ついにと言うべきか、今更と言うべきか、本来の意味での高級男娼としての仕事が来てしまった。
斥候ちゃんが事前に、危険ではないけど面倒な仕事が来るかもしれない、と遊びに来た時に教えてくれていたが、淫魔としては貴族の女性が娼館に来るとは思っていなかった。
しかし、いまいち気乗りしない案件である。
仕事である以上はやり遂げてみせるけど。
初夜の予行学習なんて普通に自分たちの家でしてくれないかな。
言うまでもないがお嬢様には手も触れず、メイドさんの相手を回りから見られながら説明付きで行う事になるらしい。
前世も昔の貴族の人は衆人環視の中で初夜を行っていたらしいけど、気分が下がるな。
◇ ◇ ◇
双方の家からメイドさんが見届けに来て、淫魔はお嬢様付きのメイドさんを相手にするのだけど、既に問題がある。
メイドさん緊張からか、ニコリともせず、事務的な受け答えに終始しているのだ。
これをお嬢様が学習してしまっては大惨事だと思う。
旦那となる人が、世継ぎを得るために仕方なく相手しているだけですから、と言われると興奮する人だとヤバイだろうし、そうでないなら悲惨な経験を積ませる事になりかねない。
人選ミスのフォローから入らないといけないなんて、忠告通り面倒な仕事だ。
ちなみにメイドさんの保護のための淫紋は、お嬢様が他のメイドさんと打ち合わせをしている隙に刻ませてもらった上で、可能な限り視認性を落としている。
お嬢様が旦那さんに淫紋は刻まないのかなんて聞いたら、恐らく脳が壊れてしまう。
NTRプレイはNGでお願いしたい。
他にも注意事項は事前に教えられているかもしれないが、致命的なものはきちんと説明しておかねば。
男性は相棒や息子などと呼ぶほど相方を大事に思っているので、ネガティブな言葉や態度を取ると、その時点で失敗することになりかねないので気をつけましょう。
他にも事前準備の必要性を語り、メイドさんに手を触れて身を固くするのを見せ、この状態では双方が怪我をする事があると忠告しておく。
でも、貴族なら緊張を解し体の力みを取る効果のあるお香くらい用意しているだろう。
念のためローションもあった方がいいが、追加効果があるものを使うかは、その場のメイドさんが判断するべきだろう。
時間が限られているから先に進まないといけないのに、メイドさんがガチガチのままなんだよね。
お嬢様がいるから、フェロモンとかの催淫効果を最低限まで抑えないといけないし、気にしないといけない事が多い。
あまり気は進まないけど、言霊で少し素直になって貰うか。
純愛派閥所属としては、暗示の類は信頼関係が壊れるデメリットしかないから嫌なんだが、少し饒舌になるお酒を飲んだ時くらいの強さで使おう。
この子とはもう会うことは無いはずだし、大丈夫だろう。
「気を楽にして、周りは気にしないでいいから」
「そう、ゆっくり深呼吸をして、隣に座ってもいいかい?少し話をしよう。どうしてこの役割を引き受けたんだい?」
これは聞いておかないと、貴族関係の面倒ごとに巻き込まれたら街にいるのも、危険になりかねない。
「血は繋がっていないけど、私はお姉ちゃんだから」
お嬢様の乳母がこの子のお母さんだった訳か。
乳姉妹ってやつかな。
結婚に反対していて、相手に恥を掻かせるつもりじゃなさそうでよかった。
手をそっと握る。
体が強張らなくなったのを見て一安心だ。
ようやく始める準備が出来た。
お嬢様たちには悪いが、質疑応答は後でまとめてしよう。
◇ ◇ ◇
見知らぬ相手に抱かれる、それも淫魔にって話ならどうなるのか不安になるのは当たり前だ。
淫魔に出来ることは、優しく丁寧に準備を整える事だけだろう。
頬に手を当ててこちらを向かせる。
やっと目を見てくれた。
魔眼持ち相手なら悪手だけど、これはそんな事を想定した状況じゃないから大丈夫。
近づくとそっと目を伏せる。
唇に触れるだけのキスを何度かしながら、耳の後ろから首筋を撫でる。
手が胸を通り越し、脇腹を撫でた時の反応はよかった。
予想していたのと違う場所を触られたためだろう。
焦らすのは適量ならばいいアクセントだ。
ふぅと吐く息にも色が混ざり始めているのに、声は我慢しているみたいなんだよな。
よし、ここまできたら完全に蕩かしてしまおう。
おへそから指をすっと上に向かって滑らせる。
こちらを見るメイドさんの視線に期待感がある。
イジワルなどしないから大丈夫。
形がよく手から少しはみ出す大きさの胸を軽く持ち上げるようにしながら表面を撫でるように登頂していく。
頂点に旗立てるのはまだ、早いかな。
痛くないよう少し形を変えるくらいの力加減で解していく。
彼女の方から、こちらに少しだけだが寄りかかって来た。
