野球部キャプテンの俺が菜食主義女子マネージャーに肉を食わせるまで 作:馬門戒明/輪島ライ
俺の実家は高校から少し離れた所にある焼肉屋で、創業者は父親なので一人っ子の俺は大学を卒業すれば二代目店長になることになっている。
俺は焼肉も焼肉屋の仕事も好きだから小学生の頃から実家を手伝ってきたし、焼肉のカロリーを消費する意味合いと店長になるための体力をつける目的で少年時代から野球を続けてきた。高校の野球部はそれほど強くはないが弱くもなく、このまま真面目に頑張ればスポーツの実績で有名私立大経営学部の総合型選抜入試を受けられる手はずになっている。
実家の焼肉屋には子供の頃から友達を連れてきたし、中学生になってからは団体料金という名目で野球部の仲間たちに割安の値段で焼肉を振る舞って感謝されてきた。
そんな中で俺が衝撃を受けたのは、今年の4月に入部してきたかわいい女子マネージャーが菜食主義者だったことだ。
「へえー、牧村さんは菜食主義者だったのか。知らずに焼肉屋に連れてきてしまって申し訳ないな」
「いえいえ、私は菜食主義ですけどヴィーガンって訳じゃないので冷麺とか卵クッパは全然食べられますよ。このチョレギサラダも美味しいです」
「牧村さん、お肉は僕らが全部引き受けるから今日は好きなものを食べてくれればいいんだな、ここはキャプテンの実家だし全然気にすることないんだな」
「山田、お前はむしろ牧村さんを見習ってもうちょっと野菜を食べなさい。親父、今日の冷麺はいつもより丁寧に頼む」
「おうよ! かわいい女子マネに味わって貰えりゃあ何よりだ!!」
あの頃は名字で呼ばれていたななこは新歓の食事会で連れてこられた焼肉屋で肉を全く食べておらず、他の部員が注文したナムルやサンチュをつまみつつチョレギサラダをおかずにチャーシュー抜きの冷麺を食べていた。
小柄で細身ながら出る所は出ているのは冷麺を何杯も平らげている食事量によるものとは分かったが、俺はこの世界に焼肉屋に来て肉を一切食べない人種がいるという事実を目の当たりにして衝撃を受けていた。
ななこは
とはいえ食事の事情は人それぞれなので、俺は当然ななこに肉を食べるよう強制することはしなかった。
しかし……
「さあ、そろそろホルモンが焼けてきたぞ。ミノとコリコリは箸休めにちょうどいいし、シマチョウの焼き加減はプロでないと分からない。まずは俺が食べてみよう」
ちょうどいい
もぐもぐと咀嚼して濃厚な肉汁とほどよい噛みごたえを味わっていると、ななこが口をぼーっと開けて物欲しそうに俺を見ているのに気づいた。
「ん、どうした? 牧村さんはホルモンは食べられるのか?」
「いえっ、違います! キャプテンが本当に美味しそうにお肉を食べるので、私ももし食べられたらなあって思って……」
「牧村さんはかわゆいんだなあ、僕があーんってしたら食べてくれるのかなあ」
「山田、セクハラの罰としてお前は今日はホルモン抜きだ」
「そんなー」
他愛のないやり取りのようだが、それから長い時間を過ごす中で俺はななこの本当の思いに気づいていた。
だからこそ、俺は……