真・女神転生〜ジャッジメントサマナー〜 幕間劇 作:葉隠小太郎
「パトラストーンを使ってどう?」
「治った気がしない。【魅了】とか【至福】じゃないのか?」
「もしくは特定条件を満たさないと解除されないとか?」
「異界内の【ダークゾーン】と一緒か…フィールド特性に該当するのは予期してなかったなぁ…」
新しい服に着替えた琲世は現在の状況を確認しつつ千景から治療用のアイテムを手渡される。
「せめてアムリタシャワーでも持ってくるべきだったね」
「悔やんでも仕方がないさ。取り敢えず脱出方法を考えないと…」
直ぐにでも動こうとする琲世を千景が笑みを崩さずに身動きを取れないように両肩をおさえた。
「えっ…と…?ぐんちゃん?」
「ステイねカネキ。まだ賢者タイムかも知れないから冷水浴びせる意味合いで言うけど」
段々その笑みに鬼気迫る物を感じる。
「ミサキ達とぐっちょんぐちょに絡み合って健常に動けると思うかバカチンがぁ!!」
「ちょっ、ボボ・ブラジルばりのココバット( ゚∀゚)・∵. グハッ!!」
つまり頭突きである。
顔面が「前が見えねェ」状態にさらされる中、まぁまぁ正論ではあると頷けるであろう。
一頻り全てのパーツが初期福笑い状態から戻りつつあるまで数分を有し、ため息とともに口を開く。
「わかったよ。とりあえず一旦休憩しとく」
「其れが幸いね」
納得の行く答えに千景も頷いて隣に座る。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
5分後。
「あの…ぐんちゃん?」
「何かしら?」
「……密着し過ぎでは?」
「…………///」
「あ゛っ゛…!?」
隣りに座っていたと思いきや何故か両腕を回してしっかり固定するように抱き締めてくる事に何やら気が付く。
「………フィードバックしてきたのよ…///」
「あ…ご…ごめん…」
「まぁ、
表情は胸元に埋められて見えないものの、髪から覗く耳は紅く染まっている辺り、相当熱を上げていることだろう。
こればかりは琲世も苦笑するしかなく、二人このまま夜が更けていく。
夜が明け、朝靄が辺りを覆う時刻。
集落にある一軒の家、その玄関は不用心にも大きく開かれたまま放置されている。
【グチャッ…グヂャッ…】
中から何かを喰む様な音が響く。
其れは骨と肉が詰まった物をそのまま噛み砕き、喉を鳴らして飲み込むような咀嚼音。
"それ"は腕を食べていた。
身の詰まった、噛むたびに迸る水気たっぷりな肉は歯で噛み砕かれ、舌で掻き混ぜられ、奥深くに飲み込んでいく。
美味い肉。
そう感じながら"それ"は腹を満たすべく骨の一片も残さず、舐めるように食事を続けていく。
…………
太陽が高く昇る。
既に真上にある中で、二人は目を丸くしてその状況に驚いていた。
「あっ?どうしたんだ二人して?」
農作業用の白いシャツと腹巻きに草臥れたズボン。
頭にはフチの大きい麦わら帽子を被り、手押し式の耕運機を動かす人物。
まさしく琲世に家を貸した永谷氏の普段の格好である。
しかし。
「………あの…その…」
「なんだ歯切れが悪い。早く言いな」
「………」
口調もイントネーションも同じだが、徹底的に違う部分が目に入り、どうしても口を開けずにいる。
「…永谷さん。その…」
「随分と…
「あぁん?そうか?」
変わった。
できる限り精一杯の表現で語るもそれでは不適切であると断言出来る。
最早別人。
肌は長年の紫外線によって肝斑を作り、苦労してきた数が刻まれた皺が多く出来ていた筈。
何より腰は曲がっていなかったとはいえ、肉体的には老人故に体格も縮んでしまっていた。
しかし今其処に居る永谷は日焼けはすれどもその肌のハリは瑞々しい好青年の物で、キビキビと動く身体能力はとてつもなく鍛えてきた証拠と言える。
デビルサマナーとして戦い続けた琲世もこればかりは開いた口が塞がらない(口は閉じているが比喩的な意味合い)ばかりでどう伝えるべきなのかを考えて手をこまねいてしまう。
「あんた、そりゃ無いさね。私らが驚いたのに全く…」
「うん?あ〜あ!そうかそうか!すまんすまん!!今思い出したわ!!」
不意に妻のさとの声が響く。
しかし、どうにも嗄れた感じに聴こえていた物とは異なる透き通るような美声に思わず驚き。
「あ……」
