なぜ八宮めぐるさんはプロデューサー専用オナホごっこするのか? 作:ふりーじ屋/家庭内禁書
原作:アイドルマスター
タグ:R-18 アイドルマスターシャイニーカラーズ 八宮めぐる Pドル
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めぐるのトイレオナニーからはじまる、シャニP主導のP×めぐるエッチです。
これもイカせてもらえるのはうれしいけどそればっかりじゃダメぇ♥(?)系です。
(“これが、ね……愛じゃなきゃなんだ”……これが愛だったら、どうしよう)
283プロダクション所属のアイドル・八宮めぐるは、スマートフォンのメッセージアプリが鳴らした通知音でびっくりして、フロアを踏むステップを止めた。
(……あ)
それ以外に音を立てる存在はほとんどなかった。通知音が鳴る直前まで、めぐるはスマートフォンからデモ音源を流しつつ、リズムに体を乗せながらステップを確認して、床とシューズを鳴らしていた。彼女自身が能動的に鳴らしている音には無頓着になるのか、まるで静寂が一気に破られてしまった気分になった。
実際が真逆で、音源とめぐるの動きがアプリの通知でばっさり断ち切られていたとしても。
(うわぁ、こんな時間)
レッスンルームは、煌々とした高演色の光でなみなみ満たされていたが、それだけに窓の外の暗さが天変地異のように不気味に見えた。めぐるが所属ユニット“illumination STARS”の櫻木真乃・風野灯織ら同僚アイドルといつもいっしょに使っている事務所併設のレッスンルームなのだから、いつも見ている窓からの景色がそうそう一変するはずもない……と言い聞かせても、毎日訪れるはずの夜が来ただけ……と言い聞かせても。
(……帰り、何時になるか連絡してなかった……それでかぁ)
めぐるはレッスンルームの鏡で自分の姿を見やった。
事務所支給のレッスンウェア。めぐるのカラーはベースが藍色、アクセントに赤が入っている。ブロンドのセミロングは肌と汗に張り付かないようヘアバンドでまとめていて、撮影のときより大人っぽいかもしれない、と彼女自身は評価している。レッスンウェアが貼り付いてる肌は、汗のせいでしっとり湿っている。放っておけば体が冷えてしまう、と反射的にウインドブレーカーを羽織ろうとして、少しだけ躊躇する。
(まるで、やましいことを隠してるみたい)
紅潮した肌は、練習熱心さのため……とは言えなかった。
めぐるが一人でレッスンルームに残っている、という状況は珍しかった。少なくとも、めぐる自身の記憶にはない。
めぐるは緋田美琴のようなレッスンの虫でもなく、一人で何かをするということが苦手であり、そもそも親からの門限を守らなければならない年齢だった。一人で事務所へ居残り自主練するのは今夜が初めてのはずだった。めぐるが「はづきさん、きょうレッスンルーム開いてるなら、カギを……」と事務員・七草はづきにお願いしたとき、はづきがカギを手渡してくれるまで、ワンテンポのラグがあった。
(確かに、わたしが一人で夜に自主練なんて……明日には雨か槍が降るかもしれないけど)
けっきょくウインドブレーカーを羽織る。火照りがさらさらしたポリエステルのトリコットに包まれる。
届いたメッセージは母親からだった。返信を打つ。クールダウンのストレッチは、どれだけ入念にしようとしても、どこか上の空になってしまう。自分の体なのに、いまいち自分の思う通りに動かない。身が入っていない。緊張とはこういう状態のことかもしれない、と他人事じみた考えが浮かぶ。
(真乃と、灯織と……歌番組でやたらガチガチになっちゃったときとは、ぜんぜん違うのに……むしろ、いまはタラタラしちゃってるのに、なんで緊張? って気がするんだろ)
汗を始末しても、ウインドブレーカーとレッスンウェアから制服へ着替えても、めぐるの肌からやましさのようなものは消えなかった。肌ににじみ出て垂れ落ちる汗というより、肌の内側から溢れてくる体温に近いのかもしれなかった。
(レッスンすれば気が紛れるんじゃないかって思ったけど……かえって、悪化しちゃったかなぁ)
めぐるはいまレッスンルームに一人きりであるが、283プロダクション事務所では一人きりではない。めぐるたちの担当プロデューサーが残業に勤しんでいる予定だった。そうでなければ、学生のめぐるがこの時間まで居残りできないはずだった。
(……二人きりに、なれた、プロデューサーと……なっちゃった。わざと、じゃ……ない、はず……っ)
二人きりでなければできないことを……と独り言をつぶやきかけて、まわりに誰もいないのに必死で喉奥へ押し込んだ。押し込んだ衝動は、めぐるの首か胸か腹のあたりでゆらゆらしていた。
めぐるは帰り支度を整え、プロデューサーを探す。はづきがカギを渡してくれるとき「お帰りのとき、プロデューサーさんに渡しておいてくださいね~」と教えてくれていた。
プロデューサーは、年齢を高く見積もっても30歳に届かない青年。身長157センチのめぐるより縦にも横にも二まわり近く大きい体、照れたように笑った顔が思い浮かぶ。
(遅くまでおつかれさま! わたし、ここで切り上げることにしたから……またあしたね! ……って感じ、かな)
ただ事務的に会話するだけなのに、脳内で会話をシミュレートしている自分がめぐるはおかしかった。家族や友達や同僚アイドル相手ならいちいち予行演習しないでも話しかけられる。いまから話しかけようとするプロデューサー相手だって、いつもなら自然体でコミュニケーションがとれる。
「プロデューサーっ! あれ、プロデューサー、いるー?」
執務スペースと談話スペースと用途がごっちゃになっている、事務所のフロアで一番広い部屋で、ドア越しに電気がついているのは見えたが、ドアを開けてみても人の気配がなかった。
プロデューサーのデスクまで歩み寄る。パソコンのモニタはどこかの白い砂漠と青い空を写していた……ロック画面の背景らしい。机の天板には事務関係らしき文字ばかりの紙が2枚。画面が真っ暗なスマートフォン。フタの閉められたボトルガム。飲み干されたコーヒーカップ……めぐるは目をそらした。
そらした先では、かばんが机の脇付属の収納ワゴンへ立てかけられている。まだプロデューサーも居残っているらしい。キャスター付きのオフィスチェアには、グレーのジャケットがかけられていた。
色合いと生地から、めぐるはそれをきょう朝からプロデューサーがまとっていた背広のそれだ、と判断する。
「もー……こんな扱いしたら、型崩れしちゃうかもよ? 灯織とか、千雪さんとかに見られたら、注意されちゃったりして」
めぐるがジャケットを手に取る。生地の手触りが、自分の肌と比べてずいぶんからりとしていると感じた。部屋にプロデューサー自身の姿がないこととあいまって、彼から避けられたようにも感じた。
髪が首にぴたぴた当たるほど頭を振る。頭蓋骨の中身が少し波打ったせいか、パラノイアじみた連想も少しぼやける。
(トイレにでも行ってるのかな……それとも、買い出し? プロデューサー、ごはんちょっと無頓着だから、夜食はコンビニとかで済ませちゃうかも)
めぐるはジャケットを手に持ったままうろうろするが、ハンガーが見つからない。うまくハンガーのかかってくれそうなラックもない――ジャージじゃあるまいし、パーティションに引っ掛けるのも……それじゃあ、イスの背にかけてるのと大差ないよね――応接室まで行けば来客の上着用があるに違いなかったが、そこまで行くのははばかられた。そんなことをしているときにプロデューサーが戻ってきたら、変な目で――レッスンルームのカギを借りたときはづきさんよりも?――見られてしまうかもしれない。
(んっ、あった……これで……)
ちょうどよく引っ掛けられそうなハンガーと棚を見つける。プロデューサーの上背と同じぐらいな高さの棚板で、ふだんはあまり使われていないらしい――ホコリとか、たまってないといいなぁ――プロデューサーのジャケットを、そっとかけようとする。ハンガーにジャケットの肩を合わせて、両手で持って高く掲げる。
ジャケットの裏地、プロデューサーの背中や腰がこすれているあたりが、めぐるの目と鼻の先を覆う。
鼻腔に滑り入る匂い。夜まで仕事をしているプロデューサーの、一日分の匂い。
(ぁ……汗、かな……? 肌に触れない上着だからって、おうちで洗濯できない生地だからって……プロデューサー、もー……)
めぐるは心中で口をとがらせてみたが、そうやってとがらせるほどプロデューサーの匂いを濃く感じていなかった。むしろ彼のそれが奥へ隠れようとしているのでは、と疑うほど儚く感じられた。
顔を近づける。息を吸う。プロデューサーの残り香……めぐるの記憶から雨上がりのグラウンドが連想された……形のないはずの匂いが、砂っぽくてざらざらしている。
息を吐けない。
「すん、すん、す……ふ……は……ぁ……っ」
めまいがして、頭がゆだって、おかしくなりそうになって、顔を伏せてやっと息を吐く。鼓動が早まる。手が震えて、腕が勝手に下る。ハンガーフックをかけようとした棚板にはもう届かない。
(な、なに、いま、の……?)
