キスと手コキ ★
誰もいない仮眠室。パンツ一丁でベッドに腰を降ろして少女の来訪を待っている。
年甲斐もなく緊張していた。
(まるでラブホテルの一室でヘルス嬢を待っている気分だ……)
いや、気分どころか限りなくそれに近いシチュエーションだ。
プレイを希望して行為に及ぶ。これがデリヘルでなくてなんだろう?
「犯罪だな……」
相手が商売女ならまだいい。その日限りの関係であるし、例え嬢が風営法に引っかかる年齢だったとしても「私は知りませんでした」と言い訳できる余地がある。
だがこれから会うのはよく知っている相手……。艦娘という名の部下であり、短くない時間をともに過ごした間柄だった。勿論、彼女が行為に及ぶには若すぎる年齢ということも知っている。
自分は提督で、相手は秘書艦。許されざる関係だった。
「……ふう~」
どうしてこうなったのだろう……本来ならそう頭を抱えるべきだろうが、不思議と罪悪感はあまりなかった。自分はこの奇妙な状況を受け入れつつある。関係を持つのが二度目ともなれば慣れるものなのだろうか。
それに正直にいってしまえば自分は彼女に惹かれていた。部下でなければいいのに、と考えたこともある。だがそんな本音は口が裂けても言ってはならなかった。なぜなら本気で想うには若すぎたからだ。
彼女は駆逐艦――つまりは中高生の年齢で、自分とは世代が離れすぎている。犯罪と後ろ指をさされても仕方ない。
がちゃり
やけに大きな音をたてて仮眠室のドアが開いた。
おずおずといった様子で三つ編みの少女が顔を覗かせる。
「あ……えっと、提督……」
気恥ずかしさを含んだ声を零しながら、楚々とした足運びで入室してくる。
すらりと伸びた脚、たおやかな肢体、愛嬌のある目尻によく見ると幼さを残した顔立ち。
思わず喉がなった。
(夕雲……だ)
私のよく知る夕雲が入り口に立っていた。
着任からずっと一緒にやってきた私の秘書艦。笑顔もむくれた顔もよく知っている私だけの部下が今は緊張と恥じらいに戸惑い、伏し目がちにこちらを伺っている。
服装もいつもと違った。今の彼女は黒を基調とした楚々とした制服の上にフリルがふんだんにあしらわれた白いエプロンをつけている。いわば特殊な形態のサービス業や飲食店でしか見られないメイド服と呼ばれる衣装を身に着けていた。
今の彼女は鎮守府の業務をこなす秘書艦ではない。男に奉仕する女として立っている。
「あの、黙って見られていると、なんだか恥ずかしい……です」
困ったような笑みに、私は未だに声を出せなかった。
喉が渇いてしかたなく、思春期の少年のように緊張してしまう。
「提督……? その、何か言ってほしいのですけど……」
「ああ、悪い……。なんと言ったらいいか……」
「ん……。なんですか?」
「その、なんだ……いいと思う……とても……」
「ありがとう、ございます……ふふ、ちょっとヘンな感じですね」
年甲斐もなく言葉に詰まってしまった私を見て夕雲は少しわざとらしく笑った。ころころと、透き通るような声を甘く響かせる。
「……ねえ、提督。この衣装、似合っているでしょうか?」
声もなく頷くと、夕雲は微笑みながら後ろ手でドアの鍵を閉めた。私と夕雲、二人だけの密室。仮眠室の防音は完璧で、ブラインドのかかった窓は小さく、誰かに覗き込まれる心配もない。何をしても露呈しない。誰の邪魔も入らない。
「似合っているよ」
たくさんの同型艦たちに慕われ、姉のように世話を焼いていた優しい少女が、今この瞬間だけは私のためだけに媚びる顔をしている。それまで私の中に積み上げられていた彼女へのイメージ……温和で模範的な、いわば優等生的な立ち振る舞いとはまるで違った。
「この服、ハロウィンの衣装をいじってみたんです。裁縫は得意なんです。ほら、上手にできてるでしょう?」
「ああ……いいな。本物みたいだ」
「お気に召しましたか?」
言いながら、夕雲は一歩ずつ私に近付いた。
ベッドに腰掛けている私に身を寄せて、隣にふわりと収まる。ベッドが少し沈んで夕雲に寄りかかりそうになる。ふんわりと甘い匂いが漂った。
「男の人ってこういう格好がお好きなんでしょう? 提督もきっとそうだと思って、作ってみたんです」
「そうか……。それは、なんというか……」
