※この作品はR-18です。

系   作:七星七夕

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当作品は二次創作であり、原作、実際の物事、人物、事象には一切の関連がありません、ご注意ください
また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!

また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします










「砂糖菓子のように甘く」

「砂糖菓子のように甘く」

 

 

 珍しく一般の隊士から呼び出しを受けた

 

 何かと思って行ってみると、道場に数名の女性隊士

 あぁ、これは…と考えるのは安易で、案の定なんとももベタなセリフを言われた

 

「貴方、何なんですか」

 

 ほらやっぱり、動機なんて丸わかりだ

 

「吉良副隊長の気を引いて彼女気取りだなんて、この子はずっと何年も前から好きだったんですよ!」

 

 だからなんだ、と言う話だ

 あと私は彼女気取りじゃなくて彼女。言ってて照れるけど

 

 気の強そうな女性の後ろからなんとも気の弱そうな女性が泣きながら出てきた。なんというか、取り巻きの多いことで

 

「あなた普段はにこりともしないくせに吉良副隊長の前だけあからさますぎなのよ! 恥ずかしいと思わないの!?」

「特には」

 

 取り巻きの別の子が声を上げた。上官にタメ口は無礼なんだけどいいのかな、私は気にしないけど

 気持ちはわからなくもない。本当に何年も好きだったとして急に横から出てきた女が掻っ攫って行ったらそれは嫌だろうと思う、そんなのは当たり前だ

 

 かと言って譲る気なんてないけど

 ついでに言えばあからさまにしてるのが正しい

 

「なら彼女は何をしたんですか?」

 

 あ、まずい。思ったことが口から出てしまった

 いつもより表情筋が死んでる自信があるのに

 すると向こうは少したじ、としてから言い返す

 

「か、彼女は定期的に贈り物をして断られたりしてるのになんで貴方みたいな…っ」

「知らないです。そも一人で立ち向かえない人に用は無いですね」

 

 それだけ言い残して去ろうとする

 くだらない時間だ、と思ってしまう

 すると腕を掴まれてまた主張を飛ばされる

 

「あんたみたいなぽっと出にあの子の何がわかるのよ!」

「知りませんよ」

 

 とりあえず振り返る

 これは少し、感情的になってしまうな

 

「私は、彼の方を"見て"いただけです。彼の方の視線を求めず、彼の方を護る群れの一匹として、彼の方に仕え、彼の方をお護りし、彼の方のために、彼の方のそばで、彼の方の幸せだけを願いここまできました。それと彼の方が視線をくれたことは別のことです。誉であるが故に予防線を張るのは当たり前でしょう」

 

 あと私は正真正銘彼女です、と付け加えた。この事実、嬉し過ぎて死にそう

 

 そうだ、私の思いは変わらない

 彼の方のためにあることだけが私の存在意義。それ以外なんて誉でこそあれ、なくても仕方のないこと

 それでも手に入れた以上誰が渡すものか

 

 相手は引いたような視線をこちらに寄越す。楽しそうなことだ

 

「あ、あんた…それ吉良副隊長は知って——」

「知ってますよ。私は彼の方の私です」

 

 そもこの力さえ彼の方の牙だ。まだリボンで霊圧を抑えていると言ってももう刺青はない。霊圧だけならしっかり今の席に見合ってるはず。

 

 そう。願って、願って、願った

 彼の方のためで在れるようにと。彼の方に役に立つようにと

 それだけは、他の誰にだって負けない

 

「き、気持ち悪い…」

 

 泣いてた彼女がぽつりと呟いた。さっきまで泣いてたくせに強かだなこの子

 

「でしょうね」

 

 しかし理解されようとも思わない。私は私だ

 ここまで何度だって似たようなことは言われたし、今更何とも思わないよ

 

「…っ、でも用事があるのはあたし達だけじゃないわ」

「でしょうね」

 

 二回も同じ反応をしてしまった

 背後から…振り向いてるから正面からか、四人程度かな? 男性の隊士が近づいてきている。本当、何でベタな

 目立つことは避けようと思って、と言うか多少物音がしてもバレないと思ってここに呼び出したんだろうけど、せめて自分の立場は考えた方が良かったんじゃないかな

 

「緋月七席、その実力教えてくださいよ」

 

 頭を正面に戻して掴まれた腕を振り解くと大柄な男性隊士が言う

 まぁ、こっちもわからなくもない。席に関してもぽっと出だし

 さて…どのくらいでやろうかな

 

「嫌ですよ。吉良副隊長に怒られたくないので」

 

 よく見ると四人全員が帯刀している。あーあー、浅打まで持ち出しちゃって…バレたら厳罰ものだよそれ

 

「必要以外での斬魄刀の持ち出しは禁止されています。厳罰を受けたいようですね」

「いいんだよ。これからあんたには黙ってもらうからな…っ!」

 

 鞘から抜き出された斬魄刀が流れに従って下から斬り上げてくる。私は少し軸をずらしてそれを避けると、次に横から降りかかった刃先を一歩下がって避けた

 三本目の刀が身に迫ってくる。次は突きの構えだ。一直線に速さを出して迫ってくるのをくるりと回転をつけた動きで躱していく

 

「縛道の一、塞!」

「!」

 

 四本目が向かってくると構えていた手前、詠唱に気づかず縛道を丸腰で受けてしまった。手足が拘束され膝が床に落ちる

 驚いた。こんな下級の縛道を破けない自分に

 

「思ったより簡単にかかったな…」

「へっ、これでボコせば俺たちにも箔がつく」

「…十一番隊ですか貴方達は」

「隊士が全員隊花に沿ってるとは思って欲しくないですな」

 

