また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!
また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします
「叫び」
訓練の最終日。つまり休暇の最終日
昨日は恥を晒したが今日までそうとはいかない
むしろ、昨日甘やかしてもらったからもう気を引き締めなくては
やることはいくつもいくつも積み上がっているけれど、私は何よりやることがあってここにきた
目の前のお墓に線香を上げて水をかけて、まだ花は元気だからお供えを置いておく。墓は周囲も含め綺麗に整えられていて、私が他に何かすることはない。だから最後にしっかりと、手を合わせる
「…」
この世界で死人は口を聞かない。世界の霊子に還っていくだけだと、霊術院では教わる
ならば、なぜ墓はあるのか
それはきっと、
「…そこに居ると思いたいよな、みんな」
人は過去を引きずるものだ。私もおじさんがいなくなったら悲しい
でも彼の方がいなくなってしまったら、悲しいでは済まないから、後悔はしたくない
膝をついた姿勢から静かに立ち上がり眼前の墓を見つめる。私はこの人から逃げてはいけないのだと改めて心に刻みつけるために
「…どうしたんだい、こんなところで」
声に振り向いて、静かに頭を下げた。貴方が来ることは予想していたので驚かない
「おはようございます。吉良副隊長」
「おはよう…質問に答えて欲しい。ここで何を?」
私がここに居ることは珍しいとしか思えないだろうな。それでいい、私も頻繁に来る用事はないし
「初心に帰ろうと思いまして」
「初心?」
「私が何になりたいのかを、思い出しに」
ふと、後ろに振り向く。眼前の墓は何も言わない。ただ、そこには狐顔で掴みどころのない男がひらひらと手を振ってる様が見えた
「…」
馬鹿にされているような、そうでもないような。そう言う人でもあったなと思い出す
それから貴方に向き直って、少し俯いた貴方の目をしっかりと見つめた
「私は『私』になりたい」
「…?」
戸惑う貴方も目に刻む。私が誰にとって私でありたいのかをもう一度刻むために
「語弊を恐れずに言うのなら、私は『市丸ギン』になりたくない、『雛森桃』になりたくない」
私の言葉に貴方の表情が変わる。それもそうだと思う、私は強い言葉を使っている自信があるから
「貴方の中にある『誰か』に埋もれたくない。だから私は私でいたい。貴方の覚えてくれる『緋月鏡花』でいたい」
「…最初から君は君だろ」
「貴方はきっと過去を忘れられないでしょう。過去を切り捨てるのは難しいことです。でも今には私がいる」
「それは、どういう」
「ここは今なので。過去があっての、今なので」
また言ってることがわからない、みたいな顔をしてるな。伝えるしかないんだけど
「きっと貴方にとって市丸元隊長はずっと隊長のままで、雛森副隊長のことも変わったりなんかしない」
「…」
「それが貴方なら、私はその中の誰にもならない私でありたい」
余計なお世話だろうとも思うし、貴方がこの件に何かをして欲しいわけじゃないのも空気で伝わってくる。でもそこにあるのは貴方の今じゃないから
「私は貴方の手を離したくない。絶対にそばにいたい。包み込んでなんか上げられないし、貴方に跪くのはずっと私の幸せなこと」
過去も今も、未来も全部貴方だ。私は貴方のそばにいたい
「だから私は、何度だって貴方に思いを伝える。貴方が覚えてくれるように笑う」
私がいい、今も未来も。本当なら過去だって欲しいのに。貴方の隣は私がいいから、私は諦めたりしない
「貴方にとって私が『私』であること。それを思い出すために、ここに来ました」
手に持っている桶を見ればわかる。貴方は今日もこのお墓を綺麗にしに来たんでしょう? 私のせいで数日できてなかったからって、律儀に
真面目な貴方のことだもの、手を合わせて相手に謝って、それからお墓を隅まで綺麗にして、また手を合わせてから帰るんだろう、そんなの見えなくても想像がつく
誰だって過去の影からは逃れられない。過去を乗り越えるのと影を忘れたりそれから逃げることは違うから
それなら今は、これからは私に頂戴
「私は傲慢なので、貴方の今もこれからも、できることなら過去だって欲しい」
貴方は何も答えない。どうしてかはわからないけど
うるさい小娘の自己主張なのは事実だ
「貴方は私の手を取った。私を見た。だから譲れない。今日で特訓は最後だから、絶対に来ようとは元々思っていました」
