――朝、・・・か?
瞼の裏に明るさを感じ、カミュはゆっくりと目を開けた。
「目が覚めた?おはよ、カミュ。」
隣からイレブンの声がしてカミュが驚いてそちらを向くと、立てた肘で頭を支えた笑顔のイレブンがカミュを覗き込んでいた。栗色の髪と碧瞳が朝の光に輝く。
「イ・・・イレブン・・・」
裸の彼を見て、昨夜のことを思い出す。
――そうだ、俺はこいつと・・・
「君に贈りたい物があるんだ。」
カミュが気持ちを整理し終えないうちにイレブンが身を起こし、ベッドサイドテーブルの上のアクセサリースタンドから、ユグノアの紋章が刻印されたドロップ型の緑石がついた首飾りを手に取った。
「それ、って、ユグノア王家の首飾りじゃねえか?」
訝しく思い、カミュも起き上がろうとして――
「痛っ!?」
尻の痛みに悶絶してベッドに沈んだ。
「だ、大丈夫?」
「うぅ~~」
イレブンがホイミを唱えると、痛みがスーッと消えていった。上体を起こし、恐る恐る尻に体重を掛けて痛くないことを確認すると改めて、カミュはイレブンに向き直った。
「・・・何でそんな大層なモンを俺に?」
「何で、って・・・婚約の証としてだけど?」
「こ、婚約?」
「そう。寝たからには当然、僕と結婚してくれるんでしょう?カミュ。」
「結婚・・・?お前と・・・?」
――一度寝ただけで結婚?どーいう頭してんだよ。
「・・・カミュ、まさか昨夜のことは遊びだったの・・・?」
イレブンが眉を顰める。
「あ、いや、遊び・・・じゃねえけど、」
――つーか、何でこんなことになってんのかもよくわかんねえ。
「結婚、なんて・・・。幾ら何でも急過ぎるだろ?」
「何を言っているの、カミュ。僕は五年も待ったんだよ?もう待てないよ。」
「・・・・・・。」
――待ってもらった覚えもねえし、そもそも俺は親友以上の感情をこいつに持ってねえ。だがそれを言ったら、気持ちがないのに”遊びで寝た”ことになっちまう。
「あー・・、その、イレブン。まずは付き合うことから始めねえか?」
迷った結果、カミュはとりあえず提案してみた。
「そっか、そうだよね。」
イレブンはにっこりと笑った。カミュもイレブンがわかってくれたようでほっとして胸を撫で下ろしたのだが――
「すぐに準備を整えさせるよ。」
「は?何の準備?」
「君がお城で快適に過ごせるように。」
「・・・・・・へ?」
――どういうことだよ?俺が城で快適に過ごす?
「部屋は僕と一緒でいいよね?何か希望があれば遠慮なく言って?」
「お、おい、イレブン、」
「もう君と離れたくないんだ。それに結婚前提で付き合うなら、同棲したっていいでしょ?」
「け、結婚前提?」
「そうだ!王家の首飾りはいつも身に着けていてね?美しい君に不埒な想いを抱く輩がいないとも限らないからさ。ちゃんと君は僕のものだってことを示さなきゃ。ね?」
「・・・・・・。」
カミュはポカンとして目の前の青年を見つめた。話についていけない。
「イ、イレブン!俺、城に住むなんてできねえよ。時々訪ねてくるから・・・」
「もう待つのは嫌なんだ。」
イレブンはきっぱりと言った。彼の強い眼差しにカミュが思わず口を噤む。
――けど、どうにかして断わらねえと。
とにかく、この場を切り抜けなければ。そう思ってカミュは口を開いた。
「・・・あー、えーと、マヤとシルビアのとこに一度帰っていいか?俺、ユグノアに留まるなんて言ってねえから、帰りが遅いと二人とも心配する・・・」
――離れてしまえばあとは手紙ででも何でも、断ることはできるはず・・・
カミュはそう考えたのだが。
「ああ、それならすぐに人を遣るよ。君がここに留まることになったって。」