 偉そうにものを言う

 隙をついて逃げ出したいけど、多勢に無勢だし拘束がつよい。下級の縛道を使う代わりに精度を上げてるのか

 

「…っ」

「逃げられないだろ。お察しの通り精度を上げてる、席官と言ってもすぐには抜け出せまい」

 

 あぁ…虫唾が走る

 こんな阿呆の目の前で膝をついている自分が情けなくて虫唾が走る

 こんなところ彼の方には見せられないな。修行が足りてない

 相手を睨んでいると顎を掴まれる。そのまま相手が勝ち誇った顔で私に言った

 

「おら、吉良副隊長に助けを求めてみろよ。助けて〜ってさ」

 

 後ろからも声がする。女性の声だからあの集団か

 

「生意気なことするからこうなるのよ! ひんむいて写真残してやるわ!」

 

 私はその言葉にため息をついた

 暇なんだな、こいつら

 そのため息に反応したのか、顎を掴んでいる隊士が私を睨みつける

 

「何か言えよ」

 

 私は近づけてきたその顔に唾を吐きつけた

 

「阿呆に構ってる暇ないのよ」

 

 その言葉に思い切り殴られる。霊圧のおかげで怪我はしないけど衝撃は残るのか少しかゆい

 

「舐めたこと言ってんなよ…!」

 

 今度は刀の鞘で殴られる。道具なら傷つけられると思っているのだろうか

 

「その程度で怪我できるわけない。諦めてください」

 

 席官である以上無闇矢鱈と怪我をするわけにもいかない。彼の方が見ているんだ

 

「破道の四、白雷!」

 

 叫び共に一筋の雷が顔の横を抜けた。その通り道になった頬に少し切り傷がつく

 

「へ、へへ…舐めないでくださいよ。鬼道は得意なんです」

 

 右側にいるやつれた印象の男が言う。確かに、低級の鬼道とは言えこの威力を詠唱破棄で撃てるなら中々だろう

 だからなんだと言う話だけど

 

「あんまり調子づいてると、その綺麗な肌…っ、焼けちゃうかも…へへ…っ」

 

 気持ち悪いなこいつ…

 でもあと少しで縛道も解けそう

 腕にぐっと力を入れて拘束された両腕を離そうとする。もう少しで腕は剥がれそうだ

 

「!」

 

 しかしその瞬間を見られていたのか即座に残った男達が私の腕をさらに拘束する。内心で舌打ちを叩いて霊圧を上げた

 じりじりと相手に霊子の圧をかけていく。それを限界まで溜め込んで吹き飛ばしてやる

 すると今度は後ろから髪を掴まれた。高い一本結びの毛先を掴まれ、無理やり後ろに頭が引っ張られる

 

「もたもたしてないで早くこいつの服剥いてくれる? 無惨に輪姦(まわ)して別れさせるんだから」

 

 この声はあの泣いてた子か、本当に強かだな。あの涙はなんだったのか

 そんなことを考えてる隙に男達の手がにじり寄ってくる。あ、これはちょっとまずいな。後で殺してしまいそうだ

 

「無意味ですからやめ——」

「うるさいわね! この綺麗なリボンもズタズタにしてあげるわよ!」

 

 一人の男の手が袂に触れるのと、私のリボンが外れるのは同時だった

 あ、やばい。と思ったらもうそれは始まっていて、じりじりと煮詰めていた霊圧が、

 

 凄まじい音を立てて爆発した

 

「…っ」

 

 爆風で目が乾くのを顔の向きを変えて防ぐ。そんなことしなくても腕が動くようになってたからそれでよかったんだけど、それは術者がおそらく気絶したからなのか私の霊圧で弾け飛んだのか

 

 足も動くのでとりあえず袴の埃を払って立ち上がった。付近にいた隊士はおろか、飾ってある木刀までしっちゃかめっちゃかになってしまってるしガラスは割れてるしでため息がでる

 

 そもこんな爆発を起こそうと思って霊圧を溜めてたわけでもない。ちょっと相手を弾いて不意をつければ良かったのに、霊圧が一気に上がって暴発した。これは騒ぎになるぞ…

 

 人が来る前に爆発の勢いで気絶した隊士を担いで並べ直して、せめて証拠隠滅として木刀を片付けておかないと…吉良副隊長に絶対怒られる…

 

 足元に気をつけつつ震えながら隊士の一人に手を伸ばすと、物音で気付いたのか飛び込んできた戸隠三席に見つかった。私はお手上げ降参の意思として両手を上げ、その場でしっかり事情聴取が始まる

 

 長いおせっき…事情聴取を終えて戸隠三席に彼の方の執務室に連れられた。私を中に入れると戸隠三席はどこかへ消えてしまう。やめてひとりにしないで

 

 案の定、ちらりとみた貴方は相当怒っている

 そらそうだ…席官が一般隊士に絡まれて圧倒できなかった挙句あの爆発音…しばらく噂されそう

 

「…なんで呼ばれたかはわかってるね?」

「申し訳ありませんでした…!」

 

 もうその場で土下座。土下座である

 ただでさえ喧嘩はしないようにって言われてたのに、あんな爆発音まで…戸隠三席には何があったかぼかしちゃったところもあるし、後ろめたさもすごい

 

「今回は君に非があったわけでもないみたいだし、あの場にいた他の隊士からも後で事情を聞かせてもらうとしてもだ。あの爆発音はどう言うことだい?」

「えと…ちょっと不意をつこうとしたらリボンをはずされてしまって…暴発しました」

 

 その言葉に貴方は大きくため息をついた

 

「あの霊圧はそのせいか…」

「申し訳ありません…」

 

