男女比1対9の幻想郷に転生した魔理沙くん(♂)のお話 作:チノちゃん
「もうすぐ男の子が此処に来るわよ」
長い銀髪に赤いローブの女性。
何処かからかうような声色で母代わりの魔神にそう告げられた時、私はピンと来ない感覚のまま小首を傾けた。
だって、唐突にそんなことを言われても私は今まで男という存在を見たことがない。
情報としては、知っている。
囚われの王子様を助ける姫騎士のお話なんか有名だし、自分も今より小さい頃はそれなりに好んでいて、そういったお伽噺を偶に読んでいた。
後は……珍しいとか、女よりか弱いとか、そんな誰かに又聞きしたくらいのあやふやな知識で完結してしまう。
周りに居ないので分からない。興味も無ければ、関わりたいとも思わなかった。
私にとって男とはその程度の──私の世界には、存在しない。架空の物質と同種の生き物だったのだ。
「優しくしてあげるのよ。アリスちゃんは女の子なんだから」
頭をぐりぐりと撫でられ、その手の温もりを感じつつ、私は口を噤んで考えた。
要するに友好的に接すれば良いというだけの話。そう難しいことじゃない。
いつも周りの魔界人達がやっているように、ニコニコ笑っていればいいだけだ。
そうすれば向こうも安心するし、私の世界だって広くなるかもしれない。
家族と過ごすよりかは退屈な時間を強いられるかもしれないが、男というのは未知の生き物だが、少しだけ──ほんの少しだけ期待もあった。
空想の世界にしかいないと思っていたそれに会えることに。それが本当に実在することに私は少なからず胸を躍らせていたのだと思う。
けれど──それが間違いだったと思い知らされたのはそれから数時間後のことだった。
「よぉ」
緑髪の悪霊に連れられて、如何にも『自分は性格が悪いです』とでも言いたげな小憎らしい笑顔を浮かべるのは明らかに身の丈に合ってないぶかぶかの黒い帽子を被った金髪で白黒衣装を纏った人間の魔法使い。
歳は間違いなく二桁もいってないだろう。身長は私よりも一回り小さい。
顔はそれなりに整ってはいるが、馴れ馴れしい態度と人を舐め腐っているような口調がそれを台無しにしている気がした。
──コイツとは、仲良く出来そうにない……!
半ば勘のようなもので、私はそんな予感を抱いた。
そしてその直感は正鵠を射ていたことを程なく思い知らされることとなる。
「お前、アリスだろ? アリスマーガトロイド。俺は……霧雨魔理沙っていうんだ。よろしくな」
背の小さい彼はそう言うと、ずずいっと顔を近づけて私の眼を覗き込んでくる。
榛色の輝きが瞳の奥で宝石みたいに光っているなと場違いなことを思いながらその距離の詰め方に反射的に身構えた。
握手を求められて仕方なく握り返すと、その手を振りながら何が面白いのかニヤニヤとした笑みを浮かべるその男を私は警戒心を隠そうともせずに睨みつける。
霧雨魔理沙は私の予想していたどの男性像にも当て嵌まらなかった。
身嗜みは最低限清潔に保っているみたいだが、それにしては服に気を遣っていない。着古された皺くちゃのシャツは所々ほつれていて、黒いベストも色褪せてしまっている。顔の半分まで覆い被された三角帽なんて果たしていつの物なのか不思議になるくらいボロボロの代物だった。
全体的にどうしようもないくらい田舎者感が漂っている。その上、馴れ馴れしい。
帽子の下から覗く金髪は手入れなんてまるでしてないみたいだが、嫌味なほどサラサラなのが何となく鼻についた。
私の想像ではもっと淑やかで紳士的な男性像を思い描いていたけれど、いざ実物を目の前にすると今までの情報は何だったのかと疑問に思ってしまうほど、百八十度真逆の存在が眼の前に居て、しかもそれが私の最も苦手とする性格をしていたのだから、それで幻滅するなという方が無理な話だった。
それなのに霧雨魔理沙はそれから毎日私の前に現れた。
魔理沙の師匠? とかいう悪霊が暫く魔界に滞在するらしいのでそこは仕方が無いが、しかし明らかに構うな、というオーラを放つ私にベラベラと一方的に話しかけられてもこちらは迷惑千万なだけだ。
肝心の話の内容は何時だって下らないし、魔法の使い方も私より雑で下手くそで、その癖に自信満々で披露するので、直ぐ様私がそれより高度な魔法を見せてやるとその程度の事で大はしゃぎしている。
ただまぁ──「凄い」とあけすけの無いシンプルな称賛を送られるのは中々どうして、悪い気分ではなかった。
「アリスちゃんはいつも魔理沙くんと一緒に居るのねぇ」
「……は?」
ニマニマと気味の悪い笑顔と共に神綺からそんな言葉を投げ掛けられば私は即座に否定した。
だって、その言い方だとまるで──私が望んで魔理沙と一緒に居るみたいに聞こえる。
「仲良くなったみたいで良かったわ〜」
「違うわよ……!」
何時にも増して上機嫌な神綺を睨み付ける。
だって……酷い誤解だ。
あんな男と仲良くなった覚えはないし、今後も絶対にならない自信がある。
魔理沙の嫌いな所を列挙したら枚挙に暇がないくらいには嫌いだ。
例えば馴れ馴れしいとこが嫌い。魔法の腕が未熟なのが嫌い。その野暮ったい服装が嫌い。榛色の綺麗な瞳が嫌い。無邪気に見詰めるその視線が嫌い。きらきらしたその金髪が嫌い。私より白くて細いその手足が嫌い。掌に収まりそうなくらい小さなその顔が嫌い。私より長いその睫毛が嫌い。シュッとしたその鼻が嫌い。触れたら柔らかそうなその唇なんてどうしようもないくらい嫌い。帽子を取った時とか思わず見惚れる。近付いた時にふと香るその匂いが嫌い。無防備に屈んだ時に見える胸元なんて堪らない。全部──全部、全部。大嫌い。
でも……向こうはきっと、そうじゃない。
──魔理沙は私のことが好きなんだ。
鈍感ではない私は直ぐに彼の感情を察してしまった。だって、だってそうじゃないとあんな態度、絶対おかしい。
私はナルシストではないが自分の容姿が整っている方だという自覚がある。だから──魔理沙は恐らく私に一目惚れしてしまったんだろう。それならばあの他人のパーソナルスペースまるで考えてない言動も、一見無防備に見せかけた稚拙な誘惑も全てが納得いくというものだ。
