また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!
また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします
「捜索」
「捜索」
ある日の朝、いつも真っ先に僕に挨拶をしにくるはずの彼女が来ないことに違和感を感じた。しかし特に休みの連絡を受けた記憶はなく…何かの手違いで話が届かなかったのかもしれないとは思いつつ朝礼に向かう
何か調子でも崩したのだろうかと心配になる。やはり朝礼にも彼女の姿が無かったので担当の席官に声をかけた
「すまない、緋月七席をみていないか」
相手は少し考えた後で当たり前の様にその言葉を口にする
「緋月七席でしたら、本日より一週間休暇をとっていますが…もしかして、伝え忘れてましたか!?」
急に慌てた様な相手に僕も焦る。彼女はそんなこと一言も言っていなかったと
「わかった、ありがとう。次は気をつける様に」
それだけ残してその場を去った。落ち着かない歩調で隊舎内を進みながら伝令神機を取り出す
なにか、何か彼女は残しているはずだ。僕に何の断りもなく姿を消す様な子じゃない、嘘をつく様な子では
電子書簡の履歴を確認すると、確かに彼女からの伝言が残されていた。するとそこには一言"少し実家に帰ります"だけが書かれている
「…」
一気に血の気が引いた。僕は彼女に何か不満を抱かせただろうかとつい考えてしまう。確かに彼女は嘘をつく様な印象の人物ではない、かと言って言葉が上手いかと問われれば不器用な方だと思う。こうやって、僕に断りもなく一言残して去ってしまう様なところなんか特に
ただ目的が、もし、本当に別れる様な意味だったらと頭をよぎってしまう。不安になる。そんなのだめだ、彼女は僕のそばにいると言ったのに
嘘をつくはずがないと言う理性と不安に駆られる本能がせめぎ合っている。思考を侵食して、少しずつ不安の面積が増えていく。気がついたら隊舎を出そうになっていた。慌てて仕事があるのにと思い出す
「よぉ吉良、今度の特集のことなんだが…」
不意に、そんなことを言いながら檜佐木さんが隊舎の敷地に入ってきていて、気づけば僕は持っていた書類を押し付けて走り出していた
「すみません、後頼みます!」
慌てる檜佐木さんをそのままに三席へ電話を入れる。一先ず少し急用で留守にするとだけ伝えて流魂街へ降りた
********
「おじさーん、おじさん? 生きてるー?」
藍染惣右介が倒されて少し、少しばたついてたのが落ち着く兆しが見えたので休暇を取った。どうしてそんなに早くと言われれば元よりうちの隊は吉良副隊長が隊長の分まで業務をしていたせいだけど
ぼろくて冬は寒い木の平屋の、鍵のかけられない様な古い扉をそっと開ける。ここが私の育った場所
「あれ? 本当に死んだのかなあの人」
ろくに手紙のやり取りもしてないから生死不明なんだよなあの人。たまには顔見せなきゃと思ってきたんだけど、知らない間に死んでたかも知れない。そしたら手を合わせに行かないと
そっと平屋の中に入る。すると中は私がいた時とさほど変化はなく…強いて言うなら私が寝てた布団がないくらいかな? そうなるとあの人は生きてるか…
「あだっ!?」
後ろから誰かに殴られた。真上からゲンコツだ。こんなことするのは他にいない、この硬くていたい拳は
「おじさん! なにするのさ!」
「うるせえ! コソ泥みたいに侵入しやがって! あと十兵衛さんと呼べと何度言わせるこのガキ!」
「おじさんはおじさんでしょ!」
振り向くとやはり私の育ての親、十兵衛おじさんがそこにはいた。相変わらずボロい甚兵衛と細くやつれた体に無精髭、髪はザンバラ短い上見た目に気を使わないからあちこち跳ねている
怒りっぽいけど、なんだかんだ優しい私のおじさん
「ったく…どうした急に帰ってきて」
「手紙も出してないから顔を見に帰ってみた」
「はぁ…まぁいい座れ、水くらい出してやる」
とりあえず促されるままに移動して小さな囲炉裏の置かれた居間に座る。すると本当に水が出てきた
「ありがとうおじさん」
流魂街では水も貴重だ。汚い川や池は当然、井戸の水だって綺麗とは限らない。どこから入手してるのか知らないけど、飲める水を売って生計を立ててる者もいる。そんな中分けてくれる貴重な水だ、大事に飲まなくちゃいけない
「急に帰ってくるから幽霊でも出たかと思ったわ。元気か?」
「うん」
そっけない会話がいつもの感じ、確かに久しく触れてなかった空気
最後に会ったのは霊術院を卒業して死神になる前だから…ずいぶん帰らなかったなぁ
「どうだ、仕事は」
「そこそこ、かな」
「…そうか」
短い会話におじさんの暖かさみたいなものを感じる。おじさんはいつも問いかける割には踏み込んでこない。私の目が赤い理由も、私にはわからなくて…でもおじさんは一回しか訊いてこなかった
「あ、でもいいお知らせがあるよ、彼氏できた!」
しかも大好きな人! 吉良副隊長が恋人なんてまだ夢みたい
「そんな話聞いとらんわ。勝手に嫁にでも何でも行け、このクソガキ」
そう言っておじさんは水を一口含む。胡座をかいた膝に肘をつきながら私を見るその視線は、子供の頃を思い出した
「ちょっと、若い女の子にクソガキはあんまりじゃない?」
「うるせえ、お前みたいのはクソガキで十分なんだよ」
酷い話だ。もう恋人もいて自立した死神だと言うのに
…隊舎で暮らしてるから自立は微妙か
とにかくもうクソガキではないはず
「剣はどうだ、鈍ってないか」
「一応それが仕事だしね。大丈夫だとは、思うよ」
なんて言いつつ、ここに帰ってきた本当の目的を知ったらそれはそれで怒られそう
「…ならいい。こんなところにいないで外でもみてこい、綺麗だろ」
「もう見慣れたよ、やっと」
そう、やっと見慣れてきた。夜が暗いことも、朝が見えることも
彼の方を見つめられることも
「弥彦には会ったか」
「弥彦さんは違う隊みたいだからなぁ、見かけてないや」
「会ったら金返すよう伝えてくれ」
「またあの人お酒飲んだの!?」
弥彦さんは私を死神に誘った死神。たまにきては徳利一本のお金だけ借りて去っていく変な人。でも今改めて考えたら、わざとかも知れない。どうしてなんだろう
「ふぁ…ぁ、俺は寝る。好きにしろ」
それだけ残しておじさんは敷きっぱなしの布団に向かった。流石に暇なので、平屋を出て久しぶりに付近を散策する
持ってきたお小遣いで駄菓子なんかを買いつつ移動していると、懐かしきやや治安の悪い我が地区がよく見えてきた
水をこれみよがしに売ってる謎のおじさんとか、胡散臭い効能の薬売ってるおばあちゃんとか、まだいるんだって感じさえする。特におばあちゃんは他にやることがないんだろうか
