※この作品はR-18です。

系   作:七星七夕

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当作品は二次創作であり、原作、実際の物事、人物、事象には一切の関連がありません、ご注意ください
また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!

また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします









第三章「斬魄刀異聞篇の裏側篇」
「月狼」


「月狼」

 

 

 それは月明かりの照らす瀞霊廷の建物の屋根を駆けていた。私の方に視線を向けるとふと立ち止まる

 

 白い髪、狼の耳と尾、巫女の様な装い、女性らしさを連想させる垂れた赤い目

 まるで自分の卍解を外から見ている様なその姿に戦慄した。そしてそれと目があった瞬間、相手はにやりと口を開く

 

「久しぶりねぇ、元気にしとった?」

 

 その少女は確かに私に向かってそう言った。確かにわかることは、まるで他人の気がしないということだけ

 

「…」

 

 刀に手をかける。それに反応する様に相手もゆっくりと刀を抜いた

 

「!」

 

 その刀身に驚愕する。それは間違いなく私の月大神の刀身、白く淡く輝く刃に真円の鍔。なぜそれを得体の知れない存在が持っているのか

 私も慌てて刀を抜く。そしてその名を口にした

 

「帳を下ろせ、月大神!」

 

 しかしその姿が変わらない。呼びかけても答えがない。どうして、刀の霊圧すら感じ取れないなんて

 

「あはははははははっ! 愉快やね、大変そうや」

 

 高らかに笑う相手を睨む。でもその次の瞬間すん、と相手は真顔に戻ると持っている刀を大きく横に振った

 

「!!」

 

 反射的に後ろに下がる。私がいた場所には針の様な石の矢が刺さっていてさらにぞっとした

 

「…!」

「うちが誰か気になる? 教えたるわ」

 

 私は刀を構え直して隙を伺う。相手はそれを余裕の表情で見つめ、また口角を開けてから私の持つ刀を指差し言葉を放つ

 

「うちの心はもうそこにはあらへん…って言うたらわかるやん?」

 

「!」

 

 それって、もしかして。そう思って斬魄刀を強く握り直す

 考えなくてもあの姿と言葉でわかる、相手が誰なのかなんて

 

「月大神…!」

「やだいけず。うちに"翠霞"って名前つけたのあんたなのに」

「でもその目は…っ!」

 

その目は私の目。翠霞は綺麗な翡翠色のはず

 

「うちが刀と別なんていつ言うたん?」

「!」

「うちは月大神で月大神はうち…あんたなら言いたいことわかるやん」

「…」

 

 確かにそうだろうけどさ…っ

 それはそれとしてなんで人の姿になんか

 

「あんたとの協力関係も今日で終わり…これからはうちが直接侘助はんを護るさかい」

 

 す…とまた翠霞は片手で刀を構える。私は飛び退く準備をして足に力を込めた

 

「——ここで死んでな」

 

 また刀で空を振り払ったのと同時に石の矢が飛んでくる。飛び退いて石化は免れたものの、次に見た瞬間には相手を見ることも叶わず…これでは追跡も諦めざるを得ない

 

「…」

 

 なんだったんだ、あれは

 あれは確かに、紛れもなく月大神…翠霞だ。それだけはわかる。肌身に伝わってくる

 姿も、刀も、執着も、紛れもないあの子

 

 でも私を殺すメリットがわからない。どうして牙を向けてきたんだろう

 でも今は思考してても仕方ない。あの子は確かに言った"侘助は自分が守る"と、つまりそれは彼の方の身に危険が迫ってる可能性がある

 

 私はその場で踵を返し双極の丘へ向かった

 

 

********

 

 

 道中では戦火があちこちで広がっている。どこもかしこもと言う感じで燃えたり壊れたり凍ったり

 

 私は敵も味方も振り向かず彼の方だけを探す。双極の丘から彼の方の気配はしない、どこへ行かれたのか

 霊圧が錯綜している…。混乱の中で彼の方の霊圧だけを探るのは流石に難しそうだ。目視に頼るしか無い

 

「ちっ…」

 

