※この作品はR-18です。

比企谷八幡は城廻めぐりに癒される。   作:悪夢

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めぐり先輩との再会

「はぁ...」

 

地方都市の23時。

 

東京の本社に居た頃はこの時間でも街中が明るかった。

 

しかし、転勤先のこの地方は中核都市でありながら、23時を過ぎると街の明かりが少なくなる。

 

そんな暗闇の中、一件だけ明かりが灯っているスナックを見つけた。

 

...俺は部内の懇親会の2次会を上手い事抜け出してきたのだが、明日は休日なのでもう一杯飲みたい気分だ。

 

「...入ってみるか」

 

少し塗装が剥げた装飾扉を開く。

 

「いらっしゃい!...おや?お初さんかな?」

 

実家の母と年齢が近そうなおば―――お姉さまがカウンターに立っていた。

 

「1人だけど、大丈夫ですか?」

 

「良いよ良いよ。今日は金曜だってのに全然お客さんが居なくて困ってたんだから」

 

確かに他にお客さんが居ない。

 

「それじゃあ...一杯いただきます」

 

「はいよ。って言いたいところなんだけど...ちょっと出かけないといけないんだよね。もう一人居るからその子に任せるよ」

 

カウンターに座った途端にお姉さまはカウンターから出てきてコートを羽織った。

 

「若い子だからお兄さんもきっと楽しめるよ。すっごい可愛いんだから。メグちゃん、看板の電気消しておくからあとはよろしくね」

 

ニカッと人の良さそうな笑顔を浮かべてお店を後にしたお姉さま。...どうやら店じまいの寸前だったらしい。なんだか悪い事したな...

 

「はーい」

 

お店の奥の方からは、なんともふんわりとした返事が聞こえて来た。

 

声の感じからして若そうだ。

 

「お待たせしました~...えっと...あっ、メグです。よろしくお願いしま...す....」

 

水色のドレスを着た"メグ"さん。

 

少し露出の多い服装が水商売らしさを醸し出しているが...確かに綺麗な人だった。

 

化粧は薄く、肌は白い。スタイルは良いけれど、少し小柄だ。

 

「え...?」

 

しかし...しかし、そんなことよりも...俺は彼女の顔に見覚えがあった。

 

「ひき...がや...くん...?」

 

クリクリとした大きな瞳を見開いて、口を半開きにして固まっている"メグ"さん

 

「めぐり先輩...?」

 

総武高校元生徒会長。めぐりんぱわーで周囲を癒す。ほんわか系美少女で有名だった彼女の名前は...城廻めぐり。

 

「ど、どうしてこんなところに...あっ!ちがっ...わ、私は城廻めぐりじゃないよっ!」

 

「まだ苗字呼んでないですよ」

 

慌てて誤魔化した(?)めぐり先輩。

 

苗字は呼んでいないのに、本人がフルネームを自供してくれた。

 

「うぅ...」

 

胸元でぎゅっと手を握り締めているめぐりん。

 

その様子は大変可愛らしいのだが、可愛らしいからこそ困らせたくない。

 

「えっと...お久しぶりです、めぐり先輩」

 

「うん...久しぶり」

 

しゅんとしたまま挨拶を返してくれた。律儀なところが彼女らしい。

 

「あの...どうしてこんなところに居るの...?就職したのって東京の会社じゃなかった?」

 

上目遣いで尋ねてきためぐり先輩。

 

「あ、はい。本社は東京です。転勤でこの地方の支店に配属されたんです」

 

ちなみ左遷ではない。業種の都合上、地方での案件が多いのだ。むしろ本社に居る方がやることが少ない。東京でも支社が沢山ある。本社は統轄と研修がメインだ。

 

「あ...そういえば比企谷くんは建築営業だったね。お仕事は順調?」

 

「はい。めぐり先輩のおかげですよ」

 

実は...めぐり先輩とは同じ大学だったのだ。

 

就職活動の際に内定が出ている先輩から面接の練習やESや履歴書の書き方を教えてもらう機会があるのだが、その際に俺はめぐり先輩に付きっ切りで指導してもらったのだ。

 

お蔭さまでコミュニケーション能力も社会人に必要な程度には身に付いたし、なにより異性に対する苦手意識が少しはマシになった。...まあ、これは高校時代の雪ノ下や由比ヶ浜や一色のおかげでもあるけれど。

 

「えへへ...そんなことないって。あれは比企谷くんが頑張ったから、だよ?」

 

以前と変わらない、柔らかい笑顔。

 

「先輩は...その...」

 

めぐり先輩は確か...大手広告代理店に就職していたはずだ。

 