流魂街に馴染みがいいように私服の小袖で帰ってきたけど、おかげで身近な距離で住んでる人たちが見える。ふと、路地裏を見ると私のお菓子を狙ってる様な子供たちの姿が見えた
そのまま少し、考えてしまう
いくらこの地区の治安が比較的マシだと言っても、全員の子供に行く宛があるわけではないし犯罪がないわけでもない。私はおじさんが拾ってくれたからこの目でも死なずに済んだだけだ
路地裏に足を踏み入れると子供たちが動揺した様な視線を向けてきた。私はこんなこといけないのにと思いつつも子供達に声をかける
「…これで水を買いなさい」
一番大きな子供に少し環を手渡す
「その代わり全員に行き渡らせること。できるよね?」
環を受け取った子供は強い瞳で頷いた
「あとはこれもあげる。お菓子で申し訳ないけどみんなで食べなさい」
持っていた駄菓子を全部渡した。食べないよりはマシだと思うからと、思ってしまう。もしかしたらこの子たちの中に死神になれるだけの霊力がある子もいるかも知れないしと言い訳までつけて
本当は物乞いにものを与えるのは良くないらしいんだけど、自分もあの立場だったかもしれないと思うと何ができるだろうとつい考えてしまう
そこからは何も言わないで路地を出る。後ろにいた子供たちが「ありがとう」と言ってくれたので振り向かずに手を振った
大きな通りに戻ってそこから空き地の方に向かう。特に何でもない、荒んだ土だけの場所なんだけどここか家の前でおじさんは剣を教えてくれた。夜は見えなくて大変だったと思うのに、おじさんはいつも迷わずここに足を運んで見えてるみたいに私と刀を合わせる。今思えば、びっくりするくらいおじさんて強いんだろうなって思える。勝てないのはただ私が下手くそなんだと思っていたのに
霊術院に行ってからこの空き地にはきていない。昼間見るとこんな感じなんだって思いながらふらふらと歩いていると、見知った霊圧を感じた
「…?」
気のせいかと思って辿り直してみる。でも違うみたい、この霊圧は確かにこの付近にある。これだけ静かでわからないわけがない、この霊圧は彼の方の霊圧だ。でも何でこんなところに
とりあえず残してきた仕事があったか考えた。思い出せる限りではない…では伝え損なった? いやそれに関してはちゃんとメール入れたし、休みも正式に取ったから問題ないはず。ていうか仕事残ってて直接くるとかよく考えたらありえないか
彼の方の霊圧がまっすぐこちらに向かってくる。少しだけ身構えると、瞬歩で移動してきた貴方は私の手を取るなり叫んだ
「ここで何をしているんだ!」
「…?」
息を切らせてこちらを見る貴方を見て呆気に取られる。たくさんの"どうして"が出てきて混乱してきた
「…何ってその、メールに書いた通り…」
「だから、それが何をしてるって話なんだ!」
「???」
何を言いたいのかがわからない。単に帰省するのだけで何かした?
「君が、君が僕を置いて行こうって言うのか? 僕だけ見てるんじゃなかったのか? どうして急に帰るなんて言い出した? 僕の何が不満なんだ」
「え、ちょ、まってくださ…」
「君は嘘をつかない、そう言ってたじゃないか。それさえ嘘なのか? 急にこんな飛び出す様なことをして」
「まって、待ってください!」
私も混乱してるけど貴方も混乱してる様だと思った。これは一度落ち着いて話をしないと
貴方は息を切らせて必死にこちらを見ている。嬉しいけど、嬉しいけど誤解を生むのは本意じゃない
「私は、育ての親の顔を見にきただけですよ。他意はないですし、貴方を裏切る様なこともしません」
「じゃあどうして急にこんな、僕の許しもなくなんて君らしくないじゃないか」
「? 言ったような」
あれ? 私言ったよな…?
「この間のお泊まりの時、近々実家に帰省しますって、言いましたよね?」
これは貴方も許してくれたはず
「具体的な日時を聞いてないし、一週間もなんて」
「何年も帰ってなかったので、父のもとで修行を積もうかと…」
「…」
貴方が急に黙ってしまった。どうしようこれ
とりあえずわかんないので抱きしめた。これで深い意味はないと伝わるだろうか、せめて貴方を裏切りたくないと言うことだけは伝わってほしい
「…僕が嫌になったのかと思った」
「なんで!?」
「急に"実家に帰る"なんて言うから、何か機嫌を損ねるような事とか嫌われるようなことをしたのかと思って」
「それは発想が飛躍しすぎでは…?」
あなたの腕が私の体に伸びて、抱きしめ返してくれる。貴方の匂いが強くなって胸が鳴った
「君は嘘をつくわけないと思いたくて、気がついたらここまできてたんだ。電子書簡を見た時は血の気が引いたよ」
それってつまり貴方が私と別れたくないと思ってくれたってこと…?
え、何それ私明日死ぬの? いいことがありすぎて反動で死ぬの?
嬉しすぎて思わず見上げてしまった。そんな、貴方が、そんな、執着を見せてくれるなんて。私だけじゃないんだ
視線に気づいたのか下を向いた貴方と目が合う。やっぱりかっこいいなぁ…こんな綺麗な人が私を見てくれるなんて奇跡としか言いようがない
でもなぜか貴方は私と少し見つめ合うと、脱力したようにため息をついて私を強く抱きしめ直す
「本当に、君ってやつは…」
「?」
「僕を振り回すのが上手い」
「ご、ごめんなさい…」
わざとではないけど迷惑をかけてしまった。これは私の伝達不足なので反省をしなくては…
「やっぱり首輪に鎖か閉じ込めないといけないな」
「それは嫌です! 貴方をお護りできません!」
その話まだ残ってたの!?
私は絶対お断りだ。貴方を護りたい気持ちは人一倍なのに、貴方にいて欲しいのに
「…僕の言うことが聞けないのかい?」
「それだけはきけません。喧嘩してでもきけません」
「「…」」
流れる沈黙。その後貴方は私を引き剥がしてまっすぐ目を見てくる
「君はどれだけ僕を心配させる? 何度も無茶をして更にはこんなふうに飛び出して…僕の側で大人しくしていてくれないか」
「それは無理です。私は貴方が居ないと生きていけないから貴方をお護りするのですから、今回伝達不足だったのは反省しますが無茶なんてしてません!」
「あれだけの大怪我やら爆発やらしてよく言うじゃないか。君は僕から居なくならないって言ったのに、それは嘘だって言いたいのかい」
「そんなわけないでしょう! 貴方をお護りするのは貴方が老衰で死ぬまで一生です。己の命があって初めて成立するのですから私は私の命も保持します!」
「その発言は矛盾しているな。僕が怪我しそうになったら飛び込むと言ったのは誰でもない君だ。それはそれで死んでも良いと言ってるようなものじゃないか、それで本当に生き残れると思っているのならとんだ思い上がりだ!」
もう論点なんてズレてるのに言い争いが止まらない
どうして、どうして貴方を失いたくないだけなのに。それだけなのに、わかってくれないの?