「・・・・・・。」
――マジかよ。
「カミュ。少しじっとしてて。」
もはや返す言葉も思い浮かばないカミュの頸にイレブンはユグノア王家の首飾りをつけた。
「これでよし。さ、服を着て朝食に行こう?」
カミュはベッドから降りて身支度を整え始めたイレブンを、それ以上何も言えずにただぼんやりと見つめた。
*
イレブンはその日、城内どこへ行くにもカミュを伴った。王家の首飾りが見えるようにアスコットタイは外され、シャツの襟も寛げられていた。イレブンは人前でも当然のようにカミュの腰に手を廻し、時折愛し気に蟀谷にキスをする。
――これじゃあまるで公認の恋人扱いじゃねえか。
カミュは終始、羞恥と居た堪れなさで頬を染め俯いていた。
――早くこんな茶番、終わらせねえと。誰か・・・誰かがイレブンに俺みたいな・・・『男でしかも元盗賊なんかと付き合うべきじゃない。』と言ってくれれば・・・ロウは確か今日帰るって言ってたな。
「なあ、イレブン。ロウはいつ帰るんだ?」
「うん?午後の予定だけど?」
「午後・・・」
まだ数時間ある。カミュは一刻も早くこの状況を何とかしたかった。そのときカミュの頭に一人の姿が閃く。
――ペルラさん!
「イレブン、エリオールの顔を見に行こうぜ?」
「いいよ。」
イレブンは笑って答えた。
「おー、よしよし。」
イレブンとカミュがエリオールの部屋を訪れると、ペルラが彼を抱いてあやしているところだった。
「ペル・・「母さん。僕、カミュと結婚を前提に付き合うことになったんだ。」
ペルラに話す前にイレブンが言い、カミュは呆気に取られて彼を見た。
「まああ!そうなのかい?よかったじゃないか、イレブン!」
ペルラがふくよかな顔を喜びに輝かせる。
「あんたが寂しくてこの子の母親と“そう”なったのはわかってたよ。これでやっと幸せになれるさね。カミュさん、ウチの息子をよろしく。」
「え・・・・え、ええ。」
深々と頭を下げるペルラにカミュはただぎこちなく頷くことしかできなかった。
*
午後になって、ロウが帰ってきた。
「おかえり、ロウじいちゃん。」
「ただいま、イレブン。おお、カミュではないか、久しぶりじゃの。」
「ああ、じいさんも元気そうで何よりだぜ。ところで・・・」
「・・・むむ?おぬし、それはユグノア王家の首飾りではないか?」
カミュがイレブンとのことを話そうとする前にロウが首飾りに気付いた。
「これは・・「僕たち、結婚を前提に付き合うことになったんだ。」
「お、おい、イレブ・・・うわっ」
カミュが説明する前にイレブンが言い、腰に手を廻され引き寄せられる。
「おお、そうか、そうじゃったのか。」
ロウはほろりと涙を零すと、ハンカチを取り出して目元を拭いた。
「イレブン、そなたがカミュを好きだったのは知っておったぞ。とうに諦めたものとばかり思っとったに、・・・いや、よかったのう。」
「おじいちゃん・・・」
「ロ、ロウ・・・」
――何だってんだよ、これじゃイレブンのことを相談なんてできやしねえ。
ショックを受けるカミュに気付かずイレブンが続ける。
「昨日カミュが突然訪ねてきて、夜に僕の部屋で飲んでいたんだけど、“そう”なって・・・」
「お、おい!」
照れた顔で話すイレブンの言葉をカミュは慌てて訂正しようとしたが。
「ほっほっ、若いのう。」
ロウの楽し気な笑い声に言う機会を失ってしまった。
*
夕刻に差し掛かろうかという頃。
「今日の公務はこれで終わりだから、これからちょっと出掛けようか?」
とイレブンが笑顔で言い出した。
「どこへ?」
「バンデルフォン。」
「バンデルフォン?何でまた・・・いいけどよ。」