夕雲はためらいなく私の左腕を抱え込む。密着して、腕から肩へとなぞるようにゆっくりと顔を伸ばした。
潤んだ瞳に私の顔が映っていた。
「どう、ですか? 教えてください。大丈夫、私しか聞いていませんから、ね……?」
「ああ、そうだな……」
瞳に吸いこまれるようで目を離せない。少女の甘い体臭にどうしようもなく興奮を催されてしまう。
「すごく、いいと思う……。上手にできていて、似合っていて……」
思考まで飲みこまれ頭の奥がじんわりと熱を帯びてくる。目の前の少女は私の記憶にある誰よりも煽情的に思えた。
「とても、似合っている……。か、かわいい、というべきか、綺麗、というべきか……」
望まれるまま言葉を吐き出していくしかない。
「うまく言えない……。この感情がどういうものなのか……。正直、困惑している……」
「それだけじゃないでしょう?」
蛇にからめとらていれる気分だった。
「夢、のような心地なのかもしれない……。こんなことが許されていいのか、あっていいはずがないという気持ちがまだある。しかし……すぐ隣にはキミがいる……」
「現実ですよ」
瞳が優しげに細められた。
夕雲は私の左腕を強く抱きこんで、柔らかな弾力と仄かな体温で主張する。
「私はここに居ます。あなたのためだけにここに居るんです」
耳をくすぐるような吐息が耳朶に絡みつく。
「私のため……?」
「そう、あなたの」
「私の……」
「あなたの。そう、あなただけの、夕雲です」
「私の……夕雲……」
「だから、何をしてもいいんです」
受容であり、誘いであった。放っておくことなどできなかった。おずおずと掌を少女の柔らかな頬に添えると安心するように目が細められ、私の頭はまた痺れる。吸い付くような肌だった。きっとここだけではない。いや、事実そうであることを私は知っていた。そう、夕雲の肌はどこも潤いを含み、艶やかなのだ。
夕雲はゆっくりと目を閉じる。
「どうぞ」
待ち望んでいた言葉だった。
丁寧に、力強く引き寄せる。
唇の湿った感触が合わさって、すぐに弾力が返される。始めは閉ざされた表面をそっとなぞるように滑らせて瑞々しさを確かめた。
「ふっ、ん……んん」
思考がとろけるようだった。生温さにいつまでに浸っていたくなる。夢か現実か、もはやどちらでもよかった。なんてことはない、私はずっとこうしたかっただけなのだ。
「……っふう。ん……ふう。っふふ」
座ったまま抱き合って、見詰め合う。
ずぶずぶと飲みこまれていくようであり絡みとってしまいたくもある。私は熱に浮かされた頭でぼんやり考えた。
ずっとこうしたかった。昨夜から、あるいはもっとずっと以前から。しかし彼女のような若く聡明で女性としての魅力も芽吹きつつある、いわば才色兼備が形を得たような青い果実を抱くなど本来発想すら許されるものではない。禁忌の域だ。彼女の相手役が務まるのはドラマに登場するような好青年であるはずで……私のようなうだつのあがらない男が手を出していいはずがない、ずっとそう自分に言い聞かせてきた。
だが、なぜか。どういうわけだか未だに実感がないけれど、昨夜、私は彼女に手を出した。
しかもその夢の時間は昨夜だけで終わらなかった。今日になっても続いている。私の認識はずっと曖昧なまま……醒めない夢の中にいる――
「はぁ、はぁ……」
「あ、ふ……」
夕雲と見つめ合う。
ブラインドから差し込む夕陽が眩しかったが、閉じるために身体を離す間さえ惜しい。
じりじりとした熱気に焼かれ、脇の下を一筋の汗が垂れるのを感じた。
「あの……提督? これからどうします?」
「手で……してほしい」
「手で、ですか……?」
「ああ」
「もしかして、あの……昨日の……気持ちよくなかった、ですか?」
「違う。そうじゃない」
「だったら……」
「まだ本調子じゃないだろう」
「え?」
「キミは、初めてだったから」
夕雲は微笑を浮かべる。
「お優しいんですね。……でも大丈夫ですよ。一日も経てば平気ですから」
「そういうわけにはいかない。キミはまだ……若いんだから」
「あ、そういう言い方するんです?」
「なんだい」
「私のせいにするんです? 提督がしたいって思ってくれてるんじゃないんですか?」
「それは……」
「ん、どうなんです?」