そう考えると、途端に彼のことがいじらしく思えた。私のタイプとはちょっと違うかもしれないけど、まあそこまで無理して好意を向けられたらしょうがないなという感じ。
恋する男の子をぞんざいに扱うほど私は非情な女ではないし、仕方ないから隣に置いてやっても良いと思ってる。
そんな日々が暫く続いて──別れは唐突にやって来た。
どうやらあの悪霊が帰るらしい。魔理沙も一緒に、魔界から出ていくようだった。
「今日でお別れだな」
「……ふん」
名残惜しそうに笑みを浮かべる魔理沙に私は一冊の魔導書を差し出す。
「これ、もう読み終わったからアンタにあげるわ」
「……マジか。凄い……嬉しい。ありがとうアリス」
「……これでもう二度と会うことはないわね」
はっきりと私がそう言い放てば魔理沙は何かを言い掛けて、思い直したように口を噤むと一歩此方に歩み寄り、微笑した。
「なっ、何──」
その唐突な行動に私が動揺すると、そっと抱き寄せられた。
耳許で、囁き声。
「近い内にまた会えるよ」
「…………あっ」
あっさりと私から離れると、片手を振って背を向ける。
「またな!」
「あっあっあっ……あぁ……」
あっと言う間に遠くへ去っていく二人の背中が見えなくなるまで、私は呆然の片手を振りながら立ち尽くしていた。
魔理沙が、去った。
私の身体に煮え立った溶岩のような灼熱の感覚を残して。
「あぁ……あ、あぁ……あ……」
「……神綺様。アリスが壊れました」
「夢子ちゃん。そっとしてあげて……」
あれから数日経っても私の身体を巡る熱は消えない。
眠れない夜を何度も繰り返した。胸がきゅうっと締め付けられるみたいに痛くなって酷い喪失感に蝕まれた。
何をするにもやる気が湧かなくて、今まで日課にしていた魔法の研究にもまるで手が付かない。
ぼーっと宙を見て、食事もあまり喉を通らなかった。何だか私らしくない、以前の調子を取り戻せない。
何度も何度も、魔理沙の最後の言葉が脳内でリフレインされる『近い内にまた会えるよ──』
ある日、ハッと得心がいった。
魔理沙はきっとまた魔界に来るつもりなのだ。私に会いに。それならあの言葉にも納得出来る。
私は魔法の研究に再び勤しんだ。
魔界でも都市部の図書館に足を運んで様々な魔法の勉強をする日々を送る。それが何時になるのか分からないけれど、きっとそう遠くない。それまで最低限魔理沙が訪ねて来ても恥ずかしくないような魔法使いとして研鑽を続けなければ女としてのプライドが許さない。
そして、一年、二年が経過して──二年、三年四──七年過ぎ去った。
再びあの悪霊が魔界にやって来る。
「魔理沙は!?」
「は?」
「魔理沙は、何処!?!?」
来訪一番に胸ぐらを掴みながら詰め寄る私に悪霊が困惑した表情を浮かべる。
「魔理沙ならとっくに私から卒業して、今は幻想郷に居るけど……」
「は???」
話が、違う。
「家出します」一言だけそう告げて私は荷物を纏めると直ぐ様魔界を飛び去り幻想郷へやってきた。
住居は既に聞き及んだので迷わず魔法の森の一軒家へと降り立つ。
「魔理沙ァッ!? 居るんでしょ!? 出なさいよ!!!!」
ガンガンとドアを殴り付けながら大声で呼び掛ける。
扉の奥からがたりと物音が鳴り、ゆっくりと此方に近付く気配。
鍵を開ける音がし、扉が開かれると中から出てきたのは金色の髪──。
「アンタ、私との約束はどうなって──!?」
「……ん、あぁアリスじゃん。久しぶり」
現れたのは記憶にあったそれより成長した“男”の姿だった。
着崩れた白いシャツから覗く細身の身体は昔より逞しく、顔は精悍さを増している。身長も私と同じくらいにまで伸びており、声色を僅かに深みを増してハスキーに私の耳から優しく浸透してくる。
爆発しかけた感情が一気に鳴りを潜め、私はぱくぱくと魚のように口を開閉させていた。
「無事にこっちへ来れたみたいで良かったよ」
「あ、あんた。あのねぇ……!」
「ん?」
小首を傾けて魔理沙が此方を見詰める。
それだけで「ぐっ」と喉が鳴り私は何も言えなくなってしまった。
「もう、いいわ……」
溜息代わりにそう吐き捨て、私は肩の力を抜く。
魔理沙とまた会えた。
それだけで胸がいっぱいで他の事なんてどうでも良くなった。
今はただもう一度、隣を歩いて居られる未来に歓喜しよう。
これからはまた、昔みたいに一緒に──。
「──魔理沙、そいつ誰?」
「は、ぁっ?」
魔理沙の背後から気怠げな女の声が響き、私は思わず全身を硬直させた。額に汗が滲んで、何故だか世界がとんでもなく遅くなっていく感覚がしてくる。
そうしている間に今まで私が見た事ないような柔らかな表情を浮かべた魔理沙がゆっくりと振り返って声の主に呼び掛けた。
「あぁ、紹介するよ。アリスマーガトロイド、俺の友達」
「ふーん? あっそ」
「アリス、こいつの名前は──」
魔理沙の肩越しに冷めたような視線を此方に向けながら女が呟く。
襦袢姿で、髪の毛もボサボサで、如何にも寝起きです。といった風体の女だ。魔理沙の家なのに。
「博麗霊夢。俺の……えぇと……ライバル?」
「いつ、誰が、アンタのライバルになったのよ」
「あっ……」
額を小突きながら女が流れるような自然な動作でそっと魔理沙の腰を抱き寄せる。
明らかに至近距離で異性に接近されているというのに、魔理沙は全く意に介した様子を見せず──いや、頬を僅かに染めて満更でもない表情を浮かべて女の顔をじっと見詰めていた。
おい。
なんだ、その顔は。
視界が真っ白になってちかちかと点滅し始める。
意識は少しずつ彼方へと遠ざかり、深い衝撃と共にまるで脳が弾け飛んだような感覚が頭の中で断続的に発生する。
ふらふらと目眩がしそうになる程の吐き気と頭痛に私は必死になって耐えていた。
だって、おかしい。其処は私の席で……魔理沙は私以外の女にそんな顔しない。
これは何かの間違い……私の妄想が生んだ酷い悪夢で、本物の魔理沙は今も私を待ち侘びてる。
だって、だって魔理沙は私のことが好きで……一緒にお風呂に入ったことだってあるんだぞ!!