これだけは譲りたくない。貴方にとって気に入らなくても、それで捨てられても
貴方という一人の死神を見ることだけは、譲りたくない
ふぅ、と貴方は一つため息をついた。私がそれをまっすぐ見ていると、俯いたまま私を見た視線だけが絡む
「君、無神経って言われないかい」
「自覚はあります」
でもいつまでも過去だけで見ている貴方に満足するならこんなことはしないもの
「呆れるな。そうやって他人の繊細な部分に土足で踏み入るのは」
「それは初めからです」
貴方は大きなため息をつく。すこし不安になって心臓が鳴ったのが悲しい。覚悟を決めてここに来たのに
でも初めて貴方に抱かれた時からだ、そんな無作法は
少しの沈黙を待って、貴方は口を開く
「君に一々言われなくても、何をしたところで市丸隊長は戻ってこないし、雛森君に手を上げたことも変わらない」
嘘。本当にそう思うなら、そんな辛い顔をして過去だなんて割り切るように言ったりしない。絶対に市丸"隊長"って呼ぶのはもうけじめなのか癖なのか、わからないけど
まだ時間はたってないでしょう、あの人が貴方を置いて行ってから
「割り切るか否かは貴方ご自身で決めるのがいいと思いますが、ご自身の心に嘘をつかないことと私を見ないのは別のことです」
貴方は私の手を取ったのだから
「すぐに答えを出して欲しいわけでもありません。今日ここで会わないならばそれがいいとも思いました。それでも、嘘だけはつきたくない」
「…」
「お騒がせして失礼しました。本日の訓練は自主的なものにさせてください」
私は頭を下げてそれだけ残してから、その場を去ろうと貴方を横切った。すると貴方が「君は」と声を出したので反射的に振り向く
「君は、どうしてそう強いんだ」
別に私は強くないけど、貴方の目にはそう映るのだろうか。だとしたらそれは、ただ一つの理由でできている
「私が見ているのは貴方だけですから」
それだけ残して、今度こそその場を去った
********
偉そうなことを言うが、人間とは矛盾するものだと思う
割り切ろうとして割り切れなかったり、進んだはずなのに戻ってしまったり。それはいい意味でも悪い意味でもあるもので、そこに感情と理性の板挟みが起きることも矛盾と言える
あくまで私の視点で見れば、彼の方は決して上から手を差し伸べてくれる依存先がなければいけないような人ではないように感じる
決して尊敬する上司がいても、個人の時間を作る辺りにそう言った部分を感じてしまう。本当に盲目的な人間とは、個人の時間すら捧げることをよしとするものだと思うからだけど
友人もいて、同じ立場の人間と仲が良くて、個人の時間をしっかり取る。これはあくまで役職や相手との立場以前に自分を"自分"として大事にできていることの表れだと、私は思う
そういう目で見ると私の方がよほど依存的だ。彼の方以外は求めていない
ならば、本当に相手がいないと生きていけない人なのだろうか、吉良イヅルという人は
尊敬の延長線で依存になったとしても、それだけで生きていくのだろうか、人間というものは
そうでなくて、今が確かにあるというのなら。私は"今"になりたいと思った
彼の方の手を取って、そばにいて、背中を押してあげられるような人になりたい。貴方の後ろで、貴方が倒れても支えられる人になりたいと思う
私は上から優しく包んであげるなんてできないから、私は私にしかなれないなら、私にできることをやろうと思ったしやってきたつもりで
「…それでも」
それでもダメだったら、どうしたらいいだろう
本当なら誰だって過去に土足で踏み入られるのは嫌なものだ。今日も無神経って言われたし
よく考えたらよくあんなやり方で付き合えたものだな。呆れただけかもしれないけど
それでも愛しているのは変わらない
私が私にしかなれないのなら、私を見てもらうしかない
絶対に、絶対に絶対に私を見て欲しいから
貴方が悲しい思いをする過去じゃなくて、今ここに私はいる。そばにいるもの
「…俳句、できるようになった方がいいかな」
百回目の素振りを終えて呟いた
私の趣味は共有できるものじゃないし、彼の方の趣味を共有できたらより愛を深められるだろうか。そういったことに踏み込まれるの好きじゃないかも、と思って今までやってこなかったし、センスは壊滅的だけど…やっぱり諦めるべきじゃなかったかもしれない
休憩ついでに手ぬぐいで汗を拭き取る。素振りでもしっかりやると多少汗をかくものだ
