「その必要は――ないわ」
コンドームの箱を開けようとしていた僕に、僕の恋人はなぜか格好付けてそう言い放った。
夜いつもの如く、窓から颯爽と登場した僕のイカれた、もといイカした彼女こと暁美ほむらは恋人同士の営みを求めてきた。
僕としても性欲はあるし、何より恋人に対して性交渉で不満を感じてほしくないので、その点については何も問題はない。
だが、避妊をしない性交渉は駄目だ。
「いや、必要ありまくるよ。子供ができたらどうする気なの?」
「それは……」
少しだけ思案した後、真顔で言い放つ。
「名前を付けるわ」
「おい」
「冗談よ」
この女の場合、冗談には聞こえない。
とはいえ、彼女は決して考えなしな訳でも、思い付きで行動する人間でもない。
一つの事柄に没頭するとそれ以外に見えなくなるところはあるが、頭の作り自体は僕より幾らか上等だ。
「何でまたそんなことを?」
僕が質問すると待ってましたとばかりにほむらは喋り出す。
こうやってこちらから促さない限り本題に入れない部分は相変わらずだ。コミニュケーション能力こそ中学時代なら上達したが、プレゼン能力は皆無に等しい。
なまじ頭の回転がいいせいで自分の中で事象が完結しているため、自発的にアウトプットしようとしないのだ。
「そうね。今日私は安全日なのよ」
「うん。だから?」
「ゴムは必要ないわ」
「そうなんだ。でも、念のためにしようか」
再び、避妊具の入った箱を開けに戻る。
「ちょっと待ちなさい」
が、邪魔される。
箱を横からトンビように颯爽と掻っさらうとほむらは僕のベッドの縁にドンと腰掛けた。
偉そうに脚を組み、箱を握った方の手の指先だけ伸ばすと、椅子に腰を下ろしている僕の鼻先に向ける。
面と向かって人を指差すのはマナー違反だと教わらなかったらしい。もっとも、遵法精神の存在しない彼女には無意味なものだったが。
「私は安全日なのよ」
「それは聞いたよ」
「政夫は私と直にしたくないの?」
生々しいことを聞くんじゃない。まだお互い肉体関係を持って半年程度にも関わらず、開けっぴろげ過ぎだ。
初体験をしてから堰を切ったように求めてくるようになったことについては嬉しくないと言えば嘘になるが、デリケートな部分なのであまり口に出しては欲しくない。僕とて、朴念仁ではないので言わずとも雰囲気で察せる。
「したくない、とは言わないよ。でも、僕らはまだ学生。親に養ってもらってる立場で無責任なことはできない。安全日だって絶対に子供ができないとは言えないだろう?」
「そうだけど……」
「それにね。大事にしたいんだ、君を。君と……将来作るかもしれない子供も」
「『かもしれない』?」
「ああ、もうっ! 将来絶対作る子供もっ! ……恥ずかしいんだからあんまり言わせないでよ」
自分の言葉に羞恥で脳を焼かれそうになる。恋人とはいえ、こんな発言を誰かに聞かせるのは恥ずかしくて堪らない。
僕もこいつも色ボケ過ぎている。まだ高校三年生で何を言っているのだろう。
しかし、ほむらは嬉しかったらしく、表情こそ大きく崩さなかったものの「言質取ったわ」とほくそ笑んでいた。
惚気になるが、こういうところは素直に可愛いと思う。見滝原中学校を卒業した後も突拍子もない発言で困らされてきたが、普通の女の子らしいことで喜ぶほむらを見るのは彼氏として嬉しい。
「でも、今日はゴムなしでしたいの」
ほむらはそれでも真剣な表情で頼んでくる。
どうにも引き下がる気はないようだ。
「どうして、そこまで拘るの?」
「それは……」
目線を下げて一旦、彼女は言葉を止める。
そこから口篭もるのかと思いきや、頬を染めて早口で語り出す。
「杏子に聞いたの。ゴムなしでする方がお互いの事を、もっと感じ合えるって」
「杏子さんは、あれ結婚するらしいから」
魅月杏子。元魔法少女にして、僕らの共通の友達の女の子だ。高校を卒業と同時にショウさん……彼女の保護者である彼女の兄と結婚するらしい。
何でも戸籍を弄って実の兄妹の振りをしていたことや、中学卒業後から肉体関係を持っていたという話を聞かされた時は犯罪ではと思ったが、僕の恋人の方が遥かに大罪人であることを思い出し、そっと心の奥に沈めた。
他人への迷惑度ではこちらの方が上なのだから、僕がとやかくいう資格はない。
ショウさんはどうやったのか、また戸籍を誤魔化して義理の兄妹として来年の春に堂々と結婚するそうだ。
「責任取れる場合なら問題ないけどさ」
