【書籍化】ヤニ吸う寿音さんのお口が疼く~仕事を辞めたら長身デカパイヤニカスイケメンお姉さんに拾われて甘々セフレ生活が始まってしまったお話 作:37級犬築士
子供の頃に思い出す光景は、自分より背の高い大人たちの手元だ。
見上げて、身近な大人の顔を見たらとても怖い顔をしていた。それに、睨んでなくても睨むなとも言われた。
どんな顔色を浮かべてもあの人たちは僕を怒鳴るか殴るかをしてきた。お前が悪い、お前のその顔を見せるだけでむかつくから、そう言われてきたからうつむいて手元を見るのが癖になっていたのだろう。
手元を見て、あの人達が拳を握ったら今度は差し出すように頭を下げて足元を見た。
平身低頭、服従する従者の、いや奴隷の作法を僕は小学生の頃に教えらえれるわけでもなく身に着けていた。
だから、他人を見上げる行為には苦手意識があった。
見上げて得られるモノなんて何もない、愛着障害の自覚もある。見返りが確定されている甘えは、僕が生まれて二年間しか存在しなかった。今でも首を水平よりも上に向ける行為には違和感がある。
……でも、今は違う
見上げて得られるものが安心感であることが、やっぱりどうにも現実味を帯びない。あぁ、見上げるだけでどうしてこの人たちは笑ってくれるのだろうか。もう成人した大人である僕に、発達不足で華奢で頼りない弱い男を見て優越感にでも、いやこれはマイナス過ぎる考えだ。
そうじゃない。そんなわけがない。
寿音さんも、きっとこの街で出会い、これからも出会う人たちはきっと僕にプラスしか与えない。
もうマイナスは無い。あっても、すぐに寿音さんが足してプラスにしてしまうだろう。
……綺麗
……皆、すごく綺麗だ
湯に浸かりながら、僕の目線よりも高い位置に皆の顔がある。名前を知った人、まだ聞いていない人、でもみんな寿音さんの知り合いだ。大勢とぎゅうぎゅう爪になりながら入る大浴場のお湯は気持ちよくて楽しい。
どこもかしこにも、優しく触れてくれる手は胸があって、行為の荒々しさなんて嘘のように皆僕に気を使っていた。壊れ物を扱うように優しくしてくれた。
「きもちいね、凛……目、トロトロだね」
可愛いね、良い子だねと、子ども扱いの声が周りから聞こえてくる。年下も年上も、皆僕よりずっと背が大きいから、矛盾はない。
頑張ったね、偉いね、そんな言葉も中にはある。
よく言えた、かっこいい、男らしい、愛らしい
「……————ッ」
行為の反動で動かない僕の体、暖かいお湯と人の温もり、そして甘ったるい形容詞に包まれて、次第に眠くて瞼が重くなる。
見上げる景色を、まだ楽しんでいたいのに
「眠たい?……まあ、仕方ないか……ちょっとしたら上がろうね」
下から見上げる寿音さんの顔、ぼんやりと曇りがかかって、もっと見たいのに目が重い。
見上げることは、施してもらえる行為だから好きだ。
見上げて拝む寿音さんの顔が綺麗で、格好いい顔立ちで、それだけでも贅沢なのに優しく微笑みをかけてもらい頭を撫でてもくれる。
湯をチャプチャプ鳴らして、僕はされるがままだ。寿音さんや、他の女性たちにも抱きかかえられて、ぼんやりとしながら最上の見上げる景色を堪能していた。
笑ってくれる、見上げて目が合うと皆僕に笑みを向ける。それが、今はたまらなく気持ちがいい。
人の顔を見上げる行為は、存外悪くない。
× × ×
一人の人間が会社をクビになった。清藤凜、彼が会社を自主退職した影響は遅れて伝わる。
会社からある人物へ、そして差し引かれた金額が凜の元へと送金される。そのサイクルが途切れたことを、幸せに過ごす一時の裏で彼らは知った。
「どうして、どうして金が入ってないんだ!」
第一声は歳を重ねた男性の声。低く酒で喉を焼いた声で、何度も何度も憎悪の言葉を吐き散らした。
「まさか逃げたんじゃ……なんで、なんで要りようになったタイミングで」
「クソ!……あの出来損ない、電話して確かめたが会社を辞めてやがるッ……ゆるさん、許さんぞ……あの子の為にも金が要るんだッ」
「あ、あなた……どうしましょう、あの子の学費は、もう」
「クソ!クソがッ!……なんで、何で上手くいかないんだッ」
「支払いはもう……あ、あなたッ」
「あと、たった数十万だ。おい、お前はあいつの家に行ってこい……辞めたんだ、なら退職金を抱えてるはずだッ」
「そ、そうね……とにかく、あの子の学費を用意しないと」
「最悪借金をしてでもだ……あいつに消費者金融でも闇金でもなんでもいい、金を借りさせて用意させようッ」
「でも、もう貸してくれるかしら……かなり、もう厳しいのに
「うるさい!その時はその時だ!!……あ、あの子の為なんだ……とにかく、あいつを見つけろッ!最悪、探偵でもなんでも使ってやるッ……今度は逃げられない所に押し込んで働かせてやればいい、とにかく金づるを失うわけにはいかんッ」
「……そ、そうね……あ、あなたの言うとおりだわ」
「家族の為なんだ、なのにあいつは俺たち家族を裏切るつもりか……クソ、クソったれッ!殴り足りなかったんだ、もっと痛みで教え込むべきだったッ」
「そうね、貴方の言う通りよ……ほんと、なんであんな子を産んだんだか」
「お前は悪くない、娘じゃないあいつが悪いんだ……そうだ、全部あいつの責任だッ……だから、思い出させてやるのが親の責務だ。あいつに、凜に……自分の責任を思い出させてやるッ」
今回は少なめです、次回もう少し読み応えあるはず。お楽しみに