副業が可能なのかもしれないが...噂を聞く限りかなり激務で給料が良い会社のはずだ。

 

副業しなくても都心で充実した生活を送れるはずで、そもそも副業するような余裕が無いはずだ。

 

「うん。...辞めちゃったんだ」

 

やはりそうか。

 

「それは...いえ、色々その...今は選択がありますよね」

 

理由を聞きたかったのだが、そこまで踏み込んで良いはずかない。

 

何か思い悩んで退職したのならば、触れられたくないはずだ。

 

「もう...私と比企谷くんの仲でしょ?それに...君には、ちゃんと話したいから」

 

「めぐり先輩...」

 

どこか悲しげな笑顔。

 

心の傷を覆い隠していることは何となく察することが出来た。

 

「私が結構有名な広告代理店に就職したことは...知ってるよね?」

 

「はい」

 

大学からもごくわずかな人数しか採用されていない有名企業だ。1学年下の俺にも噂が耳に入って来たほどだった。

 

「仕事は順調だったんだけどね~...忙しかったけど、充実してた」

 

給料も沢山貰ってたんだよ、と笑顔で話すめぐり先輩。

 

そんな彼女に思わず頬が緩んだ。

 

「でも...孤独だったんだ」

 

「孤独?」

 

あの先輩がそんな目に遭うとは思えない。...俺なら孤立しそうなものだけど。

 

「うん。東京で一人暮らしを始めて...すっごく忙しい中でアパートと会社を往復する日々。いつの間にか会社から貸与されたスマートフォンばかり眺めている時間が増えて、私用のスマートフォンの電池が切れてることに3日くらい気が付かないこともあったくらい」

 

そんなに激務だったのか...

 

「心も身体も擦り切れてしまいそうだった。友達とは年末年始のメッセージのやり取りだけで、その年末年始もお客さんとの忘年会や新年会でスケジュール帳が埋まってた。恋人だって作る時間が無かった。...ハイボールで良かった?」

 

「あ、はい。いただきます」

 

そう言えば注文していた。

 

「ふふふっ...ごめんね?私ばっかり語っちゃって」

 

「いえ...先輩の事をもっと知りたいので」

 

「もう...ふふふっ。相変わらず優しいね、君は」

 

ふわりと微笑んだめぐり先輩。

 

「...そんなに辛そうな顔しないで?もう終わったことだから...」

 

いつの間にか固く握りしめていた俺の右手を、めぐり先輩の柔らかい左手が包み込んでいた。

 

「...」

 

「続けるね。...そんな忙しい中、心が消耗していくことを自覚してた。このままじゃダメ。このままじゃ耐えれない。そう思ったんだけど...何にも思いつかなかったの」

 

グイッとグラスを煽るめぐり先輩。

 

その中身が水ではないことは何となく理解できた。

 

「うん?あ...ふふっ。安心して?このお酒は私の自腹だから」

 

俺の視線に気が付いたらしい。

 

「それくらい払いますよ」

 

「良いの良いの。何ならそっちのお酒も私が奢ってあげたいくらいなんだから」

 

そう言いながらぐびぐびとグラスを煽っているめぐり先輩。

 

....え?それ焼酎だよね?ロックのはずなのに氷が少なすぎて浮いてるんだけど。温暖化の影響で氷が浮いてるんだけど。

 

「それでね...それでね...えっと...それでね?」

 

「はい。聞いていますよ」

 

酔いが回って来た様子だ。

 

あの温暖化焼酎をぐびぐび飲んでいたらそうなるよな。

 

「それでね....ある日ぷっつんって切れちゃったの」

 

「え...」

 

ブチ切れためぐり先輩が大暴れしている様子を想像してしまった。

 

...似合わない。

 

「あ、別に大暴れしたワケじゃないよ?」

 

「あ...そ、そうですよね」

 

オフィスチェアをブンブン振り回して大暴れしている彼女を見たいか見たくないかと問われると...ちょっと見たい気がする。

 

「むぅ...比企谷くん、ちょっと失礼なこと考えたでしょ?」

 

「そんな滅相もございません」

 

「滅相もございませんなんて言葉使ったことないでしょ~」

 

俺の袖をぎゅっと握ってブンブン振り回しているめぐり先輩。...可愛い。

 

「ふふふっ...それでね?私...いっぱい遊んだの」

 

プツンと切れて遊び回る。

 

公園で一人で走り回るめぐり先輩を想像したのだが、精神的にも肉体的にも追い詰められた人間がそのような健康的な行動を思いつくとは考えにくい。

 

「遊んだっていうのは...」

 