「……無理を言っているのは解ってるつもりよ。でも、私は、どうしても政夫のことを……たくさん感じたい!」
潤んだ瞳で僕を見上げるほむら。
「そっか……そこまで言われると、僕だってほむらのこと、たくさん感じたいって思うよ……」
「政夫……」
「でも、それそれとして避妊はするね」
「政夫!?」
それから小一時間ほど彼女が生理周期表なるものの説明と、自分の周期について聞かされた僕はやむなく、生ですることとなった。
最後の決め手となった『家に帰ったらピルを飲むから宣言』により、僕も安心して事に及ぶ。
「何故、彼氏にここまで説得をしないとならないの……」
「いやー、ほむらのプレゼン能力も上がったし、いいんじゃないかな」
既に家でシャワーを浴びて来たほむらを部屋に残して、僕も身体を綺麗に風呂場へ向かった。
内心、待たずに風呂に来るかなと期待してきたが、予想に反して彼女は僕が風呂から上がり、脱衣所で髪を乾かして部屋に戻るまでやって来ることはなかった。
自分の部屋に入ると薄暗がりとラベンダーの芳香が出迎えてくれた。
どうやら電気を消しているらしく、光源として僕の机の上に何本かアロマキャンドルが乗せられていた。
「好きだね、ラベンダーのアロマキャンドル」
僕の声に暗がりの中から返事が返ってくる。
光源が小さすぎてベッドの上すら満足に明るくならず、薄っすらとベッドの縁に腰掛けた綺麗なほむらの素足しか見えない。
ただ、赤い光に照らされた彼女の長くしなやかな脚はとても艶めかしく映った。
「貴方の部屋がくれたものだからよ。それに私の名前を綺麗だって、呼んでくれたのも一緒にこの灯りを見た時だったから」
懐かしい。まだ僕が見滝原中に転校してきて一か月も経たない頃であり、彼女もまだ魔法少女だった時のことだ。
部屋にやって来た彼女に灯したアロマキャンドルを見せたことがあった。その時に『ほむら』という名前もこういう美しく燃える炎を見て付けられたものなら、美しいと表現するべきだと言った覚えがある。
当時に僕は彼女に対して、異性としての好意は一切向けていなかったが、思い返せばほとんど口説いているようなものだ。四年前の僕は若かった。特に女性関係について。
「懐かしいね。四年前だっけ」
「そうよ。ちょうど四年前の今日」
「! 日付までは覚えてなかったよ。そうか。だから……」
あれだけ今日という日に拘ったのはそういった背景があったからか。
僕からすれば何気ない一日だったが、あの苦しみの渦中に居たほむらからすれば、あの日は特別なアニバーサリーだったのだろう。
「そっち、行っていい?」
「ええ。待ってたわ」
ベッドの上に彼女が転がったのが気配で分かった。
風呂上がりに着た部屋着を脱ぎ捨て、脇に放るとトランクス下着一枚になった僕はベッドへと寄る。
部屋の暗さにも慣れて来た僕の瞳は寝転んだほむらの姿を映した。
ウエストの部分が大きく縦に開いた黒のベビードール。
スレンダーでくびれの綺麗な彼女にはぴったりの下着だ。同色のパンティも布地が少なく、後ろから見ればほどんど穿いていないように見えるのだろう。
「ど、どうかしら? 杏子に勧められたものなのだけど」
「とっても似合ってる。杏子さんには何か贈らないかいけないね」
「胸はあまり大きくない、から……見ないでほしいわ」
「十分育ってるよ。それにそのくらいの方がシルエットとしては一番綺麗だ」
黄金律、とは違うのだろうけど、それほど主張しない彼女の乳房の大きさも全体の像として見る分にはかえって線の美しさが映えて見えた。
枕の上で流れた彼女の髪は四方に散った黒い小川にようだった。紫色の、意外と大きい瞳もアロマキャンドルの小さな光を反射して宝石のように照らされている。
ああ。僕の恋人はこんなにも美しかったのだと改めて思い知らされた。
「そんなに褒められると、どうしたらいいか分からないわ」
暗いせいで彼女が赤らんだのかは分からなかったが、声に恥じらいが混じる。
両手を伸ばして、ほむらは呟く。
「……来て」
理性というものが解けていていくのを感じた。
ベッドの上に上がると彼女の唇をすぐさま貪った。
柔らかく、しっとりと潤いのある小さな唇は僕の舌先を簡単に受け入れた。
舌と舌が絡み合う。お互いの唾液が口内を行き来し、混ぜられていった。
ほんのりと甘いように感じるほむらの唾液を呑み込む。
「ぅぅん……」
艶めかしい吐息が漏れる度に下半身に血が巡り、陰茎が怒張していく。