 それにしてもどこにも居ない。何度霊圧を探っても他の死神に邪魔されるし、彼の方をなんとしても探し出さなくてはいけないのに

 

 屋根を駆け、瀞霊廷を隅まで周る。いつしか戦火は僅かに落ち着き敵襲と思しき大きな霊圧もどこかへ消えていた。つまりはあの子もどこかへ行ったということで、あとは彼の方の安否さえ確認できれば…

 

「一度隊舎にもどるか…」

 

 苛立ちを抱えながら隊舎へ向かう。その付近にある霊圧を感知した瞬間、体は自然とそちらへ動き出した

 

「吉良副隊長!」

 

 声を荒げて貴方の前に着地、すぐに身体を向ける

 

「お探ししました、ご無事ですか!?」

「問題ない。状況は」

「私が見たものでよろしければ中でお伝えします」

 

 一先ず隊舎内へ移動する。丁度はぐれていたせいか合流した班の者に心配された。とりあえず全員の点呼をとってこちらの状況も確認する

 可及的速やかな緊急事態だ。改めて他の班と連携して隊舎敷地内及びその周辺の警備に当たるよう指示を出してから吉良副隊長の執務室に向かう

 

 ノックをして返事を待ち中に入ると、他の席官も状況確認のためかこの部屋に集まっていた

 

「相手は斬魄刀を名乗っているんですか!?」

 

 他の席官の声が響く。やはりそうなのか

 錯綜している情報を整理してから全体の指揮を吉良副隊長にとって頂く。本日いっぱいは厳戒態勢を維持、明朝まで様子をみて襲撃が無いようであれば適宜状況を変更していく形になった

 

「では全員配置につけ、何かあり次第すぐ知らせる様に」

 

 改めて席官全員が返答する。実質ほぼ解散になったけど、私は彼の方に「二人きりで話したいことがある」と耳打ちした。すると貴方は戸隠三席に少しだけ席を外す様指示をして部屋の中には私と貴方だけにする

 

「…私の、斬魄刀が」

 

 その一言で、貴方は私の話したいことを察した様だった。現在私の斬魄刀について本当のことを知っているのはごく一握り。それを思うと、同じ現象が起きてるとは大っぴらに言いづらかった

 

「君もか…」

「相手は月大神としてではなく翠霞を名乗っていました。言っていた言葉からも貴方の安否が心配です」

「言っていたこと?」

「…はい」

 

 斬魄刀一団は死神から斬魄刀を解放する事を目的としているそうだ。それならば翠華が私の命を狙ってきたのも、わからないではない

 

「あの子は、月大神と言う刀は貴方の刀を求めているのです」

「…侘助を?」

「そうです。あの子は私の写し鏡、私の求めるものはあの子の求めるもの…私が貴方を求めるならば、あの子はその写し鏡である侘助を求めている」

 

 あの子は吠えていた。たった一つを求めて

 ただ一つ私と違ったのは、私は淡く光る月を求め、あの子は重くのしかかる夜空を求めていたこと

 

 夢の中で生まれた対話は互いの理解を深め、強力な利害関係を産んだ。でもあの子自身が求めるものを守れる様になった今、あの子を理不尽に封じ込めていた私など要らないのだ。そんなものは状況さえ揃えばサルでもわかる

 私は今回の責任からくる後ろめたさから、つい視線を逸らした

 

「私たちの関係はあくまで利害的なものです。同じ気持ちだからこそ契約は生まれた。でも自分でできるならその契約は安易に水泡と化します」

「待ってくれ」

「?」

 

 貴方の声に反応して視線が戻る。すると貴方は驚愕を表に出して私を見ていた

 

「…君は今、なんと言った?」

「私達は、利害関係であると…」

「それが本当なら、あり得ないことだ」

「え…?」

「斬魄刀と死神における本来の過程は"対話"、"同調"、"屈服"だ。でも君たちの関係が本当に"利害関係"のみであるとするならば、君は"屈服"の過程を飛ばして現在の力を手に入れたことになる」

「…!」

 

