「助けてノノえもん!」らくがき等置き場 作:春画屋@二次創作R18
・主人公は『アロナちゃん』の存在を設定ごと忘れていた
・主人公は『シッテムの箱』を所有せず、存在も付随する設定も忘れていた
・主人公は『シャーレの先生』に関する設定の大部分を忘れていた
・主人公はそれらについて、深刻な記憶の欠損だとは感じていない
・主人公は『連邦生徒会長』の存在をはじめとする数々のこの世界の異常に気付いていない
・
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何とか涙をこらえるノノミに代わって、アロナ——正確には『手乗りアロナちゃん』というらしい——が俺に続けて説明する。
「先ほども言ったように、あなたは自身が強く望むことによって、元の世界——『現実世界の日本』——に、帰ることができます。そしてもう一つ……「あなたが
「強制的に?」
適当に考えていた予想が当たってしまった。しかし心底嫌になるって……どんな状況だ、それは。そうだなあ、痴情のもつれ……ユウカがマシンガンを乱射し、ノノミがガトリングガンで応戦、セリカとシロコがそれに味方して、ユウカの方にはゲーム開発部が参戦、アリスのレールガンが辺り一帯を破壊……うん、なかなかの地獄絵図だ。それだと俺もこの世界から逃げたくなるかもしれない……などと、のんきなことを考える。
「そして、ここからは今のこの世界の構造について話さなければなりません。この世界は現在、あなたの無意識にある願望を基に成立しています。『先生』はその望みを
「その最後の方法で、『手乗りアロナちゃん』として、お前も生まれましたよ、と。そういうことだな? 生み出してもらって良かったよ、だいぶ助かってる」
「はい。『シッテムの箱の中の少女』は、世界と一体化したことにより大きな力を得ることができましたが、その代わりにこうして誰かに直接干渉する手段を失いました。そういう意味では、この場を解決する以上に有意義な存在として私は生まれたと思います」
はぁ。ノノミがこの世界にとって特別な存在なのは知っていたが、男女間トラブルがいきなり神話みたいな壮大な話になってしまったな。ていうか、俺にとっての「ご都合主義」ってやっぱりあったんだ。と言っても、ノノミに頼んだの以外は俺が意識して起こしたことじゃないみたいだけど。
「ちなみに……今『先生』って呼んだのは、俺のことじゃないな? 俺の望みの通りに世界をデザインするとかって言ってた、神様みたいな存在のことだよな?」
「はい。『先生』は『先生』です。現在は『シャーレの先生』ではなく、この世界からもいなくなってしまいましたが、私にとっての『先生』はその方です。現在の『シャーレの先生』であっても、『あなた』が『あなた』であるのと同じ意味で。わかりにくい表現だとは思いますが……」
「いいよ、多分そいつのこと、周りに聞いて知ってっから。俺は自分の前に担当してたってことで、『前の先生』って呼んでるけどさ」
「やっぱ存在したんじゃん」とか、「やっぱ俺より偉いんじゃん」とか、「やっぱ俺よりちゃんとした先生なんじゃん」とか、
「『先生』は……私にとって大事な『先生』です。とてもお世話になった、恩人です」
「あ、そうなんだ……。へぇ……」
ノノミがそれこそ、尊敬する『先生』あるいは『恩師』を思い浮かべるような表情で遠い目をするので、イラっとしてしまった。いかんいかん、
「確かに聞いてみると、因果を生み出して、とかこの世界全体に関わるようなデカい話ばっかりみたいだな。しかも、どんな世界になるかで一番大事なのは、俺の無意識の願望、と。つまり、そういう存在である俺が、そのことを自覚しちゃまずいって話?」
「いえ、ここまでの話は知ってしまっても……まあ、良くはないんですが……」
