例えばだ。
嘘告白というやつがある。
クラスの高嶺の花に告白されて、有頂天でオッケーしたら、『ドッキリ大成功!』とにやけ顔の取り巻き連中が出てきて笑い者にされるという、漫画とかでたまにみるアレだ。
つい最近読んだWeb小説では、ソレをされて気持ちが冷めたと幼馴染みの少女に乗り換えざまぁをかましていたわけだが、僕に言わせれば、その幼馴染みの悪辣さよりも主人公の自意識過剰の痛々しさのほうが気になって仕方ない。
彼はいったい自分のことを世界何位の男だと思っているのだろう?
一位ではないことだけは自覚すべきで、であるならば、相手が妥協まじりの感情で告白してきていることも承知して然るべきだ。
100%の好意ではない。
今、あるいは近い未来も含めた時間軸で繋がることのできる人間関係のなかで、最も都合の良い相手として選ばれた――そう知っておけば、100%前のめりの気分で了承したりなんかしない。明日には別の良い男を見つけたからとフられる覚悟を備えておける。
となれば、告白一秒後に「やっぱ今のなしで」とされても深手は負わないし、なんなら嘘告白だったとしても「だよな~、知ってた(笑)」と平然顔で切り返すこともできる。
要するに、何が言いたいかと言うと、異性が急接近してきても運命の恋人がきたと有頂天になってはいけないということだ。
ある程度の冷静さは保ちつつ、時間をかけながら互いの認識を擦り合わせていく。それが大人の作法というものなのだから。
――と、いうわけで、僕は玉波と並んで歩いている。
あくまで勉強をするために。
彼女とはそれなりに親しい仲ではあるけれどいつも間には涼波がいた。二人きりで出かけるほどの関係ではない。なのに今日は距離を詰めてきて、あまつさえ僕の部屋を訪れるという提案にも上目遣いで小さく頷く様子を見せた。
これはもう、アレではないだろうか。
そういうことなんじゃあないか?
玉波のフランス人形のような造りの横顔にちらりと目を向けながら、密かに思う。
玉波にフェラしてもらいたいぃ~~!
フェラ! おしゃぶり! 舐めて咥えてぐっぽぐっぽじゅるるりズブビビバババどぴゅっ!
ピンク、ピンク、ピンクの未来演算だった。
美少女揃いの夕雲型のなかでも際立って精緻に整った顔立ちの玉波の白絹のような肌に一点浮かぶ薄桃色のふっくらとした唇はまさに未踏の雪原に他ならず、そこに僕の逸物が接触と侵入を果たす可能性が1%でもあるなんて信じがたい奇跡だった。期待とともに血流がどくどくと海綿体に流れこんでいく。まずい。まだ早いぞ。マンション手前の歩道にいるのにチンコがチャージアップし始めてしまった。てめえこの馬鹿息子、今この瞬間が僕の人生における運命の分岐点ベストスリーになることは間違いないっていうのに軽率な半勃起をしてるんじゃあない。未曾有のチャンスが消し飛ぶぞ!
そうだ、僕は今、モテ期という名の確変タイムに入っている。間違いない。昨日のアレをアレするシコシコしゅっしゅっからボーナスRASHが発生したのだ。出玉出放題の至福の時間、これを逃すなんて生物繁栄の原理に対する冒涜だ。取れるときは取れるだけ取る。あわよくば更にその先の本番という名の栄光まで。
だが、ああ、なんということだ。まだ何も確定していない。
今がチャンスタイムであろうと大当たりを逃す可能性はゼロではないのだ。むしろ高いかもしれない。何せ相手は未成年、怖じ気づくこともある。というかそもそもまだはっきりとした合意を得ていなかった。今、僕が玉波と並んで僕のマンションの自室へと歩いているのは、あくまで“勉強”のため。それがエッチなお勉強会である確証がない。畜生!
くそっ、どっちなんだ?
勉強、勉強とはいったい……。
しかし嘆くには早すぎる。仮に玉波にその気がなくても、チャンスはあるのだ。
普通の勉強が始まってしまってもそこから何気ない会話を交えながら距離をつめていき彼女をその気にさせてしまえばいい。雄度が問われる場面だ。思春期の美少女に口淫をさせるためには挑戦するしかない。
嘆く。タイムマシンさえあれば。
30分でいい、その猶予さえあれば未成年を言いくるめてしゃぶらせるためのテクニックを予習できたのに。あるいは今からでもYouTubeで『メンタリスト 未成年 フェラさせる』と検索してみるべきか……? さすがにまずい、だろうか? そうだ、せっかく二人でいるのに歩きスマホをするのは悪手だ。悪手でしかない。僕に残された道は、ヒントなしで、この瞬間に持ちうる人間力の限りを尽くして希望の未来に繋げていくしかない――!
この間、実に2秒!
