一行はグロッタを発った後、イレブンの出生地であるユグノアの地を訪ね、彼の血縁上の祖父との再会、鎮魂の儀式、グレイグ将軍率いるデルカダール兵の襲撃を経て――ユグノア城下町跡で虹色の枝のビジョンを視る。そして勇者一行は、ロウとマルティナを仲間に加え、オーブを求めて外海へ出るために白亜の建物と海の青のコントラストが美しいリゾート地・ソルティコへとやってきたのだが・・・
「あ!アタシちょっと花摘みしてくるわ。町の外で待ってるから終わったら呼んでね♡」
街の入り口で立ち止まり、スキップしながら去っていくシルビアに他の仲間は皆、顔を見合わせた。
水門を管理する領主ジエーゴを訪れる前に一行は街で情報収集することにし、街を駆け回って探索に勤しんだ結果、三件のクエストと二冊の新たなレシピに出会う。
「まだ陽も高いから早速シーゴーレムの討伐に出発しよう。素材集めもしたいし。」
イレブンの言葉に皆が頷き、町の外でシルビアと合流して討伐クエストへと出発した。
一行はソルティアナ海岸を北上し、午後も遅い時間に北端の浜辺に埋もれているシーゴーレムを発見すると、あっさりと討伐して桃色珊瑚を入手した。
「来る途中でキャンプ地があったから今日はそこでキャンプしよう。」
ルーラで街へ戻ることもできたが、新しいレシピを知って鍛冶をしたいというイレブンの気持ちは容易に知れたので、彼の言葉に異を唱える者は誰もいなかった。
*
夜更け。ソルティアナ海岸のキャンプ地で。
「・・・どうしてイレブン様を避けているのですか?」
ハンマーが鍛冶台を叩く音が響く中、丸太に隣り合って座っていたセーニャがカミュに訊いた。弱くなった焚火の明かりが彼女の繊細な輪郭を浮かび上がらせている。他の仲間たちは皆テントに入ってしまい、外にはイレブンとカミュ、セーニャしか残っていなかった。
「私とも・・・以前のようには・・・・」
セーニャの声が萎んでいくのがわかり、カミュは彼女の方を見た。彼女の言う通りだった。グロッタ以降、カミュはイレブンと過ごす気になれずセーニャと居ようとしたが、彼女に『私とずっと一緒にいてはイレブン様に対して公平ではありませんわ。』と言われてからは彼女といることもできず、ここのところずっと一人で過ごしていた。
「・・・あー・・、一人になりたい気分のとき、ってあるだろ?」
適当に濁したものの、本音を言えばカミュはデーティングを終わりにしてセーニャを選ぶと宣言したかった。だが充分な時間つき合ったわけではないのに結論を出すとなれば理由が必要で、デーティングが複数の人と試しに付き合う期間である以上、イレブンがハンフリーと一夜を過ごしたことはその”理由”にはならなかった。
「・・・カミュ様の『一人になりたい気分』はいつまで続くのでしょう?私も・・・イレブン様も寂しく思っていますわ。」
『寂しい』と言われてセーニャを今この場で抱き締めてキスしたい、と思ったが――キャンプ地に響く鎚の音がカミュにそれを思い止まらせた。――結局。
「・・・もう寝ようぜ。明日も早い。」
カミュはそう言って会話を終わらせた。
「・・・・ええ、そうですわね。」
セーニャが寂し気に微笑み、答えた。
◇
翌朝。イレブンが不思議な鍛冶台で造ったプリティキャップとプリティエプロン、ラブリーバンドにラブリーエプロンそれにパラソルスティックをそれぞれ渡されたベロニカとセーニャは目を輝かせた。
「可愛い~!」
「何てキュートなんでしょう!」