「それは…っ、貴方の恋人であるからこそ貴方を失いたくないのです! それだけが私の願いなのです!」
「そうやって命を軽く見るなと言ってるんだ! そんなに頑固なら本当に縛り付けるぞ!」
「〜〜〜〜っ! イヅルさんの分からず屋!」
「それは君の方じゃないか!」
こんなに喧嘩したの初めてだから、引っ込みがつかない。でもどうしても、どうしてもこれだけは譲れないのに。貴方に傅き、貴方を護り、貴方といたいのに
そんなのこと考えていた時だ
「!?」
後ろから頭頂部を誰かに殴られた
「ちょっ、なんです…っておじさん!?」
振り向いた先にはなぜかおじさんがゲンコツを構えていた。何でこんなところに
「知ってる人?」
「あ、えと…育ててくれた人です」
貴方は怪訝そうにおじさんを見ている。おじさんはそんなこと気にした風もなく私に言った
「起きてみりゃいねぇから、別れの言葉もないなんて失礼なやつだと思って散歩してたらこれだ。人気がないからって大声出して喧嘩すんなクソガキ」
「ちょ、吉良副隊長の前でそうやって呼ぶのやめてよね! 私が悪い子みたいでしょ!」
「こんなところで喧嘩してて良い子もクソもあるかクソガキ」
怒ってたら後ろに体を引かれた。貴方が後ろから私を抱きしめたのは明白で、その当人は警戒した様子で私を手元に置きおじさんを見ている
「…そいつぁ誰だ。死神…知り合いか?」
「上司で、付き合ってる人…」
言ってて恥ずかしいな。結婚しようって話でもないのに
「何だ、痴話喧嘩かよ…」
おじさんは心底呆れたようにため息をつく。心配して損したと言わんばかりだ
「聞いてりゃお前は生意気だしそっちの若造は極端だしで話にならん」
「…何よそれ」
「そのままの意味に決まってんだろ。いいか鏡花、"護る"ってのはな対等になってから言うもんだ。背中を預けられるやつになって初めて言える。だから生意気だってんだよこのクソガキ」
「!」
なにか、動いた気がした。どこかで"そうなんだ"と腑に落ちてしまうのは悔しいけど、間違ってるとも思えない。私の気持ちは思い上がりだったってこと?
だから、だから翠霞もあんなに躍起になって歩法を教え込もうとしたの?
「そこの若造もだ。こいつはそんな風に押さえつけて言うこと聞くようなバカじゃねえ、大事にしたいって言うならせいぜい死なないよう稽古でもつけてやるんだな」
「…」
貴方は答えない。一触即発って程でもないけど、ずっと目の前の相手を睨みつける貴方に対して当のおじさんは余裕そう
「ったく…痴話喧嘩に付き合わされるなんて今日はとんだ厄日だぜ。俺は帰る、お前たちも帰るなら一言くらい言え」
心底うんざりと言った様子でそれだけ残すとおじさんは去っていった。気がつけば辺りはもう暗いせいか抱きしめてくれている貴方の体温が目立つ
「…」
おじさんに何も言い返せなかった
むしろ腑に落ちてしまって、自分の身の丈を知る。だけど私はこんなに貴方を愛しているのに、他にどう言えば伝わるんだろう
「…すまなかった。強い言葉を使って」
「私こそですよ…ごめんなさい」
何にせよお互い少し冷静にはなれたみたいで…謝罪の言葉はすぐに出た
「まさか君がこんなに頑固とはね」
「…ごめんなさい」
でも確かにおじさんの言う通り私の言葉が思い上がりだとしたら、本当に修練が足りていない。だからここまできたのに
そうか、そうだよね。翠霞に訊かれるまでもなかったんだ。私が貴方を護りたい気持ちと隣りを歩きたい気持ちは平等で、その思いが繋がって初めてそれは成される…
「流石は君の養父の方というか…君のことをよく見ている」
貴方はため息混じりにこぼす。私はそこに複雑な思いをもった
「口は乱暴なんですけどね…優しい人だとは思います」
なんだかこそばゆいな、好きな人に身内を見せるというのは…おじさん見た目気にしないし
「良い親御さんだと思うよ、悔しいくらいに」
「…ありがとうございます」
まだ心が落ち着かない。おじさんに言われた言葉がざわざわする。でもきっと、何度考えたって本当のことだ
「…君の家に行こうか、案内してくれるかい」
「ボロ屋を見られるのは恥ずかしいですね…」
「構わない。これも君を知ることだから」
「うー…わかりました、こっちです」
とりあえず二人で歩き出す。暗い夜道は歩きづらいだろうと貴方の手を引くけど、果たしてこれはあってるのか
やや雑木林になっている場所を抜けると、大きな通りに出る。と言っても夜になってしまえば人気もないけど
昼間は薄暗かった程度の路地裏は真っ暗で、すこしおっかない気もする。なにか潜んでそう
「!」
そんなことを考えていたら急に闇の中へ引き摺り込まれた。犯人である貴方をみるとそのまま壁に押し付けられて戸惑う
「イヅルさん、なん…」
すぐ唇を塞がれた。問答無用で入ってくる舌に翻弄されるけど、それを受け入れてしまう私は確かにいる
「ん、んんぅ…っ、ぅん…んん…っ」
私の思考を侵食するように貴方の舌は私の舌を絡めて離さない。やっと解放された頃には、頭からぼうっとして体に力が入らなくなる
「きゅ、うに…なん…」
暗い中でよく見えない貴方を見上げると顎を持たれて視線が合う気がする。貴方はいつもより低い声音で私に言葉を放った
「…ちゃんと話をしなかったお仕置きはしようか」
「ひぇ…」
これは逃げられない。相当怒ってらっしゃる。
固まっている私に対して貴方の手は流れるように私の腰を滑る。そのまま後ろに手が回って珍しくお尻を掴まれた
「ひゃあ!?」
「声を上げるのは構わないけど、人が来るよ」
「!」
「聴かれたいなら別だけど」
すぐ口元を手で押さえた。貴方には見せたくても他人に見せたいわけじゃない
貴方はそれを確認したような間を置いてまた手を滑られせる。逆手は私の肩を壁に押さえつけたまま、利き手が小袖の隙間から足の付け根あたりに侵入してきた
「…っ」
これは何をされてるんだろう。こんなところで手を出されるなんて思ってない。貴方がやるならだめじゃないけど誰が来るともわからない今は少し不安だ
内腿の付け根に触れた貴方の手は少しだけ上がって下着の中に指を進ませる。恥ずかしくて脚を閉じてもふしくれだった細い指が捩じ込まれて秘部に触れられた
「…濡れてる」
「!」
「本当に淫乱だな、君は。それとも僕が触れば必然的にこうなるのかい?」
「…っ、後者ですよ…」
ここまでされたって触れてるのは貴方と思うと体は自然に反応してると思う。どれだけ罵られようとそれは変わらない
「へぇ、それは光栄だ」
どう見たところで心にもないことを言いながら貴方は私の秘部を弄ぶ。僅かに水音を立てながら快楽を受けるそれは、私の思考を乱す
「!」
膣内に指が入ってきた。脚を閉じてるせいでやや抵抗があるけど、それは肉壁を掻き分けて奥を探している
「脚開いて」
「やぁ…っ」
「…このまま粘ってても見られるだけだと思うよ」
「…っ」
貴方以外に見られるのだけはごめんだ。仕方なく脚を少し開くと、指はするりと奥まで挿入ってきて私の弱いところを撫でる
「っ!」
しつこく、いやらしく、追い込むように指先は私を責めた。耐えられずに声を出すのを待っているみたいに
「!!」
挿入ってない親指が陰核をなでる。膣内の指と連動するように動き始めた
「〜〜〜っ、ふ…んっ…」
どうしよう、このままでは果ててしまう。貴方が私の弱いところを知らないわけがないのに。果てたら声が出てしまうかも
「や、ぁ…んんぅ…ぁ…」
