XXY(ダブルエックス・ワイ)~ フロルは悪質ないたずらと手違いのため大量の男性ホルモンを投与され、身体が変化して行く 作:浦辺 玲
しかしレイプ犯達が投入した男性ホルモンによりフロルの身体に徐々にある変化が起きてくる。
第14章
次の朝、ガンガからメッセージが入っているのに気づいた。
――タダ、ちょっと気になる事を思い出したんでメッセージを入れておく。おまえがフロルを病院に連れて行った時、どんな薬を処方されたか教えてくれ。
タダは短く返信を入れた。
――ニューロベックスを300mgだ。
次の日、ガンガが連絡してきた。
「この前の事だが…。ニューロベックスもDNA依存する。ヒトゲノムが関係してくる」
「DNA依存?」
「ああ、今は薬は患者のDNAに合わせて処方されることが多いが、こいつもDNA依存する。フロルは我々より染色体が一本多い。47本だろ?」
「ああ、性染色体がXXYだ」
「だから普通の人間に効く薬でも効かなかったりすることがあるんだ。最終試験の時の事、覚えてるか?フロルだけワクチンが効かなかった」
「そうだったな」
「診たのは研修医?おそらくそこまで考えなかったかもしれないな。普通の……染色体が46本だったら、考慮しなくてもいい薬だからな。で、DNA依存をシミュレーションできるサイトで、その薬がどの程度フロルに効いたかシミュレーションできる…。やってみたところ、この薬、フロルにはおそらく普通の10%しか効いていない」
「10%?効いてないも同然じゃないか?」
「落ち着け。単なるシミュレーションだ。だが、もう一度病院に行った方がいい」
――やはりフロルを病院に連れていかないとな。
訳を話してフロルを病院に連れて行き、ホルモンバランスをチェックしてもらった。
結果は……。
「男性ホルモンがかなり増えてるね」
「え?」フロルが怪訝そうな声で言った。
タダは今までの経緯を説明する。
「ニューロベックスはフロルにはあまり効いてないようなんです。でも……」
「しかし君たちの話だと男性ホルモンを投与されてからもう10日経ってるわけだろ?私も訳がわからんよ。いくらたくさん注入されても自然に消えていくはずなんだからね」
――何が起こってるんだ?フロルの身体に?
「フロルは女性を希望してるんです!いったいどうすれば?」
「取りあえずエストロゲンを投与するよ。女性ホルモンだ。だが、なぜ男性ホルモン値がこんなにも高くなっているのか、原因がわからん」
そして医師はため息混じりに付け加えた。
「女性ホルモンを投与しても根本的な解決とは言えない。そもそも男性ホルモンと女性ホルモンはまるで別の物質だ。プラスとマイナスではない」
「どう言う事です?」
「水に塩を入れ過ぎたからと言って、砂糖を入れても真水にはならんじゃろ。できるのは甘じょっぱい変な味の水じゃ。それと同じ事よ」
帰り道。2人とも黙りこくっていた。
「オレ、どうなっちゃうんだろ?」フロルがつぶやく。
「このままだと、オレ、男性になっちゃうの?」
タダは言うべき言葉が見つからなかった。
部屋に戻りタダは1人、自問した。
――フロルが男性になったら?
それでも一生涯のパートナーはフロルしかいない。他には思いつかない。
――フロルを愛しているという時、僕はフロルの何を愛しているんだ?