やはりというか、彼の方が顔を見せることは無さそうだな。すぐに答えを出せないことを言ったから悩んでいるのかもしれない
わかっていたことだからいいんだけど、それだけ彼の方にとって根の深い問題であることに羨ましさが勝つ。どんな理由であれ、彼の方の奥底に眠るほど深い物事に私もなりたいものだ。不謹慎だけど
「…」
誰もいない道場で一つため息を落とした。みんな今頃就業中だと思うと明日から頑張らねばとそれはそれで気合いが入る
それでも、会えないことに寂しさがないと言ったら嘘になってしまって、それがため息として溢れた。悩むということは、過去が勝つということでもあるから
「時間には勝てないかなぁ…」
髪を縛り直そうと一度解いて天井を見つめる。どんなにほざいたところで時間に代わる記憶のつけ方はない
私なんて一歩踏み出したかどうかなのだと思い知らされる
本音を言えば勝ちたかったけど。流行りの女性向け小説みたいな浪漫とかないかなって思ってなかったかと言われれば、どこかで夢見てたように思うし
見方を変えれば悩む程度に私は彼の方の中にいるのだと前向きな部分もある。悪いことよりいいことを信じていた方がいい
「だからどうした…」
雑念が増えてきたのでそこで考えるのをやめた。軽く頭を振ってから筋トレに励むことにする。腹筋というものは女性でも六つに割れるものらしい、興味がある
「いや、そこまで鍛えたら彼の方の好みではないのでは…?」
多分、もっと女の子らしい子が好きな気がした
やっぱり筋トレは足腰を鍛えることにしよう
足腰にはしゃがみ運動が効くのでそれをやることに
「28…29…」
それにしても、いつか彼の方の中で答えは出るのだろうか
決戦から帰ってきて、それからずっと、また彼の方は俯いていて。それがショックでないと言ったら嘘だ
私は誰かになりたくない。そもそもなれないし。だから私は私でいるしかなくて、私は今ここにいて、貴方を求めているのに
なんて、それも私の傲慢で身勝手な話だけど
でもそのために、"私"として貴方の目に映るために全てはあるのだからと、わかっている。わかってはいるんだけどな
「…」
やっぱりどこまでも身勝手な話だ
焦った。心から
また彼の方がどこかへいってしまいそうで、また過去へ旅立ってしまうように感じてしまった
私はそれが怖い
「あぁ…きらふくたいちょう…」
立ち尽くして、涙があふれて、ぼたぼたおちて
こういう時、名前を呼べない私の根性なし。憧れは確かに吉良副隊長で、でもイヅルさんで、どっちも好きで、好きなのに、貴方を幸せにしたいだけなのに
どうしたらいいんだろう。私がわがままなのかな
もっと利口で静かな女だったら、貴方は幸せ?
「…っ」
でも泣いていても仕方ないと、気持ちを切り替える。ひとまず使ったものを片付けて、いっそ外を歩こうとふらつき始めた
********
そういえば髪を解いたままだったなと思い出す。それでもなんとなく縛る気にはなれなくて、そのまま通りを歩き続ける
時間は気がついたら夕方になりかけていた。日が傾いているのがわかる
このまま宵闇に消えたら、あの時みたいに貴方は私を追いかけてくれるだろうか。それとも、肝心な時にそばにいれない私を怒るのだろうか…わからない
また思考の迷宮だ。考えても仕方ないことをぐるぐると考えている。わかっているのに恐ろしい、彼の方がいないということが、今にも足元がなくなってしまいそうなほど
だからって考えても答えは出ないのに、なんて言いながら足が止まらなくていけないと思った。修行の最終日になんて勿体無い
思い返すまでもない、私はやってはいけないことをした。だからこんなに迷うことになる
"過去を見ないで"、なんて、どれだけわがままだろう。彼の方にとってはきっと、まだ今なのに。まだそんなに、時間は経ってないって自分でわかってたのに感情を整理できなかった
またやったなぁ…もうほんと無理かもしんない
そろそろ本当に見捨てられそう
態度で明白にされたわけじゃい…けどそれだけかもしれないし
うわぁぁぁ…どうしよう不安を押し付けてしまったせいでまた不安になってきた
今日寝れる自信ない。明日仕事なのに? ちょっと待ってそれは公私混同すぎる
「どうする…どうする私」
こういう時、私にできることといえば
「筋トレ、しよう」
***
馬鹿の一つ覚えであろうとも、明日の仕事に行けないくらいなら体力を失って寝た方がマシだ。彼の方は絶対、なにがあっても仕事に行くのはわかってる
市丸さんがいなくなった時も彼の方は仕事に来たんだから! 隊舎牢で仕事してたけど!
