XXY(ダブルエックス・ワイ)~ フロルは悪質ないたずらと手違いのため大量の男性ホルモンを投与され、身体が変化して行く 作:浦辺 玲
新学期が始まり、新入生との新たな出会いがあった。
さてフロルはアマゾンの計画したスノボ合宿に参加したかったが、貯金が心もとなかったためアルバイトを探し、心理学部の学生が募集している脳波を測定するアルバイトを見つけた。タダは心配したがフロルは迷った末応募することにした。
しかしフロルのプロフィールを調べたその学生たちはとんでもない計画をたてていた…。
第5章
新しい学年が始まり、タダとフロルも上級生になった。大学のあちこちで新入生らしい学生が物珍しそうにキョロキョロしながら歩いているのが見かけられた。2年半前、自分たちが新入生として始めてこの大学での生活を始めた時の事を思い出す。とにかくすべてが目新しく面白かった。あちらこちらでサークルやらグループの募集があって声がかかる。やがて新歓にあれこれ誘われて……。
ただ新入生の時期はカルチャーショックの嵐でもある。とにかく銀河中の100を超える星から集まってきているのだから、当然習慣や生活なども全く異なる。思い返せばタダとフロルですらカルチャーショックは多くあった。2人とも習慣の違いを面白がり楽しむ方で、意見がぶつかる度に話し合い、こういうときはこうしようと2人のルールを決めていった。
――あの頃も楽しかったな。
タダは思った。解らないことだらけだったけど、何でも話し合う楽しさがあった。
カルチャーショックは大学当局としても大きな問題だ。誰もが異なる環境にすんなりと溶け込める訳ではない。大学側は新入生に対して「文化の違いを楽しもう」キャンペーンを打ち、積極的に複数のコミュニティに参加することを勧めたり、カウンセリングプログラムを強化して、必要な学生をすみやかにカウンセラーにつなげる策を用意していた。
今度は歓迎する番だ。あちこちで新入生を交えての会が開かれていた。
その日もタダとフロルがサロンにやってくると――ほとんどの建物にサロンと称する多目的な空間が用意されている。基本的にソファやテーブルが並んでいるだけなのだが。――「おーい、こっちだ!」とガンガが声をかけた。10人程の学生がソファでくつろいでいた。
ガンガの隣には3ヶ月ほど前にできたガンガの彼女、ヴィルリがガンガに寄り添って座っていた。それ自体はよくあることなのだが、みんなが驚いたのは彼女と知り合って次の週には2人がすぐに同棲を始めた事だった。
「ヴィリーと結婚するのかい?」とタダが聞くとガンガは真顔で「いや」と答えた。
「俺は大学を卒業したらトレドレーガに帰ってあそこの中央病理センターに務めるつもりだ。だがヴィリーは自分の星の難民対策センターの所員で一時的に勉強のために大学に来ているから、卒業したらまたセンターに戻らないといけない。俺は彼女をしばりたくないし、彼女にしばられたくない。相手の事で自分の人生の計画を変えたくないし相手の人生も変えたくない。そう考えると一緒にいられるのは大学にいる間だけだ。だからそれなら一日でも多く一緒にいたいと思って同棲したってわけだ」
「ふうん」
――色々な愛の形があるんだな。
サロンのソファーにかけると、ガンガが紹介した。
「リドリー。新入生だ」
それぞれ簡単に名前を名乗る。
「じゃ、リドリー、君の事を話してくれないか?」
「僕はリドリー・テーロス、惑星ヘリオンから来た。僕の星はどこの星系にも属していない。辺境の星だ」そこまで言ってリドはガンガの方を見た。
「僕の話は……結構壮絶だけどいいのかい?」
「君さえ構わなければ」という返事だった。
「わかった」と彼は話し始めた。
「始めに言っておくが、僕はゲイだ。そしてこれが僕の人生に大きく関わってるんだけど」リドリーは言葉を切り、また話し始めた。
「僕はゲイだけど、女性と結婚していた」
え?という声があちこちから上がった。
「エルベラ……エルは明るく聡明な女性で僕の一番の友人だった。……少なくとも僕は友人だと思っていた。
ヘリオンの僕の国ではほとんどの人間が結婚をする。僕はゲイだと解っていたけれど、エルに懇願されて結婚した。……それがそもそもの間違いだったんだ。友人とパートナーとは異なるんだよ。でも僕は妻とうまくやっていけると思っていたんだ。そのときは。
妻と結婚して数年後、妻は子供を欲しがったけれど僕は妻に子供を与えることができなかった。……言っておくが男性としての機能はちゃんとあったんだぜ。でも僕はゲイだから妻に対しては欲情できなかった。
