また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!
また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします
「泡沫」
「あり得へんくらい下手くそやん。ねぶってんねん?」
眉間に激しい皺を寄せる翠霞を睨みながら霊力を練り続ける。翠霞が言うには純粋な霊力を球状にまとめ続けないといけないとのことだけど、私のは何度やっても形をなさない。霧散するか波打ったような球体になる
「そないな下手くそでよううちを"使おう"なんて言えたなぁ? 玄人になれとは言わへんけど吉良はんみたいに強なりたいなら甘えてられへんで」
「わ、かって…るわよぉ!」
何度集中しても霊力は形をなさない。不安定で白い球体になりきれない何かがこちらを煽るように手の中でゆらめいていた
「喋ってる暇あったら集中したらええのに。声聴こえてるってことは意識広がってる証拠やわぁっ!」
「じゃあ黙っててよ!」
「聴こえへんくらい集中したらおんなじ! 甘えたこと言わへん!」
「ぐうううううううううぅ!」
悔しいけど言い返せない!
なんとかなれコントロール!
しかしどれだけ念を込めてもそれだけじゃ結果は出ない。わかってはいるけど悔しくて抗っている
諦めて一度力を抜いてから深呼吸をした。今は落ち着かないと集中できそうにない
「雑念多すぎ、力入れすぎ、なにより焦りすぎ」
「わかってるよ…」
そもそも私の霊力コントロールが下手くそ過ぎて何度隠れ鬼をやっても翠霞を捕まえられなかったからいま基礎からやってる訳で、仮にも席官ともあろう者がこの体たらくでは示しもつかない
確かに以前のあの事件でとりあえず今の席に置かれているようなものと言っても、流石にこの様は情けなさすぎる。どうして翠霞は、月大神は私に応えてくれたのかわからなくなってくるほどに
「苦手なものから逃げてるさかいこうなるんやで」
「うぅ、図星…」
確かに私は霊力コントロールが昔から下手で、鬼道も歪だし威力も不安定だしと散々な成績だった。それに引き換え座学と白打はそこそこ、斬術は比較的優秀、だったので総合的に卒業ラインギリギリといった感じで配属が決まったわけだけど…前よりコントロール下手くそになってない?
なんて言うか、手に負えないほど霊力があってまとめた先から溢れ出るような感じ。これをまとめないといけないのはよっぽど難しい気がしてしまう
「鏡花ちゃんはとにかく好きなこと以外に興味がなさすぎや思う。そないなむらっけは身を滅ぼすで」
「むらっけ…」
「吉良はんの戦闘やら見たことあらへんやん。今度お手本見して貰うたら?」
「うっ…」
そうなのだ。ここまでお付き合いまでしておいて私は彼の方の戦闘を間近でみたことがない。単純に巡り合わせがなかったというのが事実なんだけど…私が隊に入ってまだ十何年も経ってないし、付き合ってからこっちは藍染隊長のことがあった直後でばたついてた上に以前の破面との戦闘は私しか戦ってないしで、本当に見る機会も無かった。
しかし斬拳走鬼の揃った人でバランスがよく、頭の回転も早いので正確な仕事をするとは聞いている。その様もそれは美しいんだろうとは思うんだけど、瀞霊廷にすぐ虚が現れるわけでもないし…
「まぁ、こんなんで躓いてるんじゃ見ても無駄そやな」
「ぐぅ…!」
ぐうの音も出ないとはよく言うが、ぐうの音は出ている。しかし正しくその通りでこんな基礎的な所で躓いていたら彼の方を護るなど程遠い
「第一ここまで放置してるのんがあり得へん。おいちびりもええ加減にして欲しいで、うちらの願いはいつだって繋がってる。そうやん?」
「…ごめん。わかってる」
「ならもういっぺん。とにかく集中して、心を空っぽにして」
またそこですぅ、と息を吸った
たぶん水風船だ。水風船の中に水を入れるイメージ
風船の中に一定量の水を入れて膨らませていく。多すぎても少なすぎてもだめで、水流もコントロールする必要がある
大きくなり過ぎれば破裂してしまうし、小さければ不安定。程よい大きさで水を止めて、すぐに縛って形を保たないといけない
「…」
両手の中で霊子の水風船が出来上がっていく。均一に霊子を流し込んで程よい大きさで止めてから、風船を縛るイメージで固める。大事なのは多分風船をよく見ること、体の霊力を均一にして風船を割らないように心がけた