――存在そのものだ。
と自分の中から答えが返ってきた。
豊かな金髪、はしばみ色の目、時々すねてとがらせる唇。ほんのり微かなピンク色の頬。すんなり伸びた腕。細く白い指。
でもそれはフロルのほんの一部に過ぎない。根本的には…やはりフロルそのもの。フロルの存在。
以前フロルの心を読んでそこに自分に向けられた純粋な愛情を見出した時のことを思い出した。あの時の名状しがたい幸福感。
フロルの言葉。脳天気なようでも僕を気遣ってくれる言葉。落ち込んでいる時に元気づけてくれるあいつの言葉。喜んだり悲しんだり、怒ったり。いつも感情を素直に表しているあの表情。どの顔もかわいくて。
――やはり君しかいない。フロルが男性か女性かという事はフロルの中の一部にしかすぎない。フロルはフロルだ。変わらない。そして僕が愛しているのはそのフロルだ。君自身だ。
タダは立ち上がると隣のフロルの部屋へ向かった。
「フロル!」
フロルはベッドに身を投げ出してぼんやりしていた。
「フロル!」ベッドのフロルの横に腰掛ける。フロルはぼんやりとタダを見つめた。タダはフロルの両手を取った。
「フロル、まず、いいかい?ここの大学の病院のレベルは銀河一だ。心配しなくてもきっとドクター達が解決法を見つけてくれる」フロルはまだ無表情でタダを見つめていた。
「それから」とタダは言葉を続けた。「僕はわかったよ。やっぱり何度考えても僕には君しかいない。もし病院で解決できなくて……最悪君が男性になっても」フロルの身体がびくっと震えた。
「僕が愛しているのは君自身だ。君が男性か女性かなんてことは、君の中のほんの一部にしかすぎない。
君がもし男性になったら……。結婚できるかどうか、僕にはまだわからない。でも君しかいない。もし君と結婚できなかったら、僕は他の誰とも結婚しない。そして君とは一生、一番の友達でいよう」
フロルは苦しげな表情を浮かべた。涙をこらえているような。
「フロル、愛してる。君がどんなになっても」タダは思いっきりフロルを抱きしめた。フロルは自分から抱きしめることはせず、かといって拒否もせず、されるままになっていた。
「フロル……」唇を重ねる。長いキス。そしてやっと唇を離して見るとフロルの目に涙がたまっていた。
――フロル、どうしてそんな苦しげな表情をするんだ?どうしたら君の笑顔を取り戻すことができるんだ?
「フロル……」フロルを抱きしめて、ベッドの上で壁にもたれた。両手でフロルの背中をゆっくりと撫でてやる。細い華奢な身体。時に強靱で、また時にもろくて、命をかけて一生守ってやりたい、いとおしい存在。と、タダの腕の中でフロルは静かに身もだえし、肩をふるわせてすすり泣きした。
「フロル……いいかい、僕が一番恐れるのは君を失う事だ。それだけは絶対にイヤだ。君がどんな風になってもいい。でも君を失いたくない。フロル、どんな事があっても死ぬことは考えないでくれ」
でもフロルは凍り付いた表情のままだった。
「フロル……?」
「タダ……ありがと……」そしてフロルはタダの胸に顔をうずめてしまった。
「フロル……心配するな」フロルはやっとタダの胸から顔を離した。しかしその表情は絶望に覆われていた。
「タダ……」
「なんだい?」
フロルはやっと顔をあげてにっこりと微笑んだ。
一瞬どきっとした。フロルが腕の中にいるのに遠くへ行ってしまったような気がしたからだ。
「タダ……ありがと……オレ……大丈夫だから……」
「あ?ああ……」
はっとしてタダはフロルの額に指を触れた。そっと表層思考を読み取る。読み取れたのは深いショックだった。
――こんな状態で。ごめん、フロル。僕は自分の考えばかり言っていた。君は今深いショックで…おそらくまともな思考もできない状態じゃないか?
フロルがゆっくりと立ち上がる。
「ごめん。オレ……ちょっと…出かけて来るね」
「あ?ああ……」
フロルは部屋を出て行った。
――ごめん。君を慰めたいと思ってるのに…。君が必要とする言葉をまるで僕は言ってなかった。
タダは立ち上がると、のろのろとフロルの部屋から出て行った。
その翌日。フロルが朝、いつものようにタダの部屋に入ってきた。
「タダ、おは…」そこまで言ってフロルは凍り付いて自分の手で口を塞ぎ、次の瞬間ドアを開けて外に飛び出して行った。
――声が低かった。まさか?
タダも凍り付いた。
やるべき事はわかっていた。フロルを追いかけて、大丈夫だと言って抱きしめキスする。わかっていた。なのに。
――昨日、僕はフロルに言ったのに。「君が男性か女性かという事は重要じゃない。僕が好きなのは君自身だ。君が男性になっても僕は君を愛する」と。
なのに今身体が動かない。抱きしめるべき時に。フロルはまだ完全に男性になった訳じゃない、声が少し低かっただけで。なのにもう身体が動かない。
テーブルについた手がぶるぶると震えた。それでも足を動かす事ができなかった。
――なんて弱いんだ、僕は!
