また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!
また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします
***
頭が半分以上惚けたような状態で撤収作業をして、今は交流会という名の飲み会が発生したので一応顔を出している
お酒は飲めないので断りつつ、あの時の彼の方が忘れられないまま隅の方の席でぼーっと座っていた
ずっと、ずっとあの美しさが頭から離れない。あの刹那の中にあった一つ一つの彼の方の動きが、揺れる髪が、他靡く死覇装が、冷徹な瞳が脳に焼き付いてぐるぐると回り続けている
「緋月七席?」
「!」
かけられた声に驚いて振り向くと、見知らぬ一人の隊士が心配そうにこちらを見ていた。いけない、ちょっとぼーっとしすぎたかな
でも知らない人だな…六番隊の人だと思うけど、なんで急に?
「なんですか?」
「お加減がよろしくないように見えましたので…体調にどこか異変でも?」
「いえ、少し仕事のことを考えていまして…近々提出の書類があったな、とふと」
「今は交流会ですから、もっと楽しんでください。今回緋月七席が滞りなく運営をこなしてくださったおかげで問題もなく演習は終わりましたし」
相手の隊士はこちらに随分と気を遣ってくれている。確かに今は交流会だし、彼のいう通りなんだけど…流石に彼の方のことを考えて上の空でした、というのも何か引っかかって適当なことを言ってしまった。同じ隊の人なら私はそういう意味で有名だしよかったんだけど
それにしても私に率先して話しかけてくる男の人なんて珍しいな。外から見たら私なんて不気味でならないだろうに
同じ隊の人だとたまに現世のこととか何かと教えてくれる人もいるけど…その度に優しい人たちだなぁとは思う
「お気遣いありがとうございます。私はあまり賑やかなのが得意な方ではないので、皆さんを眺めているのが一番楽しいですよ」
嘘はついてない。誰かとワイワイするの苦手だし、眺めてる方が楽しいのは本当。彼の方以外と進んで仲良くしようと思わないだけ
「まぁまぁそう言わずに、自分たちの集まりに来ませんか? 緋月七席が来るって言ったらみんな喜ぶと思います」
「いえ、そんな…お気遣いなく」
あ、やばいかも。今までちゃんと見てなかったけどこの人ちょっと顔赤いな…。酔っ払ってたら対応がだるい
ていうか、みんな喜ぶってあり得ないと思うけどな。こんな隅の方の席で黙ってお茶飲んでるような人間が他人と寄り合って話をすると思うのか? という話なんだけど
彼の方は阿散井副隊長と話すこともあるだろうし、ちらちら見てる感じでは変な女も擦り寄ってないのは確認してるので様子を見てる
なので問題は目の前の隊士なわけだけど…
「自分、今日の演習で緋月七席のこと気になってたんですよ」
「そう言われましても、行きませんよ」
「冷たくしないでくださいよ。せっかく飲みの席なんですから」
どうしよう、だるいな…
割ときっぱり言ったつもりなんだけど食い下がってくるとは。かといって場の空気乱すほど暴れたくはないし…
「緋月君」
「?」
ふと、目の前の隊士のさらに奥から声が聞こえた。それは確かに彼の方の声で、視線をやると確かにそこには貴方がいる
「少し話があって、来てくれないか」
「かしこまりました。ただいま向かいます」
すんなりと立ち上がって貴方のものに向かおうとする私の腕を誰かが掴んだ。視線をやると、先ほどの隊士が顔を赤くしたまま私を見ている
「なんだよ…上司には媚び売るって? 俺には冷たいのにわかりやすいな」
「は?」
あ、やばい。思いっきり眉間に皺を寄せてしまった
「私が上司だから吉良副隊長の言うことを素直に聞いていると?」
「だってそうだろ? 隅でぼーっとしてるから声かけてやったのに、こっちは邪険にした挙句上司が来た瞬間逃げようってんだから…」
そこまで言わせることなく私は相手の頬を引っ叩く。相手は動揺した様子で頬を赤くしたまま呆然としてたけど、そんなの知ったことじゃない
「ふざけんなよ。私の恋人を侮辱するな」
私はそのまま掴まれてた腕を振り払って立ち上がる。そのまま貴方の袖を引いて一度居酒屋を出た
***
「…申し訳ありません」
外に出てピシャリと音を立てた引き戸が閉まるのと同時にして最初に出た言葉は謝罪…というか、これしか言えないでしょ。やらかした…他の隊の人引っ叩くなんて、阿散井副隊長に睨まれでもしたら大変なのに
ていうか言葉遣いさぁ! もう少し気を遣えなかったかなぁ!? 貴方の前であんな汚い言葉使いたくなかったよ! 見られたの最悪!
