また、死ぬほど捏造設定があり、原作の隙間を縫うような部分がいくつも散見されますが、これは個人の好みでありそういった作風であるとご理解いただければと思います。個人的にはその隙間は想像の余地のままになってたらうれしいな!
また、当作品は恋愛小説です
版権キャラクターとの恋愛描写や性行為描写が苦手な方は回避をお勧めします
主人公が大怪我したり戦闘したり場合によっては修行するかもしれませんが誰がなんと言おうとこの作品は恋愛小説です。ご理解いただければと思います
カップリングは「吉良イヅル×オリジナルキャラ」になります。ハーレム等の予定はありません、悪しからずお願いします
「独白」
私は当たり前な女だったと思う
強いて言えば愛想がない、人と群れない、瞳が赤い、くらい
流魂街では見知らぬ人が世話役になってくれていて、その人の知り合いの死神が私を誘って今がある
赤くて見づらかった目はその人の紹介で技術開発局に連れて行ってもらって手術をしてもらった。目に幕を張って当たり前な目に見えるように。昼間は日陰で光を見ないように過ごしていた私にとって、はっきり映る青空は素晴らしかったのをよく覚えている。
しかし人間関係といえば、学院時代から今も変わらず愛想もなければ友達もいない
一人が心地いいのではない、興味がない。誰かと居ようがいまいがその場限りであと続きがしない。学級だって別に特進にいたわけでもないし
霊圧は比較的高い方だったけど、座学はそこそこで霊力のコントロールはあまり上手い方ではなかった。斬術だけは、世話役の人が少し教えてくれていたのが役に立ったけど。世話役の人は、あのおじさんは死ぬ前は刀を握る仕事をしていたと言っていたなと思い出す
運が良かったのは卒業してすぐ護廷隊に入れたことだと思う。浅打をものにできた自信はなかったけど、とりあえず将来に不安がないのはいいことだと言う程度に考えていた
この時配属されたのが三番隊で、転属になったことはない
その頃はまだ市丸隊長が居て、吉良副隊長はその下で仕事をしている状況
市丸隊長は、個人的に言えば正直苦手だった。いつも気がつけば隊舎内にいない人で、かと思ったら身近に見かけるような…いるのかいないのかわからない人。でも何より、あの腹の底を探らせないようにする態度が怖かった。何気なく挨拶をしてるだけでも底の見えない井戸をのぞいているようで
かと言って吉良副隊長に最初から興味があるわけでもない
そもそも隊長、副隊長なんて一般隊士からしたら雲の上の存在なので見かけたら挨拶する程度。私も顔しか知らなかった
ただ印象に残っていたのは、周りが陰気だなんだと言う割にはいつも背筋が正しくて、ほとんど書類仕事をしてること。当時うわさでは斬拳走鬼の揃った強い人だというのは聞いていたけど、それだって実践を見たわけでもないし
隊に入ってしばらくした頃、例の旅禍騒ぎが始まった。新人に口を出せることなんてないのでいつも通り鍛錬と雑用をこなす日々。その時にそれは起きる
吉良副隊長が牢に入れられたと聞いた。噂なんて早いもので、すぐになぜかは半端な情報で隊の内外に知れ渡ることになる。そのまま同時に藍染隊長の死亡が発表されて、旅禍の騒ぎと合わせて瀞霊廷のなかがどんどん騒がしくなっていくのを感じた
そのうち、新人が交代で吉良副隊長の居る牢の掃除や食事を運んだりするのをやることになったけど、席官は勿論先輩たちも表の騒動に駆り出されているので半ば雑用のように言い渡されたのをよく覚えている。みんな吉良副隊長に思うところがなかったわけじゃないと思うけど、事態はそれを許さなかったのだろう
食事を持っていく最初の当番がたまたま私だった。朝食の乗ったおぼんを持って地下に進んでいくと何やら荒い呼吸が聞こえてくるのが、最初に気になって
恐る恐る地下に降りると、そこには息を呑む光景が広がっていた。こちらに気づかぬ本人を差し置いて私は少し立ち尽くす。
その牢に入っていた彼の方は、牢の中の唯一の家具である椅子を破壊して、血が出るまで壁を引っ掻いて、呻きとも叫びともつかぬ声で牢の中をのたうち回っている
私はとりあえず踏まれない位置におぼんを置いて、静かに先輩を呼びに行った
そこから話が広がって、結局四人ほど引き連れて戻るとまだ彼の方はのたうち回っていて。それを見た先輩たちが慌てて鍵を開けて彼の方を押さえ込んでいたのをよく覚えてる
貴方はずっと震えて、怯えて、何かに縋るように己の罪を吐き出している。あの普段無機質に仕事をする貴方があんなに表情を吐き出して、大の大人に押さえつけられてそれでも暴れて、そんな、そんなの
