シルビア号がバンデルフォン地方の船着き場に到着し、漁師に言われた通り小径を北へと進んで行くと、ほどなくして視界が開けて一面の小麦畑が一行の眼前に広がった。沈みかけた陽が風に波打つ小麦畑を穏やかな光で彩る中、黙々と歩き続けた一行は辺りが暗くなる頃、ネルセンの宿屋に辿り着いた。
「久しぶりにゆっくり休めるわね!」
ベロニカ始め、皆が宿屋での宿泊に色めき立つ。そんな中。
「船上で私は十分な時間をカミュ様と過ごしました。今度はイレブン様の番ですわ。」
セーニャはつとイレブンに近寄り、囁いた。イレブンはセーニャに頷き、次いでカミュの方を見てにっこりと笑った。
――・・・う。
イレブンに微笑まれてカミュがどきりとする。イレブンと付き合うことになったもののどうしていいかわからずに、カミュはなるべくセーニャと一緒にいてそれとなく彼と二人きりになるのを避けていたが、相部屋になってはそれももう無理だった。
――イレブンと向き合うしかねえか・・・。
仲間たちと宿の食堂で遅い夕食を摂りながらカミュはぼんやりと考えた。
*
『二人とも同じくらいの真摯さで向き合わなきゃダメよ?』
夕食後、割り当てられた部屋へとイレブンと連れ立って歩きながら、カミュはシルビアの言葉を思い出した。
――つってもよ。どうしていいのかわかんねえよ。
だがカミュは悩む必要もなかった。イレブンの方から行動を起こしたからだ。部屋に着き、カミュが後ろ手でドアを閉めた瞬間。
「!?」
イレブンは振り返ってカミュを抱き締めた。
「・・・カミュ、やっと二人きりになれた・・・。」
突然のことにカミュは動揺してさり気なく彼の肩を押す。
「あ・・・その、少し・・・話さないか?」
「いいよ。座ろ?」
イレブンがカミュの腰に腕を廻してベッドの一つに導いたので、二人一緒に腰を下ろした。ベッドサイドテーブルのランプが室内に柔らかな光を放っている。
「あー・・、お前のこと、もっと知りたいんだ。」
――セーニャも付き合うことになったとき言ってたよな。まずは相手のことを知らねえと。
「うん、何でも聞いて?」
イレブンが微笑みながら間近で顔を覗き込む。
「・・あー・・、好きな食べ物は?」
「シチューだよ。」
「ああ。そう、か。」
――そういやそう言ってたな。
「他には?」
「他には・・・そうだな・・・」
考えたが、長く一緒に旅をしているイレブンのことは大体知っていた。じっと見つめるイレブンに気が焦る中、ふいに以前イレブンがキャンプで苦し気に『母さん、エマ・・』と寝言を言っていたことを思い出した。
――エマ、ってのは故郷に残してきた恋人のことなのか?・・・もしかして生きてるかもしれねぇ。
「・・・その、今まで恋人がいたことはあるか?」
「ううん、ないよ。」
「え・・・、そう、か。」
――違う、のか?
「好きになったのは君が初めてだ。」
イレブンがはにかんで頬を染める。
「・・・・・・。」
――恋愛経験を訊くとか、まるでイレブンに興味があるみたいじゃねえか。
そう考えて正にそういう前提で話していることを思い出した。イレブンがじっとカミュを見つめる。
「他に僕に訊きたいことある?」
「他に・・・は、・・・・ない、かな。」
「そう?僕も君のことを知りたい。故郷や子供の頃のこと、家族のこと・・・」
「・・・・いや、それは・・・。」
まだマヤのことを含め過去を話す勇気がカミュにはなかった。
「話したくないなら、無理には訊かないよ。」
カミュが口を噤むとイレブンが微笑み、空いた手でカミュの頬を引き寄せてゆっくりと顔を近づける。
「え・・・」
一瞬呆けて反応が遅れたカミュが身を引こうとしたが、それよりも早くイレブンが口づける。彼の唇は柔らかく温かかった。
「・・・ずっと、君に触れたかった。」
顔を離すと、イレブンが言った。間近で真剣な碧瞳に見つめられ、居心地が悪く感じてカミュは視線を彷徨わせた。
――え?
