また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!
また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします
「愛ではない」
「吉良副隊長、一週間後に行われる六番隊との合同練習について連絡が来ているのですが…」
「六番隊から?」
藍染惣右介の事件が全て収まったと言っていい今、各隊では合同演習の機会が増えている
あれだけの騒動があって、護廷隊は全て後手に回らざるを得なかったという現実がある以上無理もないと思うけど
「今度の演習に急遽阿散井副隊長が参加なさるそうで、吉良副隊長も参加してほしいとの連絡が…」
「あぁ、なるほど…」
貴方はやや"面倒くさい"と表情に表しつつ納得したように返事をする。まぁ確かに、貴方がこういった行事に必要もなく参加するイメージはない
「時期も迫っていますので、お返事は早いに越したことはないと思うのですが…」
「わかった、僕も参加するよ。六番隊にはそう返事をしておいてほしい」
「かしこまりました」
********
大体こういう演習の類って、基本的には席官が仕切って中心に立って運営することが多い。新人隊士の訓練の場の一つでもあるので副隊長やましてや隊長が出張るほどのことじゃない方が多いからだ。まぁ基本的には、ってだけなので規模にもよるけど
それで今回は六番隊から阿散井副隊長が急遽参加ということで…
「…」
三番隊の訓練場には、もう何人いるか数える方がややめんどくさいほど人がいる
なんなら阿散井副隊長は早く始めたいのか積極的に設営の指示を出してる姿が見えた
「緋月七席」
「なんですか?」
「四番隊の隊士が到着しました」
「わかりました。軽く顔を合わせておきたいのでここに案内してもらえますか」
「了解です」
演習と言っても怪我人が出ないとは限らないので四番隊の人を呼ぶのが通例らしい。まぁそりゃそうかって感じだけど、四番隊の人って結構蔑ろにされてるところ見るから、こんなところにまで出張ってもらうの申し訳ないなぁ…。まぁ、向こうはそれも仕事なんだけどさ
報告してくれた隊士にはとりあえず私のところに案内するよう言ったので、運営テントでしばらく待つ。最初はテントなんて作るような規模になる予定じゃなかったのにな…
副隊長格が参加するとなった途端自分もと手を上げる隊士が増えて気がついたらこんなことになった。流石は副隊長、これがカリスマ性…彼の方はやっぱりすごいなぁ
「緋月七席、お連れしました」
ぼけらっと待っていると、先ほどの隊士が何人かの死神を連れて帰ってくる。三人いるのか…全員四番隊が持つ特徴的な鞄みたいなものを背負っている
ちなみに今回の私の担当は管理側なので戦闘には参加しない。あーあ、彼の方の指揮の元戦うチャンスだったのに…こんなに大きな騒ぎにならなかったら運営とかいらなかったのにな…
まぁつつがなく終わらせるためだから仕方ないんだろう、多分
「本日はお越しくださりありがとうございます。三番隊七席の緋月です、よろしくお願いします」
とりあえず挨拶をして手を差し出す。そこでふと相手の顔を見ると、見たことのある顔がいた
「ど、どうも…四番隊の山田花太郎と言います。今日はよろしくお願いします…」
山田さん…って言うのか。男の人にしては少し長い髪になんというか…人が良さそうというか、いじめられっ子を絵に描いたような顔…
間違いない、破面と戦って倒れた時に見た人だ
「あの…」
「なんですか?」
「その後、お体どうですか?」
「!」
相手は私の手を握り返しながら言う
驚いたな、覚えてるかわかんないしと思ってこっちから話を振るつもりはなかったのに。覚えていてくれたんだ
「特に大きく崩すこともなく…といった感じでしょうか。お気遣いありがとうございます」
「それはよかったです。あの時は大変だったのでよく覚えていて…卯ノ花隊長も心配してました」