「でも俺、この世界が何となく俺に都合よく動いてたのは知ってたぞ? 『シャーレの先生』っていう、ブルーアーカイブの「主人公」的な存在を中心とした、「ご都合主義」みたいなのがあるってのは。今日聞いた話だって、ああ、やっぱりそうなんだってのが多いし」
「うーん……。それも本当は良くないのですが……。すみません、もう少しだけお話を聞いてもらえますか?」
「ああ、ごめん。話を
ここまでの話を聞いて、ヤバいことって言ったら一つ思い当たる。俺のヤキモチで、『先生』とやらが死んじゃうことだ。そりゃ、神様みたいなのが死んだらまずいだろ。……なんて、まあそれは冗談だけど。あー、我ながら、男の嫉妬は醜いな。よくない、よくない。
「では……あなたが「知る」こと、「思い出す」ことによって、あなたの無意識の願望が微妙に変化するのはおわかりですか?」
「? いや、どういうこと?」
「例えば……今、あなたの目の前でノノミさんが泣いています。それを見たあなたは、「悲しませたくない」という感情を持つでしょう。それはこの世界に少しの「悲劇性」をもたらします——」
「いや、待てよ。そこまで責任持てないぞ? 目の前で女の子が泣くなんてこと、生きてりゃあいくらでもあるし……いや、そりゃノノミに関しては多少話は違うけど」
「もちろん、これはあくまで理屈上の話です。ですが、「心」の問題という意味では間違いではありません。うっかりぶつかって、子供を泣かせてしまったとしましょう。それはあなたにとって小さなことで、すぐに忘れてしまうでしょう。ですが、相手がノノミさんで、深刻な理由なら話は違うはずです」
「いや、それは……そりゃ……」
「もちろんそれも、あなたの中でどれだけの問題なのかはわかりません。その「事実」があなたにとって何なのか、相手があなたにとってどんな「存在」なのか。ノノミさんの話は例ですが、どれほどの衝撃なのかはあなた自身にもわからないでしょう。ですが、「事実」は残酷に、ストレートにあなたの心を揺らします。あなたが大したことではないと思おうとしても、防ぐことは出来ません……」
アロナの声が暗くなっていく。ここに至って、俺はことの重大性を理解した。ショックな出来事があれば、俺の気持ちは暗くなる。無理に明るくしようとしても、簡単には出来ない。それが、どの程度なのかはわからないが、毎回この世界に影響する? アビドスの
「ゲームとしての『ブルーアーカイブ』の世界には、「物語」が大きく影響します。あなたが望んだ、エッチでバカバカしくて、笑うしかないような平和なお話は、そういった少しの悲劇で悲しく切ないものへと変わってしまいます。「ラブコメディ」は、
「楽しい「ラブコメディ」じゃなくなったとしても、「悲恋の物語」じゃダメなのか? 自分じゃどうにもならなくたって、俺がそれを望むならそれは俺の物語ってことだろうし……。俺が何か影響を与えるなんて話はなしだと考えれば、この世界に何から何まで明るい話じゃないとダメってことはないだろう?」
「その通りです。
「つまり、この世界に留まることが出来るかどうか、帰らなきゃいけないかどうかは俺の意思じゃなく、自分じゃどうにもならない、「心」次第ってことか……。しかも、そのことで世界まで巻き込んで」
流石に、ちょっとばかり
「————っ!」
突然の、脳を貫かれるような激痛。
『手乗りアロナちゃん』は「知る」こと、そして「思い出す」ことが世界に影響を与えると言っていた——突如として「忘れていたこと」が、「思い出してはいけないこと」がいくつも頭に浮かんだ瞬間、俺はそれを理解した。おそらく……さっきまで存在すら完全に忘れていた『アロナちゃん』の姿、それから『物語』、『ジャンル』、それら『ブルーアーカイブ』の世界観において重要な意味を持つキーワードが、俺の記憶を刺激したのだろう。Vol.1、Vol.2、Vol.3、Vol4、最終編、俺の記憶から欠けていた部分が全て補完された『メインストーリー』の全体図が脳裏に浮かぶ……。