以前長老にフロルの事を報告した時の事を思い出した。大学の入学試験を終えて一旦故郷の星に戻った時の事だ。長老に合格の報告をしてそれから…。
「…それから婚約したよ。プロポーズしたんだ」
「ほう、そうか」それだけだった。
「…どんな子だとか聞かないんだね」タダはちょっと不満そうに言った。長老は読んでいた本から顔を上げて微笑んだ。
「はは、お前ほどの直感力のある人間なら選択を間違えるはずはない。それが人生において大事な選択であればあるほど間違える事はない。大丈夫、お前は正しい人を選んだんだよ」長老はまた読んでいた本に目を落とした。
「タダ」
「何?」
「よかったな、一生涯の相手に会えて」
「…うん」
「今度の休みに連れておいで」
「ああ」
こんなにフロルを愛せるか自信がなくて辛い状況なのにタダの直感はまだ正しい人を選んだと告げていた。
第15章
「フロル?」タダは朝起きるとフロルの部屋のドアを開けた。昨日はフロルはタダの部屋に来なかったので、フロルがいる時間を見計らって部屋に来たのだ。
フロルは振り向くと微かな笑みを見せた。しかしそれは何かを隠した微笑みだ。悲しみか、苦しみか。タダはフロルの表情を見て凍り付いた。
「…フロル…」
フロルはタダに背中を向けた。まるでタダがいないかのように振る舞っている。以前だったら飛びついてきたのに。
「…フロル」
「…ねえ、タダ…」フロルが向こうを向いたまま言った。「…お願い。ほっておいて」
「フロル」タダはフロルのそばに行き、後ろからそっと抱きしめた。驚いた事にフロルはびくっと震え上がった。おびえているように。
「フロル?」自分の方を向かせる。
「ほっておいてっていったろ?」口調が鋭くなった。
「…もうオレの部屋に来ないで」
――え?
「おまえ、オレを愛せないんだろ?オレがだんだん男性化してるから」
「フロル!」
「…素直に認めろよ!」
「フロル、そうじゃない。僕は君が…」
「そうじゃないよ!」
――どう言ったらわかってもらえるんだろう。タダはオレを愛そうとして男性になっても愛するって言ってる。でもそれはオレが言ってほしい言葉じゃないんだ。
「タダ、いい加減認めろよ。おまえはヘテロなんだろ。オレが男性になったら愛せないんだろ?」
――そしてこの言葉がおまえを傷つけているのはわかるんだけど。どうしておまえを傷つける言葉ばかり出てくるんだろう。
「なんでいつも建前ばかり言うんだよ。オレが本音を代わりに言ってやる。自分は男を愛せない。だから男になったら他の女の子を探すって!」
「フロル、馬鹿なことを言うな!」
タダはフロルの本心を知ろうと指でフロルの額に触れようとした。が、フロルはその指先を手ではねのけた。
「勝手に心、読むなよ。自分だけテレパシーが使えると思って!」
――本当は知ってほしいのに。本当は言葉にできない苦悩を直接読み取ってほしいのに。
自分で自分がわからない。どうしてタダに心と反対の言葉ばかり出てくるのだろう。
「出てけよ!」
「……わかった」
ついにタダはゆっくりと背中を向けると部屋を出て行った。
フロルは泣いてベッドに突っ伏した。
——なんでオレ、タダの指を跳ねのけんだろう。なんでテレパシーなんか嫌だって言ったんだろう。
フロルはタダがテレパシーで思考を読み取るのをまるで嫌と思っていなかった。この事は以前ガンガに話して驚かれたのだが。むしろ何も言わなくてもニュアンスまで含めてわかってもらえる事を便利だと思っていた。
——だってタダには何も隠す事はないもの。
いつも無邪気にそう思っていた。
だから今、この心の苦しさを直接わかって欲しかった。でも同時に始めて素直に心をタダに見せられなくなっていた。
ちょっと前まで無邪気にしていられたのに。
何が違ってきてしまったんだろう。
第16章
タダは部屋を出るとどこへ行くあてもなく大学構内を歩いていた。
「タダ!」不意に声をかけられた。振り向くとアリスンが手を振っていた。
「昨日、新しい茶葉が届いたの!また飲みに来ない?」
「……いいね」タダは弱々しく微笑んだ。なんでも心を落ち着ける物が欲しかった。まさかハーブティーを飲むだけで解決できるとは到底思わなかったが。
「さ、どうぞ!」寮の部屋でアリスンは手早くお茶を入れた。独特なよい香りがあたりにただよった。温かいお茶をすすると身体中がリラックスするのが感じられた。
――タダ、何か心に抱えてるわね。
タダはお茶を飲み干すとふうっと息を吐き、椅子の背にもたれて天井を向いて目を閉じていた。
――何を悩んでいるの?