 右から左まで謝りっぱなしだ。道場の修繕費を給料から差っ引かれると思うと今から頭が痛い

 

「他には何かされてないかい?」

「あー…えっと…」

 

 言いづらい。嘘はつけないから言わないわけにいかないんだけど言いづらい

 でも言うしかない…よね…

 

「えっと…ちょっといじめられました…」

「いじめ?」

「自称貴方のファンの方と私が席官にいるのが気に食わない人が手を組んで私を追い込もうとしたというか」

 

 乾いた笑いで誤魔化す。何もなかったからそれでよし、とはならないよね…

 

「まさか、何か酷いことされてないだろうね?」

「ちょっと、剥かれかけました…?」

「!?」

 

 あああ、何事も心配かけたくないのにできないぃ…

 でも嘘はつきたくないぃ…

 狭間で揺れる感情が反復横跳びしている

 

「どう言うことが説明するんだ!」

 

 貴方が執務用の椅子から立ち上がって私を見る

 やっぱそうだよね! 怒るよね!

 私が逆の立場だったらそれを聞いただけで相手を殺しに行く自信がある

 

 あっでも少しだけ、ほんのちょっとだけはだけた貴方は見たい

 

「なんか、私のことをズタボロにするのが目的だったみたいで…でも証拠はないですし、向こうもシラを切るでしょうから追求は無理かと…」

「…」

 

 貴方が果てしなく眉間に皺を寄せている。だだでさえ普段から気難しい顔をしてるのに

 

「リボンも切り裂くために外されたんです。タイミング悪くて色々吹き飛びましたけど…」

「まったく君ってやつは…!」

 

 珍しく…私の前で貴方が頭を抱えたままあたふたとしている

 これは少し前にあった知らない人と喧嘩したときを思い出すな…あの時はまだ状況が今と違ったけど

 

 貴方が机から動いて私の肩を掴む。すこし驚いて私が挙動不審になると酷く心配した貴方がそこには在った

 

「本当に触られてないかい? 頬の怪我は? 他に痛むところは?」

「あ、えと…触れられてないです。頬の怪我は白雷を掠めて…他に痛いところはないです」

 

 慌てて答える。すると頬に温かいもの…そう貴方の手が、私に触れそうで触れないでいる

 これは…四番隊が使う回道?

 

「女の子が顔に傷を作るものじゃない…肝を冷やした」

「ご、ごめんなさい…」

 

 貴方の手が頬から離れたのでそこに触れると傷は跡形もない。本当に治してしまったんだ、すごいな

 気まずくて貴方と視線を合わせられないでいるとそっと引き寄せられてその腕に抱かれる。これでは本当にいつかのようだと私は慌てた

 

「き、吉良副隊長…公私混同は」

「今は黙るんだ。少しだけでいい」

「…はい」

 

 そう言われてこの腕に抱かれ、いいえと言える女はどのくらいいるのだろう。少なくとも私には無理だ

 恐る恐る背中に腕を伸ばす。貴方が拒否をしなかったので、そっと力を込めた

 

「ごめんなさい、イヅルさん」

「もうこんなことはしないと約束してほしい」

「はい、約束します」

 

 自然と体が離れると、貴方はまた小さくため息をつく。私の頬を撫でてまた口を開いた

 

「今日は僕の家に来るように」

「いいんですか?」

 

 今日は泊まりの日でもないのに

 

「いいから」

「わかりました…」

 

 さっきの公私混同といい、この急な発言といい、どうしてしまったのかと思うくらい貴方の態度が違う

 

 まさか別れ話…!?

 やっぱりこんなじゃじゃ馬は嫌だったよね…本当にそうだったらどうしよう。死ぬしか残されてない

 せっかく貴方が私を見てくれるのに、もう見られないなんて耐えられない。貴方がそばに置いて利用してくれるなら良いけど、そんな都合のいいことはないと思うし…

 

 思考がぐるぐる回る

 とりあえず執務室を後にして、悲しみを抱えながら仕事に戻った

 

 

********

 

 

 とりあえず、お屋敷に着いたので、貰った鍵を使って中に入り待機する

 

 ふと、手首を見るとあざができてるのを発見した。あれ、これもしかして他のところにもあるのかな…

 足首を確認してもやっぱりあざがある。縛道のダメージが思ったより出てしまったかな

 

 まずい…これはまずい。また心配をかけてしまう、また怒られてしまう…そも別れ話かもしれないって震えてるのに

 どうしよう…真面目に泣けてきた

 

「うぅ…」

 

 居間の電気をつけたはいいものの、その場にへたり込んで止まらない涙と格闘することになりさらに心がしわしわになる

 

 どうしよう…本当にどうしよう

 雛森副隊長みたいにいい子じゃいもの私。暴れ馬でいつも心配させて、全然わがままだし、いい子じゃないの

 嫌われちゃう、嫌われちゃったかも

 どうしよう、どうしよう

 

 彼の方がそばにいないなんて、私を見てくれないなんて…こわい、こわいよ

 

「う…ぁ…うぅ…」

 

 でも彼の方が帰ってくる前に涙を止めなくちゃ。また余計に心配をかけてしまうかも

 少しでも嫌われないように、普通でいなくちゃ

 

 ちり紙で鼻をかんでから水を飲んで落ち着く。一つため息をついて激しく震える心臓を服の上から押さえつけた

 怖い、怖いに決まってる

 

 私にとっては彼の方が全部だから

 

「…っ」

 

 また泣きそうなのを必死で抑えていると、玄関の方で引き戸の開く音がした。慌てて迎えに行って平静を装う

 

「お、おかえりなさいイヅルさん」

「ただいま」

 