羨ましいと、おもった
彼の方に思われてる誰かが、心の底から羨ましいと思った。そんなに執着して愛されてることが、羨ましいと。ちゃんとそう感じたのは結論が出てからだったけど
それでも、見た瞬間に嫌な感じはしなくてむしろ心惹かれた。衝撃的で、胸が締め付けられる。何か心に穴が空いたようにも感じた
吉良副隊長は当時から市丸隊長に絶対的な信頼をおいてるので有名で、市丸隊長が藍染隊長を殺した疑いがなんだと話が飛ばし飛ばしに入ってきていたからそのことに対しての抗議をしたいのかと最初は思う
でも彼の方は言った「僕は、なんてことを」と
その言葉から取れば、とても抗議であると受け取るのは難しい。ならどうして牢になんてと思って、拘束具をつけられた彼の方を目に焼き付けてからその場を去って情報を集めていると、やはり私が思っているのと話が違うというのがわかってくる
真相としては、藍染隊長の死体を見てしまった雛森副隊長は気が動転し怪しいと思い込んだ市丸隊長に斬りかかったところを吉良副隊長が受け止め、そのまま戦闘が始まったのを日番谷隊長が止めた、ということになるらしい
もしこれが本当なら、吉良副隊長の言葉から察するに雛森副隊長に手を挙げたこと対しての後悔なのかもしれないと考えるのに容易い。もしかしたら瀞霊廷内で戦闘を起こしたことかもしれないけど、その時はなんとなくそうは思わなかった。でも真面目なあの人たから、どっちもなのかもしれない。なら問題はなぜ手を挙げたことが後悔につながったのか、と言うこと
さらに嗅ぎ回れば、旅禍の騒ぎで混乱している瀞霊廷の中などいくらでも噂話が入ってくる
吉良副隊長と雛森副隊長と阿散井副隊長が同期なのは有名だったけど、どうやら吉良副隊長は雛森副隊長に片思いをしている噂を聞いた。流石に本人達の騒動の後、本当にプライバシーのかけらもない
でもそうか、吉良副隊長は雛森副隊長が好きなんだ。やっぱりあの言葉は、雛森副隊長に手を挙げことに対する後悔なのかな。絶対のはずの上官の潔白より好きな人に手を挙げたことの方が嫌なんだ…へぇ
その時はっきりと雛森副隊長が羨ましいなと、確かにそう考えたのをよく覚えている
淡い思いというにはあまりに重たい感情だ。普通上司を絶対と取るなら淡い思いなど砕けそうなものなのに。彼の方にはそれができない
あぁ、いいな。そんなふうに愛されたら幸せだろうな
他人と過ごすことに興味はなかったのに、今はこんなにも一人の人間との繋がりを求めてる
なんて傲慢だろう
日に日に彼の方に対して考える時間が増えていく
彼の方の目に入るくらい強かったら、私もあの視線をもらえるのだろうか。そう思うと鍛錬にもいっそう身が入って時間外でも木刀を振るようになった。
数日としないうちに吉良副隊長が牢を脱走したという話が広がった。状況としては他人が手引きしたもので間違いないそうで、私はなんとなくだけど嫌な予感がしていた。ざわつきを抑えるように胸に手を添える
確かにその日の内だ、大きな霊圧が幾つもぶつかり合うのが伝わってきて少し怖いくらいの日。どうやらその日は極刑を言い渡された死神の処刑日で、外にいた私は遠くに大きな火の鳥が見えた。その霊圧はとても濃くて、ここまであの炎の熱が伝わってくるように感じた程。その場で何があったのかは知らないけど、火の鳥を見て暫くすると旅禍に対する警戒が解かれてかつ全隊士への通達として藍染、市丸、東仙…三人の隊長が謀反を起こし尸魂界を去ったと知れ渡ることになり、同時に雛森副隊長、阿散井副隊長、朽木隊長、日番谷隊長の重傷が伝えられた
吉良副隊長はその件に加担したのと脱走の二つで再び牢に入れられて、そのまま仕事をしていたのを見るとその状況でも仕事させられるんだ、と思って少し不憫に感じたけど立場上仕方ないのかもしれない
私はその姿を見てますます市丸隊長が苦手になった。いつも書類仕事をしてるのは吉良副隊長で、さらには利用して自分だけ逃げて、もしそうだとしたらそんな安易に利用してるだけみたいな…真実は知らないしわかるかもわからないけど、少なくとも今の段階で好きにはなれそうにない
藍染隊長たちの裏切りで結局瀞霊廷内は混乱したまま、新人はまたも牢へ雑用をしに向かうのである
毎度何かしらで牢に向かうと、吉良副隊長は必ず持ち込まれた文机に姿勢正しく座って心を閉ざすように書類を片付けていた。牢の外には必ず綺麗に空になった食器が置かれていたので食べてるようだと安心はするけど、それ以外で休んでると思えることはない
これだけの状況でも彼の方は背筋を正して仕事をしている。
