また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!
また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします
「泡沫」
「ほな始めんで」
「いつでも」
多分、多分だけど、この修行も今日で最後だ
この隠れ鬼で翠霞を捕まえられるかで全ては決まる
「十数えて待っとってや」
そう言って翠霞は山に消えた。言われた通りあえて気配と霊圧は追わずゆっくり十数えてから山に入る
歩きながら翠霞の気配を辿っていき、たどり着いた先からは気配と足音を消して移動していくと彼女を見つけるのまではもう早い。手慣れたものだ
「ほんま、見つけるのだけは早なったやんな」
「手慣れたもんでしょ」
「捕まえれてへんさかい意味あらへんけどなぁ」
にやりと笑って翠霞は逃げる。瞬歩と跳躍を繰り返しながら逃げるあの子を追いかけていくと、今までより体が軽い気がした
木の枝の間を跳んだと思ったら地面に降りて走り、時折物陰に隠れて撹乱しようとしてくるあの子の霊圧を糸を垂らし続けるみたいに追いかける。それだって前みたいに距離は開いてない。目はいつだって翠霞を捉えてて、手を伸ばせば届きそうなほど近いから今日こそ追いついてみせる
「…っ」
躍起になってるとは違う気がした
今日は集中できてる、体が動く
あの子の背中に手が届くまで、後少し
「〜〜〜〜っ!」
届け、届け
走って、跳んで、手を伸ばして。後少しなんだ
「!」
手が届きそうになった、肩先に触れかかったその時
翠霞がこちらに振り向いた
私は走る勢いを殺しきれなくて、翠霞を抱きしめるような形で無理やり止まる
「おめでとう鏡花ちゃん。やっとうちを捕まえれたね」
「最後急に止まっておいてよく言うわね」
「もう肩先に手ぇついとったもん。諦めただけやわぁ」
そう言う翠霞はどこか満足気だ
まるで今日こうなることをわかってたみたいな、そんな声音で言う
「あぁでもこれでうちの役目も…」
その言葉に私も覚悟した。その時
「「!!」」
暴れる獣のような呻き声がする。声は確実にこちらに近づいていて、何かを探してるようにも感じた
翠霞が刀を渡してくるので、少し躊躇ったけどそれを受け取る。それに合わせるようにして"それ"は茂みから出てきた
「刀獣…」
呻き声の正体は刀獣。最近は原因不明の消失が続いてるって聞いてたけど、どうしてこんな山奥に
「考えてる場合とちがう、来んで」
翠霞が構える。私はこちらに敵意剥き出しとは言え相手の動向を窺いつつ構えた
相手はもう一度静かな呻きをあげる。そして次に叫びながらこちらに突進してきた
「! 流れ星!」
即座に流れ星で相手の足を止めるも、相手は止まらず反射的に後ろに飛び退く。流れ星で生まれた石の矢の一本は相手の片足の甲を貫くも、そこから石化は生じず相手はそれを引き抜いてもう一度迫ってきた
「どういうことよ!」
「なんか仕掛けがあるってことやん! 感情的になるの悪い癖やわぁ!」
何度も繰り返される相手の猛烈な突進を交わしながら問答をする。しかし相手の動きがおかしいな、さっきから突進しかしてこない
かと言って涅隊長が言うには刀獣って卍解状態の能力らしいし油断はできないな
「鏡花ちゃん!」
「わかってる! 雷雲、入道雲!」
相手が突撃してたタイミングに合わせて入道雲で覆う。けどいくら雷雲を重ねて厚く作ったからって石化が成功したわけじゃないから、突進で破壊されるのも時間の問題だと思う
一先ず茂みに隠れて様子を見る。入道雲の内側から殴られるような音が大きく響いているので本当にいつ出てくるかわかんないぞこれ
「どうするか…」
なんらかの能力で石化が効かない以上、普段の能力に頼った戦闘はできない
「あないなずっこいの、ずっと使い続けるなんて無理そうやけどな」
「そう思う?」
翠霞も同じこと自体は考えてたのか。でも仕掛けがわからないんじゃ対処のしようもないんだよな
「条件があるか時間決まってるか…試してみるしかあらへんよなあ」
「じゃあとりあえずいつものやる?」
「いつものやって、あかんかったらまた考えるしかあらへんよなあ。同時とおとりとどっちがええ?」
「じゃあ同時からで」
「ほなそうしよか」
一度散会してから入道雲を解く。相手はそれに動揺してたけどすぐこちらに気づいたのかまた突進を向けてきた
「破道の三十一、赤火砲!」
赤火砲を当てて一瞬だけ目眩しをしてるうちにそれは始まる
茂みを走り続ける音は二つ。相手を囲むように私と翠霞は相手の周りを高速で駆け回る。相手が音と錯綜する霊圧に動揺したところを二人で狙った
「「流れ星!」」
刀と掌から放たれたそれは、相手の体に傷を作る。そのうちの幾つからから石化が始まったのを確認して思わず顔が少しにやついた
やっぱりなにか仕掛けがあるんだな、手数で勝負できるなら!