妻は最上の友人だった。だけどセックスの相手としては嫌悪感しかなかったんだ」
「よくわからないな」とアマゾンが言った。
「立場を変えて考えてみてくれ。たとえばガンガ、タダは君のよい友人だけど、じゃタダとセックスしろって言われたらどう思う?嫌悪感しかないだろ?」
タダとガンガは思わず顔を見合わせ、2人とも顔を赤らめながらぷっと吹き出した。
「君たちは笑うけど、僕は本気だよ」
その声を聞いてタダは真面目な表情に戻った。そして「ごめん」とつぶやいた。
「確かにゲイであっても妻との間に子供をもうけてる人もいる。でも僕は……ガチガチのゲイだったんだな。どうしても妻との間に子供を作ることはできなかった……。妻とのセックスは嫌悪感しかなかったんだ。
こう言う越えられない壁がある人間もいるんだ。
「そのうちある日、僕は運命の出会いをしてしまった。取引先に行った時、たまたま来会った男性だ。本当にテレパシーって物はあるのかと思ったよ。一言も言葉をかわさなかったのに、何かピンときたんだ。いきなり話しかけるのはおかしいと思ったけど、僕は声をかけた。『このあとお茶でもどうですか』と。
そして話していくうちに彼もゲイだとわかった。
だけど……。僕の星は同性婚はもとより、同性愛自体が死罪に当たるんだ」
「え?死刑があるってこと自体が驚きだし、同性愛だけで死罪になるの?」とフロル。
「ああ、死刑がないのはテラ系やサバ系ではもう当たり前の事だけど、それに属していない僕の星は死刑がある。そして同性愛は忌むべき邪悪な関係とされていて、同性愛は罪なんだ」
「今でもそんな星が存在するんだ。……知らなかった」タダも唖然としていた。
「僕らは機会を作って何度か会った。僕にとっては本当のパートナーを見つけた訳だが、僕の妻にとってはそうではなかった」リドリーは首を振った。
「エルには本当に申し訳ないと今でも思っている。そもそも妥協して結婚したのが間違いだったんだ。
「妻にとってはそれは僕の浮気だった。そしてあるとき、エルは僕たちの事を警察に通報した。僕らは愛し合っている最中に取り押さえられた」フロルは痛ましそうに両手で口を覆った。
「僕らは刑務所に放り込まれた。……そして3日後、僕はパートナーが死刑に処された事を知った」みんなは低い声でええっとどよめいた。
「僕に関して言えば、妻が必死で取りなしてくれたんだそうだ。相手の男性にだまされた、私の夫は悪くない、と訴えそれが認められたんだ。
「だから僕だけ生き延びてしまった訳なんだが、かえって辛かった。一緒に死刑にされたほうがどれだけましかと思ったよ。
「だけどしばらくして同性愛が死刑であるこの星で僕が生き延びてしまった事に何か意味があるような気がしてきた。……僕が後追い自殺をしてもパートナーは喜ばないだろうとも思った。
それで僕は妻と離婚し、獄中で模範囚として生き、自分の星を出ることを本気で考えた。他の星で勉強しようと考えたんだ。……獄中で手当たり次第に勉強を始め、やがて宇宙大学の事を知り、大学を受けようと決心した。まあ、自分の星を逃げ出すことを考えたんだ」
「それ、わかるな。オレも同じだったから」とフロル。
「それで無我夢中で受験して合格したら、どうだ、この自由な星は!僕は本当にショックだったよ。僕の大切なパートナーは何のために死んだんだろうかと混乱したよ」
「この大学にはゲイのコミュニティもあるよ。知ってるかい?」とガンガ。
「ああ、合格とわかった日に入会したよ!そして自己紹介して大勢に歓迎された。本当にこの違いは何なんだろう。
「それで僕は法律を学ぶことにした。なんで僕の星で愛し合うという基本的な人権がゲイだからという理由で許されないのか、それに対して僕に何かできることがあるのか、きちんと学問を通して考えていきたいと思ったんだ」
話している学生達に1人の男性が近づいてきた。
「サーリネン教授だ」タダがつぶやいた。
背の高い教授は学生達に近づくとリドリーに向かってにこやかな表情で言った。
「やあ、盛り上がっているようだね。何を話していたのかね?」
「ああ、僕の話をしていたんだよ」
「おお、それは面白そうだ。私も加わりたいが……次の授業に行かなければならないんでね。どんな話し合いがされたか今晩教えてくれ」そして教授はリドリーにキスをすると去って言った。
リドリーは皆の方を振り返った。
「紹介するよ。僕の今のパートナーのアル。でも君たちには惑星間比較社会学のアル・サーリネン教授と言った方が解りやすいかな」
「え?」――知らなかった!