いくら貴方を逃げの口実に使われたというのが嫌だったからって、それでもさぁ…本人が見てるんだからさぁ…
「…っ」
貴方が何も言わないの、めちゃくちゃ怖い…。今度こそ見放されたら言葉にもならない。雛森副隊長は絶対あんな言葉遣いしないよ、どうしよう…流魂街育ちの悪さが出てるってこれ。本当にごめんなさい!
「まぁ、少し…驚いたかな」
「…あの、その…」
やっぱり引いたよね…あんなさ、ナンパにキレて相手引っ叩いて暴言吐くのは駄目だよね!?
でも慌ててしどろもどろとしてる私を見て、貴方が小さく笑った。その噴き出したような声に反応して勢いよく振り向くと、貴方が口元に手を当てて震えている
「…?…!?」
「ごめん、あんまりにも目を白黒させてるからちょっと…面白くて」
「おもしろ…!?」
え、お、面白いってなに!?
「面白いってなんですか!?」
「そのままの意味だけど」
「何が面白いと!?」
「今みたいに落ち着きのない様とか」
「!!」
貴方はまたくつくつと笑い始める。私がそれに顔を真っ赤にすると、貴方はため息をつきながら笑い疲れて気の抜けたように肩を落とした
「はぁー…さっきの剣幕が嘘みたいだ」
「それは、どういう…?」
剣幕って何…? と、私が疑問に思って怪訝な顔をすると貴方は少し自虐的笑う
「さっき、君を助けに行こうと思ったんだ」
「私を、ですか?」
「うん。絡まれてたのにすぐに気づけなくて申し訳なかった」
「? 貴方のどこに謝る必要があるのでしょうか? 阿散井副隊長とは中々飲みに行ったりできないですよね?」
私が絡まれたのは流せない私が悪いのであって、貴方が気に病む必要なんて何もないけどな。今思えばたまに声をかけてくれる人にこちらから声をかけて人よけをしておけばよかった。こういうところ考えなしなんだよな私って
「…」
でも貴方はすごく…残念そうな顔をするから、ますますわからなくなる。私は貴方の邪魔をしたかったわけではないし、そう考えると結果的に声をかけさせてしまったのは失敗だったな…
「前にもいったと思うけど、君はそうやって自分を下げようとするところがある。さらに言えば、僕は初めから君をそばに置いておけばよかったと後悔してるところだ」
「え、お側に、ですか…?」
いや、まって、それはまずい。今日だけはまずいって
あ、あんな綺麗なものを見たばかりなのに…心臓が、心臓がもたない
「嫌なのかい?」
「嫌じゃないです!」
視線を逸らした私に貴方が怪訝な顔をする。反射的に本心で返しちゃったけど、でもやっぱり今日はしぬ…っ
「じゃあどうして目線を逸らす?」
「だって…」
「?」
「だって、今日の演習で見た貴方があんなに綺麗だったのに…ずっとどきどきしてて、一人で座ってた時もずっと貴方のことが脳をめぐっていたのに、今日だけはそばに置かれたら心臓が保たなくて死んでしまうと言いますか」
あああもう駄目。今思い出してもどきどきする。こんな心臓でそばに置かれたらもう本当、ちらっと見るだけで思い出して顔真っ赤になっちゃうから!