「どうでもいいんだけど、早く朝ご飯にしてよ。アンタが当番でしょ?」
「あぁ……えっと、アリスも食べるか?」
霊夢と呼ばれた女に顎で使われてるというのに魔理沙は不快な素振りを一切見せること無く私を室内へと誘い始めた。
程なく限界に達した私はブリキ人形のように何度も首を横に振る。
「そう……か? じゃ、またな!」
懐かしい屈託のない笑顔と共にゆっくりと閉め切られた扉を眺めた後、私はふらふらと後退しながら近くの茂みに倒れ込んだ。
「おえっ」
まるでバケツをひっくり返したみたいに吐瀉物をぶち撒けながら私は嗚咽し続けた。
私が先だったのに。
私が居たのに。
私の物だったのに!
私が、先に、好きになったんだ!!!!
本当は分かっていたんだ。魔界に居た時も、魔理沙は私以外の誰にでも優しかった。そこに特別性はなくて……きっと魔理沙にとって私は、仲良く接する大勢の“友達”。その一人でしかない。
舞い上がっていたんだ。産まれて初めて会った男の子という存在に。
だから魔理沙の気を引こうという努力を私は何もしていなかった。その結果が、これだ。
止め処無く零れる涙と共に、私は蹲る。
ぐちゃぐちゃに塗り潰されたドス黒い感情が心の奥底から沸々と湧き上がって来るのを懸命に抑えつける。
これで、これで良かったんだ。
だって、久しぶりに会った魔理沙は心底満ち足りた顔をしていた。それは私では引き出せなかった表情だ。
その時点で私の付け入る隙なんて何処にもない。
だがそれならそれで構わない。だって、魔理沙が幸せなんだから。愛した人が幸せならばそれ以上何を望む物がある?
隣に居るのが私でないのは心底悔しいけれども、私が好きになったのは晴々とした満天の星のような笑顔を浮かべた彼なんだから、それを曇らせるのは私の本意ではない。
だから──二度と開くことはあるまいと、私は自分の気持ちにそっと蓋をした。
✽ ✽ ✽
雨。
窓の外でざあざあと降りしきる豪雨をじっと眺めて、魔理沙が空虚な表情を浮かべている。
「ご飯、出来たけど……」
その縮こまった後ろ姿にそっと声を掛けるとややあって反応が返ってきた。
「あぁ……悪いな……」
何でもないような微笑を浮かべていつも通り、といった風に立ち上がるが、よく見ればそこには違和感がある。
陰りと疲れ、貼り付けたような笑顔の仮面の裏にどうしようもない空虚と絶望を感じ取って、私は無意識の内に息を呑んでいた。
ふらふらと重たげな足取りで魔理沙がリビングに向かう。
そこには以前の彼の姿はなく、隣で支える紅白の巫女の姿も存在しない。
──アリスマーガトロイドでは、霧雨魔理沙を笑顔に出来ない。
博麗霊夢はもう居ない。
突き付けられた二つの事実が私の心中に痛烈な痛みを与え、それは私の身体に巣食う病魔のようにじくじくと神経を蝕んでいった。
二人っきりの空間で向かい合わせにテーブルに着いて、お互いに黙々と食事を摂る。
行く宛がなかった魔理沙はなしくずし的に私の家に住むことになった。最初こそ遠慮気味でぎこちなかったが、時が経つに連れてそれは取り払われ、昔と近い関係には戻れたと思う。
だけど、魔理沙が時折疲れたような、悲しいそうな表情を浮かべるのは明白で。そういう時、私はどう接していいのか分からないまま、時間だけが刻々と過ぎていった。
「魔理沙。今度一緒に人里でも……」
「……いや、いい」
また、拒絶される。
一拍遅れて戻って来た返事に私は更に胸が締め付けられるような痛みを感じた。
最初こそ気が向かないだけだと思ったが、同じ遣り取りを何度も繰り返せば流石に確信に至る。魔理沙は外出を避けている。明確に私や人里を拒絶するわけではないが、ただ消極的に私の誘いを断り続けていた。
「じゃあ、その……弾幕ごっこでも。久しぶりにやってみる? また、昔みたいに……」
「………………」
鰾膠も無い態度に思わず私は口を噤む。
無言のままゆっくりと首を左右に振られ、そこで会話はぷつりと途切れた。重苦しく気まずい沈黙が私と魔理沙の間に横たわる。
再び訪れる静寂と共に雨が窓を叩く音だけが静かに響いていた。
「ねぇ……何時までも家の中に居たら身体に悪いわ。偶には外に出ないと……」
「悪くなる身体なんてもう無いだろ?」
「…………。そうかもしれないけど、でも。精神にも悪影響よ」
「精神……」
魔理沙が舌に馴染ませるように私の言葉を反芻した。
視線を落として暫く思い悩んだ後、自嘲するような笑みを浮かべて私を見る。
そうして真っ赤な瞳で見据えられると、蛇に睨まれた蛙のように身が竦み、私は無意識の内に息を呑んでいた。
「俺は……現状に満足している。ずっとこれで良いとさえ思ってる。でもそれがアリスの負担になっているのなら、俺は──」
「そうは、言ってないわよ」
被せるように言葉を繋いで正面から魔理沙を見返す。
断言して、私ははっきりと強い口調で言葉を紡ぎ出した。
「私が貴方を拒否することはない。だから、好きなだけ此処に居ても構わない」
「…………」
感情の見えなかった赤い瞳が初めて揺らぐ。
困惑に彩られた視線は暫し私の瞳と交錯していたが、やがてゆっくりと逸らされた。
「どうして、そこまで……」
「……バカね」
苦笑しながら私はテーブル越しに乗り出して魔理沙の頬に手を添えた。