手で押さえても限界がある。流魂街なんて建物の壁は薄いのに、これ以上大きな声を出したら本当にバレそう
ぐり、と親指が陰核を潰した。連なるように膣内も圧迫されて声を失う
「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
息が上がる。だめだ果ててしまった。なんとか声は出ないで済んだけど、足が震えてる。それなのに
「!」
とん、と膣内の指が果てたばかりの過敏な弱点を叩く。それだけで僅かに果てた。それはずるい
「くっ、ふぅ、んんぅ…っ」
何度もそこを叩かないでほしい。過敏になってるから本当に耐えられなくなってしまう
空いた手で貴方の死覇装を掴んで懇願する。こんなことはもうやめて、こんなあわれもない姿貴方以外になんて見られたくない
「〜〜〜〜…っ」
それでも貴方が止める気配はなくて、声も出せずにまた果てた。足に力が入らなくて倒れそう
「はぁっ、はぁ…っ」
息が荒い。どうしようこんな、誰かに見られたら
不意に、ずるりと貴方の手が離れた。力の入らなくなった脚で立てるはずもなくて壁を背中につけたままずるずると座り込む
すると、すぐ横に灯りが見えて顔を顰めた。すぐ前に視線の合った貴方が見えて、ふわついた頭でどうしてしゃがんでいるんだろうと考えた
「何してんだお前ら?」
そう声をかけたのは提灯を掲げた知らない人。この時間だから見回りが何かだと思うけど、提灯程度の灯りではその姿をちゃんと見るのは難しい
「こちらの女性が脚を痛めてるのを見かけて。様子を見ていたんです」
どうしてそういう話になったのか知らないけど、貴方も方便を使うことがあるんだなと思った。話に合わせて申し訳なさそうに足首を見ると、相手は信じてくれたのか覗き込んでいたところから姿勢を正す
「大丈夫か? 送っていくか?」
「いえ、それは僕が」
「そうか、気をつけて帰れよ〜」
そのまま提灯を持った男は去っていった。私が胸を撫で下ろすと、立ち上がった貴方が手を差し伸べてくれる。その手をとってから私は少し貴方を睨みつけた
「…わかっていましたね? 人が来るって」
「勿論」
「…意地悪」
はぐらかさないだけ許せるけど、それでも恥ずかしくて火を吹きそう。全く何を考えているのか
まだすこしふらつく。着物も直さないといけないし、こんな急なことでは対応しきれないというのに
簡単に裾を直すと、待っていたみたいに貴方が私の手を引いた
「手をつなげばまだ歩きやすいと思ったから」
「そういう問題じゃないですけど…とりあえずうちに案内します」
大きな通りを離れて平家に帰る
暗い道を歩き進めていくと平屋から漏れる小さな光が見えた。あそこが私の家だ
「ただいま…」
「あぁ。彼氏はいんのか」
「いるよ。中入れても良い?」
「好きにしろ」
貴方を呼んで中へ招き入れると、貴方は少しだけ感慨を感じるような顔をして中へ入った
「遅くにすみません。お邪魔します」
「気にすんな。水しか出せんが」
「お気になさらず」
囲炉裏を囲むように三人で座る。すると貴方がおじさんに頭を下げた
「先程はご迷惑をおかけしました。吉良イヅルと申します」
深々と頭を下げる貴方に対して、おじさんはそれを見もせずに返す
「一々頭なんぞ下げんで良い。八幡十兵衛だ」
返されたのに応えるように貴方が頭を上げる。なんだろうこれ、本当に平民の家に貴族の人が来たみたいな育ちの違いを感じる
「後若いうちは間違えてなんぼだ。気にすんな」
「おじさん、もう少し優しく言えない?」
「うるせぇぞクソガキ」
「また言ったな!」
怒る私を彼の方が止める。不貞腐れてそっぽを向くとおじさんもしょうもないと言わんばかりにため息をついた
「…おい鏡花。お前なんか企んで帰ってきただろ」
「うっ」
ぎくり、と肩が跳ねる
「な、なんでそう思うの?」
「この時間まで帰らねえってことは何日か休みを取ってるってことだ。俺の顔見るだけならそんなにいらんだろ」
「う…」
なぜそんなにお見通しなのか。私嘘つく才能ないのかな?
でもバレてしまったのは仕方ないので諦めて口を開く
「久しぶりに稽古をつけてもらおうと思って…」
翠霞に修行をつけられたことで自覚した。私にはまだ何も足りてないって、だから今度はおじさんのところで基礎を見直そうと思ってきたんだ。それなのに
「無理だな」
「!?」
間髪入れずに返ってきた返事。思わず目を見開いて驚く
「俺は死神の戦い方を知らん。斬術だって基礎しか教えてやれん…と言うか基礎をどれだけやるかでしかねぇ。教えて欲しかったらそこの若造に頼むんだな」
「…」
おじさんはそう言って吉良副隊長を顎で指す
「見たところお前は相当腕が立つだろ。このバカは攻めることでしか守れん、戦い方を矯正するかそのまま伸ばすかはお前次第だが、とにかく殺したくないなら叩き込むことだな」
「いえ、僕はそんな」
「謙遜が結果を生むとは限らんぞ」
悔しいけどおじさんの言うことは合っていて…私は結構猪突猛進なところがあるから直さないととは、思っているんだけど一人で矯正できないでいる
「わかったらとっとと帰れよ。うちに三人分の布団はないし、この辺ならまだ泊まれる宿もある」
「…うん」
「…」
私は囲炉裏から立ち上がった
「行きましょう、イヅルさん」
貴方の肩を叩いて促す。貴方は少し名残惜しそうに立ち上がって私と玄関へ向かった
「おい若造」
声に反応して振り向くと、おじさんはこちらを見ていない。不思議に思っていると小さい声でおじさんは言った
「…娘を頼む」
私は目を白黒させた。娘なんて言ったことないくせに。おじさんなりに大事にしてくれてたんだ
「…はい!」
貴方の意気込んだ返事に嬉しくなる。おじさんはそれだ言いうと今度は手を振ってとっとといけと払ってきた。絵に描いたように不器用な父親。
「また来るね、おじさん」
そこにも答えはなかったので構わず二人で平家を出る。家の外にあった提灯が三つあったのでひとつ借りて歩き出した
********
「おじさんが山菜を下ろしてる旅館があるのでそこに行きましょう。素泊まりならさせてくれるかも」
おじさんの生業は付近の山で山菜を収穫して旅館に下ろすこと。まだ日の上りきらないうちから作業が始まるので、子供の頃はその時間だけ手伝っていた
貴方はこの辺に詳しくないと思うのでまた手を引いて歩き出す。暗い夜道も提灯の灯りがあれば案外歩きやすいもので、しばらく歩くと旅館が見えてきた
大きな二階建てのお屋敷のような佇まいのその旅館は、源泉掛け流しの贅沢な温泉旅館。私が先に中に入って事情を説明し、素泊まりの許可を得て貴方を招く
中居さんの指示に従って名簿に名前を記入してから部屋に案内してもらって、ようやく肩の力が抜けた
「はぁ〜〜…」
部屋の中に備え付けられたお茶を飲んで一息。今日一日の疲れが少し抜けるよう
「お疲れ様」
「それは貴方もでは?」
「確かにそうかもしれないな」
吉良副隊長を死神と見たからか、部屋はいいところに回してもらえた。素泊まりと思えない豪華さと言うか…見回すと個室露天風呂までついてるのが見える
「改めて良いお部屋ですね…」
「少し気が引けるね…お財布大丈夫かな」
「おじさんにいつもお世話になってるからって、割引はしてもらえるようです…」
お互いそんなに贅沢して暮らしてるわけでもないのでこんな豪華な部屋は気が引ける。そうは言っても貴方はお屋敷があるはずなんだけど…?
