「覚えているのはダーハルーネという、船に書かれた人間の文字だけ・・・・。」
海底王国ムウレアで女王の宮殿前にいた人魚から受けたクエストの手がかりはこれだけだった。この手がかりを基に勇者一行はダーハルーネの町にやってきたが・・・
「きゃっ!酷い雨ですわ!」
「これじゃ人探しどころじゃないわ!」
何組かに別れて人魚の“思い出の少年”を探しているうちに、俄かに空が暗くなり、激しい雨が降り出した。ペアになって行動していたセーニャとマルティナは腕を額に当てて目に水が入るのを防ぎながら辺りを見回す。
「あっ!あそこに宿屋がありますわ!」
「とりあえずあの宿屋に入りましょう。」
セーニャが『INN』と書かれた建物を指差し、マルティナはそれに頷いて二人は土砂降りの雨の中を駆け出した。
二人が宿屋に入ると、宿屋の受付スタッフはずぶ濡れの二人を見て驚いて駆け寄った。
「おやまあ、すっかり濡れて・・・」
「・・・夕方まで部屋を借りられるかしら?」
「ああ、空いてるよ。」
マルティナが濡れた髪を払いながら問うとスタッフはにっこり笑って答え、二人を二階へと案内した。
「部屋着が中にあるから、服が乾くまで着るといい。ごゆっくり。」
スタッフはそう言って階下へと去った。
「・・・暫く止みそうにありませんわ。」
「夕方まで様子を見ましょう。」
セーニャが部屋の窓から薄暗い外を見て呟くと、マルティナは暖炉に火を熾しながら答えた。暗くなる前に雨が上がり、集合場所であるドックに戻ることができればそれに越したことはない。火を熾すとマルティナは次にバスルームへ行き、バスタブの蛇口を捻って湯を溜め始めた。そして部屋に戻ると躊躇することなく次々と服を脱ぐ。
「マ、マルティナ様・・・」
一糸纏わぬ姿になったマルティナの、美の女神のような豊満な身体にセーニャが口に手を当てて目を瞠ると、マルティナがセーニャを見た。
「あなたも濡れた服を脱がないと身体が冷えて体力を奪われるわ。」
「は、はい・・・」
セーニャはマルティナに言われてアタフタと服を脱ぎ始めた。マルティナは脱いだ服を部屋の隅にあったハンガーラックに次々と掛けていき、セーニャの服も受け取って吊り下げる。
やっと燃え始めた暖炉の僅かな明かりが二人の女性の裸身を照らし出す。
――マルティナ様と比べたら、私は何て貧相な身体つきなのでしょう・・・。
居たたまれずに腕で胸と下腹を隠したセーニャに、
「部屋が暖まるまで時間がかかるわ。まだお湯が溜まっていないとは思うけど、バスルームに行きましょう。」
とマルティナが促した。
バスタブのお湯はまだ脛の低い位置までしか溜まっていなかったが、長い髪を部屋のアメニティにあったバレッタで上に留め、二人は暖を求めてバスタブに入り、向かい合って座った。浴室には擦りガラスの窓があったものの、外の悪天候で薄暗かった。二人は無言で腰の高さにも満たない、湯気も燻らないほど温いお湯をぱちゃぱちゃと身体へかけ続けた。
「少しは暖まったかしら?」
漸くお湯が胸辺りまで溜まった頃、マルティナが訊くと、
「ええ。随分暖まりましたわ。」
セーニャは温かさと心地よさに微笑み、マルティナも綻ぶように微笑った。蛇口を閉めてふと、窓の方に目を向ける。雨はまだ激しく窓を叩いていた。
「・・・お姉様や他の皆様はどうしているでしょうか・・・」
「きっと私たちのように雨宿りしていると思うわ。」
心配顔のセーニャにマルティナが明るく言う。ふいにシルビアが何もない空中から傘をぽん、と出してベロニカとロウに手渡すイメージが頭に浮かび、彼ならあり得るかも、とマルティナは思った。そしてイレブンは、と思い巡らせたとき――彼が白い雨のカーテンの中、海を臨むアーチ状の通路の壁にカミュを押し付け、熱烈なキスをしている処を想像した。
――十分ありえるわね。本当にあの子、カミュのことが好きだから・・・
「・・・そうですわね。皆様、お風邪など召されないと良いのですが・・・」
マルティナは空想を押し遣り、セーニャを見た。
「・・・そろそろ出ましょうか?」
「ええ。」
お湯を波立たせながらセーニャが立ち上がり、その拍子に目の前に晒された彼女の薄い下生えと秘所にマルティナはドキリとして思わず目を逸らした。視界の端でセーニャの白い脚はバスタブを跨ぎ、離れ、バスタオルを広げる衣擦れの音がした。
――お願い、動悸よ、鎮まって。この状況は偶発的なもの。いくら彼女が私を好きだとしても、彼女が望まないことをしてはダメ。
マルティナは手を胸に当て、自身に言い聞かせた。
*
――マルティナ様と、二人きり。
身体を拭き、ゆったりとした部屋着を着て部屋に戻ったセーニャは旅の仲間である美しい王女のことを想う。暖炉の炎は今では十分な強さで燃え盛っていて、部屋は随分暖かくなっていた。
――船上で、カミュ様と将来の約束をしました。けれど・・・
暖炉の中で踊る橙色の炎を見るともなしに見ながら、思う。
――今、恋しく思う相手とともに居て、何も阻むものはありません。そんな時・・・手を伸ばすのを躊躇う人がいるでしょうか?
