調教済み対魔忍をまとめて受け持つ特務中隊 作:ヘビとマングース
緊張していたのが馬鹿らしくなる。
俺の初任務は驚くほどあっさり終わりそうで、逆に不安を覚えてしまうほど圧倒的だった。
雷遁を持つゆきかぜと上原先生により、俺たちを待ち受けていたオークやゴブリンなんかの大勢の魔族が一瞬にして倒され、別の階から援軍もやってくるのだが全くもって役に立たない。
あまりにも一方的で気を使ってしまうほど、二人は体から雷を迸らせ、数十か百近く居る敵をまとめて一網打尽にしていった。
こういう場面のために俺も修行してきたのだが、手を出す暇なんて一切ない。
俺と凜子さんが参加するよりも早く終わってしまうため、凜子さんなんて暇過ぎてさっきから俺の体をまさぐることしかしてなかった。当たり前みたいに受け入れてたけどこれは変だな。
「はぁはぁ、佐吉のうなじ……跡つけてもいいか?」
「だめ」
「はぅ、きれいな首筋だ……ぺろぺろしてあげたいなぁ」
様子のおかしい凜子さんはもはやどうしようもない。放っておいた方が得策だろう。
ともかく、ゆきかぜと上原先生がすごすぎて俺の仕事なんてなかった。
こういう時、隊長としての腕の見せ所ではないだろうか。多分あの二人が魔族に捕まるっていう展開はあり得ない。自分から捕まりでもしない限りはここに居る誰にも止められないはずだ。
そうなれば俺のやるべきことは一つ。
捕まっているだろう高坂先生を探して救出することだ。
敵の相手はゆきかぜと上原先生に任せて、凜子さんに抱き着かれたまま移動すればそれでいい。
「ゆきかぜ、上原先生、ここは二人に任せた。俺たちは高坂先生を探しに行く」
「わかったわ。私が見てないとこでヘマしないでよね」
「油断するなよ立川。己のできることを精一杯やれ」
「わかってます。二人の戦いを見て逆に冷静になりましたよ」
これが対魔忍の本領か……。
それもあるが、多分あの二人が異常な強さを発揮してるのは、直前に俺がおまんこの奥で精液を注ぎ込んだのも影響しているらしい。
対魔忍の強さを知ったと同時に、俺って結構ヤバい奴なのでは? とも思った。
「お姉ちゃん、上の階に行こう。高坂先生を回収して外へ出るよ」
「ああ、わかった」
「だからちんぽ揉むのやめて」
「いや、しかしだな、テンションが上がるだろう?」
お姉ちゃんと呼び出してから、凜子さんは俺の前で大体こうだ。いつも通りの態度と言えばそれまでだが任務中くらいはシリアス感を出してほしい。
後ろから抱きしめられたまま移動を開始して、一旦ビルの外へ出る。
上の階から魔族はどんどん一階へ降りてきている。それらを避けるために非常階段を使おう。
「サクッと探すよ。あの二人にも悪いし、骸佐が殺されないか心配でもある。さっさと高坂先生を見つけて撤退しよう」
「ああ、了解した」
「だからスーツごとアナルに指入れようとしないで」
「さ、佐吉はこっちも好きだと思って」
事前に緊張してたのが馬鹿馬鹿しくなる。
これで対魔忍生徒の中では最強格なんだから、世の中って不条理だよなぁ。
一旦外に出てから、非常階段なんて使う必要もなく俺たちはビルの6階へ侵入した。
凜子さんの“空遁の術”を使ったからだ。
ものすごく簡単に言ってしまえばワープみたいなもので、空間を操ることができる忍術だ。五車学園生徒で最強格と言われるだけはある。便利過ぎるし強過ぎると、体感してわかった。
「どうだ佐吉?」
「すごいよお姉ちゃん。マジで有能過ぎる」
「ふふふふふ♡ お前のためならいくらでも使えるぞ♡」
1階でゆきかぜと上原先生が暴れたのが功を奏したみたいで、本来なら魔族が待ち構えていたんだろうけどみんな下に行ってしまっている。上階はがらんとしていた。
高坂先生は、捕まった時にGPSを起動させたみたいだ。その反応は俺が持つスマホ型の機械できちんと受け取れている。
反応は近い。まずは先生を救出しよう。
しかし、潜入任務に出る高坂先生だからこその装備なんだろうか。
対魔忍がみんな捕まる前提じゃないことを祈りたい。
「ここだ」
「気配がする。下がってくれ」
流石に敵を前にするとキリッとして、凜子さんが俺の前に立った。
この期に及んで戦闘を回避するのは不可能。