今だって心臓うるさくて、顔も赤いに決まってるのに!
「…」
「…?」
それでもちらりと貴方を見ると、貴方は黙って顔を覆っている。私がそれに疑問を隠さないでいると貴方はまた一つため息をついた
「君がそういうことを人前で言うような人じゃなくてよかったよ…」
「貴方の素晴らしいところは私だけ知っていればいいので」
「あぁ、うん…」
反応に困る、みたいな顔をされてしまったので申し訳ない。でもなにかおかしいことを言っただろうか
「…君がそういう人だとしても、やはり不甲斐ないよ。大切な人が何処の馬の骨ともわからない男に言い寄られてるのに何もできなかったからね」
「それは私の自衛が足りていなかったので、申し訳ないです」
「そもそも女性に自衛をさせる状況が正しくないと思うけど…」
「貴方は貴方のご交友がございますし、私は今日…ごめんなさい、貴方の隣いたら動悸で死んでしまうので…」
本当に申し訳ないけど、あんな綺麗な貴方を見て貴方の潰れるほどの圧を感じて…幸せで頭がおかしくなりそうで…思い出したら無理…しぬ…
「所詮は演習なんだ、本気でやってるわけじゃない」
「わかってはいるのですが、やはり阿散井副隊長がお相手だったからか少し緊張感のある表情であったりとか、隙のない動きに俊敏な歩法、一対一なのに鬼道を多く使うのは教練や阿散井副隊長の戦法と区別するために少しわざとしている部分もあるのではないだろうかとか、見てわかるものや美しさや心惹かれるところはたくさんあるんですけど、やっぱり…」
「やっぱり?」
貴方の問いに、私はあの瞬間を思い出す。思い出すだけで肺が潰れそうで、呼吸が浅くなって、幸せなあの瞬間を
「一瞬、ほんの一瞬貴方の霊圧が高まった瞬間があって、リボンもついたままの今の私では肺が潰れそうなほどその圧は強くて、その圧に潰されそうな感覚がとても幸せで、嬉しくて、強くなりたいってまた一つ思えて…」
あぁ、本当に幸せ。早く強くなって貴方のあの圧を全身に浴びながら死ぬか死なないかで刃をぶつけ合いたい。潰れそうな圧と殺意のこもった瞳を向けられて、でも貴方が私だけを見ているの。私が強い破面だったら、最初からその目を向けてもらえたのかな…なんて流石にたらればだなぁ
「君の被虐趣味には呆れるな…」
「な…っ、貴方だけです! 貴方が私を押し潰してくれるから…」
「だから被虐趣味なんじゃないか。それに僕だけじゃないならそもそも問題だと思うけど」
「…っ」
貴方の一言に私は顔を真っ赤にしてしまった。いや、呆れられてるのわかってるけど貴方だけじゃなきゃ問題ってことは、貴方が私が"貴方だけ"って思ってることを信じてくれてるわけで…え、あ、嬉しくてしぬ…
「…どこにそんな顔をする要素があったのか…」
「え、それは」
私が恥ずかしくなって口ごもっていると、突然後ろにある居酒屋の引き戸が乱雑に開けられた音を立てて開いた
「おい、お前らこんなとこで何やってんだ?」
「「!」」
「なんだよ…化け物でも見たみてぇな顔しやがって。せっかく探しに来たってのにお邪魔だってか?」
振り向いた先にいたのは阿散井副隊長で、若干固まる。もしかしなくてもいなくなった彼の方を探しに来たのは明白なんだけど、そんなに急に抜けてきたのかな
「も、申し訳ありません阿散井副隊長。いま戻りますので」
「あぁ? いいって、気にすんな。そっちこそうちのが要らんちょっかいかけてたみてぇだが大丈夫か?」
「あ、その、それは…本当に申し訳ありませんでした!」
私は慌てて頭を下げた。そうだよ、六番隊の人引っ叩いたばっかりじゃん。こんなところで幸せの余韻に浸ってる場合じゃない
