※この作品はR-18です。

系   作:七星七夕

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当作品は二次創作であり、原作、実際の物事、人物、事象には一切の関連がありません、ご注意ください
また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!

また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします










「衝動」後編

「衝動」

 

 目が覚めたら、慣れない天井があった

 それでもわかる。ここは四番隊の隊舎だ

 

「…」

 

 体がずいぶん楽だ、死ねるとさえ思ったのに

 

「あ、目が覚めましたか?」

 

 誰だろう、なんとも人の良さそうな顔が私を見ている

 

「喋れますか? 意識は?」

「…とりあえずは」

 

 そう一言告げると、相手は明らかに安堵した

 

「よかった〜。三日寝てたんですよ、卯ノ花隊長呼んできますね」

「はぁ…」

 

 三日も寝ていたのか

 いそいそと去っていく相手を見送る

 とりあえず起き上がると、ここが個室であることがわかった。そして段々蘇る記憶に、気持ちが沈む

 

「あーあ…」

 

 短期間だったとは言え、ここまで積み上げてきた信用が音を立てて崩れていく感じがする。言えないことがあるとは言ってあったけど、こんなことなんて思ってないだろうしな

 

 私死んだなぁ…主に精神が

 吉良副隊長に嫌われただろうな

 側にも、もう居れないんだろうな

 

 隊長か…嫌だ、彼の方に跪いていたい

 音を立てて部屋の戸が開いた。中に卯ノ花隊長と虎徹副隊長か入ってきて私をみる

 

「…とりあえず大丈夫そうですね」

 

 何をもって、と思ったけどすぐにわかる

 あれで死ねたらよかったのになぁ

 

「貴女、大怪我をした上に抑え込んでいた霊圧が暴走して肉体が崩壊しかかっていたのですよ」

「…わかっています」

「吉良副隊長が迅速にここまで運んで来なかったらどうなっていたか、"二度目の"貴女ならわかりますね?」

「…はい」

 

 わかっている、そんなことは

 卯ノ花隊長の視線は冷たい。怒ってるのが伝わってくる

 申し訳ないのは、ある

 

「一先ず落ち着いたなら何よりです。病み上がりのところ申し訳ありませんが、起き次第総隊長の元に向かわせる様申しつけられています」

「わかりました」

 

 あぁ、公開処刑か

 彼の方も、くるのだろうか

 とりあえずベッドから出る。卯ノ花隊長達に深く頭を下げてから一番隊の隊舎に向かった

 まだ少し、左の肋骨は痛む

 

 

********

 

 

 一番隊の隊舎に着いて案内されたのは総隊長の執務室だった

 そこには涅隊長と、浮竹隊長、京楽隊長、総隊長と言う錚々たる面々が私を見ている

 

 とりあえず彼の方が居ないことに安堵した

 

「三番隊、緋月鏡花。只今参りました」

 

 膝を付いて挨拶をする

 なるべく早く頭はあげたくない

 

「顔を上げい」

 

 ダメだったか

 

「はい」

 

 頭を上げて前を見る

 彼の方以外の視線が自分に向くのは苦手だ。恐ろしい

 私も人の視線は苦手なのに

 

「お主、なぜ呼ばれたかわかっておるな?」

「…はい」

 

 卍解したこと以外にあるだろうか、いや無いな

 

「先刻吉良の報告にて状況は伝わっておる。しかし卍解まで使うとはお主何があった」

「技術開発局お手製の封印を解くとは良い度胸だネ。こちらでもしっかり君の霊圧は観測しているヨ」

「…それは」

 

 思い出さないで逃げれたら良いのにな

 

「…意図は不明ですが襲来した敵の霊圧及び強さが想定の範囲を超えていました。人質を取られ、護らなければいけないと判断し封印を解除しました」

「君、封印を解いた代償で肉体が崩壊しかかっただろう?後でまた研究させてもらうヨ」

「後にするんだ涅隊長」

 

 涅隊長の好奇心に、浮竹隊長が制止を入れる

 総隊長は、黙ってこちらを見ていた

 

「…お主」

 

