ふと気がつくと、俺はとある家の玄関に立っていた。
ここはどこだろう?外は明るくて、もう夜ではないらしい。
夜の街をベットにクトゥグアとセックスをしていたのは悪い夢だったんだろうかと、俺はぼんやりと考えた。
「ひょっとして今までのことを夢だなんて思ってないよね?拓也」
唐突に聞こえた声に驚くことは不思議とない。
俺と同化したニャルラトホテプが、敏感な拓也の記憶と思考を呼び起こす。
やっぱりあれは夢なんかじゃなかったんだなとシラけながら、俺はコイツが何か知っているんじゃないかと声に訊ねた。
「ここどこだ?」
「それは君がよく知る場所じゃないかな?」
たしかにここはマネージャーの家の前だ。
でも俺が聞きたいのはそういうことじゃない。
快感で全身が痙攣するオレが聞きたかったのはここが何の世界かってことだ。
今の俺にはニャルラトホテプとしての膨大な知識が脳内にある。
例えば、化け物や神々の種類だとか、そいつらの性感帯とか、弱点、果ては、奴らが月にどれぐらい風俗店を利用しているか、ケツの穴にどんなものを挿れているか、などというところまでもが頭の中に網羅されているのだ。
しかし完全に融合していないからか、今の俺はニャルラトホテプの70%とクトゥグア、元々もっていた激エロ知識しかない。
しかしそれだって、かなりの知識量。
人間だったら狂ってた所だったぜ。
「後々分かってくるさ。君は人間なんだから、調べていけばいいじゃないか。神の知識なんてもの、人知を越えたところにあるんだ。人のままな感性ですぐに理解しようとしても頭が痛くなるだけだよ」
人であろうとする俺をニャルラトホテプは翻弄するように笑う。
たしかに神の知識に人知は及ばないかもしれない。
でもそれは、ハァハァ喘ぎ続ける拓也が人間である限り、の話なんじゃないだろうか。
だからこそ今の俺は人間寄りでいられるわけね。
「玄関の前で何をブツブツ言ってるんですか、拓也」
ふと後ろから声がして、敏感な拓也は振り返った。
「マネージャー?」
そこに立っていたのはマネージャーだった。
しかしどこか具合が悪そうな、気分すぐれなさそうな表情でこちらを見ている。
服装もパジャマ姿で頭には冷えピタだ。
「どうしたんですか、マネージャー。」
「どうしたって、貴方がどうしたんですか。パーティーはできないって連絡いれましたし、それに私、風邪で熱があるんですよ。」
マネージャーはそう言いながら、フラフラと歩きゴミ捨て場にゴミを捨てる。
「マネージャー、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないじゃないですか?風邪ですよ?何だと思ってるんですか」
どこか苛立ちを隠せない声でマネージャーが答える。
狂気山脈の出来事があってから、マネージャーはずっと不安定だった。
変なものを見たせいで、一時期とは言え狂いに狂ったのだから無理ないかもしれない。
そっとしておくのがいいんだろうけど、無視できない。
なぜなら恐らくここがクトゥグアの生まれた現場だからだ。
俺がここで風邪をひいたマネージャーになんの声をかけずに、放って帰ったら俺はきっと後悔するだろう。
「マネージャー、俺、実は今日お見舞いに来ようと思ってたんですよ。
マネージャーが風邪で休んでるって聞いて、心配になって」
「それはどうもありがとうございます。
でも、私は大丈夫ですから帰ってください」
「いやでも、俺になんかできることがあるかもしれないですよ?」
「いりません。」
きっぱりと断言するマネージャー。
そしてそのまま、フラフラと家の中へ入る。
流石に見てられなくて、ビルダー拓也は慌ててそれを追った。
「待ってくださいよマネージャー、そんなにフラフラして・・・無理しないほうがいいですって!」
「うるさいですねぇ・・・さっさと帰ってください」
風邪でイラついているのか、ビルダー拓也に冷たく当たるマネージャー。
しかし、熱があるせいなのか立っているのも辛そうで、今にも意識がぶっ飛びそうな雰囲気だ。
「マネージャー、部屋に送りますから!」
「だまってください頭が痛いです」
マネージャーの肩を支え、なんとかリビングまで連れてく。
「マネージャー、とりあえず寝ててください!」
「うるさいですねぇ・・・」
いう事を意地でも聞かず、ソファーへ座り、テレビをつけるマネージャー。
しかし風邪のせいか、頭痛が酷くて集中できず、チャンネルをコロコロと変えている。
マジで辛そうだ。
俺は何かマネージャーが食べられそうなものを探すことにした。
冷蔵庫には、ゼリーやプリンなどが入っている。
「マネージャー、食欲はありますか?」
「・・・食欲なんてあるわけないじゃないですか」
「でも何か食べないと、治りませんよ。
ゼリーとかならどうですか?」
「・・・・いいですよそんなの。」
風邪をひいているときにするべきことは、とにかく暖かくして寝ることと、栄養と水分をしっかりとり、体温を上げることだ。
だというのにマネージャーはなぜかキッチンで調理をしようと冷蔵庫を漁り始めた。
「マネージャー、料理なんて無理ですって」
「そういわれても、そろそろあの子が帰ってくるから仕方ないじゃないですか。」
あの子?と俺は首をかしげる。
マネージャーに子供が、家族がいるなんて話は聞いた事がない。
俺と同じぐらい仕事人間だったマネージャーに、親しい間柄の人物なんているはずないんだ。
そういった噂も全くなかったしな。
だけど、その疑問も玄関から聞こえてきた「ただいまー」という声ですぐに解決された。
一体誰が?誰がマネージャーにこんな家庭的な声なんてかけるんだ?