肌が触れる面積が増え、お互いが動くことで摩擦が刺激になる。
耳にキスをする。
触覚だけでなく聴覚からも、している行為を意識させる。
あ、流石に教養を積む階級に仕えているだけあって、場所ごとの意味も理解しているのか、恥ずかしげな顔が蕩けはじめた。
耳へのキス、その意味は誘惑。
あまりにも淫魔に似合いすぎている。
もともと淡いけれど、しっかり手入れされている。
水溜まりとまではいかなくとも、外から見て分かる程度には準備が整い始めているみたいだ。
淫魔の視線の先を理解したのか、メイドさんは恥ずかしがってか胸で淫魔の視線の先を隠してしまう。
まだ、恥ずかしくて仕方ないなら、こちらを堪能させてもらおう。
差し出された胸に舌を這わせる。
片側だけ刺激するのは不公平なので、空いている側は手がお相手しよう。
跡をつけてしまわないようにだけ気をつけながら、啄んでいって、今度こそ登頂完了の証を立てる。
メイドさんに頭を強く抱きしめられて、胸に押さえられる。
少し荒くなった呼吸に、増水がなにがあったかを示している。
採掘前の試掘の段階には至ったようだ。
片側の手はおへその少し下側から内側に向かって、指でトントンと潜水艦の探針のように振動を送る。
入り口から入る前に露出しつつある、鉱床の確認もしたかったのだが、崩落の危険があり表面を撫でる程度に終わった。
熱く、内側へ分け入るに無理がない所まで準備がされていた。
「もう、お願いします」
潤んだ瞳に見つめられて、そう声をかけられてしまってはこの先進まずにいるのは一人遊びになってしまう。
固く強張っていた表情は蕩け、そっとそらされていた視線は潤んで淫魔の目を捉えている。
淫魔としての感覚が、メイドさんの想いもきちんとこちらに向いている事を伝えてくる。
スタンダードに正面から淫魔が主動する形で繋がった。
痛みや違和感で身を固くしたりはしていないけれど、少しこのままでメイドさんに馴染んでもらってから動こう。
キスをして、耳元でいいと思った所を囁き、お互い抱きしめる様に様々な場所に触れる。
何度かキュッと収縮していたので、そろそろ大丈夫だろう。
さあ、蕩け合おう。
◇ ◇ ◇
あ……ヤバイお嬢様忘れてた。
何度か絶頂を迎え、メイドさんの息が上がってきてから気が付いた。
これだから淫魔に複数プレイは向かない。
そしてそれが死因につながる。
お嬢様の息が荒くなって視線に熱が籠っているけどこれ、メイドさんに向いてない?
やらかしたかと思ったが、相手側から来ていたメイドさんが笑顔で「ありがとうございます。若様もお喜びになるでしょう」そんなことを言うから、嫌な仮説が浮かんできた。
これ旦那になる人が百合好きで仕組んだんじゃないか?
浮気防止の為に貴族の女性全体に百合畑が広がってないなら、これそういう事にならんか。
まじかよ……お嬢様の前でがっつりヤッちまったけど、脳壊れてない?大丈夫?
仕事を完遂した淫魔は何も気が付かなかった。
そういう事にしたらダメかな。
◇ ◇ ◇
私室では姉の様に世話を焼いてくれていた彼女が、あんなにも蕩けて幸せそうにしているのを私は見た事がなかった。
話に聞いていたのでは、分からなかった熱と想いが渦巻いている。
いつも私を見ていてくれた彼女の目に今、私はいない。
それが少し胸を絞めつける。
私の事もあんな風に熱の籠った目で見て欲しい、身支度のために触れられてばかりだったけど私からも触れてみたい。
お相手側から来ているメイドから、「彼女に触れたいですか?」そう問われ心臓がはねる。
「若様はそうした事に理解のある方なので、なにも問題はございません」
今まで教えられてきた事との齟齬で、少し混乱してしまうが目の前の光景からは目を離せない。
「輿入れされて来てからも、こちらに馴染みやすくなるでしょうし、悪い事ではございません」
悪い事でないなら、私もあんな風に彼女と触れ合ってみて、お互いを感じて想い合う事が許されるのだろうか。
「男女で共通して気持ち良くなれる場所もございますので、行為が一方的にならず夫婦仲の向上も見込めます」
作法の話でなく、実体験が私に欠けている知識なのだから、学ばないといけないのは淫魔の彼を彼女がどう奉仕しているのかなのに。
「継承権に問題など起こさぬよう、メイドにも手を出さずにいる真面目な方でもあります。……眺めるのがお好きなだけかも知れませんが」
どうして私は、彼女がどこを刺激されると反応するのかを、意識してしまっているのだろう。
私はこれから、どうなっていくんだろう。
でも、満足そうにしているメイドと幸せそうな彼女を見ていたら、きっと悪い事にはならないのではと思った。