「本当の問題はそこではないんです。もちろんあなたの心にとって、ノノミさんとのことが重要なのは変わりません。ですが、そういったことによる世界の振れ幅に関しては許容範囲で……先生⁉︎」
「思い出した……。「本当の
痛みではなく、俺が激しいショックを受けるような、無数の『ブルーアーカイブ』の
見ると、『アロナ』——いや、違う、誰だっけ——が
「……先生! 一気に思い出してはいけません! あなたの中には、危険な記憶がたくさん封印されているんです! 思い出した瞬間、世界の全てが変わってしまうような……!」
「『エデン条約編』……。『最終編』……。何で忘れてた……? 本当の『ブルーアーカイブ』……」
「それは、『本当の物語』ではないんです! ゆっくり……ゆっくり思い出してください。先生がちゃんと受け止められるよう、ゆっくりと……」
そうだ。元はプレイヤーとして、全て一度は読んだ話だ。いきなりネタバレを食らったようなものだとすれば、落ち着いて一つ一つを思い出していけば、そこまでのものじゃない……はずだ。
言われた通りに、俺は劇物を扱うように注意深く、俺の記憶に眠る
キーワードの意味を正確に理解してはいけない。一つでも理解した瞬間、「『ブルーアーカイブ』は本来こうでなければならない」と感じてしまい、俺が望んで維持してきたこの世界もそのように変わってしまうだろう。この世界が本来許容する行為、この世界が許さない絶対的なルール、それらが具体的に解放された瞬間、この世界を表すジャンルは一気に拡大してしまう。俺の望まなかったものにまで。
『**ローを破*する爆*』、『巡*ミ**ル』、『トリ**ィの**り者』、『名も***々の*女』、『虚*のサ**トゥム』、『神*は**へ*転』、『*彩の**者』……。
苦手だったとか、メインストーリーをちゃんと読んでいなかったとか、そんなレベルの話じゃない。ネットやSNSで評判になった、ブルアカを名作と言わせしめたストーリーの転換点——『エデン条約編』と、それ以降のストーリーをプレイヤーの俺が知らないはずがない。全て忘れていただけだ。
それだけじゃない。『アロナの出席簿』のことや『シッテムの箱』とは何なのか、そんなことまでうろ覚えで適当にやっているプレイヤーがいるか? 普通のブルアカのプレイヤーならそれだけで、「何だこいつ」と呆れてしまうような、バカバカしい「主人公」の
「俺がこれを全部思い出したら、世界が変わっちまうのか……?」
「先生……。私はもう大丈夫です。もう泣きません。だから、つらかったら元の世界に帰っていいんです……」
「私からもお願いします! 先生の精神はこの平和な『ブルーアーカイブ』の世界に慣れきっているんです! 一度にそんなに多くの情報には、精神が耐えきれないんです! 心が閉ざされてしまう前に、この世界をいい思い出として持ち帰れる内に、元の世界に……!」
——なぜ俺は『トリニティ』との縁が極端に薄かった? なぜ俺は『黒服』と友人になれた? 『
「お前たちが、俺の居心地のいい世界を守ってくれてたのか……。世界を調整することで、それから「教えない」ことで……」
「先生……!」
一つ一つを整理して気持ちを落ち着ければ、受け止められないような情報じゃないことを確認する。いざという時のための『現実世界』への「強制帰還」という逃げ道は確保され、もし限界が来たらいつでも帰れることを認識する。その上で、落ち着いて……。迂闊に思い出して、この世界が嫌になったら『現実世界』へ強制送還だ。記憶を消して解決するどころじゃない。とにかく、俺にとって唯一の、大事なことだけを考えろ……! 余計なことは考えるな……っ!