「それは…ご迷惑をおかけしました。あの時はありがとうございます、お陰で今生きてますので」
「あぁ、えっと、仕事なんで…気にしないでください」
優しい人だなぁと思いつつ言葉を返す。けどまぁ、若干怯えたような様子に見えるのはそういう風に見えやすい人なのか、それとも私の顔が不気味なのか
もし後者だとしたら、相変わらず私は私の表情筋には仕事をさせる気がないので仕方ない
とりあえず山田さんたちをテントの定位置に案内して、ここから先の流れを確認する
そもそも演習に運営とはなんぞや、と言う話なんだけど、今回の演習は人が増え過ぎてしまったので各隊の班ごとの勝ち抜き戦というルールが設定された。それだけ人がいるということで…やっぱり副隊長格の戦闘を見たい、体験したいって人は多いんだろうな
本番じゃないので武器は木刀なんだけど、そう考えると山田さんたち四番隊の人がここにいるのが少し不思議に思えてくる。多少怪我をしたところで基本的な処置なんかみんな教わるのに…やっぱり規模の問題なんだろうか
「えっと…そろそろ時間かな」
ざっくりと作られた予定表を確認しながらつぶやく。もうあと10分とかすれば始まる感じなので、開始時間について拡声器で呼びかけた
するとバラバラに話をしたりストレッチで体を整えてた人たちが一つの場所に集まってくる。それを確認して時間まで待機してから、改めて拡声器を手に取った
『時間になりましたので三番隊と六番隊の合同演習を開始します。勝ち抜け戦の班分けに関しては事前に知らされていると思いますので各自それに従い配置についてください』
それぞれの隊で班分けはされていて、先鋒は新人が集まり次鋒、中堅、副将、大将と五つに班を分けて行われる。勝ち抜き方式なので、もしかしたら先鋒の班が大将までたどり着くかもしれない。無理だろうけど
大将の班に陣取るのはもちろん両隊の副隊長。まぁ阿散井副隊長が彼の方をわざわざ指名してきたくらいだし、この二人の戦闘が見どころなんだろうな
大将戦の班分けに私もいたかったよ。でもこの役回りを指名してきたのは他でもない彼の方なので、多分私の霊圧まわりの話だろうなぁと承諾した。所詮は模擬戦なので、私が目立つこともないしね
まぁ、最初に演習を取り仕切ってたの私だからそのまま流れで決まった可能性もあるけど。六番隊から話をされて決まった演習ではあったんだけど、手が空いてるのが私だったので三番隊の代表が私だった。仕事なんて手の空いてる人に回ってくるものなので、そんなものだろう
『各班配置に着きましたので演習を開始します。相手の戦闘力を無力化できれば勝利です。鬼道の使用も許可されていますが、事故には気をつけてください』
最初は先鋒同士の試合になる。新人たちの緊張した顔を見ながら自分の過去をとりあえず振り返っては見たけど…彼の方を追いかけようと決めた以前の記憶がない。まぁ、仕方ないか
会場中央には審判がとりあえず存在している。終了のタイミングを見極めるための人なので参加している隊士同士の睨み合いのど真ん中にその人はいた
両者を確認した審判が両手に持った旗を上げる。それから合図とともに振り下ろして、先鋒戦が始まった
***
とりあえず今副将対副将の戦いを見てるわけだけど、まずわかったことは四番隊の人たちが呼ばれた理由
まぁとにかく怪我人が出る。特に先鋒戦なんて新人しかいない班同士だからみんな緊張してて二人も負傷者が出た。しかも一人は骨折という…なんだかなぁ。鬼道の使用も許可されてるから戦いが大きくなりやすくて、武器が木刀って言っても下手な当たり方すれば骨は折れるので仕方ないと言えば仕方ないけど
副将の班のリーダーは吾里五席。元々好戦的な人だしよく合うなぁ。だからこそ敢えて大将の班の一人じゃなくて副将のリーダーやってるんだと思う