 総隊長に視線が合わせられない

 怖い、きっととその言葉を考えるだけで

 

「封印を解除し、己の力を行使したことの意味をわかっておるな?」

「…わかっております」

 

 卍解持ちと言う力の証明

 隊長不在の隊がいくつもあって、緊急時と言って良い

 つまり、私はどこかの隊の隊長に任命されるということで

 それが受け入れられるなんて思ってない

 

「ですので」

 

 私は懐から脇差を出す

 それを抜いて喉に突きつけると、慌てた浮竹隊長と京楽隊長が私を止めた

 そんなものは予想がついていたことだ

 それでも私は

 

「私はここで自死を望みます」

 

「早まるんじゃない、落ち着くんだ」

「何言っちゃってるの、人生これからでしょ?」

 

 二人は軽く抑える程度で本気じゃない

 舌を噛むことはできそうだ。やるしか…

 

「ならぬ」

「わかっております。しかし私にそれ以外の選択肢は残されておりません」

「ならぬ」

「彼の方に跪けないのであれば、彼の方をお守りできないのでは、私の命に意味はないのです」

「ならぬと言っている」

 

 無理だ

 無理なんだよ

 こんな所で彼の方以外に跪くだけでも虫唾が走る

 

 私の主君は彼の方だけ

 彼の方だけが、私の光

 好きなだけじゃない、愛してるだけでもない

 

 彼の方への忠誠が、私の生き方なのに

 

「何を言っても、伝わらないのですね」

 

 私は大きく口を開いた。そのまま少し舌を差し出して、思い切り口を閉じる

 

「!」

 

 でも噛んだのは、舌じゃなくて浮竹隊長の指だった

 自分の舌の上側と、浮竹隊長の細い、節くれだった指からは私の歯型に沿って血が出ている

 

「…やめるんだ。若い君が命を落とすことはない」

 

 若いとか若くないとかじゃない

 私の生き方は私が決める

 それがたとえ組織で通用しなくても

 

「無理です。彼の方以外に忠誠は誓えません」

「…何でそんなに吉良副隊長にこだわるの?」

 

 京楽隊長は問う

 なんでって、他の人はわからないものな

 

「彼の方は、私の心を確かに動かしてくれました。ただなんとなくできることをしていただけの私に、誰かに愛を求めることを、相手を愛することを教えてくれました。彼の方の平穏こそが私の望み。彼の方に跪き、連れ添い、忠誠を誓い続けることだけが私の生き甲斐なのです」

 

 私にしかできないこと

 私だけが、心からやりたいこと

 立場じゃない、お金でもない、ただ貴方がそこにいて縁側でお茶を飲むような平穏な幸せだけが私の願い

 

「それを邪魔立てすると言うのなら、私は自死を望みます」

 

 たとえ貴方と別れるようなことになっても

 たとえ貴方から怯えられるようなことがあっても

 

 貴方が私を利用する限り、私は貴方の私

 利用で良い、愛さなくて良い、貴方を護れるなら

 

 最初の目的に立ち直るだけだ。何も怖くなんてない

 怖くなんて

 ないのに

 

「引かぬか。ならばそれも仕方なし、一先ず牢に入れておけ」

 

 どこからともなく知らない死神が二人ほど現れる

 浮竹隊長がさりげなく私の脇差を回収して、私は見知らぬ死神に運ばれていった

 運ばれた先は一番隊の牢の中

 

 鍵の閉まる音で少しだけ我を取り戻すけど、ふらふらと端の方で座り込む

 何日ここに居ようとかまわない

 彼の方に合わせる顔なんて無いんだ

 このまま餓死でも何でもすれば、隊長になんてならないで済む

 

「…」

 

 確かに隊長じゃないとできないことがあるのはわかる。わかるけど、私がやりたいのは彼の方に絶対の忠誠を誓って生きること

 上下関係のわからされた犬がその関係を変えないように、私は彼の方の牙であり盾であり、飼い慣らされた狼でありたい

 

 首輪が私のご褒美

 席官に上がるくらいならよかったのにな

 卍解まで手に入るなんて思わなかったんだもの

 ただ私達は、利害が一致しただけ

 翠華は侘助を護りたいだけ

 

「…吉良副隊長」

 

 貴方が笑ってくれたなら、私は

 私は要らないのに

 

 

********

 

 

 最初に僕が現世から帰ってきて呼ばれるまま総隊長の元へ向かった時、浮竹隊長と京楽隊長が同席しているのが気になった

 

 特殊な状況だった、と言っていい。

 総隊長に直接報告しなければならないのはわかる。でもどうして半端に他の隊長まで?