正直言って意味がわからなかった。
まるで全部自分が悪いとでも言いたいようにみえる。雛森副隊長に手を挙げたのも、市丸隊長の謀反を見抜けなかったのも自分の罪だと
それは必ずしもそうだとは限らないのに。自分で罪を背負い込めば楽になるのだろうか
本人の考えてることはわからない。わからないけど、その背中はとても苦しそうに見えた。こっちまで見ていて苦しくなるほどに
どうして、と疑問が頭から消えない
毎度食事を置いておくと伝えると、彼の方からは振り向きもせずお礼だけが返ってくる。そのことに安堵を覚える自分と視線を交えたい自分がいたことに気づいた
そして同時に思い知る、自分がどれだけ彼の方のことだけ考えていたかを
気づいてしまってはもう遅い。端を切ったように轟く心臓を押さえ込んでも、見開いた目を閉じても、思考を止めようと足掻いても、何をしても、彼の方を思う気持ちだけが傾れ込んでくる
彼の方に見られたくて、彼の方と視線を合わせたくて、苗字でいいから名前を呼んでほしくて、私にあの方の優しさを、護らせてほしくて
でもきっと、きっと吉良副隊長が雛森副隊長を好きということは、彼の方の求める幸せの形は普遍的で穏やかなものなんだろう。それならば、私はそれを護る手伝いをしたいと同時に思った
そうだ、それでいい
彼の方に認知されなくても、名前を呼ばれなくても、あんなふうに愛されなくても。彼の方の従順な犬として、彼の方を護る群れの一匹として居れればいい。
どんなに苦しくても、彼の方には思う人がいる。その気持ちを邪魔しないように、その気持ちを護れるように、私はありたい
でも一つだけ許して欲しい
貴方の顔を、この目に毎朝焼き付けることだけは
********
彼の方を守れる存在になりたくて、朝も昼も夜も今度は木刀じゃなくて自分の浅打を振った
何日も寝不足になって顔にクマが出るようになったけど、どうせ誰ともろくに関わらないのだから関係ない
朝、挨拶をする時に少しだけ顔を上げて、この間職場に復帰した貴方を見る
気づかれてないといいな、と思うけどやっぱりどこかで目があったらと思ってしまうのはいけないところ
その頃からだろうか、朧げに夢を見るようになった
夢は少しずつ輪郭を表して、私の心に訴えてくる
そこには、崖の淵に座って月に吠える狼が一匹。他には誰もいなくて、私はその後ろ姿をずっと見つめていた
同じ夢を何日も見るようになって、どこかで気づく。あの月は、彼の方だろうかと
本当にそうなら狼は私だ
彼の方を求めて鳴く私が狼なのだ
彼の方を護ろうと心に誓ったのに、まだ愚かにも彼の方を求めている自分の浅ましさを呪った
それでも、それが私なのならば
その日の夢で、私は狼に問うた「貴方」は「私」なのかと。そして狼は振り向く、そして男と女が重なったような声で、私に問いを返す
"お前はなんのために力を求める"と
まずは私が答えた。「彼の方をお護りするために」それだけを
すると狼は一歩私に近づいた。一歩、また一歩と近づいて私の前に座る。私がそこに視線を落とすと、狼は口を開いて———
そこで目が覚めた。夢の最後、狼の言葉を聞き入れた私の枕元に置いた刀は、その姿を変えていた
真円の鍔。それ以外はなんの変哲もない刀だけど、確かに変わったのがわかる
その日の夜、山奥に潜って刀を抜いた。月明かりに輝くその刃は、いつもより煌めいて見える
一つ、深呼吸をしてその言葉をこぼす
「——帳を下ろせ『月大神』」
息を吸うように霊子が集まるのを感じる
まず刀身が、月明かりを受けて煌めくのではなくそのものが輝き始めた。光を纏ったその刃は何もしないより一回り大きく見える。ふと視線をやると、鞘も姿を変えていることに気づいた。黒かった鞘は純白に姿を変え、蔦のような模様が入っている
「これが、私の力…」
感動した。これは確かに私の牙だ、つまりは彼の方を護る牙でもある。こんなに嬉しいことはない
そして冗談まじりに憧れを口にした
「卍解」
と。すぐに「なんてね」と付け足そうとしてそれは起きる
大きな地震のような音がした。でも不思議と、最初は嫌な感じがしなかったのに、次の瞬間
「!」
急に体が膨れ上がるような感覚になった。大量の霊子が意思と関係なく傾れ込んできて体を圧迫する
意識はすぐに押し潰された。状況についていけずどうにもできないまま、視界は暗くなっていく
********
目が覚めた時、見慣れない天井が見えた
体を起こそうとしたが、あまりの痛みにそれも叶わない
なんとか動く首を回して状況を確認する。身の回りには点滴と見かけない器具の類、ここは四番隊…?