結局のところ、カミュとの約束は秘密のものだった。彼を選ぶと公言したわけでもなく、マルティナとのデーティングも、イレブンとカミュの交際も今まで通り続いていた。
――いいえ、いるはずがありませんわ。
セーニャはグッと胸元で片手を握り締めた。
「マルティナ様っ!!」
セーニャはマルティナが部屋へ戻って来ると彼女に駆け寄り、抱きつき、性急に口づけた。最初は驚いたマルティナもすぐにキスに応え出す。そんな中、二人はベッドへ縺れるように倒れ込んだ。マルティナの艶やかな黒髪がシーツに幾筋も滑らかな流れを成す。
「ん・・・ん・・・セー、ニャ・・・」
「はぁっ・・・マルティナ様・・・」
セーニャが顔を離すと、マルティナはセーニャの腰を掴んで横に倒し、ベッドの上で向かい合った。雨脚はまだ強く薄暗い部屋の中、暖炉の炎が二人の輪郭を浮かび上がらせていた。
「・・・・セーニャ。あなたに、触れたい・・・。」
「マルティナ様・・・。私も、触れてほしいです。」
少しの間見つめ合い、そっと口づけると、マルティナはセーニャの部屋着の下衣に掌を滑り込ませた。
「あ・・・っ!いきなりそんな処をっ・・・!」
下着をつけていない陰唇をスルスルと撫でられてセーニャが震える。
「“処女”を傷つけるようなことはしないわ。・・・あなたも私に触って?」
「は・・・っ、マルティナ、様・・・」
セーニャが快楽に耐えながら震える手でマルティナの下衣の中に手を滑り込ませ、彼女の秘所に触れた。
「あ・・・ぁ!」
触れられてマルティナがビク、と身体を竦めたが、それでも手を止めることなくセーニャの秘所を愛撫し続ける。
「あ・・・」
「う・・・・ん・・」
暫くの間、息を詰めた喘ぎと密やかな息遣いが交差した。柔らかく温かいその場所はすぐに愛液が溢れ出し、二人の手指を濡らす。互いのヴァギナを一心に擦り合い、蜜壺の奥から波のように全身に広がる、疼くような快楽に翻弄される最中。
「あ・・・あ・・・!」
押し殺した叫びと共に、白い咽喉を仰け反らせ、セーニャが達した。マルティナは下衣から手を抜き、絶頂の強い刺激で動きが止まってしまったセーニャの手に手を重ねて自身の陰唇を扱くように擦る。
「く・・・ぅ・・・!」
程なくして身体をブルリと大きく震わせ、マルティナも絶頂を迎えた。甘く痺れる余韻に浸りながら、湿った息遣いとともに見つめ合い、暫く放心していたが、マルティナが先に我に返った。
「・・・私たちがイチャついてたなんて知ったら宿の人、卒倒してしまうかも。」
マルティナが片目を瞑ってペロ、と舌を出すと、セーニャが笑った。二人は絶頂の余韻で力の入らない身体を叱咤して起き上がり、ベッドを確認すると、愛液はシーツまで汚してはいなかった。二人は悪戯が見つからずに済んだ子供のように安堵してクスクス笑い合った。
「服が乾くまで裸で過ごすことになっちゃったわね。」
再びバスタブに湯を溜め始め、バスルームで部屋着の汚れを濯いでランドリーバスケットに放り込んだ後にマルティナがおどけて言い、セーニャが釣られて笑った。
二人はバスタブに先程と同じように向かい合って腰を下ろした。雨はまだ降っていた。
「・・・こちらに来て?」
お湯が溜まるとセーニャをじっと見つめ、マルティナが言った。セーニャは躊躇いがちに近づき、マルティナの伸ばした脚を跨いで座った。マルティナの目の前に、まるで差し出されているかのようなセーニャの清楚な乳房と可憐な蕾の如き乳首。
「あっ・・・」
マルティナがセーニャの胸元に口づけ、控えめな膨らみを揉みながら先端を親指で捏ねると、セーニャは思わずマルティナの肩を掴み、身を捩った。その反動でお湯がバスタブの縁からザーッと零れた。
「・・・あなたも触って?」
「マルティナ・・・、様・・・」
マルティナが顔を上げ、肩に置かれた手を自身の胸へ導くと、セーニャはおずおずとその膨らみを掴んだ。マルティナの張りのある豊かな乳房はセーニャの掌には納まりきらずに指の間から溢れる。そのあまりの柔らかさと気持ちよさにセーニャは夢中でマルティナの膨らみを揉みしだいた。
「・・・・ん・・・、気に、入った?」
マルティナが紅い唇から艶めいた吐息を零し、セーニャはハッと我に返った。
「あっ・・・、私ったら・・・!」
「ふふ、いいのよ。」
カーッと頬を染めたセーニャにマルティナが微笑む。