答えはめぐるの腕の中に抱えられていた。『答え』を眺めながら、めぐるはしばらくぼんやりしていた。部屋はめぐる以外あまりにも静かで、ふだんはまったく意識しないはずの、空調か照明のじりじりした音さえ聞こえた。
「……プロデューサー……いないの……?」
自分が一人だというのがめぐるには耐え難かった。
いつだったか、事務所の部屋に一人で座っていて、誰もいないのがあまりに寂しくて、ようやくドアを開けて入ってきた灯織にとっさに泣きついたのを思い出した。灯織はすがりついてくるめぐるに腕を回してくれたが、『あまりに』『ようやく』は灯織からすると大げさだったらしく、めぐるに呆れていたようだった。
(いや……そういうんじゃない、違う、一人なのも辛いけど、それより……)
いま、自分は何をしようとして――めぐるが頭を振ってもパラノイアが離れない。
「ね、ねぇプロデューサー! ほら、もう遅い時間だし、一緒に帰ろう!」
めぐるの叫びは虚しく響いた。相変わらず、めぐる以外はあまりに静かだった。
(一人じゃ……一人じゃ、さ……わたし、プロデューサー、を……)
いま、この瞬間にプロデューサーが来てくれたら、前に灯織にしたのと同じようにできる。いつもしているように、何食わぬ顔でハグするフリができる。やっと来てくれた、寂しかったって明るく言って、プロデューサーは灯織と同じように呆れて、例の照れた笑顔をみせてくれる……。
めぐるが待っていたその瞬間は『あまりに』遠かった。気の遠くなるほど待っていても、『ようやく』を通り越しても訪れなかった。
めぐるの足は部屋をあとにしていた。
※
事務所の女子トイレに、プロデューサーのジャケットを抱えたまま入る。
視界の端に、鏡に映されたブロンドの端切れがちらつくが、それから目をそらして個室へ逃げ込む。
(プロデューサー……わたしが見当たらないって、心配しちゃうかな。プロデューサーの姿を見つけられないって、わたしが心配したように)
扉を閉める。掛けがねを落とす。洋式トイレの便座に腰掛けてしまう。プロデューサーとめぐる以外、いまはこの事務所に居残りしていない。プロデューサーは男性で、緊急事態でも無い限り女子トイレには入ってこない。
誰も見つけてくれないところに来てしまった。
(……いや、わたしは、プロデューサーを心配してたんじゃ、ないかな)
めぐるは、ジャケット裏地のうち、首まわりを鼻に近づけた。さっきのような偶然ではなく、匂いをかごうとして背中を丸めて膝の上に突っ伏す。
「ふぅっ、ふぅ……んぐ、ぐすっ、う、ぅうっ……」
首の後ろや、首や、心臓の下あたりがそれぞれそわそわと騒ぎ出す。涙腺が騒いで泣きたくなる。まぶたの裏が危なっかしい。目を閉じていなかったら頬にこぼれていたかもしれない。
(なに、やってるんだろ、わたし……プロデューサーの、なのに……)
プロデューサーのジャケットを勝手に持ち出して、女子トイレにこもって、匂いを盗みかぎする。まさか誰も真似しないであろう所業――いや、ほんとかな? 例えば、わたしのレッスンウェアとか放っておいたら、プロデューサーが勝手に持ち出してトイレで匂いかいだりしないかな……――彼はしないだろう、と現実では落ち着く。それなのに、されたらどうしよう、という妄想は離れない。それでめぐるは、自分の思考がぐちゃぐちゃになっていると悟った。どうしようもなかった。海や川で溺れている人間が、自分がいま溺れていると気づいたようなものだった。
「はぁ、あ、ん、ん……」
便座に押し付けているお尻や太ももが、じりじり落ち着かない。ふつうのイスより座面が狭いので、落ち着かないのは当然……にしても落ち着かない。めぐるが、ふだんはちょっとあったかすぎるな、と思う樹脂の生暖かさが、いまはウォーマーのせいか、めぐる自身の体温のせいかもわからない。
(プロデューサーの、匂い、嗅いじゃってる……)
小さいころ、いたずらして、それがバレるまでのあいだに味わっていた、きまり悪さと緊張と興奮が入り混じったあの感覚だ……と思う。確かに似ている。
じゃあ、バレたらどうする? プロデューサーに?
(おかしいな……ドキドキするのに、嗅いじゃいけないのに……安心するっていうか、むしろこれを離すのが怖いっていうか……っ)
好きな人の匂いは安心する、好きな人の近くを許されているって理屈抜きでわかるから……そう言ってみても弁解にもなっていない、と気づいてしまう。めぐるは、プロデューサーの許しを得ずにプロデューサーの着衣を盗み出して顔を埋めている。心臓と肺と喉で浸っている。
体のそわそわが広がっていく。早く収まってほしいと心で踏み消そうとするが、いくら踏みつけても地面の水たまりのようにぴちゃぴちゃ広がっていく。プロデューサーの匂いから連想した砂っぽいグラウンドと違って、水をぜんぜん吸ってくれない。
くちゅ、という音が鳴った。最初、めぐるは心象風景の水たまりが聞かせた幻聴だと思った。そう判断するぐらいの考えは残っていた。
もう一回、くちゅ、という音を聞き取った。
(わ、わたし……濡らして……っ)
秘所から太ももの付け根あたりに、いたずらよりもきまり悪い感触がした。下着にシミができてしまっている……だろうか。肘と腕にプロデューサーのジャケットを抱えたまま、制服のスカートに手を突っ込む。
「んっ、く、ぅ……っ!?」
秘所からくる感覚は、めぐるがのぼせそうなほど熱いくせに、悪寒のようにじわじわとした広がり方をした。
(アソコ、濡れちゃって……わたし、プロデューサーので、濡らしちゃって……)
背中を丸めたまま鼻から息を吸った。プロデューサーの匂いを吸った。お願いだから誰か止めてほしいと願った。
自分で自分を止めることはできなかった。
また、めぐるは幼いころしでかしたいたずらを思い出した――別に悪いことをしたいんじゃなかったんだよ、いたずらしたら、みんながわたしのほうを見てくれたから――では、別にプロデューサーの匂いを嗅ぎたいわけじゃないのか――そう、言われると、わたしは――また、やっと息を吐く。
鼓動が早まる。ジャケットを抱えた手も女性器に寄せた手も震える。ハンガーにかけていたときよりプロデューサーの匂いが強まった……そんなはずがないのに、まるでそれが強まったように、めぐるの反応は明らかにひどくなっていた。
「ん、く、ひ、ぅ、んっう……っ」
女性器の、生理のときぐらいしか気にしないような深みから、じくりと何かが溢れる。処女のめぐるでさえ、その溢れた体液が経血ではない、と見なくてもわかってしまう。顔を完全にジャケットで覆って、視覚と嗅覚と肌の触覚をそこに投げ込む。
「う、うぅ、あぅぅっ!? ひぅぅっ、は、ぅ、あァっ……!」
陰唇と陰核に指が触れた。
もう一度、こんどは触れ“させた”。火照りよりも激しく、悪寒よりも否応なく、快感というには苦しすぎるそれがめぐるのどこかの神経に走って、彼女の背筋がそれる。不意の体重移動で便座が悲鳴をあげていたが、その響きも彼女を止めるには控えめすぎた。
「ん、んぅぅッ、はぁ、あ、んぅう……っ!」
第一関節だけねじ込んでこする。ぬめぬめした体液と粘膜を敏感な指先がまともに感じ取って、めぐるは自分のおかしさをさらに実感させられる。ぐちゅっ、ぐちゅっ、くちゅっ、くちゅんっ――指の力加減は、タラタラだらしない膣を叱りつけるぐらいの力が込められていたが、膣側のきゅうきゅうとした締め付けに押し負けていた。
「へぁ、はぁ、あぁっ……ぁ、あ、あっ」
さらに何度か押し負けた指が、ようやく陰唇を第二関節ぐらいまで割る。いつのまにか充血していた陰核に、どこかの指関節が当たって、めぐるは嗚咽を漏らした。
(もう、ダメ、こんなの、耐えられない……っ)
いまここで自分のしでかしていることばかりが、めぐるの意識を占領していた。頬とくちびるをおしつけたプロデューサーのジャケットはつるつるしていた。鼻から吸い上げるプロデューサーの残り香は、やっぱりざらざらしていた。指先で感じる内腿の肌はぽわぽわとかわいらしかった。その向こうの粘膜はぬらぬらしていた。
(イく、イく、もうダメ、もう、イっちゃう、のぉ……っ)
めぐるは『イク』のを怖いとは思わなかった。『イク』が済めば、このわけのわからない衝動もすべて済んでくれる気がした。そうじゃなければやっていられない。腕の中でプロデューサーのジャケットをがさごそといじった。首まわりがいちばん彼の匂いを感じられた。
あらためて、意を決して、そこに鼻を突っ込む。
「あッ、は、あ、ん、く、うぅ、あっあっだめ……わたし、だめっ、だ、めぇ……!」
めぐるのみだらな痙攣とすすり泣きで、トイレの座面が再びかすかな悲鳴を漏らした。水面もさらさらとささやいた。
ジャケットを床に取り落とさないようにするのがせいいっぱいだった。
トイレットペーパーで、絶頂冷めやらぬ秘所をなんとか清めた。ビデは使う勇気が出なかった。
よろよろと個室から出る。手洗い所の鏡なんて目を向けられたものではない。ジャケットを抱えたまま、泥棒のようにこそこそと低い姿勢でクランク状の出入り口から顔と背中を出す。
「あぁ、めぐる。良かった。いたんだな」
「ぷろでゅっ、さ、ぁ」
「姿が見えないんで、探しちゃったぞ」
背後から聞こえたプロデューサーの声は、言葉の内容に反して、心配のかけらもなさそうな真っ平らに響いた。
「めぐるが一人で居残りなんて珍しいと思ったら、なぁ……まさか、な」
めぐるの足は動かなかった。振り返ることすらできなかった。
ただ、いたずらをしたときの逃げ出したくなるほどの興奮と、いたずらが見つかったときのどうしても逃れられない安堵を思い出した。
「あ、ぁぷろ、ぷろ、でゅっ……あは、はははっ」
「めぐる、こっち向きなさい。それは持ったままでいいから」
それでもめぐるの足は動かなかった。足先どころか手も首も動かなかった。
「めぐる……こっちは見られない?」
さっきまでどうしても離したくないと思っていたグレーのジャケットが、いまは拘束具のように重くめぐるの両手へ絡んでいた。
(プロデューサー……見られちゃった? いや、見られてなくても、気づかれちゃった? わかっちゃってる……?)
めぐるは心中、彼女自身のしでかした“こと”について、プロデューサーが『わかっちゃって』いてほしいと思った。『わかっちゃって』いてほしくないとも思った。シワだらけのジャケットに負けない乱れようだった。自分の心臓がうるさくて、その一拍ごとに両方がめまぐるしく切り替わる心地がした。かき回されて両方が混じってしまうかもしれないと思った。
(わかっちゃってるのかな、プロデューサー……そう、だよね……わたし以外も、女の人のこと、よくわかってるみたいだし……)
「めぐる」
「えひゃぃっ!?」
プロデューサーの腕が、めぐるの肩に回される。
「せっかくだから、付き合ってもらいたいんだが」
めぐるは言葉にならない声と吐息を漏らすばかりだった。
何を、とは聞き返せなかった。
(ぷろ……でゅーさーの、腕……捕まえられちゃった、どうしよう……離されちゃったら、どうしよう……?)