とりあえず所持金で足りるか心配なのはわかる
「とりあえずお風呂いただきますね」
なんて立ち上がると貴方が言った
「一緒に入るかい?」
「え、良いんですか?」
「…それを訊くのは今更だと思うけど」
言われて確かに、と思った。普段からまぐわいの後のお風呂は一緒だから同じか…
「それなら…一緒がいいです」
私が欲に負けたので一緒に入ることになった。体を流してから二人で湯に浸かる
「はぁ〜…気持ちいいですねぇ」
「うん」
温かいお湯が体に染み渡る。露天なのでまた風が気持ちよくて、うっかりしたら寝てしまいそう
空を見上げれば美しい星空が煌めいている
「お酒欲しくなりません?」
「珍しいね、君がそんなことを言うなんて」
「風情があるじゃないですか」
そう言うと、貴方はどこか納得したようだった。
「言われてみればそうだね…何泊かできるようだったら飲んでいたかもしれない」
「ですよねぇ」
綺麗な月と温かい温泉と…これを風情と言わずしてなんと言えばいいのか。お酒に弱い私でもちょっと一杯、なんて考えてしまう
「でもいいよ。僕には君がいるから」
「…!?」
そう言って貴方が私の肩を抱く。まって、つまりそれって…なんて考えてしまう。私がすけべなのかな
「つまりそれは、ここで頂かれるということですか?」
「…嫌ならしないけど」
「その言い方はずるい。さっきあれだけ焚き付けておいて」
さっきのあれで興奮しなかったかと言われれば嘘になる。じゃなきゃあんなに反応したりしない
「気に入ったのかい?」
「〜っ、教えません!」
言わなくても流石にそのくらい気づいてるくせに! 恥ずかしくて言えるわけない
私がもだもだとしていると貴方が私をずらして自分の股の間に置く。後ろから抱きしめられる形になって、耳から吐息を感じ体が跳ねる
「きゃっ…」
後ろから貴方の手が私の乳房に触れた。大きな掌が私の乳房を柔らかく揉む
「…セクハラと思って言うの控えていたけど、君って結構着痩せするよね」
「…それは、太っていると言いたいので?」
「あぁいや、その…胸が、大きい、から」
表情は見えないけど声音は明らかに焦っている。少なくとも悪意がないのは伝わってきたので許すことにしたけど、そんなに自分の胸が大きいと思ったことはない
「…大きくないですよ。上には上がいます」
松本副隊長とか、涅副隊長とか…私なんて平凡な体型だと思う
「充分だと思うけどな。この手にギリギリおさまる感じとか」
「…そういうものですかね?」
「僕は好きだよ」
「…なら良いです」
大きさとかより貴方が好きかの方がよっぽど知りたい。でも確かにセクハラっぽい発言だとは思った。
「んん…」
軽く胸の先を摘まれる。左右で違う触り方をするからどちらにも快楽があってもどかしい
「んぁっ」
きゅっと胸先を摘まれると弱い。個室の露天風呂だから誰も他にはいないけど、隣の部屋には人がいるかもしれないし気をつけなきゃ…
「もっと声を聞かせて欲しいんだけどな」
「っ、無理ですよ…! 隣に人がいるかも知れないんですよ!」
「そんなもの気配を辿ればいい。誰も居ない」
「…っ!」
確かに気配では誰も居ないけど! 寝てるだけかもしれないし!
「ね、てるだけかも」
「大丈夫。本当に誰も居ないから」
そう言って今度は胸先を強く摘まれる。痛みと快楽で思わずのけぞって声が出た
「あぁぁあぁっ」
「そうそう、その調子だ」
「あ、ひぁ…あぁ、つまんだあとやさしくするの、だめ…っ」
「気持ちいいから?」
私はその問いかけに小さく頷く。すると貴方はそれを繰り返すからまた声が跳ねる
「あああっ! だめっ、て…いったのにっ、ひぁっ、きもちっ…あっあっ」
「だめと言われるとしたくなる」
「いじ、わるぅ…っ」
かりかりと胸先を指で引っかかれる感覚が鋭敏になって気持ちいい。でも胸ばかりで下腹部が反応してしまうのが恥ずかしかった
でもお尻に貴方の固くなった自身が当たって、私で興奮してくれてるのだと思うとどうしても嬉しくて体が貴方に媚びようとしてしまう
「…もう欲しそうだ」
「!」
「すぐわかるよ。これだけ腰を当てられればね」
「…っ」
改めて言われると恥ずかしくて火を吹きそう。貴方のが欲しいのは本当なんだけど
「どうして欲しい?」
「〜〜〜〜〜…っ!」
意地の悪い問いに私は振り返る。やっぱりオールバックの貴方も綺麗だな…じゃなくて! 貴方にキスをして舌を絡めてから離れて目を見た
「意地悪されるくらいなら、今日は私から挿入れます!」
宣言して貴方の自身に触れる。脈打つそれはやっぱり熱があって、触れた先から火傷しそう。私が浮力で少し浮いてるからか貴方は伸ばしてた脚を畳んで胡座をかく、私はその上に乗って秘部に当てがった
「ん…」
お湯の中に愛液が流れてしまってるのか少し入りづらい。痛めないようにゆっくり挿入して、貴方の自身を根元まで受け入れた
「は、ぁ…」
圧迫感が気持ちよくて少し間が空く。その後に腰を動かして抽送を始めたら、貴方の少し驚いた顔と目が合う
「君からしてくれるのかい?」
「…いつも貴方にもらっているから」
たまには私から返さないと、まるでただ受け入れるだけの女みたいで…少し怖い。せっかく貴方が好いてくれる体があるならもっと見て欲しいと、恥ずかしいけど思うし
「あ、ん、んん…っ」
水音が大きくなると恥ずかしいので動きに少し制限はあるけど、律動をつけて上下する。貴方の自身が圧迫された膣内で動くとき押しつけられる感じが快楽につながった
ちゃぷちゃぷと抑え切れない水音が水面で跳ねる。羞恥に負けないように腰を動かして貴方も気持ちよくしてあげたいのにどうしても腰が引ける。こんなことをしていたらまたお尻を掴まれて無理矢理されてしまうのに
「恥ずかしそうだね」
「っ、ごめんなさい…もっと頑張ります」
「もう少し続けて。君が恥ずかしがるのは嫌いじゃない」
「…っ」
悔しいので抽送の速度を少し上げる。その分水音が立つけどしかたない。膣内で擦り上げるイメージで動いていくと、貴方から小さい吐息が聞こえた
「あは、これ好きですか?」
「どうかな」
「あ、内緒はずるいですよ」
「なら君もさっきの行為が好きだったか答えてもらわないと」
「!」
さっきの吐息だって一瞬だったのにもう余裕の顔してる貴方が私に問う。さっきのって…路地裏でやったやつだよね?