「まぁ俺は全部見てたわけじゃねえから何があったのかわからねぇが…面白いもんは見れたな」
「…?」
「『私の恋人を侮辱するな』…だったか?」
「!!」
しまった。ニヤリと揶揄うように笑う阿散井副隊長を見て私の脳に最初に出てきたのはその言葉だった
やばい、どうしよう。顔から血の気が引いていくのを感じる
確かに隊の外でもそんな話題を聞いてはいたからある程度広まってるんだろうとは思ってたけど、これじゃあ信憑性の薄い噂じゃなくて確定した事実になってしまう
やらかした…これじゃあ更にイヅルさんにご迷惑が…
「あ、いや、その…」
「そんなに青くなるこたぁねぇだろ? 噂は広がってんだからよ」
「だとしてもですね…!」
本当何やってんだろ私…。そう真っ青になる私の肩に貴方の手が触れて、反射的に振り向く。すると貴方は「大丈夫だから」と言って少し落ち着くよう促してくれた
「確かに公私を分けるよう言ったのは僕だけど、事実を隠蔽しろとは言ってない。そもそも君があからさまなんだから今更だと思う」
「…!」
「だからそんなに青い顔をする必要はない。さっきも言っただろ? 申し訳なかったって」
「それは、ですね…吉良副隊長のお邪魔をしたくなくて」
やばい、言い合いになりつつある。嘘ついてないんだよな、どうしよ…
なんて脳がぐるぐるしていると、阿散井副隊長が"なんだコイツら"みたいな目で見始めてきた。私が知りたいんですけど?
喧嘩したいんじゃないんですよ?
どうしてこうなった?
「っだーもうめんどくせぇな」
「え」
不意打ちのようにそう言った阿散井副隊長は私とイヅルさんの襟首を掴むとそのまま店の中へ戻っていく。そしてイヅルさんが座っていた席…の隣に私を置いて、イヅルさんに隣に座るよう促している…え…?
…!?
「…っ!?」
頭の中で"バンッ"と何かが爆発した音がした。そのまま心臓は割れそうなほど脈を打って耳にその音が伝わってくる
待って、待って!
死んでしまう! 貴方、貴方もなんでもないみたいな調子で隣に座らないで! 死ぬ!
待っていい香りする…貴方の香りが、す、る…
「…」
「これでいいだろ」
真っ白な頭の中で阿散井副隊長の声がぼんやりと聞こえてきた。何を言ってるのかまではなんか聴こえた気がするけどもうどっかいってる
「あ? なんで固まってんだ?」
「脳が処理し切れなくなったんだと思うよ」
「なんだそりゃ、恋人っつーからもっとべったりしたもんかと思ってたのによ」
「僕もそう思ってたよ、最初は」
「なんか含みのある言い方だな…」
遠くで聴こえる会話になるべく耳を傾けて心臓を誤魔化す。そうでもしないと何も考えられなくなってしまう
そして貴方の言うことが本当に当たりでこまる。私は今脳が爆発しそうなのを必死に処理してるんだから。本当に助けて。空気のせいなのか近いからなのか意識してしまっているからかすっごいどきどきする…息を吸うと貴方の香りがする気がして顔崩れそう
「緋月くん、しっかりして。放心しても変わらないから」
「おーい、大丈夫かー?」
あぁ、貴方が私を呼んでる…なんか、なんか返事しないと
「ふぁ…ぁ、えっと…はい…」
「おい吉良、本当に大丈夫なのか?」
「原因的には大丈夫だと思う。いつものことだから」
「ならいいけどよ…」
阿散井副隊長は理解し切れてない顔をしている…そうだろうな…いや私がおかしいんだよ、申し訳ない…
「えと…大丈夫です…ご迷惑をおかけしました…」
なんとか意識が戻ってきた。まだ気は抜けないけど…
「やっと帰ってきたか…」
「ホントに大丈夫かお前…」
「えっと…」
と、そこで思考をわざと止めた。今うっかりやばいこと言いかけなかった?