 

 こういうのは本来隊首会で行われるはずだ。状況説明するにも上官がいない僕は直接顔を出さないといけないし、呼び出されたのは仕方ないと思う

 

 でもあまりにも状況が特殊すぎる

 総隊長に他二名の隊長格のみとは、どう言うことなのか

 とりあえずは促されるままに状況を説明する

 三人は僕の話を聞くと、特に浮竹隊長は、悩むような苦しむようなそんな顔をした

 

「…やはりか」

 

 総隊長は言う

 

「使ってしまったのか…」

「これはまずいことになったね」

 

 二人もまた、何か気を使うような、そんなことを言う

 僕は状況が飲み込めていなかった

 何が二人をそんなに険しくさせるのか

 彼女に何があると言うのか

 今の僕にはわからない

 

「状況が揃っておる。涅隊長より強い霊圧の観測も確認されている以上、言い逃れはさせん」

「ですが先生、緋月の気持ちが…」

「ならぬ! 現状は異常事態じゃ。一人でも多くの隊長を必要としておる」

「でもさ山じい、ちょっと急ぎすぎなんじゃないの?」

 

 三人が何やら話し合っているけど、僕には飲み込めない。ただわかるのは、僕が見たものが関わっているということだけ

 

 確かに彼女は始解をした。"卍解"をした。

 姿を変え、狼を率いて眼前の敵を倒し、囚われた僕を救出したんだ

 

 僕を捉えていた檻を砕いたあの身の丈を超える狼が、その異形さが何も言わなくても全てを物語っていたのを覚えている

 

 ただ、彼女はずっと嫌がっていた。彼女のできる限界まで、僕に何かを見せないように

 敵は彼女と刺青の話をしていたのが、所々聞こえている

 おそらく彼女の"言えないこと"はそれに関係するのだろう

 

 つまり彼女は、僕の知る彼女は、見せかけだったのだろうか

 それは無いと、信じたいが

 

「彼女は…緋月鏡花と言う死神は、一体何なのですか」

 

 置いていかれるような雰囲気に耐えかねて僕は三人に問う。すると浮竹隊長が話しづらいように間を置いて口を開いた

 

「彼女は…始解と同時に卍解を習得した特異な死神なんだ」

 

「!?」

 

 始解と卍解を同時に?

 そんなことがあり得るのか?

 

「そんなもの…聞いたことがないです」

「そうだろう、俺もそうだ。しかし彼女は実際にこの短期間で始解と卍解を習得し、その事実を俺たちと涅隊長以外に隠蔽している」

 

 浮竹隊長の言葉に、動揺が隠せない

 でも確かに彼女が僕を意識し始めた段階からことが進んでいたとしたら、それしか力を目覚めさせたタイミングはないと考えた

 

「緋月ちゃんね、聞いた話たけど最初は暴れたんだってさ。その時も突然のことで霊圧が暴走して四番隊に運ばれた。後で技術開発局送りになって卍解が発覚したって聞いたよ」

「少し前に技術開発局の爆破事故があっただろう。あれば実際の所緋月の暴走によるものだったんだ」

「そんな…」

 

 確かに記憶している

 彼女がまだ僕をひたすらに見ていた頃の話だ

 事件と時を同じくして、彼女が数日休んだことがあった。体調不良と聞いていたし、普段から休むような隊士でもなかったので鵜呑みにしていた

 

 でも何で、霊圧の封印なんて

 

「…あの子、君の側に居たいから力を封印したいって言ったんだそうだ」

「!」

「この話には続きがあってね、技術開発局送りになった後で大暴れしたらしいよ。自分のことは何でもして良いからこの力を封印してくれってさ」

 

