比企谷八幡は城廻めぐりに癒される。 作:悪夢
めぐり先輩をお姫様抱っこの状態で歩く深夜の住宅街。
「んぅ...」
腕の中のお姫様は幸せそうに瞳を閉じている。
「ここか...」
スナックから程近い場所に先輩の住んでいるアパートは位置していた。
古くはないが、決してセキュリティが高いとは言えなさそうなアパートだ。
「3階の奥なら...げっ」
フロアの数を何度数えても3階建て。
部屋数も...5部屋なので、これは...
「...階段だな」
まあ、めぐり先輩は小柄で体重が軽いので助かった。
「...」
本当に軽い。学生時代はもう少しふっくらとしていた印象だったのだが、恐らく...今の生活がギリギリというのは本当のことだろう。
「んぇ...?」
めぐり先輩を落とさないように慎重に階段を上っていたのだが、その衝撃で起こしてしまったらしい。
「もうすぐ着きますからね」
「ぁ...うん。...え?どこに?」
頭が回っていない様子だ。
「先輩が気持ちよくなれるところですよ」
主に睡眠欲や食欲が満たされる場所だ。
「きもちよく...気持ち良く...?」
丁度2階の踊り場に立ったタイミングだった。
「ひ、比企谷君!?き、気持ちよくって...まさか...ホテル!?」
「め、めぐり先輩っ!外!ここ外だから声抑えて!」
冗談のつもりだったのだが、思考力が50%以下のめぐり先輩は激しく動揺してしまった。
「あ...ご、ごめんなさい...で、で、でも...いきなりホテルだなんて...っ...」
声を抑えてくれたのだが、何故か俺がホテルに担いで連れ込んでいるという勘違いから戻ってきてくれない。
...顔を真っ赤にして慌てる様は大変愛らしいけれど。
「...ほら、着きましたよ」
さすがに自宅に到着したら気が付くだろう。
「ぁ...う、うん...」
何故かしおらしい反応のめぐり先輩。
「めぐり先輩、俺の首に掴まってくださいね」
「う、うん...」
先輩がぎゅっと俺の首筋に抱き着いたことを確認して、スラックスのポケットを漁った。
「っ...」
一層強くなる先輩の甘い香り。
目の前に広がる白い首筋。
...心拍数がどんどん増えていくことを感じた。
「あったあった」
スナックのママから預かっためぐり先輩の家の鍵。
彼女が寝たままでは鍵を取り出せないだろうということで先に渡してくれたのだ。
「っ...ほ、本当にシちゃうんだ...」
ぼそっと呟いためぐり先輩。
「何か仰いました?」
「な、なんでもない...っ」
紅潮している先輩を抱きなおし、部屋の中へと入っていく。
「お邪魔しますね」
腕の中の家主に挨拶を交わした。
「え?あ...それなら私もお邪魔します...かな?」
「え?」
そうかな?...いや、違うだろう。
「わぁ...初めて入ったけど、なんだか普通のアパートと変わらないね」
「初めて...?」
一瞬、先程の話が脳裏をよぎる。
...自宅に帰れない程忙しい日々を送っているのだろうか?
急激に不安と心配で埋め尽くされそうになるのだが、部屋内の様子を見る限りそれは杞憂であることに気が付いた。
「...」
綺麗に整頓された部屋。
散らかっているわけではないが、そこにはちゃんと生活感が漂っていた。
部屋干しされた服と下着、ちゃんと洗って置いてある食器、きちんと整頓されているベッドとテーブル。
決して広いとはいえない部屋だが、めぐり先輩の几帳面で真面目な性格が表れていた。
「んっ...なんだか...私の部屋みたいだね?」
腕の中のお姫様はくんくんと匂いを嗅ぎながら不思議な事を言う。
きょろきょろと見回しては、時折目を細めて何かを見ている。
ひょっとして...目が悪いのか?
「先輩、ひょっとして視力悪いですか?」
「あ、うん。もともとそんなに良くは無かったけれど...前の会社で働いてるときにどんどん目が悪くなっちゃったの...」
やっぱりそうか...
「それなら...今はコンタクトですか?」
「うん。でも、今日はつけ忘れちゃったから良く見えてないんだ~」
えへへ...と恥ずかしそうに笑うめぐり先輩。
そんなに見えないのによく働けたな...