何かしてあげたかった。
「タダ?」
「ああ、ありがとう。おいしかったよ」
アリスンは座っているタダに後ろから腕を回して抱きつき、そっとささやいた。
「……来て」
「え?」
いきなり唇を覆われた。そしてアリスンは半ば引っ張るようにしてタダを寝室に連れて行った。男女平等が当たり前のシベリースでは女性からベッドに誘うことはまるで普通の事だった。しかし……。
——アリスンは僕を慰めようとしているんだ。僕が落ち込んでいるのを感じて。
アリスンの優しい感情が触れている指を通して伝わって来た。
しかし彼女は積極的だった。手早く自分の服を脱ぎ、次はタダの服を脱がせていった。タダはアリスンの好意を思って拒否する事もできず、なすがままになっていた。タダの服を脱がせてしまうとアリスンは裸の身体をぴったりと寄せてきた。2年以上も未分化のフロルとばかりいたタダにとって、アリスンの成熟した肉体はまぶしく感じられた。
タダは巧妙に心の奥底にひそかにシールドを張り表層思考だけを露わにした。
アリスンのやり方はは攻撃的とも言えるほどだった。タダの身体のあちこちを刺激を与えようと攻めてくる。こうもされるとついにタダも本能に火がついた。
なすがままになっていると油断させ、一瞬の隙を狙っていきなり押し倒し形勢を逆転させた。小さく悲鳴をあげるアリスンを組みしだき、そのままゆっくりと快楽を与えていく。アリスンも隙あらばタダを刺激するのをやめようとしなかった。
肌が触れ合っているため、自然に発生するテレパシーがアリスンの感じている快楽の大きな波を伝えていた。タダはアリスンに快楽を与え続けながらも慎重にタイミングを測っていた。
——後もう少し。
そして2人のタイミングはピタリと一致し、次の瞬間2人は同時にエクスタシーの波に飲まれていた。テレパシーがお互いの感覚を伝えあい、快楽を倍加させた。
「タダ、素敵だったわ」そっと指で触れて自分の身体の残り火を伝えながらアリスンは言った。
「ああ、君も素敵だ。かわいかったよ」
しかしずっと抱えている心労のせいか、タダは事を終えて不意に眠気を覚えた。
「タダ、あなた、疲れてるわ。眠りなさいよ」
アリスンにうながされてタダは素直にうなずいて目を閉じた。
アリスンはそっとベッドを出ると手早く服をまとい、振り返ってタダを見た。タダはアリスンのベッドでそのまま寝入っていた。
——タダ、あなた、最後までこっそりシールド張ってたでしょ。一体何をそんなに悩んでいるの?
しかしタダが寝入るにつれてシールドが緩んできているのがわかった。
——いけないわよね。でも心配なの。タダ、何をそんなにシールドしたかったの?