「……その、さとさん?」
今度こそ開いた口が塞がらない状態になった。
「あらやだ。そんなに見つめんといてな」
そこに居るのは間違いなく妻のさとであると考えられる。
割烹服と頭に頭巾を着け、物腰柔らかく、それでいて肝っ玉女房の雰囲気を醸し出していた老年の女性だった。
但し、永谷同様、ハリとツヤに溢れた肌とくっきりと輪郭の整った顔立ちにしゃなりしゃなり京美人を思わせる立ち姿は驚愕以外に表現は出来なかった。
「……遂に儂等も欲しい物が手に入った訳だ」
「……其れが目的だったんですか?」
「ああ。誰しも……特に儂等みたいな老人は尚更だ」
永谷は今まで関節痛に悩まされていた手を見る。
ゴツゴツと歪に曲がってはコブのごとく飛び出た指関節や腕はどんなに動かしても痛みは感じず、狭まっていた肩等の可動も難なく広く動かしてみせる。
「歳を取るとな?昔喪った物を途方もなく欲しく感じてしまう。幾ら金を積もうとも無理な話だがね?」
「…………」
「いつかは分かる。今までは苦も無く走れたのに急に息切れがすることを。そのせいで先に走っていった息子が轢かれる姿を間近で見る羽目になった。もう少し頑張れば…或いはもう少し早く行けば…そんな後悔ばかりだよ」
苦々しい記憶を背負いながら、今までの後悔を吐露する。
「亡くなった息子を見てきた中で、甥っ子が大きな取引があると言って私達に融資を持ちかけてきた。生きるのに少しだけの蓄えで、渡すにも難しいと思っていたが、甥の娘を見て決意してしまった」
息子の死とその悲しみを紛らわすために甥とその家族に愛を注ぎ。
「リーマン・ブラザーズと言ったな…。其れに全額投資してたせいで何もかも喪ったよ。老後生きるにも必要な額をね…」
世界中を震撼させた不動産ローンの問題。
其れに全力を掛けていた為に全てが泡と消えた。
例に漏れず、それですべてを喪った老夫婦の絶望はそれこそ言葉にするには重すぎる事だと肌で感じられる。
「死ぬつもりだった。前のアパートに妻の為に遺した保険で償おうと思っていた…だがさとは儂と一緒に死ぬと言いだしてな?さてどうするか?と思っていたら…あるモンが届いた」
消印は無く、直接投函されていた。
中身がピンク色をした食べ物…つまり"みちゃ果"であった。
恐る恐る、その不思議な桃の果実を食べてみると不思議な事にみるみる内に身体が若返りをし始め、昔のように締まった筋肉に戻ったんだ。
それからはハツラツとした毎日を送れた。
妻にも食わせ、互いに出会ったあの頃に戻り、喜び合っては抱き締め、愛を確かめあった。
入っていた箱の中に住所の書かれた紙があり、直ぐに向かうことを決めた。
其れがこの村だった。
良い村だ。
定期的に摂取しなければならないし、みちゃ果の育成は難しく、その甘い匂いに誘われて虫や獣が寄り付きやすい。
農薬等も枯らしてしまったり、実が付かなくなってしまうため、一つ一つ紙袋に包んで保護したり、特殊な液肥を土壌に撒く事でみちゃ果は成長する。
とても大変な作業だが、みちゃ果の効能で私達の身体は向上していたから何の苦もなく作業が捗った。
一年、また一年とこの村で過ごす度に朝焼けと白い雲海に包まれた数分の光景を見たり、夕日が映し出すノスタルジーの夢を見せてくれたり、皆が笑顔で挨拶を交わし、笑顔で酒を酌み交わす事が楽しかった。
私は思ったよ。
「だからこそ、君達もこの村に住むべきだ。互いに助け合い、日々の日常を楽しみ、愉快に過ごすことが出来るこの村で…」
永谷の言葉は魅力に詰まっていた。
金があればと働き、稼ぐことが史上とする社会に於いて、ただ不便な田舎に住もうとする者は一部の物好きだけであろう。
いざ住むともなれば様々なデメリットが立ち塞がり、結果的に辞めて帰ることは珍しくない。
それで先住者からは侮蔑の目で見られ、帰ってきた者からは田舎暮らしの駄目な部分を誇張して伝えられ、過疎を産む。
だがこの村は違う。
人類が欲している物に"若返り"が存在する。
如何に金があろうとも、身を衰えさせ、満足に動くことが出来ず、食事もロクに摂ることも難しい身体であったら、全くの意味がない。
そんな老人達の夢が自らの身体が若返る事。
その研究を多くの人々が大金をはたいて推進させ、いつ出来るかと待ち侘びている。
其れが"みちゃ果"なる果実で出来たならば?