「191…192…」
我慢できない。このままじゃダメだ
腕立てが止まらない。私が強くなるだけじゃダメなんだ。
感情と行動が一致してない。それでも無心になりたくて一心不乱に体力を使う、使ってしまう
こんなところ翠霞に見られたらまたあほだなんだと言われるんだろう、わかってるけど、けど…
私は強くなればいろんなものが手に入ると思ってた。でも、心が弱いままじゃやっぱりだめで、わかってたから体から心を強くしようと思ったのに
「258…259…」
やっぱりまだ精進が足らない
なにより心を強くできてないんだ
「…っ」
彼の方に理不尽を押し付けて私はなにがしたかった?
一日も経たずに後悔するならなぜあんな泣き言を言ったんだ!
こんなものは恥でしかない。彼の方を絶対に傷つけて、自己満足でしかないのに
確かに言ったことも思ったことも嘘じゃない。嘘じゃないからダメなのに、他人を傷つけるのに。どうして私はいつもこうなんだ
誰でもない誰かになりたい。彼の方に傷をつけられる私であれれば…願うだけなら誰でもできる。私にはいつだって覚悟が足らない。それはきっと心が弱いからだ、すぐ動揺して相手を信じられないからそうなる
信じてもらえる人になりたいならまず私が信じなくてはいけないのに
「499…500…!」
キリのいいところでとりあえずやめる。続けすぎても良くないらしいし、これ以上やっても眠れない気がした
仰向けになって呼吸を整える。やっぱりどうしても心のモヤが取れなくて、自分の心の整理もできないのかとまた一つ怒りが生まれた
次は走り込みをしようと外へ出る。もうすっかり暗くなった演習場の外周をひたすら走り己の体力を追い込んだ
そこでふと、わずかに霊圧を感じる
誰に言われようはずもない。この霊圧は、
「…!」
感じた瞬間走って逃げ出した
今捕まるわけには、そう思うのに相手があまりにも早い。こっちは翠霞が教えてくれた全力逃げなのにどうして平然とついてくるのか
息を潜めて茂みの中でやり過ごそうとする。すると、相手の霊圧が遠かったのでそっと茂みを出たら、
「やっと捕まえた」
後ろから腹を抱かれた
「!!!」
「君、逃げるの下手なのかい?」
「…! !!!」
慌てて逃げようと暴れるけど逃げられない。抱かれた腹にかけられた腕が外れなくてどうしよう
「鬼道で押さえ込まれるのとどちらが良いか選ぶと良い」
「…」
どう足掻いても逃げられなそうなので諦めた。その代わり顔を見られまいと必死に下を向く
「人が答えつけてきたというのに逃げるとは、失礼だな」
「…合わせる顔がないので…」
「合わせる顔がないって?」
「…嘘を、つかなかったから」
いつまでだって覚えてる。市丸さんがいなくなった後の瀞霊廷通信で、新人向けの募集要項に書かれた、求めてる人材に関する回答
嘘をつかない人
だから私は貴方に嘘をつかない。けど、それが時折貴方を傷つけるから
「言ったことが本当だから、きっと私は貴方を傷つけた。私がしたいのは、そんなことじゃない」
「じゃあどうしたい?」
「…え?」
「君は僕に何を求めてる?」
「それは」
思わず垂れた頭が上がった。回答に少し悩んで、それでも震える唇を開く
「貴方に、幸せになって欲しい」
だめだとわかっているのに、その後も口をついた
「…私を、忘れないで欲しい」
「…」
「わがままなんですよ、私。貴方が欲しいのに、自分を押し付けて」
「…そんなの最初からだ」
「え…?」
驚く私を、貴方は抱えて歩き始める。私が慌てていても完全に無視で歩き続けた
「君がわがままなのは最初からだ」
「…そう、そうですね」
確かに最初からだ、あんな理由で付き合おうなんて
「でも君は、僕のそばにいてくれた」
「…」
「君は誰にもなれない。僕だってきっと誰も忘れられない。それはそれで良いんじゃないかと思う」