 結構警戒したけど貴方の様子は普段と変わらない

 いつくるんだろう…名前呼んでも嫌がられなかったから大丈夫なのかな…

 そも家に嫌な人間入れないか…大丈夫だよね、大丈夫…

 

「どうかしたのかい?」

「あ、い、いえ…なんでも」

 

 この気持ちをどう言ったらいいかわからなくて誤魔化してしまった。これは嘘なんだろうか、嘘かもしれない

 

「えと…やっぱり奥で言います」

 

 嘘だと思うと怖かった。嘘だけはつきたくないから

 

「? わかった」

 

 私はお茶を淹れてくると言って台所に逃げる。心臓が震えて仕方ない、今度は怖くて爆発しそう

 それでも深呼吸をして落ち着ける。お茶を持って行くと貴方の前に湯呑みを持って手を置いた瞬間あざがばれる気がして怖かった

 すぐに視線を逸らすと、貴方の声が聞こえる

 

「手を出して」

「えっ…」

「ほら」

 

 おず、と震える手を差し出す。あざのついた手首が丸出しになって怖い。いつの間にバレてたんだろう

 

「…っ」

 

 そこに貴方の手がかざされた。回道の温かさが肌に行き渡る

 

「…」

 

 淡い緑色の光があざに当たって、少しずつそれが消えて行くのを見て、何か疑っていたのが少しバカらしくなった。でもまだ少し不安

 

「…目、どうしたんだい」

「あ、えっと…」

「言いづらいなら、いいんだ」

 

 泣き腫らした跡が残ってしまっていたのか

 ごめんなさい、不安で。それでも話はしないと

 一つ、息を吸った

 

「…少し、不安になって」

「不安?」

「私、いい子じゃないですから。貴方の思う穏やかさを届けてあげられる子じゃない。じゃじゃ馬で、わがままで、迷惑ばかりかけて…こんな私、さよならされちゃうんじゃないかって」

 

 話しながら泣けてきた

 嫌だ嫌だ、ひとりにしないで

 

 これ以上ないくらい貴方が好きなのに、貴方に応えてあげられる私じゃないの。ごめんなさい

 不安ばっかりだ。何度通じ合っても傲慢に貴方を信じられない。貴方の理想でいたいのに、貴方の私なのに

 

「そんなの今更じゃないか」

「う…」

 

 それだけ迷惑をかけてきたということで、辛くないわけがない

 

「気にしなくていい。それが君なんだから」

 

 それなのに貴方の言葉は、月の光のように柔らかい

 包み込むようで、照らすよう

 

 私が暗い森にいても貴方だけははっきりわかる。でも時折隠れてしまって見えないところも貴方を彷彿とさせて、そんな貴方を追いかけてしまう

 

「ありがとう、ございます…」

 

 手のあざが消えたのか次は足を出すように言われる。どうして貴方は見なくてもわかってしまうんだろう。そう思いながらとりあえず差し出すと、案の定足首あざの治療が始まった

 

「それよりすまない、治すのが遅くなって…気づいたのが少し後だったから」

「いえ…ご迷惑をかけてごめんなさい」

「このくらい構わない、君が無事だったなら…助けに行けなくてすまなかった」

「…!」

 

 嬉しくなって、しまった。貴方が、そんなことを言ってくれるなんて

 本当に? 本当に別れ話じゃない?

 こわいよ、不安だよ。貴方がいいもの

 また涙が溢れた

 

 貴方がぎょっとした顔で見るから、落ち着けて息を吸う

 

「…今日、別れ話されたらどうしようって思ってたから。不安と安堵が重なってしまって」

「どうして急に…?」

「あ、貴方が…泊まりでもないのに私を呼び出して、私は暴れた後で…こんなじゃじゃ馬って思ってしまって」

 

 震える私を目にして貴方は、ふっ…と阿呆を見る目で笑った。私はその反応に固まる

 

「なっ…」

 

 足の治療が終わったのか淡い光が消える

 すると貴方は私の頭を優しく撫でた

 

「別れようって時に抱きしめたり家に入れるわけないだろ」

「あ…」

 

 あぁ、あぁ…よかった。よかった

 大丈夫だった。ほんとうによかった

 

「…っ、はい」

 

 やっと胸を撫で下ろせる。心臓の締め付けが少しずつほぐれて行くのを感じて安堵した

 

「まったく君は…すぐに無茶をする」

「あう…ごめんなさい」

「首輪に鎖でもつけないといけないかな」

 

 それは…嬉しいけど支障がきたされる。貴方をお護りできないと言う支障が

 

「それはダメです…貴方を護れなくなってしまう」

「君の言いたいことはわかるけど…それで何度怪我をしてるかわかっているかい?」

「それは死神である以上仕方ありません」

「…君、任務で怪我したことないだろ」

 

 あら、バレてる

 確かに任務外では怪我してるけど、その辺の虚の討伐で怪我をしたことはない

 でも破面と戦ったのはある意味任務では?