「でも、それだとお客さんの顔とか良く見えなかったんじゃないですか?」
「うん。顔はよく分からなかったけど、常連さんなら声とか仕草で分かるよ~」
流石の記憶力だ。
...ん?
そこでふとした疑問が沸いた。
「それなら...どうして俺の事はすぐにわかったんですか?」
何年も会っていなかったはずだ。
何度か電話をかけた事も有るが、先程の先輩の言葉の通り年末年始にしか電話が繋がらなかった。
「それは...その...」
かあっと頬を赤く染めて視線を逸らした先輩。
「先輩?」
「...た...から...」
この距離でも聞こえないほどの声だった。
「え?」
「その...比企谷くんの顔は...毎日見てたから...っ...」
「え?...あっ」
そう言えば...スナックのママが話していた。めぐり先輩のスマホの待ち受けが俺とのツーショットだと。
「そう...ですか」
なんだか俺まで恥ずかしい。
「うぅ...」
真っ赤になっているめぐり先輩。
...恥ずかしいけれど、決して悪い気はしなかった。
寧ろ...なんともむずがゆい嬉しさが勝っていた。
「ごめんね...気持ち悪いよね...」
「...そんなことありませんよ」
顔を両手で隠している先輩に語り掛けた。
「比企谷くん...?」
不安そうに上目遣いで見つめられている。
「俺が同じ事をするとキモいですけど、先輩がしてると可愛すぎます」
「そ、そんなこと...っ」
「ありますよ」
ゆっくりとベッドまで歩み、ゆっくりと座らせた。
「比企谷くん...?」
不安そうにこちらを見つめているめぐり先輩。
そんな彼女の前に跪いた。
「めぐり先輩が俺との思い出を大切にしてくれているって考えると...俺も嬉しくなります」
外気で冷えた柔らかい手を取り、少し潤んだ瞳を見つめながら語る。
「それに...先輩が俺の事をずっと覚えてくれている事が嬉しいです」
「比企谷くん...」
そんな俺の手を、先輩はぎゅっと握り返してくれた。
そして、そっと目を閉じてうんうんと頷いていた。
「うん...もう大丈夫。キミの為ならなんでもシてあげる」
何か覚悟を決めた様子だ。
...先程からうっすらと気が付いていたのだが、ひょっとして先輩はラブホテルに連れ込まれていると勘違いしたままなのではないだろうか?
「先輩、家では眼鏡を掛けていますか?」
「うん」
「何処に置いていますか?」
「えっと...ベッドの横のテーブルの上に置いてるよ」
チラリとテーブルの方に視線を向けると、確かに黒縁の眼鏡が無造作に置かれていた。
...ちなみに鏡と一緒に未開封のワンデータイプコンタクトレンズも隣に置いてある。つけ忘れたのだろう。
「先輩。目を閉じてください」
「えっ!?も、もうするのっ!?で...でも...うん...そうだよね...うん、わかった...」
あわあわと慌てながらも、最後はぐっと両手を握って俺を見つめた。
「いつでも良いよっ」
ぐっと目を瞑って少し顎を上げためぐり先輩。
キスをされると思ったのだろうか?...少しだけ悪戯心が沸いてきた。
「先輩...」
柔らかい頬に手を添えた。
「ぁ...」
グロスが薄く塗られた唇が開く。
何度か極上の触り心地の頬を撫でた後に、そっと手を離した。
「っ...」
ビクンとめぐり先輩の身体が跳ねる。
そんな彼女を前に頬を緩ませつつ、俺は後ろ手で先輩の眼鏡を手に取った。
「めぐり先輩...」
耳元で可能な限り優しい声を発した。
「比企谷くん...」
情欲に濡れた愛らしい声。
何というか...段々と俺もその気になって来た。
...ダメだ。今はとりあえず誤解を解かないと。
再びめぐり先輩に向き合い、前髪を優しく掻き分けた。
そして―――
「眼鏡、掛け忘れてますよ」
「...え?」
黒縁の眼鏡を掛けて差し上げた。
「良くお似合いですよ」
「え?え?」