ひんやりとした体温が手のひらを通して伝わってくる。その冷たさに胸の奥がちりりと痛んで、思わず溢れそうになる涙を押し殺すと口端を緩ませた。
「私たち、友達でしょ?」
どれだけの時が経とうとも、どんな見た目に変わろうとも、揺るがない私たちの関係を改めて言葉にする。
魔理沙の顔をじっと見詰めながら私は頬から下へ、流れるようにテーブルの上に置かれた魔理沙の手に重ね合わせた。
心なしか少しだけ温かくなった体温が手のひらが擦れる感覚。その全てが心地良くて──どうか永遠にこの時間が続けば良いのに。
無限に思える時間の中でそんな淡い期待を抱いてしまう程に、私にとってこの時間はかけがえのない物だった。
そうして私が幸福を噛み締めていると、何時までも言葉を発しようとしない私に痺れを切らしたのか不意に魔理沙が席を立った。
そのままゆっくりと近付いて来ると私の側までやってきて跪く。
「な、何?」
「これを……」
言葉と共に手のひらに軽い物が乗る感触。それを見ると小さなブローチが私の手の上に鎮座していた。
四ツ葉クローバーを模した可愛らしいそれに目を落としたまま私は困惑の表情を浮かべる。そんな私を真剣な眼差しでじっと見詰める魔理沙に怖気付いて自然と身体が強張った。
「安物だけど……アリスに受け取って欲しい」
「えっ……?」
混乱で上手く言葉が出てこない。何が起こったのか理解が追いつかず、ただ頭の中が真っ白に染まる。
たっぷり数瞬の間を置いて漸く言葉の意味を咀嚼し終わると途端に、頬が熱くなるのを感じた。
それは今まで受けたどんな衝撃よりも深く私の胸に突き刺さる。どくどくと早鐘を打つ心臓を服の上からぎゅっと押さえながらこれ以上ない多幸感に打ち震えた。
「いらなかったら捨てても……」
「そんなこと、無いわ。……大切にする」
言うや否やブローチを着けてみせると、魔理沙は安心したようにほっと胸を撫で下ろす。
そういうふとした態度は昔と何一つ変わってなくて──その優しさにまた泣きそうになるのを必死に堪えると、私は精一杯の笑顔を浮かべた。
嬉しかった。本当に……嬉しくて……。
頭の中で必死に用意していた言葉は全てどこかへ消えてしまい、後に残ったのは子供のように拙い感想だけだったが、それでも伝えたかったのだ。
「ありがとう。魔理沙」
胸元のブローチをそっと指先触れながら、私はその形を確かめるように何度も何度も何度も撫で続ける。
「アリス……」
私の姿にどう反応したら良いのか分からないのか、魔理沙は複雑な表情を浮かべ、視線を彷徨わせている。
何か思うことがあるのだろう。でも、今は唯この沈黙が心地良かった。
ずっと満たされなかった心の空白が何時の間にか満ち足りていたから、これだけで私にはもう十分だったのだ。本当に。
「俺は……アリスに何かしてあげたい」
ゆっくりと一拍置いてから、確かに意思を込めた口調で紡がれたその言葉は私の心を更に揺さぶるには十分だった。
頰の火照りに促されるように熱っぽい視線を向ければ真摯な光を宿した赤い双眼と視線が絡み合う。
かつて見慣れた──しかし、もう決して見ることが出来ないと思っていた煌めきが瞬いた気がした。
ふつと、仄暗い感情が沸き立つ。
駄目だ、それ以上は望んではいけない。そう理解しているのに……私の心は理性とは逆に更に先を望んでしまう。
友達なら、その先に進むことなんてないはずなのに──私は一体何を考えているんだろう? そんな都合の良い考えが一瞬頭を過るが、それも続く魔理沙の声が吹き飛ばしてしまう。
「アリスの願いを叶えたい。俺に出来ることなら──何でも言って欲しい」
「そ、れは……」
先を促すような言葉を受けて、私はごくりと生唾を飲み込んだ。鼓動が更に激しくなるのを感じ取りながら、衝動を抑え込むように両手をぐっと握りしめる。
──駄目だ。違う。それは疾うの昔に整理のついた感情で、少なくとも、今の不安定な魔理沙に掛ける言葉ではない。それは相手の弱みに漬け込むような……非道な行為だ。私の理性はそう訴えるのに。
欲しい、欲しい。もっと、もっと。
喉元の先から耐え難い渇きが顔を擡げ、渇望する。
今まで堪えていた欲求が一気に溢れ出して留まる所を知らず、私を苛んでいく。その苦しさに背中を押されるように私は衝動のままに魔理沙の頬に手を添えていた。
「好き」
一度望めば堰を切られたように、どろりとした感情が堰を溢れ出す。
理性という防波堤を容易く砕いて、あとに残るのは本能のみ。
「大好き」
「愛してる」
「貴方の全てを、私にちょうだい」
次から次へと溢れ出す感情は留まることを知らない。一度口をついて出た言葉は後を絶たず次々と溢れてくる。
まるでそれしか知らない子供のように、何度も、何度も。私は愛を囁き続けた。
熱を帯びた視線でじっと見詰めながら、一方的に言葉を投げ掛け続ける私に魔理沙はゆっくりと瞳を閉じる。
口許に微かな笑みを浮かべて、そのまま私に向かって恭しく頭を垂れた。
「アリスが……それを望むなら」
✽ ✽ ✽
夜。殆ど暗闇に支配された部屋の中で枕もとに置かれたランプの仄かな光が一糸纏わぬ二人の姿を幽かに照らし出す。
闇夜に朧に映る輪郭はゆっくりと重なり、絡み合って一つになっていた。
しとしとと窓を叩く雨音が軋むベッドの上で奏でられた淫猥な旋律が掻き消していく。