 

「任務の方が余程安全なんてどうかしてるとしか思えない…」

「貴方が大怪我しそうなら喜んで飛び込みますよ」

「だからそれをやめろって言ってるんだ」

「えぇ…」

 

 私の存在意義…

 

「君にはもう少し僕の恋人だと言う意識を持ってもらわないと困る」

「!」

 

 それは…っ、ダメだ顔が熱いな

 横に貴方がいるし尚更

 

「離れてると心配なのは君だけじゃない」

「あ、ありがとうございます…」

 

 いつまで経っても嬉しい、そうやって意識してくれることが。貴方が私を見ていると思えるから

 

「そうやって大人しくしてれば愛らしいのに」

「!? べ、別に可愛くないです!」

 

 そもこんなクマの濃い女のどこが可愛いのか。一度ついたら寝ても寝ても治らないから、いくら勲章といっても最近は少し困ってるのに

 

「目のクマ取れないし、松本副隊長みたいに胸があるわけでも伊勢副隊長みたいに綺麗なスレンダーでもないです。半端を絵に描いたような女なんですよ。可愛いとかそう言うところからは…遠いと思います」

 

 いじけていると貴方が後ろから抱きしめるから小さい悲鳴がでた。すると貴方からも不機嫌な声が聞こえる

 

「それを決めるのは僕だ」

「…っ、そうかも、しれないですけど…」

 

 可愛い、なんて慣れてない。そんな夢物語みたいなこと考えてもない

 恥ずかしい。単純に恥ずかしいんだ。可愛いなんて貴方にしか言われたことないから

 

 私は貴方の犬だ、貴方の牙だ、貴方の盾だ

 ただお側に置いてもらえるだけでも嬉しいのに、そんな可愛いだなんて

 

「〜〜〜〜っ…だってだめに、なってしまいます…」

「だめ?」

「私は貴方のためのものです。それなのに褒められるようなことになったら嬉しくて…人としてだめになってしまいます」

 

 だめだやっぱり恥ずかしい。さっきまで不安で泣いてたのになんだこれは、1日が濃い日がいくつかある。心臓と体力が持たないこんなの

 

「…ダメになっていいと思うけど」

 

 なんて言いながら貴方が私の頭に顎を乗せる

 

「い、いけません! 私は貴方の部下としてですね…」

「それ以前に僕の恋人じゃないか」

「〜〜〜〜っ!」

 

 私は後ろを振り向けない。貴方がいいと言ってるのに、そうですねって言えないでいる。それだけこそばゆくて恥ずかしくて、私はそんなんじゃないって思ってしまう

 

「な、慣れてないんです! そう言うの…恥ずかしい…」

「ならたくさん言わないとね」

「なんでですかぁ!?」

 

 酷い! 意地悪だ! 私は嫌だって言ってるのに!

 そんなことを言われ続けたら恥ずかしくて死んでしまう

 

「そうやってあたふたする様は見ていて悪くないよ」

「〜〜〜っ、意地悪!」

 

 きっと貴方は後ろで勝ち誇った顔をしているに違いない。意地の悪い人!

 まぁでもたまになら、悪くないかもしれない、多分

 …慣れないけど

 

「それでもいい。ダメになっていいから、もう少し力を抜くといいよ」

「…できていないでしょうか」

 

 割とこの状態が自然体のつもりだ

 そんなに肩肘張ってるだろうか…?

 

「硬いと思う。僕と一定の距離を保とうとすると言うか…そうだな、まだ慣れきってない獣のような」

「…不服です。貴方には全てお見せしていますので」

 

 貴方にはこんなに腹を見せてるというのに、まだ慣れてないと?

 

「ほらそう言うところ。敬語を急にはずせとまでは言わないけど、もう少し肩の力を抜いていいと思う」

「…私は貴方が思うよりだらしない人間なのです。貴方がいるから己を律せると言うものですので、そこは難しいです」

「そう言う下っ端根性みたいなのどうにかならないのかい…」

 

 難しいなぁ…。私って本来意外と趣味もない上部屋も適当だったし帰って寝るだけの生活してたから、貴方がいないと無価値と言うか…

 貴方に依存してるなぁ…

 休みの日何してたっけ?

 

「…だって貴方に会うまで私には本当に何もなくて、これといった趣味もない人間だったので…」

「僕と出会ってからは?」

「貴方を好きになってからは…貴方を追いかけたり、女性死神協会の方から買って折れないように加工した貴方の写真を眺めたり…」

「えぇ…今でも?」

「はい」

 

 ドン引きされた。いやわかるけど、逆の立場なら少なくとも私は複雑な気持ちになる

 でも真面目にそう言う答えになってしまう。貴方に会うまで、私は本当にただ何となく生きていた

 私の答えに不服だったのか、貴方が後ろから私の顎を持ち上げて貴方と私の目が合うようにする

 

「本物がここにいるのに?」

「…貴方がいない時間でも貴方を感じていたいので」

 

 これ首苦しいな。貴方と目の距離が近いのは嬉しいけど

 苦しすぎたので首の位置を戻して素直に体ごと振り返る

 

「前に言ったじゃないですか、私は貴方を閉じ込めてしまいたいくらい好きだと。それなのに貴方がいなくていい時間があるとお思いですか?」

「…そう言うところだけ素直だよね、君」

「? いつも素直ですよ?」

 

 そういうところとはどういうところだろう。私は貴方にだけいつも素直だけど

 

「…いや、何でもない」

「なんですか…そう伏せられると気になります」

 

 急に言わなくなるなんて気になる…貴方は何を思ったのだろう

 

「君はもっとこう…複雑な人間だと思っていたよ」

「至極単純明快ですよ?」

 

 貴方は少し疲れたようなため息をつくけど、私は躾けやすいと思うんだよな。ご褒美の幅が広いし

 

「好きな人に見てもらいたいと願ってしまうのは普通のことでしょう?」

「…!」

 

 あら珍しい、貴方が顔を赤くするなんて。でもそういうところも好き

 

「君はそういうことをいつもあけすけに言うね」

「好きな人に好きだと言うのは悪いことですか?」

 

 いつどうなるかわからないから、いつだって悔いのないようにしなくては

 それに"好き"なんていつも思ってるからすぐ出てくるもので、そこに応答を求めてるわけでもない。あ、でも聞いて欲しいから反応は求めてるか

 

「好きですよ、イヅルさん。貴方はあんまり言ってくれないですけど、おそばに置いてくださってるということは同じ気持ちなんだと思うようにしてます」

 

 不安も尽きないけど、軽い告白よりはいいのかもしれない。でもそう考えると私の言葉は軽いのかな?