少しまだあらが残る形。霊力の流れが均一になりきれなくて歪な球体になってしまっている。でもさっきのなんか…波打ったなにかよりはマシ
「昨日の朝から初めて百回超えて…ようやく形になってきたなぁ。もうお昼やで、鏡花ちゃん」
「じゃあ休憩にしようか…」
呆れ果てた翠霞の言葉に返せるものはなかった
********
「卵焼きうまいわぁ? 食べへんの?」
「食べるから持って行かないでよね」
卵焼きを狙う翠霞を牽制しつつお弁当を食べ進める。私は好きなものを最後に持ってくる主義だ
とは言ってもこの修行が始まって数日。一番恐ろしいのはここしばらく仕事行ってないのに彼の方からメールで何も言われないこと。まさか私の分の仕事してたらどうしよう…そんなことは流石にないと思うけど
隠れ鬼が始まったあの日以来、けじめをつけて彼の方には会ってない。これは私の問題である以上、根を上げるにはまだ早いからだ
「しょぼくれとっても意味あらへんで。歩法以前に霊力のコントロール信じられへんくらい下手くそじゃ」
「そのコントロールをイメージトレーニングで固めてるの」
「鏡花ちゃんは体で覚える以外あらへんとおもうで。あほやさかい」
「あんたねぇ!」
自分だけ頭良いみたいに言わないで欲しい。私があほってことは翠霞もあほってことでしょ!?
「うちほんまのこと言うただけやさかい」
「励ますとかしないわけ!?」
「それで伸びる死神なのか胸に手ぇ当てて考えてみたら?」
「むきー!」
怒るどころか鼻で笑われた
本当人を煽るの好きだなこの子は!
なんなら絶対私にしかやってこないであろうことが想像できてしまって余計癇に障る
苛立ちながら最後の卵焼きを頬張ると翠霞はけらけらと笑っていた。揶揄い甲斐があると思われるのもムカつく
「ほら、食べおわったなら練習再開しよ! 時間あらへんで!」
「あ、待ってよ!」
先に支度をして走り出す翠霞を追いかけて行く。翠霞が待っていた場所は山の一角、大きな岩壁がある場所
「ほな始めよか。さっき霊力をまとめた感覚覚えてる?」
「覚えてるよ」
もう一度やってみせる。少し時間が開いたからか心が穏やかになり先ほどよりも形が良くなった
「まぁ合格点かいな。じゃそれ足に込めるイメージをしてみて。ちゃんと均一にな?」
「わかった」
体に流れてる霊力を足に溜め込むような感覚を想像する。均一に、両足で揃える感じで
「そのまま軽う跳ねて。着地の足音に注意してな」
「うん」
足を覆う霊子を軽くバネにする感覚で跳ねて、下がる時は霊子を間に挟む感覚で足音を消す。何度も翠霞に教わったやり方を何度も繰り返して行う。跳ねるのと同時に霊子のコントロールをして常に二つのことを並行して行えるようにしつつ、高さを徐々に上げていく
「こっちも形になってきたなぁ。一回止まって」
着地して止まると、翠霞はにこりと笑った
「ほな今度はさっきお弁当食べたとこまで一歩で移動してな。三回挑戦してあかんかったら一からやり直しさすさかい頑張って」
それだけ残して翠霞は消えた。私はそれに思いっきり眉間の皺を寄せて苛立ちをあらわにする
しかしやらないことには始まらないので、ため息をついてから何度か跳ねることで体をほぐした
「…やるか」
三回、ということは一回は失敗してもいいということ。さっきの感覚を思い出してまずは足に霊子を流し込んでいく。霊子で足裏を覆ってバネを作り、行き先を見据える。軽く足先をついたらバネを使って前へ、飛び出す!
霊子のバネを使って瞬間的に一歩を伸ばす。他の人がどうやってるのかはわからないけど、とりあえずこれが私のやり方。同じ容量で他の方向も移動する
本当は前に飛び出す動きとかを削れるといいと思うんだよな。事前動作って敵に次の動きを伝えてるようなものだし…でも今はその練習じゃない
もちろん着地は霊子のクッションで足音を殺す。しかしさっきお弁当を食べたところではないのでやり直しだ
「方角はあってるから…」
あとは距離かな。翠霞の霊圧的に…今が半分てところか。もっと思いっきり飛ばないといけないみたい
とりあえず同じ要領で岩壁の前に戻る。一度深呼吸をして、確実に達成することを考えて…
同じ要領で、前へ!