「え…」
「僕は君に誰かになって欲しいわけじゃないし、君はずっと君だと思ってる」
運ばれながら、何も返せなかった
「もうとっくに君は僕の中で君だと確立してる。くだらないことを考えてる暇があったらこっちのことも考えて欲しいな」
「え…だって私が言った時あんなに悩んでる感じで」
「確かに君は強い。僕が想像できないくらい僕のことを考えてくれているかもしれない」
珍しく意志の強い声で私に語りかける貴方はひどく怒ってるような、そうでもないような
「でも僕はそんなに護ってもらうような人間でもないし、君は多少腕が立とうがただの女の子だ。もっと自分のことを考えて良い」
「考えてますよ。貴方に忘れられたくないって」
「そういうことじゃない。もっと僕に限らない幸せを思って良いんだ。君が僕に幸せになって欲しいというなら、僕だって」
暗がりで鍵を開ける音が聞こえる。確かにここは貴方の家で、私はますます混乱して
そのまま貴方は上がっていくと電気もつけないで階段を上がっていく。ある部屋でぽいと投げ捨てられると、貴方は尻餅をつく私に被さった
「僕だって、君に幸せになって欲しいに決まってる」
「…」
部屋が暗くて見えないから、貴方の香りがすると思って、貴方の体温がわかって
一瞬、何も答えられなかった
「…私、今幸せですよ。貴方がそばにいてくれるもの。だから、失うのが怖い」
「…そういうことじゃなくて」
ならどういうことなんだろう、なんて考えていたら目が合う。貴方の瞳は今日も綺麗だ
「僕に限らないところで、と言ったはずだ」
「…」
貴方の関わらない幸せなんて、もう思い出せない
そもそもなかったかもしれないのに、ただ生きていただけの私には
「君の生きてきた世界は僕にはわからない。でも僕だけなんて、もったいないと思う」
「もったいない…」
「僕の中にもっと君を残したいなら、君と言う個人が知りたい。僕を好きな誰かじゃなくて、君のことを」
「私の、こと」
たくさん話して、たくさん、たくさんいろんなことがあったじゃないですか
「…足りませんか? 私の話。思い出も」
「僕が欲しいのは今までじゃなくてこれからだ」
「これから…」
そこまで言って、貴方はなぜか顔を背ける
「…これからも、一緒にいるなら、だけど」
「…」
どうやらこの声は照れている、多分
私は目をぱちくり、として、それから嬉しくなって、貴方の首に腕を回した
「貴方が許してくださるなら、いつまでもお側におります」
「…うん」
そうしてそっぽを向いたままの貴方の頬にキスをして、唇に返してと言外に強請る。だけどそれは気づいてもらえなくて、結局「こっち向いて」なんて小さくねだった
振り向いた貴方に何度もキスをして、深くなっていくそれを味わう。絡み合う舌が幸せで、何度も唾液を飲み干した
「…今日は、私がしていいですか?」
「君が?」
「昔…あの時とは違うけど、それでも私を刻みつけたいです」
私の言葉に少し沈黙を置いてから貴方が私の腰を抱く。そのままくるりと上下を反転させて、今度は私が上になる
自然と貴方の腹に馬乗りになった私は貴方の額と頬にキスをして、そのまま首に鎖骨にと落としていく
腹へ手を滑らせて腹帯を解いて、緩まった袂を広げ心臓に耳を立てるといつもより少し早く聞こえる。それが嬉しくなって、心臓にキスをした。それから着物を広げるように肌を掌でなぞって自分が座ってる位置まで引き寄せてから、腰を浮かせて股ぐらに入り直す。袴の腰辺りを下着ごと下ろせばもう自身の昂りがはっきりと主張していてまた嬉しくなった
脈打つそれに触れてから先端にキスをして舌で舐め上げる。それから咥え込んで抽送を開始した
やっぱり水音を抑えきれないのは私が不器用なのだろうかと思いつつ、舌を絡ませていく。感じてくれているのか最初より少し膨らんだのがわかって嬉しい