離してくれなかったら、とは考えられなかった。
※
執務スペースだか談話スペースだかに引っ張りこまれてから、プロデューサーにくちびるを奪われたとき、めぐるは男の腕に抱きすくめられているのに、自分が奇妙な身軽さで満たされていくのを感じた。運動部の助っ人や、アイドルとしてステージで駆け回るときよりも体が軽くて、むしろ軽過ぎてそのまま蒸発してしまうんじゃないかと心配になった。
「んっ、はっぷ、れぅ……ぅ、ふ……ぅぅ――ん、く……っんあうぅっ……」
めぐるのファーストキスはコーヒーの薫りがした。前にプロデューサーを真似て飲んでみたブラックコーヒーより、ふんわりと甘くてミルクが優しげな味だった。彼が疲れてコンビニでふだんより甘いカフェオレでも買って飲んだんだろうな、と思いを馳せた。
「ぷは、はぁ、ん、く……っ」
「ん、んっう……はぁ、はぁ……んう……っふはぁ……ぷ、プロデューサー……」
「めぐる……キス、しちまったなぁ」
「……ひげ」
「ひげ?」
「ひげ、ちょっとチクチクしてるね……?」
めぐるはソファへ押し倒されていた。めぐるを含めた所属アイドルたちがいつも座ってかしましくしゃべっていて、それで彼女の肌も慣れていたソファーカバーの感触が、いつもよりひんやりと涼しかった。
「や、ぁえぅ、あぅ……んんっ! はぁむ、ふむ……んぐ、ぢゅる、んんっ……」
追撃のキスにまぎれて、ジャケットは引き剥がされ、部屋のどこかへ放り投げられた。シワになっちゃう……と思った自分が、めぐるはバカバカしかった。もうあれはめぐる自身がめちゃくちゃにしていたのに。
「ぷ、ぷろでゅーさーは……わたしと、その……したい、の?」
続いて、自分の舌がずるいと思った。もし『したい』なら受け入れてあげよう、とでも言ったつもりか……そんな“もし”が許されるのか。許してしまっていいのか。
「……あぁ、そうだね。めぐると……したい、よ」
キスでくっついたり離れたりのうちに、カフェオレのような味がすっかり失せて、じりじりと酸っぱい舌とくちびる。また重ね合わせる。酢と比べてしまえばじっとりと鈍く、果実と比べてしまえばねっとりと不純な酸味だった。
めぐるとプロデューサーの目が合った。キスしている最中でも目は開けられるんだ、と気づく。いままでどこかで見てきたドラマや漫画のキスシーンでは、みんな目を閉じていたのに。マナー違反してないか、と小さな危惧が浮かび上がって、ちゅるちゅると粘膜を吸い合ううちに沈んでいった。
「んっ、く、ふ、ぅう……あ、は、はぁ、あ……っ、ぷろでゅーさーの、あつくて、ふぇ、えへ、へ……っ」
めぐるは自分の声の舌足らずさで笑いそうになった。
笑い声を漏らす前にプロデューサーから腕と肌を重ねられた。
(あんまり激しく動いたら……転げ落ちちゃったりしないかな)
もし転げ落ちたら……自分の体があまりに熱くとろけてしまっていて、床へぶつかった瞬間にべしゃりと潰れて床のシミに成り果てて……グロテスクな想像を押しつぶして見えなくしてくれと、めぐるはプロデューサーの首へ自分の腕を回す。引き寄せる。プロデューサーの体臭が濃くなるほど安心する。怖いことが何も考えられなくなる。
「ひゃ、ぅ……! ひゅっ、ふ、ぅ、んくっ……」
腕を絡めあったまま、もっとディープなキス。くちびるのあいだで舌を絡め合う。プロデューサーの唾液はキスそのものよりあっさり味だ……とすっかり覚えてしまうころ、めぐるは歯列のあいだに舌を突っ込まれて、口蓋の敏感なところを舐められ、うぅうぅ、とくぐもった動揺を漏らす。
「んきゅっ……れぅ、んくっ、ふぁぷはっ、あ……っ!?」
プロデューサーに舐められてとろけてしまうのは恐ろしくなかった。あるいは、恐ろしいと考えられなくなっていた。
「上あごのところって……くすぐったいんだね……知らなかったよ、わたし」
「もっとしてやろうか、めぐる」
「やだ、おかしくなる……」
くちづけから逃げるようにして、プロデューサーの鎖骨と肩甲骨の境目あたりに顔を寄せる。めぐるが何もしなければ、いまもジャケットに包まれていたはずのシャツと男の肉体。がちがちな骨の硬さ。どっしりしているのは筋肉か。灯織や真乃にするハグとは程遠い感触。
手ですがりながら、もっと顔を寄せてくちづける。もうこれからジャケットだけではダメだろうな、と確信させられる。
「おかしくなっちゃうの、プロデューサー……っ」
「おかしくしてやるんだよ。俺が、めぐるを」
プロデューサーの手も、反撃のようにめぐるの首やデコルテを撫でた。それに向かって、何度目かのいたずら心が顔を出したか、ブラジャーごしのバストを押し付けてみる。ムニュムニュと変形するぐらいに強く。プロデューサーとの距離があまりに近くて、彼のどこで変形させられたのかわからないぐらい。とにかく彼のどこかだった。それよりほかは、わからなくても一向にかまわないので、念押しのようにさらに押し付ける。
「あ、ぅ……ぷろでゅーさーぁ……」
「なに、イヤって言われても触ってしまうよ」
「ぁ……ふぁあっ……おっぱい、ぃ、あぁ……っ」
口に出してみると、思ったよりずっと恥ずかしくて、衣擦れがしびれて心臓が跳ねた。プロデューサーからかけられている体重が不意に軽くなった。心細いと感じる間もなく、制服のシャツを押し上げる膨らみが、彼の手で覆われる。
(おっきい……わたし自身の手じゃ、覆いきれないのに)
プロデューサーの触り方のせいか、めぐるは彼の指より手のひらを強く感じた。あいだを布2枚が隔てているのに、乳房の肌が吸い寄せられていく錯覚もした。
(ぴったりしてる。まるで、プロデューサーのモノみたい)
めぐるの感じるプロデューサーの吐息が、キスのときより浮ついて揺れていた。キスより、おっぱいのが好きなのかな――えっち、と拗ねたくちびるだけでつぶやく。
「っふ、ふぅむぅ、ぅ……んむ、ふふっ、あはは、優しいんだね、プロデューサーったら」
「優しいわけないだろうが……めぐるが心配になりそうだよ、俺は」
笑っているうちに、シャツをはだけられた。谷間のあたりに注がれている視線がくすぐったい。さっき着替えのときに目にしていたはずのブラジャーの色が思い出せなかった。
「んきゅっ♥ ひゃ、なに、この……へ、へんなこえ、でてっ……でても、笑わないで、ね……」
「どうだか。いまのめぐる相手だったら、何を言われてもにやにや笑っちゃいそうだよ」
「ぷろでゅーさーの、いじわる……あ、くうっ、や、やらぁっ……♥」
肩紐をずらされ、カップも剥がされ、もうブラはまとわりついているだけ。自分の呼吸に合わせて乳房の稜線が動いてしまっているのを、めぐるは視界の端でとらえてしまう。
(おっぱい……見られてる……えっちな目で、プロデューサーに、二人きりで)
プロデューサーの手は、めぐるの二の腕のあたりから素肌の乳房へ迫っていく。
「ああっ……ふ、うっ……んあっ、や、あっ……♥」
「……あぁ、めぐる、すごいな」
「すごいって、何がさ、ぷろでゅーさー……」
ブラを外す前、めぐるの乳房をまんべんなく堪能していたプロデューサーの手が、動く範囲を絞っていく。指先で、めぐるの乳先に迫って、緊張と期待を塗りつける。
「……乳首、大きくなってるなぁ」
「や、やらぁっ♥ そんなの、言わないで……む、胸っ、おかしく、なっちゃ……ひゃふっ!」
「感じてる、っていうのかな……男だから、わからないけれど、そうだったら嬉しい」
プロデューサーは『男だから』と言ったが、当のめぐるもよくわからない。興奮していてそうなったのか。それなら、さっきジャケットでオナニーに耽っていたときはなんだったのか。あのとき乳房はただ前腕やら上腕やらにもみくちゃにされていただけだったのに。
「い、やぁっ、こえ、でちゃ……んんんぅっ!」
「……さっきのほうが大きな声出してたのに」
「ひゃ、えっ……き、聞いてたの、ぷろでゅーさー、あ……っ」
「じゃなきゃ……いや、なんだよ。聞いてたら、なんだったって言うんだ? 俺が聞いてちゃいけなかったか?」
あらためて自分のしでかした『いたずら』が恐ろしくなる――考えられなくなっていたはずの『怖いこと』が不意に帰ってきていた。いまこうしてプロデューサーに迫られているのは『いたずら』の代償なんだろうか、と考えると、恐ろしさが二重になる。
(これじゃ……しちゃいけないのに、もっとしたくなっちゃうよ……?)