有性生殖生物の雄として、この雌へ遺伝子を流し込めという指令が脳から伝達されているのだろう。
上等な雌の前では生殖本能の支配されるのが雄の定めだ。
「ぷはっ……」
どちらともなく、口を離した。舌に張った唾液のつーっと細く引き延ばされて橋になる。
それが重力によって沈み込み、ぷつりと途切れた。唇同士は離れた後、今まで取り込めなかった酸素を取り込もうとする。
「相変わらずほむらの口の中は甘いね」
「ちゃんと歯だって磨いてるわよ」
軽口のつもりだが、怒らせてしまったらしくむっつりとしてしまう愛しい彼女。
「ごめんごめん。君の口があんまり美味しいから」
「もうっ」
唇がまたお互いを求めて貪り合う。
今度はその間に手を彼女のベビードールの中へ滑り込ませた。
同じ人間とは思えないほど柔らかく弾力のある、けれど必要以上に脂肪の付いていないなだらかな腹部を撫でながら、目的の場所へ辿る。
小振りながらも自己主張するような乳房を下から押し上げるように揉んだ。
「んんぅっ……」
キスの合い間に漏れる吐息がより色っぽくなって漏れ出す。
柔らかだけど指で押せば確かにはじき返してくるほむらの乳房の感触を味わいながら、今度はその上に位置する乳首を探した。
「あっ……」
見つけた。
人差し指と親指で摘まんで擦ると、面白いようにほむらは嬌声を溢した。
しばらくこうして弄り回して善がらせてあげたいが、僕の股間もそろそろ我慢できなくなっている。
乳房の感触を惜しみながら、今度は下へ下へと進み、彼女の下半身を包む布地へと潜り込む。
我慢していたのか僕だけではなかった。
壊れた加湿器のように湿り気を帯びた割れ目が指先を出迎えた。
その割れ目を指を滑らせるように動かす。周りには柔らかな産毛が生暖かい液体で湿っている。
「ま、政夫……」
「なあに、ほむら?」
息も絶え絶えに僕の名前を呼ぶ彼女があまりにも可愛くて、解った上で焦らす。
「入れて……もう」
「しょうがないなぁ」
中指を割れ目の奥の、穴へと突き入れた。
今までも流れていた温かな液体は、その瞬間量を増して噴き出す。
「ぅうん……ちがっ、指じゃ、なっ……」
「何言ってるか分からないよ?」
中指が狭い、温められたゴムの容器に入れた様な感触に圧迫される。本当に狭い。指一本でこんなに窮屈だというのにその何倍もあるペニスを呑み込めるものなのか。
きゅうきゅうと絞めつけてくる肉の万力の中で僕は指を折り曲げ、円を描く。
「やだ、イク。だめっ、待って……指で、は嫌……」
涙を流して首を振るほむら。本当にいやらしく育ったと思う。中学生の頃とは違う、多分に色気を含んだ表情。
十八歳とは思えない艶めかしさだ。少女ではなく、『女』になったのだなと改めて感じる。
前にショウさんに教えてもらった通りに女性の気持ちよくなるポイントを一通り試そうかと思った矢先、あっさりとほむらは絶頂に達した。
「あ、あ、あ、ああああああっー!」
性的な悦びの混じった悲鳴。
普段の静かで落ち着いた声色からは想像もできない甲高さはある種の楽器のように思えた。
快楽を表す楽器。聞いているだけで膨らんだ僕のペニスは射精してしまいそうになる。
「随分、早かったね」
そういうと片腕で顔を目元を覆って隠していた彼女は、自分の腕を僅かに持ち上げた隙間から睨む。
「ひどい……」
幼くてたどたどしい非難の声。
「何が?」
「指じゃ嫌、って、言ったのに!」
「ちゃんと前戯しておかないとほむらが痛い思いをするだろう?」
もちろん、そんなものは建前だ。
本音は自分のテクニックで彼女が善がってくれるのがとても嬉しかったから調子に乗ってしまった。
指だけでも十分、愉しませてあげることは可能なのだと分かるとつい悪戯心が首をもたげてしまったのだ。
涙目で恨みがましく僕を睨んでいたほむらは涙を手の甲で拭うと、上体を起こした。
「お返しよっ」
「あ、こら」
トランクスパンツの前方にあるボタンを外して、そこから手で僕の陰茎を引きずり出す。
血管を漲らせて、臨戦態勢を取っていた僕のそれは簡単に顔を出した。
今度はこちらの番とばかりに彼女は亀頭を咥える。小さな口にはどう頬ばってもその先は呑み込めないらしく、亀頭だけを重点的に舐める。
前に無理やりしゃぶろうとしてくれた時には歯が当たりすぎて痛みしか感じなかったが、今回のは非常に気持ちよかった。
ほむらの口内の温かい吐息が亀頭に掛かる度に血管が脈動する。その上に程よく湿った舌が亀頭の穴を穿るように這いまわる。