イレブンが執務机の上に出掛ける旨のメモを残し、カミュに手を差し出す。そしてカミュがその手を取るとイレブンはルーラを唱えた。
ネルセンの宿屋の前に降り立つと、イレブンはカミュの手を引いた。
「こっち。」
宿屋の南南東にある風車塔を目指す。塔に着くと扉を開け、上階へと登って塔をぐるりと囲むバルコニーへと出た。眼下には黄金に輝く麦穂畑が広がり、遥か彼方には青い海が見えた。そよぐ風が快い。
「綺麗だな。」
「この風車塔、数年前から誰も住んでなくてさ。宿屋の人に頼んで定期的に手入れしてもらっているんだ。僕のお気に入りの場所。ユグノアの再建に取り掛かったときから、時々ここに来てはぼーっとしてたよ。」
イレブンは座って外壁に背を預けた。カミュを見上げ、隣りをポンポンと叩く。カミュもイレブンの隣りに座り、外壁に寄りかかった。
「・・・僕の胸の傷のこと、話すよ。」
暫くしてから、イレブンがポツリと呟いた。カミュがイレブンを見る。
「僕は、もう一つの未来から来たんだ。」
「未来?」
「と言っても、もう過去になってしまったけれど。」
イレブンが遠い目をする。そしてもう一つの未来で大樹が落ちたこと、仲間が散り散りになったこと、ベロニカが死んだこと、天空魔城でウルノーガを倒したこと、忘れられた塔で時のオーブを破壊して過去に来たことを話した。
「・・・・そう、だったのかよ。一人で抱え込んで辛かったよな。」
「辛かったのは昨日までだよ。今は君がいる。」
イレブンが澄んだ碧瞳で真っすぐにカミュを見て、そっと肩に触れる。夕陽に染まったイレブンは美しかった。
「君に夢中で・・・、あんなに辛く寂しかった時間がもう遠い昔のことのように思えるんだ。・・・ふふ、君に再会したのは昨日のことなのにね。」
イレブンがはにかむように微笑んだ。
「・・・・・・。」
「そろそろ戻ろっか。」
イレブンが立ち上がって手を差し伸べる。カミュがその手を取り立ち上がると、すぐに移動呪文の光が二人を包み込んだ。
*
――あんなこと言われたら、去るに去れねえよ・・・
夜にイレブンの私室でソファに寄り添って座り、寝酒を嗜みながら、風車塔での彼の言葉を思い出しカミュは内心溜息を吐いた。
――シルビアの公演が終わるまであと一週間か・・・。イレブンが俺のことを彼とマヤに伝えたのなら、きっとここに訪ねてくるはず。そのときイレブンのことを相談して何とかしよう。
先の算段をつけたところでカミュは考えていたことを切り出した。
「・・・なあ、イレブン。」
「なぁに?」
腰に廻した手で優しくカミュの腰骨を撫でながらイレブンが訊き返す。
「その、城での仕事、だけどよ・・・」
「仕事?」
「俺が城で快適に過ごせるようにしてくれるんだろ?お前が公務に行っている間、兵士の調練でもしようと思うんだが・・・」
「調練?」
「ああ。俺、武器捌きは我流だけど、何たって邪神を倒したんだ。この五年間シルビアやアリスとも鍛錬してたしよ。手合わせの相手くらいできるぜ?」
「・・・怪我したらどうするの?」
「使うのは訓練用の武器だろ?万が一ケガ人が出ても応急処置は心得ているし、薬草くらい城にあるよな?」
「・・・・でも僕、やっぱり心配だ。」
「お前は心配し過ぎだ。どこの国だって兵士の調練はやってる。」
「そうじゃないよ。兵士たちがカミュに恋しちゃうんじゃないかって・・・」
真面目に思案している様子のイレブンの横顔をカミュが呆気に取られて見る。
「・・・・・・はあっ!?」
「それに、君を組み伏せようとしたり、よからぬことを考える者もいるかもしれない。」
「組み伏せ・・・って、訓練だったらフツーだろ?」