背に軽い衝撃を感じ、気が付くと自身の上にイレブンの端正な貌があって、カミュは自身がベッドに押し倒されたのがわかった。何か言おうとして開きかけた口をイレブンに塞がれ、角度を変えて何度も口づけられる。あまりのことに放心してカミュはイレブンの為すがままだったが、衣服の上から下腹を撫でられたのにぎょっとして思わず彼の肩を押し戻した。
「お、おい、どこ触ってんだよ!」
「・・・・え?もしかしてカミュ、初めてなの?」
意外、という顔をしてイレブンが言った。
「・・・もしかして、って・・・。・・・俺が経験豊富だとでも思ったか?」
「うん。カミュの容姿なら、普通そう思うでしょ?」
「なんだそりゃあ・・・とにかく俺、男とそーいうこと、したことねえんだ。」
「そっか。なら、試してみようよ?」
「・・・・へ?」
――何でそうなんるんだよ?
微笑んで言うイレブンにカミュが訝し気な目を向けるが、彼はしごく真剣な目で見返した。
「僕だって君にセーニャより僕を選んでほしいんだ。同性との経験がないなら尚のこと、試さないと僕は君の選択肢の一つにさえならないだろ?」
「・・・・・・。」
結局のところ、デーティングの目的はそれだった。相手と恋人になりたいか、なれるのかを見極めるための期間。だが。
「・・・けどよ、どうすんのか、わかんねえし・・・」
カミュが気まずそうに目を逸らす。
「僕がやり方わかるから大丈夫だよ?」
「・・・お前は初めてじゃないのか?」
「初めてだけど、シルビアに教えてもらった。」
事もなげに言い、にっこりと笑うイレブンが再び顔を近づけようとするのをカミュが再び押し戻した。
「ま・・・待てよ!」
まさかいきなりこんな状況になるとは思っていなかったカミュは内心ひどく焦っていた。本音を言えば、イレブンとはある程度付き合ったら折を見てセーニャを選び、親友に戻るつもりだったのだ。
――だから何も一線を越えなくてもよ・・・
だがそんなカミュの思いを余所に。
「カミュ・・・」
自身を見つめるイレブンの捨てられた子犬のような目に怯む。
――くそっ!どうしたらいい?・・・そうだ、する気はあったが寝ちまった、ってオチならイケるか?
「・・・わかった。いいぜ。」
「カミュ!」
「けど船旅が長かったからまず風呂に入ろうぜ?俺が先でいいか?」
抱きつこうとするイレブンを制してカミュが提案すると、彼は嬉しそうに頷いた。
*
ドアが開閉する音がしてイレブンが浴室を出てきたのがわかった。カミュは自身のベッドの上で目を閉じて寝たフリをする。イレブンが近くまで来た気配がした。
「カミュ・・・?寝ちゃったの?」
ガッカリしたような声。
――すまねえ、イレブン。俺、ソッチの趣味ねえんだ。・・・!?
