マンコを種マンにしたい俺はマネージャーの家へ再び向かった。
あの家、いやマネージャーの弟には引っかかる部分がある。
あいつはこの世界の丸い奴らと違って、何か違う気がする。
そうだ、あいつは俺に対して小ばかにするような態度を取っていた。
優しさなんて微塵もない。
俺と同類、いやそれ以上か? とにかく奴に会えば何かが掴めるはずだ。
インターホンを押した。
「あれ?随分と来るのが早いじゃないか。
どうしたの?」
開かれたドアから現れたのは、マネージャーの弟、藍。
相変わらずの憎たらしい顔。
「マネージャーは?」「今ちょっと買い物に行ってる。
にしても早いね、友達と遊びに行ったんじゃないの?」
この世界で俺がどんなダチに会っていたか、そしてどうなったかを大体はわかっているはずなのにムカつく言い方だ。
「いや、会ってもすぐに別れてきた。とにかく入るぜ。」
藍の返事も待たず敏感な拓也は中へ入った。
リビングではパーティの飾り付けがされている。
至る所にパンプキンが置かれ、壁は折り紙で作られたモンスター達で彩られていた。
「これは?二人でやったのか?」
「うん、マネージャーとやったよ。僕はあらゆる季節もののイベントの中でハロウィンが1番好きだからね。」
そう言って魔女の帽子を被り、カボチャのオバケのコスプレをした藍が笑う。
「どう?似合う?」「まぁ、似合ってるぜ」
素っ気ない態度の俺に藍は不満を感じたのか萎え、トボトボと玄関へ歩き出した。
「なんだよ、どうした?」
「.....ちょっとね、買い忘れたもの思い出したから行ってくるよ。好きにしてて。」
「そうか、じゃあ俺は勝手にやってるぜ。」
そう言って拓也はリビングのソファに座り、テレビをつけた。
しかしすぐに消してリモコンを放り投げる。
そして立ち上がり、キッチンへ向かった。
居ても立っても居られない焦燥感が拓也を突き動かす。
パーティーが始まるまでに何かを見つけなければ。
キッチンの棚から1冊の日記を見つけた。
レシピ本とかその類のものではなくなぜか日記であることに少々疑問を感じながら適当にページをめくってみると異なる筆記の文章が交互に書かれていて、ただの日記ではなく交換日記であることが推測された。
これを読めば、最近のマネージャーの思考や行動パターンがわかるかもしれない。
勝手に読んだことを咎められたらどうしようと少し躊躇ったけど、俺はページをめくり始めた。
○月×日(水):目覚めると私に弟を名乗る人物が隣にいた。
この男は本当に弟なのか? 弟と名乗る人物は以前からのもそうだったかのような態度を取っている。
しかし私はこの男と会った記憶はない。
やはり藍はマネージャーの弟ではないようだ。
だけど今のマネージャーはあいつを弟と信じ切っている。
いつからだ?そしてこの文章の下には、子供の落書きのように書かれたカボチャの絵と文章が書かれていた。
「マネージャー、僕だけが君を幸せにできるよ」
藍の文章はともかく、目覚めたらこのような状況になったということは、マネージャーも俺と同じ様にこの世界へ出張してきたらしい。
藍が何かしたのはなんとなくわかるけどその目的はわからない。
とにかくこの日記を読めば、何かわかるはずだ。
○月×日(木):久々に仕事以外の理由で外に出た。
この世界はおかしい。
私が知る限りの常識が一部通じない。
何だかみんなマネキンのように見える。
誰もが一様に控えめな態度、自身を持って行動している人は、誰一人としていない。
寂しい世界。
少し日数が立つとマネージャーもこの世界のおかしさに気づいたようだ。
文字も少し乱れている。
「大丈夫。僕がマネージャーを救ってあげるから。」
奴の態度は非常に気にくわなかったが、そういった感情が出るのもこの世界では奴と話した時だけだ。
あいつの棘があるような、何かを見下した感じの態度が、マンコを種マンにされた俺の心を逆に落ち着かせ安定させてくれる。
○月×日(金):今日は仕事なので出動した。
ただ、あそこは私の知る職場じゃない。
普通のアイドル事務所となっていて、ゲイだったみんなが全員ノンケになっていた。
怖い。そして、仲の良かった拓也も、同様にノンケになっていた。
苦しい。私の知る拓也は、下品で、馬鹿で、醜悪で、それでいて優しくすごく明るい人なんだ。
私があの場でショックを受けていると、みんな同じような優しい対応を取ってくる。
私は逃げ出した。この世界は私を一人にした。憎い。許せない。
内容字体ともに狂気じみていた。
俺に対しての罵倒と信頼は喜んでいいのか悪いのか。
マネージャーは確実にこの世界に苦しんでいる。
俺と同じ様に疎外感を感じている。
そして、その苦しみを藍が救っているのか?