「うん。毎日歌舞伎町に通ってた。仕事が終わるとそのまま歌舞伎町に行って...朝まで飲んでそのまま出社なんて何度もやったよ。幸い、会社のロッカーに着替えはあったし、更衣室にシャワーもあったから何とかなってた」

 

化粧道具も会社に持ち込んでたよ、と明るく話すめぐり先輩。

 

「それで...多分、壊れちゃってたんだろうね...私。ちやほやしてくれるホストの人たちに夢中になって...何十万もするボトルを簡単に注文してた。お金だけは持ってたからね~」

 

「...」

 

何となく、それは察していたのだが...いざ耳にすると少し辛い。尊敬していた先輩が壊れていく様を、その本人の口から聞くことになるなんて。

 

「でも、それもあんまり続かなかった。いくらお金を持ってたって言っても、所詮は20代の給料。そんな生活なんてすぐに限界が来た。だから...沢山お金を借りたんだ。ちゃんとした所からも...ちゃんとしてない所からも」

 

闇金...そのワードが脳裏に浮かぶ。

 

「私はほどんど家に帰って無かったから、金融屋さんの督促状も何もかも無視しちゃってたんだ。だから...実家とか会社に連絡されて、そこで全部バレちゃたの」

 

残念ながら、これは良く聞く話だ。フィクションでも良くある話だが、実際に寂しさからホストに堕ちてしまう女性は一定数居ると聞いたことが有る。

 

「お金を返すか、風俗店で働いて返すか。その二択を迫られたんだけど...お父さんが何とかお金を用意してくれたの。老後の為に取っておいたお金の一部で払ってくれたんだ」

 

殆ど氷が解けた焼酎に口をつけるめぐり先輩。

 

まるで水のように飲んでいるのだが...大丈夫だろうか?

 

「先輩...そろそろ止めておいた方が良いですよ...?」

 

「....え?あ...ごめんね?こんな話聞きたくないよね...」

 

みるみるうちに丸い瞳に涙をあふれさせためぐり先輩。

 

どうやら、俺が話を聞きたくないと捉えたらしい。

 

「あ、ち、違いますよ!先輩の話はもっと聞きたいです」

 

「ほんとうに...?」

 

潤んだ瞳で俺を見つめているめぐり先輩。

 

「っ...は、はい。...なんでも聞きますから。大丈夫ですから」

 

いつの間にか握られていためぐり先輩の左手を包み込んだ。

 

「ぁ...えへへ...ありがとう、比企谷くん」

 

かつてと同じ愛らしい笑顔を向けてくれた。

 

「会社にもバレて...あっという間に噂になって...当時の上司がすっごく良い人だったから、懲戒解雇にはならないように人事部に掛け合ってくれたおかげで自主退職扱いにはしてくれたし、退職金も失業保険も出たんだけど...実家にも居辛くなって、借金も全部は返せなかったんだ」

 

ふぅ...と息を吐いためぐり先輩。

 

「それで...この地方は母方のおじいちゃんの家が有ったから引っ越してきたの。でも、そのおじいちゃんもすぐに亡くなっちゃったから、今はまた一人暮らしなんだ。でも...最近はだいぶ落ち着いてきたから就職活動したんだけど...何故か書類審査でいっつも落とされちゃうんだ」

 

ブラックリストのようなものだろうか?

 

「そんな中...このお店のママに拾ってもらったんだ。すっごく良い人なんだよ~常連さんも優しいし」

 

ニコニコと楽しげに語る彼女からは、思い悩んでいる様子は見えない。

 

「とりあえず...一安心しました」

 

「まあ...借金の返済が有るから生活はギリギリだけどね」

 

えへへ...と力なく笑うめぐり先輩。

 

「先輩...」

 

めぐり先輩の左手を両手で握りながら伝える。

 

「もう...比企谷くんが心配することなんて一つもないんだよ?」

 

「そんなに赤い目をした人に言われても説得力がないですよ」

 

そう言って微笑み返す。

 

「え?...あっ。えへへ...また、泣いちゃったんだ...」

 

手鏡で自分の姿を確認しためぐり先輩。

 

...どうやら、自分が涙を流している事に気が付かなかったらしい。

 

「...先輩」

 

表情を引き締めてめぐり先輩の瞳を見つめる。

 

「なあに?」

 

真っ赤な瞳でほんわかスマイルを浮かべているめぐり先輩。

 

「多分、俺はこの地方の支店で何年も働く事になります」

 

この転勤は、転勤と呼ぶより配属と称した方が正しい。

 

支店間を移動する際は、余程大きな問題を起こすか、もしくは昇進して栄転する場合だ。それ以外は何年も務める事になる。

 

