ギャラクシー・ジャーニー 宇宙騎士キタリヴァン 作:馬門戒明/輪島ライ
ナタリアさんと一緒に浴場を出た僕は宇宙船に常備されているという子供サイズの服に着替え、キタリヴァンが作っていた夕食をナタリアさんを交えた3人で食べた。
ヒューマロイドは人間と同様の食事でもエネルギーを補給できると聞いてはいたがクリームパスタを口に運んでいるナタリアさんの姿は普通の人間の女性にしか見えず、この人が機械だとは言われなければ誰も分からないと思った。
そしてキタリヴァンとナタリアさんに見守られつつ美味しいパスタを無言で食べながら、僕はこれが普通の家庭の温かさというものなのかも知れないと感じた。
途方もなく広大な宇宙でも人間のサーカディアンリズムに合わせて朝と昼と夜は設定されており、歯磨きを済ませた僕は宇宙船の一室で寝ることになった。
ナタリアさんは心細ければ添い寝しますと言ってくれたが見た目と肉体年齢は少年とはいえ36歳の男がそんなことは頼めないと思い、僕は一人で寝ることにした。
ふかふかのベッドに横になり温かい布団に潜った僕だが、心の中は全く落ち着かないでいた。
今日の昼までミカロスの性奴隷として働かされていた僕は宇宙騎士キタリヴァンにより突然解放され、これからはおそらく宇宙連邦政府の保護機関へと送られる。
そうなれば再び奴隷の身分に落とされることはないが、今の僕は36歳になるまで奴隷としてしか生きたことがない
奴隷生活でも統一宇宙言語の読み書きと計算ぐらいは身につけられたが、こんな僕を今更社会人として扱ってくれる場所などあるのだろうか。
そんなことを考えていると全く眠れず、僕は何も考えられないまま寝室を出ると宇宙船の内部をさまよった。
ナタリアさんと話したいと都合のいい考えが浮かんでくるが、あくまでもキタリヴァンの従者である彼女が保護対象の僕に悩みを相談されても困るだろう。
そういえばキタリヴァンとはまだ一対一でほとんど話せていないと思っていると、船内の一画から何かが激しく動く音が聞こえた。
スライドドアを開いて中に入るとそこは宇宙騎士であるキタリヴァンの訓練室で、キタリヴァンはスポーツウェアを身にまとって激しい訓練に身を投じていた。
不可視の防壁で仕切られた空間の内部では虚空から次々にレーザーが発射され、徒手空拳のキタリヴァンは発射されるレーザーを次々に回避していく。
宇宙騎士はコンバットスーツの装着により高い戦闘力を発揮するが、その戦闘技能はあくまで生身の身体によるものだということだろう。
「どうしたリューク、眠れないのか。訓練でもしていくか?」
「いえ、僕は……キタリヴァンさん、実は不安で眠れないんです。本当に僕は自由になれたのか、自由になれるとしてこれからどう生きればいいのかって」
「そうか、もっともな悩みだな。俺は明日にはお前を宇宙連邦政府の基地に移送し、そこでお前は保護される。その後のことは俺は知らないし、俺にはお前以外にも救わなければならない子供たちが大勢いる」
「そうですよね……」
キタリヴァンが夕食の時に話していたことによれば、彼は宇宙騎士の中でも犯罪や戦争の被害を受けている子供たちを救うことを使命としている。
僕のように大人たちの奴隷として虐待されている子供を助けるだけでなく、紛争が続く惑星で人道的危機に瀕する子供たちを他の惑星に避難させることも多いという。
ヒューマロイドであるナタリアさんが子供の扱いに慣れているのはひとえにキタリヴァンの任務の性質によるものであり、彼は僕を移送した後は他の子供たちを助けに行くのだろう。
「僕は、これから社会で大人として生きていけるんでしょうか。36歳にもなって文字の読み書きと計算ぐらいしかできないのに……」
「リューク、そうは言うがお前はグルームドだから頭の方もただの人間族よりは秀でているだろう。肉体年齢もせいぜい12歳な訳だからこれから何でも覚えていけるさ」
「それはそうですが……」
「まあいい、とりあえずこれを受け取れ」
「っ……!!」
キタリヴァンは表情一つ変えずに僕の顔面に向けて何かを素早く投げ、僕は瞬時にその動きを読み取ると横に跳んだ。
キタリヴァンが投げた白いカードは僕の顔面をかすめて高速で飛び、そのままウレタン材質の壁へと突き刺さった。
「何するんですか! いきなり投げたら危ないですよ!!」
「だから投げたんだ。お前はグルームドだから身体能力もただの人間族とは比べ物にならない。何の訓練も受けていなくてもな」
「……」
キタリヴァンが伝えたいことを察し、僕は無言で壁に近づくとウレタンに突き刺さった白いカードを手に取った。
それはキタリヴァンが持ち歩いている名刺で、そこには彼の本名と初めて見る組織の名前が記されていた。
>私設戦闘部隊 ジャニィズナイツ
>長官 ジャニィ・リヴァン
「ジャニィの、騎士たち……?」
「そうだ、それは俺の教え子たちにより組織される私設戦闘部隊。そのほとんどは俺がかつて保護した少年たちだ」
宇宙騎士キタリヴァン、本名ジャニィ・リヴァンは宇宙連邦政府に協力する宇宙騎士としての顔と、戦士たちを養成する養成所の長官の顔を持っていた。
彼が僕にこの名刺を渡したということは、その理由は一つしかない。
「グルームドの生き残り、リューク。俺はお前をジャニィズナイツの隊員に勧誘する。その恵まれた知能と身体能力を正義のために活かしてみないか」
「僕に、戦えって言うんですか。同じような苦しみを味わう子供たちを救うために……」
「そうだ。お前がこれから社会で生きているか不安だというなら、俺がお前に社会を与えてやる。俺が言えるのはそれだけだ」
汗ばんだスポーツウェアに身を包んだキタリヴァンは真剣な眼差しでそう言い、僕はその目に正義のために生きる大人の男の熱意を見た。
「……分かりました。それでは今日からよろしくお願いします、リヴァンさん」
「ジャニィさんでいい。教え子は俺の家族のようなものだから名前で呼んで欲しい。お前もこれからはリューク・K・リヴァンとでも名乗るといいさ」
「はいっ!」
僕はその日からジャニィさんのもとで戦士としての訓練を受けることになり、翌日は地球連邦政府の保護機関の役人と面会した上でこのままキタリヴァンに付いていきたい旨を申し出た。
宇宙騎士を信頼している女性の役人は僕の申し出を受け入れ、その日から僕は戸籍上もジャニィさんの養子となった。
面会を済ませて宇宙港に停泊している宇宙船カイゼルフォンに戻ってきた僕を見て、ナタリアさんはお帰りなさいませ、とクールに言った。
ジャニィさんは今日から地獄の訓練が待っているぞと笑顔で言って、僕は任せてくださいと力強く答えたのだった。