 

「…」

 

 貴方がそっぽを向いてしまった。顔が赤いので多分恥ずかしいんだと…思うけど

 そんなにおかしいことを言っただろうか

 

 貴方は横顔も綺麗だなぁ、なんて眺めていたらこちらを向いた。どうしたんだろうと見ていると貴方の両手で視界を塞がれてしまい少し戸惑う

 

「…?」

「あー、えっと…その」

 

 何か言いづらそうにしている。それと視界になんの関係があるのかがわからないけど

 そのまま少しだけ沈黙があって、ぼそりと小さな声が聞こえた

 

「…その、僕も鏡花が好きだから」

「…!」

 

 多分、貴方もさっきみたいに顔が赤いんだろうなって思うと私の顔も熱くなった

 その後すぐに視界が開けたと思うと、今度は貴方が自分の視界を塞いでまたそっぽを向いている

 

 そうか、貴方はこういうのが苦手なんだ

 …それなのに言ってくれるの、嬉しいな

 

「イヅルさん」

「…今、ちょっと、ごめん」

「私も大好きですよ、イヅルさん」

「〜〜〜っ」

 

 あは、よく見なくても耳まで赤い

 今まで貴方の本質は嗜虐嗜好だと思ってたのに、こんなに奥手な一面があるなんて

 

 愛しいなぁ、もう

 そういうところも好き、大好き

 

 そう言えば最初に貴方が好きだと言ってくれた時もこんなふうに不器用だったな

 少し前のことなのに懐かしく感じる

 

「…ごめんなさい、不安になったりして」

 

 あぁ、本当に申し訳ないな。こんなに愛してくれてるのに疑うなんて

 自分でさっき言ったじゃんか、そばに置いてくれるだけで同じ気持ちだと思うようにって。自分で言ったこと守れてないや

 そう思うとやっぱり落ち込むし視界も下を向く

 

 でも貴方はまた私の頭に軽く手を置いた。そこでそういえばリボンがないと気付く、こればっかりは捨てられてないことを祈るしかないので明日確認しよう

 気にしても仕方ないし、と少しだけ視線を上げる。すると貴方が穏やかに笑っていた

 

「僕にも非があることだから…すまない」

「いえそんな…イヅルさんが謝ることでは」

「何度も言ったじゃないか、僕たちは"恋人"なんだから。平等じゃないと」

「…っ」

 

 貴方が私に力を抜けと言うのはこういうところだろうか

 私は貴方を恋人以前に主人として見ていると、多分言いたいんだと思う

 …そうか、そういうことだったんだ。確かに肩肘張ってたかも、敬語を外せばいいとは言わなかったし

 

「んー…そうですね。平等に、と言うのなら確かに安易に許してはいけない気がします」

 

 もう少し、わがまま言っていいってことかな

 私は少し考えるふりをして貴方を見る。その仕草に貴方は疑問を表に出して私の言葉を待っていた

 

「でも、今日たくさん抱きしめてくれるなら許します。たまにはいいですよね?」

 

 なんて生意気なことを言っておきながら顔が熱い

 こういうのは、本当に慣れなくて恥ずかしいな…

 確かに貴方を護りたいと言うのもわがままだけど、中身のない、本当に甘えるようなわがままを素面で言うのは緊張する

 

「しょうがないな」

 

 そうは言いながらも貴方はその腕に私を抱いてくれた。貴方の温かさが伝わってくるのが嬉しい

 

 でもここからどうしていいかわからなくて、とりあえず顔が当たってる肩辺りに軽く頬を擦り付けてみる。抱きしめられているから息を吸うと貴方の香りがして心臓が高鳴った

 

「どうしたんだい、甘えるようなことをして」

「…してもいいのかな、と思って」

「好きにして構わないよ」

 

 まだ、具体的にどうしたら緊張を解けるのかがわからない。でも、今より貴方に寄りかかっていいのならもっといろんな角度から触れたいと思った

 

 今でも思う。一見無機質な貴方の表情が、怒って、泣いて、悔やんで、笑って…絶望したあの顔以外の色になったその瞬間を見ることができたならと

 その側に、私は居たい

 

 貴方を多角的に見て、もっともっと深く隅まで知って。それは貴方を側で護ることによって成し遂げられると思ってた

 

 でもそれだけじゃできないなら、私が貴方に寄りかかることでそこに一つ近づくのなら…

 少しくらい、ほんの少しくらいなら子供でもいいのかなって

 

「…私、子供っぽい自分が嫌いなんです」

「肩肘張って固まってるよりはいいと思うけど」

 

 嫌いと言っておきながら、ここまでを思い返すと充分子供っぽいなって思った。へこみそう…

 

「嫌ですよ、貴方に見合う存在になりたいです。仕事も、プライベートも」

「言ったじゃないか、僕はそんな立派なものじゃない」

「…それなら、そういうところをもっと見たいです。貴方は私から見たらいつだって折り目正しい方ですから」

「…そう言うものかな」

 

 不服そうに貴方は返すけど、私だって不服だ

 私は貴方の腕から離れると寄りかかっていた身を起こして貴方の両頬をつねる

 それに貴方が驚いた顔をするから、私は頬に空気を入れて膨らませた

 

「そういうものです! 私はいつだって貴方を護るに相応しいかっこいい私でいたいんです!」

 