「あ、そうなんだ~。ふふっ...それならまた会えるね♪」

 

「はい。...だから、何でも俺を頼ってください。お世話になったあなたに...恩返しがしたいから」

 

知らなかったとはいえ、めぐり先輩が大変な時に力になれなかったことが悔しい。

 

だから...俺は彼女の力になりたい。

 

「比企谷くん...」

 

スッと笑みが薄くなっていくめぐり先輩。

 

笑顔と反比例するように、目じりに溜まっている涙は増えていく。

 

「めぐり先輩。俺は...頼りないかもしれませんけど、たぶん...昔よりは頼れると思うんです」

 

潤んだ瞳を真っすぐに見つめる。

 

「そんなこと無い。そんなこと無いよ」

 

先輩はふるふると首を横に振った。

 

「かっこいいよ...比企谷くん...」

 

涙が溢れている優しい瞳。

 

ふと、俺の左手に柔らかい何かが触れた。

 

「先輩...?」

 

めぐり先輩の右手が添えられていた。

 

「もう...誰かに甘えないって...決めてたのに...」

 

呟くような小さな声。

 

「俺は例外ですよ」

 

「またそういうこと言う...」

 

頬を染めながら顔を逸らすめぐり先輩。

 

「めぐり先輩こそズルいですよ」

 

「え?」

 

キョトンとした表情。

 

「その表情、可愛すぎです」

 

「もうっ...!」

 

再び顔を真っ赤に染めためぐり先輩。

 

しかし、すぐに頬を緩ませた。

 

「比企谷くんってもともとカッコいいから、そんな甘い言葉で何人も口説いてきたんでしょ?」

 

「そんな事無いですよ...」

 

相変わらず女性社員からは嫌われているのか好かれているのかよく分からない。

 

それに、浮いた話も無い。

 

「本当に?彼女の1人や2人くらい居るでしょ?」

 

「居たら先輩を口説こうとしてませんよ」

 

少しだけ仕返しだ。

 

「も、もうっ!おねーさんをからかったら...めっ、だよ?」

 

急に昔のような口調に戻るめぐり先輩。

 

しかし、両手は俺と握られたままで、白い肌は紅潮している。

 

「...ねえ、比企谷くん」

 

がらりと雰囲気が変わっためぐり先輩。

 

「はい?」

 

「彼女...本当に居ないの?」

 

「...はい」

 

隠しようの無い事実だ。

 

「そうなんだ」

 

ぎゅっと力が入るめぐり先輩の両手。

 

「そう...なんだ」

 

潤んだ瞳。紅潮した頬。...ぷるぷるとした柔らかそうな唇。

 

「ねえ...比企谷くん」

 

めぐり先輩がカウンター越しに身を乗り出してきた。

 

「めぐり先輩...?」

 

自然と...吸い寄せられる。

 

視界を支配する...めぐり先輩の白い肌。

 

潤んだ瞳と視線が絡み合う。

 

「比企谷くん...」

 

「めぐり先輩...」

 

近づく距離。

 

その距離は...既に30cmにも満たない。

 

「っ...」

 

「...」

 

そっと伏せられた瞳。

 

ほろりと目じりから涙が流れ落ちた。

 

吐息を感じるほどの距離。唇と唇が触れあいそうになる―――その時だった。

 

 

 

「ただいま~。ごめんね~メグちゃん。大丈夫だっ―――た...?」

 

 

 

 

良いのか悪いのか分からない絶妙なタイミングでママが返って来た。

 

「あ、あのっ...ママ...これは...ちがっ...!」

 

あからさまに動揺し始めためぐり先輩。

 

真っ赤になってアワアワと手を振っている。

 

「あらあら~?お店で秘密の逢瀬中だった~?」

 

しかし、それを咎めるでもなく、ママはニヤニヤと笑いながらカウンターの中に入っていく。

 

「そ、それは...」

 

どうやら俺にもめぐり先輩の動揺がうつってしまったらしい。

 

「ねえ...お兄さん」

 

「は、はいっ」

 

突然、ママが真剣な表情で尋ねて来た。

 

「あなたは...ホストじゃないわよね?」

 

めぐり先輩を再び夜の街に沈めようと狙う輩とでも思われているのだろうか?