指を立てて、爪先で引っ掻いて、指の腹を押し付けて……プロデューサーが挑発のためか、くるくる指先で真似をしてみせただけで、めぐるは実際に刺激されたように喘いだ。
「……こんなに、乳首、コリコリにして……」
「そんな、こりこり、して、してっ、なんか……んあっ!? あ、ぷろでゅ、さ、さ……や、ぁん……!」
「いやらしすぎるだろう、めぐるは……しょうがないなぁ」
「そんなの、おっぱい、ちくびぃ、触ってる人が言ったって……あぁぅっ、ふぅーっ……♥」
めぐるは、プロデューサーの指先がときおり痛いぐらいに力んで乳首を刺激してくれるのが嬉しかった。そうされながらだったら、恥ずかしいほど興奮をあらわにした自分のそこもなんとか受け入れられた――プロデューサーがいじりたいようになってるだけだもんっ――恥ずかしいと思うような痴態を引きずり出され、それを受け入れてしまう。
「んぁ、ぁあ!? だ、め、ぇ……♥」
ねじられる。つねられる。しごかれる。胸をいじられて肩や腰までびくびくと跳ねる。下着がずれるほど跳ねたせいで、オナニーのときより露骨に女性器が濡れたのも実感する。
「ぷろでゅーさー、あぅ、ひゃ、あぅう……っ!」
また乳首刺激に応じて体を跳ねさせてしまう。あんまりめぐるが跳ねるからか、プロデューサーが自分の膝を使って、めぐるの膝上から太腿にかけて抑え込んでしまう。
(あはは……わたし、これじゃ、落っこちることもできないね……)
また乳首刺激に応じて体を跳ねさせてしまう。さっきより遠慮なく跳ねてしまう。
「ぁ、あは、ぁ、も、ぉ……わ、わら、ひ……っ♥」
「本当に、めぐるはいやらしい子……いやらしい子みたいに、して……どうなんだよ、もうっ」
めぐるは、乳首刺激でおかしくなる合間あいまに、薄く目ぶたを開いてプロデューサーを見上げてみた。耳をそばだててみた。そうしていても、彼がめぐるのことをどう見ているかも、どう話しているかも、わからない。湯気を掴むような勢いで、形がなくって、とにかく熱っぽいなにかが彼からこっちに向いているとしかわからない。
それでよかった。自分が熱くなるだけじゃなく、自分がプロデューサーを熱くさせてしまっている――しかも、わたし自身と同じぐらい――それさえわかっていればよかった。
「濡れてるな……これは、汗じゃあるまい」
乳房からプロデューサーの手が離れてしまった。めぐるはその熱が冷める間も与えられず、スカートをまくりあげられ、足を広げられる。濡れ具合を確かめているのか、プロデューサーはじろじろ視線を注いでいた。匂いも嗅いでくれたらいいのに……と口に出しそうになる。
(嗅がれちゃっても……いいの、かな。プロデューサーが嗅いじゃったら、プロデューサーもわたしみたいに……)
めぐるの顔が引きつっていた。
「怖くなったのか」
めぐるの引きつりをネガティブに解釈したのか、プロデューサーの問いは沈み気味に聞こえた。『怖くなった』と言えば、どうなるんだろうか――そっちのが、むしろ、怖いかも――手を伸ばして、プロデューサーの腕に引っ掛ける。
「……もっと怖くしてほしい、プロデューサーに」
「その返事は予想外だった」
もう怖がっても止めてもらえないな、と気づいて、あっさり腹が据わった。
※
「めぐる」
「うん」
「入れる、ぞ……」
めぐるはソファへ仰向けに横たわって、プロデューサーと事務所のジブトーンな天井を見ていた。逆光で彼の顔を見るのは初めてかもしれない、と思った。見慣れたり思い慣れたりした顔でもちょっと違和感があった。
足を広げられた。片足の膝裏がソファの背に引っかかって、その足の裏がぶらぶら宙に浮いている。呆れるぐらい無防備な体勢。その体勢をとるだけで、いまからこの男に処女を奪われるのが当たり前のようだ、とも思った。なんでこっちには違和感がないんだろうと呆れた。
プロデューサーは『入れる』の宣告後も、すぐには入れなかった。ソファでのセックスに不慣れなのか、担当アイドルの処女を奪うのに覚悟が要ったのか。彼はめぐるが『ようやく』と感じるぐらい手間取ってから、亀頭で処女陰唇をこじ開ける。
「んはぅアッ……! んかはっ、ああっ、ふぁああ……っ」
痛かった――痛かったはず、だった。
「めぐる……だいじょうぶ、か……?」
「だいじょうぶかな……い、痛い……? いたぃ、の、かなぁ……」
めぐるの神経は確かに痛みの感覚を訴えていた。けれどそれを認めるのをためらった。痛みの感覚が本当だとしたら、さっきの熱いくせに儚い自慰の感覚も、プロデューサーの指先にもてあそばれて喘いだ乳首快楽の感覚も本当だった、と確定する気がした――そうなっちゃったら、どうしよう……――痛いのに、もっとしてほしい。
それを認めるのも、めぐるはためらった。
「……近く、に……」
「めぐる……?」
「そ……そー。そーやって、名前、呼んで。近く、で」
考えたくなかった。考えさせないでほしかった。苦しいぐらいにのしかかってぎゅうぎゅう締め付けて頭から何もかも消し飛ばしてほしかった。
「ふっ、くぅ、ぁあッ、もう、だめ、ぷろ、でゅーさーぁ……あ、あっ……!」
「う、ぐ……めぐ、る……」
逆にめぐるの腟内が、処女血を滴らせながらぎりぎりと収縮した。彼女自身もろともプロデューサーを苛んだ。けれどその痛みも、めぐるの意識から何もかも消し飛ばすには、少し不足そうだった。
「ふっ……くぅっ…うぐっ、ふ、うぅうっ……!」
「力を抜いて……って、いま、抜けるか、な」
「さ、さぁ……ねぇ……?」
めぐるはくちびるをとがらせてキスをねだった。口を聞くどころか息も吐けなくなればいいと思った。プロデューサーが上からくちびるを重ねてきた。
めぐるの思惑は外れた。彼の頬に荒い鼻息を浴びせてしまう恥ずかしさが勝った。
「はぁ、あっ……めぐるっ……俺、は……っ」
めぐるにとって、プロデューサーのコンドーム越しの射精は、思い返せばそれとわかる程度の印象だった。
プロデューサーが処理しようとしていた使用済みコンドームを手にとった。彼から『そんなの、俺が始末しておくから』と言われたのを、めぐるは『わたしの血がついているんだけど?』と彼女自身ですら理解不能な抗弁で叩き落とし、強引に奪った。そのくせ、『またあしたね、プロデューサー』と言って事務所をあとにしてから、こっそり帰途の公園のトイレに流してしまった。
※
「……これが愛だったら、どうしよう」
「えっ」
「めぐる……?」
めぐるは283プロダクションのソファに座っていた。ちょうどプロデューサーに処女を奪われたあたりだった。
「……え、どしたのふたりとも」
けれどプロデューサーはそこにいなかった。ブラインドの隙間からは、墨色の夜ではなく橙色の夕方が見えた。めぐるのそばで、ソファに灯織と真乃も座っていた。
「あ、ごめんわたし……なんか、へんなこと言っちゃった?」
「めぐる……話、聞いてた?」
「休憩しよっか……ちょっと、いろいろしゃべって喉が渇いちゃった」
「じゃあ飲み物を……めぐるは? ホットミルク?」
「うん、ホットミルク……って、わ、わたしが用意するって。あっためてるあいだヒマになるし」
給湯室で飲み物を用意する。ホットミルク。ミルクコーヒー。ほうじ茶。めぐるはこっそり自分の下着が濡れていないか確かめようとする。トイレの出入り口が見えた時点で断念した。
(……ラブソングの歌い方、どうしようか……って、ね)
はちみつ入りホットミルクでくちびるがすっかり湿るころ、めぐるはillumination STARS会議の中に、意識をなんとか戻していた。
「恋したときの気持ちとか、胸がドキドキする感じ? あたりが、うまく……自信をもって思い描けなくて、どう歌っても、なんだかウソをついてるみたいな気分になるの」
「灯織……恋、したこと、ある?」
「うっ」
「まぁ、私も……なんだけど」
illumination STARSの新曲候補に、切なく恋に震える女の子の気持ちをつづるミドルチューンが浮上してきて、それをきっかけに、3人はラブソングの歌い方について話し合っていた……が、三人寄れば文殊の知恵とは行きそうもない。
(わたしは……プロデューサーに恋、してるのかな……あるいは、プロデューサーはわたしに……?)
処女を奪われた場所に腰を下ろしながら、そんなことを昼過ぎから日が傾くまで話しているうちに、めぐるの意識は現在と記憶を混線させてしまったらしい。
(……恋してるのかどうかはともかく、おかしくはなっちゃってるかな)
友達との甘酸っぱい恋バナであれば楽しく浮ついていられたが、アイドルユニットの仲間と仕事で……となれば、それだけでは済まない。最初のほうはソワソワと甘酸っぱくても、あーだこーだと暗中模索のうちに頭がふらふらしてくる。
「ラブソングを歌うために、誰かに恋をしたり、誰かを愛さなきゃいけないのかな。それが、ちょっと深刻に考えすぎな気もするんだ」
「……私が考えすぎなの?」
「恋してなさそうな子が、そういう歌うまいこと歌ってることもあるし」
「それは否定しないけど」
「んー、例えばさ、甘奈ちゃんに聞くのじゃいけないのかな。『ALSTROEMERIA』とか『Sweet Memories』みたいに、はっきりしたラブソング持ってるし」
「……あとでそうするにしても、もうちょっと私たちが何をつかめてないのかまとめたほうが……」
めぐるはテーブルに投げ出していたペンを手に取り直しつつ、あらためて二人の意見を傾聴する。
(……灯織は、自分の心や感覚から曲に入っていこうとしてるのかな。灯織は占いが好きだから、アプローチも気持ち重視なのかな。占いって信心だし? だから……いやいや、真乃も占い好きだった)
灯織を真似るつもりで心や感覚からアプローチしようとすると、めぐるの中にまたプロデューサーとのセックスの記憶がちらつく。
「恋愛ってなんだろう、ってのもだけど……どうしたら、曲を聞かせてる相手に『恋愛してる』って思ってもらえるんだろう」
記憶がちらつくと、そこから高ぶりや切なさや不安がにじんでくる――まるで本当にラブソングみたい。
「うん……食レポでも、こっちがおいしいって思ってたって、それが伝わるとは限らないものね」
まるで……でも、それが本当だったら困る、ともめぐるは思う。
仮に、ここでいま額のシワを作ってしまっている灯織が、プロデューサーに好感を抱いているのはいいとして、ここでめぐると同じように強引に抱かれて受け入れたら恋なのか。
あんまりな想像に頭を抱えてしまう。
(別にわたしだってレイプ願望があるとか、そういうヘンタイみたいのじゃないよね……ただ、プロデューサーには私の弱いところを受け入れてもらいたくって……)
好奇心と性欲といたずら心に負けて、プロデューサーのジャケットを抱えてオナニーしていて……その報いとして強引に処女を奪われたのなら、めぐるはその報いを――恥ずかしくてたまらないのはともかく――納得できなくもなかった。もうそれがいい……破廉恥なほど弱いところを受け入れてくれて、むしろ引き出してくれて、ガツガツ求めてくれて――しかもプロデューサーはフワフワした顔で気持ちよさそうに――ついでに名目上の責任はすべておっかぶってくれた……それなら流されてもしかたない。
(ぜんぶプロデューサーのせい……? そうかなぁ。まぁ、ほかの人から見たらそうか……プロデューサーが大人で、わたしが子供だからかなぁ。たいへんだね、大人って……)
流される――恋って、どうしようもなく落ちるものってよく言われるけど、じゃあやっぱり……?