「あっ♡」
ぐちゅり、ぐちゅりと粘性のある水音とそれに合わせて跳ねるような嬌声が暗い室内を満たしていた。
魔理沙のほっそりとした白い指を咥え込んだ秘裂が愛液を滴らせながらひくついている。
優しく抱き寄せられ、しかし責めはねっとりと転がすように四肢を蹂躙されながら私は悦楽に蕩けきった表情を浮かべて身をくねらせていた。
細い指先でざらついた天井を強く擦り上げられると腰がびくんと跳ね上がり、一際大きな嬌声が上がる。私の反応を逐一確認しながら的確に弱い所を攻め立てる手つきに抗う術は何処にもなく、私はただされるがままに嬌態を晒した。
「んんっ!♡ ふっ……あぁ…… まりさぁ……♡」
うわ言のように連呼して私は蕩け切った表情浮かべながら愛しい人を見上げる。頭を優しく抱えられながら与えられる愛撫はまるで幼子を甘やかすように丁寧で、決して無理強いはしない。絶妙な力加減は湯船に浸かっているときのような心地良さをもたらし、私は身体の奥深くからじっくりと蕩かされていった。
そうして徐々に高められていく感覚に背筋を震わせながら切なげに魔理沙を見詰め、甘えるように身体を擦り付ける。
「んぇ」
舌を突き出してねだって見せれば魔理沙は優しく笑ってそれに応えてくれた。
唇が触れ合うとお互いに伸ばした舌が蛇のように絡み合って唾液を交換する。ちゅうちゅうと音を立てて舌を吸われる度に下腹部の奥がきゅんとして更なる快楽を求めようと貪欲に蠢くのが分かった。その求めに応えてくれるように今度は指先で激しく責め立てられる。赤く膨らんで硬くなった肉芽をぴんっと小刻みに弾かれると目の前が真っ白になるほど気持ちが良くて、私は意識を手放しそうになった。
止め処無く溢れる愛液を潤滑油代わりにして更に愛撫が激しくなる。
膣内を掻き回される度にくちゅ、ぐちゅっと淫靡な水音が鳴り響き、その音が耳に入る度自分がどれだけ濡らしているかを思い知らされて羞恥心が煽られた。だがそれさえも今の私にとっては昂りを高める材料にしかならず、より一層感度が増していく。
身体の奥底から込み上げてくる快楽に理性は早々に屈服し、私はただされるがままに受け入れるだけだった。
「も、もうダメぇ……♡」
早々に白旗を揚げ、魔理沙の顔から口を離す。互いの唇を銀色の橋が伝い、名残惜しそうに切れた。
荒い呼吸を繰り返しながらぐったりとベッドの上に倒れ込めば今度は全身をくまなく愛撫される。
首筋、胸、臍とあらゆる場所に口吻を落とすと丹念に舌先で舐られて行き、その感覚にぞくりとした快感を覚えた。
そうして徐々に降下していった舌が、とうとう一番敏感な部分に触れると身体がぴくりと震える。
「や……そこ、汚……んっ♡」
慌てて制止するも全く意に介さず、ざらついた舌が私の陰核を転がし、そして口に含んで吸い上げた。
強すぎる刺激から逃げ出す為に難とか足を閉じようとするが抵抗虚しく太腿を抱え込まれ、そのまま固定されてしまう。
羞恥で顔が真っ赤になるのを自覚するが、そんなことお構い無しとばかりに執拗に責められるともう何も考えられなくなる。
興奮からぷっくらと膨らんだ陰核は舌で弄ばれる度にぴくぴくと痙攣して悦びに打ち震え、その様子はまるで更なる愛撫を待ちわびているようだった。
「やだ……イっ……♡ はっ、あぁっ!♡」
「……良いんだよ。イっても」
未知の快感に髪を振り乱しながら悶える私に対して優しく囁き、それでも魔理沙は激しく責め続ける。
「あっあっ♡イく♡ イっ、あっ♡ ああぁっ!♡♡♡」
「イけ」
無慈悲な宣告と共にかりっと甘噛みされて、その瞬間に頭の中で火花が散ったような衝撃が襲い身体が仰け反る。びくっ、びくっと断続的に痙攣し、頭が真っ白に染まる程のオーガズムを迎えた私はだらしなく口を開けて涎を垂らしながらはしたなく喘いだ。その間も容赦なくクリ責めされ続けて絶頂の波から戻って来られない。あまりの快感に視界がちかちかと明滅を繰り返し、秘裂からは止め処無く愛液が溢れ続ける。
「はあ、はぁ……♡ ふぅ……♡」
「よしよし……」
長い余韻に浸りながら荒い呼吸を繰り返す。絶頂の余韻が抜けきらず、惚けた表情のまま放心しているとそっと頭を撫でられた。
耳許で甘い言葉を囁かれ、それに反応して子宮がきゅんと疼く。
「よくイけたね……」
「あっ♡」
お腹を優しく撫でられるとその刺激だけでぴくりと身体が震え、膣内が激しく蠕動した。
蜜口がぱくぱくと開閉を繰り返し、その奥深くにある女の器官は子種を欲して疼き、とろとろと愛液を溢れさせている。
期待感に潤んだ瞳で見上げれば細められた真っ赤な瞳と視線が絡み合った。
発情しきった身体はどうしようもなく火照り、刺激を求めて止まらない。
恥も見聞も切り捨てて、私は魔理沙に向き直ると自ら股を開いて懇願する。
「お願い、入れてぇ……♡」
「…………」
ぶるんという擬音がぴったりな動きを見せながら眼前に現れた屹立に私はごくりと生唾を飲み込んだ。
お腹の辺りまで反り返り、血管が浮き出てびくびくと震える剛直は雄々しくてとても逞しい。
その太い幹を己の膣内に受け止めるのを想像するだけで身体が完全に屈伏し、雌としての本能が早く早くとせがむように膣肉の収縮を続けている。
「……♡」
ぴとりと先端が宛がわれると、それだけで軽く達してしまった。