早速テントの中でおしゃれガール装備に着替え、出てきた二人に仲間たちも目を瞠った。ベロニカはお腹の処で大きくリボン結びをした白い水玉模様の緑のエプロンと帽子、セーニャは腰の後ろでリボンを結んだ同じく白い水玉模様の赤いエプロンとヘアバンドで、二人とも完璧なおしゃれガールに変身していた。
「あら~~素敵!」
「目の保養じゃわい。」
「素敵ね。」
「イイな!」
「二人ともよく似合うよ。」
皆が口々に褒め称え、双子も巷の年頃の女の子のように喜んだ。
「・・・それで、今日はカンダタ海賊団から黒コショウを取り戻す、ってクエストに取り掛かろうと思うんだけど・・・」
双子の新しい装備への熱気と興奮が落ち着いた頃、イレブンが口を開いた。
「彼らが根城にしているという島に乗り込んで行くのは危険すぎる。きっと近づく船を見張っているだろうし、どんな罠が仕掛けられているのか、何人いるのかもわからない。だから時間はかかるけどダーハルーネの商船に護衛として乗って彼らの来襲を待つ、というのはどうかな?」
「いい案だと思うわ。賛成よ。」
マルティナが真っ先に賛同し、皆が頷いた。
そして勇者一行はルーラでダーハルーネに跳び、町長のラハディオを訪ねた。依頼されたクエストを話すとこちらでもカンダタ海賊団には困っていたらしく、二つ返事で協力してくれることになった。
商船は午後に出港予定ということで、正午過ぎにドッグに集合することにし、一行はそれまで街で自由に過ごすことにした。
「あ、おい・・」
仲間たちに向けてカミュの伸ばした手が虚しく空を切る。前回ダーハルーネに来たときのようにシルビアと双子、そして今回は更にマルティナとロウまでもが、まるで故意にイレブンとカミュを残すようにさっさとスイーツ巡りに行ってしまった。
「チッ・・・」
カミュが舌打ちして後頭部を掻く。
――ずっと避けてたのによりにもよってイレブンと二人きりになっちまうなんて・・・
「・・・少し歩かない?」
「あ、ああ・・・」
イレブンの遠慮がちの提案にカミュは仕方なく頷き、街の中央を走る大通りを二人でぶらぶらと歩き出す。
「・・・前に来たときは、さ。」
「うん?」
「二人で踊ったよね?」
イレブンが通りの先にあるステージ前の広場を懐かしそうに見つめる。今日もあの日と同じ快晴だった。潮風が快い。
「・・・ああ。」
「・・・・ねえ。僕、君の気分を害するようなことをしただろうか?」
イレブンが静かに訊いた。カミュはギクッとしたが。
「・・・いや、別に。」
「でも、僕を避けてる。」
「避けてなんて・・・ただ少し、自分の時間が欲しかっただけだぜ?」
「・・・寂しいんだ。」
イレブンが哀し気な貌でカミュを見る。
「もっと君と居たいし、君に触れたい。」
「・・・・・・。」
ふいに頭に浮かんだ、この街で踊ったときのイレブンの輝くような笑顔。彼の気持ちを知った後では、あの時の笑顔も今の彼の眼差しにも、確かに自身に対する好意を感じることができたが――
「・・・・すまねえ。もう少し、時間をくれよ。」
彼のハンフリーとの外泊がしこりのように胸に痞えて、カミュは目を逸らした。
*
午後になって勇者一行を乗せた商船がダーハルーネを出航し、デルカダール地方・南の島を右方に見ながら、北北西のソルティコへと航行していった。
そして夜半になり、操舵者と最初の見張りのシルビアを残し、皆が寝静まった頃。
「あ~~れ~~!!」
絹を裂くようなシルビアのハスキーな悲鳴が夜の静寂に響いた。甲板へと続く階段近くで待機していたイレブンたちが即座に上へと駆け上がると、篝火に照らされた船上には既に数人の海賊の影が見て取れた。船の縁に引っ掛けられた鉤爪から、一人、また一人と縁を乗り越えて甲板へと降り立つ。