そんなことを考えていると、引き戸の開く音がした。そちらに振り向くと、中には卯ノ花隊長が入ってくる。そして私を見た
「う、卯ノ花隊長…あたっ」
起き上がって頭を下げなくてはいけないのに体が痛くて起き上がれない。すると卯ノ花隊長は「無理をせず」とだけ言って私を制止した
「目が覚めたようで何よりです。体調は如何ですか?」
「…首から下が信じられないほど痛いです」
「それ以外になにか違和感などは?」
「特にないと思います」
それを聞くと、卯ノ花隊長は「そうですか」と優しいけど冷静な印象の声で返す
きっと体が痛いのは昨日の夜のことに起因してるんだろうけど、あれは何があったんだろう
「あの、私の体に何が」
私は尋ねるけど、卯ノ花隊長は点滴や計器の確認をしている。その片手間のように答えてくれた
「貴方は体内にある霊圧が暴走して肉体が崩壊しかかっていました。何か心当たりは?」
肉体の崩壊、と聞いて背筋が凍った
思いつく限りでは昨日の冗談だと思うけど、それ以外で思いつかないし
「…昨日、始解を手に入れたんです。嬉しくて山に確認しに行って、その時冗談混じりに『卍解』って言ったところまでしか覚えてなくて」
それと何か関係かあるかもしれないととりあえず思いつく限りのことを言った。すると卯ノ花隊長は血相を変えて私を見るので思わず身構える
「…いえ、浅慮な発言は避けましょう。ひとまずこのことは総隊長に伝達します、よろしいですね?」
「はぁ…構いません」
状況が飲み込めないまま頷いた
総隊長の名前が出るような事態なのかと思って余計に混乱する
計器の確認を終えると他の隊士の人に私を預けて卯ノ花隊長はさっていった
とりあえず体が痛いのが早く抜けないと、お手洗いどうしようって呑気なことを考えていた矢先お昼になったのでとりあえず食べさせてもらってお昼をいただく。内臓は痛くなくて安心した
翌日には体の痛みもなく、お手洗いもすんなりいけるようになって更に一安心。すると虎徹副隊長が上体を起こして伸びをする私の病室に入ってきた
「おはよう御座います、虎徹副隊長」
「あーえっと、おはようございます。大事な話があるの」
「如何しましたか?」
とりあえずベッドの上で頭を下げる。虎徹副隊長はなにか慌てているようで少し気になった
「落ち着いて聞いてね、これから急遽貴女を十二番隊に移送することになりました」
「えっ」
十二番隊といえば技術開発局。嫌な予感がする
「今回は簡単な検査的なものらしいから安心してね。でも移送はすぐだから体のほう診断します」
「わ、わかりました…」
そのまま始まる簡易な診察。体の調子を訊かれて、動きの確認をして、計器のデータをとって、点滴を抜いて…一通り終わると私は送迎してもらって十二番隊に行くことになった。まだ病み上がりなのでしんどかったけど体に鞭を打って移動する
十二番隊に着いてとりあえず門番の人に事情を伝える。案の定案内されたのは技術開発局で、ついでに目に貼った膜の確認や点検もしてもらえないかな、なんて考えてた
刀を渡すように言われたので、とりあえず斬魄刀を局員の人に渡す。次に見たことない機器でいくつも検査を行って疲れ果てたところでさらに呼び出されてげっそりした
呼ばれた部屋で私を見ていたのは涅隊長と涅副隊長で、私は慌てて頭を下げる
「お、お初にお目にかかります! 三番隊の緋月と申します!」
数え切れないほどの計器に囲まれた部屋で申し訳程度に置かれたソファに案内され腰掛ける
涅隊長は最初こそ興味がないと言わんばかりに画面をみていたけど、涅副隊長がお茶を持ってきてくれた辺りでこちらに振り向いた
「君、緋月と言ったか。面白いことをしているネ」
「…?」
特に心当たりはない。霊子で爆発しそうになったことを指してるのだろうか
「君の斬魄刀には『卍解』をした形跡がある」
「!?」
そんなことがあるはずがないと、確かに思った
「そ、そんな。私は昨日始解を習得したばかりで…」
「ほう、それはさらに面白いことを聞いた。詳しく説明したまえ」
とりあえず、促されるままに夢と昨日の話をした。涅隊長は一度それを黙って聞くと、最後にニヤリと楽しそうに口角を上げる
「それは面白い! 確かに検査の結果を振り返っても君の霊圧はそれ相応のものだ。この短期間になぜそんな力を得たのか、なぜ具象化なしで卍解に辿り着いたのか…ぜひ研究したいものだヨ」
そう話す涅隊長は興味が前面に出ている。私としては研究だろうがなんだろうが構わないけど、不安で仕方ないことが一つ
「研究は、好きにしてくださっていいんですが…この力、封印とか、できませんか」
その一言に、涅隊長は不可解を顔に書いて目を細める。その気持ちはわからないでもない
「封印、とはどういうことかネ? それだけの力があれば隊長職も夢じゃない。普通は昇進の道に喜ぶものだと思うがネ」
「それは」
確かに普通ならそうだと思うけど、私にはやりたいことがある。彼の方の元で、彼の方を、彼の方の幸せを守る目標が
「私には、目標があります。今の立場でなければできない目標が。この力は今そのために使うものではない」
私たちは、あくまで同志。手を組んだに過ぎない、向こうもそれはわかってるはずと思えばこの結果に文句をつけることはないだろう
