※この作品はR-18です。

調教済み対魔忍をまとめて受け持つ特務中隊   作:ヘビとマングース

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特務中隊:戦闘開始

 深夜の新宿、とあるビル。

 6階建てで様々なテナントが入っており、至る所に異形の影が存在している。

 繁華街から少し離れた位置にあるそこは喧騒が届かず異様なほどに静かで、いくら深い時間だとはいえ不思議と人が近寄らなかった。

 

「五車の対魔忍どもが来るよ。そいつらを殺さず捕まえな」

 

 “ノマド”幹部である朧が命令してくる様を見て、抜け忍である二車(にしゃ)骸佐(がいざ)は苦い顔をしていた。

 直情的な性格が感情を隠せず、不満が顔に表れている。

 朧はそんな彼の顔を見てフンと鼻を鳴らし、嘲笑うつもりで楽しげに言った。

 

「役に立たない対魔忍なんていらないのよ。せいぜい処分されないように手柄を立てることね」

 

 明らかに彼を下に見た物言い。朧は関心を見せず、まるで虫けらを見るかのように言い放ってすぐにその場を離れていった。

 舐められている。それも当然といえば当然の立場ではあるが、骸佐はそうした状況に耐えられるほど気の長い性格ではなかった。

 

 仮にこの場に冷静な部下が居なければ今すぐ刀を抜いて朧へ斬りかかっていただろう。

 怒り心頭の骸佐を止めたのは、すぐ傍で冷静な声を発する男だった。

 

「今は堪えてください。ふうま再興のために、我々はこれからあらゆるものを手に入れなければなりません。金も拠点も地位も求心力も。“ノマド”はそのための足掛かり。今はまだ、こじれるわけにはいきません」

「フーッ……わかってる。あいつらを潰すのは力をつけてからだ」

 

 深く息を吐き出し、骸佐は感情を抑える。

 他人の命令に従うことを嫌う彼が朧に従えられているのは、将来的な活動のために色々と入用だからであり、忠誠など微塵も誓っていない。準備が整えばいつでも裏切るつもりでいて、彼女の命を奪うことを躊躇わないだろう。

 

 今はまだ、準備に努めなければ。

 傍らに立つ側近、(がく)尚之助(しょうのすけ)はそのために“ノマド”との話を進めたのだ。

 部下の働きを無駄にするわけにはいかない。そう思う程度には骸佐は冷静だったようだ。

 

 怒りを溜める骸佐を見て、くつくつと笑い声を漏らす大男が居た。

 骸佐がギロリと睨みつけたところで、もう一人の側近である土橋(どばし)権左(ごんざ)は表情を変えなかった。

 

「何かおかしいか? 権左」

「くっくっく、いやぁ別に。ずいぶん溜め込んでんなぁと思っただけだ。ひでぇ顔してるぜ。風俗にでも行って一発抜いてくるか?」

「チッ……」

「我慢できねぇんなら俺に命令してくれりゃいい。あんたが殺してぇ奴を殺すのが俺の仕事だ」

 

 フン、と鼻を鳴らして、骸佐は多少機嫌を直したらしい。

 朧に命令される現状は気に入らないが、“ノマド”であろうとその他の勢力であろうといずれ実力で蹴散らす。彼にはそうした野心があった。

 まずは目の前の敵を討つ。目的が定まって思考がスッキリする。

 

「五車のどいつが来るか知らねぇが、誰だろうがぶちのめす。まずはそれからだ」

 

 

 

 

 骸佐は戦慄した。

 朧が用意した魔族の部下は10や20ではなく、100体近くが一つのビルに詰め込まれ、大小様々な魔物が至る所でひしめき合っている。いくら個体として対魔忍に敵わなくても多勢に無勢、流石にこれには苦戦を強いられるだろうと考えていた。

 

 だが現実は違った。隠れることもなく正面突破してきた対魔忍はわずか数名。しかし圧倒的な力量をほんの数秒の間に見せつけ、一瞬にして数十体の魔物が倒れて動かなくなった。

 甘く見ていたと言わざるを得ない。その光景は明らかに想像以上の惨劇だった。

 

 集められた魔族たちを蹴散らし、堂々と水城ゆきかぜが立ちはだかった。

 両手には“雷遁”を駆使するための拳銃を握り、呆然としている骸佐を見て嫌そうな顔をする。

 