「甘いものがどうしても食べたいとき……みたいに、相手のことを思い浮かべてみる?」
「ほわっ……食べちゃいたいぐらい……って、もしかしてそういう」
「……ほかにどうしようもなかったら、そうするかも」
灯織と真乃もそうとう疲れているらしかった。
「私、意外と悪くない気がしてきたかも。『食べちゃいたいぐらい』って」
「ま、真乃……」
「誰でもお腹は空くからね。まぁ、好きな人にかじりついて食べちゃう人なんていないだろうけど」
めぐるはどきりとさせられた。自分は、プロデューサーのジャケットやプロデューサー自身へかじりついていなかっただろうか――ちょっと自信、ないね……――どきどきしっぱなし。
「考えてみれば、ラブソングって、歌詞のほかにも……テンポとか、メロディとか、コードとか、振り付けとか、だいたいお約束があるもんね」
「あぁ、そういえば……初恋とか、片思いとか、失恋とか……そういうので多少変わるぐらいか」
「物思いに耽ってるときにいつも雨が降ってるみたいな……?」
「現実じゃあそう都合よく降ってるわけないけど、降ってるもんね」
こんどは真乃を真似るつもりで、ほかのラブソングの『お約束』からアプローチしようとした。知っているような口ぶりで『お約束』の具体例を並べ立ててみた。すると、めぐるの中にやっぱりプロデューサーとのセックスの感情がちらつく。
「恋は……怖いところ、あると思う」
「……フラれちゃうのが?」
「あるいは、友達みたいに親しく付き合ってたのが、そういう関係じゃいられなくなっちゃうとか」
真乃と灯織が探り探り紡いでくれた言い換えは、めぐるにいまいち響かない――そういう、他人との関係というよりは、さ……――恋に落ちているとすれば、落ちていく自分自身が怖い。
(ほわほわ幸せってのは少なめで、ゾクゾクが止まらなくなるぐらい怖い)
そういう心境を、この仲間二人に告白してしまったらどうなるだろう――あ、二人にとっても、プロデューサーは『プロデューサー』だよね……――そこから意識をそむけていられていた自分の図太さに愕然とする。
(プロデューサーのためにほかのみんなぜんぶ犠牲にシてしまいそうなの。自分からシてしまいそうなの。そうシないでいられるの、プロデューサーがむりやりシてくれるあいだだけなんだ……いまのところは)
かつてプロデューサーはめぐるに“キュンとする感じかな”と、恋について端的に語ったことがある。
キーフレーズは、夏に恋するピチカート。確かに、夏の日差しや青空や夕立や潮騒や黄昏や線香花火には『キュンと』していたかもしれない。
(みんな、なんであんな無邪気に恋の歌を口ずさんだり聴いたりできるんだろう?)
かつてプロデューサーにめぐるが“プロデューサーは恋したことある?”やら“プロデューサーは分かる? 恋ってどんな感じなのかな”などと無邪気にぶつけていたことは、棚に上げた。
「……自分が、ね」
「自分が?」
「変わっちゃう。どうしようもなく……望んでいるように、望んでいないように」
「……めぐるちゃん?」
「あっちこっち、ぜんぜん違う方向に同時に引っ張られて、引き裂かれそう」
めぐるのくちびるからつぶやきが滑り落ちていた。
一進一退のラブソング検討会が一気に静まり返った。めぐるは、また静かさのせいで静寂が一気に破られたような矛盾を味わった。
「……あ、あぁ、そっその、ね。うちのパパとママの受け売りっ。遠距離だったとかなんだとか、いろいろあって悩んだらしいよっ」
なるべく、おかしいと指摘されにくそうなハッタリを打った。
(パパとママ、ごめんなさい。二重の意味でごめんなさい。灯織と真乃も……)
ユニットの仲間からの視線が弱まると、めぐるの意識は記憶からまた別の色を吸っていく。
※
「ご、ごめんねっ」
「……何が?」
「い、いや……ちょっと、言いたくなっただけだよ。あはは」
「珍しいな」
「へ、ヘン……だよね」
「少なくとも、俺は人生で初めて聞いたよ。『ごめんね』って『言いたくなっただけ』って。なるほど、そういうのもあるのか」
プロデューサーが暮らしていると聞いたマンションの部屋は、ぎりぎりまで生活臭が削られている気がした。プロデューサーは“めぐるをお迎えするからがんばって掃除したんだ”と言っていたが、それにしたってめぐるは生活の気配が薄すぎ、と呆れる。クローゼットや冷蔵庫を勝手に開けたくなるのをなんとか我慢する。
(……もしかすると、一人暮らしの大人ってみんなこんな感じなのかもしれないけど。わたし、一人暮らしって考えたこともないからなぁ)
めぐるの『ごめんね』は、強いて言えば、またいではいけない敷居をまたいでしまったふうなきまり悪さだった。そのきまり悪さはくせになっている。プロデューサーのジャケットを盗み嗅ぎしたときに重なる。
(申し訳なさとか心苦しさって……気づいたら、そばにいるよね。嬉しいとか気持ちいいとかだと、すぐ指のあいだからこぼれ落ちて見失っちゃうのに)
プロデューサーがめぐるに飲み物を用意してくれた。牛乳パック――あ、うちのとパッケいっしょだ――をあけてマグカップに注いで電子レンジへ。めぐるはやっと生活臭を嗅ぎ取れた。きまり悪さはそのままだった。
「……はちみつがないや」
「これ入れていい?」
「それはインスタントコーヒーだ……めぐるが、苦いのほしい気分なら、いいよ」
プロデューサーの隣に立って、インスタントコーヒーのパッケージを手に取る。四角いPE包装の袋は、折り目がペーパークリップで留められていた。中身は4分の1ぐらいしか残っていなかった。クリップを外して袋の口に鼻腔を近づけてみたが、めぐるは苦いと感じなかった。
「これがちょうどいい。これで混ぜていいよ」
「ちっちゃ。ティースプーンじゃん」
「俺は、それでいつも3杯入れてる」
めぐるはティースプーン山盛り1杯をすくって、ほんのり湯気を立てるホットミルク入りマグカップに落としてかき混ぜる。白と焦げ茶色がぐるぐる回る。自分の心持ちに重ねてしまって妙な親近感が湧く。
いつか灯織から聞いたコーヒー占いの話を思い出した。すぐに振り捨てた――あれはカップの底に残ったコーヒー粉の模様を見る占いだったって言ってた……じゃあ、これには何も残らない――その連想も振り捨てた。
めぐるはプロデューサーの部屋でシャワーを借りた。バス・トイレ別で浴槽は洗ったまま空だった。お湯をはろうとして迷ってやめておいた。バスタオルとハンドタオルも借りた。
シャワールームから戻る。ベッドシーツはよく乾いていた。あまりよく乾いているせいで、湯上がりの湿気った自分を乗せてしまうのを、めぐるはためらった。交代でシャワーを使うプロデューサーがシャワー水栓を開けてから閉めるまで、ベッドまわりをずっとうろうろしていた。
「……エロい目で見てしまうなぁ、めぐるは」
「プロデューサーでも?」
「『でも?』ってなにさ……おかしいかなぁ」
「……わかんない」
「そうか」
めぐるのスリーサイズは、デビュー当初から90-59-89で通している。最近、“おっぱいがちょっと……あとお尻も……おっきくなってきちゃった気がするけど、このままでいいの?”とめぐるが聞いてみたら、プロデューサーは彼女の想像よりずっと難しげな顔でうんうん悩んでいた。悩みのタネは営業上の都合か、それとも。
(……見て『しまうなぁ』って。プロデューサーも、イケないことみたいに言うんだね)
初めて肉体関係を持った翌日、プロデューサーはめぐるに、“すべて自分の責任だ”と告げた。めぐるは、ぶーぶーとなるべく軽い口調で反論しようとしたが、うなり声だけで言葉にならなかった。
(イケないことをするのは心苦しいけど、それが恋してる人と……愛してる人といっしょなら? もしかして、心苦しさのちくちくしたしつこさも、かえって……そんなの、たまったもんじゃないはずなのに)
「……ハンカチ?」
「手、後ろにして。めぐる」
「それで結べるの?」
「いいから」