イレブンがベッドに乗り上げてカミュの腰辺りを跨いだのがわかった。いかにも”待っていたけどうっかり寝てしまった”体を取るために上掛けは掛けていなかった。
「・・・ねぇ、カミュ、起きて?」
頬を湿り気を帯びた髪が撫で、耳元で甘く囁かれる。それでもカミュが狸寝入りを決め込むと、首筋にキスをされ、寝間着の上衣の裾から入り込んだ手が素肌に触れて来たのでカミュは堪らず寝返りを打った。
「・・・・・・。」
イレブンは少し考えてから横向きに丸くなったカミュの肩に手を掛けて再び仰向けにすると上衣を引き上げ、彼の胸元まで露わにした。腰をそっと掴みながら、素肌に唇で触れていく。色の薄い柔らかな乳首を食んだとき、カミュは眉を顰めてピク、と身動きしたが、頭を横に向けただけで寝たフリを続けた。そして。イレブンの唇がカミュの身体を下へと辿っていき、下衣を腰骨の際どいところまで下ろすと臍の下をちゅう、と強く吸った。
「ひあっ!」
カミュは驚いて思わず目を開け身体を撥ねさせた。
「よかった。目を覚ましてくれて。」
笑顔のイレブンが這い上がって来る。
「・・・悪ィ。寝ちまってた。」
カミュが諦めたようにぎこちなく微笑むとイレブンも微笑み返し、口づける。
「んん・・・・」
露わなままの素肌を指先で探られながら、何度も繰り返すうちにキスは自然と深くなっていった。
「・・・・ふ・・・っ・・」
相手に合わせて懸命に舌を絡める中、イレブンの硬く大きな手が布地の上から性器を撫で包んだとき、カミュは身を震わせた。少しの間、腰を蠢かせて堪えていたが、とうとう耐えきれなくなってイレブンを押し戻した。
「ん・・・ん・・・ぷはっ!イレブン、・・・やっぱ、今日は止めようぜ?」
「え・・・?君は『いい』と言ったじゃないか。」
「そうだけどよ・・・・すまねぇ。」
――今更『男が無理』とは言えねえよな。
カミュがバツが悪そうに目を逸らし、起き上がってベッドから下りようとしたが、イレブンに後ろから抱き締められた。
「カミュ・・・」
「おい、放せ。・・・ぅわ!?」
イレブンがカミュを抱き締めたまま背中からベッドに倒れると、カミュはイレブンの腹の上に仰向けに載せられている状態になった。カミュの頭はイレブンの首と肩の間に落ち、更にイレブンは片脚をカミュの脚の間に立てて彼が身体を捻られないようにした上で彼の閉じられない脚の間の急所へと手を伸ばす。
「あっ・・・待っ・・・!」
下腹に直に触れられてカミュはビク、と身体を撥ねさせた。そしてイレブンのもう一方の手がカミュの剥き出しの素肌を愛撫しだす。
「や・・・も・・・ぁ・・・っ・・・・」
二つの手による間断のない愛撫。弱い処は執拗に責め苛まれて、イレブンの上に重なったまま、虚しく掌をシーツに滑らせるだけでどうにすることもできずに、カミュはただ喘ぎ続けた。
*
「・・・ぁ・・・ん・・・・」
カミュがイレブンの肩口で艶っぽい喘ぎを零しながら時折ピク、と身体を震わせる。愛撫に溶かされた彼の頭からカク、と力が抜けたとき、イレブンは手を止めてカミュの背の下から抜け出し、ぐったりとした彼をそっとベッドに横たえた。見る度に綺麗だと思う蒼瞳は閉じられ、頬に濃い影を落とす睫毛は涙を含んでいた。イレブンは彼の両腕を頭の上へと上げ、上衣を引き上げ手首までたくし上げて抜き去る。滑らかな肌に、散々弄った乳首が濃く色づき、硬く尖っていた。イレブンは次に、既に際どい処まで下ろしていた下履きに手を掛け脱がせると、そこは先走りでしとどに濡れていた。
「・・・気持ちよかったんだね。よかった・・・」
イレブンは小さく呟いて微笑み、カミュの下着でそこを軽く拭ってから床に落とし、彼の下衣を見て少し考えた後、それで彼の両手首をぎゅっと縛った。そして。
「カミュ、好き・・・」
イレブンも衣服を脱いで裸になり、素肌に唇で触れながら、カミュの身体を這い下りていった。イレブンが性器を口に含み、舌と手で愛撫し出したときに漸くカミュは疲労と睡魔による束の間の失神から意識を取り戻した。
「・・・?・・・!おまっ・・・何してんだよ!」