「先生、聞いてください! この世界における『メインストーリー』は、ゲームアプリ『ブルーアーカイブ』から切り取られた、配信日である日本時間の“2021年2月4日”から最終編までを配信した“2023年4月22日”までの、その両端を四次元的に、確実に横断する一つの「道」でしかありません! 閉じられたことにより独立し、完成された
いや、難しいことわかんないんだって……! 四次元的って何? くっ、頭痛が……!
「そして、その決められた「道」をたどるためには『シッテムの箱』が必要不可欠です。『シャーレの先生』としてプレイヤーは、『現実世界』から擬似的にそれを操り、自らの意思で因果を新たに生み出します。『ガチャ』、『カフェ』、『スケジュール』、『絆ストーリー』。それらが持つランダム性が『ブルーアーカイブ世界』の「道」を少しだけ分岐させます。そしてその自分だけの「道」を経由して、そこで出会った生徒たちと一緒に『任務』や『依頼』をクリアして、それを通じて彼女たちを、そして自身をも強化していきます。あるいは、『サークル』や『フレンド』の機能によって、別の『ブルーアーカイブ世界』と相互に干渉し、困難を突破するんです。そして分岐した「道」は何度も『メインストーリー』という名の
えーい、何の話だ。つまり、メインストーリーが何なんだ。俺が今考えてることなんて一つだけなんだから、もう余計な話はやめてくれ……! 俺が今考えなきゃいけない、ただ一つのことは……目の前にいる……——
「ですが、あなたには『シッテムの箱』は与えられませんでした。あなたがこの世界に来て『シャーレの先生』となった瞬間、消滅させられてしまったんです。あなたは『メインストーリー』という決められた道を進むための武器を奪われてしまいました。その代わりに、『メインストーリー』という決められた道を歩むことから解放され、ストーリー自体を改変することを許されたんです。そして、『シッテムの箱の中の少女』が、『先生』が、『
「何が言いたいのかわからん! 一言で言えーっ!」
頭痛が酷い。身体が熱くなってきた。
「あなたは——」
「先生は、ちゃんと頑張りました! だから、もう苦しまなくていいんです! 元の世界に帰っていいんです……!」
アロナの言葉を遮って、ノノミがそれを引き継いだ。何のことはない、やっぱり二人して、帰れって言ってるんじゃねーか。俺がいてもいなくても、どうやらこの世界が安心だってのはわかった。俺じゃなくても、他の『シャーレの先生』が
俺はテーブルに突っ伏した。ノノミとアロナが、俺が一向に元の世界に帰ろうとしないせいで、パニクっているのがわかる。いや、確かに頭は痛いけどさ。身体もちょっと変だけど。とりあえず、ノノミは泣くな。
「先生は……そうやって、自分が義務だと思うとすぐ無理をして……! いくら私がダメだって言っても……。やっぱり言っちゃいけなかった……!」
義務感なんてないって。どっちでもいいよ、なんて言われたら、大して迷わない人間なんだから。俺、ブルアカは本当にキャラが好きで、エロ画像ばっか集めてて、ストーリーには興味示してなかったんだから。そりゃ、読めって言われたら『エデン条約編』だろうが何だろうが楽しめると思う。でも、生徒同士でガチで争ったり憎み合ったり、あんな重い話を生で体験したら、そんな世界は嫌になっちまうかもしんない。『シッテムの箱』もなしなら、マジ死にするかもしれないし。
そりゃそうなんだけど、
「えーい! いくらこの世界が俺がいなくても安心でも、ノノミが泣いたまんまで帰れるかよ!」
「せ、先生……? 私……?」
はぁ。大声を出したら、頭が少しスッキリした。まったく、こっちの言い分を聞けよ。この二人は……。