「実は教授とは知らずに付き合い始めたんだ」とリドリーは頭をかきながら言った。
「アパートに行ったとき、やたらと本の多い家だと思ったんだよ。で、3度目にデートしているときに、アルの音声アラームが『教授会です』って」
聞いている皆もあぜんとしていた。
第6章
タダとフロルとガンガとヴィリーは連れ立って大学構内を歩いていた。
「リドリーか。すごい経歴の新入生だったな」とガンガ。
「でも人権が認められてない星ってまだあるんだね。まあ、オレの星も似たようなもんだけど」とフロル。
4人が歩いていると突風が吹き、近くにいた少女の持っていた紙の束が風に吹かれてぱあっとあちこちに舞った。
「わ、大変!」
4人は手分けして散らばった紙を拾って集めた。タダがまとめて少女に渡したとき、2人の手が触れ、パチッと小さな火花が散った。
「え?」2人は驚いて顔を見合わせ、次に「あー!」と同時に声をあげた。
「え、何?」とフロル。
「あ、じゃあ、あなたなんですね!シベリースから前回のテストで大学に入ったのは!」
その黒い髪の少女は興奮したように話しかけた。
「え?どういう事だ?」とガンガ。
「アリスン・カーです。ええっとじゃ、あなたがタダトス・レーン?」
「ああ、そうだよ。そういえば長老がシベリースからまた1人受かったって言ってたっけ」
「直感ってヤツか」ガンガがため息交じりに言った。
「長老にどんな子?って聞いたら『会えばわかる』だとさ」
「まあ、おまえなら確かに会えばわかるんだろうな」とガンガ。
「そうそう、タダ、私、ハーブティーを山ほど持ってきたんです。よかったら一緒に飲みませんか?」
「へえ、いいな」タダの顔が輝いた。
「次の時間、空いてたら私の部屋に来ませんか?」
「残念だな。俺達はそろそろ次の授業に行くよ」ガンガとヴィリーは別れて去って行った。
アリスンは2人を自分の部屋に案内した。アパートの部屋はどこも同じ作りだが、わずかな期間でカーテンやら壁掛けやらソファーやら可愛らしく飾られていた。
「はい、どうぞ」アリスンは手早く3つティーカップを用意した。
「ああ、懐かしいな、この香り。久しぶりだ」
「あなたは故郷から持ってこなかったの?」
「ああ、新しい文化になじみたいと思ってね」
「私もそうよ。……でもこのハーブティーだけは譲れなくて、目一杯持ってきたの」
「わかるよ」タダはくすくす笑って言った。
「あなたもどうぞ。ええっと」
「フロルベリチェリ・フロル。フロルって呼んでくれればいいよ」とフロル。
「フロル、あなたの分は少しにしておいたわ。シベリースのハーブティーはくせがあるの」
「フロル、まずは少し飲んでみろよ」
フロルは一口飲んで……目を白黒させなんとか飲み込んだが、黙ってティーカップを机に置いた。
「オレ……もういいや」
アリスンはにっこり笑った。
「無理しないでね。紅茶を入れましょうか?」
「何これ?やたら苦いし。香りはつんときてきついし」
「うーん、まあ、それがいいんだけど」とタダ。
「でも子供の頃はこのお茶が飲めなくて苦労したわ。母に毎日出されて、少しずつ飲みなさい、そのうち慣れるからって言われて」
「僕も同じだな。大人になれば好きになるからって言われて苦いのを我慢して飲まされた」
「それが大人になると毎日でも飲みたくなるのよね」
「ああ、シベリースの子供はどこも同じなんだね」タダは声をあげて笑った。
