3)初体験
その日の亜希子は会社の帰りに、ぶらぶらとゆく当てもなく歩いていたはずだったのだが、ふと気づいたらおばさんがいるブルセラショップのすぐそばまで来てしまっていた。
理由は分からないが、どうも無意識のうちに足が向いていたようだった。
店のドアを開けてみると、奥におばさんの姿が見えました。
「いらっしゃい。ほら、そんなとこに突っ立ってないでこっちにおいで」
おばさんの笑顔に背中を押されるように、亜希子はまた奥の部屋に行くとこたつに入った。
「いえね、この前アンタが置いてってくれたヤツ、すぐに欲しいって人が現れてね。私の予想通りさ」
「・・・・・・そうですか・・・・・・」
亜希子はまだ夢を見ているような感覚だった。目の前のおばさんの言葉をどこか遠くで聞いているような、そんな気分だった。
「また気が向いたら置いてってくれない? 今度は適正価格で買い取らせてもらうよ!」
亜希子はまじまじとおばさんの顔を見ていた。
あんなものを買う人がこの世に本当にいるなんて、亜希子は自分が昨夜見た夢と現実がごちゃごちゃになってしまいそうだった。
「おばさん、私ね。夕べ変な夢を見ちゃったの。私のパンティを顔に擦りつけている人の夢・・・・・・。そうしたらすごくへんな気分になって・・・・・・。そして朝起きたら・・・・・・」
「朝起きたら、どうなっていたんだい?」
「アソコが・・・・・・」
「うんうん、アソコがどうなっていたっていうんだい?」
純な性格を持つ亜希子はとてもそれ以上は言ない。
でも、おばさんはちょっと嬉しそうに笑っていました。
「そうかい。で、その時、穿いていたパンティはどうした?」
「えっ? その時のパンティ? ・・・・・・捨てました・・・・・・」
亜希子は、恥ずかしくてうつむきながら答えると、おばさんはいきなり大声を出したので亜希子は驚きを隠せなかった。
「なんてもったいないことを! 今からそれを持っておいでよ」
「それを、ですか? とんでもないです!」
亜希子は真顔で答えた。
ガビガビになっているパンティを人前に出すなど正気の人間のすることじゃない。
「あのねえ、アンタがどう思うかは知らないけど、欲しいって人間が現(げん)にいるんだ。立派な商品なんだよ!」
おばさんの顔はまるで怒っているように見え、亜希子は訳が分からなくなり、思わず涙ぐんでしまった。
「あっ、ああ、ごめんよ、きつい言い方をして・・・・・・。でもね、本当のことなんだよ・・・・・・」
亜希子はなかなか涙が止まらなくなってしまい、泣きじゃくりながら、
「だって、だって、なんかへんな匂いがするし・・・・・・布だってごわごわしてたし・・・・・・」
と、必死に思いを伝えようとした。
「昨日のアンタのを買って帰った社長さんは、おお良い匂いだって喜んでたんだよ。また次が入ったらぜひ連絡して欲しいって・・・・・・」
こんな亜希子を求めてくれている人がいることを知り、亜希子には驚きでもあり、またちょっと嬉しくもあった。
嬉しいと感じること自体普通の人の感覚とは離れているのかもしれない。
家でも会社でも自分の存在価値が見いだせなくなっていた時期だったから、余計亜希子にはそう思えたのだった。
「まあ、人助けって考えればいいんじゃないかい? あまり深く考えこまずにさ・・・・・・」
(人助けかぁ)
亜希子は心の中でつぶやいていた。
お金が欲しいと思ったわけではないが、もちろん生活は裕福でもない。
お金のためと考えるのもちょっと辛かったのだが、おばさんに人助けのためと言われ、亜希子はどこかでほっとしたのかもしれない。
4)パンティ売りの効能
それから亜希子は月に1,2回おばさんにパンティを渡すようになった。
引き換えに受け取ったお金はいっさい使わずに貯金に励んだ。
店に通うようになった亜希子は、いろんな性格の人を認められるようなり、そんな人間に変われたような気がした。
それまでは、ただ真面目一辺倒に生きてきた自分を見つめつつ、他の人も受け入れてあげられるような柔軟性が持てるようになったと思えたのだった。
性格が変わった。そんな亜希子の変化を会社の人も認めてくれたのだろう、以前よりも皆優しく彼女に接してくれるようになった。
相変わらずボーイフレンドもいないが、それが寂しいとも思わなかった。
おばさんに頼まれ、時には過激なこともするようになっていたから・・・・・・。
一週間、同じパンティを穿き続けたり、激しくオナニーに耽りビショ濡れになったパンティを持ってきたりもした。
一番きわどい体験は、依頼した人がフロアで待っている間にこたつの中でオナニーをし、まだ熱がこもっているようなパンティをその場で脱いで、ドアの向こうに差し出したりもした。