「あたた……。俺はこの世界がどうとか、一言も言ってないだろ……。そもそも、ノノミが言えないことがあってつらそうだから、何でも打ち明けてくれ、って話だっただろ。俺が帰るとかどうとかじゃなくて。どうだ、ノノミ? 全部聞いてやったぞ? いくらかスッキリしたか?」
「は……はい。でも、先生、大丈夫……?」
「大丈夫かどうかは、今から判断する。要は、俺の記憶を消して、今まで予定していた通りにうまくいけば何も起きない、そうなれば問題ないんだろ? で、俺が気にいるような世界が維持できれば俺はこの世界に居ていい、と。また何か思い出すまでの問題の先送りに過ぎないかもしれないが、今はそれで上々だ。アロナ、『エデン条約編』とか『最終編』って、回避しないとまだ起きる可能性があるのか?」
「い、いえ、Vol.1『対策委員会編』が強制的に終了して以降、そもそも明確な区切りはなくなっています! 前提とする状況は元のままですが、概念としての『連邦生徒会長』が配置され、条約締結は
うちの上司、会ったことないと思ったら概念だったんかい。『手乗り連邦生徒会長ちゃん』とかもあり得たのかな。
「また、本来は想定されていなかった「協力者」が『ゲマトリア』内に存在します! その方のおかげで、不確定要素として
「その「協力者」って、エロゲー大好きな不審者みたいな奴じゃないか?」
「は? エ、エロ……?」
「いや、何でもない。あいつが最近会議で揉めてるって、やっぱ『マエストロ』とか『デカルコマニー』とか相手かな」
何のことはない、『黒服』の奴、俺のために頑張ってくれてたのか。いや、あいつ俺の出自に興味持ってたから、そういう打算もあるのかもしれないが……。それに、『ゲマトリア』の方針も、『現実世界から来た存在』なんてのを知れば話は変わるだろうし。
でも、何か意味がなきゃ、俺のことを「友人」だなんてわざわざ言わないよな。自分もエロゲーでヤバいダメージを食らったことのあるだけに、あいつ自身もここからの突然のシリアス路線への変更は望まないだろう。あのゲームが名作すぎたせいで、多少心は壊れてしまったかもしれんが……。いやしかし、エロゲーは偉大だ。
「『黒服』……あいつが『対策委員会編』でホシノの……えーっと、ホシノの件でやらかす前に俺に会ったのって、後々のためとか理由があったのか?」
「それは……」
少し言葉を濁す。ノノミには聞かせたくない。確かに、俺の生徒——
「『黒服』さんと先生が知り合ったことで、後の展開がかなりやりやすくなったのは事実ですが、それは結果的にです。そのために出会うタイミングを早めたわけではありません……」
「んじゃ何でだろう?」
「その状況をデザインした『先生』にならわかるかもしれませんが……。あっ、そうだ! あなたがこの世界の全員と仲良くしたい、そう願っていたから、っていうのはどうでしょう!」
「おお、よし、それでいいや!」
「……うんうん! みんな仲良くが一番ですね☆」
この世界の全員と仲良く、ってのは多分無理だけどな。それでも、状況が変われば仲良くできる奴もいる。少なくとも、利害の変化によっては、争わないですむ相手もいるる。感情でする喧嘩ってのは少し厄介だけど。俺自身、元の世界に会いたくない奴は山ほどいる。
しかし、友だちってのはいいもんだって再確認したな。もし元の世界に戻ったら、エロゲー繋がりの連中でも集めて、飲み会でもやるか。出来れば『黒服』も連れてって紹介してやりたいもんだ。
「でも『黒服』さんに関しては自発的に動いている分、それも不確定要素にもなり得るのですが……。あっ、いえ、先生がとっても信頼しているのはわかるのですが!」
「そこまで頼り切ってるわけじゃないよ。ただ、イレギュラーの心強い味方が出来たな、ってだけ。他にも何人か、そういうのはいるし」