恐らく全員が食べて飲み込むであろう。
紛れもなく其れが出来ているのだから。
「…………」
「……迷う事があるのかな?」
「…ええ。とても大事な事です」
多くを語らずとも、その意味を理解させた。
永谷は少し寂しげに、息を吐いて目を細める。
「やるべき事…教えてくれるかな?」
「………はい」
その問に琲世は少し言葉を選び、口を開く。
「─────です」
「…そう……か」
老人は全てを聴き、ゆっくりと頷いてから。
「行きなさい」
送り出す。
「……行ってきます」
琲世は深々と頭を下げ、二人に別れの挨拶をする。
もう二度と会うことは出来ない今生の別れかも知れない。
その想いを込めながら。
「……ありがとう、お爺ちゃん」
「うん。甥の娘によく似てたよ、千景ちゃん」
「……さようなら」
千景も夫婦に別れを言い、互いを抱き締め合い、行くことを決めて踵を返す。
二人の青年と少女の後ろ姿を見ながら永谷は呟く。
「……二人の旅に幸在らんことを…」
その目から一つの雫を落としながら、後ろ姿が見えなくなるまで二人はジッとその場に立ち尽くしていた。
「ちなみにアテは?」
「有ると言えば一つだけ」
最早時間など無いと言わんばかりに素早い足取りで向かう中、唯一この村で忘れ去られていた物を頼らざる得ない。
「あの祠だ。何かがあるとすればそれしか無い」
「忘れ去られた程度の【秘神】で何処まで対応出来るのかちょっと心配だけど?」
「僕だってそう思うけれども!」
正直に言うならば蜘蛛の糸を手繰り寄せる様な不安定さが見え隠れしている。
だが、其れでも何かあるかも知れない。
そう思いながら走る事十数分。
「………あった」
集落から離れた位置の山の中。
其処に一つだけ取り残されたように造られた祠がある。
「忘れ去られた割に随分豪華に出来てる」
「あっ…うん…」
流石に気分が乗って建て増ししたことは言っていない。
「……それでどうするの?」
「うーーん…どうする…か?」
「ノープラン。まぁ、何が出来…!?」
着いたには良いが何もない。
ここからどうするべきか考えようとした矢先、得体の知れない気配に周りから現れ始める。
「……カネキ」
「ああ…」
何も無いはずの場所を空気が揺らめく。
透明な靄が視界に入り、その正体が何かを理解する。
『№§⁈℃¿®№¶¤†’¿@$%≯∃◆✖▶仝¥』
見え始めたのは、
歯茎を剥き出しに見せた口に腕と足が付けられただけの存在。
ただ噛み砕くだけが目的の存在がゆっくりと足を鳴らし、迫りくる。
「…何だこれ」
今までの経験上見たことのない姿をしたナニカ。
であるならば、琲世はその正体を看破するため、右眼を見開き、ソレを捉える。
\カカカッ!!/
【■■■:■■■■】
「……ハッ…!?」
「カネキっ!?」
視界にソレを捉えようとした瞬間、右眼に強い痛みと爆ぜるような勢いに毛細血管が千切れ飛び、噴き出す。
「っ!?…はぁぁぁ!!」
瞬時に決めなければならない。
千景が直ぐに4体のミサキを喚び出し、その得物の鎌を振り上げる。
「【マハザンマ】!」
「【マハラギオン】!」
「【ヒートウェーブ】!」
「【絶妙剣】!」
其々の攻撃が謎の敵対者に当たり、爆風を起こす。
その破壊力は格上であろうとも容易くは防ぐことは出来るはずもない。
だが。
『√∧∇∅∏↹⇄【⇅⇒■^^:◆¿】%∇』
おおよそ人類では発音の出来ない言語を口にし、何かを発動する。
「「「「……あっ」」」」
何が起こったのか。
其れを確認する前に意識が断ち切られた。
4体のミサキ達は自身の胴体が切断されたことを、一生見ることのないその断面を見ることを最後に、マグネタイトの粒子に変わり果てる。
「…不味い…!?」
一体何をしたのか。
正体に繋がるであろうその行為が理解不能という本末転倒な結果が起こり、琲世は焦る。
次に何を起こすのか。
確認する間もなく襲いかかるソレへ、琲世は跳び、飛び蹴りを放つ。
「……っ゛!?」
断末魔を上げる前に脚先から膝までを喪った。
噛まれたという感覚すら与えられる事はなく、身体的特徴では判断出来ない瞬発力を誇っている。
「カネキ!?」
「切らすなっ…!兎に角ありったけ打ち込め…!!」
手脚を失う事は慣れている。
出血を抑えるべく、着地と同時に止血バンドで締め、千景を抱き上げたまま後方へ下がる。
何も分からぬまま損害が増えることに苛立ち、どうしようも無い状態で立て直すことを余儀なくされる。
(もう待つ事は出来ない…!?これじゃぁ…!)