 そんな馬鹿なことがあるだろうか

 卍解が使えると言うことは、今の尸魂界において何倍もの昇進を狙える

 地位も名誉も手に入る

 それらを投げ捨ててまで、僕のそばにいようだなんて

 とてもじゃないけど理解できない

 

 僕を馬鹿にしているのかとさえ思ってしまう

 

 でもきっと、彼女はそんな事は考えないとも、どこかで考えてしまう

 

「愛されてるじゃないの、色男」

「それは…」

 

 どうなんだろう、でも彼女の言葉に嘘があるとは思いたくない

 そう考えた時、自分だけに笑いかける彼女を思い出した

 

 僕だけにいろんな側面を見せてくれる彼女を

 僕のことでいつまでも涙する彼女を

 

「この件に関して彼女は総隊長と契約をした。封印したら力を行使した時、もう二度と同じ事はしないと」

「そうじゃ。緋月はそれに頷いた、しからば隊長に上がるのも道理と言えよう」

 

 確かにそうだ

 二度と同じ事はしないと言うのは、明らかに二度と封印をしないと言うことになる

 力を隠せない以上、彼女の立場が変わるのは道理だ

 でもそれで納得できない自分がいるのは何故なんだろうか

 

「とりあえず、今彼女は四番隊で治療を受けている。目が覚めたら話をするつもりだ」

「あんまり肩に力を入れなさんな、なにもあの子をとって食おうって話じゃないんだ」

 

 そうですね、とは言えなかった

 その場はそれで解散になって、僕は渦巻く思考を抱えながら帰路につく

 

 

********

 

 

 牢に入れられて、とりあえず三日が経った

 食事に手をつける気力もなく、私はただ虚空を見つめている

 

「…」

 

 このまま死ねないかな

 それとも死んだら責任逃れだろうか

 予期せぬ力の責任とは、何だろうか

 

「吉良副隊長…」

「なんだい」

「へ!?」

 

 貴方の声がして思わず振り返る

 そこには確かに、幻でない貴方の姿があって、私は光の速さで土下座した

 貴方の顔を見れなかった

 

「ごめんなさい」

「…何を、謝ってるの?」

 

 貴方の言葉に、少しだけ顔を上げる

 それでも貴方を見ることができない

 

「貴方を、裏切ってしまったことを」

「…」

「確かに話せないことがあるとは、言いました。それを許さないで欲しいとも。でもこれは、貴方に対する裏切りだから。貴方から離れていかなければいけないかもしれないから、だから、ごめんなさい」

 

 貴方は何も返さない

 そうもなる。きっと総隊長から全部聞いてるんだろうなと考えれば尚更

 

「頭を上げて」

「…はい」

 

 貴方がそう言うなら、私に拒否権はない

 頭を上げて貴方を見る。だけど貴方は、私が思うより落ち着いた様子でここに居た

 

「どうして、霊圧を封印するようなことを?」

 

 貴方は問う

 私は震える唇を開く

 

「ただ、貴方の側に、居たくて」

「それは、今の立場でないとできないことかい?」

 

 貴方にはわからない

 それでいい

 

「私は、私は貴方に跪く幸せを噛み締めて生きています。貴方に仕え、貴方を支え、貴方の牙となり盾となることこそ私の幸せです。今でなければ、あなたの下でなければそれは叶わないのです」

 

 どうか、醜くしがみつく私を赦さないで

 貴方が私を切り捨てるのなら、私は

 

「それなのに、力を欲したのか?」

 

 貴方の問いに、私は大きく息を吸う

 瞬間的に見開いた目は、すぐにぐしゃぐしゃになった

 

「…欲しかった! 欲しかったですよ!」

 

 苦しくて苦しくて、苦しくて叫んだ

 

「貴方を護りたかった! 貴方の横を歩ける死神になりたかった! 貴方に近づきたかった! 貴方の牙となれる存在になりたかった!」

 

 届かなくて良い

 理解されたくない

 この思いは、私だけのものだから

 