 確かにそうだ。そんなことは霊術院でも習うのに、どうして失念していたんだろう。特別な力を手に入れた高揚感に酔っていたんだ

 

「教えてくれて助かる。でも君はその辺りについてよく考えたほうがいい」

「…わかりました」

 

 

********

 

 

 数日がたった

 襲撃の明朝から一部隊長格が四番隊を情報収集の場として集まってるそうだ。瀞霊廷全体で生き残った者の中からいくらか警備強化のために人員を割くことになり、私はそれに当てられた。と言っても当番制だけど

 

「…」

 

 つい、あの子のことを考えてしまう

 わかっている。当てられた場所を警備しなければいけないのは、それでも

 あの子は私に何を思うのだろう。主人にすらなり得ないこの私を

 

「緋月七席、交代のお時間です」

「もうそんな時間ですか、ありがとうございます」

 

 交代の時間なのか。考えごとしてると時の流れは早いけど、自分の担当時間に何もないのはいいことだ

 仮眠室で軽く休憩させてもらって、虎徹副隊長に声をかけてから四番隊舎を後にする。次の交代までは時間があるから少し離れても大丈夫なはず

 

 他の隊やうちでも人員を割いて斬魄刀たちを探しているけど未だ見つからない。このままでは襲撃があってから対応する形になり後手後手に回ることになってしまう。それは組織としては避けたいところだろう

 

 山本総隊長が敵の手に捕えられたという噂も転がってきている。それが本当ならこちらの士気に関わる問題だ

 なんの気なしにいつもの山で石に腰を下ろす。鬱蒼とした雰囲気は落ち着くものがあり、ここは外の光よりよほど暗い。考え事をしたい時に時折来ようと思って、意外と来れてない場所

「…」

 

 信頼という観点において、誰よりもそれに当てはまっていたのは翠霞…月大神だ。私たちの間の利害関係に誰よりも信頼を置いていた

 でも今度は屈服させないといけない。狼の群れとして、上下関係を叩き込まなければ

 

「!」

 

 背後からがさり、と足音がした。反射的に振り向くとそこにはあの子の姿がある

 

「…翠霞」

 

 翠霞は返さない。ただより暗い木陰で、意味深な笑みを浮かべながらそこに立っていた

 私は立ち上がって刀に手をかけるけど、相手に交戦の意思がある様には思えない。何を考えているの

 

「…やっとこの時来た」

 

 この時、とは私が考えてるのと同じだろうか

 

「今日の夜、うちを捕まえてみぃ。ほんなら認めたるで」

 

 それだけ残してあの子は消えた

 

「…本当に、何を考えてるの」

 

 確かに夜に予定はない。私の主に護衛当番の時間は朝から午前中にかけてだ、そう考えると余力はある

 だけど、いまは考えていても仕方ない。この山の周辺からあの子…斬魄刀の巣を探してみるか

 

 

********

 

 

 やはりそう簡単に見つかるものではなかった。それもそうか、人海戦術で探して見つからないんだから

 

 空はそろそろ夜になりかかっている。あの子が言っていた夜まで後少し、無事に捕まえられれば良いけど

 隊舎付近を巡回で歩いていると、叫び声が聞こえた。その場に急行すればいやでもその姿が目に入る

 

「翠霞!」

「やっと来たん? 遅いわぁ〜」

 

 あの子はまた屋根の上で、大きな月を背景に意味深な笑みを浮かべている。そこから視線を下ろすと、石化に怯える隊士が複数人目に入って

 

「…っ!」

 

 私はあの子に斬りかかった。翠霞はわかっていたと言わんばかりにそれを避けて屋根の上を走り始める。それを追いかけてひとまずあの場から引き剥がす

 あまり能力は見られたくないし、なによりこんなところで戦ってたら危険だ

 

「待て!」

 

 身軽に瀞霊廷の屋根を駆ける翠霞にそう簡単には追いつけない。やはり狼ということなのか、身のこなしが軽く歩法が人並みの私では簡単に追いつきそうもない

 

「っ、くそ!」

 

 速さだけなら相手の方が上だ、それなら妨害するしかない

 

「破道の三十一、赤火砲!」

 