これに関しては、気取られるわけにもいかない。今はまだ"力を有していない私"に意味がある
「だからどうか、研究は好きになさってくださって構わないのでこの霊圧を抑え込めませんか」
そしてついでのように目の膜のメンテナンスを頼んだ
「ふん…」
涅隊長はつまらないと顔に出していた。何をつまらないと思ったのかはしれないが、一度画面に向き直る
「君は随分と傲慢な性格のようだネ」
「?」
「私が研究を始めて君をバラバラにしない確証はどこにある? 君の霊圧をゼロにして流魂街に返すことだって出来るのだヨ、それなのに君は当たり前に生きて瀞霊廷に帰れると思っているようダ」
「…」
確かにそこまでは考えてなかったな。犯行予告なのだろうか、でもそれなら
「…バラバラにされるのは、悪くないですね。そしたら彼の方にこの力が…私の存在がバレないで済む」
私が死ねば、彼の方を守れないかもしれないけど彼の方にこの力がバレないで済む。矛盾してるけどそれでいい気がした
私の言葉に涅隊長はほんの一瞬にも満たないくらい指を止めて、またつまらなそうに鼻を鳴らす。そこから涅副隊長を一言呼ぶと、彼女は私を部屋の外に導いた
「失礼しました」
私は結局話がどうなったのかわからないまま部屋を追い出されたことになる。すぐに他の局員さんがきてさらに別の部屋に誘導された
その部屋は白い壁と天井に囲まれた広い部屋で、部屋の中央には何やら簡素な防具のようなものと私の斬魄刀が置かれている
「…?」
状況は飲み込めなかったけど、とりあえずどこからか聞こえる声に指示されたので素直に防具をつける。すると次は斬魄刀の始解をしろと声は言う
「…あの、状況聞いてからでもいいですか」
私の言葉に声は呆れたようなため息で返すと、とりあえずこれは検査の一つで、一通り終わったら説明するから後にしろと邪険にされてしまった。私も説明してもらうのを諦めて斬魄刀を構える
「帳を下ろせ『月大神』」
解号と共に私の刀は姿を変えた
昨日見た通りの姿。光る刀身に白い鞘
とりあえず安定して始解ができたことに私は安堵する
そして声は言った。"そのまま卍解しろ"と
その言葉に背筋が凍った。
体が爆発しかかったことをもう一度?
当たり前に怖いに決まってる
私がためらっていると、焦れたような雰囲気でまた声が私に語りかける。安全は保証するからやってみせろと
仕方ない、そう考えて一つ深呼吸をした。心を落ち着けて集中する
「…卍解」
今度は昨日と違って、あの地震のような音もせず穏やかに霊圧が上がっていくのを感じた。そして目の前の光景に驚く
「!」
死覇装が巫女装束のようなものに置き換わっている。つけた防具はそのままだけど顔の前に垂れた前髪も白くなっているのに気づいて、慌てて顔を上げると懐かしいあの眩しくて前が見れない視界が帰ってきた
「っ、すみません電気消せますか?」
周囲が光ってしまって何も見えない。これは視界の感じでわかる、目の色が戻ったんだ。でも膜は外してないのにどうして?
そして声が上から聞こえるのに違和感があって頭を触る。するとそこにはピンと立った犬の耳のようなものがあった。触ると少しくすぐったくてざわざわと耳を触ったときのような音がする。まさか本当に人間でない耳が生えてるようだ
どこかで映像でも見えているのか、私の言葉から少しして部屋の照明が少し落とされて見やすくなった。そして背後の気配に気づく
「!」
何かが動く音がして慌てて振り向くと、そこには身の丈を超える白い狼の姿があった。思わず声を上げると狼は小さく吠えて私を諌める
「ご、ごめん…」
言ってることが全てわかるわけじゃないけど、雰囲気のようなものは伝わってきてなんとなくわかった。見知らぬ動物と急にそんなことができるはずはないので、これが自分の力の一部だと感じるまでは早い
狼は何かを望んでいるようだった。私に何かして欲しいことがあるような…
「…名前が、欲しいの?」
ほとんど勘だったけど、狼はその言葉に小さく頷く。翡翠色の瞳が、優しく私を映していた
それにしても名前、か…と少し考える。本来月大神が斬魄刀そのものの名前なので一括りなんだと思ってたけど、案外そうでもないようだ。おそらくは刀そのものが"月大神"で、この狼はその中にいる別の存在なんだろう
ふと、また狼に視線をやる。翡翠色の瞳が私を不思議そうに見ていたのを見返して、思いついた
「…翠霞」
「?」
私がぽつりと呟いたことに、狼は疑問の視線を送る。私はその目を見返して、改めて声にした
「翠霞、はどうかな。瞳が翡翠色で綺麗だし。あ、男の子だったかな?」
狼がぽかんと私を見て、それから少し首を横に振る。すると納得したのかその場に座り込む。どうやら本当に女の子のみたいだ
私が少し頭を撫でても怒らない。認めてもらえたんだろう、多分だけど
「…ねぇ、翠霞」
目を閉じていた翠華が薄目を開けて私を見る
「この力、今は封印したいんだ。いいかな」
少し間を置いて、翠霞は仕方ないと言うようにまた目を閉じた。彼女が何を考えてるかわからないけど、否定的でないことは伝わってくる
「…そう、ごめんね」
