※この作品はR-18です。

悪魔の許嫁 〜東京怪奇譚 外伝〜   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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第4話
──1・ボクの華麗なる日常[前編]


 

 ──起床 05:00

 

 露吹翡翠の朝は早い。

 翡翠には、露吹家の霊的基礎の巫女として、毎日「儀」を執り行う義務がある。

 ただし、"巫女"として仕えるのは神ではない。

 悪(・)魔(・)だ。

 

 露吹家には、ニ世代毎にアルビノの女子が産まれてくる。

 それは数百年前に露吹の祖先が悪魔と交わした魂の契約による呪いのしるし。

 曰く「千年の熟成ののち、その魂を我が妻とする」「その間、一族の繁栄を約束しよう」。

 そして現代。

 アルビノの祖母の没後数十年、魂を受け継いで産まれてきた真白き赤子は。

 男の子だった。

 当代露吹家の三男・露吹翡翠の誕生である。

 

 男であろうと、しるしを受けて産まれた以上、巫女は巫女。

 どういう訳か、縁者に寄れば、祖母の若かりし頃の姿に非常に良く似た面立ちだと言う。

 そう。どう見ても少女にしか見えない。

 ──なお、先代の露吹の巫女であるところの祖母・珊瑚(さんご)は、翡翠の父を産んでから二十歳(はたち)少々で亡くなってしまったと聞く。

 その、どう見ても美少女にしか見えない外見を、翡翠本人は自覚しており、巫女衣装もあっさり受け容れ、「似合うから」という理由で女子制服およびガールズファッションを着こなして、自らの容姿を楽しんでいる。

 ──もちろん、アルビノとしての日常生活上の支障はあるが。

 

 

 ──霊廟清掃 05:30〜06:00

 

 起床した翡翠はまず、寝巻き(コテコテのガールズパジャマ)から地味な作務衣に着替え、長い髪を纏め、露吹家の霊的維持の要である「霊廟(れいびょう)」の清掃を行う。

 誰の霊廟かと問われれば、当の翡翠本人のものである。

 「廟(びょう)」とは先祖を祀るものであるが、露吹家に遺る文献に寄れば、露吹の巫女は、いずれ先祖の契約の代償に魂を奪われる身である。すなわち死ぬ運命(さだめ)。

 その契約満了の時期が、近づいているのだ。

 契約のしるしとされる「二世代毎のアルビノの女(・)子(・)」が、男(・)児(・)であった事が、その満了の兆しを示す予兆であると露吹当主は考えた。

 故に、代々使用人の仕事であった「霊廟」の清掃のうち、中心の四畳半の床(とこ)の部分を翡翠が担当する事になった。

 自(・)分(・)で(・)自(・)分(・)の(・)臨(・)終(・)の(・)床(・)を(・)清(・)掃(・)し(・)て(・)い(・)る(・)のである。

 ──だが、周りの使用人に混じって作業する翡翠の顔に、悲壮さはない。

 

 

 ──勤行 06:00〜06:30

 

 霊廟の清掃が終わると、翡翠はそのまま、使用人たちと入れ替わりで入ってきた祀職(ししょく)の者たちと共に勤行(ごんぎょう)に入る。

 しきたり通り、古来より伝わる契約内容を(古語で)読み上げ、悪魔を讃え、家の繁栄を願う詩を誦んじ、歴代の巫女の名を順に唱えて、末尾に自分の名を呟き。

 そして翡翠が三(・)つ(・)指(・)を(・)つ(・)い(・)て(・)、深(・)々(・)と(・)頭(・)を(・)下(・)げ(・)た(・)。

 

 

 ──沐浴・身支度 06:30〜07:20

 

 水場に移動し、白の薄衣に着替え、冷水を全身に浴びて身を清める。

 冬でも関係なく同じ水なのには流石に辟易としているが、これも言ってしまえば「型ばかり」の行事なので、すぐに最新式の浴場で熱いシャワーを浴びる。

 この歳になってどうかと思うが、従者が三人がかりで翡翠の身体を隅々まで洗っている。

 なお、幼い頃からの習慣なので、メンバーは男女様々だが、翡翠も従者たちも気にせず慣れたものである。

 勤行までは厳かな空気作りにしているが、この辺りからは日常習慣としての入浴・洗浄であるため、従者と言えども翡翠もお互いに気心の知れた間柄なので、軽口も交わす気楽なものだ。

 

 

 ──出発 08:00

 

 全身に、独自配合のUVクリームを満遍なく塗りたくり、白のタイツを穿いて白のセーラー服を身に纏い、白い刺繍飾りの手袋を嵌める。

 そしてレッドフレームにオレンジレンズのサングラスをかけて、ガレージに向かう。

 アルビノゆえの苦労のひとつ。

 髪をストレートに伸ばしているのは、ファッションと、顔の日除けのため。

 後ろには翡翠の学生鞄を抱えた従者が続く。

 やがて辿り着いた屋内ガレージには、アイドル状態のロールスロイス・ファントムと、その前で待つ杠葉(ゆずりは)の姿。

 翡翠は慣れた様子で後部座席に乗り込んだ。

 従者は学生鞄を杠葉に渡して、後部のドアを丁寧に閉める。

 やがて杠葉の運転で、翡翠を乗せたロールスロイス・ファントムが露吹家を出発して敷地から滑り出していった。

 

 

 ──登校 08:30

 

 道路状況に寄って時間は若干前後するが、だいたい同じくらいのタイミングで校門の前にロールスロイス・ファントムが静かに停車する。

 何の変哲も無い学校の門前に、パルテノン神殿みたいなフロントグリルの高級車が乗り付けてくるのは、それなりに異様だ。

 だから、今だにこの光景を見慣れない一年生がしばしばぎょっとして通過していく事がある。

 運転席から、白い日傘と学生鞄を抱えて出てきた杠葉が、車を半周して後部ドアを引き開ける。

 杠葉が差し出した日傘の下、慣れた様子で翡翠が車外に降り立った。

 翡翠が、手渡された日傘と鞄を受け取って歩き出す。

 

「いってらっしゃいませ」

 

 杠葉の深々としたお辞儀に、日傘を持った指先をちょいと振って応えて昇降口に歩いてゆく。

 

「おう。流石は都立練産(とりつねりさん)のお嬢様とお呼び。一年生がドン引いてんぞ」

 

 そこに、悠久郎が追いついてきた。

 

「ya! それが面白いんじゃん!」

 

 悠久郎を振り返った翡翠が悪戯っぽく舌を出した。

 

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