ぐずぐずに蕩けた入り口は一度亀頭に吸い付くようにちゅっと口付けると咥え込んで離さない。
「……入れるぞ」
「ま、待って……!」
慌てた静止に腰を落しかけていた魔理沙が止まり、怪訝な表情を浮かべながらこちらを見詰める。
情け無いことこの上ないが、最後の最後で怖気づいてしまった私は魔理沙の胸板に手を当てながら蚊の鳴くような声で呟いた。
「わ、私。その……はじめて……だから」
羞恥心から顔を背ける。頰が熱い。
ばくばくと心臓が早鐘を打ち、今にも破裂しそうな感覚を必死に抑え込みつつ私は凝り固まった喉奥からどうにか二の句を絞り出す。
「やさしく……して?」
「…………」
沈黙が痛い。息が詰まるような感覚を味わいながら恐る恐る上目遣いに様子を伺えば、くすりという笑みと共に額へ唇が落とされた。
「勿論」
甘く蕩ける声色で囁かれれば一気に全身が弛緩する。緊張で強張っていた身体が解けていき、同時に圧倒的な多幸感に全身が包まれて雑念を塗り潰す。
「いくぞ」
「うん……」
ずぷぷっと、淫らな水音と共にゆっくりと肉棒が押し入ってきた。
一瞬の痛みこそあったが、その痛みも幸福感の中に溶けていって後には甘く痺れるような快感だけが残された。
十分すぎる程に潤ったそこは侵入してきた異物を拒むこと無く受け入れて奥へ奥へと導いていく。
「はっ……あぁ……あっ!♡」
膣内を押し広げる感覚に背筋がぞくぞくとした。圧倒的な質量を誇る肉棒の侵入に視界をチカチカさせながらも私は待ちわびた快楽に打ち震える。
逞しい亀頭が膣壁をごりごりと抉るようにしながら進んでいくとその度にぞくぞくとした快感が身体中を駆け巡った。
今まで自分の手で慰めてきたそれとは比べ物にならない程の充足感。
全ての自慰行為が子供騙しに感じるほどの暴力的な快楽が細胞一つ一つに刻み込まれていく。
誰にも見せたことの無い姿を晒すのが恥ずかしいとか、失望されたくないだとかそんな思いは今や微塵もありはしない。今はただ愛する人と一つになる喜びに浸りたくて仕方がなかった。
「すき……♡ しゅきぃ……♡ まりさぁ♡」
気付けば私はうわ言のようにそう繰り返して目の前の愛しい人に縋り付いていた。
もう何も考えられないくらいに頭が蕩けている。そんな状態だというのに身体の感度は上乗せされたように敏感になっていて、ちょっとした刺激でも軽く達してしまいそうになる程だ。
待ちわびた肉棒を受け入れた私の身体はただひたすら歓喜に打ち震えていた。
根本まですっぽりと沈み込ませて下生え同士がくっつく程に密着させた後、馴染むのを待つように魔理沙は動かない。
でも今の私にはそれすらもどかしくて、自然と腰が揺れてしまう。
「アリス……」
「えへへ……もっと……♡」
おねだりするように腰を擦り付ければ私の望み通りに動いてくれるみたいで、ゆるゆるとした抽送が始まる。
それは決して激しい動きではなかったけれど、一突き毎に私の弱点を探り当てるような丁寧な動きで私を追い詰めていった。
ゆっくりとしたピストン運動を繰り返しながら私の反応を見て、少しでも反応が良かった箇所は重点的に責められる。そうするとどうしようもなく気持ちが良くて、もっともっととせがむように膣内が収縮して肉棒を締め付けた。
それはまるで私自身の身体が完全に魔理沙のモノになってしまったみたいで、そのことに倒錯的な悦びを感じてしまっている自分に気付く。
今、魔理沙に抱かれているのは他の誰でもない。この私──
「──ん、あっ♡ ふっ、ああぁぁっ?!♡」
ぎゅっと強めに肉芽を摘まれ、突然の刺激に一際大きな嬌声が上がる。
そのまま指先で潰さんばかりにぐりぐりと捏ね回され、強烈な快感が押し寄せてきた。
同時にこつんこつんという子宮口を叩くような動きが加われば、私は容易く絶頂へと導かれる。
「────♡♡♡」
声にすらならない叫びを上げながら私は弓なりに大きく背中を仰け反らせた。
ぷしと勢い良く噴き出した潮が二人の下腹部を濡らしていく。
激しい絶頂の余韻に浸りながら私はくったり寝台に身を預けた。
「はっ♡ はっ♡ はあ──ひゃん?!♡」
そうやって粗くなった呼吸を整えていると、唐突に乳首に与えられた刺激に素っ頓狂な声を上げてしまう。
見れば私の胸の先端を強く摘んだ魔理沙が此方をじっと見下ろしている。
「……お前、さ」
「ふぇっ?」
流れるように片手で私の両頬を鷲掴んだと思うとぐいっと上向きに固定され、否応なしに目線が絡み合った。
鼻先が触れ合う程の距離で見つめられ、その近さに思わず心臓が跳ねる。
魔理沙の瞳の中にはだらしなく舌を垂らして蕩けた表情を浮かべる浅ましい“雌”の姿があって、それが自身の姿だと気付くのに一拍の時間を要した。
「乱暴にされる方が、好きだろ」
「ち、違」
問い掛けと呼ぶには殆ど確信を孕んだその言葉を咄嗟に否定しようとして、言葉に詰まる。
図星だった。激しい攻めによって荒々しく扱われた瞬間、私の心中を満たしたのは軽微な恐怖と、それを遥かに上回る絶対的快楽だった。
今まで自分でも気が付かなかった。考えたことすらなかった性癖の露呈に私は愕然とする。
だってそんなの、まるで──変態だ。
「ちがうよ……?」
意図せず口から漏れたのはまるで幼子のように拙い言葉だった。