「思っているさ」
「……っふふ。すいません、意地悪でしたね。大切にされるのは嬉しいですよ」
「そんなんじゃない。私は、ただ……」
彼女を手放したくないだけ。
痛みを二度も続けて与えてしまえば、性行為に嫌気がさすかもしれない。気が変わって私とはもうしたくないと言い出すかもしれない。
それだけはごめんだった。
私はこの奇跡のような関係を続けたい。何日でも、何週間でも、可能な限りいつまでも……。そのためには安易な劣情に身を任せてはならない。そう、私はリードすべき歳上の男であり、彼女をもてなさねばならないのだ。与えるべきは快楽と安堵、そして満足感。万が一にも逃げ出そうなど思えないように悦びの沼に引き摺りこんでいくのだと内なる獣が囁いていた。
「じゃあ……提督? 恥ずかしいですけど、その、あれです……手、コキ? しますか?」
「ああ……」
「では、下着……脱がしますね?」
失礼します、と言いながら白い指を伸ばしてくる。
するり、と下着のゴムに触れられて、為されるまま腰を持ち上げる。すぐに下着は下ろされた。
私はすでに勃起していた。
ごくりと唾を飲み下したのはどちらだったか。夕雲はまじまじと私のモノを見つめている。膝の上に置かれた指は強く握りしめられていた。少女は私の視線に気付くと誤魔化すように照れ笑いを浮かべた。
「……提督? ここ、触りますよ?」
おずおずと掌が添えられる。
「ん……あったかい」
瞳が再び私を映す。
彼女は……まだ手コキの経験が無い。指示を求められている。
しかし私は敢えて何も教えなかった。
「今日は好きにしなさい」
「好きに……ですか?」
「気持ちよくしよう、などと考えなくていい。慣れるんだ。今日はそれだけでいい」
「そうですか? 私としてはちゃんと気持ちよくなってもらいたいですけど」
指を這わせ始める。
「ではこういうのはどうです? 私は好きにやりますから、気持ちよかったり痛かったりしたら教えてください」
「構わないよ」
片手が私の内腿へ添えられて、もう片方は肉棒を上下に擦り始めた。
さわさわとした感触がこそばゆい。根元から幹へ、くびれを伝い、亀頭で折り返される。時折軽く握られる。
その間、夕雲はじっと私の顔を見つめていた。
「ちゃんと気持ちいいから」
「ほんとですか?」
「嘘じゃない」
「むう。『初めてならこんなものだろう』って言われてる気がします……」
夕雲はするりと身体を滑らせて更に密着する。私の腕に抱きついて、私の性器を丁度よい力加減で握る。そのまま一定のリズムで上下させてくる。
「う」
性器の歪な形に沿ってたおやかな指が這っていく。片時も離れずに擦り続けられるとじんわりと熱が篭っていくようだ。
「提督、ちょっとえっちな顔になりました……」
じっと見つめられている。
少女は柔らかな頬肉が私の肩に押しつけられ、ささやく吐息が耳をくすぐった。
「気持ちよく、なってますか……?」
私は正直に「ああ」と答えた。
「ん、ふ」
悪戯めいた笑み。
上へ、下へ。上へ、下へ。ペースはそのまま。
「提督、すごい。なにか、どんどん……出てきてます。これ、先走り、っていうんですよね」
粘性の音が上下の動きに連動してにちにちと部屋に響いた。少女の吐息と混ぜ合わさって私の理性をますますとろけさせていく。
「匂い、します」
すぅぅ、と臭気を吸いこんだ。
「男の人の匂い……」
夕雲のピアニストを思わせる華奢な指がぬらついていた。私の先走りが塗りたくられているさまに暗い情欲を煽られる。抑えようもなく性器が硬くなってしまう。溶け合うように触れている少女がそれに気付かないはずがない。「あは」と茶目っ気のある笑みを浮かべた。
いつの間にか快感は大きなものになっていた。少女の白く可憐な指が休む間もなく私を責めたてて、時折、裏筋だけに円を描くアクセントがつけられる。
「上手だ……」
「ん……んっ、んっ」
うっとりとした表情で、
「感じてくれてます?」
「ああ」
「ふふ、嬉しい」
手が動く。延々と指が這う。穢れを知らなかった少女の瑞々しい指が劣情に染まっている光景から目を離せない。息苦しささえ覚える。