「今だってなりたい…貴方の私に、なりたい…」

 

 仕事も、私事も、全部私で埋めて

 貴方を私だけの貴方にできたなら

 

 理知的で冷静で、なんでも内に抱えてしまう貴方が、私を頼ってくれたなら

 項垂れて、力無く床を殴る私を貴方は見ていた

 

「月大神は、翠華は、ただ私と利害が一致して力をくれただけ…あの子は私だから、私がそれをきづいてしまったから」

 

 貴方は何も言わない

 私は、また泣くのか。こんな、無様になってまで

 貴方の見る前で

 

「…っ」

 

 いや、泣くわけにはいかないんだ

 

 貴方の側にいるって、私が決めたんだから

 貴方は私の貴方だって言ってくれたんだから

 

 絶対に、離れたりしてやらない

 

「私は、貴方の側に居れないのなら自死だってする」

「ちょっ、待って緋月君!」

 

 覚悟を新たに自死を決めるけど、貴方の制止に私は瞬きをして止まる

 

 …あれ? そう言えば吉良副隊長はどうしてここに?

 

「僕がここに来たのは、君を説得しろと言われたからだ」

「…」

 

 総隊長め、私のことをよくわかってるじゃない

 

「だけど僕が自分の意思でここに来たのは、かつての失敗を繰り返さないため」

「…失敗、ですか」

 

 貴方は何を言いたいんだろう

 私は少しだけ身構える

 

「僕は昔、市丸隊長を信じすぎて大事な人を…雛森君を傷つけた。だから、君の気持ちを知りたかったんだ」

「私の、気持ち…?」

「そう。君はどうして僕といるのか、何を思って僕のそばにいたいのか、それが聞きたい」

君の道を歪めてしまったのは僕だから、と貴方は続けた

「っ、そんなの」

 

 そんなの、いっぱい話してきたじゃない

 何度も、何度も

 そもそも私の道は歪んですらいないのに

 

「…こんなもの、盲信です。崇拝です。恋じゃない、愛じゃない。醜くて、汚くて、貴方に触れて良いものじゃない」

 

 それでも

 それでも

 

「それでも、貴方が好き…」

 

 やっぱり泣いた。両腕を抱えて床に臥した

 だめだこれは

 貴方が好きなんだもの

 

 良い所も、悪いところも、全部

 止められないよ、貴方に支配されていることが幸せなの。貴方の役に立つ私でいたいの

 

 その場でうずくまってしまった私を、貴方は檻の隙間から撫でてくれる。その手が嬉しくて辛くて、貴方を見たくて見れなくて

 

 貴方は今どんな顔をしているの?

 貴方は何を思って私のそばにいるの?

 貴方の側に、私はいるのかな

 

「貴方のお側に、私を置いてください…」

 

 そのためなら死ねる

 そのためなら生きれる

 貴方以外なんて、要らないから

 

「…これを盲信と言わずしてなんと言いますか? 私も貴方と同じです。ただ貴方と違うのは、あまりにも私情が挟まってしまっていると言うことだけ」

 

 友達もいらない

 親もわからないなら

 貴方だけがいれば良い

 

「…わかった」

「…?」

 

 私は貴方の言葉に顔を上げる

 貴方はやっぱり穏やかな顔で、私を見ていた

 

「君の気持ちが嘘じゃないって、わかったから」

「貴方に嘘だけは、つきたくないです」

 

 まだ鼻水を啜ってしまう

 本当に泣いてばっかりだな、私は。こんなはずじゃなかったのに

 

「それが君だから、きっと僕は君を好きになったんだと思う」

「…!」

 

 その言葉だけで、生きていけると思った

 これから先道が分かれても、貴方の側に居れる気がした

 

「隊首試験、受けてみないかい?」

「え…?」

 

 受けろと言うの、貴方が

 

「大丈夫、だって君は…」

 

 

********

 

 

 結局隊首試験には出る羽目になった

 三人の隊長と総隊長を相手に質問責めだったり卍解見せたり

 

 結果は不合格だったので、本気で胸を撫で下ろした

 