抽送をやめないように意識しながら自分の死覇装の腹帯も解いて袴を下げる。そのまま秘部に手を伸ばすともう反応していて、これなら入りそうと判断したので咥え込んでいる口を離した
「上、乗りますね…」
「うん」
貴方の腰に跨って秘部に自身をあてがう。それだけで熱が伝わってまた一つ嬉しくなって、そっと腰を下ろした
「んっ…」
いつもと違う膣内の広がる感覚。痛かったりするわけじゃないからそのまま進めて、すっぽりと奥まで入れ込んでから貴方の腹に手を当て腰を動かし始める
多分あの時は恥ずかしがって動きがぎこちなかったから邪魔されたのであって、もっと滑らかに動けば気持ち良くなってくれる…はず
「…っ」
流石に膝を閉じたままだと動きづらいので股を開く。ガニ股にしゃがみ込むのは恥ずかしいけど、以前のように負けるわけにはいかない
「んっ、はぁ…んん…」
律動を弾ませて抽送を続けていると、貴方の掌が私に触れた
「上、脱いで」
「…? はい…」
一度動くのをやめて残った着物を脱ぐ。それから腰を掴むように言われて骨盤あたりに手を置いてから再開した。結合部が見えてそうで恥ずかしいけど貴方の言うことなら仕方ないと続けていたら、
「!」
貴方の指が、胸に触れて驚く。それから指先は何もしてないのに反応していた胸先を引っ掻き始めた
「あっ、まって、だめ…っ」
「いいから続けて」
「む、り…ですよぉ…」
胸に触れるのは両手になって、それが掌で乳房を揉んで、指先が胸先をいじって…引っ掻いて焦らしてから最後に強くつまむから
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜…っ」
つい、動きがとまって。それなのに、胸先がまだ過敏なのにいじるのを続けてくる
「や、ぁ…っ、あっ、だめっ、うごけなくなっ、ちゃぁ…」
「やめないように」
「むり、ぃ、あっあっあ…っ」
なんとか背中を丸めて誤魔化しながら腰を振るけど、胸先の刺激でぎごちなくなってしまう。なんども無理って言ってるのにずっと胸先を弄って、気がついたら貴方は起き上がってまで続けてる
「遅くなってる」
「い、づるさんが、ずっと、むね、するからぁ…っ」
「君も気持ち良くないと」
そんなことしなくてもいいのに、絶対わかっててやってるのがあけすけだ
「ひぅっ! やめ、つままな…っ〜〜〜〜〜〜っ!」
引っ掻いてから強く摘まれるの弱いってわかっててやってるの、また妨害に違いない。負けないように腰を振るけど、何度もいかされておかしくなりそう
「舌、出して」
言われるままに舌を差し出すと、そのまま吸われて絡められる。動きながらキスって思ったより難しくて、何度も送られる唾液を必死に飲んでるうちにすぐ酸欠で意識がふわりとしてきた
その時動きが止まってしまったのか、唇が離れたら今度こそお尻を掴まれて激しく揺らされる
「! まっ、私が、するっ、て…っ!」
「止まってたろ」
「あ、ぅく…っ、それは、あなたが、じゃまする…っ、からぁ!」
「僕のすることが嫌なのかい?」
「あぁっ、そうじゃな…っ」
そうじゃないけど、かと言って邪魔していいわけない
今日こそちゃんと気持ち良くしてあげられるって思ったのに、また揺らされてる
「こんなに気持ちよさそうだ」
「あああ! あなたがっ、するといっちゃ…っ!」
「そのまま逝けばいい。僕も、そろそろ…」
自分だと無意識に弱いところは避けてしまうのに、無理やり揺らされたら嫌でも刺激されてしまう
駆け上がる快楽に耐えきれず、また体は素直になった
「ぁっ、おっ…! も、いく、だめだめいっちゃ…いっ〜〜〜〜っ、ぁあぁあああぁっ」
「…っ」