「〜〜〜っ! き、きもち、よかった。です…」
答えてから思った、答えなければこちらが貴方の答えを得れない代わりにそれで済んだのではないかと。我ながら阿呆だ
「僕も今の君の動き方は好きだな」
「〜〜〜〜〜〜っ!」
「それともこれで終わりかい?」
「…っ!! 頑張りますっ!」
照れ臭さの余り止まっていた抽送を再開する。さっきのイメージで貴方の自信を擦り上げて…あぁ、やっぱりこれ恥ずかしくて火を吹きそう
貴方を気持ちよくしてあげたいのに自分の快楽が溜まってきた…まずい、このままでは動きが鈍くなってしまう
「ぁ…あっ、あぁ、んん…」
声を我慢しなくていいと思うとつい出てしまうな…なんて考えていたら不意に貴方が動いた。両手が骨盤をなぞってお尻を掴まれる
「—!」
「そろそろ我慢の限界」
やだ、と言うには遅かった。掴まれたお尻が強制的に上下に揺らされて自分で動くのでは得られない快楽になる
「あぁ! やぁっ、また…っ」
何度失敗するんだろう。貴方に奉仕をと思うのに結局貴方に覆されてしまうばかりで役に立たない
それなのに貴方にしてもらえるのが嬉しくて、いつも抗えないでいる。貴方に押さえつけられてる瞬間が一番、一番貴方を近くに感じるから
「いっ、ま、って…いっちゃ」
「…っ、僕もすぐだから」
水面が激しく波打っている。それだけ激しい動きをしていると言うことで、とても恥ずかしいのに迫る快楽ばかりが頭を埋めた
「らめ、いづるさ、ん…っ、いくい、くぅ…っ! あぁぁあぁぁあっ!」
「…っ」
頭が弾けたのと同時に、下腹部の中で熱いものが広がる。脈打つそれは最奥にあって、私を幸せで満たす
「は、ぁ…はぁ…」
のぼせたかな…少し意識が朦朧とする。揺れる視界でキスをすると、貴方の手が私の背中に回った
「のぼせただろう、無理をしない方がいい」
「はい…」
貴方が私の中から自身を引き抜くと、そのまま私を抱えて湯船から上がり脱力した体から精液がかき出される。この感覚が死ぬほど恥ずかしいのにのぼせた体では抗えない
少し外気に触れたからか立てるようになった体の水気を拭うと、いつの間にか身支度を終えていた貴方から旅館の浴衣を渡された
「あ、ごめんなさい…ありがとうございます」
「気にしなくていい。体が冷える前に着替えて欲しかったから」
「わかりました」
濡れた髪を纏めて浴衣を着る。簡素な脱衣所から部屋に戻ると、貴方が水差しから湯呑みに水を注いでくれていた
「お帰り」
「ただいまです」
「水を淹れたから飲んで。まだのぼせたのが残っているだろうし」
「ありがとうございます」
座卓に備え付けられた座椅子に座って水を飲む。ほてった体に水の冷たさが染み渡った
ふと貴方を見ると伝令神機で何やらやりとりをしている。こんな時間なのに電話がかかってきたみたいで何やら軽く問答をしてるよう。少しして貴方が電話を切ると、困ったようなため息がこぼれてきた
「如何しましたか?」
「戸隠三席から…僕の急用なんてお見通しだからそのまま君と一緒に一週間休めって」
「あら優しい。いつも働き過ぎな貴方を思えば感謝しないといけませんね。お土産を買って帰りましょう」
「仕方ないじゃないか、僕には副隊長として責任が…」
「責任は時として不利益です。そう言ったものは分散していただかないと」
ここでも小さい喧嘩が始まる。私は仕事の利益をとって話をしてるつもりだけどな、貴方はなんでも一人で背負おうとするから
納得できないような貴方が少し黙って、そこに女性の声が飛び込んだ。逃げるように貴方がその対応に向かって、何やらお財布から環を渡している。戻ってくるとさっきまでの話を横に置いたのか表情を切り替えていた
私はお水を飲み切ったのでお茶に切り替えて再び啜る。貴方の分も用意したら貴方も一緒にお茶を飲んでいた
「さっきの中居さんとのやりとりは何があったんですか?」
「簡単なもので良ければ夜食を持ってきてくれると言っていたから、ついでにお酒を頼んで明日も泊めてもらえるか確認して…そんなところ」
「お酒ですか…? ていうか明日もって?」
「明日も泊まれるか確認したら部屋が空いてるって言うから、それならもう一泊してお酒でもと思って」
貴方も本当に一週間休むならそれでも構わないけど…心配なのはお金の方。急なことで持ってないだろうし
「構いませんが…お財布大丈夫ですか?」
「後日清算で話がついたから大丈夫」
「なら私も出しますね」
「気にしないでいい。帰ればいくらでも泊めてあげられるから」
さらっと上級管理職の発言してるな…高給取りめ…いくら席官と言っても私の稼ぎと比べたら雲泥の差なんだろうなぁ
「…わかりました」
不服だけど納得することにした。正直貴方は貯金すごそうだしたまには頼ろう
そんな会話をしていたら夜食が到着して中居さんが部屋の中へ運び込んでくれる。おにぎりと小鉢がいくつか置かれたおぼんが二つ届けられて、ついでにお酒も届いた。なぜか一升瓶なのが気になるけど
「一升瓶ですか…?」
私が控えめに問うと、中居さんは「気持ちばかりですが…」と笑った。添えられたのもお猪口じゃなくて硝子でできた湯呑みの様なものだし、何がどうなっているのか
まぁ、気を遣ってくれたなら頂こうということになった。中居さんが去った後に改めて夜食を頂いていると、硝子の湯呑みにお酒を注いで一口飲んだ貴方が言う
「ずいぶん強いな」
「あら残念」
飲みやすいお酒なら貰おうと思ったのに
「いや、君も一口飲むといい。勉強になるだろうから」
「…わかりました」
強いお酒なんて飲んだことないから少し怖いけど…ちょっと興味もある。貴方が私の持つガラスの湯呑みに半分ほどお酒を注いでくれたので一口
「ん〜〜〜!」
アルコールがど真ん中で貫いてくる感じ!
強いお酒ってこんな感じなんだ
顔を顰める私を見て貴方が笑う
「あ、ひどい。そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
「すまない、そんなに顰めた顔をするとは思ってなくて」
「強いお酒初めてなんですもん…」
「試しにそのまま飲んでみるといい。こう言ったお酒で自分の限界がどこにあるか知っとくのも大事だから」
「…わかりました」
ゆっくりとまた一口飲み進める。小鉢をおつまみにして話しながら時間は過ぎた
********
「いづるさん、どうしたんですか?」
「なんでもないよ鏡花。ほらこっちにおいで」
貴方に呼ばれたので机をまわってそちらに向かう。今回も酔ってる自覚はあるけど体が言うことを聞きそうにないので理性は拷問をされることになりそう
「きました!」
「偉いなぁ鏡花、ほら膝においで」
珍しくペースが速かったせいか貴方も酔ってるみたい。名前をたくさん呼ばれるのは嬉しい
私が貴方の膝に乗ると、貴方が嬉しそうにするからまた一つ嬉しくなる
「鏡花、鏡花…」
「どうしたんですかいづるさん」
「こんな時でもないと名前を呼べないから」
「いつも呼んで欲しいです」
むくれる私の頬を貴方が撫でて、少し申し訳ないような顔で言う
「仕事で出たら困るから、すまない」
「…わかりますけどぉ」
せめて二人の時くらいもっと呼んでくれればいいのに、私も"貴方"って言いがちだけどさ
貴方は満足そうに私の胸に頬擦りしている。私がそれをそっと撫でると「どうしたの?」と訊かれたので少し返答に困った