 とりあえず不合格の理由としては"経験不足"ということだった。日番谷隊長みたいに順当に席を上がっている訳でもなかったし、私は死神としての時間があまりにも短い。それを懸念した上で他の死神がついてくるような説得力がないと言う理由だ

 

 正直、こんな事なら駄々を捏ねずに隊首試験だけでも済ませてしまえばよかった。

 総隊長は少し不服そうだったからもしかしたら本当に私を隊長に据えたかったのかもわからないけど、正直他の隊長さんが言ってた事はその通りだと思うので、お飾り隊長になるくらいなら不合格で良かったと思う

 

 あの日吉良副隊長は言った。"私には圧倒的に経験値が足らないから問題ない"と

 確かにその通りだったわけで

 

 駄々を捏ねてしまった分複雑だけど、恐らく涅隊長が…十二番隊が私の霊圧の変化を観測してしまったから話を表沙汰にするしかなかった…という見方もできる。もしそうだったらそれはそれで色んな人を巻き込んで申し訳ないけど

 

 それでも一般隊士では居られないとのことだった。最低でも席官入りは確定だそうだ。人を率いる才能はないので避けたかったけど、こればかりはわがままも言っていられない

 何より、彼の方の下で生きていけるならそれでいい

 

 そしてとりあえず諸々終わって隊舎に帰っているわけだけど、何故彼の方が入り口で私を待っているのか不思議でならない。私は予想外の出来事に少し離れた曲がり角で少しだけ顔を出して様子を見ていた

 

「…何で?」

 

 いや、私の勘違いかもしれない

 彼の方は他の誰かを、多分仕事的なアレで待っていて私は関係ないかもしれない

 

 そうでなかったらむしろおかしい。上官が目下の隊士を待つなんて…新人が来ても先輩的な立場の人が出迎えにくるのに

 

「…何をしてるんだ君は」

「にゃあ!」

 

 後ろからかけられた声に驚く

 確かにこの声は貴方のもので。振り向くと貴方がそこに居た

 

「え、えっと…吉良副隊長は何をお待ちなのかと思いまして」

「ここで覗き見ていた誰かさんだね」

「そんな…そんなわけ無いですよ〜。上官が部下を待つなんてそんな」

「これから席官に上がろうと言う死神が何を言ってるんだか…」

 

 とりあえず乾いた笑いで誤魔化す

 貴方はまたため息を溢した

 

「ほら、そんなところに居ないで中に入ろう。任命状もあるから」

「はい…」

 

 黙ってついて行くことにした

 隊舎に入ると、また空いた部屋に通された。座るように言われて、私の向かいに貴方が座る

 

「緋月鏡花を、本日より三番隊七席に任命する」

 

 貴方はその一言を添えて任命状を私の前に置いた。私はそれに頭を下げる

 

「謹んでお受けいたします。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

 

 任命状を受け取って懐にしまう

 その姿を見て貴方は安心したように私を見た。私がそれに疑問を抱くと、貴方は言う

 

「調子が戻ったみたいでよかったと思ったんだ」

「そうでしょうか…あぁでも、そうかもしれません」

 

 まだ貴方の側にいれることに、私は安心感を確かに得ていて

 何よりそれは喜びだ

 貴方の下に居られる

 貴方を支える一つになれる

 幸せだ

 

「貴方のお側に居るのが、私の幸せですから」

「公私は分けるように言ったはずだけど」

「申し訳ありません、吉良副隊長」

 

 確かに公私混同な発言だったな、反省しなければ

 

「さて、仕事に戻ろうか。まず君は班の面子と改めて顔合わせをしないといけない」

「了解しました」

 

 立ち上がって仕事に向かう

 貴方が私の肩に手を置いて囁くから胸が鳴った

 

「今日の帰りは飲みに行こう。お祝いに」

 

 なんて囁く

 

「は、はひ…」

 

 そんなことされたら、顔が、公私混同どころではなくなってしまう

 そして貴方はさも平然と去って行くのだ

 公私混同はいけないってさっき私に言ったくせに…!

 

 仕事にならないじゃんか!

 

 

終

 

 

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