凜子さんが先導してくれた通り、ここは凜子さんに戦闘を任せ、俺はサポートに徹する。実力の違いくらいはわかってるつもりだ。だからこれが最適解。
「行くぞ」
凜子さんの問いかけに頷いて応えた。
俺が扉を開けて、凜子さんが室内に飛び込む。
その途端、異様な匂いがむわっとして、一気に俺たちの体を包み込んだ。
部屋の奥には、おそらく凌辱されたんだろう、大量の精液にまみれた高坂先生が倒れている。
その周囲に、高坂先生を凌辱したんだろう緑色の小さな魔族……ゴブリンらしきものが、紫色の血をぶちまけてバラバラになり、何体居たのかわからない状態で転がっている。
そして、その凄惨な光景の中に、明らかに悪そうな鎧を着た誰かが刀を握って立っていた。
血と精液の匂いが混じって居心地が悪く、さらに、全身に感じたこれはおそらく殺気。
凜子さんのせいで緩んでいた空気が一気に引き締まり、さっきより大きな緊張を感じる。
「桃知東洋……!」
「助けに来たのか? ずいぶん遅かったな」
俺はその姿に見覚えがあった。渡されたデータの中で見た人物だ。
鬼みたいな不気味な黒い鎧で全身を覆った元対魔忍、桃知東洋。
最近発生したいくつかのテロ行為に関与している男で、魔族に加担している様子だが、どうやらその魔族を利用して別の何かを企んでいるらしい。
状況からして、この場に居るゴブリンを殺したのは桃知で間違いない。抜き身の刀には紫色の血が付いているから明らかだ。
対魔忍なのに魔族側についたらしいが、魔族が好きってわけじゃないみたいだった。
「高坂先生を助けてくれたのか? お前はテロリストだって聞いたぞ……」
「対魔忍のためではない。ただ低俗な魔族どもが嫌いだっただけだ」
低くて感情を感じない淡々とした声。俺たちへの敵意は隠されていなかった。
桃知東洋はすでにアサギ先生が警戒している相手。ここで会ったのも偶然じゃないはず。魔族に協力しているし、俺たちにとっては敵だ。
「あいつには捕縛命令が出てる。だから……お姉ちゃん」
「生け捕りにすればいいんだな? わかった」
「“斬鬼の対魔忍”。かなりの腕前だそうだが、アサギには劣るのだろう?」
桃知が静かに刀を構える。
その瞬間にプレッシャーが跳ね上がり、強大な殺気で足が震えそうになった。
「俺を捕まえたくば“最強の対魔忍”を連れてこい……! それ以外はなます切りだ」
虚勢やハッタリじゃない強者の圧を感じる。
だけどその桃知と実質一対一で対峙して、凜子さんは全く怯んでいない。
凜子さんの戦い方は居合がメイン。刀を鞘に納めたままで構えて、背筋を伸ばし、いつでも来いと言うかのような態度だった。
その時の顔は凛としていて、素直にかっこよくて頼りになった。
「佐吉、もっと下がっていてくれ。安心しろ。指一本触れさせないし傷つけさせないから」
悔しいけど、多分俺じゃ力不足だ。桃知に勝てるとは思わないし、凜子さんの邪魔になるような気がしてならない。
素直に従うことにして後ろへ下がる。
思い切って部屋から出て、入り口のすぐ傍から室内を眺めた。
俺が居なくなったことで早速凜子さんが動き、すぐに俺の判断が間違いじゃなかったと知る。
動く、と察した直後、俺の目には二人の姿が消えたように見えた。
ほぼ同時に刀が激突したんだろう、金切り声みたいな音がいくつも重なって聞こえてきた。すでに戦闘は始まっているのに、俺の目には碌に見えていない。
次元が違い過ぎる……これが本物の対魔忍なのだと思い知らされた。
もはや手を出す暇なんてなくて、何が起こってるのかさえ俺は理解できていない。
きっと援護しただけでも邪魔になってしまう。
ただ見ていることしかできなくて悔しく思っていると、突然、背後から誰かに抱き着かれた。
「あんたが隊長? ずいぶんショボいのねぇ」
耳元で、艶っぽい声で囁かれた。女性の声だ。だけど俺の知っている声じゃない。
まずいと気付いた時にはすでに遅くて、俺の体は後ろへ引っ張られ、口を手で押さえられていて助けを求めることができない。
それでも振り返った凜子さんが一瞬で俺の異変に気付いたことだけはわかった。
「佐吉っ⁉」
「隙ありィ‼」
凜子さんと桃知の戦いがどうなったのか、最後まで見ることはできなかった。
俺は何者かに連れ去られ、一瞬にしてビルの外へ出てしまったからだ。