ぐっと奥まで押し込まれて、膣内で貴方の自身が脈撃ってるのがわかる。その熱は心地よくて、でも私が貴方に刻みつけたかったのに、貴方の方が余程上手いのだろうか。一度も勝てたためしがない
「あ…はぁ…っ」
漏れた息を吸われてまた唇が重なる。余韻が残るようにするような、そんな感覚で
「!」
そのまま床に押し倒された。少しのしかかる体重と真っ暗になる視界が幸福を生む
それにしても、この状況はもしかして
「イヅルさん…もう一回?」
「今日は付き合ってもらう」
貴方はそういうと、収まらない熱を膣内で動かした。ずり、と擦れる感覚だけで脳にまた火が灯る
「ん…」
腕を伸ばして貴方の首に絡めて、要望を受け入れると貴方の自身がはっきりと動き始めた。最初は少し焦らすように膣壁を擦って、それがもどかしくて腰が揺れる。そこからゆっくりと律動を早めて行って奥に当たる頃にはもう急所を叩かれていた
「ぁっ、あぁっ! ひ、ぁ…っ、あ、おく、はぁ…すぐ、いっ、ちゃ…っ」
「少し堪えて」
「まっ…むり、ですよぉ…っ、だっ…も、なが、ぐちゃぐちゃ、で」
「できないってことかい?」
「ぅ、うぅ、〜〜〜っ、がんば、りますぅ…っ」
今にも達してしまいそうなのを腰を動かしてなんとか受け流す。弱点から逸れるように意識して、少しずつ快楽を逃せば…まだ耐えられる
「っ、はぁ…っ、あ、ん、んんっ、ふ…」
そうすると次はもどかしさが競り上がってくるから困ってしまう。本当はなんの躊躇いもなく貴方から送られる快楽を受け止めたい
「っふ…ゃ、あっ、んん!」
我慢しないといけないのに、どんどん欲しくてたまらなくなっていく。頭の中を真っ白にして、ただ貴方を感じていたいと思ってしまうから脳がぐちゃぐちゃになりそう
たすけて、たすけて。我慢できない、死んでしまう
「いづるさ…っ、まだ? まだ、だめ…っ?」
「こういう時に堪え性がないな君は」
「やぁ…っ、だって、いづる、さん、をもっとほしい…っ」
「それじゃあ、君を僕に刻みつけようなんて程遠いな」
「あぅ…ごめんなさ…」
「しかたない。許してあげるよ」
逃げ腰だった腰を掴まれて奥まで挿し込まれた。そこから律動をつけて弱点を叩かれればすぐに脳が焼ける
「お、く…っ! おく、ぁ、いっちゃ、ぁ…!」
「許してあげるから、そのまま」
「ぉ、あ…っ、あぁあっ! おく、むり、いっ…ちゃ…っ、あぁあぁぁあぁあっ!」
ぐっと、体が縮こまる感じがした。いつもより意識が白んで目がちかちかする
貴方の自身が膣内から引き抜かれると、そのまま体を起こされた。ぺたんと座る私に聳り立つ貴方の熱が向けられる
「咥えて」
「ん…はい…」
言われるがままに咥えたそれは自分の愛液と出された精液が混ざって形容し難い味をしていた。一気に全部とはいけなくて先端を舐め咥えていると、後頭部を固定される
「…っ、出すよ」
「っ」
声を合図に身構えると、少し奥まで咥えさせられた。そのまま熱が口の中に注がれて、いつも飲むのよりすこし感覚が違うような気がするそれを飲み込む
後頭部に当てられた手が離れてから口を離すと、何故か少し撫でてもらえた
「…お疲れ様」
「はい、ありがとうございます」
「湯浴みしようか」
「了解しました」
********
湯上がり、熱った体を縁側で覚ましている時に考えを口にしてみる
「…あの」
「?」
「貴方に関わらない幸せについて考えてみたんですけど」
「うん」
嫌われないか、少し不安だけど
「…やっぱりありませんでした」
「どういうこと…?」
「確かに料理はもっと上手くなりたいし、剣術だってもっと上に行きたいし、少なからずおしゃれしたいし、もっといろんなところに出かけてみたいけど…そこには全部貴方がいるんです。貴方がいないなら意味がなくて、そう考えると、やっぱり貴方が関わらない幸せってありませんでした」
「…」