 真っ赤な火球があの子に向かって飛んでいく。でも歪な私の攻撃が当たることはなく、ひらりと避けられてしまった

 

「鬼はんこちら、手の鳴る方へ…」

 

 翠霞はそう呟いてくすくすと笑っている。一々私の癪に触る言い方するものだ、よくわかってるじゃないか

 あの子を追いかけてたどり着いたのは昼の山。その鬱蒼とした空気は昼より恐怖を与え、限られた視界では相手を追うこともままならない

 

「翠霞!」

「くすくす…うちはどこやろな?」

 

 ざわめく風が不気味さを煽る。きっとあの子には見えているんだろう、少ない光でも私の姿が

 

「やっぱり貴女は…私が押さえ込んだばかりに!」

「確かに関係あるかもね? うちはこの機会を待っとったんやさかい!」

 

 正面から煌めく刃を見る。反射的に上体を逸らすけど、切り捨てられたその刃は私の左骨盤あたりを斬った

 

「っ!」

 

 わかっていたはずなのに、あの刃は見た目より奥にあるんだって。それなのに避けきれなかった

 

 石化が始まってるのがわかる。血が止まるのはありがたいけど、動きづらいのは困ったものだ

 間髪入れずそれこそ視界の目の前に次の刃先がくる。ぞっとして顔を横にそらすと、わずかに頬が切れた

 そこからも石化は始まる。この程度の傷なら石化の進行も遅いだろう、それはわかるんだけど

 

「あんたは言うた! 彼の方を護りたいと! うちもおんなじ気持ちやったさかいそれに応えたのに!」

「…っ」

 

 刃が輝いてるからギリギリ見える様なものなのに、その残像が視界の中でちかちかしてまた見えづらくする

 少し当たっては石化を繰り返す。このままでは本当に全身が石化しかねない

 

 あの子は本当に殺す気できてるのか。しかしそれにしては手ぬるい。でも私の太刀筋ともそれは似ているように感じた。それなら

 私は刀を抜いて相手の刃先をいなす様に横に構える。案の定相手は突きの構えで刃をむけてきたので刀の腹でいなした

 

「!」

「…やっぱり、貴女は私なんだね」

「…っ」

 

 太刀筋や行動法則が私と大して変わらない。私の写し鏡、私の大事な仲間。するとあの子は「そんなんあらへん!」と大きな声で否定した

 

「…あんたばっかり好きな人と会うてずっこい。もう封印はあらへんのにうちを呼んでくれへん! うちとあんたはおんなじだけどちゃうさかい、仲間のはずなのに!」

「…ごめん」

 

 暗闇の中でどこからか翠華の声が響く。付近からどこかに移動したみたいだ。翠華の心に応える様に、森は風でざわめいていた

 

「もうあんたなんかに頼らへん! うちはうちで侘助はんを護る! うちはうちで、侘助はんと…っ」

「…ごめんね、翠霞」

 

 あの子は刀の中で、何を見たんだろう。どれだけ侘助を求めたんだろう

 ごめんね、ごめんね翠霞

 それでも負けられないの私は、貴女に

 

「…雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ」

 

 がさ、と大きな音がした。しかも複数の音だ、おそらくあの子は狼も出せるのかもしれない。それでも良い

 音は幾重にもからまって周囲に撒かれている。撹乱したいのだろう、実際私にはどこから来るかわからない

 

「!」

 

 正面からだ、堂々と目の前から狼は出てきた。でもそれじゃあ撹乱した意味がないじゃんか…本当、私っていつも馬鹿。これで気を衒えてると思ってるあたりが

 

「縛道の六十一、六杖光牢」

 

 大口を開け、私の喉笛を狙っていた狼の動きが止まる。その質量をすんでのところで避け、狼の後ろから迫り来る刀の突きを…左肺で受け止めた

 

「ぐぅ…ふ…っ」

 

 流石に口から血が溢れる。騒ぐほど痛いし、あんまり出血もしたくない上傷が深い分石化の侵食も早い。でも私はその刀を持つ手を、逃がさない様にしっかりと掴んだ

 