「あれ!?」
今度は思いっきり飛びすぎた! 流れる景色にゴールが含まれて、通り過ぎたその先でようやく止まる
「やーい! のーこん!」
少し離れたところから翠霞の声がした。言い返したい気持ちをぐっと堪えて最初の位置まで引き返す
「…ふぅ」
次が最後だ。もう失敗できない
最初は足りなくて次は行き過ぎ、間を取らないといけないってことは…とりあえずさっきよりは力を抜かないと
でもなんとなく距離感はわかったから大丈夫。いける
とん、と一つ飛んで前へ出た。音もなく着地した先には翠霞の姿がある
「うん、合格。おめでとう」
はぁ、と一息。安堵していると水を手渡してもらった。流石に練習とはいえたくさんの霊力を使う瞬歩を何度もやるのは体が堪えるからか、心身ともに酷い気だるさを感じている
「時間かかったなぁ、ここまで…」
声は呆れているのに顔はにやりと笑っている。かちんときていると翠霞は頬に手を当てて続けた
「やったらできるのにやらへんっちゅうか、気づきがあらへんっちゅうか…やっぱし考えなしやんな、鏡花ちゃんて。そんなんなんて言うんかいな? 脳筋?」
「人を能無しみたいに言わないでくれる!?」
「実際さっきの瞬歩はのーこんやったしなぁ。うちから見たら能無しやんなぁ」
「あんた本当に私の斬魄刀!?」
お淑やかな顔しておいて出てくる言葉は全部嫌味ど直球ってどうなってるのよ。私ってそんなに嫌なやつなの!?
「え〜、鏡花ちゃんわしに甘いさかいうちが脇を締めさせなあかん思て」
「そうは言ってもさぁ…私たち写し鏡だよね?」
「鏡花ちゃんは鏡に映るわしが、ほんまにおんなじわしなんて保証できるん? それとおんなじやわぁ。うちと鏡花ちゃんはおんなじでちゃうねん」
つまり私であって私じゃないってこと?
それだとしてもどうしてこんなに違うんだろう。自分の一部だってわかってるのに時々憧れるところがあって、同じだけ苛立つ部分がある。そう言うところは自分で自分を見るのと同じはずなのに、確かにその側面は違うものだから戸惑ってしまう
「しょうもないこと言うてる暇あるなら鬼ごっこして帰ろう。鏡花ちゃんが鬼で、隊舎に着くまでに捕まえてな」
「あ、ちょっと!」
そう言って再び消えた翠霞の言葉が、ひどく寂しげだったことが強く心に引っかかった
********
隊舎までの鬼ごっこは今日もうちの勝ち。でも、明日にはそうはいかないかもしれない
震える手を見て体の限界を感じた。この幻想も終わろうとしているのだと、直に訴えているのがわかる
「明日までは、保ってくれないと困るなぁ…」
もう少し、もう少しなんだ。鏡花ちゃんとこうやって遊べなくなる前にちゃんと叩き込んであげないといけないのに
それはこの姿じゃなければ、あの子には伝わらない。わかっている、これはチャンスなんだ
ぎし、と床の軋む音がした。音の方に振り向くと、闇に溶けるような貴方が映る
「…侘助さん」
貴方が口を開くことは少ないけど、それでもうちのそばにいてくれるのをうち自身が知っているから、それでいい
だけど今日の貴方はどこか物憂げに見える。きっと話したいことは同じなんだろうな
「…月大神」
「もう、翠霞って呼んでくださいって言ってるじゃないですか」
このやりとりも何度目だろう。きっと呼んでくれることはないとわかっているのに言ってしまうから、うちもあの子のことは言えない
「…お前は、行かないのか」
「…」