アリスンの部屋にはアリスンが訪れた色々な場所で家族や友人達と撮った写真が壁に幾つも貼られていた。タダが行ったことがある場所や、知っている場所の写真もいくつかあった。タダはそれらを見て、これは××渓谷だね、川が真西に流れてるから川に沈む夕陽が見れるんだとかアリスンと楽しそうに話していた。
久しぶりに同郷の人間に会うとどうしてもローカルな話題で盛り上がる。気がつくとタダはアリスンとばかり故郷の話をしていて、フロルの表情に気付いていなかった。
――なんだよ!苦いお茶がおいしいだの、シベリースの食べ物がどうの、文化がどうの、2人でばかり話して!
フロルは立ち上がり、何も言わずにドアをバーンと開けて出て行った。
「フロル!」タダが気付いて声をかけたが、フロルは走って行ってしまった。
「あいつ……せっかくお茶を出してもらいながら……」
「気にしないで。でも、彼、面白い人ね」
――彼、か。まああの口調ではそうなるだろうな。
訂正して説明するのもおっくうになり、タダはそのままハーブティーを飲み続けた。
第7章
夕方タダが自分の寮の部屋に戻ってくると、すぐにフロルがやってきた。
「ねえ、アマゾンからのお知らせ、見た?」すでに昼間の事を忘れたのか無邪気な笑顔だ。
「いや、何?」タダも昼間の事を指摘するのも面倒になり苦笑しながら答える。
「おまえのとこにも来てるはずだよ」フロルが自分のペンダント型端末を広げて見せる。
見るとアマゾンが試験後に2泊3日のスノボ合宿を計画していた。
大学近くのルナーラ山系のスキー場に皆で小型バスを借りて向かう。
「全くの未経験者でも大丈夫!初日は自称プロ級のアマゾンのスノボ教室あり(もちろん無料!)」などとある。
「いいね」とタダも思わず微笑む。
「オレ、スノボやったことないんだ。おまえは?」
「一応滑れるよ。でもそんなに上手じゃない。アマゾンは本当にうまいらしいよ」
「じゃ、行こう!わ、楽しみだ!」
テキストなどを片付けているタダの背中を見ながらフロルはペンダント型端末を操作して自分の銀行口座をチェックした。すると……予想外に少ない!
――しまった!あんなにゲームに課金するんじゃなかった!
指折り数えて計算する。
――大丈夫。試験が終わったら大学のカフェでアルバイトしよう。1週間もバイトすれば十分だ!それで合宿に行ける!
そうなるはずだった。しかし……
試験後、タダと昼食を取っていると、フロルのペンダント型端末がぶるると震えた。
「なんのお知らせだろ」
手早くチェックし……
「わ、最悪!」フロルはつぶやいた。
「どうした?」
「追試。しかも2科目!」
「どの科目が追試だったんだよ」
「えーっと、惑星環境原理と惑星間異文化コミュニケーション」
「え?普通、追試取るか?そんな科目で?」タダは吹き出したが、フロルが睨んだので慌てて笑いをこらえた。
「まあ、ちゃんと勉強して追試受かっとけよ。下手すると奨学金打ち切られるぞ」
「うう」フロルは反論できずにうなった。
大学では実に97%の生徒が多かれ少なかれ奨学金を利用している。学費と基本的な生活費を補助してくれ返済は不要というありがたい制度だ。
タダが次の授業に行ってしまってから、フロルははっと気がついた。追試のための勉強をしていたらカフェでアルバイトする時間がない。合宿の費用が稼ぎ出せない!