めぐるはベッドの上で膝立ちになりながら、お尻の上で手を組んだ。親指どうしをくっつけた。手首どうしを結ばれるより、親指だけを結ばれる方がよっぽど解きにくい……と、プロデューサーとのセックスではじめて知った。
「きょうは、それ、握ってるだけでいいよ」
プロデューサーの指が絡められて、ハンカチの生地を指先と手のひらで感じる。つるつるして、ハンカチのくせにあまり汗を吸ってくれそうもない手触り。ぎりぎりと、あとが残りそうなぐらい爪を立てて握って両手で引っ張る。
「つい、離しちゃうかも」
「めぐるが離しちゃったら……どうしようか」
プロデューサーはめぐるを抱くとき、たいていめぐるに何らかの身体的拘束をくわえた。どこにでもありそうなハンドタオルやら、すぐに切れてしまいそうなリボンやらでめぐるを縛った。縛るものも縛り方もいい加減だった。プロデューサー以外に縛られた経験がないめぐるでさえ、自分が力いっぱい暴れたらすぐ解けてしまうんじゃないかと不安になるほどいい加減な拘束だった。
欲するがままにプロデューサーをハグできないのだけが、救いのようで寂しかった。めぐるが思い浮かべる限りでは、救うものと救われるものは運命をともにできない。彼が『すべて自分の責任だ』と彼女に告げたのは、その場だけの方便……ではなかったのかもしれない――いくら頭を振っても考えてしまう。
「じゃあ、めぐる。して」
「おっぱいの? 手、使えないんだけど」
「手は使わないで。それ以外は、任せた」
「できるかなぁ」
「できなかったら、それはそれで」
「できなくてもいい、みたいなこと、言っちゃダメだよ」
「めぐるがシてくれるだけで嬉しいんだって」
後ろ手に縛られた“ような”姿勢で、めぐるはベッドに膝を突く。すぐ向こうには、プロデューサーが楽にあぐらをかいていた。彼も全裸だった。
「……みたいなこと、言っちゃヤだよ」
「わかった、取り消す……シてくれ、めぐる」
ペニスは熱さでぐったりしていて、あぐらの両足首のあたりでうなだれていた。勃起のきざしは見せているが、まだ芯が入っていない。めぐるが後ろ手のまま跪いて、拝むように頬とくちびるを寄せてやると、ペニスが傷口へ塩水を塗られたようにぴくりと動く。
「んす……すぅ、ふぅ……ちゅ、んちゅ、れぅ、るるるぅ……すぅ、はぁ……っ」
めぐるはそこで呼吸できるよろこびを感じていた。呼吸できるたびによろこびを感じられるような人生だったらどんなによろこびに満ち溢れているだろう、と妄想した。心苦しさがまるでなくなってしまいそうなのが気に入らなくて、すぐに妄想を放り捨てた。
プロデューサーの男性器やそのまわりの匂いは、シャワーであらかた洗い落とされていて心細かった。それを舐めるように嗅ぐ。触れる。唾液がしらじらとにじんでくる。
「舐めて……舐めてくれ、めぐる」
「濡らしちゃうよ」
めぐるはペニスの熱っぽさを頬にくっつけたまま、プロデューサーを見上げて抗議の視線を投げた。自分の唾液を塗りつけたら、プロデューサーのそれがいよいよ薄れてしまう。
「そのほうが、興奮するんだ」
「……おっきくしてくれる?」
「なっちまうな。イヤでも」
それもそうだ、とめぐるは思い“出して”、上下のくちびるを開く。舌を伸ばしかける。
「……『イヤ』なら、シちゃあまずいかなぁ」
「う……めぐるにシてほしいんだって」
「はいはい」
裏筋と舌先が触れ合う。濡れてもいないのに、うっすら汗を舐めたように塩辛い。
ハンカチを握り直して、舌先だけでなくくちびるも寄せる。包み込む。歯列もかぱりと開いて、亀頭を頬裏まで受け入れる。
「んぐ、ふぐ……んちゅ、ちゅぷぅ、くちゅっ……ふぁ、あ、ぁん……っ」
まだ半勃起なのに、めぐるは先走りの生臭さを思い出す。味蕾と鼻腔をついてくるそれは、おいしくないのにいつまでもしゃぶっていたい。にちゅ、ぬちゅ、と音を立てる。それがいやらしい音だと教えてきたのも、このペニスとこの体臭だった。
「んぷ、へう、んぷ、ちゅう……」
膝立ちで両手が使えないまま動くのは、めぐるの想像以上に不便だった。ペニスへの奉仕に捧げている頭が重くって、しかも支点の両膝から遠い。ぬちゅ、くちゅ、とフェラをちょっと続けただけで体勢が不安定になる。プロデューサーの上体に、肩や顔をもたせかけなければならない。
「あくっ……ふぅ、んぐ、ぷふ、ふぁ、はぁ……っ」
一息つくたびにプロデューサーから額や後頭部を撫でられる。もっと抱擁してほしいと彼に腕を絡めそうになる。ハンカチはそれをそっけなく邪魔するくせに、めぐるの手汗すら吸ってくれない。
「手ぇ、使っちゃいけないって……たいへん、だね……? プロデューサーだけ、ずるいよ……」
それでもめぐるはハンカチを離さない。恨めしいのに離したくない。『自分がシてしまいそう』なことを止めていてくれる。一人の夜に盗み嗅いだプロデューサーのジャケットよりは、安心して身を任せられる。
あの夜よりみだらな行為に耽っているとしても。
「ん、ぷっ……ちゅ、んちゅ、んぁ……ぷぁ……♥」
「めぐる、いい目してるよ」
プロデューサーの目を見上げる。めぐるは自分がペニスにひざまずいて、ありったけの恭順を示しているシルエットを見て取った。
「自分の目は……鏡もないし、見えないよー」
さすがに目つきまでは見て取れなかった。
「目が、とろんとしてる」
「……してるかなぁ?」
めぐるにはピンと来ない言い回しだった。めぐるが『目が、とろんとしてる』と指摘されるときはきまって眠気に負ける寸前だった。プロデューサーの肌とくっついたままでは、眠りたくてもそうそう眠れなさそうだった。
「あひゅっ!? ふぁあっ……ぷろでゅーさぁあっ、そこぉ……」
「『そこ』って?」
「お、おっぱぃ……さきっぽの、ちくび、いま……ひゃぅうっ!」
「んー、ふわふわとコリコリのあいだぐらいかな」
「説明しろなんて言ってないよっ――んひゃぅ、きゃぅうっ!?」
甘い痺れで力が入らなくなって、めぐるがプロデューサーの下腹部に乳房をぎゅうぎゅうと押し付ける体勢になってしまう。
「あ、これ。いいな」
「にゃ、にゃにが……ひゃふっ!? んきゅ、あ、んぁはぁ……っ♥」
「めぐるにおっぱいぎゅってされながら、めぐるのかわいい反応を見られて……」
「かってに、いじらない、で……あぅ、んんんんっ♥」
せめて、しゃべろうとしているときはやめて、話ちゃんと聞いてよ――それをプロデューサーへ言い含めるのがせいいっぱいだった。
「そ、そんな、さき、ぁ、あ……っ、あんっ、はぁぁっ……♥」
プロデューサーはめぐるの両乳首をつまんでいた。つまむ、というにはいささか物足りない力加減――指先で触れてくれている、と伝わるだけ。
そんなことが少しだけ続く――少しだけでも耐えられない。
「ぁ、ぷろでゅ……ぁあ、あぅう……うぅーっ……ぷろでゅーさーの、いじわる……っ」
「……めぐる?」
「あ、あぁ、ぅうう……っ♥」
もっと強く身も蓋もなくなるぐらいつねってほしかった。かりかり引っ掻いたり、歯型がつくほどかじってほしかった。
それをねだろうとした瞬間にプロデューサーは刺激を止めてしまう――『しゃべろうとしているときはやめて、話ちゃんと聞いて』……わたしが話そうとしたら止められちゃうの……?――いざねだろうとしたら恥ずかしすぎた。
「はうっ……んぁ、あっはぁ、きもちぃけど、くすぐったくて、せつな……っ♥ あっあっ……♥」
「あはは、めぐる、かわいいぞ……!」
意思表示を封じられて、愛でられながらもてあそばれるまま。自分で自分の姿勢を保つこともままならない。
(これじゃ……オモチャか、よくてペットだよ……っ♥)
乳首をすりすりと優しげに刺激される。おかげでめぐるは、触られ心地だけで、自分の乳首がぷりぷりと勃起してしまっていると気づいてしまう。
(ち、ちくび……こりゅこりゅ、しちゃっ……して……おかしく、なる……っ!)
乳首刺激がかすめていくだけで、めぐるはプロデューサーに預けている上半身のいくらかが震え上がってしまう。それどころではなく、背筋とお尻とふくらはぎと足の指先もうずうずする。
(おちんちんに使ってもらうって、こういう心地なのかな……?)