そのまま顔を逸らそうとしても、頬を圧迫され、がっちりと固定されたこの状況ではそんなことすら叶わない。
醜態を晒す私を尻目に魔理沙はゆっくりと腰を引いて肉棒を引き抜いていく。
「あっ♡ あぁ……♡」
絡み付く襞を巻き込みながら引き抜かれる感覚に身震いし、一番太い部分で入り口近くの弱点が引っ掛かったところで動きが停止した。
「で、本当は?」
「……だ、だから違ぁっ♡」
渾身の否定の言葉は発情した雌の喘ぎにあっさり上書きされた。
焦らすように浅く出し入れしては入り口を擦られる。
その度に甘い痺れが走り、お腹の奥の切なさが増していくのを感じた。
それでもやはり絶頂に達するには程遠くてもどかしい感覚だけが募っていく。
「それ、やばっ♡」
「…………」
「ひっ♡ はぁ、ふっ♡ んっ♡ はっ、はっ、はっ、はぁーっ♡」
ぬちゅぬちゅという粘着質な音を立てながら浅いストロークが繰り返される。
早く決定的な快楽が欲しいのに、肝心の絶頂に至るには至らない絶妙な焦らし具合でギリギリまで高められた性感に頭の芯が焼き切れそうな程の熱が込み上げてくる。
欲しくて欲しくてたまらないのに与えてもらえないもどかしさに涙さえ浮かんできた。
「はっ♡ はっ♡ はっ♡ はっ♡」
「……早く言えって」
前後不覚の状態まで追い込んで尚、強情な私に魔理沙は溜息混じりに催促する。
頬に添えられた掌。口許に近いそのほっそりとした彼の指へ舌を差し出し、ちろちろと甘えるように舐め回しながら、膣内で燻る甘い疼きに私は腰をくねらせた。
「ちがう。ちがうもん」
「………………」
「えへ♡」
「──あぁ、そう」
すっと魔理沙の眼が細められた。
次の瞬間、ばちゅん! と盛大な打突音を立てて思い切り腰を打ち付けられる。
不意討ち気味に蕩けきった雌穴へ剛直が叩き込まれ、その強烈な一撃に視界が真っ白に染まっていった。
「────っっっ♡」
先程までの焦らすような生易しい動きとは違う本気の抽挿。子宮を殴るような衝撃に呼吸が止まった。
「かひゅっ」
空気が押し出され、声にならない悲鳴を上げる私に囁き声が届く。
「ちょっと強めにやるから。嫌だったら嫌って言えよ」
一瞬何を言っているのか理解出来ずに呆けたのも束の間、強烈なピストンが始まった。
どちゅんっ! ばちゅんっ!! と荒々しく肉壁を掻き分けながら抽挿される肉棒に意識を根こそぎ刈り取られそうになる程の快感が襲ってくる。
強靭なカリ首が襞を巻き込んで前後に擦り上げられればそれだけで視界が点滅した。一突き毎に意識が飛びかけては引き戻されを繰り返し、休む暇の無い責め苦に理性が端から蕩け落ちていく。
「あっはぁ♡ ひっあんっ♡ あっいい!!♡ うっ……お゛っ♡♡♡」
ぱん♡ ぱん♡ ぱん♡ ぱん♡ と力強いストロークに身体ががくんがくんと揺さぶられる。
腰がぶつかる度に結合部から潮が飛び散り、ばしゃばしゃとシーツを濡らす。
これまでとは桁違いの暴力的なまでの快楽に私はあられもなく悶えた。
突かれる度に溶けてしまいそうな程の悦楽が脳髄を駆け巡り、思考が音を立てて崩壊する。
子宮口はとっくに屈服しきっていて亀頭の鈴口にくっついたままちゅうちゅう吸い付いていて離れようとしない。
「お゛っ♡ひっ♡お゛っ♡お゛っ♡お゛っ♡あ゛おっ♡ い゛っ──くっ♡♡」
獣のような嬌声を上げながら私はだらしなく舌を突き出して快楽を享受していた。
絶頂に昇ったまま降りてこられない。
もう無理だと何度思っても、貪欲な身体は更なる快感を求めて次の一撃を待ちわびている。
「お゛っ♡お゛ーっ♡♡お゛っ……♡♡」
両手を絡め取られ、逃れられないように体重を乗せてのしかかられれば身動きすらままならない。
ひたすら子宮口を穿たれ続けて下半身がバカになってしまったような感覚に低い唸り声が漏れた。
気付けばもっともっとと強請るように自分から腰を動かしている余りにも浅ましい姿に愕然とする。
「駄、目ぇ」
「…………」
「もう、だめだよぉ……♡」
陶酔とした声で拒絶の言葉を口にすれば、あれだけ激しさを増していた抽挿がぴたりと止まる。
何が起きたのか理解出来ないままゆっくりと我に返ると、無機質に染まった美貌が視界一杯に広がっていた。
「はぇ……?♡」
「やっぱり、止めようか?」
腰が引かれ、肉棒が抜かれていく。完全に抜けきる直前でその動きは再び停止した。
突き入れることもせず、ただじっと入り口付近で静止している。まるで私から求めることを待っているかのようだ。
そんな姿に私の中でぷつりと何かが切れていく。
涙と涎でぐしょぐしょになった顔のまま、私は魔理沙に全てを曝け出した。
「や」
「それは、いや」
「………………」
「もっとちょうらい……?♡」
両手を魔理沙の首に回し、足も絡めて全身で絡み付くように抱き着いた。
胸板に乳房が押し潰され、お互いの鼓動を共有するように密着する。
蒸れた汗の匂いと発情した体液の匂い。肌を通して伝わる体温は堪らなく愛おしくて、胸の高鳴りが収まらない。
耳元で聞こえる息遣いをもっと感じたくて顔を擦り寄せると自然と唇が重なった。
「んっ……」
ちゅっ、ちゅと初めは啄むようなキスだったそれは次第に舌を絡ませる深いものに変わっていく。
ぬめぬめとした軟体生物のような舌が擦れ合い、絡み合う度にびくびくと身体が跳ね上がった。