そして副将戦というだけあって見応えがある。今回の演習は破面のことを受けて自分たちと同じ身の丈程度の相手を想定したものだから、死神同士で戦うのは間違ってない
今まで虚って大きいやつが基本だったし、少なからず経験にはなると思う
「それにしてもなぁ…」
運営、とにかく暇だ。まぁ何事も面倒が起こってない証拠なんだけどさ。この演習で修行の成果も少しは試せるかなって思ってただけに勿体無い
修行といっても斬術の基礎の見直しと体力作りが今の基本だけど。私はとにかく霊子コントロールが苦手なのでそっちもやった方がいいのはわかってるんだけど、とりあえずできるところを改めて見直すことで地盤を固めよう、という計画
彼の方に付き合ってもらった休暇中の修行が斬術だったのはそういうことで…とはいっても苦手を苦手のままにしとくとうっかり死にかねないので翠霞にみてもらっていた霊子の球を作るやつは一応継続してる。まとものなの相変わらず作れないけど
阿散井副隊長みたいに突き抜けて斬術がうまかったらなぁ…なんて考えはするけど、何事もできて損することはない。彼の方も鬼道上手いみたいだし…っていうか、彼の方に出来ないことが思いつかない
「でもやっぱ出たかったよなぁ…」
なんてぶつくさ言いながら不貞腐れてると、副将戦が終わったようだ。結果は三番隊の勝ち…自分が戦った分けじゃないけどなんか嬉しい
負けた隊士たちが場を去って、とうとう阿散井副隊長が出てきた。やっぱりなんていうか…阿散井副隊長って現世で言うところのヤンキーみたいな人なんだよなぁと見るたびに思う。七番隊の射場副隊長も似た感じするけど、あっちはなんか…同じようで違う感じ。あーあと、十一番隊の班目三席もヤンキーっぽい。そもそも十一番隊なんてヤンキーの集まりみたいなところだけど
それにしても存在してるだけで圧力がすごいな…なんていうか本当に霊"圧"って感じ。彼の方から普段こんな圧は感じないから、やっぱり戦闘前ってことなのかな。副隊長ってすごいや…
私なんてリボンで無理やり押さえ込んでるだけだから、あんな器用に調節とか出来ないし…
修行、がんばろ…
「…」
ここまであれこれ考えて、少しどうでもいい気づきがあった
彼の方の前じゃない自分があからさまにガサツすぎる。自分で言うのもなんだけどすごい死んだ目で前を見てる自信があるよ。もっと真面目に仕事をしろ
なんて自省していたら吾里五席たちの副将班があっさり倒されていた。とはいえ六番隊の大将班に残ってるのは阿散井副隊長だけなので、阿散井副隊長がおかしいのか吾里五席たちが奮闘したのか
「!」
当たり前だけど吾里五席たちと入れ替わるような形でとうとう彼の方が現れる。ちょっと遠いのが勿体無いけどやっぱり綺麗だなぁ…かっこいい…生きてるだけで素敵…
はぁ…いつも美しいけど、今日は阿散井副隊長が相手でちょっと気が抜けないのか緊張感あるなぁ…綺麗だなぁ…
見てるだけでどきどきする…あぁ、あんな綺麗な彼の方を俯瞰で見ることができるのはこの位置なんだけど、やっぱりあの緊張感のある背中間近で見たかったなぁ!
あの背中に付き従って歩き前衛として先陣を切って阿散井副隊長の周りにいる死神を薙ぎ倒して彼の方と阿散井副隊長との一騎打ちをお手伝いしたかったよ!
今からでもそこにいる隊士変わってくれないかなぁ、いいじゃんね、お付きの人も戸隠三席じゃないしさ、ほらさぁ!
「…はぁ」
って言っても無駄なんだけどさ。割と虚しい
とりあえず大将戦が始まる。私は泣く泣く諦めるしかないので、せめてと思って二人が何か会話しないかなぁと聞き耳を立てた
「よう吉良、お前と手合わせなんてどれぐらいぶりだ?」
「さぁ…流石に覚えていないな」
「相変わらずやる気ねぇなぁ。ところで、噂の新人席官とやらがいねぇじゃねぇか」
「彼女は運営側だよ、君が急に参加すると言い始めたからことが大きくなったんじゃないか」
呆れた様子の彼の方に阿散井副隊長図星を突かれたような顔をする。思ったより捻くれてない人なのかな?