 どうして伝わらないんだろう。貴方が頼ってくれる私でいたいのに、いつも貴方は一歩先にいて届かない。隣を歩けない

 どれだけ手を伸ばしても、貴方が先にいる寂しさが貴方はわかるのだろうか

 

「平等にと言うなら貴方だって弱いところを見せてくれなければ納得できません! 私だけ甘えてたら不平等です!」

 

 言い切るだけ言い切ってつねっていた両手を離す。すると貴方は、また不服そうな顔をして今度は私の頬を片方つねった

 

「いひゃい!」

「…君、何か勘違いしているみたいだけど」

「な、何がですか」

 

 真面目な顔におされて少したじろぐ

 貴方は真面目に呆れたような、それでいて少し怒ってるような、そんな顔をしていた

 何を言いたいんだろうと身構えると、貴方が悔いるように口を開く

 

「大人なら、あんな手段で年下の子に手を出したりはしない」

 

「…」

 

 そんな身も蓋もない…と思ったのは私だけだろうか

 でもどこかで納得する。確かに普通ではない

 

「ついでに言うなら君がなんでも受け入れるからってあんな酷い抱き方はしない」

「それはしてくれないと困ります」

 

 食い気味に反応してしまった

 だって嬉しいんだもん、あの激しい抱き方

 

「君…被虐嗜好がないっていってたけど嘘だろ」

「貴方に嘘はつきません。最近認めただけです」

 

 と言うか、貴方に仕込まれたのかもしれない。でもそれを受け入れてるなら同じか…

 

「それを言ったら、貴方だって充分嗜虐嗜好じゃないですか」

「それは——」

「認めないなんて言わせませんよ?」

 

 慌てて言い訳しようとしたところに挟み込む。私の嫌がる様が見たいとまで言っておいて逃しはしない

 

「なんですか? 犬のように『ご主人様』とでも言えばいいですか?」

「…!」

 

 あ、反応した。何も言わないってことは想像したのかな

 

「…そう言うのは、趣味じゃない」

 

 ふーん、趣味じゃないだけなんだ。やっぱり私を何かしらで追い込みたいと言うこと?

 

「なら好みを聞かせて欲しいですね」

「…」

 

 そこで沈黙。人をここまで辱めておいて酷い話だ

 

「んー…そうですね。個人的な推察としては『ご主人様』より『先輩』の方が好きだったりしませんか?」

 

 一瞬だけぴくりと肩が動いた。へぇ、そう言う上下関係が好きなの

 

「じゃあ『先生』も好きそうですね。霊術院の頃の制服でも着ましょうか?」

「…」

 

 頑なに目を逸らし口を閉ざしている。思ったより意思が硬いな

 しかし先生という呼び方は反応がないから違うのか…となると擬似兄弟も当てはまらなそうだな

 先輩はよくて他は反応しないのはなぜなのか

 

「私は貴方自身が抱いてくださるのであれば、それこそなんでも良いのでいくらでもお付き合いしますよ?」

 

 いけない、ちょっとからかってるみたいで楽しくなってきた。さっき散々かわいいとか言われたお礼ということにしておこう

 

「あぁでも、貴方が小賢しい道具を使う想像はつきませんね…。もしかして私が泣きつくのが好きなんですか?」

「…」

 

 沈黙の代わりにさらに視線が逸れた。これが当たりっぽいな

 

「素直に言わないならお酒持ってきますよ」

「っそんなに聞きたいものかい!?」

 

 やっと目が合った。慌てる貴方に笑顔で返す

 

「私は散々貴方に辱められていますので、少しくらいは聞く権利があるかと」

「う…」

 

 貴方は気まずそうだ。言ったことは嘘じゃないけど明らかに私がセクハラしてるなこれ

 

 それでも素直に答えようとしてくれてるのがわかる。何故そこで拒否しないのか…いくらでも言い訳つけられるだろうに。

 でも答えてくれるなら聞きたいので貴方の言葉を待つ。恥ずかしそうな態度を表に出しながら口が開いた

 

「…普段気丈な君が僕の前でだけ泣くのは嫌いじゃない」

 

 別に気丈ではないと思うけど。貴方が関わると涙腺緩いし

 他人は割と嫉妬するかどうでもいいかのどちらかなだけです

 

「泣き顔好きなんですか?」

「それは違う。君が僕のことで泣くのが好きというか…」

 

 私も大概ストーカーだけどこの人の愛も独特だなぁ

 それはもう立派に嗜虐的だと思うけど

 っていうかそれって…

 

「まさかそれで嫌がるところが見たいって言ったんですか!?」

「違う! あれはずっと君がなんでも受け入れるからどこまでしたら嫌がるのか気になって…!」

 

 割と強めの声で否定された。どちらにせよいい趣味ではない

 まぁでも…確かに好きな人とは言え無理やりされて受け入れる私も普通じゃないと、自分ですら思うので言いたいことはわかる

 

「はぁ…なんて言えばいいかわからないですけど少しわかってきた気がします」

「むしろ君がしたいことはないのかい?」

「私ですか? うーん…切りつけられたりとか痛すぎなければ乱暴にされても構いませんし…犬になれと言われればなりますし…」

「そう言うことじゃなくて」

 

 わかってるんだけどなんだろうなしたいことって… なんて思って…

 あ、そういえば。なんて閃いたら脳が急にオーバーヒートした。恥ずかしくて言いたくないけどこっちがセクハラしてしまった手前言わないわけにもいかない

 いっそ開き直って笑顔で答えた

 

「上下関係をわからせられるのが好きです。あと貴方の強い感情が私に向くのが好きです」

 