僕が決意を固めるのに要した時間だった。
「――タマはさ、お休みの日って何してる?」
「休日、ですか?」
「そう。趣味とか、日課とか、何でもいいから」
「大したことはしていませんけど……。どうして急に?」
「せっかく二人きりなんだからさ、色々教えてほしくてね」
「そ……うですか? でも私、面白いことなんて、別に――」
玉波は、たどたどしく言葉を繋いでいく。
僕の相槌に促されるように自己開示していくが、どうにも無難なことばかり答えようとする節があった。時につっこみ、からかってみると、玉波は声を上擦らせ、言葉を詰まらせる。
もしかすると彼女は異性に真正面から興味をもたれるのに慣れていないのかもしれない。
「ところでタマって、筋肉フェチ?」
「違います」
即答。
澄まし顔のまま歩いているが、どこか白々しい響きがあるような気がした。
疑わしげに眺めていると、玉波は「その、」と小さく零し、一瞬ためらってから、おずおずと切り出した。
「涼が言ってたんです。お兄さん、気痩せするタイプだって」
「そうかなぁ。ジムに行けばもっとすごい人いるよ?」
試しにワイシャツの袖を捲り上げてみると、玉波は小さく「あっ」と声を漏らした。
目を離せないといった様子だ。露わになった僕の二の腕を凝視している。
不思議に思い、冗談半分で力瘤を作ってみる。
「ああ……」
な、なんだろう。
女子ってこういうのが好きなのか?
そういえば、聞いたことがある。一部の女性は、男のごつごつした手の甲の血管や、車をバックさせるときに後ろを振り返って伸びている首元を見るのが好きだ、と。
僕には理解できない領域の話だが、あれだろうか。男から見た女性の胸元や太腿にあたるエッチポイントなんだろうか。
「触ってみる?」
「えっ」
信じられない、とばかりに目を見開く玉波。口元に手をあてて、まるで卑猥なモノを見せつけられた清純な女子中学生のような反応をする。
悪ノリのつもりだったけど……更に突いてみたくなってくる。
「ほら、どうかな。ちょっと触って感想聞かせてよ」
「え、あ、そんな」
「だって興味津々って顔してる」
「いえ、その」
「興味ないかな? ホントに? 本当のホントに?」
玉波は俯き、しきりに髪をかきあげる。
うっすらと桃色に染まった耳がどうにも目を引いた。
すごくいい形だ。
僕は耳フェチではないけれど、思わず写真に撮って額縁に入れて飾りたくなるような奇跡の造形をしていると思った。本来、耳という器官は歪な形をしているはずなのに、どうしてこうも美しいと思えるのだろう。耳たぶや外側の縁に触れ、揉んだり握ったりしてみたくなる。
「じゃあ続きは部屋でしようか」
僕は自分に言い聞かせるつもりでそう言った。
玉波とともに足を止め、聳え立つマンションを見上げる。
正面にはエントランスがある。オートロック形式で、住人や許可された者以外は入れない。つまり、一度入ってしまえば誰にも邪魔されないということだ。
「勉強、楽しみだね」
玉波の細い喉がこくりと上下する。
「お邪魔します」
玉波はしずしずと部屋の敷居を跨ぐ。
クッションを用意して座らせて、珈琲を用意にかかった。
キッチン越しに声をかけ、会話を続けていると、彼女について知らないことが思ったよりも多いと気がついた。
彼女に興味がなかったわけではない。
玉波は美しく、大人びている。佇まいも品がある。良いところのお嬢様といった風情で、僕のような普通の男が必要以上に関わってはいけない存在のように思えていたのかもしれない。
でもこうして話していると、彼女もまた一人の女の子でしかないと分かる。
テレビ番組も観るし、漫画だって読む。
ファッションや美容に気を遣いつつ、異性から見たらどうなのかを知りたがる。
けして天上の存在ではない。
そうと分かれば好奇心が顔をだしてくる。彼女が好ましく思うこと、興味が向くところ、情熱を注いでいる分野を知りたくなってくる。
聞けば聞くほど玉波は表情を緩ませ、可愛らしい女の子らしく照れたり慌てたりした。それがどうにも面白く、僕も前のめりになって普段は聞かないようなつっこんだ話まで振るようになっていた。
「お兄さんって結構喋る人だったんですね」
「どうだろう。今日はちょっと浮かれてるかもしれない」
「どうして……」
「知りたいんだ。キミのこと」
これまで勝手に距離を感じて当たり障りなく接していたのに、家に連れこんで二人きりになれた途端に親近感を覚えてしまうのだから現金なものだ。でも勘違いでなければ玉波もそう思ってくれているように感じる。
ローテーブルを挟んで、俯きがちになってしまった玉波を眺める。
一つ、決めていたことがあった。
彼女に対して遠慮しない。不躾だろうと距離を縮めるための手立てを躊躇わない。
僕がペースを握り、彼女について掘り下げていけば、何かが出てくるという直感がある。拒絶され信頼を失う可能性もある。けれど金鉱脈を見つけられるかもしれないとあれば、突き進むしか道はない。
「ところでさ、スズはどう説明してたの?」
「どう、とは?」
「ほら、さっきの、僕が筋肉あるってハナシ。スズには見せたことないんだよね。タマにどう説明したのか、教えてほしいな」
「ええ、と」
「正直に言ってほしい」
ローテーブルを回りこみ隣に座ると、玉波はぴくりと肩を震わせた。
触れそうな距離から僕を見上げてくる瞳は、追いつめられた子犬のようだ。
涼波がどうやって僕に「意外と筋肉がある」ことを知ったのか?