その客も、直接彼女を見たい、ということではない。
亜希子もそれ以上の何かを応じるわけでもない。
その微妙な距離感で、亜希子はなんとかやってこれたような気がした。
一年後、亜希子は上司の世話で結婚をすることになり、この町を離れる日が来た。
おばさんは残念がってくれが、とても喜んでくれたりもした。
亜希子も普通に結婚するなど考えたこともなかったので、嬉しいような不思議な気持ちの中で嫁入りをしたのだった。
結婚生活はごくありふれた毎日だった。
亜希子は専業主婦で家を守り、3歳年上の夫は真面目に働いてくれた。
週に一度くらいセックスをし、亜希子はそれで非常に満足だった。
結婚生活において、ただ一つ困ったのは驚くほど夫は潔癖症で、毎日シーツや枕カバーやパジャマを洗濯しなければならなくなったこと。
もちろん、それが夫の望みなのだから彼女はきちんとそれに応じた。
清潔好きな性格は悪いことではないのだから。
いつしか亜希子はパンティを買ってくれた男の人のことも忘れていた。
彼らはきっと夫から対極にいる人なのでしょう。これが亜希子の思いだった。
それなにの亜希子は20年ぶりに、またあの世界に舞い戻ってしまおうとしている。誰がこんな亜希子を想像していただろう。
インターネットで冬物の衣服を買おうと思い、いろいろ調べている時に、どこでどう間違えたのかアダルトサイトに入ってしまったのだ。
そのサイトには男女の出会い&交流コーナーなどたくさんのカテゴリーがあって、いろいろな人のメッセージが掲載されていた。
そのメッセージ文章を興味本位で見ているうちに、
「40代の人妻の方、穿き古したパンティを僕に送って下さい」
と、いうものに目をとめてしまったのだ。
結婚生活に不満がないはずの亜希子が・・・。
亜希子はそれまで封印していた記憶を、なぜかこのメッセージを見た瞬間、はっきりと甦らせ、急に鼓動が激しくなったのか原因をつかめていなかった。
今では、もちろん毎日パンティは穿き替えている。匂うようなこともない。
でも・・・、洗わずに数日置いておけば・・・・・・・。
いえいえ、私は何をばかなことを考えているのだろう。
見知らぬ男が書き込んだものを見て、そこまで想像するなんて・・・。
夫に悪いという気持ちで彼女はいっぱいになった。
なのに・・・・・・
亜希子はふらふらと寝室に行くとベッドに横たわり、それこそ数年ぶりにオナニーをしてしまったのだ。
下着をアソコに押しつけぐりぐりとすると、あっという間にぬるぬるした愛液が溢れてきた。
アソコが透けて見えるほど生地はぐっしょり濡れている。
このパンティの匂いを嗅いでいる男の表情をするだけで、亜希子の性感はますます高まり、女芯が熱く燃えるのを感じていた。
指先を生地に押しつけ、さらに押し込む。
狭い蜜穴の中に、ビショビショのパンティをのめり込ませていく彼女。
そして、オナニーで濡れたパンティを脱ぎ、密閉出来るビニール袋に入れてタンスの奥に隠し、しまいこむのだった。
「ああ、今日もおひさまの香りがするね、うちのシーツは」
布団に入った夫がそうつぶやいた。
今日は天気も良かったので、いっそうにパリッとシーツは乾きました。
こういう日の夫は機嫌がとてもいいのです。
2日後、ビニール袋の匂いをこっそり嗅いでみると、なんとも言えない不思議な発酵したような匂いがしてきた。
きっと、この芳しい匂いが好きと言ってくれる人がいると思うと、ときめくように亜希子は胸がどきどきしてしまうのだった。
これは何も知らない夫への裏切り行為にほかならない。
お金など要りません。
ただ彼女は自分をアピール出来る瞬間に、心地よさを感じてしまうことに気づいたのだ。
封筒にビニール袋でくるまれたパンティを入れると、メッセージ欄に書いてあった相手の住所を書き、裏は無記名のまま封をした。
そして、少し多めの切手を貼り、ポストに投函した瞬間、亜希子は激しくオナニーをした時のような高揚感に包まれていた。
忘れていたはずの気持ちの高ぶりを、もう亜希子は捨てられそうもない。
でも・・・、あのおばさんの店もないし、亜希子のような女の下着を欲しがってくれる人がいるかどうかもわからない。
今日、送った人の反応も気になるが、直接連絡を取るのも怖い気がする。
でも、もう昔とは違って携帯電話というものがある。
亜希子は、自分のメッセージをあのアダルトサイトの交流コーナーに送ってみることにしようと思っている。
「40代の主婦です。欲しい方に使用済みパンティを差し上げます。メールを下さい・・・・・・」
どうなるのだろう? 考えただけで彼女の胸は高鳴るのです。
了