アリスンは好奇心が抑えられなくなり、意識の触手をそっとタダのシールドの下に滑り込ませた。
——フロル…僕は君を裏切って…。
フロル?アリスンはハッとして意識の触手を引っ込めた。
そして紙に「ハーブティーは好きなだけ飲んでね。私は授業に行きます」と書き置きをしてテーブルの上においた。そしてバッグを取ると部屋を出て行った。
第17章
「おーい、君、アリスンだったね」
サロンでいきなり呼びかけられてアリスンは振り向いた。ガンガが手を振った。横にヴィリーがいる。
「こっちにおいでよ。一緒にコーヒーでも飲まないか?」
コーヒーを手に座るとガンガが話しかけてきた。
「君、タダと同郷だったね。1つ聞きたいんだけど」
「はい?」
——やばい。
タダの名前を聞くだけで先ほどのエクスタシーが思い出され身体の奥の残り火が燃え上がるのが感じられ、頬がカッと赤らんだ。
——こんなに早く部屋を出てきちゃいけなかった。
そんなアリスンをヴィリーはじっと見つめていた。
「タダの超能力って強いの?」ガンガは何も気づかずに聞いた。
「はい。私が今までに会ったシベリースの人の中で1番強いです。おそらく直系の一人です」
「直系?」
「はい。…シベリースは実は入植の時に超能力者の集団がいたんです」
「へえ!」
「当時…テラ本星の地球で23世紀の事ですが、ある事件が起きました。マハマット事件と呼ばれた人質監禁事件です。この事件は事件そのものや犯人よりも、監禁されたマハマットがテレパスで、殺されると思いテレパシーを使って犯人からドアのパスワードを入手して逃げた事が話題になりました。
実は以前から超能力者達は少数いたんですが、それまでは存在を全く知られていませんでした。ですがこの事件をきっかけに超能力者が存在する事が世間に知られてしまったんです」
「なるほど」
「超能力者のほとんどは善良な市民でしたが、これを機に恐れられ、生きづらく感じる者が増えて来ました。大きな迫害は記録には残っていませんが、記録に残ってないだけで実際はあったのかもしれません」
「ふうん」
「当時、超能力者達はネットを使ってクローズドなコミュニティを作り助け合っていました。それでも事件を機に迫害が起こるのではと心配する人も多くいました。
で、その時たまたま入植が始まっていたのが惑星シベリースでした。超能力者達は連絡を取り合って皆でシベリースに入植する事にしたんです」
「なるほど」
「公の記録は残っていませんが、一説によると当時入植した人の10%から20%が超能力者だったと言われています」
「すごい割合だな」
「ほとんどがテレパスで、接触テレパスも多かったそうです。そして時と共に超能力者の血は薄まり広がり、今では人口の95%以上がテレパシーの弱い発現である直感力を持っています。
ですが中には超能力者同士で結婚した人達もいました。彼らが直系と呼ばれている人達です」
「なるほどね」
ガンガとヴィリーは興味深そうにアリスンの話を聞いていた。
「直系の人間だとどこが違うの?」
「普通は何も変わりありません」と言うのが答えだった。
「普通の生活では、直感のみ。それすらそんなに頻繁には使いません。まあ、直系の人はいざという時にさらに能力を発揮できる、それだけです」
「ふーん」
「あのう、私も聞きたい事があるんですが」
「うん、何?」
「あの、フロルとタダの関係って…?」
「え?知らなかったの?あいつら婚約者同士だよ」
「ええっ?」
アリスンの驚き様にガンガとヴィリーの方がびっくりした。
「フロルって男の子じゃないんですか?」
「え?聞いてないの?フロルは未分化の両性種なんだ」ガンガは2人の出会いから丁寧に説明した。
「で、フロルが変化したら結婚するつもりな訳。でもタダとフロル、この前君の部屋にハーブティーを飲みに行ったんじゃなかったのかい?聞かなかったの?」
「フロルはすぐに出て行っちゃったので」
その時チャイムが鳴った。
「あ、そろそろ私、次の授業に行かないと」
「ああ、引き留めてしまったね」
アリスンは去って行った。
「ねえ、ガンガ」ヴィリーが言った。
「なんだい?」
「これは私の女の勘で、証拠がある訳じゃないんだけど」
「うん?」
「あの2人できてるわ」
「2人?」
「アリスンとタダ」
「え?お、おい」
「もちろん分かるわ。だから心配なの」
——しかし、そうならば全てつながる。アリスンがフロルを婚約者と知らなかった訳。フロルが両性種だと言う事も話してない訳。フロルが婚約者と聞いて驚いた訳。
ガンガは立ち上がった。
「ガンガ、どこいくの?」
「タダのところ。話によっちゃヤツの顔を数発殴ってやる」
「よしなさいよ。私達、タダがどんな人か知ってるでしょ?きっと何かあるのよ」
言われてガンガはまたソファに座ったが「わからん」と呟いた。ガンガはフロルのレイプの事は一切ヴィリーには話してなかった。
第18章
タダはどこか暗い大きな部屋の中にいた。そこがどこなのか、どうしてこんなところに来たのかさっぱりわからなかった。
「タダ!」遠くでフロルの呼ぶ声がする。
「フロル!どこだ?」
ところが「フロル、こっちへおいで」という声がした。
――この声はどこかで聞いた。そうだリドリーだ。新入生でゲイのリドリー。自己紹介で自分の星の話をしたっけ。
リドリーの声は続いた。
「フロル、タダは男性になった君を愛せない。彼は男性とはセックスできない。純粋なヘテロセクシャルだ。フロル、君はタダを幸せにはできないんだ」
――リドリー、何を言うんだ?フロルは僕のただ1人の人だ……。
「タダ!」フロルの声がする。身体が重い。思うように動かない。重い身体を引きずるようにしてフロルの声のする方へ歩いて行く。
「タダ!……どうして愛してくれないの?どうして男性のオレを愛せないの?」
――フロル、そうじゃない。僕は君を愛してる。君がどんなになっても!