「…捕まえた」

 

 あーぁ、またこれ彼の方に怒られるな。今度こそ首輪行きかも

 それにしても予測が当たって良かった。狼の後ろから攻撃を仕掛けるのは私の常套手段だもの

 

 本当、翠霞は私だよ。皮肉なほど

 

「あ、あんた…」

 

 翠霞が明らかに動揺している。翠霞、貴女の主人は馬鹿だからさ、こんなやり方した思いつかなかったよ

 

「これで、貴女は私のもの…屈服させたってことで良いよね」

「…っ」

 

 やば、一言話すたびに口の中が血まみれになる。気持ち悪いし出血しすぎると危ない

 

「っ、どうして、そこまで…っ」

「手加減しておいてよく言う…」

 

 大して技も使わなかったくせに。私のトロイ動きなんか流れ星で十分牽制できはず

 今日は月だって出ていたのに

 

「そんな、手加減なんて!」

「どうかな…」

 

 ごめん、もっと答えてあげたいんだけど…

 

「とりあえず、四番隊連れて行って…」

 

 そこで私の意識は途絶えた、体ががくりと落ちるその瞬間、刺さっていた刃が必然的に抜けて背筋がぞっとした

 

 

********

 

 

「…っ!」

 

 大きく息を吸った瞬間に目が覚める。心臓がすごい音をたてて鳴っていて、気づいた瞬間に胸を押さえた。するとまた胸が痛い。傷のあたりだろう、応急処置はしてもらったみたいだけど、まだ傷は治りきってない

 

 右腕に違和感があって視線が向く、見ると点滴を刺してるのようだ。これはよほど重傷か、ひとまずの栄養補給か…

 横を見るとばつの悪そうな顔で翠霞が座っていた

 

「どうしたの翠霞」

「う…」

 

 翠霞は視線を逸らす。何を思ってるのかわからないけど、ひとまず殺されたりはなさそう

 

「言わないとわかんないでしょ」

「…その、申し訳なかったと…思て…」

「なんだっけ? 洗脳? は解けた感じ?」

「と、思う…」

 

 翠霞は落ち着かない様子で、下や横を見ている。それに小さく笑ってから声をかけた

 

「とりあえず、これで正真正銘斬魄刀と主人だよね」

 

 そう言うと、翠霞は少し驚いた顔をしてから笑う

 

「やっと…やっとね…待ったんやさかい」

「…待たせてごめんね」

 

 なんて和やかな空気が流れた時だ

 

「「!」」

 

 重くのしかかる様な霊圧が広く感じられる。この強い霊圧は

 

「更木隊長…?」

 

 嫌な予感がした。その次だ、翠霞が血相を変えて部屋を出ようとしたのは

 私は反射的にその腕を掴む。肺の傷が痛んだ

 

「待ちなさい翠霞! どうしたって言うの!?」

「侘助はんが…侘助はんが、折れてもうた…!」

 

 翠霞は足先から全身にかけて震えながら顔を真っ青にして呼吸を荒げている。私に掴まれた腕もなりふり構わずまた走り出そうとするので、強く抑えた

 真っ青になったその顔で、瞳孔を震わせて私を見返す

 

「なんで…なんで止めるん!? 今行かな、侘助はんを折ったやつを殺しに行かな! うちは侘助はんからあんたを足止めする様に言われからそないなのに! やっぱし一緒に行ったら良かってん! 離して、離してや!」

「今は落ち着きなさい。少し待てば涅隊長が…」

「そんなん待っとったら日ぃ暮れる! 侘助はんが侘助はんが帰ってこぉひんかったらうちは…」

 

 噛みつかないと心を保ってられないんだろう。本当にどうしたらいいのかわからなくてとにかく感情をぶつける先を探しているのは明らか

 今にも泣きそうな翠華の気持ちはわかる。私だって同じ状況ならこれだけ取り乱す自信がある、だけど

 

「——落ち着きなさい! 月大神!」

「!」

 

 大きく叫んだ。彼女はその声に反応したのか奥歯を噛んでその場に立ち尽くす

 