落ち着いて自分…ここは人が見てる、うん
「…だい、大丈夫です…」
よしえらい自分、踏みとどまった
"吉良副隊長の恋人"として、妙なことを言うわけにはいかない
「…」
「…?」
大丈夫、で貫き通した私に対してとりあえず置いておくことにしたっぽい阿散井副隊長に対して、貴方はなんかジト目でこっちを見ている。これは何考えたかバレてるっぽいな…いやさっきあれだけ語っておいてバレないって方が難しいので小声で「申し訳ありません…」とだけ言っておいた
「そら、吉良も帰ってきたし飲み直すぞ!」
阿散井副隊長の呼びかけに隊士たちが盛り上がっている。二次会とかじゃないんだ…まぁ二次会できるようなお店も思いつかないけど。私も二次会なんて話に聞くだけで行ったことないし
ひとまず盛り上がる周囲を眺めながら一人お茶を啜っていたら、またお酒を勧められた。流石に座っている位置的に断るのも難しくて、お猪口に貰ったのをちまちま飲んでお茶を濁す
***
「お、終わった…」
家路につきながら言えることはこれに尽きる
今はもう10時すぎてるから…4時間くらい居酒屋にいたのかな? どんちゃん騒ぐ周りを見ながら過ごしてはいたけど、4時間わいわいと過ごせるのはすごいとしか言いようがない
「お疲れ様、飲めないと退屈じゃないかい?」
「いえ、楽しげなみなさんを見てるのは好きですよ」
「少し意外だな、普段言う通り周りに興味がないと思ってたのに」
「空気感といいますか…楽しそうなところを見るのは好きです。側から見てるのに慣れてるとも言いますが」
「慣れ…?」
「あぁ、目の話です。外に出られない子供だったので、家の近くで遊んでる子供の声を聴いたりとかが割と当たり前で…楽しそうだなぁみたいな」
「…」
思い出話をしたら貴方が黙ってしまった。最初は反応の理由がよくわからなかったけど、確かに目が普通じゃない人間の話なんてわかんないよな…申し訳ないことしたな
「えっと…気にしないでください。過去の話ですから! 今は心置きなく貴方を見ることができて幸せですよ!」
「…そうじゃなくて」
「?」
「君にもっと、綺麗な景色を見せてあげられたらと思ったんだ」
「それは」
「君の人生はまだいくらでも積み重ねることができる。子供の頃に見れなかったものが今見れるのなら、これからたくさん綺麗なものを見に行けばいい」
「…っ!」
それは殺し文句じゃないだろうか。せっかく収まったのにこれじゃあまた顔が赤くなってしまう
「嫌かい?」
「嫌なわけないじゃないですか! また顔が…熱くて…その言葉は殺し文句ですよ」
「そんなことを言ったつもりはないけど…」
これだけ私を口説くようなことを言って理解してないの!?
だって、だって貴方のそれは
「今の言葉は"私"のことしか指してないって丸わかりじゃないですか…! 貴方がそんな、私だけ見てるみたいな」
「それは…君と話しているからね」
「そう…そういうことじゃなくて!」
ああもう顔が熱い!
わからないならいいよもう!