きょろきょろと辺りを見渡して、最後に俺を見た。
「私のお家?」
自分の部屋を"おうち"と言っちゃう辺りが本当に可愛い。抱きしめたい。
「めぐり先輩のお家です」
「そ、そっか...私ったら変な勘違いを...っ!?」
恥ずかしそうにほんのりと頬を染めていたかと思いきや、俺の顔を見るなり真っ赤になって視線を逸らした。
「先輩?」
様子がおかしい彼女に尋ねた。
「な、な、なんでもっ!ないっ!」
あわあわと手を振って明後日の方向を向いているめぐり先輩。
...顔を見られた途端に恥ずかしがられるというのも気になる反応だ。
「先輩」
「ひゃっ!?」
細い手首を片手で封じ、反対の手を柔らかい頬に添えて強引に視線を合わせた。
「本当にどうしたんですか?」
「う...うぅ...いわなきゃ...だめ...?」
恥ずかしそうに上目遣いで見つめられている。
「ダメです」
「いじわる...」
頬を膨らませているが、その姿も愛らしくて堪らない。
「その...さっきまでは比企谷くんの事が良く見えてなかったんだけど...眼鏡を掛けたからはっきり見えたの」
「はっきり見えてもそこまで愉快な顔面ではありませんよ」
人によっては笑えるのかもしれないけれど。
しかし、めぐり先輩はふるふると首を横に振った。
「....た....から」
「え?」
聞き取れなかったので、先輩に顔を寄せて聞き返した。
「か、カッコよかった...から。前より大人びて...すっごくドキドキしちゃった。...だから...なんだか恥ずかしくなっちゃったの」
潤んだ上目遣いの瞳。
...マズい。この可愛い生き物を思い切り抱きしめたい。
「ひゃっ!?ひ、比企谷くん!?」
というか、抱きしめていた。
「先輩...可愛すぎます」
「そ、そんな事ないってば...」
顔を真っ赤にしているめぐり先輩
「先輩...」
ぎゅううっと強く抱きしめる。...折れそうなほど細い身体を。
「比企谷くん...」
少し身体を固くしていた彼女も、やがてゆっくりと抱き返してくれた。
「めぐり先輩...少し瘦せましたか?」
「...うん。出来るだけちゃんと食べるようにはしてるんだけど、どうしてもお金が足りない時は我慢してるから...いつの間にかスリムになっちゃった」
えへへ...と力なく笑うめぐり先輩。
「っ...」
無力な自分に腹が立つ。
めぐり先輩が苦労しているときに力になれなかった自分が不甲斐無い。
「ん...比企谷くん...?」
思わず腕に力が入っていたらしい。
腕を解いてめぐり先輩と正面から向き合った。
「めぐり先輩...これからは何でも俺に言ってください。俺が何でも手伝います」
「...なんでも?」
小首をかしげているめぐり先輩。
「何でも、です」
「なんでも...ふふふっ...なんでもかぁ...♪」
いたずらっぽい笑みを浮かべためぐり先輩だった。
...少し言い方を間違えたかもしれない。
「あ、あの...お金はあまり沢山は持っていませんので、出来るだけ経済的な提案でよろしくお願いします」
「そんなこと言わないってば!...でも、本当に良いの?私、そんなこと言われちゃったら甘えん坊さんになっちゃうよ?」
めぐり先輩が甘えてくる様を想像すると...それはそれで堪らない。
「甘えん坊のめぐり先輩も見て見たいです」
「またそう言う事言う...やっぱり比企谷くんってモテるでしょ?」
「そんなことを言ってくれるのは先輩だけですよ。それに...俺はあなたに喜んで欲しいだけですから」
他の女性に好かれようとは思っていなかった。
「うぅ...そんなこといわれると...」
かあっと頬を染めためぐり先輩。
「それじゃあ...最初のお願い、しても良い...?」
「何でもどうぞ」
少しだけ悩んだ素振りを見せて、先輩は口を開いた。
「キス...して欲しい」
「それは...」
俺もしたい。
でも...良いのだろうか?
