「お清めだよオキヨメ!」
あの後、前後不覚に陥った祥子を放ってまたしばらく待たされ、そして再び現れた翡翠は、白い着物に緋袴の、巫女装束を纏っていた。
髪も乾かしてサラサラに梳かれ、いつもの赤フレームにオレンジレンズのサングラスをかけている。
「可愛いでしょー」
「男なのになんでそんなに似合うの……⁉︎ 」
祥子をして戦慄させるほど、それは良く似合っていた。
正座で着席した翡翠は、テーブルに置かれた、届け物の封筒を引き寄せて自分の手元に置いた。
「ありがとね。今日はウチの用事で行けなかったからさ」
「用事って?」
祥子がいつもの調子で訊いた。
「おいクソ度胸かよ」
「えっ⁉︎ 私なんか変なこと言った?」
悠久郎の突っ込みに祥子が狼狽えるが、翡翠がヒラヒラとぞんざいに白い手を振った。
「いいって悠久郎。──ボク神主みたいな仕事もやってる身でさ。たまに学校休むのはそのお仕事してるの」
「へえぇ」
「って言うか、悠久郎も亞里亞も、たまに授業抜けてない?」
「あれ? そう言えば」
「おい翡翠。余計なこと言うな」
祥子が小首を傾げたところで、悠久郎が言った。
「いや、もう呼んじゃったし、真・委員長だけだと風通し悪いし委員長にも言っといた方がいいって」
「え? なに? 真・委員長だけ知ってる事って」
祥子がきょとんとするが、すぐに眉が釣り上がる。
「……副委員長です!」
「うん。ゴーストハンターってお仕事知ってる?」
「国家資格のインチキ宗教とか、迷惑系動画投稿者とか」
それを聞いた翡翠が、黙って悠久郎を見た。
「俺は何も言ってねえぞ」
「まあ世間の認識ってそんなもんだよね」
察したのか、翡翠はあっさりと祥子に向き直った。
「要は、ボク達は時間を選んでくれないお仕事に就いてるから、学校に許可取った上で──と言うかウチの学校が、そういう前提で生徒採ってるから、ボチボチ授業抜けてるのがいるのは、そういう理由」
「……インチキ宗教が?」
「インチキ宗教は忘れてよー。ボクらも困ってるんだからさー」
テーブルの上にずべーっと上半身を投げ出して翡翠が訴える。
「どっちかって言うと、アイドルとか芸能人の学生みたいな生活って思って欲しいな!」
指先でサインを組んで、翡翠がバチバチに地下アイドルっぽいポーズを決める。
一方、悠久郎は我関せずと茶菓子を齧っていた。
「……いやまあ、学校認可って言うなら、私が文句を言う筋合いじゃないけど……」
「まあ細かいことはいずれ説明するよ。 それよりせっかく委員長来たんだからゲームしよ! マリカしよ!」
「いや、私ゲームとかあんまりやらな」
「いいから! こんなのただの玩具だって! 適当にボタン押してればなんとかなるよ! 楽しいよ!」
隣の部屋からカラフルな携帯ゲーム機を幾つか抱えてくると、悠久郎と、祥子にも押し付けた。
夕暮れも過ぎて、空には遠くに僅かな緋が残る程度。
既に地上は街灯が無ければ困るほどの暗さだ。
駅からも離れ、住宅街にも程遠い、そんな場所を、女子高生が独りで歩いていた。
校則に準じた服装と身嗜みで、生真面目そうな、いかにもクラスでは委員長と目されていそうな少女である。
そこに、エンジンの音と共に、後方から強いライトの灯りが差し足元を舐めた。
ワゴン車が走ってきたようだ。
女子高生は、僅かに車道から離れて歩いた。
にも関わらず、後頭部に強い衝撃を受けて転倒した。
何が起きたのか分からない。視界の端に、ワゴン車の車体が通過する瞬間の出来事だった。
何にしても、後頭部と、地面へ激突の衝撃で、身体がガクガクと震えて言う事を聞かない。
やがて急停止したワゴン車から、わらわらと人が降りてきて、女子高生の身体を乱暴に掴み上げると、持ち運び、ワゴン車の中に押し込まれてしまう。
(これは──)
最悪の事態。まさか自分が巻き込まれるなんて──!
「ぎゃあああああ!」
「──また露吹さんちのお坊ちゃんかい」
「いつもいつも何やってるんだろうねえ」
「くわばらくわばら」
日暮れの山村の集落では、村民たちが日常的に会話していた。
すぐそこの厩舎から突如、雌馬が狂ったように悲鳴を上げて暴れ出し、柵を破壊して駆け出していった。
それでも、陰茎と肛門に激痛と衝撃が残り、男は泣きながら股を両手で押さえて悶絶していた。
──対象と性別が異なる場合、相同器官にフィードバックが来る──
「ッ……翡翠ッ……ゆるっ、ゆるさなっ……!」
翌朝の教室で。
「ありがとね亞里亞。委員長寄越してくれて」
「いいんだよー。よしよし」
朝から亞里亞の胸に抱かれた翡翠がイチャイチャしていた。
「悠久郎も、委員長の護衛ありがとね」
「大したことしてねえよ」
教室に、いつも通り伊井野祥子が入ってくるのを見て、悠久郎がぶっきらぼうに応えた。