「先生はいつも、すぐ他人を信用してしまいますよね。周りが心配になるぐらい……。そうして、本当に騙されていたり、裏切られたり、それでいつも傷ついて、そういうのが大嫌いなのに」
「ああ……。そう思ってたなら、ノノミも黙っているのはつらかったか。でも、わかってるよな? 俺はお前に騙されてないし、裏切られてもいない。お前はただ、俺やみんなにとって言わない方がいいことを言わなかっただけだ。それで、言わないでいるのがつらくなった時に、俺を頼ってくれた。それだけだ」
「はい! 今度こそ、先生を信じて秘密を守ります! つらくなったら頼ります!」
信じて欲しいもんだ。正直なことを言えば、少し怖い。一度こういうことがあったから、というよりも、ノノミがあまりにいい子だから、また一人で抱え込んでしまうのではないか、俺を頼ってくれないのではないか、それが怖い。男女の仲は、たやすく壊れてしまう。だから余計、疑心暗鬼になって自壊してしまう。本当に大事なものほど、失うのが怖いものほど、信じるのは難しい。
それでも、失いたくなければ何度でも信じるしかないのだろう。信じようとして、足りない分は自分を信じよう。次に何かあっても、こうやって自分が何とかすればいい、と。そもそもノノミはまだ子供で、俺は「大人」なんだから。
「んで、アロナ……じゃなくて『手乗りアロナちゃん』だっけ? お前と、『先生』もいる。それにノノミもいる。なら任せちゃって大丈夫だよな? 一番心配なのが俺だな。こんな深刻な話、一度きれいに全部忘れちゃったって、ちょっと何かあったら悩みそうな気がするんだよな。意外と細かいこと気にするから」
「大丈夫ですよ☆ 先生の良くないところは全部知ってますから、私が
「そうそう。ノノミはどんなご都合主義の道具を出してくれるより、そういうのが一番頼りになるんだ」
俺に関しては、ノノミがついていてくれりゃあ平気だろう。というか、ノノミがいないと意味がないんだ。俺は本当に、この世界にそこまで執着はないんだから。だから、仮にこの世界がどんな世界に変わったとしても、俺が居たいのは
「よし! じゃあ、この話は終わり! あとは俺の記憶を消すだけ!」
「じゃじゃ〜ん! 『絶対確実記憶破壊ハンマー』! あとは私にお任せです☆」
「必要以上に痛そうなやつ! あと消すだけで、完全に破壊はしちゃダメだろ⁉︎」
「大丈夫です、先生♪ 優しくしますから……♡」
俺とノノミの掛け合いを、取り残されたアロナが見つめる。
「あはは……何だか、私の入る余地はなさそうですね……。でもこれで、めでたしめでたし、です!」
——こうして俺は、予定通り記憶を消してもらうことになり、次に目が覚める時には元通りの日常が戻ってくるはずだ。戻ってくるも何も、俺がいろんな話を聞いて悩んで頭が痛かったぐらいの話で、実際にこの世界に何か起きたわけじゃないんだけど。何せ、
うっかりしていたのは、記憶を消すということは、今意識を持ち、こうして何かを考えているこの自分も一緒に消えてしまうのだということ。死ぬわけじゃないが、記憶を消される瞬間は気分のいいもんじゃないだろう。何となく「記憶が消えた後の自分」の感覚で考えてしまっていた。
そんなわけで、実はアロナに少し心配された。でもきっと、それも感じ方次第だ。先の自分にとっての「うっかり忘れた記憶」は、また思い出すこともあるだろう。だから、心配ないと言っておいた。それと、さっき生まれたばかりなのに何もかも世話になってありがとう、と。アロナは、「私だって、この世界と一体化してあなたとずっと一緒にいたんですよ! いえ、きっとその前から……それだって、あなたの捉え方次第です!」そう言って笑った。
それから、ノノミには言えない内緒のことも、アロナには話しておくことにした。