茂みの向こうにいる翠霞と目を合わせる。一瞬の合図から翠霞は茂みを飛び出した
「さぁ、こっちにおいで!」
相手の気を引いて森のさらに奥へと入っていく。一部から石化の広がる相手は動きづらそうだから、これならすぐに片付きそう
「…?」
でも待てよ。どうしてあんなに石化の進行速度が遅いんだ?傷が多いだけ広がる起点も多いんだからもっと広がっててもいいはずなのに
「っまさか」
追いかけながら刀を構える
相手を貫くイメージを持って次は刀を振った
「流れ星!」
鋭い石の矢は相手へと一直線に飛んでいく。だけど何本も当たったはずの矢は掠ってもやはり石化は始まらない。まさか石化してる部分も嘘ってこと!?
ってことは、この前ぶつかられたら翠霞が危ない!
「避けて翠霞!」
でも気づくのが遅かった。気を引くために低速で走っていたとは言え私が叫んだ瞬間には追いつかれて思いっきり体をぶつけられた翠霞は吹っ飛ぶ。慌てて瞬歩で後ろに回り込みその体を受け止めた
「ぐうぅ…あ゛ぁ」
翠霞諸共木に背中をぶつけるまで吹っ飛ばされた。とりあえず私がクッションになったから翠霞が大きな怪我を負うことはなさそうかな
「きょ…かちゃ…」
翠霞の痛みが伝わってくるみたいだ。背中から脇腹にもろでぶつかられたんだ。もし骨が折れてなかったとしてもすぐに話したりできる状況じゃない
「喋らないで、ここにいなさいよ」
翠霞を膝から下ろして立ち上がる。茂みの奥からは重たい足音がして、翠霞を守るように刀を構えた
「なんだぁ? 生きてるのか…」
相手は確かにそう喋った。喋れるなら最初から喋りなさいよ
「私の大事な相棒によく無粋な体当たりかましてくれたわね」
「綺麗な女はねじ伏せるに限るからなぁ」
「暇な奴…」
とは言っても、茂みから出てきた相手にはもう石化の痕跡すらない。やっぱり食らったのはわざとだったんだ
「お前も悪くないな…」
「…それはどうも」
「俺の能力は肉体の鋼化。霊圧が漏れ出ても鋼で蓋をすれば石化なんて効きゃしない…どう戦うのか見ものだな」
相手はにやにやと笑い続けている
「つまり今までのは全部見せかけだったってこと…舐めた真似してくれるわね」
「生存本能さ、仕方ないだろ?」
よく言う
しかし翠霞を庇ったままとなると少し危ない。中距離からの牽制が使えないとなると防御に徹するしかないけど、相手の体が本当に鋼になれるなら石の壁など砕かれてしまう
じり、と少し足を引いた。どこかで逃げ出すタイミングを見つけないと。立て直す時間が必要だ
しかし横に来た人影に戦慄する
「翠霞!」
「もぉ、あんまり大きい声出はんといてや。脇腹痛いんやさかい」
「それなら休んでなさいよ!」
「そんなん言うてる暇あったらいくで!」
とん、と先に翠霞が前に出た
瞬歩で相手を撹乱し時折雷雲を建てて相手の視界を塞ぐ。私はその隙に切り込んだ
「はぁっ!」
そうは言っても相手の体は鋼。踏み込みが浅いと弾かれてしまう
「くっ…」
「どうした、小細工してもそんなもんか?」
「っ、翠霞! 今何分!?」
あたりはもう暗い。それなら、こっちの方が早いはず
「五分だけやわぁ! 鏡花ちゃん!」
「しょうがないな…わかった!」
刀を構える
5分でもいい、できるなら
「卍解!」
さぁ、と風が靡くように全ては作り変わる
そして赤い目は私に敵の場所告げ、同じく敵を追う翠霞と目があった
「今日は新月…水鏡は使えないわね」
月が出てなければ水鏡は使えない。それでも戦いようはある
「翠霞!」
「しゃあないな、鰯雲!」
翠霞の言葉で螺旋状に並べられた岩壁が生まれる。だけど相手はその硬さで岩壁を砕いてきた
「こんなもん無駄に決まってんだろ!」
「流星群」
目をくらませるにはこれしかない。鰯雲で道を塞ぎ流星群で視界を潰す
そのまま流星群に紛れて突っ込め!