 

「違います。俺は...私は、めぐり先輩の...」

 

めぐり先輩の...なんだろうか。

 

「あら?ひょっとして昔からの知り合い?」

 

「はい。比企谷くんは高校と大学の...後輩です」

 

少し考えた後に後輩と言っためぐり先輩だった。

 

「そう...恋人なの?」

 

「そ、それは...」

 

直球の質問に動揺するめぐり先輩。

 

俺は...そんな彼女の手を取った。

 

「今、その交渉中でした」

 

「比企谷くん!?」

 

目を白黒させているめぐり先輩。

 

「あらあらあら~良いわね~青春ね~」

 

真剣な表情から一転。ご機嫌な表情に変化したママ。

 

「ママ、止めてくださいっ...青春なんて言える歳じゃないですよ...っ」

 

真っ赤になっているめぐり先輩。

 

「なに言ってるのよめぐりちゃん。あなたまだ20代でしょ?人生なんて70年ちょっとあるんだから20代なんて青春の一部よ」

 

「でも...」

 

上目遣いで俺を見つめるめぐり先輩

 

「俺も20代ですよ」

 

そんな彼女の手を握りながら俺もママに続いた。

 

「比企谷くんまで...」

 

情けない可愛らしい声を漏らすめぐり先輩。

 

「...でも」

 

再びママの声色が真剣なモノへと変化した。

 

「その手を取るという事は...この子の全てを受け入れるという事。あなたにその覚悟は有るの?」

 

「ええ」

 

仮に、まだ俺に語っていない秘密があったとしても、それも含めて全て受け止める。

 

「この子が可愛いから口説いているワケじゃないのね?」

 

「当然です」

 

短い言葉で覚悟を伝える。

 

「...」

 

「...っ」

 

真剣な表情。ママの年齢相応の迫力に気圧されそうになる。

 

「...そう。貴方の覚悟は分かったわ」

 

ふっと力が抜けた。

 

そして、握り合っている俺とめぐり先輩を両手で包み込んだ。

 

「認めてあげるわ。持って帰って好きにしなさい」

 

「私、まだ何も言って無いですっ!」

 

まるで作り過ぎたカレーを持たせるような勢いでめぐり先輩を任されてしまった。

 

「え?キスしそうになってたのに?」

 

心底不思議そうな表情でめぐり先輩に尋ねるママ。

 

「それは...っ...そうですけど...」

 

「彼のこと好きじゃないの?」

 

「それは...」

 

「俺も気になります」

 

ママと一緒にめぐり先輩を見つめた。

 

「....す、好きです...」

 

真っ赤になりながら愛を語ってくれためぐり先輩だった。

 

「やっぱりそうじゃない。待ち受け画面を彼とのツーショットにするくらいなんだからずっと好きだったんでしょ?」

 

「え?」

 

衝撃の告白だった

 

「な、な、なんでそれを言うんですか~!」

 

どうやら事実らしい。

 

「もう...もうっ...まっらく...ろーして...」

 

「ん?」

 

様子がおかしい。

 

「めぐりちゃん?」

 

「らっへ...ひきやーくんが...いきなり...」

 

ふらふらと目を回し始めためぐり先輩。

 

「まさか...」

 

ママがめぐり先輩の目の前のグラスを手に取って口に付けた。

 

「っ...濃すぎよ!ほとんど焼酎じゃない!」

 

「ふえ...?」

 

もはや呂律が回っていないめぐり先輩。

 

「全く...あ、そうだ」

 

ちらりとこちらを見たママ。

 

「ねえ、あなた...この子の事、任せても言いかしら?」

 

「それは...」

 

「彼女になったでしょ?それなら介抱するのは彼氏の役目よ」

 

「...わかりました」

 

ママは手招きをして俺をカウンターの中に誘った。

 

「はい」

 

「え?」

 

そのままの勢いでふにゃふにゃのめぐり先輩を手渡された。

 

「あなた、此処から家は近いの?」

 

「歩いて10分です」

 

「それならめぐりちゃんの部屋の方が近いわね。この住所の305号室にあなたも泊まりなさい」

 

有無を言わさぬ命令だった。

 

「しかし...」

 

意識が混濁している状態で女性の部屋に押しかけるのもいかがなものだろうか...?

 

「大丈夫よ。まあ...えっちは起きてるときにしてあげた方が良いとは思うけど、めぐりちゃんが貴方の事を想っているのは本当だから」

 

「...わかりました」

 

どちらにせよ、この状態のめぐり先輩を放ってはおけない。

 

「じゃあ、めぐりちゃんの荷物取って来るから...その子のことよろしくね」

 

「わかりました」

 

めぐり先輩の荷物を受け取り、そのまま彼女を横抱きにしてお店を後にしたのだった。

 

 

 

 

....もちろん、お酒代は払った。めぐり先輩の分が多かったので少し財布が軽くなってしまったけれど...

 

 

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