「なんであんたがここに居んのよ? ま、別にあんたがどこで何してようが興味ないけど」

 

 圧倒的だった。

 彼女が放つ“雷遁”は非常に強力で、制御するための装備“ライトニングシューター”から放たれる雷は一瞬にして部屋を埋め尽くし、回避不能な攻撃を実現する。

 骸佐が知る彼女の技とはまるで違っていた。以前より明らかに出力が上がっている。

 勝利など当然という顔で、ゆきかぜは銃口を骸佐へ向けた。

 

「ふうまはあんたを探してるみたいだけど、私はあいつほど優しくないわよ。降参しないなら撃つけどいい?」

「ふっ、ざけんなッ! 俺が降参するとでも思ってんのか! 舐めんじゃねぇよ!」

「あっそ。じゃ、しょうがないわよね」

 

 ゆきかぜが引き金に指をかけると同時、彼女の隣に別の女性が立つ。

 五車学園の教師として知っている上原燐だ。強いとは聞いているが全力を見たことはない。その人が両手に細身の剣を持ち、全身からバチバチと強烈な電気を発している。

 

 燐はゆきかぜと同じく雷遁の使い手であり、“電輝の対魔忍”の二つ名を持つ。出力だけならゆきかぜも相当なものだが、完璧に扱い切る技量はゆきかぜを遥かに凌駕する。

 彼女とゆきかぜの実力差は比べるまでもない。同じ雷遁であっても燐の体から迸る雷は収束された状態で、穏やかながら強烈な迫力を醸し出している。

 

「二車骸佐。反乱を起こしたのはふうま再興のためと聞いていたが、魔族と一緒に居るのは感心しないな。こんなところで何をしている」

 

 数メートルの距離があるとはいえ、対峙しただけで迫力を感じる。

 全身に帯電して光を放つかのような燐の姿に、骸佐は何かを考える前に危機感を覚えて、自らが勝てないと咄嗟に悟った。だが今更退くことはできず強気に出る。

 

「魔族の手を借りて名を上げるつもりか? 堕ちたな」

「うるせぇ! てめぇらに何がわかる! あの使えねぇ“目抜け”よりよっぽどマシだ! 腑抜けのあいつに付き合って一体何が変わるってんだよォ!」

 

 骸佐が叫んだ直後、ほんの小さな足音を聞いて視線が移った。

 彼が視認したのは五車に居た頃の友人だった。

 

「チッ……よりによってお前か……!」

「骸佐⁉ そうか、ノマドに加担して……」

「うぅぅ、ふぅぅ、対魔忍スーツ弟おっぱい……か、可愛いっ。可愛くて仕方ない……」

 

 骸佐が見たのは、なぜか背後から秋山凜子に胸を揉まれながら立っている立川佐吉だった。顔を赤らめてハァハァしている存在が妙に気になるものの、様子のおかしい凜子に気付きこそしたが今はまるで気にならない。

 驚いた顔で突っ立っている、対魔忍としての姿の佐吉を見て、緊張が走った。

 

 二車骸佐は元五車学園所属の対魔忍である。

 春先まで五車に居たのだが、現状に不満を訴えて“二車”の名に従う対魔忍たちを引き連れて反乱を起こし、校長暗殺を企てた末に失敗して逃走した。

 

 学園に居る頃、骸佐は同級生である佐吉と比較的良好な関係を築いていた。

 逆にふうま小太郎は「腰抜け」と評して一方的に嫌っている。

 

 二車家がふうま一族の配下であることが大きな要因だった。以前、小太郎の父の先導によりふうまが反乱を起こしたが失敗しており、以来ふうま家は没落してしまい、影響力を失っている。かつては対魔忍の主戦力として多くの家を束ねたものだが、今では語られる機会すら少ない。

 ふうま小太郎が腑抜けてしまい、授業をサボるのが当たり前になり、ふうま再興を願わないばかりか強くなろうともしない状況に業を煮やし、骸佐は反乱を起こしたのだ。

 

 その一方、佐吉とは諍いなく話せる友人になっている。

 自主的な修行を繰り返し、他の対魔忍に教えを乞うてまで強くなろうとする佐吉の姿は、骸佐の眼には「骨のある奴」と映って認めていた。

 二車が反乱を起こした際、骸佐は校長暗殺の現場に訪れた佐吉を誘ったほどだ。

 