「あ、えと…なんとなく、甘えてもらえるのが嬉しかったから」
「そうかい?」
「いづるさんはいつも大人じゃないですか」
そう、貴方はいつも大人で、一歩引いてて格好良くて、少しだけ寂しい。酔ってる時は甘えてくれるのが割と嬉しかったりして
「鏡花の前では格好良くありたいからね」
「ずるい、私だってそうですよう」
「鏡花はどっちかって言うと可愛くあって欲しいけどなぁ」
「むぅ…」
私そもそもそんなに可愛くないもの。格好良いに舵を切った方がいいと思うけどな
「鏡花は可愛いよ」
「!」
「ほら、そうやってすぐ赤くするところとか」
「そ、そんなことないです…」
そんなことない、貴方が言うような可愛い女の子じゃないもの。きっと勘違いだ、お化粧だってできないし、目のクマだって落ちないもの。目つき悪いし
「可愛いって見た目だけじゃないよ」
「…そうですかね」
「じゃあ君は僕の見た目だけが好きなのかい?」
「それは違います!」
「そういうことだよ」
「…!」
そんなこと言われても照れくさいよ
自分で防衛線張ってないといつか言ったみたいに本当にだめになる
もっともっと、酔ってなくても言って欲しくなってしまうから。だからだめだ
「もう一杯飲んでおく?」
「もう酔ってます」
「もっとぐずぐずになったところも見たい」
「…っ、強いですから一杯だけですよ」
お酒を注いでもらう。どうして貴方の膝上でお酒を飲んでるのかはわからないけど
あぁ、飲んでると意識がさらにふわふわしてくるのがわかるなぁ…理性がどこかに飛んでいくというか、いや理性はここにあるんだけどもっと乖離していく
「ふぁ…」
視界がふわふわしてる。体が熱くて幸せな感じあるなぁ
「へへ、いづるさん…」
空になった湯呑みを置いてキスをする。貴方がそれに応えてくれたので口付けは段々と深くなっていく。舌が絡み合い唾液が混ざって呼吸が追い込まれて…触れ合う舌が気持ちいい
「ん…ふ…」
離れてから目が合うのが好き。貴方の目を近くで見るのが好きだから
「随分積極的になったね」
「そうですか? 貴方が大好きだからなぁ」
酔ってるからだと思うけど胸にしまおう。大好きなのは本当だし
「いづるさん、いづるさんっ」
首に腕を絡めて抱きつく
「いづるさん大好きですよーっ!」
離れると私はなぜか湯呑みにまたお酒を注ぎ始めた
それを渡したら貴方もなぜかにこにこと飲み始める。いやなにこれ…
「ほらほら〜、いづるさんももっと飲んでっ」
「後悔しても知らないからね?」
「こうかいってなんですか?」
なんか嫌な予感がする。それでも貴方は一杯二杯と飲み進めていくと、そっと私を膝から下ろしてから立ち上がらせた
「…鏡花、おいで」
「?」
広げられた腕に飛び込むとそのまま抱えられて向きをずらされる
「???」
「はい腕あげて」
「はーい…?」
両腕をばんざいのように上げるとなぜかしゅるしゅると布ずれの音がする…あれ?
「!?」
見上げると浴衣の帯で部屋の鴨居に腕が固定されている。下を見ると帯がない、どういうことかはわかるけどどうしてこうなった!?
しかも結構しっかり縛ってあるのか少し動いた程度では解けそうにない。本気で動いたら鴨居のところ壊れちゃうだろうし…
「い、いづるさん…」
困惑気味に声をかけると、貴方は満足そうな目で私を見ている。その目だけで背筋がぞくぞくするような快楽があって言葉を失った
「…っ」
「…可愛いよ、鏡花」
さっきみたいに声が低い。本当貴方は私を哀れにするのが好きだな!
それに喜んでる私も私だけど!
「…うか」
「?」
「この哀れな私なら、少しは色っぽく見えるのでしょうか…?」
「!」
我ながら自虐的な発言だと思った。でもこれと言って特色のない私の体では当たり前に色っぽいことはできないし…こうして貰えばちょっとは色香も出るのかなとは、考える
すると貴方が私の頬を撫でた
「別にこんなことしなくても綺麗だ」
そして次に、私の耳元によって囁く
「こっちの方が好みなだけで」
「!!」
貴方の片手がはだけた浴衣の隙間から乳房に触れる。いつもより力強く揉みしだかれるから貴方の手の感触がとてもはっきりして感じた
「あっ、ん…ぅ」
下から持ち上げるように、感触を確かめるみたいに揉みしだかれる
もう片手が、愛おしそうに私の頬を撫でるから、頭がまた蕩けてしまう
「んぅ…」
淡くキスをされる。胸にあった手が腹を滑って、いやらしいくらいゆっくりと下半身へ伸びてお尻を撫でて…それから下着のゴムを内側からなぞるみたいにその中へ入ってきた
「…脱がすよ」
するりと下着を脱がされる。脚をあげるように言われて完全に脱がされた。はだけた浴衣の下はもう裸で少し恥ずかしい
もじ、と脚を閉じるとその隙間に貴方の手が入ってくる
「閉じないで」
「…はい」
控えめに脚を開くとそこから貴方が片足の膝裏に手を入れて持ち上げた
「! イヅルさんこれ恥ずかし…っ」
「だめ、このままだ」
「…っ」
開いた脚から私の頬を撫でていたはずの手が秘部に触れる。はしたない水音を立てるそのに羞恥を感じた
「ぐずぐずじゃないか…被虐趣味もいいところだね」
「それは…っ、それは貴方が、この哀れな姿を好きだと言ってくれたから…」
「!」
貴方の手が秘部から離れる。そしたら貴方も浴衣の腹帯を解いて自身を取り出して、それから少しまた、興奮したような顔をするから
「…あまりいじらしいことを言わないでくれないか、止められなくなる」
私はそこから目が離せなくなった
「…っ」
そのまま秘部に押し当てられる貴方の自身は、何の抵抗もなく膣内に入っていく。最奥まで入ったその瞬間、貴方は上がってない方の脚まで持ち上げるから、秘部を押し出すようならあわれもない姿にされてしまった
それなのに最奥まであるそれが嬉しくて意識がそちらに向いてしまう。貴方は脚を抱えた状態のまま動き始めた
「あ、っあ、まっ、ておくとどのくの、これっ、まっていっちゃ、あぁぁあぁ!」
予想してなかった、この体勢、弱いところまで届いて刺激してくる。子宮口のあたりまでごりって入ってきちゃう
「あぁあっ、あっ、ひぁ…っ、ごりごりするっ、おくごりごりするのぉ…っ、きもち、らめらめっ、すぐいっちゃ…っ」
「本当に君は堪え性がないな」
「やぁっ、だってきもちぃ…っ、あぁ、あっ、あっあぁっ…ふぁ、ぁあ、ぅあ…あっ」
理性が溶けていく。快楽が脳を溶かして、貴方しか見えなくなる。それでいい、それが幸せ、貴方と私だけの今
「好きなだけ逝ったらいい…」
「んぃ、ぃ…あぁぁ、あっあっ、い、くいくのぉ…あっあっあぁ…っ、い、ぁ…ああぁあぁあぁぁぁっ!」
「…っ」
「—っあ! いってる! いってるからぁ! あっだぁ、め、またいっ…ぉ、あ…っ、ぁあぁああぁっ!」
毎回思うけど果てた後にまたされたらすぐ果ててしまう。貴方と果てる瞬間が噛み合わないのは少し寂しい…ような、たくさん逝かされるのは気持ちいいような
動いたまま貴方が私にキスをする。舌が入ってきて嬉しいのに、抱きしめ返せないのは悲しい
互いの唇が離れてからつい、懇願してしまう
「いづるさん、いづるさんっ! これ外してっ、ぎゅーって、ぎゅーってしたいの、お願いっ、あぁっ」
「…っ、仕方ないな」
片足の支えがなくなって脱力した足は床に触れるけど、その代わり腕の拘束が解けた。すぐに貴方の首に腕を回して今度は私からキスをする