 見下されたいまではいかないけど貴方の方が上だと考えるのは興奮する…

 なんて考えていたら顎を持たれた。そのまま冷たい目線の貴方と目が合う

 何これときめく

 

「…なら犬みたいに鳴いてみなよ」

 

 目が離せない。貴方の方が上です大好きです

 

「わ、わん…っ」

 

 だめだ、人としてだめだ。媚びてしまう

 でも貴方にされるならなんでもあり…むしろもっとして欲しい

 でも貴方はそんな私を見てため息をついた

 

「本当に好きなんだね…」

「貴方以外がやってきたら斬りますけどね」

 

 当たり前である。貴方以外が私を飼いならそうというのは論外もいいところ

 

「本当に変わってるね、君…」

「その言葉そのままお返しします」

「意外とそうでもない。自分のために泣いてくれる子が好きって人は割といるから」

「それって何がいいんですか?」

「君で言うところの"強い感情が向く"に近いと思う」

「…なんか納得しました」

 

 なんとなくわかった、自分を強く意識している事であるが故に独占欲が満たされるのか。貴方が私に独占欲とか嬉しくて咽び泣きそう

 

 そこまで話して貴方がわざとらしい咳をする

 

「…これでよくわかったろ、別に僕だって大人じゃない」

「なんとなく分かりましたけど…」

「けど?」

「やっぱり貴方に頼られる私でもいたいです」

「…それはお互い様だよ」

 

 貴方は静かにそう言うとまた私の頭を撫でた。そういうところが子供扱いだと思うんだけどなぁ…

 撫でられるの嬉しいから言わないけど

 

 でも意外と気づかないだけで貴方もそう言う一面があったんだ。でも確かに強い感情が私に向くということは感情のコントロールをしないってことだから案外正しいかも

 それならこの先もそうでいて欲しい

 そして私も、もう少し貴方を頼れるようになりたい

 

 にしてもずっと話してたから体固まったな、と一つ伸びをした。話そのものはひと段落ついたと思うし

 

「んーっ…これからどうしましょうか?」

「そういえば、君としては今日襲ってきた隊士たちに求める罰はあるかい?」

「あー…わがまま言っていいなら、やったのは私ですけど向こうが原因なので道場の修理費分担で払って欲しいです」

 本来なら立場が一番上の私が払わないといけないんだけど、私だけが原因ではないので。怪我してるのこっちだし

「それだけ?」

「それ以外はあの爆発で痛い目に遭ったと思うのでないです。万が一本当に剥かれてたら殺しましたけど」

 

 そこは未遂で終わったので命くらいは繋いでやろう

 まぁ、唾吐きつけて挑発したの私だけど。うまく女性たちと交渉できなかったし…やっぱりまだまだ子供だ

 

「貴方以外に膝をつかされただけでも殺してやりたいですが、大人げないのでしませんよ」

「僕個人としては君に怪我をさせた時点で減俸ものだよ」

「向こうは帯刀して襲ってきたので、私を含まなくても謹慎と減俸はつくでしょうに」

「それなら十一番隊あたりに飛ばしてやりたいね」

 

 今更ながら改めて納得した。今の貴方は公平じゃないし感情的で確かに大人げないかも、仕事の時とは大違いだ

 それが嬉しいわけだけど

 

「ふふっ…」

 

 思わず笑ってしまう。そんな貴方をもっと見たい

 

「…何がおかしいんだい」

「いえ、いつも公平な貴方がこんなにも私のことを考えてくださるのが嬉しくなってしまって。思わずにやけました」

 

 確かにこれは貴方の色だ。私が見たかった絶望以外の色。たくさん見てきたけど、見えてなかった色をまた一つ認識できた嬉しさはひとしお

 貴方はそういう側面でも私を愛してくれるのね

 

「きゃっ」

 

 和んでいたら何故か姫抱きにされた。慌てて貴方に問いかける

 

「ちょ、急にどうしたんですかイヅルさん!」

 

 答えが返ってこないまま寝室に運ばれる。何故か電気をつけてから一度下ろされてこれは、と考えていると案の定敷き直された布団の上に改めて放られた

 

「イヅルさん…?」

 

 やや後退りつつ貴方をみる。すると一つ軽いキスをされた。戸惑いと嬉しさで顔が熱くなる

 貴方の手が私の腹あたりに触れて、改めてこれは、と直感した。でも急にどうして?

 

「せめて電気消しません…?」

「消さない」

「恥ずかしいですよ…っ」

 

 明るいところでしたことなんてほとんどないし、貴方の顔がはっきり見えるのは心臓が爆発してしまうんだけど!

 不意に肩を突かれて布団に倒れさせられると、片手を取られた。そして貴方が私の手首にキスをする

 

「!」

「…これからお仕置きと消毒をするから」

「はわ…」

 

 思ったよりこれは貴方が個人的に怒ってる。私としては嫌な予感と同じだけ幸せかも

 

「他人にあんな怪我させられて…君は誰のもの?」

「あ、貴方のものです…っ」

「そう思うなら僕のいうことをきくんだ」

 

 貴方が私の上に覆い被さってくる。その表情は余裕がなさそうなのに冷たくて。もしかして、やっぱりこれが貴方の嫉妬の色?

 

 何も考えず私の横に置かれた手に触れてしまうとそのまま捕まった。貴方は嫉妬の色を表に出したまま言う

 

「今日は寝かさないから」

 

 嬉しさのあまり言葉を失った。貴方はそれを知ってか知らずか有無を言わさず唇を重ねて舌を入れ込んでくる

 

 あぁ、これは逃げられそうにない

 逃げたくもない

 

終

 

 

 

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