつは三日も経たずにまた現れる。三度目の弾幕ごっこは、少し梃子摺った。
以降、そいつは何度も何度も神社に来ては弾幕ごっこを仕掛けて来た。私は無視しようとしたけれど、やたらとしつこかったのと、暇だったので仕方なく相手をしてやった。十度目の決闘で不覚を取って被弾すると、何が面白いのか両手を挙げて小躍りしていた。ムカついたのでボコボコにした。
その後も、そいつは飽きもせず殆ど毎日神社にやって来る。余っ程暇なのか弾幕ごっこが終わった後も聞いても無いのにぺらぺら一方的に話し掛けてきて、日が沈む頃になると一人で満足して帰っていく。正直、それの何が楽しいのかさっぱり解らなかったが、料理と掃除を手伝ってくれるのは便利だと思ったので、追い出すのは止めてやった。
──それ以外の他意は、ない。
『……ねぇ。魔理沙』
いつからだろうか。
今まで無視していたあいつの話に、相槌を打つようになったのは。
そいつが来てからというもの色んなことが変わってしまったように思う。一人でいる方が気楽だというのに、いつの間にか神社にはそいつがいるのが普通になって、それがさも当然かのような時間が流れていった。気付けば、料理当番とか掃除当番が作られていて、大抵は弾幕ごっこの勝敗で決めるからあいつが台所に立っているのを居間からぼーっと眺めながらお茶を飲むのが日常になっている。
『今日……泊まってく?』
だから、これは当然の流れ。
その都度魔法の森から通うのは面倒だろうと思ったし、幸い使っていない布団がある。だから、私がそう提案したのもごく自然なことだった。
するとそいつは、何故か妙に慌てていた。泊まるかどうか尋ねただけなのに、あいつにしては珍しく、煮え切らない様な曖昧な表情。そんな態度を取られたのは初めてのことだったので、少し面食らった記憶がある。
ややあって、そいつは申し訳なさそうな、それでいて少し悲しそうな顔をしながら首を横に振った。
『悪い……俺、男なんだ』
男。存在は知っていたけど見るのは初めてだった。
数が少ないから、人里でも滅多に見掛けない。大抵は家の中に引きこもっている……らしい。詳しい事は知らないし興味がなかった。だから──
『ねぇ……それ、今の話と関係ある?』
小首を捻った。だって、魔理沙が男だろうが女だろうが私には関係無い。今まで通り、普通に接するだけである。
私の反応を見て、魔理沙はぽかんと口を開けたまま呆けていたが、暫くしてから花が開いた様に微笑んだ。
『そっか……そうだよな……!』
とても嬉しそうな顔だった。私にはその意味が解らなかったが、一人で勝手に納得している所が妙にムカついたので、頭を軽く小突いてやった。それでも尚、魔理沙は大喜びしていたので、やっぱりこいつは頭が可笑しいのだと思う。
──その日の夜は、何時もより騒がしかった。
『──良い友達が出来たのねぇ』
あくる朝、博麗神社から飛び立つ魔理沙を見送りながら縁側で御茶を啜っていると、背後から声が聞こえた。
周囲に気配はない。振り返っても誰も居ないことは分かり切っているので、宙を見ながら返事をする。
『友達?』
『だって、そうでしょう? 一緒に食べて、寝て、遊んで……素晴らしい友情関係だと思うわ』
何が面白いのか、けらけらと胡散臭い笑い声が部屋に響く。