「まぁいい…吉良なら相手にとって不足はねぇからな」
「君が僕に勝てるとは思わないな」
「わかんねぇぜ? 俺だって成長するって教えてやるよ」
「成長するのは君だけじゃないよ」
軽口を叩き合う二人。本当に仲良いんだなぁと思いつつ眺めていると、どうやら始まるみたいで審判が前に出る
「始めっ!」
審判の合図を皮切りに大将戦は始まった
向こうは一人、こちらは五人…彼の方の指示の出し方を見てる感じ、ベタだけど囲い込もうとする感じかな
「!」
でも阿散井副隊長の方が早い。完全に囲まれる前に手前の相手から千切っては投げみたいな勢いで胴に木刀を当て切り落とすように抜いていく
胴に木刀をモロで喰らった隊士たちは吹き飛んで木刀を手放してしまう。今回の演習では相手の戦闘力を奪ったら勝ちだから、木刀が手から大きく離れてしまったら相手の勝ちという判定になる。なので現状では始まって30秒もしないでこちらの班の隊士が三人も脱落したことになってしまった
あと二人、こちらの班は彼の方と片倉六席だけ…。少し緊張感の走る空気の中、片倉六席が最初に仕掛けた
一歩踏み出して斬り掛かると見せかけて、後ろに回していた手で作った赤火砲を前に出し相手に飛ばす。それはひらりと阿散井副隊長に避けられてしまったけど、これは囮だ。阿散井副隊長が避けた動きの次の着地地点には彼の方が待ち構えている。空中で身動きの難しいタイミングを狙って彼の方が闐嵐を撃ち弾き飛ばした
闐嵐に巻き込まれた阿散井副隊長は彼の方の少し遠くに飛ばされる。でも阿散井副隊長は鮮やかに身を翻して軽く草履で擦れた地面から土埃をあげつつ着地した
「すごい…」
まだこの試合は序の口で、全然熱くなんてなってないと思う。それなのに三人とも一つ一つの動作に無駄がないし、片倉六席と彼の方のコンビネーションは明確化されてるのが少し見ただけでもわかる
死ぬほど羨ましい。吉良副隊長とコンビネーションを組めるだけの時間を重ねてこれたことが羨ましすぎる…
「殺すしか…」
あ、やばい。口から出てしまった
まぁ誰も聴いてないと、思う。小さい声だったし
でも、これからそこまで辿り着ければいい、んだろうな。千里の道も一歩からっていうか、歩き出さないといつまでも足跡はつかない
「緋月七席」
そんなことを考えていたら、後ろから声をかけられた。本当は本気で今邪魔しないでほしいんだけど立場的にぐっと堪える。1秒でも長くあの方を眺めていたいというのに
「なんですか?」
「実はご相談がありまして…」
私に話しかけてきた男性の隊士は、困った様子で私を見ている。何かトラブルだといけないので慎重に話を聞かないとかな
「相談、ですか?」
「はい…審判と試合前に軽く話をしまして、ご報告が遅れて申し訳ないのですが…実は現在の試合に制限時間を設けた方がいいのではないかと」
「なるほど、そういうことでしたか」
相談された内容はよく理解できる。むしろ予め決めておかなかった運営側のミスだ
基本的に5対5の対決なので、本来最初から必要といえば必要だったとは思う。けど、あくまで小規模の戦闘としてルールが設けられた演習なので、時間がかかるという前提が想定されていなかった
勿論その場で泥試合になるようならその時は対応したと思うけど、どの試合も15分以上はかからなかったしちょっと失念してたな
でも副隊長同士の戦闘となると、二人が同期というのも相まって実力は私たちが思っているより拮抗してるんじゃないだろうか。二人は戦闘スタイルや得意分野が違うだけで実力は折り紙つきだって言うし、なによりそんな二人だから今日の演習には人が集まってるわけだもんな
そう考えると、下手したら決着なんて3時間経ってもつかないかもしれない。それは流石に困ってしまう
