今回の話は比較的優しいはず、性癖で殴られて死ぬ魔族なんていなかったんだ。
この世界について、娼館での教養をつけるための勉強で分かったことがある。
今いる街なんだけど実は国らしい、そう都市国家ってやつ。
和解も対話も意味のない魔族という敵がいるために自然と人類は防壁の内側で暮らすことを選んだみたい。
この街が隣接している魔族の領域が、面倒なアンデッド系だから戦力も充実させているし結界で街を覆ってあるらしい。
アンデッドは生きてる相手を憎んでいるか、肉体に縛られていて哀れなので解放してやろうと一方的に上から目線で絡んでくる連中が基本になる。
そんな面倒な連中の相手をしてくれているのが、アンデッド特効になる浄化の奇跡を使える聖騎士団の皆さんだ。
ちなみに聖女ちゃんは結界も使え浄化の出力も高い後衛タイプ。
聖騎士はバフかけた肉体で浄化のエンチャントを使って武器で戦う前衛タイプらしい。
そこの所属のお客さん、聖騎士さんの話をしよう。
多分、休日ごとに娼館に通って来てくれる聖騎士、これもまたここがエロゲ世界である説を補強してしまうけれど。
◇ ◇ ◇
鍛えているのに女性的な柔らかさを失わず、すらりとしたスタイルの持ち主で、艶のある亜麻色の髪を編んで後ろで纏めている。
これは髪型としては、なんて言うのだろう?詳しくないことが悔やまれる。
なによりの特徴は人より長く先の尖った耳。
この人はファンタジー種族の代名詞であるエルフなのだ。
聖騎士さん、彼女は性癖に対して非常にオープンだ。
あるいは、妥協できない性質の人なのかもしれない。
言語化された内容が理解の及ぶ範囲なら、実現できてしまう淫魔相手だから積極的に性癖を開示しているのだろうか?
自分の性癖を誰かに語ることに興奮を覚える性質だったなら、いつしか実現できないような内容にまでなりそうで怖い。
◇ ◇ ◇
初めて来た時は、かなり控えめの内容だった。
合法ショタを愛でて、相手からも好意を向けられたい。
それくらいのことから、聖騎士さんの関係は始まったのだ。
ショタ好きでも合法な相手だけに欲望を向けるなら、淫魔としては健全の範囲だと思う。
エルフの寿命だと人間は基本年下だろうしね。
しかし、聖騎士さんはエルフとしてはかなり若い部類になるらしい。
癒されてその分甘やかし、愛でる。
啄むようなキスや服の上からのお触り、太ももの上に転がって、撫でられることもあった。
そんなふうに健全な範囲でイチャイチャと過ごすだけな事もあったくらい。
そういった穏やかな時間が続けばよかったのだけど、弾けたのは何が原因だったのだろう。
人間関係なり人類を取り巻く戦況などに強くストレスを感じていたのかもしれない。
淫魔は戦闘などでは戦力外だから戦いに関する情報は、触れる機会がほぼないんだよね。
騎士って中間管理職だし、聖騎士なんて宗教要素まで意識しないといけないだろう?
この一帯で信仰されているのは女神様らしいけど、触れることさえできない相手は淫魔としては対象外になってしまって関連する話題でも関心を保てないんだ。
見せてもらった本の挿絵の女神様は、聖女ちゃんの正統進化系美人だったんだけどね。
しかしショタを人質に取られ、多数の格下相手にいいようにされるプレイは、上級者向けじゃないかな?
数を揃えても大したことはできず、人質がいてようやく行動ができる。
その程度の相手だからこそイイのだと聖騎士さんは言う、これは本当にどこで歪んだんだろう?
守るべきショタに見られながらとか、見せられるショタの性癖バキバキになるだろうこんなの。
ヤッてるのもショタも分身した淫魔だけど。
いろんな姿になれるしワンチャン、ドッペルゲンガーとかのつよつよな種族説ないかなと思っていたけど、分身能力あるドッペルゲンガーはナーフされるくらい強いだろうからやっぱり種族は淫魔なんだろうなぁ。
戦闘も政争もなんなら生産行為まで戦力外、それがこの世界の淫魔。
本当に、エロくて美形である以外の長所がないんだよね。
見せつけられて昂っちゃたショタが、賊に命じられての形を取ってのプレイを挟むのはやはり嗜好がそちらよりなのか。
他の分身相手には無関心に近い事務的な対応しかしないのに、ショタ個体だと胸に抱きしめて刺激して欲しい所へ口を導いたり、自分から積極的に動いて楽しませようとしてくれる。
でも最後、足を絡めて離さないようにする時、少し力がはいり過ぎてる。
淫魔でなかったら腰痛めてるから、適切な加減をお願いしたい。
そういえば聖女ちゃん、この聖騎士さんの紹介でここに来たんだったな。
共通する部分のある嗜好持ちだから仲良くなったのかな?