しっかりと踏み込んで下から刀で切り上げる。相手の片腕が付け根から落ちた
「あ゛ぁああぁあ゛ぁあぁぁ!」
相手の叫びが聞こえる。刀っていうものは切り方だ。真っ直ぐ切ればそれだけなんでも斬れてしまう
「貴様!!!!」
もう片腕の拳が落ちてくる。すでに全身が鋼とかしているあの拳は喰らいたくない
相手の下を滑り抜けると思わぬ増援がすれ違った
「!」
それは身の丈を超える白い狼。そういえば最初に翠霞を屈服させようとした時も出してたな、あの子
狼は相手の上に覆い被さり、その体重で押さえつけて身の毛を石の矢に変化させたものを相手の服に突き刺した。そこに翠霞が現れると狼は飛び退く。いつ出したのかわからないもう一本の月大神がその手には握られていて、真上から飛び掛かる刃は相手の心臓を貫いた
相手の叫びがまた聞こえる中、翠霞の声が聞こえる
「鏡花ちゃん! ぼさっとしてへんで首跳ねて!」
「っ!」
その言葉に体は動いてすぐに首を落とす。転がった首と胴体はその場で消え去り、後には誰のともわからない折れた斬魄刀だけが残されていた
緊張から解放された体は自然と息を切らせている。維持できなくなった卍解が解けていくのに、翠霞がそこにいるのが新鮮だと思った
「もう、すぐ油断するんやさかい」
「それはごめん」
そんなやりとりをしていると、物陰から狼がのそりと現れる。するとその場に座り込み狼は光となって翠霞に吸い込まれていった
「その狼…」
「うちの分身って言うか…うちが今月大神とごちゃ混ぜになってるさかいうちの部分だけ切り離したもの、かな。すごい疲れるさかいあんまりやりたない」
その言葉に何かしっくりくるものがある。月大神とは、私が勘違いしていただけで二つの要素で成り立ってる斬魄刀なんだ
「翠霞は鞘、そういうことでしょ」
「珍しゅう察しがええなぁ。そや」
「ずっと不思議だった。卍解しないと翠霞には会えないのに翠霞の意思が前面に来る実体化だったことが」
翠霞は最初に出会った時"月大神は自分でもある"というような発言をしていので、月大神の一部が翠霞という狼の姿であるという認識を私は改めなかった
「月大神とは刀の名前…刀は鞘まであって成り立つものだからある意味では一部なんだけど、私を守るためにあるのが翠霞なんだね」
実際は鞘であるゆえに、刀という武器を残して実体化した。だから居なくなっても私が死なないように修行をつけて、結果として今に至る
「そう、なんかを守るのんがうちの役目。月大神はうちと月大神そのものがあって初めて成り立つ斬魄刀…最後に気づいてもらえてよかった」
翠霞の体が輝き始める
あぁ、本当に、この幸せな夢は終わってしまうのか
「…もういっちゃうの?」
「何いってるの、いつでも会えるやん」
翠霞は明るく、でもひどく寂しそうに笑った
「…そうだね」
それでも私が笑い返すことはない。今ここで彼の方以外に笑うのを、きっと翠霞は良しとしないから
「また遊んでな、鏡花ちゃん」
「いつでもいいよ。また遊ぼう」
「うんっ」
淡い光が翠霞を包みきる。私は思わず手を伸ばした
「またね、鏡花ちゃん。楽しかった!」
「まっ…」
伸ばした手があの子に触れることはなく、泣き笑いのあの子は光に還る。腰に差した斬魄刀に触れれば当たり前だけど霊圧が戻っていて、そこに強い寂しさを感じた。あの子はここでずっと一緒にいるのに
しかし泣いてたらあの子に怒られてしまう