――あ~あ、もっと短時間で稼げるバイトないかなあ。
とりあえず大学のアルバイト紹介センターに登録した。
次の日。
「タダ、すっごくいいバイト見つけちゃった!」
「なんだよ」
「このメール見て。心理学部で実験の参加者を募集してるんだけど、これ、すごいよ。一晩寝て脳波を測定する。それだけでこんなにバイト料くれるんだって」
しかしタダはその案内メールを見て眉をひそめた。
「フロル、これ、やめておけ」
「え?どうして?むっちゃくちゃ条件いいじゃん。寝るだけでいいんだよ!」
「フロル、心理学の実験ってのは唯一ある程度の嘘が許される分野なんだ」
「どういうこと?」
「たとえば『人は驚いた時にどんな反応をするか』を調べる実験をするとする。そのときに『人を驚かす実験をするから参加してください』なんて募集できないだろ?だからもっともらしい他の理由をつけて募集するんだ」
「なんでこのバイトが別の内容だって思うんだよ」
「寝て脳波を取るだけにしちゃ報酬が良すぎる。それから……指導教官の名前がない。もう一つ、心理学教室の名前もない。学生の名前だけだ。なんだか怪しいよ」
「ふーん」
――だけどカフェのアルバイトだけだったらお金ギリギリなんだよな。
追試のおかげでアルバイトができる時間が少なくなっていたのだ。
さんざん悩んだあげくフロルはその心理学実験のバイトに応募の返事を送った。
心理学部のある教室で、1人の男子学生がもう1人の学生に話しかけた。
「このまえ募集したバイトだけど、今日面白い子が応募してきたよ」
「おもしろいって?」
「フロルベリチェリ・フロル。これが学生プロフィールなんだけど」
スクリーンにフロルの学生プロフィールがずらりと表示された。
「学生番号で検索した。教授用のデータって便利だな」
「ああ、こっそりパスワードを盗んだ甲斐があったな。で、おもしろいって?」
「この子のsex(性別)のところ、見てごらん。M(男性)でもF(女性)でもなくH/Fってなってる」
「ああ、HはhermaphroditeのHだ。この子、両性種なんだよ。ものすごくレアだ。それから性別のところでTは過去の変化、スラッシュは未来の変化を意味する。H/Fだから両性種で将来女性になる予定って意味だ」
「ふーん」
「ちょっと見せてごらん」その学生はスクリーンを見てフロルのプロフィールをじっくりと読んだ。
「あんまり成績は良くないな。しょっちゅう追試を取ってる。出身は……ヴェネか。聞いたことない星だな」別ウィンドウをたちあげてすぐに調べる。
「ふーん、両性種か。でも……この子、いくつだって?」
「地球標準年に換算して19歳」
「19歳で未分化?遅くないか?……ってことは」言葉を切ってにやりとする。
「なんだよ」
「新しい「実験」を思いついたよ。この子はおそらくもう少しで変化する。ならばこっちでその変化を手伝ってやろうじゃないか。……他の応募者はキャンセルしてくれ。この子だけで充分楽しめそうだ」
「変化を手伝うってどういう事だよ?」
「この子は一晩寝て脳波を取るバイトと思ってるんだろ?睡眠薬飲ませてぐっすり眠らせて……たっぷり女性ホルモンを注入してやるのさ。この年齢になってるんだ。下手したら1週間程度で変化する。それで俺たちはその変化を観察して記録するって訳さ」いやらしい笑いが浮かんだ。
「え?」もう1人の学生がプロフィールを見ていて言った。
「今度は何だ?」
「2ページ目の特記事項。この子、婚約者がいるらしい」
「どうせ故郷に同じ両性種の婚約者がいるんだろう」
「この大学の学生って事はないか?」
「ないさ。考えてみろ、普通の男性だったらどうしてこの歳まで未分化でほうっておくんだ?とっくに変化させてよろしくやってるはずだよ」
「そうかな」