「貴方が…私だけ見てるなんてことはないのに」
「…そう思うのかい?」
私がぼそりとこぼした言葉に返ってきた貴方の声が少しだけ納得いってないように聞こえる。理由はわからないけど…興味を持ってもらえるならもう少し話したい、かな
「貴方にはお仕事があって、仲間がいて、ご友人がいて、大切な方がたくさんいます。だから、貴方の視線が私だけに向くことはない。それなのに、勘違いしそうになってしまって反省してるところなので」
本当にいけない。自分のやってることがいい意味で帰ってくるとは限らないんだから、勘違いしないようにしないと
一つ深呼吸して心を落ち着ける。すると、手に少しだけ冷たい感触があった
「!」
その感触は私の手を包み込んで、しっかりと握る。何度もしてきたことのはずなのに私は思わず胸が鳴って、我ながら顔が赤いようなと思いながら貴方を見た
すると貴方がこちらを見ていてまた胸が鳴る。どうしたんだろうとは思うけど、それより見られていることが嬉しくなってしまう
「い、如何なさいましたか?」
緊張が拭えない声を出す私に、貴方は少しだけ視線を背ける
「…今、ここには君しかいない」
そう言って、握られた手に加わる力が少し強くなった。その一つ一つに気付くたび、胸の音が加速していく
ずるい、ずるいよその言い方は
「それは…そんなことを言われてしまったら都合よく捉えてしまいますから…」
「そういうつもりで、言っているけど」
「…!」
本当にずるいよ。つまりそれって、貴方に大切なものがたくさんある証明で、でも二人の時の貴方は私だけの貴方ってことでもあって…頭おかしくなりそう
「貴方はどこまで私の心臓をおかしくするんですか…っ」
顔が熱い。慣れないよこんなの…嬉しいって思っちゃうもの、調子に乗りそう
「嫌かい?」
「そんなわけない! ですが私は…どこまで貴方に甘えてしまっていいのかわかりません。今だって、本当はこのままうちにでも行って二人でって思うのに…」
「なら行こう。あぁでも、僕の家にしようか」
「それは…どうしてですか?」
「その方が気兼ねない。君が僕を好きにできるだろ?」
「な…っ」
好きに!?
私が貴方を好きにするって何!?
「好きにって…抱きつく、とかですか?」
「…」
「な、なんですかその目は!」
「君は邪なのか純粋なのか…」
貴方はまるで呆れたと言わんばかりの視線を私に送ってくる。そんな目で見られても、貴方を好きにするってなんてそんなことか監禁くらいしか…
「…今度は何かやましいことを考えてないかい?」
「うっ…。あ、貴方を本当に好きにして良いなら後は閉じ込めるくらいしか思い浮かばないと思って…」
「それは極端だな」
「自分でもそう思うのですが、やはりそれくらいしか思いつかなくてですね…すみません」
申し訳ない…けど結局どっちもどっちっていうか、循環してるっていうか。大好きだから閉じ込めたいし抱きしめたい…
いやでも今貴方を抱きしめたら死んでしまうような気がする…演習終わってそのまま飲み会だから、お風呂で汗ながしてない…な…?
「…っ!?」
ちょっと想像してしまった! そのせいで心臓がまた爆音を立ててるし顔が熱いし貴方を見ることができない
何を考えてるの私は! 変態かな!?