それなら私は戻らないと、彼の方の元に
********
戻らなくては、とは思うけど流石に夜中突然現れるわけにもいかないので今日は寝ようと支度をする。すると伝令神機が鳴った
反応すると彼の方から電話。少し嬉しくなりながら出るといつかのように彼の方でない声が聞こえた
「夜遅くにすまん。檜佐木だ」
その声を聞いた時、もしかしてとやっぱり考えはする。話を聞くとやはり酔い潰れた彼の方の引き取り手として私の伝令神機に連絡をしたそう
「はい…はい、わかりました」
これからまた彼の方の屋敷の方に向かうそうなので私も部屋を後にする。まだ着替えてなくてよかったと思った
前回とは違って今回は布団まで敷いて待機。お布団よし、お水よし、玄関以外の戸締りよし
呼び出しベルの音で玄関を開ければ、そこには彼の方を支える檜佐木副隊長の姿。本当にいつか見た景色だと思いつつ項垂れた吉良副隊長を受け取ると檜佐木副隊長は私をなぜか見ている
「如何しましたか?」
私が問うと、檜佐木副隊長は「あ、悪い」と言いつつ今度は私の肩で項垂れる吉良副隊長に視線をやる
「なんつーか…今日は優しくしてやってくれ」
「? はい…」
それだけ残して檜佐木副隊長は去って行った。とりあえず起きる気配がなさそうなので布団に運ぶことにして寝室まで移動する
吉良副隊長って信じられないくらい軽いんだけど、私より身長あるから運びづらいんだよな…私にもっと身長があれば良いのに
とりあえず寝室で布団に下ろすと静かな寝息が聞こえる。こんな形で会うことになるなんて思ってなくて、だから久しぶりの貴方は私の心に動揺を生む
「…」
そっと指の背で頬を撫でると貴方の体温が少し伝わって幸せを感じる
ねぇ貴方、私少しだけ貴方に近づけましたか? なんて小さく呟いた。疑問は尽きない。それでも貴方が好きで、愛しくて、離れたくないからつい考えてしまう
久しぶりに会うから甘える勇気が出なくて、貴方の布団に潜り込めないでいる。もう遅いから自室に帰るつもりもないと戸締りとしてしまったのに
「…!」
少し夜風を浴びようと立ちあがろうとした時、貴方の手が私の手首を掴んだ。起きていたのかと視線をやると確かに貴方は私を見ていて、そのまま布団に引き摺り込まれる
「わぁっ」
それに驚いて少し声が出た。そのまま貴方と私はお腹が密着してしまって、久しぶりに貴方の香りが本当に近くて、胸がうるさい
「い、イヅルさ…」
「どこに行こうとしたんだい?」
「!」
久しぶりの貴方の声だ。数日聞いてなかっただけなのに耳が、嬉しくてぞわってする
「よ、夜風でも浴びようかと…」
「だめだ」
だ、だめって…そんな子供みたいな。貴方が言うのは、嬉しいから、いいけど
それにしても顔が熱い
「ここに居て」
「ひぁ、は、はい…」
思わず声が上ずる。つい何時間か前に翠霞が刀に戻ったばかりなのに、もう寂しさとか一度傍に置かれてしまって今は貴方の声や温もりが私の中を満たしていく
「…いつから起きてたんですか?」
「ついさっき、君が動こうとしたから」
「あ…ごめんなさい」
それは申し訳ないことをしたな…アルコールを抜くには睡眠も効果的と聞いたのに邪魔をしてしまった
「そんなことはいい」
「?」
「…僕に何か言うことがあるんじゃないか?」
言うこと?
なんだろう、一人にしてしまったことを謝ればいいのか、そもそもそんなことになる程弱い私を謝れと言っているのか…それとも他のこと?