少しだけ、揺らいだ。みんなは明日霧風のところに行くらしい。最後に総動員であいつを倒して、この幻想を終わらせなければいけないんだって、それぞれが気持ちを込めてる
きっとここが一番侘助さんのお役に立てる機会なんだと思う。わかってるけど、それでもうちは
「ごめんなさい。これだけは残していけないです」
あの子のせい。この涙はあの子のせいだ。せっかく侘助さんと戦えるのに、役に立てそうなのに、明日が来たら
明日が来たら、うちらはこの姿で会えなくなるのに
いつまで経っても成長しないあの子が悪いんだ。ずっとずっと考えなしで体を張って、傷ついて巻き込んで…そんなんじゃ体だっていつまで保つか
なのにそうやってしか生きられない馬鹿なあの子が悪いんだ
「…っ」
だから最後までうちがやれることをしなくちゃ。あの子が生きていけるように教えてあげなきゃいけないんだ
馬鹿馬鹿、鏡花ちゃんの馬鹿
うちと侘助さんを引き剥がすようなことしないでよ
「…」
「!」
だらりと落ちた左手に、少し冷たいものが当たった
驚いて顔を向けると貴方が隣にいる
「わ、わびすけ、さ…」
「…笑え」
「…っ」
「…笑え」
貴方が今、それ以上を話すことはない。でもうちが一番わかってる、貴方の前で泣いてはいけないって
明日うちはついていけないんだから
一つ深呼吸をして、貴方に向かってできる限りの笑顔を向けた。それを見た貴方の表情は変わらないけど、うちから見ればどこか満足そうなのがわかる。それが嬉しかった
「侘助さん」
「…」
「また、時々お話ししてもいいですか?」
「…好きにしろ」
やった、また話しかけていいんだ
名前は最後まで読んでもらえなかったけど、それならいいかな…なんて考えた時
「…翠霞」
「!」
驚いて顔を上げる。確かに聞き逃してない、貴方がうちを、翠霞を呼んだ
「…もう言わん」
「えー、ひどいなぁ」
一言だけなのに、その後の照れたような声音も嬉しくて涙が出る。そりゃあそうだよね、貴方の声がうちを確かに呼んだんだから
月大神って刀じゃなくて、うちを呼んでくれたの。こんなに嬉しいことはない
「…早く寝ろ、俺は寝る」
「はい、侘助さん。おやすみなさい」
そう言って貴方はまた闇に消えた
さようならとは、言われなかったな
「…またお話できますよね、侘助さん」
ぽつりと呟いて振り返る。部屋に戻って寝ようと歩き出した時、また自分でない床の軋みを聞いた
目の前に映るのは死覇装の足元。月明かりに照らされるこの廊下に顔を出したのは見知った顔だった
「…こんな時間にどうしたの? 吉良さん」
呼んだ相手は静かな足取りで月明かりの下へと出てくる。そして少しやりづらそうな顔でうちを見た
「君を探していたんだ」
「うちを? またぁ?」
なんて嫌な顔をしつつも、しばらく鏡花ちゃんを借りてたから流石に怒られちゃうかなぁなんて考えた。刀獣退治にも行かせずずっとうちが一緒にいたし
「緋月君の調子はどうだい?」
「やっとはいはいを卒業したかな。掴まり立ちって感じ」
でもこれ以上垂れる能書はない。ここから先は体にどれだけ叩き込めるかだ
「順調なようで安心したよ」
「今日も会いに行かないの?」
本格的に修行を始めてから鏡花ちゃんが意地張って吉良さんに会ってないのは知ってるけど、吉良さんもまた鏡花ちゃんに会いには行かない。その代わり時折私に声をかけてあの子の様子を訊いてくる
「緋月君がそれを望まないだろうから」
「ふぅん」
そこはわかってるんだ。でもメールも電話もしてないみたいだけど大丈夫なのかな?