でも声が出ない。
やっとフロルが見えた。でもこっちに来ようとしない。悲しそうな目をして背中を向けて行ってしまった。フロルの行く先にリドリーがいた。
「フロル、おいで。僕なら男性の君を愛せるよ」
――やめろ、やめろ、やめろ!
いつの間にかフロルが裸になっている。リドリーもだ。
「ほら、フロル、君を愛してやるよ。男が男を愛する僕らのやり方でね」
フロルがちらりとこちらを見る。泣いている。よく泣き顔をしたそんなフロルを抱きしめてやったっけ。でも……。
「ほら見てごらん。フロルはもう君を見ない。君の名前を呼ばない。フロルは君を愛せない。君がフロルを愛せないのだから」
――違う、そうじゃない!
「タダ、あきらめろ。君には超えられない壁がある。僕が妻を愛せなかったように、君は男性になったフロルは愛せない。純粋なヘテロセクシャルのタダ、これが君の壁だよ。性的指向は変えられないんだ」
フロルの方に懸命に手を伸ばす。気がつくと自分もいつの間にか服を着ていなかった。
「フロル、おいで」フロルがリドリーに手を伸ばす。リドリーはフロルを抱きしめ床に寝かせた。そしてフロルに覆い被さり……。
フロルの顔がとろんと恍惚とした表情になる。
――フロル、やめろ、どうして僕にも見せたことのない表情をリドリーに見せるんだ!
やがてフロルが恍惚とした表情のまま身をよじって「ああ」と声をあげた。
――やめろ、やめろ!フロル!
涙が出る。身体が動かない。声が出ない。フロル!
「フロル!」叫んで自分の声で目が覚めた。
――夢か!
しかし何という夢だったんだろう。じっとりと全身に寝汗をかいている。もう明け方だった。昨晩の事を思い出してみる。アリスンの部屋で眠ってしまい、夕方に起きて帰ってきたんだった。アリスンは授業に行ってずっと留守にしていた。
だいたい僕は何をしているんだ?授業はずっと出ずじまい。いや、授業どころではない。自分の意識をきちんと保っているだけで精一杯だ。
タダはふうっとため息をつくとベッドから起き上がり、キッチンでコップに水を汲んで飲んだ。
――超えられない壁か。でもそれだけでフロルを諦めたりしたくない。でもどうすればいいのか?
レイプ事件の一切をフロルに打ち明けた時の事が思い出される。あの時は2人であの事件を乗り越えて、2人一緒ならどんな困難もぶつかっていけると思ったのに。
——今は2人一緒にいる事すらできない…。
もっと早くアップする予定でしたが、遅くなってしまいました。
挿絵はこれ以降はまだ作っていませんので、これからはストーリーのみのアップになります。(それに今後は心理描写が多く、挿絵にしにくい箇所が多いです)
ただ時間があれば、挿絵もぼちぼち作って追加していきます。
次回は11月25日(土)夜10:00アップの予定です。