「ご相談ありがとうございます、こちらでは失念していました。確かにこの試合は特筆して制限時間を設けるのが良しと思われますので、こちらで対応します」
「わかりました。お役に立てたようで何よりです、他の者への通達は自分がやっておきます」
「助かります。私は拡声器で案内を出しておきますので、この決定は審判にも伝えてください」
「了解しました」
短いやり取りで隊士は去っていった。私はとりあえず周囲にいる同じ運営をやってくれている隊士に声をかけて軽く制限時間の取り決めを行った後、拡声器を取り出してスイッチを入れる
『運営よりお知らせします。試合は続行で構いません。現在行われている大将戦にのみ制限時間を設けることが決定しました。制限時間は今から15分、15分でお願いします。以上です』
拡声器を使って周囲に呼びかけながら試合の観戦に戻ると、いつの間にか片倉六席がいなくなっていた。さっき声をかけられるまでおよそ2分、そこから5分も経ってないはずなんだけどな…
制限時間は運営テントに待機してる時間測定をしてる隊士にここまでの試合時間の平均を訊いて、そこから少しだけ長い時間を設定させてもらった。ここまでの時間から今出した制限時間を足すと、25分…とかそんなものかな。他の試合よりは長く設定できてるはず。その時間で決着がつくとも思わないけど
「…!」
そこから、何も考えずに彼の方を注視して思わず目を奪われた
その動きはあまりにも素早く、無駄を感じさせない。訓練場は割と広いから意外と走り回れるせいだと思うんだけど、それでも通常の歩法と瞬歩の組み合わさった動きは目で追うだけで結構大変なほど
対して阿散井副隊長は見た目の通り力押しの戦い方をする人なのか結構正面から剣を振りにいく印象。そして彼の方の動きは鬼道を多用する印象だな…勿論お互い手の内を完全に明かしてるわけではないと思うけど、こんなに明確に違うとわかりやすくて参考にしやすいかも
直線的に動きつつも彼の方の速さについていける反応力、絶対に喰らいたくないパワーを感じる木刀の力強い振られ方、経験値の高さを感じさせる予測的な動き…すごいな、阿散井副隊長。旅禍の事件の時朽木隊長と戦って生き残ったって話、本当なんだろうな…虚圏にも行ったらしいし、阿散井副隊長って英雄みたいな慕われ方してる印象だけどそれに恥じないような感じがする
まぁ、でもそれはそれ。そんなことより大事なのは、目の前で他靡く美しい金糸の髪
「…」
なんて美しいんだろう…一度視界に入るだけでそのまま見惚れてしまう
彼の方の動きとしては、直線的な阿散井副隊長の動きを利用して鬼道を囮に自分の有利な間合いに相手を調節してるような印象。所詮は木刀だし斬魄刀の能力を使った戦い方はできないわけだけど、一対一で鬼道を用いるのは教練的な意味合いがあるのかもしれない
その上で相手の死角を狙って斬り払うような動きが多いような気がする。正面から来た阿散井副隊長の剣筋は正面で受け流しつつ、自分が斬り込む時は相手の懐とか脚の辺りを狙ったりもしてるな
ある意味想像通りというか、戦いを楽しむというよりはいかに相手を無力化できるか、みたいな戦い方をする
その中でいつもより緊張感の強い表情があまりにも美しい。多分演習って言っても阿散井副隊長相手には少し本腰を入れないといけないんだろうな。阿散井副隊長は彼の方より戦うということに楽しさとかがあるように思えるから、同期と戦うのも楽しいかもしれないし。それでいてある程度本気を出していい相手だということもわかってるわけだから、それなりの立ち回りをしてるはず
それゆえに生まれる目つきのこの、真剣さよ。そもそも一挙手一投足が美しい方なのに戦闘中のその集中した鋭い目線はなんですか?
美しすぎませんか?