そこまで話したところで、部屋の中に警告音が響いた。二人して慌てて身構えると、部屋の中に一体の虚が入ってくる
またどこからか声がした「その虚を倒してみろ」と
虚は興奮状態なのか凄まじい声量で叫んでいる。そして私たちを見つけると、その勢いで大きな拳を落としてきた
「わぁぁ!!」
慌てて飛び退く。虚は私たちしか見えていないのかすぐにまた追いかけてきた。最初こそ逃げ回ってたけど、それでは埒が開かないので一度足を止める
相手を見据え、刀を構えて相手に飛びかかった。刀を振り翳してから瞬歩で軸をずらし、巨大な相手の手首を切り落とす
「はぁ、はぁっ…」
実践をしたことがないわけじゃないけど、一人で立ち向かうのは初めてだ。いくら力がついたからといっても緊張感は拭えない
またすごい声量の叫びが聞こえる。切り落とした手をよく見ると、徐々に石のようになってるのがわかった。それはまだ本体と繋がってる手首の傷口も同じこと
これがこの刀の能力であると気づくのには早かった。どういう仕組みなのかわからないけど、切ったところから石化させていくのがこの刀の使い方みたい
後ろで翠霞がうなりを上げている。それから全身の毛を逆立てると、石の矢を何本か作り出して相手に飛ばしていた。私にもあれができないだろうか
「…っ」
意識を集中して、まだ混乱してる相手をみる。さっき翠霞が作ってた石の矢を想像して、思い切り虚空に刃を振った
「!」
刀から何本か石の矢が出て相手に突き刺さる。そこからまた石化がはじまって、相手は動揺してるみたいに見えた
その隙をついて翠華に視線を送る。相手はそれをわかってくれたのか虚に向かって飛びかかった。虚はそれを跳ね除けようとするけど翠霞はそれを易々と避ける
私は翠霞の後ろに忍び込んで、あの子が飛び退いた瞬間に相手の頭に向かって刀を振り下ろした。仮面は綺麗に割れ、真っ二つになった虚は消え去っていく
そこでまた部屋に警告音が響いた。こちらが警戒しているとまたどこかから声がする
声は言った「検査は終わりだ」と。そして卍解を解くように言われた
おど、と申し訳なく思いながらも翠霞を見る。彼女は何も言わなかった
卍解を解くと、彼女もまた鳥の羽が舞い散るように消えていく。それはどこかさみしいものに感じた
ふと下を見ると巫女服に置き換わっていたものも死覇装に戻っていることに気づく。同じように髪も視界も戻っている
部屋を出るように促されたので手探りて部屋から出ることにした。目の色が戻ってしまったので暗いところが今度は見づらい
なんとか部屋を出ると、とりあえずつけていた防具を外すように言われたので外してから置いてあった籠の中に入れる
終わるとまた別室に案内された。専用の椅子に座らされたかと思ったら今度は目の検査だったので安心する
目の膜が検査される間、あの白い部屋で聞いた声が私に話しかけてきた
「えー、緋月さんの検査の結果から考えると確かに要望されている封印は一つのやり方だと思います」
だるそうなその声は資料と思しき紙をめくる音と共に聞こえてくる
「はぁ…」
しかし個人的には急にそんな話をされても、だからどうしろととは思う
「貴女の場合潜在的な霊圧が何かのきっかけで解放されたように思います。急な解放によって体がついていかず暴走したと考えるのが良さそうです。これだけの霊圧を急にコントロールするのは至難の業ですし、あとは以前の状態に戻るだけなので封印そのものはできますが、こちらの判断だけではできかねるというのが結果になります」
テキパキと謎の機械が光線を放ちながら私の目の膜にあれやこれやとなにか行なっている。何をされているのかわかんないけど、とりあえず痛かったりはしなかった
「『こちらの判断だけでは』とは、どういうことですか?」
「…総隊長からお話があると聞いています。それ次第ですね」
「そうですか…」
嫌な予感がした
嫌な予感しかしない
ひとまずこの機械でやることが終わったのか頭上のあれやこれやがどいて倒れてた背もたれを起こされる。特に目の見え方に異常はなかったのか視界の感覚は変わらない。ふと視線をやると、目つきの悪いだるそうな男性が資料と思しき複数の紙を持ってそこにいた。とりあえず椅子から立って頭を下げる
「ありがとうございました。ここまでの検査と、目の膜も診てくださって」
「はぁ…。とりあえずこっち終わったら一番隊に連れていくよう言われてるのでお送りします」
「あぁいえ、歩いて行きます」
反射的にそう返すと、男性は「そうですか」とだけ言ってとりあえず出口まで送ってくれた。もう一度頭を下げて一番隊の隊舎に向かう。なんだかんだと今日は忙しいな
時刻まではわからないけど、日は確実に傾いていた。あんまり暗くなっても面倒なので急足で移動する
一番隊舎に着く頃には真っ暗だ。とりあえず門番の人にお願いして通してもらうと、とりあえず総隊長の執務室に通された。入るなり迅速に首を垂れる
「お初にお目にかかります。三番隊、緋月鏡花と申します。お呼びに預かり参上しました」
あぁ、少し前までなんでもなかったのに今は彼の方以外に頭を下げることが疎ましく感じて辛い
「顔を上げい」
「…はい」
指示に従って顔を上げると、そこには総隊長以外になぜか浮竹隊長と京楽隊長がいた。何故?