歯列をなぞり、上顎を舐め上げられて。時には円を掻くように動かされ、舌先が触れ合えば背中に甘い快感が走る。
そうして何度も角度を変えながらお互いの咥内を蹂躙し合う間も、私の腰はいやらしく揺らめいていた。
たまらない幸福感と興奮が高まっていき、ぎゅっと子宮が収縮するのを感じる。
それは魔理沙も同じなようで、耳元で聞こえる乱れた息遣いも艶混じりに変わっていくのが分かった。
「…………っ」
魔理沙が僅かに眉を寄せた。
ぱちゅぱちゅという小気味の良い水音を響かせながら、今まで以上に膣内を揺さぶる激しいピストンが始まって私は歓喜の声を上げて身を捩る。
最早お互い絶頂へ向けてのラストスパートだった。貪欲に快楽を貪る私を咎めることなく、むしろ応えるように動きを強める彼に愛おしさが込み上げてくる。
何より魔理沙も私の身体で感じてくれるのが分かって、それが堪らなく嬉しかった。
だから────
「霊夢っ…………」
ぽつりと、本当に無意識の内にまろび出るようにして放たれたその単語は幸福に満たされた私の耳に届くことは無かった。
その、フリをした。
「──あ、ハッ♡」
額に汗を滲ませながら私を掻き抱く彼の姿が愛しくて堪らない。
好きだ。好きだよ。大好きだよ、魔理沙── どくんどくんと脈動する肉棒を感じながら私は蕩け切った瞳で彼をじっとじっと見詰め続ける。
魔理沙は先ほどの自分の発言などまるで気付いていない様子で、ただ無心で私の身体を貪り続けていた。
本当ならそこで嫉妬の一つも湧き出る物なのだろうが、今だけは清々しい心地さえ感じて来る。
彼に求められているという事実。その一点が何物にも代え難い悦楽となって、まるで麻薬のように私の頭の中を染め上げていた。
──今、この瞬間。魔理沙の寵愛を受けているのは私だけ。
そこに何人も入る余地は無いのだから。他の無象に嫉妬など湧き上がる筈もなかった。
「ハッ、ハッ──はあぁっあっ♡ あっひっ♡ いっ♡ ひいっ♡ はぁっ♡」
一気に駆け上がるように激しくなる抽挿。パンパンという乾いた音に合わせて意味を成さない言葉の羅列が口から漏れる。
私の膣内で何度も擦り上げられた肉棒がぶくりと一回り大きくなるのを感じて、子宮が疼いた。
「くっ──あ?」
苦悶の表情を浮かべた魔理沙が大きく腰を引き抜こうとしたので、先んじて両脚で腰を挟み込む。
驚きに目を見開いた彼と視線を交わしたまま、私は満面の笑顔を彼へ向けた。
「
「…………それは」
首を横に振ろうとする魔理沙。
だが、もはや我慢などさせるつもりはなかった。腰を引いて少しでも距離を取ろうとする彼の身体を全力で引き寄せて密着させる。
「頂戴。全部、全部。魔理沙の全て」
一瞬の逡巡の後、強く腰を打ち付けられる。
一際大きな音が寝室に響いた瞬間、灼熱の槍が最奥へ叩きつけられた。
火傷しそうな程の迸りを感じ取って私の身体がぶるぶると震える。
「……出すぞ」
「はい♡」
宣言の後、ひくつく子宮口にぴったりと鈴口を押し当てての吐精。
どぷっ、どぷと脈打つ感覚に合わせて粘っこい精液が注がれていくのを感じた。
待ち望んでいた悦楽に深く息を吐き出す私の身体へと覆い被さった魔理沙はじっと目を閉じている。まるで何かに耐えるような彼の表情を目にした途端、再度膣内がきゅっと収縮するのが分かった。ごめんね、ごめんね、大好き。その顔が見たかった。
びゅるっ、ぶぴゅるるるううっと、 二度三度と吐き出される白濁液を子宮に受け止めながら私は瞳を閉じる。
甘く優しい絶頂の余韻に浸っていると、ゆっくりと彼が身を起こした。
顔から感情が抜け落ちたような無表情を浮かべてじっと私を見下ろしている。
全てを吐き出した後、力を失った肉竿がぬちゃりと卑猥な音を立てながら引き抜かれていく。栓を失った膣口からはごぽりと白濁液が溢れ出していた。
「魔理沙……」
至福の余韻に酔い痴れたまま、私はそっとお腹を撫でる。
注がれた精の熱を感じながら、私はうっとりと呟いた。
「愛してる……」
そっと腕を伸ばして抱き着く。
何も言わず、静かに抱き締め返してくる彼の腕の中はとても心地良いもので。その温もりに身を委ねながら、これからの未来に思いを馳せた。
「一緒に色んな所へお出掛けして……あぁ、子供も欲しいし……家族で沢山思い出を作って……」
「いい」
滔々と語る私を遮るように魔理沙がそっと身体を離した。
戸惑いながら見遣れば、感情の抜け落ちた顔が私をじっと見下ろしている。
「アリスさえ居れば、それ以外は。もうどうでもいい……」
「…………」
「どうでもいいんだ」
「──……」
私は改めて、眼前のたった一人の愛する人を見詰め直した。
爛々と光る紅い瞳には私以外の何も映っていない。
全て──全て、私だけのものだ。
決して揺らぐ事のないその現実を認識して、堪え難い幸福に心が満たされていくのを感じる。
決して手に入らないと思っていたものが、今こうして私だけのものとなってくれた。
それ以上の喜びは、望むべくもない。
うっとりと頬を緩ませたまま彼の首に手を回してぎゅっと抱き着いた。
応えるように背に回される腕の感触を味わいながら、私は心の底から湧き上がる喜びに永遠と浸り続ける。
「これからはずっと一緒よ……魔理沙」
次回はフラン編です
紅魔郷から順にやっていこうかな