「カミュ、君は自覚が無さ過ぎるよ!今日だって城の者たちが君をどんな目で見ていたか・・・!」
「は?俺をどんな目で見てるっていうんだよ!?」
「羨望と憧憬、時に劣情を含んだ目で。」
「おまっ・・・!」
カミュはグラスをローテーブルに置いてソファから立ち上がった。
「・・・もう寝る。俺が今言ったこと、考えといてくれよな!」
そしてカミュがベッドに向かおうとしたとき、イレブンが後ろから彼を抱き竦めた。
「おい・・・」
「僕を振り解ける?カミュ。」
「そんなの・・・!」
カミュは腕に力を籠めたが、イレブンはびくともしなかった。
「あ・・・っ・・・」
イレブンが片腕でカミュを抑え込み、空いた手を寝間着の襟から侵入させ乳首を探り当て、爪が小さな粒を掻くと、昨日さんざん弄られたそこはまだ過敏になっていて、カミュは息を詰め身体を震わせた。イレブンがカミュの耳元で囁く。
「君がこんなめに遭ったりしたら、僕は耐えられない。」
「・・・イ・・・レブン・・・」
カミュが腕の中で大人しくなると、イレブンは彼を解放し、優しい手付きで振り向かせた。
「そうだ、まずはユグノアの風土や歴史を学ぶのはどう?」
「・・・・は?風土?歴史?」
そうしてくれると信じて疑わないキラキラした目で見つめられて、もうそれ以上何も言えずにカミュは溜息を吐いた。
「・・・わかった。寝るから放してくれ。お前ももう寝るだろ?」
「まだ寝ないよ?」
「え・・・」
刹那、カミュはイレブンに勢いよく唇を奪われた。
*
互いの指と指とが組み合わされた両手をシーツに縫い留められて、覆い被さるような口づけ。
「ふっ・・・んっ・・・」
絡み合う舌。最中、繋がっている身体の奥を緩く衝かれる。イレブンのモノが中のしこりを擦って、カミュは切なげに眉根を寄せた。
「・・・カミュ。」
「あ・・・ん・・・」
漸くイレブンが顔を上げると、重ねていた手を放して硬くなった乳首を優しく掻き、身体のあちこちを愛撫する。
「も・・・イレブン、早・・・く」
腰を揺らして催促するが、イレブンは微笑んでカミュの顎にキスしただけだった。
「君の中、気持ち良すぎる。ずっと入っていたい。」
「ばっ・・・」
「・・・なんてね?」
イレブンが笑って今度はカミュの頸にキスをする。繰り返されるキス、愛撫、下腹の奥の緩い衝撃。
――早くイッて終わりにしてくれればいいのによ。
何時までも終わらない行為に疲労し、苛立ちながら思ったが、カミュはそれを口に出す勇気はなかった。
――絡みつくような愛情に、息が詰まる。
「あ・・・っ!」
ナカのしこりをグリっと擦られ、カミュは仰け反った。
「考え事?」
「ちが・・・いや、違わねえけど、お前のこと考えてたんだよ。」
「目の前に本人がいるのに。」
イレブンがムッとしてカミュの尖った乳首や首、腋、脇腹を指先で悪戯する。
「ひゃ・・・あ・・・ん、あ・・・っ・・・やっ・・・」
「普段の君もセクシーで魅力的だけど、今の君も可愛くて僕は好きだよ。」
イレブンは優しい目で微笑みながら暫く悪戯してカミュを喘がせた後、下腹で揺れるカミュ自身を掴んだ。クチ、と濡れた音がした。
「は・・・っ」
「一緒にイこう?」
イレブンがカミュの中から自身を抜き、カミュのモノと重ねてその大きな手で一緒くたに包み込む。
「あっ・・・!」
大きな手で揉み絞るように幹を擦られ、カミュが身悶える。イレブンも艶めいた吐息を零しながら、程なくして二人は達し、カミュの腹から胸にかけて二人分の白濁が穢した。
「・・・カミュ。」
「・・・・・・。」
カミュは荒く息を吐きながら、焦点の合わない目で自身を見下ろす美しい青年を見上げ――ついに気を失うように眠りに落ちた。
次はR-15。