全ての特異点を修復し、人理焼却を防いだカルデア。
戦いに次ぐ戦いを乗り越え、安寧の日々を手に入れたカルデアは今、長期休暇に入ろうとしていた。
カルデア長期休暇。
その言葉をダ・ヴィンチから聞いた時、カルデア職員と所属しているサーヴァントたちは歓声を上げた。
ブラック企業の如く体を酷使していた職員たちはこれを期に各々の趣味を堪能するべくある者は部屋に籠り、ある者はレクリエーションルームに入り浸ったり、と自由に過ごしていた。
そして、カルデアのマスターである藤丸立香もまた、長期休暇を取ることができ、外出の許可も下りる。
カルデアから出る際は目隠しをつけられるものの、外出が許可された藤丸は意気揚々と外に出ることを決める。そして、彼が向かったのは
「やってきました。ハワーイ!!!!」
常夏の島、ハワイだった。
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「おーい、マスター、マスター! 見てるかー!!」
波に乗りながら手を振るモードレットに藤丸は手を振り返す。
女性の日焼けした肌。それだけでもお腹いっぱいになれるが、サーファージャケットのはだけた胸元からちらりと見える赤いビキニや腰当たりのリボン結びされた紐に感無量になる藤丸。
モードレットよりも肉付きのあるサーヴァントは他にもいる。彼女たちがビキニを着ればそれはもう大変なことになるだろう。しかし、それとは違う色気が彼女にはある。大きいものは好きだがそれ以外を認めない。ということはないのだ。
ジャックやナーサリー、ジャンヌ・リリィがロコモコを食べたいと手を引かなければ多分ずっと見ていただろう。
藤丸たちがいるのはホテルの近くにあるビーチだ。
今まで日本を出てこなかった――カルデアは海外にあるのだが、藤丸は日本語が通じたこともあり、あまり海外にいるという感覚がない――藤丸は初めての海外旅行に胸を躍らせる。
休暇を満喫しているのは藤丸だけではない。
藤丸と一緒にハワイへと付いて来たサーヴァントたちも一緒だ。
ある者は港で釣竿を垂らし、ある者は現地で商売を始め、ある者はビーチでナンパまがいのことをして大きな盾で叩き割られたりしている。
カルデアでも気分転換はできたが、やはり閉鎖空間だとストレスは溜まる。誰もが晴れ晴れとした表情で休暇を楽しんでいた。
ロコモコを食べに子供サーヴァントたちと一緒に手頃な飲食店へと入り、料理を待つ。すると、そこに見覚えのある弓兵を目にする。
「あ、食堂のおじちゃん」
一番最初に気付いたのはジャックだ。
いつもの赤い外套ではなく、緑のエプロンを身に着け、席に料理を運ぶ褐色肌の男。カルデアの食堂でよく見かける光景がそこにはあった。
藤丸が手を振るとほんの少し目を見開いた後、近づいて来る。
「エミヤ、こんな所で何してるの……」
「見ての通りだよ。マスター。飲食店のスタッフとして働いている。それよりも、注文は決まったかね?」
至極当然といったようにカルデア台所の大黒柱が答える。
「ロコモコー!」
「ロコモコ、ロコモコです!!」
「おじ様、ロコモコ4つ下さいな!」
「そうか。飲み物は、ジュースで良いかな?」
「「「飲むー!!」」」
元気いっぱいの声が飲食店に響く。子供の声だからだろう。周囲の人も顔を顰めるどころか微笑ましい表情を藤丸たちの座っている席に向けて来た。
「では、このジュースを3つ、マスターはどうする?」
「俺もこれで。さっきの続きなんだけど何でここで働いてるの。もしかしてお金無くなっちゃった?」
「では、マスターもこれで。いや、渡された資金の方には手を付けていないさ。金欠という訳じゃない。通りを歩いているとここの店主が重い物を持っていたのでね。その流れで手伝うことになったのさ」
「……ちなみにその店主って人は何処に?」
「あそこにいるさ」
エミヤがキッチンに振り向くとそこにいたのは1人の茶髪の妙齢の女性。薄着で肌を焼いた健康的な女性だ。彼女もまた、視線に気付いてエミヤを見る。
エミヤが笑いかければ、彼女はほんのりと頬を赤く染める。
「背中、刺されないようにね?」
「HAHAHAHAHA! 君には言われたくないぞマスター」
西洋かぶれな笑い声が2つ飲食店に響く。
業の深さで言うならどっちもどっちなのだが、今それにツッコンでくれる者はいなかった。
直後、ビーチの方で溢れんばかりの歓声が上がる。
「あれ、何か今日イベントでもあったっけ?」
「いや、何もなかったはずだぞ。しかし、この歓声。まるでハリウッドスターでも来たかのようだな」
大きな歓声に通りを歩く者も足を止め、気になったのか足を向ける。
歓声は大きくなり、更に人を呼び込む。本当にハリウッドスターでも来ているかのようだった。
一体、何が起きているのか。そう藤丸が考えているとハッキリとした歓声が耳に入る。
「「「「「メイヴちゃん、サイコー!!!!」」」」」
「…………」
「…………」
誰がビーチにいたのか一瞬で悟る。
ケルトの女王様がどうやらビーチでファンを増やしているようだった。
「取り合えず、ロコモコ丼お願いね」
「あぁ、承知した。すぐに持ってくる。少々待っていたまえ」
ビーチで湧き上がる歓声の原因を知り、藤丸は考える。これ、見に行った方が良いかなぁと。
男性ファンに何かをされることはないだろうが、男性ファンが何かをされるかもしれない。
ほんのちょっとだけ心配事ができた藤丸だが、全ては腹を満たしてからとエミヤが料理を運んでくるのを待つのだった。
――――――
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そして、あっという間に休暇は過ぎ――。
7日目の夜。ハワイ最後の夜。藤丸は部屋で帰宅の準備を行っていた。
この休暇期間中、十分に藤丸はハワイを堪能していた。
1日目に起きたビーチでの騒ぎは大した問題になることもなく、無事に過ぎ、それからは他のサーヴァントと過ごしていた。
金時と共にバイクでハワイ島を走り回ったり、メルトリリスと水族館に行ったり、小次郎と忍術で遊んでいたらいつの間にか群衆が周囲に出来ていたり、ブーティカやタマモキャットと共にショッピングモールを見たり、マシュと2人っきりで絶景スポットへと行ったりと。
他にも色々なことをしてサーヴァントたちと時間を過ごしていた。
その時間が終わる。
少しの寂しさと充実感を味わい、藤丸はベッドの中へと入る。
柔らかなベッドに入るだけで藤丸の瞼は重くなっていく。
「(明日は7時起きか……)」
合流先を頭の中で確認して藤丸は微睡の中に落ちていく。
その時だった。
「BBチャンネル~!!」
小悪魔系後輩の声が眠気に襲われていた藤丸の耳に届いた。