私、その目で見られてボロボロになるまで戦って仕留められたい。美しすぎる。最期の視界にあの冷たい目が映るかもしれないなんて死ぬほど興奮する、絶対
あぁぁぁ…戦闘中ベラベラ話さないんだなぁ、普段垂れ目が攣り眉で持ち上げられてるのかっこいいけどそれがもう更に冷たい印象になって美しいなぁ…
死ぬの? 私死ぬんじゃない? こんな芸術を目の前にして生きてるのすごくない?
なんで写真機買わなかったんだろ…いや仕事で買いに行く余裕なんかなかったけどそれはそれ。普段から盗撮はよくないと自制してたのが完全に裏目に出てる。誰か写真撮ってたりしないかなぁ、言い値で買うから売ってほしい
そんなことを考えている間にも木刀のぶつかり合う音が訓練場に響いてる。その中の一瞬、本当に刹那的な瞬間…確かに私の背筋には鳥肌が立つほどの快感が走った
「…!!」
バチっ…とそんな音が聞こえた気がする。二人の副隊長が木刀を交えるその中心で互いの木刀がぶつかり合った時、そこから何か衝撃波のようなものが飛んできたのを感じた
実際にそんなことは起きてない。音も幻聴のようなもので、耳に入ってきたりはしてないけど確かに二人の霊圧がその一瞬だけ大きく高まったのを肌で感じた
止まった息を吐き出そうとして、喉も腹も唇も震えていたのがわかる。揺れる吐息を少しずつ吐き出しながら、私は背中に感じた快感を噛み締めていた
すごい…これが彼の方の霊圧…
そう思って、言葉を口から発する余裕なんてなかった
背筋がまだゾクゾクしてる。確かに阿散井副隊長のも混ざってはいるんだけど、普段手繰って感じている彼の方の霊圧に一瞬でも肺が押し潰されそうになったあの快感…とんでもない
心臓が高鳴る、興奮で呼吸が浅くなる…こんなに他人を潰せそうな霊圧を持ってるのに、普段はそれを感じさせないほどコントロールしてるなんて…素敵すぎる…動悸で死にそう
やばい、仕事しないといけないのにもう一度あの押しつぶされるような感覚を味わいたくて仕方ない。私駄目になってる、絶対になってる、腰抜かしそうだもの
あんな高まった霊圧はほんの一瞬で、今はもうそこまでのものは感じない。まるで夢見たいだ…
「はぁ…はぁ…は…」
こんなの脳みそ駄目になる。いつか私も強くなれたら、この霊圧を浴びながら彼の方と刀を交えることができるだろうか。いやそんなの本当に頭おかしくなりそう
脳内で言葉がぐるぐるする中、浅い呼吸で試合を見つめ続ける
木刀のぶつかり合う音と、彼の方が鬼道を発する時の声、そして放たれた鬼道がどこかにぶつかる音だけが聞こえて
聴こえる音と心臓の音だけでいっぱいだ。目はずっと彼の方を追うだけの何かになっている
あの瞬間からずっと呼吸が浅い、詰まって止まりそう
絶対に目が離せない、離したくない、あの美しい芸術を1秒でも長く目に焼き付けたい
あぁ、あの角度は、二人の木刀がまたぶつかって———
「そこまでっ!」
突然聞こえた意識の外の声に大きく息を吸って我を取り戻す。そこから段々と増え始めた音たちは思いの外ざわざわとうるさくて、さっきまでの静かさが嘘みたいに感じた
「…」
風船が弾けたみたいに戻ってきた意識はまだ少し脱力していて、そのまま決まっていたかのように彼の方に視線を向ける。視界に映る彼の方は息を切らせる様子もない。あんなに、あんなに刹那的なやり取りをしていたのに
その静かな立ち姿も美しくてやっぱり言葉は出てこない。ただ私はそのまま立ち尽くして、撤収のため私に指示を仰いできた隊士がこちらに声をかけてくるまでそのまま呆然と彼の方を目で追いかけていた