でも無闇に喋ることもできないのでとりあえず黙る
「お主か、話は方々から聞いておる」
なんのことだろう、とボケるわけにもいかないか。斬魄刀関連の話だろうな
とりあえず促されたのでできる説明をする。夢とか、卍解してるねって言われたこととか
「ふむ…」
総隊長はなにか考えるように間を置く
そして嫌な予感は当たった
「お主、隊長職に就く気はないかの?」
「お断りします」
ほらやっぱり、と思った
あいにく私はそんなことはできない
優しい声音でそう言われても私は頷かないぞ
「しかしお主ほどの才覚を放置はできん」
「私はまだ死神としての日も浅く、先輩方には遠く及びません。この力は封をします」
そういうと、総隊長は少し目を見開いた
「技術開発局によれば、私には今すぐこの霊圧をコントロールする術がないと聞いています。制御できない力はあってないようなもの、隊長職以前に私は死神として未熟なのです」
嘘はついてないけど建前だ。彼の方のそばにいられるなら、彼の方以外に嘘をつくなんて造作もない
彼の方にだけは、絶対につかないけど
「ほら先生、言ったではないですか。彼女にはまだ早いと」
そばに居た浮竹隊長が言う。偉い人たちだけでその意見出てたならそれで良くない? と思わなくもない
「己の力量を見定め御するその姿勢や良し。しかし日番谷隊長のように未熟ながらも日々成長する隊長もおる」
藍染隊長たちがいなくなって状況が逼迫してるのはわかるけど、まさかその発言が本気だとは思いたくない。これは絶対試されてる
安易に力を振るうような軽率な死神であるかどうかが、試されてるんだ
「私では日番谷隊長に遠く及びません。日番谷隊長は順当に席を上がって今があるのです。私のような出る杭は打たれるばかりです」
総隊長はそこでまた間を置く。この間に、息を呑むほど緊張した
しばしの沈黙。い、息が詰まる…
その中で最初に口を開いたのは京楽隊長だった
「もういいんじゃないの、山じい」
「ふむ…」
「俺も彼女が軽率な行動を取るとは思えません。先生、これ以上試すようなことはしなくても良いのではないでしょうか」
そう、そうだよ!
そのままうまくいって私のこの力を封印してほしい
そうすれば彼の方の元にいることができる
お願いします神様!
「…仕方ないの」
この反応は期待してしまうな
そこで総隊長は小さくため息をついた
「その代わり条件がある」
「条件、ですか?」
思わず聞き返すけど、その後でつけられてもおかしくないのになんで疑問に思ったのだろうと我に帰った
「封印は今回限りじゃ。お主がこの封を解いた時こそ期は熟したと取るからの」
「…っ、何故!」
「お主が未熟である限り、お主の目的も果たされんからじゃ」
「…っ」
それはその通りだ。私は次本当にこの封印が解かれるまでにせめて見合う力をつけなければいけない
彼の方をお護りするためにも
「わかり、ました…」
ここは了承するしかない。せめて然るべき時までバレるわけにいかないのならその時までに強くなっておかなくては、いや強くなっていればいいだけの事
「お主が封を破るその時こそ、潮が満ちてることを祈る」
「私もそうであると願っています」
これは嘘だ、彼の方の元から離れようなんて気はかけらほどもない。ならばできることは、この封印を解かないことだけ
隊長職への条件が詳しくないなら一概に言えないけど、せめて卍解だけは明らかにしたくない
私は苦しい気持ちを抱えたまま解放され帰路に着く。寮に帰る頃にはもうへとへとで、なんとか部屋に戻れば倒れ込むように眠った。一人部屋のおかげで目立たず帰って来れるのだけは助かったと言えるだろうな
あぁ、そういえば霊圧を封印していいって言われたけどいつやるんだろ。とりあえず今日これからでないことしかわからない。今は眠い、寝かせて欲しい
そのまま眠りについた翌朝、鳥とも何とも定義することのできない謎の鳴き声で目が覚めた。その何かは私の部屋の襖をなんども叩いている
半ば眠ったままの意識で襖を開けると、鳥のような虫のようなその生き物が口から何かを吐き出して去って行った。ぺちょぺちょのそれに触れようとすると急にすごい蒸気をあげて触れられなくなって焦る。落ち着いた頃になって覗くと"本日は休暇を取り確認次第技術開発局に来られたし"と廊下に書かれていた。これはどうやって掃除をするんだろうか…と考えていたらそのまま蒸発して消えてとりあえずため息をつく。なんなんだろうこれ
休みをとって来られたし…か、今日で3日目になるけど仕方ない。とりあえず先日の体調不良が続いていることにして休みをとった。担当の席官に連絡して寮をこっそりと抜け出す