「んふ、ん……っ、んぅ、ぁ、ん…んんぅ!」
ぐっと貴方を抱きしめるのが好き。でも膣内はまだ動いているわけで、唇が離れても快楽がすごい
「あぁ…っ、はぁ、ぁっ…」
足の力が抜けきってるな…声も力がなくなってきた、もう膣内は何回逝ったかわかんないし
「もう限界?」
「やぁ…まだほしい、です…っ」
いやだ、限界なんてないくらい欲しい。せっかく貴方だって息が長いのに
「こういう時ばかり素直だな、君は…」
そういうと貴方は中居さんが夜食を持ってきてくれた時に同時に敷いてくれたお布団へと、私を抱えて移動した。繋がったまま横たわることになって、上から体重をかけるように押し込まれる
「っあ゛! ぁあっ、あぁああぁっ!」
だめだ、すぐ果ててしまうし喉が限界になってきた。それなのに気持ちいい、気持ちいい…貴方がいることが幸せで貴方とずっと繋がっていたい
「鏡花」
「!」
また貴方が私の名前を呼んだ。急なことで耳がぞわりと応える
「鏡花…」
「い、づ、いづる、さん…っ」
項垂れていた腕をまた貴方の首に回そうとすると、片手が貴方に絡め取られてしまった。細いふしくれだった指が、私の指に絡まっていてどきどきする
「…愛してる、鏡花」
「! …私も、わたしもいづるさんがすき、大好き、あいしてますっ!」
貴方の口から"愛してる"なんて、それだけで果ててしまう。朦朧とした意識で必死に応えると、貴方が額にキスを落としてくれた
嬉しい、嬉しい、普段そんなこと言わないのに。こんな時ばっかり喜ばせるんだから。急にご褒美渡されたって何も返せないのに
「、流石に限界だな…っ」
「いづるさん、くださいっ、あなたのあついのください…っ」
一瞬だけずるりと抜けて、すぐ奥に入る。そこから深い抽送が続いて最奥に捩じ込まれた時、熱いものを感じて私も果てた
「あっ、あぁい、く…ぅ…っ、〜〜〜〜〜っ!」
貴方の自身が、私の奥の奥で果てている。文字通り植え付けるみたいに最奥に押し込まれているそれは、脈打って私の膣内に精を吐き出す
私の上に覆い被さって自身を押し付ける貴方の姿に嬉しくなった。あぁ、そんなに貴方のものだと主張したいのかもしれない…なんて思い込みだろうか
「はぁ、はぁ…は、ぁ…」
「はぁ…」
貴方の自身がゆっくりと引き抜かれる。起き上がった貴方がまた髪を掻き上げて、今日もそれに見惚れた
「温泉浸かったのに台無しだ」
「あは…ごめんなさい」
「今更だよ、もう」
貴方は呆れつつも否定はしてこない。とりあえずお酒は抜けちゃったかなぁ
貴方から"愛してる"なんてそうそう聞けないのに
「…」
私はそのまま、心が夢から醒めて動けなくなってしまった。どうしても、喧嘩した時のことを思い出してしまって
悔しい、悔しい
またすぐ泣くといわれようがかまわない。悔しい
貴方を守ることが、貴方の命を繋ぐことが私の命の意味だと思っていたのに。真っ向から否定されて、何も言えなかった。貴方にはっきり言い返せなかっただけじゃなくて、おじさんにも何も言い返せなかった
貴方にいなくなってほしくないだけなのに
私は、あまりにも弱い
「…っ」
さっきまで、あんなに貴方を感じていたのにな
いつもいつもはそう思えないから、少しでもその時間が長くなるようにって必死なのに
「!」
不意に、貴方の指が私の髪に触れた。そちらに視線を向けると私を上から覗き込む貴方と目が合う
「…せっかく部屋風呂なんだ、もう一回浸かったらどうかな」
「…ん、そうします」
促されるままに、かつ深夜にお風呂入るのって久しぶりだなぁ…なんて思いながら二度目の露天風呂
貴方が隣にいると言うのに、なんだが上の空だ。どうしてもここにくるまでのことを考えてしまう
「…」
貴方も、私が弱いから縛りつけようなんて思ったのかな。そうだったら、やっぱり悔しくて
静かに揺れる水面に映る月を見ながら、未熟だと思っていた己を改めて突きつけられる。あらゆる角度から自分の弱さを突きつけられて自分の思い上がりを実感した
「君が悩むなんて珍しいね」
貴方が言う。私としてはその問いを複雑に感じた。確かに単純明快な人間ではあるけど、悩まないわけじゃない…っていうか悩みだらけでいつも苦しい。少なくともこの思いを抱いた時には貴方とお付き合いできるなんて夢にも思ってなかったし
「いつも悩んでますよ。結構うじうじする方ですし」
「今日の話かい?」
「そうです。私は弱いと思って」
完全に、絶対に地位に甘えていた。自分の半端な力に溺れていたわけで、そのせいで前のような結果も、今のような喧嘩も生んで。翠霞に怒られるしおじさんにも怒られたのに何も言い返せなかった
「…私は、弱い」
悔しい、悔しい
「貴方のように強くあれなかった。思い上がっていました、いや…今も絶対にそうで、おじさんから言われた言葉に何も言い返せなかった」
こんなに、こんなに悔しいことはない
こんなに悲しいことはない
このままでは、貴方の役に立てないから
「悔しいです。苦しいほどに」
どんなにうじうじしても、結局答えなんて一つしかない
私は貴方の方に振り向いた。言葉はにしたらどこかすっきりして、気持ちを切り替えるしかないと思えてくる
「私は必ず、貴方のお役に立てるように強くなります。貴方が安心して背中を預けられる私になるように」
落ち込んでたって弱い私は変わらない。それなら、いっそ開き直る気持ちでここまでも"私"だと思ってここから強くなるより道はないんだ
貴方を護ることが、貴方を愛することがそこから始まるのなら初心に帰ろう。貴方の視線が向くようにまた強くなる
「?」
ちゃぷ、と水面が揺れる音がして、不意に貴方が私の頭を撫でた。そこからため息をついて、改めたように私をみる
「…確かに押さえつけてどうにかなるような女性じゃないみたいだ、君は」
貴方の声は呆れたような嬉しいような、そんな複雑なものに思えて、私は貴方の言うことがいまいち理解できなくて困惑する
「僕でよければ稽古の時間を取ろう。どうせあと五日かそこらは休みなんだから」
「副隊長みずから…よろしいのですか?」
「その代わり、見合った結果を期待してるよ」
「…はい!」
なんて贅沢だろう。貴方に直接指導してもらえるなんて…頑張ろうと自然に思えてしまう
「そうと決まれば、まずは体を作ることですね。明日までお泊まりだから…まずは久しぶりの休みだししっかり寝ることからなぁ」
「…」
「な、なんですかそんなに見て」
貴方が驚いた顔で私を見ている。そんなに変なこと言ったかな
「いや、翠霞さんがいた時みたいに飛び出していかないから少し驚いて」
「…浮かれはしてますけど、それで強くはならないので。でも多分落ち着かないので筋トレはします」
「…そう」
今度は複雑な顔をされた。私はなんだと思われているのか
「もう、私先に上がりますよ。柔軟したいので」
私が少し向くれて上がろうとすると、腕を引かれた。バランスを崩したところを貴方が受け止めて、そのまま抱きしめる
「ど、どうしたんですか、急に」
少し慌てる。貴方がこんなに近くて胸が高鳴らないわけないので余計に
「…もうすこし、このまま」
珍しいと思った。普段素面で甘えてこないのに
「…わかりました」
でもそんな側面見せられて折れないわけなくて、私はつい許可してしまうんだ
月明かりが照らす水面が、音もなく揺れる
私たちの髪から滴る水滴と、互いに鳴る心臓の震えで
終