「積み荷を出せ!出せば命だけは助けてやる!」
リーダーらしき大柄な男が叫ぶが――
「船を襲う悪い子にはキツーイお仕置きよん♪」
それまで胸の前できゅっと両拳を握り締めて内股で怯えていたシルビアがすっくと背筋を伸ばし、片手を腰に当ててパチン、と指を鳴らすと海賊一味の上からバサリと大きな網が覆い被さった。
「どわっ!?何だこりゃ!?」
慌てふためき藻掻くが、リーダーと思しき大男と彼の近くにいた数人が網に絡めとられてしまった。
「野郎!」
網にかからなかった海賊数人がそれぞれの獲物を振り翳して向かってくるのをイレブンたちがシルビアに加勢して迎え撃ち、甲板はたちまち剣戟の音と魔法による閃光が激しく飛び交った。
勝負は程なくしてついた。甲板には捕縛された海賊たちが乗組員たちの前に苦虫を噛み潰したような顔で胡坐をかいて座り込んでいる。
「・・・ここにいるのが海賊団全員とは限りません。」
イレブンが商船の持ち主である商人に話す。
「この者たちがアジトに戻らなければ島に残っている海賊たちが出て来るかもしれない。だから僕たちはダーハルーネへの帰路も貴船を護衛しようと思いますが・・・」
「それは願ってもないこと。ぜひお願いします。」
イレブンの申し出に商人は満面の笑みで頷いた。
◇
翌日ソルティコに到着し、街の自警団に捕らえた海賊たちと牽引してきた彼らの小船を引き渡した後、勇者一行は再び商船に乗り込んだ。今度はデルカダール地方・南の島を左方に見ながら南南東のダーハルーネへの帰路に就く。
やはり、襲撃は夜半に起こった。
「きゃあ~~!!」
シルビアが甲板で派手な悲鳴を上げたのを合図にイレブンたちは待機していた船室から甲板へと勢いよく階段を駆け上がった。甲板では篝火の明かり中、シルビアに4人の海賊が迫ろうとしていた。彼はパチン、と指を鳴らし、昨夜のように彼らに網を落としたのだが――
「ふんっ!」
覆面をした一際大柄な男がそれを予期していたかのように大斧を一閃し網を薙ぎ払った。
「あら・・・やるわね。」
「俺の可愛い子分たちにもこんな汚ぇ手を使いやがったのか?行くぞ、テメエらぁ!」
「「「我ら、カンダタ団!」」」
親分の掛け声に他の三人が剣を掲げ声を張り上げた。
「あの斧の一撃は重い!ベロニカ、セーニャ、ロウは後ろに居て!」
シルビアの許へ駆け寄りながらイレブンが叫び、三人は言われた通り他の仲間たちの後方についた。
「大人しくしやがれ!」
「うっ・・・」
「きゃっ・・・」
カンダタが真っ先にマホトーンを詠唱し、イレブンとセーニャの呪文が封じ込められた。
「むう。癒し手が・・・」
ロウが即座に雨乞いをし、仲間たちに癒しの雨を降らせ始める。そんな最中に向かってきた子分三人をイレブン、シルビア、マルティナがそれぞれ迎え撃った。
「こいつでどうだ!」
「冷え冷えになれ!」
剣戟入り乱れる中、カミュがパワフルスローを、ベロニカがヒャダルコを海賊たちに放ち、
「ダメだぁ・・・」
という呟きとともに二人の子分が倒れた。
「ハアッ!」
残った一人にセーニャがパラソルスティックで攻撃し、瀕死状態だった最後の子分も倒れる。残すはカンダタのみとなったが――攻撃を仕掛けては来ず、全身に力を溜め始めた。
「まずいわ!力を溜める前に倒しましょう!」
マルティナが警告し、五月雨突きを炸裂させる。矢継ぎ早にイレブンが火炎斬り、ロウがドルマ、ベロニカがメラミを放ち、ついに――