めぐるは、自分の肌や肢体の曲線が――アイドルのときであれ、ただの女子学生のときであれ――男の性欲を刺激するものだと知っていた。そこまでだった。あまり、たくましくしたくない想像だったので打ち切っていた。
(ちくび、いじられすぎて、もっとおっきく、敏感になっちゃったら……水着とか、着られないじゃん……っ♥)
自分の体が、プロデューサーの性欲のはけ口として作り変えられていく。たくましくしたくないのに止まらない想像だった。すりすりと撫でられてもきりきりと捻られても、大切に扱われていると感じてしまう。
「はあ、ぁううっ、ぁんっ、んぁっ……♥」
「めぐるのおっぱい、使わせてもらうよ……ぉお、おーっ、すべすべ……」
プロデューサーの手は、めぐるの乳首を愛撫していたかと思えば、横乳を両手で覆ってむぎゅむぎゅとこねるようにして谷間を深くさせ、そこにペニスを挟んでこする。
「まるでパイズリオナホだなぁ」
めぐるに馴染みのない語彙だったが、いやらしい意味であるのは察せられた。
(使われちゃう、ぷろでゅーさーのいいように作り変えられちゃう……わたしの気持ちなんて関係なくっても……それは、怖いよね、望んでいても。ゾクゾクする)
めぐるは確かに恐れていた。怖くなくなったり怖くなったりとぶれているのは、たぶんいままで感じたことのある『怖い』と違いすぎているからか、なんて考えてみる。
「やぅ、あ、ぁう……♥ そ、そんな、の……あーっ、あんっ、はぁぁっ……♥」
「甘い声まで出してくれて、すごいなこれは」
叶ってしまったらいけない望みを叶えてほしい。自分の理性をかきむしっていると、灼けつくような自虐の快感がぐるぐる回る。
使ってくれるなら壊れるまで使ってほしい。悪い大人なフリをシて大切に扱ってほしい。矛盾ばかり。
すべて自分の都合のいいことを他人にやってもらう。めぐるには経験がないシチュエーション。自分から積極的に動いて回る――自分のためだけならまだしも、めぐるが一方的に友達と思っているだけかもしれないクラスメイトのためにまで――気質の彼女には、似合わないと“思われそうな”姿勢。
「……手も口も出せないと、本当に道具みたいだ」
「あぅうあ、はぁ、ぅう……はぁあ、あっ、はぁあっ……」
プロデューサーの手付きは、めぐるの望むのと同じぐらいいじわるに優しかった。本当にモノのように大切に扱われている。そうされているほうが幸せなんじゃないかと考えてしまう。慕う人に愛用されながら自分も気持ちよくしてもらう。ずっと――強いて言えば、わたしがプロデューサーのジャケットをくしゃくしゃにしたぐらい、わたしもぐしゃぐしゃにされてみたい、かな――実際に刺激されてる胸に負けないぐらい頭も熱くなっている。
プロデューサーの指が立って、めぐるの胸に愛撫がちくりと刺さる。
「あ゛っ……はぁ……っ♥ い、いきなり、つよ……、ひ、ぁ、おぉぉ……っ♥ ぷろでゅ……ぁあ、あぅう、ひんっ♥」
「めぐるは、乳首弱いなぁ。最高だよ」
「よ、わ……よわい、なんて、は、ああ、ああぁぅ! おほっ、はぁうっ!」
プロデューサーの生暖かい賛嘆が前髪あたりに届いた。それをめぐるは許しと受け取った。
タガがすっかり緩んでいく――イッていい、いって、よわよわちくびされて、イッて、わたし――罪悪感さえ緩んでいく。
「あ゛っ、ひゃ…♥ も、もうイクの、わらひっ、ぁ…あ゛……うぁ……っ♥」
がくんと体が震える。頭の中が白く泡立っていく。エクスタシーらしい生理反応もじわじわ板についてきた。もっと強く濃厚になってもいい、と体が訴えている。心も受け入れてしまっている。
「あ、あっ、あ゛っ……ふ、ぁ、あ゛……っ♥」
生理反応としてのアクメは、快感らしかった。それをプロデューサーの導きで味わってしまうのは、過ぎた快感らしかった。
幸せ過ぎて怖いなんてどこかで聞いたセリフを思い出す。めぐるにはよくわからないセリフだった。アイドルになる前、友達から借りた漫画でそれを読んだとき、貸主の友達から、“これが幸せの絶頂で、全盛期で、あとは幸せがしぼむだけだから怖い”……と訳知り顔の解釈を聞いた。口だけ納得しておいた。腑に落ちなかった。
(……味わったことのないところまでイッちゃいそうだから……それを知りたいけど、知っちゃったら戻れないから……だから、怖いんじゃない……?)
イク、と言わなくてもプロデューサーには伝わってるだろうな……と、めぐるは信じた。少なくともめぐるの体は、わかりやす過ぎるぐらいそう訴えていた。めぐるのバスト公称90センチさえ揺るがすほど呼吸が荒い。その膨らみの上や鎖骨や下顎やらはよだれでしどけなく濡れて、骨が浮き沈みしている。肌は汗みずくで熱く赤く染まっている。
(じゃあ……ナカまでびくびくシちゃってるのは……?)
膣の浅いところから深いところまで――もしかして子宮や卵巣まで――疼いている。
まさか。
「めぐる、かわいいぞ。エロすぎるけど」
「あ、は……あぃっ、ひ、ぁ、おぉぉ……っ♥ あっ……はぁっ……♥」
「嬉しい?」
プロデューサーが疑問符をぶつけてきているのに、めぐるは『伝わってる』と信じたままでいられた。
(う、嬉しいって、ば……っ♥)
むしろ、心までイカされていいって思ってる……とまで『伝わって』いて、と願った。
(ほんとに、おかしくなる……ぷろでゅーさーのこと感じるたびに……おっぱいとか、おまんことか、勝手に思い出したら……アイドルも、できなくなっちゃうかな……?)
自分が気持ちよさに浸っているだけ。それを認められる居場所があるとしたら。それが、こうしてプロデューサーにもてあそばれるままのパイズリオナホとなれるここだとしたら。
「嬉しい? めぐるは……こうされてて」
「ぅ、うっ……ぁ、っ♥」
自分の意思をほしいままに通したいと思ったり、自分の意志と関係ないところで望みを叶えてもらいたいと願ったり。ままならない、と呆れる。
「くっ、くぅーっ……ひぁ、ぃっ……! そ、そぇ、それぁ……はおっ、ぉおっ……♥」
(しゃべろうとしているときは、やめて……って、言ったのに……っ♥)
プロデューサーの指と手は止まってくれない。くちづけたときあんなにぐったりしていたペニスは、いつのまにかふてぶてしく鎌首をもたげ、めぐるの乳圧を貫いて心臓にまで叩いてきそうな硬さだった。
「……それならよかった、めぐるが嬉しいと、俺も嬉しくなれる」
プロデューサーに『伝わって』しまった、と答え合わせ。彼がパイズリオナホ使用を打ち止めて、めぐるの背中側に回る。
指先が触れ合って、手を握り合う。
「ふぁっ……♥ あ……っ、う……っ♥」
「よく離さないでいられたな。えらいぞ、めぐる」
両手の指を一本ずつ絡められる。
(て、ぇ……ふ、へっ……いいんだ……もう、いいんだね……っ♥)
5本すべて絡み合う前に、ハンカチがめぐるの膝のあいだに落ちた。
(アソコが……おまんこが、おまんこ……あ、はっ……おまんこ、シちゃう……っ♥)
膝立ちのまま、女の丸い尻と腰がびくびくと震えて、背後の男へ体重を預けると、その内腿にねっとりと粘る体液が幾筋も伝っていった。
※
「ねぇ、ね。ぷろでゅーさー」
「おう、めぐる。待たせてごめんな」
プロデューサーは、本当にめぐるをパイズリオナホとして使っていたつもりになっていたのか、避妊具を取り出しそびれていたらしい。いったんめぐるから離れて、ベッド脇の引き出しをごそごそしてコンドームを一封切っていた。
めぐるから、つぶやこうとしていないつぶやきが漏れる。
「あい、ってさ」
「あい?」
「あ……らぶの、愛」
「愛が……?」
「愛ってなんだろうね。あ、恋でもいいんだけど」
めぐるにとって、自分とセックスしようとするプロデューサーが避妊具を装着しているようすは、どう受け止めていいかわからない光景だった。『どう受け止めていいか』考えなくても済む常識的な行動なのに――セーフセックスの心得ぐらいは教えられているし、プロデューサーはそれを実行に移しているだけ――それの意味を考えて、しかも考えがまとまらなかった。
もし妊娠する可能性を排除して、プロデューサーを気持ちよくするために――それでわたしも気持ちよくなってアクメできちゃう、としても――膣穴をペニスへ供するのなら、めぐるはいまから本当に彼愛用のオモチャになれる気がした。
こんなときなのに、illumination STARSの二人が浮かんだ――こんな気持ちでラブソングを歌っちゃえ、って?――いくらなんでも、このきまり悪さは勘弁願いたかった。
「あかちゃん、ほしい。ぷろでゅーさーの」
本気で言ったわけではなかった。
他人を楽しませたりよろこばせたりするため能動的に動いてみた。他人に楽しませてもらったりよろこばせてもらったりするため受動的にされるがままもしてみた。
こんどは、思いっきり性処理玩具の真似をしたあとに、思いっきり性処理玩具らしくない真似をしてみたかった――オモチャはぜったい妊娠できないもんね。
「言ってみただけだろ、それ」
めぐるは嘆息した。『伝わ』らなくていいことが伝わってしまった。
「ぶー、おんなのこにそう言われて、その反応はないよー」
「だって、めぐるだろう?」
「なにさぁ。わたしが『あかちゃん、ほしい』って言ったらおかしい?」
めぐるは憤慨した。訊かなくていいことを訊いてしまった。
「こどもができたら、俺の一番はめぐるとの赤ちゃんになるよ。それに、めぐるにも……俺としては寂しいけど……赤ちゃんのほうを優先してもらいたいなぁ」
めぐるは沈黙した。
沈黙してしまった。
「苦手でしょ。めぐる、そういうの」
めぐるは何かを選ばなければいけないとき、彼女の魅力や活力や体力をつぎ込んで、可能な限り両取りしようとしていた。プロデューサーたちとのアイドル活動でさえ、それ以外との両取りのうちの一つだった。
「……に、にがて、かなぁ」
「俺の知る限りでは」
プロデューサーと、そのあいだにできた子供と。いまのめぐるの何をつぎ込んでも、両取りはできなさそうな二択に見える。
(……恋や愛は、一つ選ばなきゃいけないのかな……本当にそうだとしたら、確かに、わたしの苦手分野かも)
プロデューサーのペニスに、コンドームはとっくに装着されていた。めぐるが改めて目を向けると、パイズリオナホのときよりよそよそしく見えた。よそ行きにめかしこんでいるようにも見えた。
「めぐる?」
「……まぁ、その」
「冷めちゃった? やめておく?」
「言ってみただけでしょ、それ」