目覚めて早々、自身のモノを含まれている光景にショックを受けて起き上がろうとしたカミュは手首が戒められていることに気づく。
「暴れられても困るから・・・」
「なん・・・」
顔を上げ済まなそうに言うイレブンに絶句するカミュ。
「ちょっ・・・待てよ!・・・ぁ・・・っ・・・」
イレブンが再び顔を伏せて性器への愛撫を再開したのでカミュは反射的に逃げを打ったが、ジン、と快楽が広がって身体を仰け反らせた。
「や・・・もっ、イレ、ブン!・・・あ・・・ん!」
イレブンの手がカミュ自身の幹を扱きながら親指で先端を、舌先で小さな鈴口を弄る。そして・・・
「ああーーっ!」
掠れた高い声とともにビクビクと身体を震わせながらカミュが達した。ピュ、ピュ、と白濁が噴き出すのを直前で顔を離したイレブンが満足そうに見下ろす。
「・・・ふふ、いっぱい出たね。じゃあ、次は・・・」
イレブンはカミュが風呂に行っている間に荷袋から出しておいたスライムゼリーをベッドサイドテーブルから取ると、カミュの脚の間に入り込み、彼の脚を開いて肩に引っ掛けた。
「ひゃっ!?」
カミュは尻にヒヤリとした感触を感じて身を撥ねさせた。
「な・・・何・・・」
「何、って、準備しなきゃだろ?」
「準備・・・?」
「僕のを君のココに入れるための準備。」
イレブンのヌルついた手指に後腔をなぞられてカミュが腰を浮かせる。
「ま・・・待て!んな、いきなり・・・!」
「『いきなり』なんてしないさ。ちゃんと念入りに準備するから・・・」
「そういう意味じゃねえ!あ・・・っ・・・」
尚も食って掛かろうとしたが、後腔をなぞっていた指が中に押し入ってきてカミュは息を呑んだ。
「や・・・イ、レブ・・・」
目を閉じ耐えるように眉根を寄せるカミュの、顔のすぐ横にある脚に宥めるように口づける。
「あ・・・あ・・・ぅ・・・」
カミュが震えながら呻く傍で、イレブンは奥まで押し入れた指を探るように掻き回ながら、着実に彼を拓いていった。
*
「・・・もういいかな。」
三本の指が楽に入るようになってから、耐えるような熱っぽい顔でイレブンが言った。指を抜き、カミュの身体を折り畳むように腿の裏をぐっと押す。そのとき、身を乗り出したイレブンの、脈打ちながら弾けるのを今か今かと待っている赤黒くそそり立つモノが目に入り、カミュは青褪めた。
「おま・・・それ・・・」
「・・・カミュ。」
イレブンが余裕のない声で言うと、自身の先端をカミュの後腔にピタリと当てた。
「え・・・ちょ・・・」
カミュが動揺して身動ぐが、イレブンは熱の籠った双眸で見つめつつ、身体を前へと進める。
「うぁ・・・」
「はっ・・・、カミュ・・・」
身体を押し拓かれてカミュは驚愕に目を見開き、イレブンは額に汗を滲ませた。
「あっ・・・!」
ふいに急所を掴まれてカミュが身体を撥ねさせる。
「は、放・・・あ・・・っ・・・」
一度イッたそこはより過敏になっていた。掌で優しく愛撫され指先で巧みに弄られてカミュが喘ぐ。身体の中心から波濤のように広がる快楽に他に何も考えられなくなる。
「はあっ・・・ぅ・・・あ・・・?」
イレブンの手が止まったとき、彼がいつの間にか前へと動き、奥へと入り込んでいたことに気づく。イレブンの方に目を遣ると彼と目が合い、カミュにはにかむように微笑んだ。
「気持ちよくさせて痛みから意識を逸らせるといい、ってシルビアにアドバイズされて・・・」
「・・・・・・。」
カミュはイレブンの笑顔に気が抜けて、何かもう何もかもどうでもよくなり、観念して目を閉じた。どのみち拘束されていて逃げることはできない。早く終わるのを願うだけだった。
動かずに馴染むのを待っていたイレブンだったが、暫く経ってゆっくりと自身を引き抜き、再び奥に進む。
「・・・・・・ぅ」
何度か出し入れするうちに、雁首が中の前側にあるしこりを擦り、カミュが眉根を寄せた。そこを擦られると堪らない疼きが広がる。
「あ・・・あ・・・」
「カミュ・・・」
段々と早くなる抽挿に身体を揺すられながら、疲労と過ぎた快楽でカミュの意識がついにブラックアウトしたとき、『・・・カミュ、カミュ、好きだよ・・・』と呟くイレブンの声を聞いた気がした。
次はグロッタ。