 まさかの再会。

 彼が来るという考えに至らなかったのは甘く見ていたと言わざるを得ない。

 努力は認めるが、戦闘力は他の対魔忍に比べてまだまだ。骸佐は冷静にそう判断していた。

 

「なんでお前が……」

「俺は、特務中隊の隊長になったんだ」

「隊長? お前が?」

「この近辺で人間がゾンビになるっていう事件が起こってて、調べてた対魔忍が一人、連絡がつかなくなった。この状況でお前が関係してないとは言えないよな……」

 

 佐吉の言葉を聞いて、骸佐には動揺が見て取れた。

 彼らが友人だったことを知っているためか、ゆきかぜや燐は敢えて口を挟まず、少しの間だけ静観しようとしていた。その間、凜子はろくに話も聞かずに佐吉の胸を揉み、首筋に顔を埋めて深呼吸していたが誰も止めない。

 

「小太郎はお前のこと心配してるぞ。五車に連れ戻すために独立遊撃隊の隊長になった」

「ハッ。五車はよっぽど人手不足らしいな。あの目抜けが隊長だと?」

「骸佐、戻ってこいよ。今ならまだ間に合うぞ。これ以上ノマドと一緒に居たら、本当に取り返しのつかないことになる」

「嫌だね。俺はもう選んだんだ。目抜けの当主なんかいらねぇ、俺は俺の力で成り上がる」

 

 言いながら骸佐は背負っていた鞘から刀を抜いた。

 佐吉は表情を歪め、「やっぱり無理か」と思いながら姿勢を変える。

 

「むしろお前がこっちに来い、佐吉。五車は魔族に浸食された政府の言いなりだ。隊長だかなんだか知らねぇがどうせ飼い殺されるだけだぞ」

「ふぅふぅ、お尻もセクシーだ……」

「それは、できない。俺は特務中隊の隊長だ。五車のみんなを裏切れない」

「んん、はぁ……すっきりしたお腹も可愛い。勃ってないちんちんも、柔らかくて可愛い」

「お前は五車にはもったいない……っていうかなんなんだその女は⁉ お前ら舐めてんのか!」

 

 流石に無視できなくなり、佐吉を背後から抱きしめて手を動かし続ける凜子が気になり、骸佐が怒りを込めて叫んだ。

 当然だが侵入はすでにバレている。他の階に居た魔族の戦士たちが駆け付け、次第に敵の数が増えつつあった。

 

 骸佐は刀を構え、瞬間的に一切の甘さを捨てた。

 向上心のある佐吉は以前から認めている相手。技量や頭脳や生き方など、殺すには惜しいと判断していたから誘った。しかし断るのならば迷いなく処分する。その覚悟だ。

 

「骸佐……多分これが最後のチャンスになる。もう戻れないぞ」

「戻るつもりはねぇ。こうなった以上、死ぬまで突っ走るだけだ」

「そうか。それなら最後の修行をつけてやろう」

 

 佐吉と骸佐の会話をぶった切るように言った直後、燐が地面を蹴って飛び出した。

 闇夜に走る一線の軌跡。肉体から放つ雷が美しく空間に残る。

 気付いた時には骸佐の顔面に燐の蹴りが叩き込まれていて、彼は何が起きたか理解するより早く吹き飛んでおり、痛みを感じた時には地面に激突して跳ねていた。

 あまりに圧倒的。たった一撃で力の差を思い知る。

 

「今日の私はすこぶる調子が良い。死にたくなければ死ぬつもりで逃げろ」

 

 言いながら燐は自身の腹部を撫で、体内から湧き上がる力に自らも驚き、高揚していた。




佐吉メモ

『水城ゆきかぜ』
・雷遁の使い手だが、まだ完全には制御できないらしい
・そもそも雷遁が強いからバカバカ撃ってるだけでもめちゃくちゃ強い

『秋山凜子』
・空遁の使い手、逸刀流免許皆伝の凄腕剣士
・敵より弟
・弟が相手なら対魔忍スーツで興奮するみたいでセクハラが止められない

『上原燐』
・雷遁の使い手、五車学園でも指折りの実力者
・特に戦闘が得意なようで近接戦闘がめちゃくちゃ強い
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