「うん、止められない。めぐるに入れたすぎて……えらそうなこと言っておいて、我ながら笑っちゃうんだが」
「あはは」
「自分以外に笑われるのは腹立つなぁ」
交接を邪魔したのは、めぐるの笑みにともなってくる下っ腹のちょっとしたこわばりぐらいだった。
「ふあぁあっ、あ、お、ぉく……んきゅっ♥ ふゅっ、は、ひっ♥」
プロデューサーが往復を続けて息を乱し始めたぐらいに、めぐるが嬌声を跳ねさせた。
ねっとりと濡らされためぐるの女性器が、プロデューサーのモノに食いついていた。膣奥までねじ込まれる寸前になると、びくびくと痙攣しながら急激に締め付けを強めた。膣内絶頂が――行きすぎ、だよぉ……っ♥――男性器を咎めてきたようだった。
「う……くっ、う、ぐううっ……おっぱいと、違って……わがままだなぁ、めぐるのおまんこは」
「だ、めぇ……ナカ、そこっ、おっ……キちゃって、あああっ、あっあっ……♥」
めぐるの手が、プロデューサーのうなじと肩に爪痕を残すほど食い込んでいた。ばちゅん、ばちゅんと激しく肌を叩くほど抜き差しされても、抜けてしまいそうな心配はなさそうだった。
「ぷ、ぷろでゅ……ふ、ふかぁっ……」
「……もっと、奥があるみたいだけど……お、うっ……し、しまってくる……っ!」
「ふぎゅうっ――う、あ、ああっ……あ゛ぁっ!? はぁ、おお゛ぉぉお゛……っ♥」
めぐる自身では手の届きそうもない体に杭を打たれる。そこがプロデューサーのモノだと印されているようだった。オナホの真似の快楽と恐怖がじわじわ蘇る。コンドームで隔てられているのも関係なさそうだった。
「ああ、あっあう、やあ、ぁあ……っ♥ ぁ、あ、ひゅっ、ほお゛っ……♥」
めぐるの体とも心とも本能とも言えそうな衝動は、膣内を駆り立てていた。プロデューサーの男性器を締め付けて抑えようとしたり、むずむず挑発して奥まで誘ったりしていた。めぐるの理性のかけらが、みだらな行ったり来たりを悟って笑った。プロデューサーも笑い返してきたが、目元は引きつっていた。行ったり来たりのたびに苦楽を積み増しされているようだった。
「あ……う、ぁ……ひゅっ、ひゅっ、あ、ひぅあ、あ……っ!」
「めぐ、る……あ、ちょ、いま、それ、締まっ……!」
めぐるはプロデューサーの哀願を聞いた――そんな声と顔で、わたしの名前を呼んで聞かせてくれちゃうからだよ――あとで教えてあげようと思って、ピストン2回か3回のうちにどうでもよくなる。
意味不明な擦れ合いがただただ照れるほど幸せだった――ああ、好きな人のこと意味もなく呼んでみただけ……ってシたくなるの、こういうコトかな……?――あとで教えてあげようと思って、またピストン2回か3回のうちにどうでもよくなる。
「はふ、ふ、うぅうっ……きつい、催促だなぁ、めぐるは……っ」
「ん、は……はぁー、はぁあっ、あぅ……ん、ふ、ふふっ……ぷろでゅーさーぁ……あは、ははっ……♥」
どっしりとのしかかられる。奥に突き刺したまま居座る。動きが止まった。プロデューサーの体重と匂いが、苦しいほど気持ちよく味わえた。また感覚を一つひっくり返される。めぐるはそういう転倒を、不思議なほど気に入ってしまっていた。
両手だけでなく両足も絡めてしまう――わたしを縛ってよ、わたしに縛られてよ――体がねだっていた。
「恋とか、愛とか……らしくないかな? なんて……は、ふぁっ、はぷ、ん、ぷふっ、んんぅっ……」
言わせたくなかったのか、聞きたくなかったのか、めぐるのくちびるがプロデューサーのそれでふさがれる。
「んむっ、んぁんッ……むちゅぅ、ぷふっ……れろぉ、んくっ、む、んんっ……!」
めぐるはキスされながら頬を緩めた。目も緩んだ。
ペニスをねじ込まれてよがって、子宮まで征服される気分に浸る自分は弱い気がした。ねじ込みながらはぁはぁと息をはずませ、すがってくるように抱きしめてくれるプロデューサーも弱い気がした。もう自分もプロデューサーも自分のことだけで心も体もめいっぱいになってしまった。
いま“好きな人と一つになれる”なんて夢物語だな、と確信した。どこかで聞いた歌がウソだとわかってウキウキした。
(どうしようもなく、二人っきり……だもんね。一つなんかより、しっくりキちゃう……っ♥)
プロデューサーから伝わってくるリズムが変わる。肩か腕がびくりと力んで、ペニスを引き抜かれる。膣壁を引っ掻かれる。自由落下のような危なっかしい快感が、めぐるの意識を洗ってかき回す。
「んはぁぁぁっ、は、あっ、あっ……う、ふふっ……っ♥」
ペニスが半ばまで引き抜かれる。陰唇がびらびらとまくれ上がってしまっているのは、見なくてもわかった――やらし、過ぎ、でしょ――膣内や太腿に力を入れて、かえって悶絶する。
「う、ぉおぅっ……!? めぐるに、ぜんぶ持っていかれそうだ……」
「ぷろでゅーさーの、ぜんぶ……? ほしい、ほしい、なっ……」
「……ははっ、やるよ。くれてやる」
めぐるの両手両足の拘束をたのみとしてか、プロデューサーははじめて勢いよく突き入れてくる。プロデューサーにもめぐるにも逃げ場がない。
「んぇっ、へぅっ、ひぁ……♥ い゛ゅ、い、いぃっ、ひ、ぁううぁ……っ♥」
愛液がぴしゃぴしゃとシーツに撒き散らされる。ベッドに押し付けられためぐるの丸尻は、上から叩きつけられるピストンによく反発して跳ねる。膣奥が悲鳴をあげるようによじれてもおかまいなし。激しい感情と快楽が溢れて、みだらな方ばかり向いて流れていく。
「あうっ、ふぅうっ……プロデューサーっ、そんな、おく……ふぁあっ、か、はあぁああっ♥」
「めぐ……う、く……まだ、余裕、ありそうだな……?」
甘えながらひきつる嬌声を聞かせてやると、プロデューサーは喘ぎ喘ぎしつつも、どしどしと腰を使ってくれる――どっちが道具として使われているのやら――使っている。使われている。委ねている。委ねられている。
(きもちいぃ……♥)
頭がありえないぐらいフワフワと柔らかくなっていた。こんなときにプロデューサーの快楽を染み込まされたら、日常生活のふとしたときにさえ思い出してしまう。
(……あは、ておくれ、だよ。ラブソングが、どうとか、そんなときにも、わたしは)
愛してると口走ってみたら似合いそうなアクメと、寝落ちしてもしかたなさそうなまどろみで、心も体もとろとろにかき混ぜられる――どうなってしまうんだろ、気持ちいいのと気持ちいいの合わせて、おかしくされちゃうなんて――すすり泣いて、喘いで、溺れていく。抱かれる前に乱暴にかき混ぜたときのミルクコーヒーの渦が思い出される。飲み干してもらいたくなる。
「ぁ、あ、あ゛あぁっ♥ あ゛っ……あ゛ぁ、ふひぃ、ひっ……♥」
ペニスを腰で打ち付けられて、膣のどこかだいじなところをがたがた揺らされて、ぷし、ぷしっ、と弱々しい失禁じみた体液が漏れて、めぐるの尻に垂れた。
「めぐ――めぐ、るっ……だす、ぞ……っ!」
入り口ぎりぎりまで引き抜かれる。弱々しくなった体液に対して、すがりつく粘膜はひくひくと痙攣しながらも余喘を保つ。
「はぁ、あ゛、ああっ……ぷろでゅーさー、そ、こぉっ……♥」
押し込まれる。カリ首で奥まった部分をごそごそとこそがれる。
「は、はひゅっ……ふぁっ♥ そこ、しゅきっ、ひっ、ふ、ひゅっ♥ あ、あぁー……っ♥」
めぐるはプロデューサーにささやき続けた――すき。そこ。きもちぃ。イク――膣や四肢がひしひしアクメを告げるのと競わんとばかりに、執拗に言葉をつむいだ。激しすぎる快楽で意識が混濁していくと、イクとイッているの境目があいまいになった。
「ぃ、イッちゃ……ぁ、は、ふ、あ、はっあ……っ♥」
めぐるはそれを口にするのも幸せだった。キスで口と舌をふさがれた。こんどは唾液や味蕾やくちびるをこすってプロデューサーに法悦を語り続けた。イキ果ててからも彼を離さなかった。
めぐるが意識を取り戻したとき、プロデューサーがキッチンのほうをうろうろしているのが見えた。
「あぁ……何か飲むだろ?」
「うーん、そだねー……うーん」
「なぁ、めぐるー……え。えー……?」
めぐるは生返事しながら、裸のままベッド脇のゴミ箱をごそごそしていた。
「すごくない? これ」
プロデューサーの呆れた視線を受け流しながら、男と女の白濁でくしゃくしゃになった使用済みコンドームをゴミ箱から拾い上げた――これがなかったら子供妊娠して……こんな薄いゴムが、あんな激しいオナホごっこに耐えられるんだね――ひとしきり感心してから、ゴミ箱へ戻してけらけら笑った。
※
「子供かぁ、どうしよっかなぁ」
「わ゛ぁあっ、めぐっ、あのっ」
「……めっ、めぐるちゃん?」
めぐるが遠い目をしながらつぶやいたのを見て聞いてか、灯織と真乃は泡を食っていた。
3人とも、まだ283プロダクションのソファに座っていた。めぐるがプロデューサーに処女を奪われたあたりだった。
「え、どしたのー。ふたりとも、そんなに慌てて……」
「あ、あの……めぐる、いま、子供がどうするとかって聞こえたんだけど」
「……そういえば、恋する歌はあっても、子供を産む歌はあんまりないね……知らないだけかな?」
illumination STARSの残り二人から、引きつった笑いを同時に向けられるうちに、再び会議にめぐるの意識が戻ってくる。
「あ……あのね、あれだよ、あくまで将来の話だから! うちっ、国際結婚でそこらへんちょっと苦労してるから!」
「あ、そ、そう……」
再びハッタリを打って、再び両親に心中で謝った。
謝りながら、これを両親の前で口走ってしまったときにどう言い繕ったらいいか悩んだ。
「まぁ……うん、灯織ちゃんも他人事じゃなくなるかもよ?」
「どっどうして私の話に!?」
「じゃあ、私の話にする?」
「そ、それはそれでっ……」
七草はづきから帰りをうながされ、illumination STARSの会議は結論を待たず散った。帰り道は途中までいっしょだが、さすがに外ではしにくい話だった。
「あ……ちょっと待ってて」
めぐるはスマートフォンのメッセージアプリを起動して、両親あてに帰宅予定時刻を知らせた。
(いつまで、オナホごっこに付き合ってあげられるかな)
オナホの意味は、少し前に“教えてくれなかったら……はづきさんに聞くっ”と、プロデューサーをおどして聞き出していた。オナホごっこも子供を作るのもどちらも捨てがたく、膣が2つあったらいいのに、と――ああ、だからパイズリオナホってそういう――顔を上げる。こんどはどうにか、真乃にも灯織にも怪しまれずに済んだ。
(おしまい)