負ける。
何も打つ手も無く、そのまま相手の"餌"へと変貌する。
「駄目っ!どうして!?」
懸命に魔法と石を使い、迎撃を試みるもその効果は薄い。
何かで守られているのか、ナニカのすぐ手前で攻撃が弾かれて消えていく。
「▶◇//¶▶®仝§⇅∅―\仝@∧\✖!!!」
言語として成立していないソレは巨大な口を大きく開きながら迫りくる。
逃げることは叶わない。
であれば一つしか方法は無い。
「……ぐんちゃん「言わないで!そんな弱音吐く貴方を見たくない!!」っ……」
僕が殿になる。
そう言おうとしたが堰を切ったように止めが入り、言葉を言えずじまいになってしまう。
犠牲になるくらいならばと彼女は思ったのだろう。
自身が彼女の立場であれば同じ事を言ったと内心納得してしまう。
であれば手立てはもう無い。
「………いっそ受けても良かったかな?」
「そんなの、貴方は赦さないでしょ?」
「そうだね…うん」
怪物が迫る。
其れを受け入れるように二人が抱きしめ合う。
死が二人を分かつまでと誓い合うかのように。
『阿呆、恩人見捨てて何が土地神だ!!』【落星*1】
怪物の頭上から焔が墜ちる。
「■■■■■■■■■■■!!!!」
今まで効くことの無かった筈の怪物が星の熱に悶え苦しみ、鼓膜を突き刺すような叫び声を上げ、そのまま山道横へ転がり落ちていった。
「………ぁ…へっ?」
一部始終、謎の状況を見ては目を丸くする千景と琲世。
何が起こったのかを理解するにも突然の事で思考にノイズがかかって見えた。
『……おい、其処の二人』
「……はい?」
声は聴こえるも、どういう訳か周りを見ても誰かが居る様子が無い。
二人が左右それぞれ見て回るも変わらず声の主は見えることはなかった。
『下を見よ下を!!』
「下?……あっ」
分からない事が癪に障ったのか、声に怒りが籠もって聴こえ、その通りに下を見ると。
『全く、これだから現代人は敬意というものがなっとらんな!!』
大きさ一寸程度、白い羽根の生えたローブを羽織る悪魔が鼻を鳴らして地団駄を踏む姿を見つけた。
「ち…小さ過ぎて分からなかった…」
『貴様!!不敬が過ぎるぞ……ふんっ!!』
「あっ…可愛い」
『私をマスコット扱いするなボケェイ!!』
小ささゆえに怒る姿も小型犬か猫としか考えられない愛らしさを感じられる。
奇妙にも不思議な神々しさを感じられたその"悪魔"はため息を吐き、息を吸って落ち着かせた後、口を開く。
『我が名は………あれ?』
……………。
『すまぬ。忘れた』
思わず気を張っていた身体が落ちるように滑った。
所謂ズッコケというものである。
『まぁ、私のことを〔キンセー〕さんとでも呼んでくれ』
(何なんだこの悪魔…)
『さてさて…此処も騒がしくなる。ホイッ』
「……へっ?」
キンセーさんと名乗る悪魔が一つ手拍子を叩く。
すると一瞬にして場の空気が変わり。
気がつけば、居たはずの集落は抜け落ち、千景と琲世、そしてキンセーさんを含めた祠の周りだけが残されていた。
その後、僕等は歩き通しで辿り着いたのはロードサイドのラーメン屋であった。
まだ〔キンセー〕さんとやらが使った【メシアライザー】の足はむず痒くて慣れない。
「へい、おげんセット3つお待ち」
3つセットを作って訝しみそうであるが其れをおくびに出さないのか特に気にしていないのか平然と置いていくのも気が張る。
『ハッハッハッ、これが噂のチェーン店の味か。うん美味い』
サイズがサイズで大丈夫なのかと思いきや、器用に浮遊してはズルズルと関係なく啜って咀嚼していく。
どうやら心配は無さそうだ。
「………はぁ…」
どっと疲れが出た。
あの村に居たからなのか、それともあの果実を食べたからなのか。
何方にせよ、居続ければ良くない事だけは間違いなかった。
『随分と疲れているな。まぁあの村は"ヤツ"の畜産所みたいな物だからな』
「畜産所?」
『マグネタイトもそうだが、若々しい方が濃醇かつ豊富に得る事が出来る。あの果実も副産物的な物だろう?』
どういうことだ?
