やがて教室に担任教師がやって来て、朝礼ののち、一時限目が始まる。
六時限目終了が十五時三十分。
担任教師から諸々の連絡事項を伝達して、そののち放課後となる。
翡翠は部活動には参加していない。
既に人生の道行きが決まった、ゴーストハンターの身の上だ。
悠久郎や亞里亞と戯れたあと、適当なところでスマートフォンで合図を送り、杠葉の迎えの車を待って、帰宅する。
──霊廟清掃 19:00
そうだ。道行きが決まってるのだから、日常で行うべき業務もずっと同じく繰り返す。
帰宅後、作務衣に着替えて霊廟の四畳半の
祀職に囲まれて朝と同じ文言を唱える。
「悪魔さま」のための身を清め。
夕食は基本的にひとりで摂る。
すぐ傍に、メイド服姿の給仕が数人いるが、「いっしょに食べる」のとは違う。
たまに杠葉が同席したり、タブレットのビデオ通話で悠久郎や亞里亞らと談笑しながら食べる事もある。
そうして、少しの自由時間ののち、また早い翌朝のために、二十二時頃には就寝する。
ずっとそれの繰り返し。
たまにゴーストハンターとしての仕事も入るが、朝晩の清掃と勤行は欠かしてはならないとされている。
ゴーストハンター仲間に聞いたら、「住職」とほぼ同じ暮らしだと言われ笑った。
──いつ悪魔との契約が満了して魂を召し上げられるか分からないからだ。
──冗談じゃない!
翡翠は抗う決意をした。
捨て鉢になっていた時期もあったが、今は違う。
契約を踏み倒してでも、自分の死の運命から逃れてみせる!
そもためにゴーストハンターのライセンスを取ったのだ。
各分野に精通した仲間に助力を乞い、露吹家の文献を虱潰しに調べ上げ、呪いを打ち破るすべを探す。
露吹家が呪詛術の専門家なのも、そのためだ。
先祖が何を考えたのかは知らないが、長い歴史の中で、娘を贄にしたくない、死なせたくない露吹の父や母の尽力の痕跡もあった。
だが果たせなかった。
ただし、悪魔の呪いに対抗するすべを研究する途上で、様々な副産物が得られた。
それが現代の露吹家を、ゴーストハンター業界でその分野の一角と目される「呪詛術の専門家」たらしめた。
露吹翡翠は呪詛術のエキスパートだ。
特に呪いを割り増しで送り主に返す「呪詛返し」を得意中の得意としている。
ある時から翡翠の周辺を襲う「呪い」を容易く「返して」いるのも、その賜物だ。
露吹家のゴーストハンター専門セクションや、ゴーストハンター仲間の協力などで範囲を広げ、妖魔退治の現場に他者が「興味を抱かないようにする」呪いを展開する事も可能だ。
翡翠は既に呪詛術師としては一線級の腕前を持つ。
だが相手は悪魔で、千年近い長大な
勝てるどうかは、やってみなければ分からない。
諦めたつもりは無いが、刹那的享楽的に見える生活態度も、人生を存分に楽しむためだ。
これを諦めるつもりは無い。
「だから、ボクは戦うのをやめないよ!」
『──悲壮さが無い所は本当に美点だし、強いと思うけどな』
『なんか、いろいろと台無しだよー』
ディナーの最中、タブレットに映るビデオ通話中の悠久郎と亞里亞に、翡翠の渾身の決意はなぜか呆れられた。