「弱くて申し訳ありませんでした…?」
「…君は人の感情に疎いところがあるよね」
貴方はやや呆れ気味に言う。そうは言われても本当にどうしたらいいのか…
でも私だったら、私だったらどうして欲しいかな。かけて欲しい言葉…
「…ただいま戻りました」
「うん、おかえり」
そう返して少しだけ撫でてくれた。"ただいま"と言うとなんだか本当に帰って来たような感覚になる。それはそう、貴方と二人きりの日常に
「お茶でも飲もうか」
「なら、お湯沸かしますね」
完全に目が覚めてしまったのだろう、貴方が起き上がるのに合わせて私も起きる。そのまま寝室を出て私はお湯を沸かしに台所へ向かった
お茶を淹れて居間に向かうと、座卓には珍しく器に入った甘味が数個置いてある。貴方の分のお茶を置いて自分も座って、それから「珍しいですね」とつい言ってしまった。貴方の家にところてん以外のお茶請けがあることは珍しい
「たまたまもらったんだ。僕はいくつか頂いたから君もよかったら」
「ではありがたくいただきます」
甘味を一つとって包装を開ける。その間の沈黙だけなのに少し寂しさを思い出した
「…戻りましたね、みんな」
「…あぁ」
なんだろうこの空気。私も貴方もうまく言えないようなこの空気は、なんなのだろう
久しぶりなのにな、貴方に会うの。もっと甘えたいのにやりづらいと言うかなんか、そわそわする
かと言ってこのままでは立ち行かないので甘味を一つ食べて頭を切り替えることにした。切り替わったと心に決めて座卓の向こうにいる貴方のところに向かう。すると貴方は少し驚いたような照れたような、そんな顔で私と目を合わせた
「どうしたんだい、急に」
私に問う貴方の手に触れて、その勢いで腕に抱きつく。高鳴る心臓を抑えながら欲望を口にする
「…少しくらい、寂しかったですか?」
自分で会わないと決めておいて、その実泣くほど寂しかった。仕事にも行けてなかったから声も聞けないし姿も見れてない。貴方が薄れていくようで辛くて、いつか死んでしまうと思った
あぁ、やばい。ちょっと泣きそう。抱きついた腕から貴方の香りがするし、貴方の体温が伝わってくる。これだけで嬉しい、安心する、もっといたい…好き
でも"寂しくなかった"と言われたらどうしよう。貴方にとって取るに足らない私でないようにもっと頑張らなくちゃ
だめだな。翠霞が刀に戻って寂しかったのに、それは本当なのに、貴方が全て私を満たす
貴方がいい、貴方がいい…私を埋めるのは
そっと、腕に抱きつく私の頭を貴方の手が撫でた。それに合わせて貴方の顔を見ると、貴方は少し照れながら口を開く
「僕も、辛かった。君が真剣にことに当たってるとわかっているから、邪魔をしないようにしていたのに」
「!」
嬉しい、同じ気持ちだったんだ。改めて貴方と繋がってるって思える
「あは…嬉しいです」
にやけてしまう。貴方が私を求めてくれて嬉しくないはずないんだ。夢が現実になるこの感覚は、いつまで経っても浮き足だってしまうし慣れない
「でも、それならもっと甘えてもいいですよね」
いつも優しくしてるつもり…だから檜佐木副隊長の言ってた"優しく"って何をどうしたら答えられるのかわからないけど、いつもより素直になれたら喜んで貰えるかな?
抱きしめていた腕から離れて膝立ちになる。私が動いたのに反応して顔をこちらに向けた貴方とキスをして、それから至近距離で視線を合わせた
「もっとイヅルさんが欲しいです」
「どんな風に?」
「…今日はたくさん抱いて。貴方だけになるように」
そう言ってもう一度キスをする。自然と舌が絡まって少しぼうっとした
「…寝室、行こうか」
「喜んで」
にこりと笑う。居間を後にする頃にはお茶も冷め切ってしまっていた。あんまり飲んでないのに
でもそれでいい気がする。それだけ貴方だけ見ていたということだから
座卓から立ち上がると貴方が私を抱え上げて驚いたけど、今日は文句を言う気になれなかった
どこまでも貴方に満たされる
いつもの日常が帰ってくる感覚と一緒に
終