「やられたあ!」
という声とともにカンダタは倒れた。
「・・・これでカンダタ一味の主戦力を粗方削ぐことができた。明日彼らのアジトに乗り込もう。」
甲板に伸びているカンダタと三人の子分たちを前にイレブンが言い、皆が頷いた。
◇
翌日ダーハルーネに着いて街の自警団にカンダタ一味と彼らの乗っていた小船を引き渡した後、一行はルーラでソルティアナ海岸・船着き場に跳びシルビア号に乗り込むと、海賊たちのアジトだとされるデルカダール地方・南の島へと向かった。
近づいて行くと、島の西端の少し小高くなっている処に物見櫓が見えた。
「きっとあの櫓から見張ってる。矢が飛んでくるかもしれないからみんな気を付けて。」
イレブンが皆に警告する。シルビアに鱗の盾、セーニャにシルバートレイを装備させていたが気休めにしか過ぎない。イレブンもユグノアの鎧と兜を装備していざとなれば身を挺して仲間を庇う気でいたが――
「あっ!?あれを見て!白旗を振っているように見えるわ!」
ベロニカが物見櫓を指差す。目を凝らすと確かに白旗を振っていた。
「親分を失って戦意喪失したのかしらん?」
「フェイクかもしれないぜ。」
「油断は禁物じゃぞ。」
「どのみち、黒コショウを取り戻すためには上陸しなければならないわ。」
「気を付けて参りましょう。」
皆が口々に言い、シルビア号は慎重に島へと近づいて行った。
島に上陸し、時折現れる魔物を倒しながら警戒しつつ奥へと進んで行くと、櫓が見えた小高い場所の手前にある平地に幾つかの小屋が立ち並んでいて、ここが海賊の住処だと知れた。そしてその前に弱り切った顔で両手を上げて立っている、如何にも下っ端らしき貧相な体格の3人の海賊。武器は持っていない。
「依頼を受けて黒コショウを取り返しに来た。盗んだ黒コショウはどこにある?」
「もちろんお返しします。・・・さ、こちらへ。」
イレブンの問いに一人が答え、一行を小屋の一つに案内する。そしてメンバーのほとんどが小屋の中に入ったとき。
「きゃああああ!」
後ろでセーニャの悲鳴が聞こえた。皆が驚いて外に出ると、大男がセーニャの背後から彼女の首に腕を廻し、短剣を突きつけていた。
「セーニャ!!」
「まだ仲間がいやがったのか!」
「抜かったわい!」
「何て卑怯なの!」
「武器を捨てろ!さもねえと・・・ぎゃっ!!」
皆が怯む中、マルティナが電光石火の蹴りで大男の短剣を跳ね飛ばした。その衝撃でセーニャを捕らえている大男の腕が緩んだ隙に、マルティナは目にも止まらぬ速さで鬼神の如き蹴りを打ち込み、大男は白目を剥きドゥ、と倒れた。
「ヒ、ヒィ~~!!」
「どうかお助けを!」
「こ、この通り!」
マルティナがキッと睨むと小屋の扉から覗き見ていた三人の海賊たちは震え上がり、外へ転がるように出て一行の前に跪いた。イレブンは彼らから黒コショウを受け取り、気絶した大男を船着き場まで運ばせ、皆で海賊4人を縛り上げた。
「これで全員だとは思うけれど、念のため確認しよう。」
イレブンが言い、アリスに捕らえた4人の海賊の監視を頼むと再び仲間とともに島へと足を向けた。
探索したが、島はもはや無人だった。幾つかの素材、レシピブック「世界の指輪図鑑」を手に入れて船着き場に戻ったときにはすっかり暗くなっていた。
「目的は果たした。さあ、ソルティコに戻ろう。」
明るい月光の中、勇者一行――と海賊たち――を乗せて、静かな海をシルビア号は北西へと動き出した。
次もソルティコ。