「キスして、くれる?」
セーニャは迷うことなくマルティナに口づけた。舌を絡ませ、味わいながら互いの胸を愛撫する。
「んっ・・・」
セーニャは自身がされたように親指でマルティナの乳首を捏ねると、彼女が震え、鋭く息を吸い込んだ。
――私の手で、感じてくれている。
そのことが堪らなく嬉しくて、夢中で乳首を捏ね繰り回す。
「ぁん・・・、も・・・う!」
「あ・・・!」
マルティナが自身の腿を僅かに開いて隙間を作ると片方の手を無防備なセーニャの秘所に滑り込ませた。一度イッたそこは敏感になっていて、優しく擦っただけでセーニャは切なげに眉根を寄せた。
「あ・・・マルティ、ナ様・・・、・・・」
マルティナは更にセーニャの胸の蕾の一つを口に含んで舌で転がし、もう一つをくりくりと指先で捏ねた。
「は・・・ぁ・・・っ」
敏感な三か所を苛まれて頽れてしまいそうになったが、セーニャはマルティナの肩に掴まり、震えながら堪える。マルティナは肩に食い込むセーニャの指先を感じ、舌と手の動きを一層速めた。
「マ・・・ルティナ、様・・・!そ・・・んな、に・・・された・・・ら、また・・・あぁ!」
ビクン!と身体を撥ねさせてセーニャが再び達した。身体を真っすぐにしていられなくなって、ぐったりとマルティナに抱きつく。マルティナもセーニャを抱き締めて滑らかな背を撫でた。
「・・・・はぁ・・・っ・・・。・・・マルティナ様。好き、です・・・。とても・・・」
「私も、よ。」
抱きついたままセーニャが言うと、マルティナが答えて彼女を優しく引き離した。刹那、見つめ合い、次の瞬間には再び口をぶつけるようにキスをして。雨が窓を叩く音と湯が零れる音に濡れた音が混じる中、互いの身体の至る処を愛撫する。
世界から隔絶されたような薄暗い浴室で、乙女たちはお互いしか見えなかった。
*
小降りにはなったものの、まだ雨は降っていて薄暗かったが、暖炉の炎が明々と燃える室内は十分に暖かく、セーニャとマルティナは暖炉の前に敷いたバスタオルに裸で寄り添って座り、一枚のブランケットに二人で包まっていた。
「・・・・私ね、」
暖炉の踊る炎を見つめて、マルティナが口を開く。
「幼い頃よりロウ様と旅をしてきて、お父様が変わってしまった原因をどうにかして突き止めたいと思って生きてきたわ。・・・・私にはその思いしかなかった。けれど・・・」
マルティナはセーニャに廻した手で彼女の腕を優しく擦った。
「・・・あなたに恋してからの私はまるで、心の中に宝石が輝いているような感じなの。」
「マルティナ様・・・」
こちらを見たセーニャの顎をマルティナが空いた手でそっと掴んだ。
「私の天使・・・。あなたといると、二人で手を繋いでどこまでも駆けて行けるような気になるわ。」
「マルティナ・・・様・・・」
セーニャの顔が熱くなる。
――ああ、マルティナ様とこの先もずっと一緒にいられたら、どんなに素敵でしょう。
だがそんな夢想は、彼女の心に響いた冷静な声に一瞬にして霧散した。
――セーニャ、忘れてはダメ。彼女はデルカダール王国の姫君。いつか別れるときが来ますわ。
「・・・こんな雨の中を?」
心の中の葛藤を欠片ほども見せず、セーニャが揶揄うようにクスリと微笑い、マルティナは頬を染めティーンの女学生みたいにむぅ、とむくれた。
「揚げ足取らないで。」
「ごめんなさい。」
ふふ、と笑い、甘えるようにマルティナの肩に頭を凭れ掛けさせる。
――マルティナ様。私はあなたの重荷になるつもりはありません。今のあなたの言葉だけで十分です。
爆ぜる炎をぼんやりと見つめながら、セーニャは思った。
どのくらいの時間が過ぎたのか。柔らかな橙色の光が窓から差し込み、部屋の中が急に明るくなって二人は我に返った。窓の方を見るといつの間にか雨が止み、垂れこめていた雲もまばらになっていた。
「雨が上がったようね。」
マルティナが立ち上がり、干していた衣服を確認すると、まだ湿ってはいたが着られる程度には乾いていた。二人は元の衣服を身に着け、階下に降りてチェックアウトし、宿を出た。雨に濡れて夕陽に煌めく街並みを二人連れ立って歩く。湿り気を帯びた風が快い。
「あっ!皆さまが!」
街の西端の通りへと下りる階段に差し掛かったとき、ドックの入り口の前で仲間が手を振っているのが見え、二人は笑顔で手を振り返した。
次はメダル女学園。