どんなに考えても思い至らなかった。流石に新しい趣味を増やそうとは思ってないし、増やしたとしても貴方が理由のどこかにいるはず。そう考えてしまうから、やっぱり貴方と関わりのない幸せなんてないように思う
「イヅルさんが嫌だったら…なんか頑張って作りますけど」
まぁ、重いし…嫌がられても仕方ないかなってそれは思う。でも貴方は少し間をおくと、複雑そうに笑いながらため息をついた
「…いや、いいよ」
「そうですか?」
「君がそんなに器用じゃないのを忘れていたから、確かに君はそういう人だったと思って」
「…馬鹿にしてます?」
「馬鹿にはしてないよ。納得しただけで」
「…」
なんか、不服な感情を覚える。それは実質馬鹿にしてないだろうか
「君がそれで良いならとは思う。ただ僕が帰ってきてからずっと思い詰めているから、また何か考えすぎているんだろうと思ったんだ」
「…私には、貴方の方が遠くをまたみているように見えましたけど」
「それについては答えた筈だ。過去は変わらないよ」
「…じゃあ」
貴方に視線を送ると、貴方からも視線が返ってきた。その時間がなんとも幸せで、少しばかり息が止まる
「…じゃあ、今と未来は私といてくれますか?」
「そうでなかったら、それこそ今はないと思うけど」
「…!」
心臓が高鳴った。本当にいいんだろうか、嬉しくて死んでしまいそう。なにより私の取り越し苦労だったなら、本当に…いいんだけどな
それだけは、貴方も自覚してないかもしれないから、少しだけ不安だけど。それでも、貴方は私といてくれるということが嬉しい
「…こっちに来れるかい?」
「? はい…」
すぐ横まで寄っていくと、静かに肩を抱かれる。いつもそれには緊張して、嬉しくなって跳ね上がりたくなってしまう
「君の心配性は中々治らないな」
「失いたくなくて、不安の芽は全部摘んでしまいたいというか…」
「それは信用してないことの裏返しだとわかっていないんじゃないか?」
「!」
「そんな簡単に付き合う相手を決めたりはしない。少しは信用して欲しいな」
「…貴方は、大切なものがたくさんあるから」
それは私なんかよりずっと、たくさん
「その中に君も含まれているとは考えないのかい?」
「それは…そうであって欲しい気持ちと、言われた嬉しさとが両方あります」
「それなら信じて貰えないと困る」
確かに少し考えすぎだったかもしれない、と思った
でもどうして、貴方は今私をみてくれるんだろう
「貴方にも、忘れられないものがあると思ったから」
俯き気味にこぼして、期待をしないように身構える。すると貴方は私の頭を撫でて言葉を返した
「それは当然だ。だけど今は、目を離せない存在がいるからね、そんなに暇はありそうにない」
「…!」
それは、私をみていることだとすぐにわかって
嬉しい。嬉しいでいっぱいだ
貴方が私をみている、私の視線に応えてくれてるんだ
「イヅルさん!」
ぎゅっと横から目一杯抱きつく。それから上を見上げて、貴方と視線が絡んでから目一杯笑った
「イヅルさん、愛してます。ずっとです。だからずっと目を離さないでください」
「…しょうがないな、君は」
苦笑いの貴方は、それでも今を嫌がったりしなくて、それがまた嬉しくて
やっぱり、絶対に、何があっても、貴方を手放したくない。ずっとそばにいたいから
「…今日、もう一回くらいできません?」
「珍しいね、君がそういうことを言うのは…」
「愛は全身で伝えませんと」
「…考えておくよ」
次は負けないと思いつつ、気合を入れるつもりで貴方にキスをする
信じて、歩み寄って
そうやってできる関係にして、ずっと貴方のそばにいたい
何度から回っても貴方はそこにいてくれるのだから、その思いに応えられたらきっと前に進める
そうしたら、貴方のいうもっと柔らかい関係も気楽に気づけるだろうか
終