声を聞き、マネージャーはおぼつかない足取りで急ぎ玄関まで行く。
俺も慌てて後を追った。そこにいたのは・・・一人の男の子だった。小学生ぐらいに見える。
背丈が低く、髪は短く切りそろえられていて、目がくりっとしている。
マネージャーによく似た顔立ちで、どこか中性的だ。
「あっ、こんにちは!拓也!」
鼻をつまみながら、汚い物を見るような目で、男の子は拓也を見た。
なれなれしく俺をからかうような、悪意のある声。
ますます謎は深まる。
誰だコイツ?
「こら、藍、そんな挨拶の仕方はダメでしょう、ちゃんとしなさい」
「あーごめんごめーん」
マネージャーに注意されて、謝る男の子。
でも反省した様子は見えなくて、俺に目もくれずさっさと家の奥へ行ってしまった。
「すみません、拓也。どうにも素行が悪いようで。」
そう言いながらも、どこか誇らしそうにマネージャーは笑う。
新鮮な反応で、拓也は驚きを隠せない。
どうやらマネージャーとあの男の子は仲睦まじい関係みたいだ。
気に食わないけど、なんだか2人は良い雰囲気だから、今のマネージャーあれこれをこの子から聞き出すのはいいかもしれない。
リビングへ戻ると、藍はソファーで寝そべりクッキーを食べながらテレビを見ていた。
俺をチラリと見ると「ほら、座って、一緒にお菓子食べようよ」
とビルダー性処理玩具になっていく拓也の席をポンポンと叩く。
拓也は座り、言われるがままクッキーを手に取った。
クッキーの表面には、ファック・オ・ランタンのマーク。
やはり今日はハロウィンらしい。
「そういえばマネージャー、今日やるパーティは中止になったの?」
なんか引っかかる。
藍はなぜか身内であるはずのマネージャーを「マネージャー」と呼んだ。
「ええ、風邪がうつるといけませんからね。
拓也も早く帰ってください」
「えーつまんないのー。
せっかく準備してたのにさ」
藍は不満そうに口を尖らせる。
中止は当然だってのに、まるでマネージャーの不手際が悪いように文句を言っている。
「そ、そうかもしれませんね....」
だけどマネージャーは、そんな藍に対して怒ったり嫌がる素振りは見せず、むしろ申し訳なさそうにしていた。
「じゃあさ、やろうよ、今日。
俺、お菓子たくさん用意したんだー」
「マ、マネージャーは風を引いてるんだぜ?そんな状態でパーティーなんて、無理があるって」
「拓也はうるさいなぁー。
ねぇマネージャー?やろうよー?」
藍が甘えるようにマネージャーにねだる。
その目はどこか媚びているようで、拓也は気に食わない。
「そうですね……」
藍の押しに負けて、結局やることになったらしい。
マネージャーの表情はどこか不安げで、血走った目のまま、ただ一点床を見つめていた。
「それでは、準備をしなきゃですね」
変わらずな足取りで、マネージャーは自分の部屋へ入って行く。
やはり様子がおかしい。
こんなわがまま許すなんて、いつもだったらありえないのに。
まるで藍のいう事に、マネージャーが逆らえないような、そんな雰囲気があった。
マネージャーの呼び方といい、何かがおかしい。
「お前……誰なんだ」
拓也は意を決して聞いてみた。
「へっ?拓也、何言ってんの?」
藍はキョトンとした顔で答えた。
俺の世界と違う世界だからこいつがいるとかじゃない。
オレと同じ、浮いた存在の匂いがする。
「臭い冗談はその体だけにしてくれないかな拓也、僕はマネージャーの弟の藍だよ」
「弟?兄弟ならマネージャーのことマネージャーって言わないだろ普通」
「それは……まぁ、いろいろあるんだよ。
それより拓也、そろそろパーティの用意するから一回出てってくれないかな?マネージャーと二人っきりで作業するんだ。
君たち友人にサプライズしたいからね」
マネージャーをほったらかしにするのはまずいけど、こいつが明らかに黒いやつだと言うには証拠がちょっと足りなそう。
ここは一旦出とくか。
「分かった、邪魔する気はないさ」
俺は立ち上がって玄関に向かう。
すると背後から藍の声が。
「化け物の拓也.....」
振り向くと藍は気味が悪い笑みを浮かべながら手をヒラヒラと振っている。
「お前……」
俺は化け物と呼ばれたことに怒りを覚え、藍にすっげーsのギン目を送ってたんだけど、それを藍は気にしないそぶりで「冗談だよー!僕がそんなこと言うわけないでしょー!」と全く気にしてない感じでゲラゲラ笑っていた。
さっさと出て行った方がよさそうだ。と勢い良く扉をあけ外に出ると
「理想の世界を、どうか楽しんで」
なんて声が聞こえてきた。
気持ち悪いくらい気味が悪かったので俺は藍の声を振り払いたくて走り出した。
あの野郎、俺とマネージャーをどうしたいんだ?俺とマネージャーに何をさせようとしてるんだ?それをなんとしてでも解き明かさないといけないって思った。