「っあ!?」
あまりの恥ずかしさに目を閉じたらすっこけた。反射的に両手を前に出して受け身を取ろうとしたけど、その前に体が強制的に後ろへ引っ張られる
「大丈夫かい?」
「ふぇ…」
背後から貴方の声がして、何も考えずに見上げると貴方の顔が私を見下ろしていた。その光景に私の中の時間が少し止まって、
「っ!?」
また頭が爆発する。もうダメかもしれない今日。何があっても心臓が爆発する気がする気しかしない
「今日はいつもより騒がしいな」
ばたばたと慌てる私に貴方も少し困惑しているようだった。申し訳ないので早く心臓が落ち着いてほしいんだけど
「す、すみません…あ、離れますね」
「僕のことでそんなに暴れ回るのは君くらいだよ」
「それはそうでなくては困りますね」
「そんなに…何がいいんだか」
相変わらず貴方は自虐的にそうこぼす。そんな憂う貴方も綺麗で、貴方の素敵なところはやっぱり私だけわかってたらいいのに…なんて思った
「たくさんありますよ、貴方の素敵なところ」
「…」
でもたくさんあるのは本当で、ついそんなことを言ってしまう。大好きなんだもの…仕方ないよね
「今から羅列しますか?」
「しなくていい…」
「残念です」
そんな会話をしていたら本当に貴方の家の前に着いてしまった。しまったな、話に夢中でここまできちゃったけど貴方は軽くとはいえ動いた後だし私はすぐ自室に帰るべきだった
「では、私は帰ります。本日はお疲れ様でした」
素直に頭を下げて身を翻すと何やら後ろに引っ張られるような感覚があって、反射的に振り向くと珍しく貴方が私の腕を握っている
「如何なさいましたか?」
私が問うと、そのまま貴方は何も言わずに私の体を引っ張って、バランスを崩した私の体を受け止めると流れるように抱き上げた
「!?」
「あれだけ煽っておいてすんなり帰れると思うのは浅はかだね」
「え? 煽って…ないですよね?」
「…」
そんなことをした記憶はないけどな…変態発言は山みたいにしたけど
でも抱き上げられてるのを暴れるわけにもいかずそのまま素直に運ばれていく。するとやはりというかなんというか、寝室に連れて行かれた
ゆっくりと体を布団に降ろされるとそのまま貴方が覆い被さってくる
いやいやいや!? なんで!?
動揺は隠せない、隠せないけど目があった貴方は綺麗で、目が離せない
「…っ」
「またその目だ。そんなに僕はいいものじゃない」
「何を…と言いたいところですが、私の価値観は私のものです。私に取って貴方は、何よりも美しくて、かっこよくて、愛おしい」
私の言葉に貴方は呆れたようなため息をつく。こればかりは仕方ない、貴方はいつだってそういうところは後ろ向きだから
それからまた私の方に向き直す貴方は少し疲れたような呆れたような様子なのにやっぱり綺麗で、見惚れていたら不意に腕を掴まれた
「…また安易に他人に触らせたね?」
「それは…申し訳ありません」
居酒屋でのことを言ってるんだろう、これは私のミスだ。隅の方で大人しくしてれば周りはテンション上がってるしこっちに目が向かないだろう、なんて甘えた考えを持っていた私が悪い
「腕を斬り落とした方がいいでしょうか。貴方以外が触れるのは、やはり…」
「それはそれで極端だな。そこまでする必要はないよ、ただ…」
「ただ?」
「僕以外の感触は覚えておいてほしくない。忘れられるようにしようか」
「…?」
忘れるように、と言われるのはわかるけど…忘れられるようにしよう、とはどういうこと?
そもそも覚えてもないけど、やっぱりそう言ってもらえるのも嬉しいなぁなんて考えていたら、あの時触れられた場所に貴方の手が滑った
「んっ…」
すこしくすぐったくて声が出る。それから貴方の手は私の腕を撫でて、掴んで、少し力が入って。貴方の手が、貴方の手が私の腕を掴んでいる…まるであの瞬間を掻き消すように
「!」
腕に意識がいっていたら今度は頬に手が滑り込んできた。そのまま貴方は私に口付けを落として舌を口内に滑り込ませてくる
「ん、ふ…んぁ…ぁ…」
舌の絡み合う水音が耳に響く。少し意識がぼんやりとしてきたあたりで貴方は少し離れて、繋がった唾液が糸を引いた
ふと見上げれば貴方が少し冷たい目で私を見ている。でも冷たい目のはずなのにどこか張り付くような感情があるように感じた
「…愛してくださるのですか?」
「愛なんて綺麗なものじゃない。けど君はそれも好きだろう?」
「えぇ、勿論。貴方が私に向けてくださるのならば」
私は空いた手を広げて貴方を求める。貴方はそれに応えるように私にまた一つキスをしてくれた
ただ言うならば、貴方のそれは私にとって愛だと言ったら貴方はどんな顔をするんだろうと思いながら、私はその感情を喜んで受け入れる
続
鏡花さんは基本的に吉良副隊長に対してのみ限界ヲタクです