『貴女は寂しがり屋だから、ずっと心配だったの』と、顔も見せない癖に私の事を分かったような口ぶりで語る様は心底腹立しい。
声からして、多分女。性格は間違いなく悪い。
誰も居ないのに見られているような感覚がする時があるが、それもきっとこいつの仕業なので恐らく変態なんだろう。いつか顔を合わせる機会があったら、必ずぶっ飛ばしてやると心に決めている。
『一緒に巫山戯られる女友達は貴重な存在よ? 大切にしなさい』
『魔理沙は男よ』
『そんなこと関係ないわ。良いですか? 私も昔は──』
長話が始まりそうだと渋面が浮かんだ所でぴたりと声が止んだ。
次いで、どんがらがっしゃん! と、けたたましい物音がしたかと思えば、ぱたりと女の気配が消失する。
不思議に思ったがさして興味もないのでそのままゆっくりお茶を飲んでいると、眼の前の空間にパックリと切れ込みが入った。
スキマとしか形容出来ない不可思議な宙の割れ目から身を乗り出す様にして現れたのは金髪で紫の道士服を着た、想像通りの胡散臭そうな顔をした女だった。
『おおおと……アナタ、同年代の男に炊事させたり、一緒に寝たりしてんの?! どういうことなのよ!?』
『あ、みつけた』
目が合ったので、出会い頭に張り手を喰らわせる。すると、女は相当油断していた様で物の見事に顔面にめり込んだ。てっきり避けられると思っていただけに、拍子抜けする。
『痛い! でも、ゆ、許しませんわ! 男と同伴なんて、うら……兎に角、いけませんよ!!』
『そう言われてもねぇ……別に。大したことないじゃない』
ずず、とお茶を啜りながら私が肩を竦めると、女は唖然とした表情のまま額に手を遣った。そのまま天を仰いで、大仰な溜息を吐く。
『霊夢に性教育を施すのを忘れていたわ……』
それから、八雲紫と名乗った女はこちらが聞いてもいないのに男性の扱い方だとか夜のテクニックだとかを語り始めた。
現在の幻想郷における男の割合が一割にも満たないだとか、外の世界では希少な生物としてより厳重に守られてるとか、未知の情報を得られたがそれ以外の大半は毒にも薬にもならない話だと思ったので聞き流した。
『それにしても魔理沙ちゃんが男だったなんて……もう少し成長したら……いや、何なら今からでも、というかそっちの方が』
『──死ね』
瞬間、脳内が一気に沸騰して自分でも無意識の内に足を振るっていた。
今度は警戒していたのか軽く躱されたので、直ぐ様懐から御札を取り出して、殺害を試みる。紫は『ギャー!』と叫びながら身を翻す様にしてスキマの中へと消えていく。
『冗談じゃない。心配しなくても横取りなんてしないから! ……でもやっぱり一口』
『黙れ!!!』
叫び、息を切らせながら周囲を警戒する。
暫く間を置いて、完全に気配が消滅した事を確認した私はゆっくり肩の力を抜いた。……去り際まで心底気持ち悪い妖怪だった。
怒り冷めやらぬまますっかり冷え切った湯呑の中身を一気に飲み干す。
そこでふと、自分は何故ここまで苛立っているのか、という事に気が付いた。
普段の私ならあんな妖怪が幾らちょっかいを掛けてきた所で鬱陶しくは思ってもそこまで気には留めない。実際に今までそうだった。
我ながら自分らしくないと首を傾げる。
原因は何だと考えて、直ぐに魔理沙の顔が脳裏に浮かんだ。──何で?