とりあえず同じ隊の人に見つからないようにして技術開発局まで移動する。昨日と同じく十二番隊の人に案内してもらって中に入ると、涅副隊長が何故か迎えてくれた
「マユリ様がお待ちです」
「涅隊長がですか?」
それ以降返事はなく、無言で中を案内される。とある一室にたどり着くとそこには手術台のようなものと計器に囲まれた部屋
「こちらに記入をお願いします」
渡されたバインダーには一枚の紙と添えられた鉛筆。その中にはアレルギーはないかとか色々質問が書いてあって、最後に解除用の暗号を記入するように書いてあった
暗号、と言っても思いつかないけど…注意書きにはなるべく長いものをと書かれている。思いつかないから詩でも書いておこう、誰に言うわけでもないし
書き上がった紙を渡すといよいよ封印が始まるとのことだった。説明された限りだと、特殊な術式を発動するためのインクを直接肌に刻み、それを起点に霊圧の生成を抑える、らしい。細かいことまではわからない
解除するとまた体には大きな負荷がかかると言っていた。次は死ぬかもしれないとも。まぁ、それはそれで仕方ないので死なないようにも鍛錬あるのみだ
涅隊長は裏で計器や他の機械を操作して、実際の作業をするのは涅副隊長とのことを聞いた。入れようとしてる位置が位置なだけに、女性相手なのは正直助かる
「模様や入れる場所に希望はありますか?」
淡々と涅副隊長は私に訊く。場所と模様は、昨日からずっと決まっている
「右の内腿…できれば根元の方に、三番隊の隊花のものを」
涅副隊長はそこでなぜかきょとんとした顔をする。私は何かおかしいことを言っただろうか
「い、如何しましたか?」
「いえ、そこは痛むと思いますので」
「だから、意味があります」
誰にもわからない、見せなければ見えない場所がいい
安易に見つからないように、彼の方に気づかれないように
痛む場所に、己の罪を刻む
「…わかりました。では開始します」
「よろしくお願いします」
実際手術が始まってみると痛かった。泣くほど痛かった。麻酔は入ってたみたいだけど効かなかったのか痛みが上回ったのか…
最低でもこの日一日は安静にするようにと言われたので送迎してもらって寮に帰る
ひどく痛む内腿をどうのこうのすることもできずもらった痛み止めを飲んで過ごす。こんな時は女性死神協会経由で手に入れた彼の方の写真を見るに限るなと改めて思った
写真に映る貴方は今日も美しい。目つき悪くて最高。この済ました顔があんなに乱れるのだから心惹かれるのかもしれない。わからないけど
この顔が赤くなったら、怒ったら、笑ったら、泣いたら、はにかんだら、どんな色になるのだろう
絶望する貴方も美しいけど、もっと多角的に貴方を見たい。もっと知りたい、もっとそばにいたい
傲慢だ、わかっているのに止められない
貴方の牙で良いと決めたのは、私なのに
「だめだぁ…」
誰もいない部屋なのでもう気も抜け切っている。一人でに呟いて布団で項垂れた
恋愛小説みたいなことを、考えないわけでもない。でもその後にやってくるのは必ずと言って良いほど強い後悔。そんなことは起きないと言う悲しみ。自覚する己の醜さと汚さ、そして虚無
辛いのでとりあえず寝ることにした。明日には良くなってると良い
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翌日、まだ少し痛むけど歩けないわけでもないので職場に戻った。三日も休んで白い目で見られるんじゃないかと震えたけど案外そんなこともなくて胸を撫で下ろす
今日も貴方を見かければ「お疲れ様です」と当たり前な言葉を飛ばして、それに返事があれば運がいい
頭を下げてから、少しだけ上げてまた貴方をみる。でもその日は目があってしまってしまったと思った。あからさまに見ていたから無礼と思われたかも…でも何も私を意識してないその視線も美しい
いつか、私を意識した目線をもらえるように頑張ろう。封じた力とも、その頃には向き合えると良い
そういえば、昨日また夢で翠霞に会ったなと思い出した。何か役に立てることができないだろうか…夢で修行するとか
他人でいい、貴方の隣にいるのは私でなくていい
私は貴方のそばにいる歯車の一つでいい
きっと、多分だけど、恋愛より貴方を護りたい気持ちが上なのかもしれない。それに納得してしまうと、虚しい気持ちにも言い訳ができる
だから、その美しさだけ刻ませて。それだけでいいから
その思いで、明日も貴方を見てしまうんだろう
貴方が私の視線を意識するようになるのは、私に不要な欲が出てしまうのは、もう少し先の話
終