どうにも耐えがたく、夕雲を更に抱き寄せた。収まりのよい箇所を探してメイド服に指を這わせて皺を作っていき、やがてスカートへと辿り着く。極端に短い裾をめくって奥へと潜りこませるとしっとりとした肌が吸いついた。
たまらず、揉み解す。
「ん……」
私の節くれだった指が押しこまれた分だけ甘い吐息を漏らす。
夕雲はコツを掴んだのか、指で輪を作って肉の棒をくぐらせてきた。
「提督……、ココ、なんて呼んだら、いいですか?」
「ここ?」
「おちんちん、でいいですか?」
「ああ」
「おちんちん……、ふっ、ん、おちんちん……」
密着する少女の身体は熱い。間を隔てる衣服が邪魔だったが脱がせるために一時だって離れたくない、そう思わされるほどに追いこまれていた。これも彼女の才能なのだろうか。手でするなんて初めてのはずなのに、淫靡に微笑む少女から目を離せなかった。メイドの姿をした子悪魔かと思う。
手管を教えこむはずだった処女同然の少女に翻弄されつつあるのが少し悔しくて、思わず細い顎を持ち上げた。
「んんっ」
戸惑う唇にキスをする。舌先を尖らせて唇の隙間に捻じこんで、なぞり続けるとやがて遠慮がちに開かれた。より奥へと侵入して口内をねぶる。甘酸っぱい唾の味、隙間から漏らされる喘ぎ声。奥で縮こまっていた小さな舌を捕まえてなめくじのように絡ませる。
「ふ、っん、はむっ」
手コキが止まっている。
小ぶりな尻を搾るように揉んだあと軽く叩くと身体をぴくりと震わせた。手の上下運動が再開される。その間もディープキスを続けた。口蓋をくすぐるように舐めてみる。互いの唾液が入り混じり、熱の境が曖昧になってきた頃合に、私の腿の上で握りしめられていた夕雲のもう片方の手を捕まえて指を一本ずつ恋人のように絡ませる。
捕まえた。口も手もどちらも自由を奪った。抱きしめる力を更に強めてお前が欲しいと言外に知らしめる。
キスの音が激しさを増していく。私の性器を擦る少女の指が更なる情熱を帯びて這い回る。
にちゅ、くちゅくちゅ
唾液まみれにして、舐めている。先走りで穢している。
情欲が鼓動のたびに広がっていった。何重にもなって頭の中を駆け巡り、めまいに似た衝動が正気を塗りつぶして叫びをあげた。
この少女に塗りつけたい。
自分のものだとマーキングしたい。
みっともなく腰を浮かせて少女の瑞々しい掌に肉棒を押しつけて、揃えられた指が形作る粘液まみれの生暖かい管に狙いを定めて亀頭を擦りつけた。
「――っ」
背筋が焼けて、白くはじけた。
絶頂。かろうじて声は出さなかった。
性器をびくりびくりと震わせて弾丸のように精液を撃ちだしている。嵐のような快楽に満たされてどうしようもなく無防備な顔を晒した。
(こんな、ずっと歳下の、少女に――っ)
掌に射精する。手など孕ませようもないのに、情欲に突き動かされ肉棒の先端を押しつけ続けた。少しでも奥へ、という浅ましい雄の動き。全て見られている。
「っは、あ――」
「あ、ああ、あ、すごい……出てます……。提督、どろどろ……」
夕雲が熱に浮かされたように呟く。
「あつい……。ほら、手にこんなに……」
大人としてあるまじき醜態を、なぜか隠す気になれなかった。むしろ曝け出してしまいたい。庇護すべき少女に自身の全てを受け止めてもらいたい……そんな普段なら忌避したはずの欲望の解放を、気だるい疲れにまどろむ今は心地良く感じていた。
「気持ちよかった……ですか?」
「とても……」
「よかった」
艶のある笑みを浮かべ、夕雲はぼんやりとした表情で掌を持ち上げる。そこに溜められていたのは白濁した液体。そのどろどろの粘性に私は一瞬だけ自己嫌悪に陥るが、
「――」
潤んだ瞳が催促していた。
“これ”をどうしたらいいか教えてほしい、と――
ごくり。
性器が再び硬くなる。
(ここまできて遠慮もなにもあるものか)
夕雲はうっとりと私に身を寄せたまま、精液を掌の上でとろとろと揺らめかせている。頬をほんのり上気させ、僅かに開いた唇から艶めかしい舌をちろちろと覗かせる。少女は続きを望んでいた。
夢。夢の中にいる――
もやのかかった思考のなかで私は思ったままの言葉を口にした。
「味を確かめてみるといい」
「はい――」
少女の薄紅色の舌が伸びていく。
私は熱に浮かされた思考の片隅で、この淫靡な夢が始まったきっかけを思い出していた。
あれは一昨日の夕方のことだった。