『ちい○わって知っとるか?』
「一応知ってますけど…」
随分と俗物的な土地神だな。
『よく言われとるが、あの世界はちいさいのと大きいのと居るが、その大きいのがちいさいのの食糧を産み出しとる説あるだろ?』
「…考察勢がよく書き込みしてるのは見たことありますけど…」
『其れだよ』
「はっ?」
つまり…。
『あの襲い掛かってきた存在…暫定的に〔スナッチャー〕と呼ぼう。そのスナッチャー達の親玉が生らした実こそ…あの果実だ』
「………頭が痛い」
『幸いマグネタイトに変換出来るそっちの娘は心配要らんが、お前さんはもうしばらく大人しくしてるのが吉よ』
「そうします」
妙にスープの塩分が身体に滲みる訳だ。
どっと疲れが押し押せて濃い目のスープが丁度良い塩梅になるとは思わなかったけど。
「…あの村はどうなったの?」
今まで黙り込んでいたぐんちゃんが問う。
取り敢えず、餃子に箸を伸ばし、酢辛子を少し付けて食べる。
『………遠く彼方の
「………そう」
想像に難くない結末を聞き、僕等は何も言えなくなる。
あんなにいい人達なのにと惜しく思えど自分達の於いている場所を考えれば致し方ない。
『選んだ未来が良い方向に向かうことはそう無い。生き残る方と死ぬ方のどちらかだっただけだ』
僕等を慰めてるのかよく分からない所を見るとあまり人間関係は下手くそだと思う。
『……麺がのびる前に食べきってしまうか』
そう言って残りのラーメンと餃子、チャーハンのセットを食べ進める。
気は落ち込んでいても腹は減るし、食べなければ更に落ち込むであろう。
毎度危険な目に遭いながらもロードサイドにあるラーメン屋で食事をすると、日常に戻れた気がしながら頬張っていく。
「やぁやぁやぁ!お勤めご苦労様でした!これは報酬ねー!」
と八木氏から小切手を得る。
数日経って漸く本調子に戻りつつ有る中で連絡を入れたら妙にご機嫌だったのでどうやらうまぴょい成功したみたいだ。
と、小切手の内容を見てみると0の数が一つ多い事に気が付き。
「危険手当。前の調査員から連絡取れない以上其れも上乗せしたからさ?」
命の額と見れば安くは無さそうだ。
と、そう言えば前の調査員の事を聞こうとしたが。
『止めておけ。事の結末を尻の穴まで知りたくないだろう』
右肩に乗って座るキンセーさんからのアドバイスで口を出すことはしない。
恐らく、村人と同じ顛末を辿ったのだろう。
「しかし、悪魔とは異なる話とはねぇ。まぁもう出そうに無いからこれは口外禁止ってことでね?」
「とは言いますが、とうにバレてますよ?多分ですが」
「ハハハッ。実物が無いなら心配ないさ!」
この人の笑みだけはなんとなく胡散臭い。
よくあるB級映画のラストシーンじみた部分をデジャヴに感じ取れる。
「それじゃあ。また」
「ウンウン!!また仕事宜しくね!!」
僕はそのまま八木氏の事務所を後にする。
あまり会う気にはなれないが、今の所まともな情報屋が少ない以上、仕方がない。
「イャァァァアアア!!?」
酷い大外れをしたのだろうか?