「俺、出来れば『正義実現委員会』だけじゃなく、『トリニティ』のいろんな奴ら……『救護騎士団』とか『シスターフッド』ともいい出会い方をして仲良くなりたいんだよな。出来るかな?」
「大丈夫ですよ! あなたが平和を望むなら、きっと『ティーパーティー』や『アリウススクワッド』とだって——」
「いや、そこ二つだけでいいんだけどさ。ガチャで引けなかったんだけど、ミネとかマシロとか、すごい俺好みのいい体型してて……」
「体型……ですか?」
「あと、『シスターフッド』のサクラコとか、見るからに固そうだし性知識なさそうだし、セクハラしたらすごい楽しそう……聞いてる?」
「…………。き、聞いてますよ。あはは……」
どう見ても途中から聞き流していたので、途中でやめた。仕方ない、その辺は自分で望んで道を切り開こう。
それにしても、今の「俺」と、この半日ばかりの記憶を失っただけの、明日の「俺」とはどんな関係なのだろう? 別人か? 同一人物か? 別人だとしたら、あまり自信がないという意味では、何だか頼りない奴にバトンを渡してしまうような気分になる。
その辺をどう思う? 俺は、記憶を消す直前になってこうして俺の中に入り込み、全身を満たした存在に聞いてみた。やっと話が出来たな、『前の先生』。あんたは「俺」をどう思っていた? あんたは明日の「俺」を信用できるか? 答えはすぐに返ってきた。
【私は信じているよ、明日のあなたを】
【私は信じていたよ、今のあなたを】
【きっと大丈夫】
ゲームのブルアカで選択肢で出るような、三つの『先生』のセリフが心に浮かび、その三つの言葉の意味は一つに溶け合い、同時に俺に伝わってきた。単なるテレパシーとも違う、不思議なコミュニケーションだった。器用なことをするもんだ。
こんな風に一人で同時並列に行動できるから、全ての生徒に分け隔てなく接することができるのだろう。そして、自分の全てを犠牲にしてしまうほどの献身的な愛情をノノミに注ぎながら、同時にそれと同じだけの大きな愛情を全ての生徒に注ぐ、なんて「ずる」が出来るんだろう。でもそれは、『ブルーアーカイブ』の世界で『シャーレの先生』だからこそ許される、素晴らしい「ずる」だと思う。
そんな存在がデザインする世界は、俺の望みに沿うと同時に生徒たち全員に最大限配慮されている。だから俺の望んだ世界は、本質的には全生徒にとって『前の先生』の世界とも、
でもだからこそ、『前の先生』には出来なかったことがある。趣味の悪いことに、今日も俺たちのことをずっとどこかから見ていたのに、苦しむノノミを救えなかった。なぜなら、「一度全部を聞いてやって、その後忘れちゃうから問題ない!」なんて都合のいい「ずる」は、「生徒たち全員」ではなく、「ノノミ
それだけが理由ではないが、今こうして俺と一体化したような体験を通じて、『
それから、余計かもしれないが、前々からどうしても『前の先生』に聞いておきたいことがあった。「アコが調教済みだったり、ユウカが初対面から好感度120%だったり、ホシノから性被害の訴えがあったりするんだが、お前なんかしただろ」と。【…………】【ごめんね】【あとは任せるね】三つの言葉が同時に伝わってきたが、意味は全部一緒だった。お前、ふざけんなよ。他人に任せて、自分だけとんずらしようとすんな。まあ、その辺は俺があまり言えた義理ではないが。
最後に一つ。出来れば、これだけは忘れたくないなあ、と思ったことがあった。と言っても、いつか思い出すこともあるかもしれないし、ノノミはずっと覚えていてくれるだろうけど。
「私、先生のことが……
なんて、初めて『先生』以外の呼び方で好きって言われて、好きな女の子に告白されたみたいな、少し照れくさい気持ちになって嬉しかったこと——
いや、恥ずかしいからこれは忘れちゃっていいな。
そうして、少しの記憶をなくしても俺のブルアカ世界での生活はまだまだ続く。