少し考えて、魔理沙が弱いから、という結論に至った。
幾ら弾幕ごっこが成長してるといっても、魔理沙はまだまだ私より弱い。妖怪に襲われた時、ひょっとすると負けてしまうかもしれない。
魔理沙が居なくなるのは──困る。
それは、だって、料理も掃除もさせてるし、最近は洗濯だって任せてる。あいつが消えて、私の負担が増えるのは望まない。……それだけ。
だから、私は魔理沙を守ってやらなければならないのだ。
──女が男を守るのは当たり前。それが世界の常識だと、あの長話の中で紫もそう言っていた。
それが義務だというのなら、面倒だけど仕方ない。
私はそこで思考打ち切って、お茶のお代わりを淹れに台所へと向かった。
……胸の淵の淵で、微かに湧き出る感情に蓋をして。
──しかし人間、目を逸らしてもいつか必ず向き合わなくてはいけない現実というものが存在する。
私にその“時”が訪れたのは、それから暫く経った後。また何時ものように神社にやって来た魔理沙を適当にあしらっている時だった。
空に真っ赤な霧が立ち込めて日差しを覆い隠す。
後に紅霧異変と呼ばれる異変始まりである。
主犯は紅魔館という悪趣味な館の主、レミリア・スカーレットと名乗る吸血鬼で、動機は太陽の光を遮れば昼間でも騒げると思ったからという極めて自己中心的な思考だった。
何たらとかいう有名な吸血鬼の末裔だと自慢するだけあって、レミリアという妖怪はシンプルに強かった。
目で追うのも一苦労な超高速に人の限界を安々と凌駕する怪力。そして対峙するだけで肌がひりつくような妖力も相まって今まで戦ってきた妖怪の中で間違いなく一番の強敵と断言出来た。
それでも結局は私の敵ではない。
何時もの様に弾幕ごっこでブチのめして力の差を分らせる。
勝利したのは私だというのに、余裕ありげに微笑むレミリアの顔は少し癇に障ったけど、幻想郷に蔓延する無粋な霧は解除されたので一先ず良しとした。
用済みになったのでそのまま帰ろうと至る所が崩落した部屋を後にする。
上下左右何処を見ても真っ赤な通路を不快に思いながら飛行して、広間に出た所で私は硬直した。
白い大理石の上に赤いカーペットが敷き詰められた床、更にその上からトマトジュースをぶち撒けたみたいに赤い血溜まりが広がっている。
その中心に、見慣れた白黒の姿があることに気が付いて、自分の意識が急速に遠ざかっていくのを自覚した。
こみ上げてくる吐き気を何とか堪えて、カーペットの上にゆっくりと足を着ける。
ぴちゃり、と汁気を含んだ絨毯を踏み付けると靴の裏に不快な感触が伝わってきた。
私の存在に気が付いて魔理沙が血塗れの姿で手を振ってくる。
傷付いていない所を見付けるのが困難な重症で、何時も太陽に反射してキラキラ輝いていた金髪も今では元からそうであったとでもいうようにどす黒く染まっていた。
それを見てただ呆然と、立ち竦む私に向かって魔理沙は両脇を寝間着みたいな格好をした紫色の女とレミリアによく似た顔立ちの金髪の小娘に抱えられながら近付いて来る。
そうやって、ふにゃりと普段通り能天気に微笑む魔理沙を見て、私の中で幾つもの言葉が渦巻いた。
──何で、だって、私は、危ないから神社で待ってろって言ったのに……!!!
私が居ない間に何があったのか、 誰が魔理沙をこんな目に遭わせたのか、 魔理沙に寄り添っている見ず知らずの二人を見るだけでどうしようもない殺意が湧いて、同時に酷い無力感が全身を支配し始める。
──どうして、其処に、私が居ないのよ。
──私が、こいつを守るって決めたのに。
怒りや憎しみより、自分への不甲斐なさで頭がいっぱいになって、喉元まで迫り上がった何かを必死に抑え込もうと歯を食い縛った。
そんな内心とは裏腹に、私は至って平静を装って、魔理沙に近付く。
普段通りに振る舞おうと口を開こうとして、言葉が出ないことに気が付き引き攣った笑みを浮かべる事しか出来ない。
そんな私の様子にまるで気付くことなく、魔理沙は私から視線を外して傍らの奴らに笑い掛ける。
紫の女がパチュリー、金髪のガキはフランドール。どちらも弾幕ごっこで勝利したのだと、今にも倒れそうなくらい血の気の抜けた蒼白で、屈託のない笑顔と共に語られた。
『……そう。良かったわね』
そんな短い言葉を口にするだけでどれだけの労力を要したことか。
──女は男を守るのは当たり前? 私が魔理沙を守る?