「貴女が行ったところで貴女も折れるだけなのはわかってるでしょ。侘助は彼の方の刀なんだからそれを望むわけない、これもわかるよね」

「…っ」

「涅隊長が今回の件について何も考えてないとは思えない。少し待ちましょう、どうにもならなかったら私も一緒に行くから」

「〜〜〜〜〜っ…侘助はん…っ」

 

 そこからはぐずぐずと泣き始めてしまった。止まってしまったが故に余計行き場のなくなった感情を吐き出したかったんだろうと思う。私が少し腕を引いてあの子を抱きしめると、私の腕の中でまた彼女は泣いた

 しばらくすると私のいる個室に誰かがノックしたのか音が響く。それに応えると、中に入ってきたのは、

 

「吉良副隊長!」

 

 怪我をしたのか治療後の雰囲気漂う貴方。それでいて少し不安そうな貴方は、翠霞を見るなり少し驚く

 

「!」

 

 知らない人間がいたと思ったんだろうけど、すぐ切り替えて中に入ってきた

 

「ほら翠霞、自己紹介してあげて」

「う…」

 

 翠霞は泣き腫らした目を少し擦って、残った涙を拭ってから彼の方を見て頭を下げる

 

「うちが翠霞…月大神どす。よろしゅうおたのもうします」

「あ、あぁ…吉良イヅルです。よろしく」

「あの、吉良はん…侘助はんは」

「…今、涅隊長が全力で修繕できないかみてくれている。その過程で、他の斬魄刀の洗脳も解けないか試してみるそうだ」

 

 その言葉に、翠華は明らかにほっとしたような顔を見せた。私も、私の言うことが当たってほっとした。あの子をこれ以上悲しませるわけにはいかない

 

「…それにしても」

「「?」」

「本当に君の卍解の様な刀だな。あの時は遠くからしか見えなかったけど、こんな感じなのか」

「「!」」

 

 二人揃って思わず照れる。まさしくその通りと思うと、どうにも恥ずかしい

 

「目は? 赤いけど見えてるのかい?」

「う、うちは人間とちがうさかい…調節できるっちゅうか…」

「そうなのか、便利な作りだな」

「き、鏡花ちゃん助けて〜!」

 

 翠霞をまじまじと見る貴方をとりあえずじと…と見ておいた。翠霞は私の写し鏡、翠霞にセクハラするのは許さないぞ。貴方がセクハラして良いのは私だけだから

 

 私の視線に気づいたのか貴方は慌てた様に視線を逸らす。そこから咳払いをして私を見た

 

「…で? 君はどうして個室に?」

 

 あ、やば。セクハラを止めたは良いけど今度は私に白羽の矢が立ってしまった。襦袢の隙間から見える包帯をやや隠したくなったのでせめて視線を逸らす

 

「あー…えっと」

 

 なんて口籠もると、横から翠霞の声が飛び込む

 

「うちがやったんどす! 鏡花ちゃんは悪ない。うちが、うちがさっきの戦いで肺を刺したさかい…」

「肺!?」

 

 貴方が驚いて私を見る。私はそれに凄まじい反射で顔を逸らした

 

「鏡花ちゃんはうちをちゃんと屈服させようとして…うちを捕まえるためにわざと攻撃をうけて…うちが悪いんどす。かんにんえ…」

「…」

 

 おかしいなぁ、後ろからすごい怒った視線が届く気がするなぁ…おかしいなぁ…

 

「緋月君」

「…はい」

「こちらを向くんだ」

「……はい」

 

 貴方にそう言われて逆らえるはずもなく。顔を戻すとお説教が始まった

 

「無理はしない様にと何度言ったら…っ」

「ごめんなさいごめんなさい! 私が悪かったです!」

 

 そんな言い合いの中、見知らぬ隊士が部屋に飛び込んできた

 

「吉良副隊長! 伝令です!」

 

 その言葉に空気が凍る。貴方は視線を向けけて伝令を聞くと、一瞬だけ私に視線を向けた

 

「…行かれるのですか」

 