「そうとも。故郷の離れた星にいるから相手が未分化でもほうっておけるのさ」
第8章
次の晩、フロルは連絡通り心理学部の建物に1人でやってきた。
「やあ、君が応募してきたフロルだね。協力ありがとう。まずはアルバイト料を払うね」
端末の銀行口座のアプリを立ち上げると予想以上の金額が振り込まれた。
「とりあえず3日分。さて実験はこっちの部屋だよ」
案内された部屋には簡単なベッドと脳波検知器らしい機械が並んでいた。
「君のアルバイトの内容はメールに書いてあるとおり、こちらの部屋で頭に脳波検出装置をつけて一晩寝てもらうだけ。じゃ、僕らは向こうに行ってるから寝る服装に着替えてくれ」
「実験の参加者ってオレ1人?」
「そうだね。君しか応募した人はいなかったんだ」
フロルは部屋着に着替えた。
「準備はできた?じゃ、この機械をつけてね」
言われるままに脳波検出装置を頭につける」
「それから、今日の結果が良かったら、1週間続けて来てもらいたい」
「え?でも、オレ、今度スノボやりに行くし。それからその後は宇宙船での実習があるし」
「あ、いや、ある程度は間が開いても大丈夫だから」
――1週間バイトしたら相当儲かるな。タダに何か誕生日プレゼント買えるかもしれないな。
思わず顔がほころんでしまう。
「それじゃ、これを飲んで」ベッドに座るとコップに入った液体を渡された。
「これ何?」
「睡眠薬。軽いヤツ」
「オレ、寝付きはいいし、夜中に起きたりしないよ」
「万が一を考えてね。夜中に目が覚めると、睡眠中の脳波を連続して記録できないからね」
「ふーん」
なんとなくヤバいかなと思えてきた。2人の学生はフロルがちゃんとコップの液体を飲むかまるで見張っているようだ。やっぱりタダの言う通りに応募なんかしちゃまずかったかな。渋々飲み始めると……。ふうっと意識が遠のいた。カチャンと音がしてコップが手から滑り落ちフロルはそのままベッドに倒れ込んだ。
「あっけないな」と1人の学生が言う。
「まあ、普通の3倍量溶かしてあるからな」ともう1人。
「10分ほどして完全に寝込んだのが確認できたら始めるぜ」1人が言った。
2人は箱からカプセルをいくつか取り出した。注射器にセットする。1人がフロルの頬を軽くつついた。まるで反応がない。
「完全に寝たな。さて、服を脱がせるか」学生は脱がせたフロルの部屋着を無造作に床に放った。
「…ふーん、胸はまるで平らなんだな」
「だから未分化なんだって。要は子供みたいなもんだ。さ、ホルモン注射するぞ」
2人はカプセルを次々とフロルの腕に注射した。
「それにしても美形だな」
「ああ、それなのにまだ未分化なんだな」
彼はフロルの頬に手を触れ、その指を首から胸へと動かした。
「次はこっちだ」下半身も全て脱がせる。
「へえ、アンダーヘアもまるでないんだな」
「だからあれも第二次性徴だろ?さ、記録をとるよ。まず第一日目。変化前の状態だ。…膝を立てて足を広げろ」
カシャ、カシャ。静かな部屋にスマホのカメラのシャッター音が響いた。
「きれいなもんだな」
「ああ、しかしこれじゃまるで楽しめないな。ま、お楽しみはこいつが女性に変化してからだな」
「ああ」
「今日予約が取れなくてCTスキャンが使えなかったのは残念だな。明日はCTスキャンも持ってきてかけるよ。そうすればコンピュータで体内の3D画像が作れる。こうして1週間も続ければ、この子は女性に変化する。子宮や卵巣ができてくるはずだ。それから外性器。そしたら今度は俺たちは女性として色々楽しめるさ」
「で、この写真どうするつもりなんだ?」
「わからないか?両性種の局部の変化の記録なんてものすごくレアだよ。それなりのところじゃ売れるのさ」
「誰が買うんだよ」
「お前、バカか?真面目な性科学者は買うだろうし、真面目でないヤツだって欲しいヤツは買うだろうよ!」