◇ ◇ ◇
聖騎士さんは全力で楽しんでいるのに、泣きそうになっているように見えるときがある。
そんなときは、抱きしめてもちもちの頬っぺたをくっつけ合うと少しでも元気が出るみたい。
一番効果があったのはASMRプレイ。
後ろから抱きしめて耳元で囁いてみたり、膝枕をして頭を撫でながら全肯定甘やかしコースだったり。
抱きしめられて、声も上げずに涙を流されたのには驚いたけど。
現代でなくても中間管理職ってメンタルへの負荷が大きいんだな。
そこそこ、ストレスフリーな生活をさせてもらっている淫魔として頑張っている人の応援くらいはしようと思う。
まぁエロい事以外は戦力外で、基本何かしようものなら「座って待ってて」と言われるから知識無双(エロ)の出番は機会が巡って来たらだな。
◇ ◇ ◇
聖騎士として人々の守護者としての誓いを立ててから、自分はできる限りの力を尽くし戦ってきた。
功績を認められ聖女様の護衛の一人に選ばれたのは、自分の誇りだ。
だから、それを悔いるなどあってはいけないことなのに……
護衛に選抜されて階級も指示される側から、する側として振舞うことが多くなった。
護衛の仕事とは常に側に侍り、襲ってくるものを打ち払うだけではない。
むしろ襲撃などされないよう、事前に移動ルートの安全の確保を行う方が多い。
護衛対象を抱えての戦闘より、全員が戦闘要員の方が戦いやすいのだから。
人々を守るそう誓いを立てたのに立場上、相手が人であっても斬らなければいけない事態もある。
盗賊などがそうだ。
あるいは、魔族に寝返った者たち。
それが欲望からであれ、大切な人を失った所に甘言でつけ込まれたのであっても。
必死に命乞いをする彼らを斬らねばならない。
そうしなければ、逃した者によって罪のない人々が犠牲になるのだから。
慣れない、慣れきってしまってはいけない重みに耐えかね。
自分の人生で今まで関わってくることのなかった、歓楽街へ足を運んでしまっていた。
初めは照れや遠慮があったのに、今ではしたいことも成すべきことも混同して頼んでしまっている。
彼に頼む賊は、下衆で低俗である方がいい。
だって、そういうものだと思っていたなら、無駄な命乞いをする賊を斬るとき躊躇いなく腕を振るえるでしょう?
無垢なものに求められ、自分の体がそれに応えることが出来ている実感を得られる瞬間が好きだ。
自分が戦い守っているものが価値あるものだと、思いたいのは自分の理想を押し付け過ぎだろうか?
それでも日々の疲れか、澱のように心の底に溜まっていくものがある。
それを彼は見逃さないでくれる。
年長者として甘やかしてあげたいのに、結局は甘えてしまっている。
認めて、褒めて優しく穏やかに過ごせるのはお姉ちゃんのおかげだから、と労わって愛を注いでくれる。
受け止めきれず、溢れてしまったとしても自分が求める限り何度でも。
だから自分は今、諦めず戦えている。
勇者様の活躍で押し上げられた戦線。
それを人類側のものとして定着させるための、浄化作業中に想定外の魔族の襲撃を受けた。
かつての宮廷魔法使い、人類を裏切り不死の誘惑に屈したもの。
汚れた不死の魔族、リッチー。
アンデッドであるにも関わらず浄化の奇跡で滅することができないなんて。
どうすればこの状況を切り抜けることができるのか考えを巡らせていたところ、聖女様から「使って下さい」と投げ渡されたのは強い聖属性の込められた品。
リッチーに投擲すると浄化すら防ぎ、本体を防護していた膜に当たって弾けた。
効果がなかったかと思ったが、それは防護膜に穴を穿った。
そこからは投擲の得意な斥候役と共に渡される不思議と温かい球体をリッチーに投げ続けた。
◇ ◇ ◇
これ以上なく顔を歪め、魔法を使うでもなくじたばたと手足を暴れさせ叫んでいたリッチーはもういない。
何故だか、ばつの悪そうに視線を逸らしている聖女様。
聞けば、先ほどの品は効果のほども確認できておらず量産もできないので使用を躊躇ってしまったとのこと。
不確かな品に命を賭けさせたことを気にしているならば、イレギュラーな事態に収拾がつき、生きて皆が帰ることができる。
それでいいじゃないですかと、笑いかける。
リッチーに弄ばれただろう命の解放が近年で一番、重くやり切れない。
二度と利用できないよう、拠点としていたであろう建物を浄化する。
中に収められていた命だけはあるもの、命を失ってなおこの世に縛りつけられているものを解放してあげなければいけない。
辛い思いをしている、あるいはそうした思いすら抱けないものたち。
感傷も後悔も後でいい、エルフである自分がこの場で一番年長なのだ。
周りを不安させぬよう振舞わなければならない。
でも、ああ早く街へ帰りたい。
彼に会いに行って甘えて、甘やかして自分が生きている実感を噛みしめたい。