「うっ……これは」
「はむっ、もう、れそう?」
咥えたまま、喋るため小刻みにほむらの舌が亀頭に当たり、暴発寸前になる。
僕はこくこくと何度も無言で頷いたが、瞳に嗜虐の色を滲ませたほむらはしゃぶるのを止めて、全体をゆっくりと舐め回し始める。
裏筋からどんどん下へと降りて行き、最後には睾丸の片方をぱくりと頬張った。
「ちょっとっ……」
皮の中にある睾丸を下の上で転がす彼女に、僕は堪らず謝った。
「ごめんね。もう、限界」
すかさずほむらの唇は亀頭の方に吸い付いた。そこから止め処なく溢れる白濁した精液を彼女は口で受け止めてくれた。
粘つく精液をこぼさないように飲み干していく。
唇に付いた残りも舌なめずりで舐め取ると、上目遣いで僕を見つめる。
「どうかしら?」
「すごく良かったけど、どこで覚えたの?」
「杏子に教わったわ。『痛いからもうそれいいや』なんて言われたくないもの」
どうやらこの前の失敗を気にしていたらしい。
それにしても、ショウさん、これを杏子さんにやらせているのだろうか。流石に他人の情事まではあれこれと妄想するのは野暮だが、女子高生のテクニックというには上級者過ぎる。
そんなことを考えるとほむらは黒い下着を脱ぎ捨て、僕に言った。
「もう、前戯は済んだわ。早く、して」
何を、なんて惚けるつもりはもうない。僕は静かに頷くと再び硬さを取り戻していくペニスを彼女のヴァギナへあてがう。
粘液で覆われた両者はお互いを抵抗なく、受け入れる。
ぬるりと温かな感触が、ペニス全体を包み込んだ。
「っ! これは。確かに全然違うね」
コンドーム越しに感じる感触とは文字通り一線を隔す感覚。
触れた部分が溶けて混ざってしまうのではないかと思えるくらい気持ちいい。
「ええ、本当に、違う……前よりも政夫が中に居るって強く感じるわ」
「僕もだよ」
仰向けの彼女の背に手を入れて、全身で密着する。こうしていると本当に一つの生き物になったような気がするから不思議だ。
「動くよ」
「お願いね」
意味ある言葉を交わしたのはそれが最後だった。
腰を突き入れてピストン運動を始めると、口から漏れるのか熱の籠った吐息と快楽に酔った意味を持たない感嘆詞ばかりだった。
僕の陰茎が彼女の膣内を掘り進む。その先に彼女の大事な部分が待っている。
ほむらの方も僕のペニスを待ってられずに子宮が降りて来て、その入口が出迎えてくれる。
何度も何度も突き入れる度に彼女の愛液が零れ、ベッドのシーツを濡らした。
亀頭が子宮口を突く。
激しく怒張したそれは睾丸から競り上がって来る僕の遺伝子を吐き出した。彼女の赤ん坊を育てるための肉の部屋を白い液体で目一杯汚して行く。
「あくっ……」
身体の中の中身が股間に付いた管を通して、彼女へ流れ込んでいるような錯覚を感じた。
それでもまだ足りない。ほむらにもっと僕を流し込みたい。
射精が停まっていないのも関わらず、僕は腰を動かし続けた。
同時に彼女の唇も奪う。上と、下で彼女を感じていたいと強く思った。
自分の中でもっとも彼女の奥へ潜り込んでいきたいという欲求が射精と共に強くなる。
「ああああああっ……」
蕩ける様な甘い声がほむらの唇から流れ出た。
熱に浮かされたようにぼんやりする頭で僕は彼女を眺めている。
生まれて初めて、この時間がずっと続けばいいのにと思った。
気が付くとやけに外が明るくなってることに気付いた。
横にはすやすやと心地の良さそうな顔で眠るほむらの寝顔が至近距離にあった。
よく見れば、彼女は僕の腕を枕代わりにしている。道理で腕が重い訳だ。
あの後も数時間近く、セックスを続けていた。もう何度射精したのか覚えていないが、妙に下腹部が痛いことを鑑みるに両手の指では足りないだろう。
シーツはお互いの汁でガビガビになっており、早急に帰る必要がありそうだった。
すうすうと穏やかに眠る彼女を見て、思う。
彼女を好きになってよかった。
顔には出さないようにしていたが、僕がまどかさんではなく、ほむらを選んだことに対して、彼女が引け目を感じたのを僕は知っている。
だからこそ、早く肉体関係を築いて安心したかったのだろう。
そんなことを悩む必要なんてないのに、本当に妙なところで自信のない奴だ。
静かに眠るほむらの頬に起こさないように細心の注意を払ってキスをする。
――君が思っている以上に、僕はもう君が好きなんだから。
久しぶりのP18投稿です。