悲鳴は遠くまで聴こえた。
…………
某所。
寂れた商店街の中央に一つだけシャッターが閉められていない店がある。
壁掛け時計に日時計、砂時計や腕時計。
古今東西の時計が店の中を所狭しと置いてはカチコチと音を鳴らし、現在の時刻を鳴らし始める。
「いらっしゃいませ。当店に何をお求めで?」
「言わなくても分かると思いましたが?〔プロフェッサー〕」
「フッフッフ…。こういうやり取りが好きなのだよ〔サマナー〕?」
店に入るサマナー、琲世に含みを込めた笑みを見せるアラフィフ年齢の中年男性、プロフェッサーは自身の座るカウンターから自分しか押せない机下のボタンを押す。
「いらっしゃいませ。【邪教の館】へようこそ」
店内が大きく揺れ始め、床ごと下へ下り始める。
さながら子供達が夢見た地下への入口的な演出だ。
よく建築法に引っ掛からなかったと思えど、よっぽど鼻薬を嗅がせたのだろう。
ここまで匂ってきそうだと顔を渋く顰める。
店内全てを昇降機にした先、大きく広がる光景には琲世も考える。
「さて、サマナー。何を合体させるのかな?」
目の前にはプロフェッサーが作ったらしい【悪魔合体】用の装置を動かし、起動し始める。
此処は邪教の館。
サマナーが手持ちの仲魔を二体か三体カプセルに入れて合体させ、より強力な悪魔を喚び出す為の施設。
「……うー」
「やあフランちゃん、ご機嫌よう」
「ごーき…げん…よー」
プロフェッサーの傍らで働く虚ろな目の少女、〔フラン〕は重そうな頭の装飾を特に気にすることなく挨拶を交わし、ブレーカー代わりの大きなレバーを下へ下ろす。
送電が開始され、カプセル内に電気が走り始めた。
「それじゃあプロフェッサー。この【天使】と【フレイミーズ】を」
『|ω・`)ノ ヤァ』
「それ天使かね?というより天使?」
準備が整い、合体させる悪魔を見せる。
肩に乗る小さな悪魔と炎の精霊をCOMPから喚び出し、カプセル内に入れていく。
「……本当に良いのか?」
『ああ。忘れ去られた土地神よりは待遇的にも良いさ』
「…分かった」
かたや悪魔の性分として強くなるために。
かたや助けられた恩がこれでいいのかと思いながら。
「それでは、合体開始」
見送り、新しい存在へと昇華する光景を目にする。
「順当に行けば〔アークエンジェル〕辺りが出来…あれ?」
光が更に輝き、周りの電流も心なしか強く走り始めた。
「あれれ?へっ?」
「あの?何かありました?」
「わー…がったい…じこー…」
「おおぉいいい!!?」
助手からとんでもない事が暴露され、不穏さが増す中。
大きな光と共に辺りが煙に覆われ。
『……〔天使:エンジェル〕。今後ともヨロシクね』
ミニスカートワンピースの少女が現れた。
天使と悪魔使い【完】
単体に特大威力の火炎属性攻撃。相性を無視して貫通する
「…はい、これで報告は以上になりますが…何かお聞きしたい事はありますか?」
『そうだね…。もうあの"みちゃ果"なる果実は生産出来ないわけかね?』
「ええ。少なくともあの一帯だけしか生育出来なかったそうです。別の地域で同じ条件下で行いましたが、成長するどころか枯れるか、酷く不味いや急に老化を始めたとのこと。正直これで
『……まぁ、実現に必要な手段は考えておこう。ただ少なくとも……』
「少なくとも?」
『………成功に近い物は出来始めてるよ』
郡千景による(裏)帳簿
勤務地:●●県 〇〇村 勤務時間:20XX年11月30日~12月1日
佐々木琲世殿 日給500,000円×出勤日数10日 寸志1,500,000円
郡 千景殿日給500,000円×出勤日数10日 特別給400,000円
追記
村内は心優しい人々で良かったものの、其れが尚更に苦を感じているみたい。
生き字引いわく、あの土地一帯は四千年前に隕石が墜ちてクレーターが出来たことで生まれたとのこと。
その微生物に宇宙より来た存在で、四千年後に新しい地へ旅立つべく宇宙船を造っていたらしい。