答えは一つしかない。
昨日、この部屋で、だ。
手コキをするときに彼女は僕の右腕に抱きついていた。その時の感触で知ったんだろう。
だから玉波に伝えることができた。もちろんエロい経緯は省かれていたかもしれない。でもどうやって知ったのかという話にはなったはずだ。
涼波が上手く誤魔化したという線も捨てきれない。
しかし僕は彼女たちの友情を信じることにした。涼波は、問われたら秘密にしないだろう。
「本当は全部知ってるんだよね?」
細い指がスカートの裾をきゅうと掴む。
可哀想なほどに眉を下げ、瞳を潤ませている姿に、何か得体のしれない感情が湧きあがってくるのを感じた。
「スズが昨日、ここで何をしたのか。知ってるね?」
「……知って、います」
「キミはそれを全部知っていて、それでもここに来た」
「……はい」
「何かされるかもしれない。分かってるはずだ」
「はい」
…………。
………………。
え。
今、はい、って言った?
マジで?
「僕はてっきり糾弾されるのかと思ってた。スズに変なことをするなって」
「違います。お兄さんは、大人だけど、歳の差があるからいけないとは思いません」
「そっか。じゃあますます不思議だな。キミがどうしてここに来たのか。ねえ、タマ。ちゃんと自分の口で言ってごらんよ」
嘘だろ、おい。
これって現実? そういう流れ?
いけるの? いけちゃうのか?
「わた、私は……。私も涼も、お兄さんのこと、いいなって思ってて。どうしたらいいかずっと分からずにいました。けど昨日、涼が、「いけそうだからいったらいけた」って言ってきて……」
おいおいおい。
「玉も遠慮することないって、言ってくれて。玉ならいけるから、今日すぐいってこいって、言われてしまって。それで」
「そっか。分かるよ。うん。よく分かる」
分からない。全然。
思春期の少女たちの友情。恋愛。異性への興味。
そして鎮守府という閉鎖された環境。異性と接することのできる限られた機会。
それらが合わさるとこんな展開が導き出されるのか?
「キミたちはね、一つも悪くないんだよ。だって人を好きになるって感情が悪いわけがないじゃないか。なのにそれが被った瞬間、どちらかが涙を飲まなきゃいけないなんて、そっちの方がおかしいだろ?」
「そう、でしょうか。こんなの変ではないですか?」
「変じゃないさ!」
言いながら、脳内では混乱の嵐が吹き荒れていた。
涼波が僕を好き?
玉波も僕を好き?
うそーーーん!?
モテ期というにはあまりにもアルファ雄の住む世界だった。
しかも相手はただの女じゃない。アイドルだって張れそうな美少女に、二人同時に好かれるなんて! 信じられない。僕の前世は渋沢栄一か、あるいはルーデウス・グレイ〇ットだったのかもしれない。おお、神よ! 運命を感じずにはいられない!
「例えば僕らのいる場所が無人島だったなら? 僕ら三人だけの無人島なら? 二人と一人に分けたりしないだろう。三人で仲良く暮らすに決まってる。それがちょっと大人数になったからって変わるわけがないじゃないか。まして誰にも迷惑をかけてないんだから」
「でも、でも……お兄さんは、いいんですか?」
「もちろんさ!」
今日一番の本心だった。
恋愛。未成年。職場の人間関係。それらを噛み合わせた最適解など知ったことではない。
僕はエッチなことがしたい。
涼波ともしたいし玉波ともしたい。どちらともしてよいならば是非もない。
我が青春の興廃此の一戦に在り、全神経奮励努力せよ!
「僕はタマが好きだ。スズも好きだよ。悪いとは思うけどね、男ってそういう生き物なんだ。大丈夫、全部任せてくれていい。後悔はさせない」
「お、お兄さん」
「違うだろう? 今の僕は“お兄さん”じゃあない」
ローテーブルの真ん中に置かれている、とあるDVDのパッケージに目を向ける。
玉波が気付いていなかったはずがない。
こくりと唾を飲みこんで、その時が来たのかと僕を潤んだ瞳で見上げる。
「キミは“勉強”をしにきた生徒だろう? 誰に、何を教えてもらうのかな?」
「私は……センセイに、色々、色々な、ことを……」
「ちゃんと言いなさい」
「えっちな、ことを、教えてください」
「よく言えたね」
やった!
やった~~っ!