 行ってほしくない、行ってほしくないに決まってる

 いつ何時だって、貴方が危険を被る様なことは避けたいけど…それが貴方の役目だから

 

「あぁ」

「…侘助はんは?」

「大丈夫、一緒に行くから」

「…!」

 

 翠霞は明らかに嬉しそうな顔をした。僅かに涙を浮かべて微笑む

 

「翠霞さん、君はここで緋月君を頼む」

「勿論! 任せとぉくれやす」

「緋月君は絶対動かない様に」

「…はい」

 

 釘を刺された。ちぇ

 

「お気をつけて、お待ちしております」

「あぁ」

 

 そのやり取りで貴方は居なくなった。なんのための私なのかわからないほど、肝心な時に私は彼の方を護れない。そう考えて少し寂しい目線を部屋の戸に向けていると、翠華がにやりと私を見る

 

「…なによ」

「いやぁ? すっかり家臣板についてきたなぁ思て」

「! そ、そうかな」

 

 と言ってもあんまり家臣らしくいると怒られるわけで…難しい

 

「そやけどええの? このまま家臣なんかで」

「…よくない、よくないけど」

 

 私の中でも二つの思いがせめぎ合っている。貴方の犬でありたい私と、貴方の隣を歩きたい私と。私の中ではどっちが上なんだろう。自分の視点ではどちらも同じに見える。どちらも同じだけ求めたくて、私の中にあるものだから決められたりなんてしない

 

 どっちを選んだら、私は納得できて…彼の方は喜んでくれるんだろう

 

「だらしないなぁ、思うままに行動するしかへんやん。死神かて人間なんやさかい」

「翠霞…」

「もう少し考えるなら一先ず寝といたらええのに。目ぇ覚める頃には二人も帰ってくるやろうさかい」

「うん…」

 

 翠華に促されるままに横になった。眠りながら少し考えよう、貴方と私の距離感とか

 

 私がどうしたいのかとか

 

 

********

 

 

 翌朝

 

「おはよう鏡花ちゃん、気分はどう?」

 

 そんな声で目が覚めた気がした。目を開くとそこに翠霞の姿はなく、代わりに私の斬魄刀が壁に立てかけられている

 

「…」

 

 彼女がどこに行ったのかわからないけど、これでいい気がした。でも少し寂しい…この刀があるべき姿なんだとわかっていても

 部屋のドアからノックが聞こえる。返事をすると貴方が中に入ってきた

 

「吉良副隊長! お仕事は…」

「今日は流石に休みだよ。昨日少し怪我もしたし」

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫。君こそまだ良くなってないだろ」

「…そうですけど」

 

 貴方が怪我する方が余程大事だけどな。確かに私にも仕事はあるけど…ってそれはそれでだめか

 

「あ…」

 

 思わず自分の刀が視界に入る。ほんの数日だったはずなのにな…翠霞が人の姿で私に話しかけてくれたのなんて。これでいいって、さっき思ったばかりなのに

 

「…少し寂しいですねぇ」

「…そうかもしれない」

 

 貴方がここにいると言うことは、それこそ村正の件が解決したんだと思う。それで翠霞たちは刀に戻って…私はお別れも言えなかったのが寂しかったのかもしれない

 すると、私の斬魄刀が淡く輝き出す

 

「「?」」

 

 二人してそちらを向くと、ぽんっ、と軽い音を立ててそれは現れた

 

「ふぁ…ぁ…あれ、もう朝? あ…鏡花ちゃんおはよぉ」

 

 私たちはその光景に言葉を失う。いやまさかそんな

 

「すい、か…?」

 

 脳からそのまま出たような問いに、翠霞は翠霞で疑問を表に出した顔をする

 

「そうやけど? そないなお化け見たような顔しいひんでくれへん?」

「…」

 

 私はもちろん貴方の驚きようがすごい。でもこれって、まだ話ができるってことで…まぁそれはそれで

 

「まぁいっかぁ…」

 

 とりあえず脱力した。この調子がいつまで続くか知らないけど、とりあえず今日は今日だわ、うん

 

 

 

 

 

終

 

 

 

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