そんな事を宣っていた嘗ての自分を思い出して反吐が出る。
私が、一番近くに居た筈なのに、魔理沙の事を分かっていた筈なのに──
『──ねぇ〜まりさぁ〜。次はいつ遊んでくれるのー?』
『………………?』
甲高く辺りに響く、媚びたような女の声が私を思考の底から引き上げた。
声の主……確かフランドールとかいう名前だったか、レミリアの妹らしい吸血鬼のガキが魔理沙に抱き着いた状態で問い掛けている。
一見すればそれは戯れる無邪気な子供のようでいて、しかし隠し難い腐臭を孕んだ狂気を瞳の奥から覗かせていた。
今まで気が付かなかったが、明らかに危険な奴であると、私の勘が訴え掛けて来る。
レミリアも大概な妖怪だったが、まだ言動や行動に理性を感じさせた。だが眼の前の吸血鬼は姉とはまた別方向で、勝るとも劣らない脅威と圧迫感をこちらに与えて来る。
この場に魔理沙が居なければ問答無用で退治していたかもしれない。
そうやって注視していたことで気が付いたが、この吸血鬼。最初から今に至るまで私に一瞥ともくれようとしない。
ただ一点。とろんと蕩け切った瞳で魔理沙を見詰め、頬を上気させながら腰をくねらせている。
献身的に支える様に魔理沙の腰に手を回し、親身に身体を寄せては魔理沙に密着して、『はぁはぁ』と息を荒げている。その手は尻を撫でていた。
『────あ?』
──ガキだと思っていた奴は女だった。
明らかに幼子が甘えるようなそれではない。熱を孕んだ瞳で見詰めながらフランドールは魔理沙の尻を撫で回している。
それからもう抱き着くというより殆どしがみつくと表現した方が正しいような姿勢で、フランドールはピンとつま先立ちになりながら腰を上下させて魔理沙に股を擦り付けていた。
『ハッハッハッハッ……』
発情した犬のように息を荒げてフランドールがぐりぐりと魔理沙の胸板に顔を押し付けて腰を振っている。
肝心の魔理沙は全く気付いてませんといった風に傍らのパチュリーに話し掛けていた。
──いや、気付きなさいよ。
ギギギ、と油の差していないブリキの人形のような緩慢な動きで寝間着魔法使いを見遣れば、そっちはそっちで恋する乙女のような熱っぽい瞳で魔理沙の顔をチラチラと見詰めては視線を真下に戻している。
その様子から、他の物事を視界に入れる余裕はまるで無いようだった。
『ふーっ……♡ふーっ……♡まりさっ♡まりさまりさまりさま──あぉ゛っ♡』
次の瞬間にはフランドールが掠れたような声を漏らしてぶるりと全身を震わせていた。びくびくと身体を痙攣させて、だらしなく緩んだ口許から涎を垂らしながら、ぐったりと魔理沙にしなだれかかる。
『──おっと、大丈夫か?』
そのまま地面と激突すれば良かったのに、フランドールは倒れ込む寸前で魔理沙に抱き留められていた。
至近距離で顔を合わせながら、にこりと笑い掛けられている。
『おひゅっ!? ♡ だ、大丈夫でしゅっ♡』
『……いや、心配だな。さっきの弾幕ごっこで怪我したのかもしれない』
『あっ♡ ああぁぁぁっ…………♡』
深刻そうな表情で顔を除き込みながら、赤ちゃんでも運ぶように抱き抱え始める魔理沙。
終始アタフタするだけで全く役に立たなそうなパチュリーにベッドは何処かと尋ねて、そのままフランドールを寝かせに向かう事になる。
その間、私はじっとそいつだけを見詰めていた。ずっとずっと、目が乾き切って充血してしまうくらい。たっぷり数分費やしてから魔理沙に抱かれて恍惚の表情を浮かべるそいつと初めて目が合った。
『────』
『────フッ』
その時のあいつの顔を、私は一生忘れない。
魔理沙の肩越しに勝ち誇ったような顔をするあの女だけは。
──フランドール・スカーレットは必ずこの手でブチ殺す。
──次いでに霧雨魔理沙はブチ犯す。
これが私の人生の指針が生まれた瞬間であった。
アンケート結果
魔理沙の魔理沙はデカ魔理にします
やり過ぎくらいで丁度良いと思ってるので三十連戦可能なマジカルキノコの予定です