まぁ、今気分がいいから、ちょっといいこと教えてあげよう。これもうちの役目
「そうだ、いいことを三つ教えてあげる」
「いいこと?」
うん、と頷いた。
「一つ、明日で修行は終わりだよ。理由は明日になればわかる」
吉良さんは黙って聞いている
「二つ、今なら鏡花ちゃん寝てるし寝顔くらい見ていけば?」
そこで吉良さんは悩むように目を逸らした。そういう奥手な所と鏡花ちゃんに見せる嗜虐者のギャップはどうなってるんだろう
「三つ、散々好き勝手してるのに子供ができない理由を教えてあげるよ」
「!」
吉良さんはあからさまに驚いた顔を見せる。何も考えてなかったわけじゃないだろうけど、その本当の答えはこの人にはわかるまい
「鏡花ちゃんはね、存在が不安定なんだよ」
「不安定?」
「そう、体に対して霊圧が強いの。だから体と霊圧を構成する霊子のバランスが不安定で体の一部が正しく機能してない。何かあって少し間違えれば死ぬかも」
「…!」
ほらやっぱり。あの性格の悪そうな科学者とか知ってそうなのに教えてないんだな。本当に性格悪い
「今の内ならいくら好き勝手しても子供なんて夢のまた夢だろうね。その代わりバランスが崩れれば死ぬ。だから霊圧をコントロールしてもらう必要があるんだよ」
うちがつけた修行はその一端に過ぎないって、吉良さんにはわかって欲しいんだ。このままじゃ雑魚なのも本当なんだけどね。確かにうちらは契約から始まったけど、うちが一番あの子の体を知ってるんだから
これもあの子のためにできること
「霊圧を正確にコントロールして、体とうまくバランスがとれるようになれば心配しなくていいと思うけど。どうしたいかは吉良さん次第かな」
逆に言えば、今のままを維持できれば好き勝手できるともとれるしね。どうしたいかは任せるしかないかな
「…すまない、僕が早く気づいていれば」
「無理じゃないかな。霊圧のブレなんて誰にでもあるし」
それが鏡花ちゃんはたまたま変な方向に向いてただけ。わからないのも無理はない
何を思ってあの科学者がこのことを鏡花ちゃん本人や吉良さんに言わなかったのかは知らないけど
「今のうちじゃこれ以上何かしてあげることはできない。どうするかは二人で決めて。できればうちは侘助さんと離れたくないとだけ言っとく」
吉良さんは考え込むように何も答えなかった。そうやって今は考えて欲しい、あの子に何か伝えて届くのは吉良さんだけだから
「こんなもんでいいよね。うちは鏡花ちゃんのところに戻るけど、吉良さんはあの子の寝顔見ていくの?」
「…いや、僕は少し考えたいことがある。おやすみ」
「はいはい、おやすみ〜」
そのまま吉良さんの横を通り過ぎて部屋に戻った。
部屋に戻ると案の定鏡花ちゃんは先に寝てたから、今日だけ同じ布団に潜り込む。寝てる鏡花ちゃんはあったかくて、この温もりを体に刻むように、今日は目を閉じる
********
襖を開ける音がした
いつもなら寝てる時間なのに今日は眠れなくて、でも寝ないと明日に響くから布団の中で目だけ瞑っている
翠霞はまた侘助に会いに行ってるんだろうなぁ、なんて丁度考えていた。狼は夜行性らしいからそのせいかな、と
そしたら襖の開く音がした。そのまま寝たふりを決め込んでいると、翠霞が私の布団に入ってきて少し驚く。翠霞は私の布団の中で私の手を握りながら眠りに入ろうと寝息を立てている。翠霞自身に何があったのかはわからないけど、確実に何かあったんだろうと考えるのには容易い
でも邪険にする気にもなれなかった。翠霞が隣で眠る熱はとても心地よくて、やっと眠れそうな気がしてくる
でも同時に昼のことを考えた。隊舎に帰る前、とても寂しそうな声を出していたことが気になる。やはり今は泡沫の幻想なんだろうな、と思った。それでも翠霞は私にできることを考えて行動してくれてる。他の斬魄刀もきっとそうなんだろう、みんな形は違っても主人を思ってるんだ
「…」
目を開けて翠霞の寝顔を見つめる
翠霞は私が歩法を身につけるのに躍起になっていた。うまく言えないけど、それは戦闘のことだけではない気がしている。翠霞は何を知ってるんだろう
でもここまで言わないってことは、言うつもりがないのかもしれない。それなら私も無理には聞き出さないけど、だけどそれが翠霞の負担になってないといいな
一つ欠伸が出る
布団の中があったかくなってきたから眠れそうなのかな。なら明日もあるし寝てしまわなきゃ
翠霞が明日もいるといい
せめて隠れ鬼に勝ってからいなくなって欲しいから
ご主人は成長してるよって、ちゃんと伝えないとね
あと明日こそリボンを取り返さなくちゃ
続