「...してくれないの?」
潤んだ瞳で見上げられている。
「...俺もしたいです」
正直に話した。もう...我慢する必要はないと思ったからだ。
「ねえ...こっちに座って?」
ポンポンとすぐ隣を叩くめぐり先輩。
彼女に手を引かれるがままに、俺もベッドに腰掛けた。
「あっ...」
ギシ...と、軽く軋むベッド。
マットレスが沈み込んだことにより、俺とめぐり先輩の距離は更に近づいた。
「えへへ...ごめんね?ホームセンターのセール品だからちょっとギシギシ鳴っちゃうの」
「いえ...それは別に大丈夫ですけど...」
むしろ軋んだ方が興奮―――いや、何でもないです。
「けど?」
不思議そうに小首をかしげているめぐり先輩。
「なんでもないです」
「そう?」
今度は反対に小首をかしげている。
...可愛い。
「...♡」
「っ...」
とろん、と蕩けた笑みを浮かべるめぐり先輩。
そんな彼女から...目が離せない。
「...」
「...」
視線が絡み合い、段々と二人の距離が近づいていく。
「先輩...」
「ひゃっ...♡」
思わず細い腰に手を回してしまった。そして、そのままの勢いで先輩を思い切り抱き寄せたのだった。
「眼鏡...外しますよ」
「うん...」
レンズに触れないようにフレームを掴み、再びテーブルの上に眼鏡を安置した。
「見えなくなっちゃった...」
寂しそうに声を上げるめぐり先輩。
「これなら...」
「...?」
白い頬に手を添えて―――
「ぁ...♡」
「よく見えるでしょう?」
―――鼻と鼻が触れそうな距離まで顔を寄せた。
「うん...よく見えるよ...♡」
「ご満足していただけたみたいで安心しました」
ひそひそと耳元で囁くような音量で語らい合う。
「もう...お仕事みたいな言い方じゃ...やぁだ...♡」
蕩けるような声で甘えてくれるめぐり先輩。
「それなら...」
「...?」
くりくりとした丸い瞳を見つめながら続けた。
「...目を閉じろ、めぐり」
「ぁ...♡」
至近距離でもめぐり先輩が紅潮していることが分かった。
そして...めぐり先輩はゆっくりと目を閉じた。
そんな彼女に続いて...俺も目を閉じる。
「めぐり...好きだ」
「私も...好き」
吐息だけで距離は分かる。
それが段々と近づいていることも感じ取れた。
そして―――
「んっ...」
「んぅ...っ...♡」
唇に広がる柔らかい感触。
出会って数年。思い合ってこれまた数年。
ようやく唇を重ねることができた。
「っ...!」
「んぅ...!?...ん...♡♡」
ぎゅううっと抱き合い、激しく唇を貪り合う。
...今まで埋めることができなかった二人の距離を取り戻すように。
...夢にまで出てきた愛しい人への想いを分かち合うように。
「ちゅ...はぁ...はぁ...比企谷くん...っ...♡」
「めぐり先輩...っ...!」
荒い吐息。めぐり先輩の瞳には、まるで獣のように興奮した俺が映っている。
そして...俺の目には、瞳を興奮でギラつかせためぐり先輩が映っていた。
「比企谷くん...比企谷くん比企谷くん比企谷くん...っ...♡♡♡」
ジャケットは早々に剥ぎ取られ、引きちぎりそうな勢いでシャツのボタンを外しているめぐり先輩。
「めぐり先輩...めぐり先輩...っ...!」
ダッフルコートを剥ぎ取り、ドレスの肩紐を外す。
背中のリボンを解くと、スカイブルーのカクテルドレスはスルスルとめぐり先輩の滑らかな白い肌を滑り落ちていく。
「はぁ...はぁ...んっ...♡」
「んっ...」
欲望の赴くがままに口づけを交わす。
「んっ...ふあっ...♡」
ドレス脱がせると、白いストラップレスブラジャーが姿を見せた。
「外しますよ...めぐり先輩...」
「うん...♡...あ、前にホックが有るからね」
先輩がホックの位置まで俺の右手を誘導してくれた。
「上手に外せるかな~?」
「任せてくださいよ」
パチンとホックを外し、スルスルとブラジャーを剥ぎ取った。
「あっ...♡」
ぷるんっと形の良い乳房が姿を見せた。
「綺麗ですよ...めぐり先輩」
「えへへ...ありがとう。でも...ちょっと恥ずかしいね...んっ...♡」
もう一度口づけを交わした。
「ん...触ってもいいですか...?」
「うん...良いよ。私の身体...全部比企谷くんの好きにして良いからね...♡」
蕩けるような甘い声で囁かれた。
そんなことをされては...俺も我慢ができない。
「めぐり先輩...っ...!」
「ひゃっ...ふあっ...♡♡」
俺は、めぐり先輩を思い切りベッドに押し倒した。
肌寒い秋の熱帯夜は...まだまだ始まったばかりだ。