下の文章から、藍はマネージャーに好意を寄せ、うまい具合に洗脳を試みていることが読み取れた。
「大丈夫。僕は君を一人にしない。この世界が憎いのなら、一緒に滅ぼそう。この世界はあいつらのための消耗品。世界を破壊するには神を呼べばいい。方法を教えてあげるから、炎の王クトゥグァを召喚して、一緒に世界を滅ぼそう。炎をここに連れてくるのは星々のよく見える夜、フォーマルハウト星が地平線を離れている、神々によってえらばれた日。」
やはり、藍は言葉に表せぬ狂気を孕んだ神的存在のようだ。
これは間違いない。
そう確信した瞬間。
崩壊した街で向けられたあの視線が、マンコを種マンにされた俺の脳に直接映し出される。
お前はコイツと同じ化け物だ。
そう、訴えかけているように感じたのだ。
「ニャルラトホテプ、てめーがオレにこんなもんを見せやがったのか」
そう呟いた瞬間、脳内に南佳也の声が響く。
「そうだよ。拓也、お前はあいつと同じ様になっちまってるんだぜ?マネージャーをたぶらかしていることにお前は心底不快感を覚えているようだけど、化け物である自覚はあるか?」
「俺は拓也だ。人間で、今は一時期にお前と融合しているだけだ。化け物なんかじゃねぇよ」
「いいさ、それならそれでいいさ。だがお前が自分自身を人間として見ているなら、その考えはいずれお前を苦しめることになるだろうよ。とにかくこれでお前の世界にクトゥグアが召喚された理由のカギは掴んだだろう?あとはあいつを止めるだけだ。
そうすればお前の望み、世界が元に……」
「うるせぇ!黙れ!」
オレは叫んだ。
こんな化け物とグチグチ会話してるのは馬鹿らしい。
「おいおい、まだ話の途中だぜ?」
南佳也の声を遠ざける。
俺は人間なんだ。
化け物じゃねぇ、そう自分に言い聞かせ、日記を閉じ、奴の意識と俺の意識のリンクを無理やり切断した。
元の世界にクトゥグアが現れたのは、マネージャーが世界に対して混乱し、狂気に駆られて召喚したからだろう。
しかし、今の所止める方法が思いつかない。
マネージャーは何とか説得して元の世界に戻すことはできるかもしれないけど、それを藍が許すだろうか?俺は深いため息を吐いた後、ソファに座りこみ背もたれにもたれかかったまま天井を見上げた。
藍の強さは如何ほどか、ソファーにガタイを預けても、心のモヤモヤは晴れない。
居ても立っても居られず、藍の部屋をさがした。
だけど奴の部屋はどこにもなかった。
やっぱりこの世界にもともといなかった存在だからか、それとも……化物語の奴にはそもそも部屋なんて必要なかったのかもしれない。
とにかく他の場所から情報を探すしかない。
俺はマネージャーの部屋へ向かう。
なんかありそうな場所といったらここしかない。
そう思ってデスクの引き出しを開けると、一冊の本があった。
表紙を見ると、「ありとあらゆる世界とパーツ」というタイトルらしい。
中身はホモビデオのレビューばかりだったけど、とある一文が目に留まった。
「すべては互換可能だ。同時にすべては非互換だ。リメイクで取り替えた男優は、絶望的なまでに元の男優の代替品でしかない。それがこのAVの批判を生起させるダイナミズムの正体である。」
この言葉が何を意味するのかさっぱりわからないが、この世界の仕組みと少しはつながっているものだと確信できた。
だけど、これがどう役に立つかはわからない。
とりあえず持ち歩くか。
その後俺は、机の引き出しを片っ端から調べてると、小さな四角い箱が見つかった。
その箱を開けると「南佳也には全く似ていません」という文字と共に、オルゴールのメロディが流れ始めた。
そのメロディは、かつてマネージャーに教えられた南佳也のCDアルバムの一曲「こっちを向いて」だった。
かつて狂気山脈の練習として二人で山へ向かう際にマネージャーがこの曲を流しながらドライブしていたことを思い出す。
「知ってますか拓也、この曲、南佳也が歌ってるんですよ。」
「え?あの南佳也が?」
「はい、このCDアルバムの1曲だけですけど、彼の歌声を聴くことができますよ。
やっぱり似てないですね。
貴方と南佳也では」
「なんだそれ、セミロンの茶髪なら似てるんじゃねぇの?体は南よりマッチョだしね」
「南佳也には全く似ていません」
マネージャーとの思い出が甦る。
と同時に、マネージャーが狂気山脈にもいい思い出を見出していることに気づいた。
狂う程に恐怖を感じたとなればそれに関連するものは全て避けたいはずだ。
なのに、オルゴールだとはいえ南佳也が歌った歌を自分の部屋に大事にしまっておくなんて、大切に思っている証拠じゃないか。
ビルダー拓也はその曲を聴きながら、マネージャーの心情を考えた。
この世界がどれほど異様かは身に染みてわかったから、もし戻れたら、マネージャーと久々に語り合いたい。
マネージャーの望むことはできるだけならなんでもするし、マネージャーに今まで以上の信頼が欲しい。
曲が終わる。
小箱をしまうためにデスクの引き出しを再び開けようとした瞬間、その引き出しは勝手に開き、中から何かが出てきた。
「うわっ」
思わず声が出た。
それは「無限に絶頂する鍵」と書いてある鍵と、一枚の写真だった。
写真には、20代後半の筋肉質な体付きの男が二人俺に大量の精液を浴びせかけている。
確かこれは俺が2年前ビデオに出演していた時にマネージャーが記念に撮った写真。
懐かしさに浸る間もなく、俺は写真の裏面に何かが書かれていることに気づいた。
「この写真を理解できる人へ」
マネージャーの丁寧な字が綴られていた。
「この鍵は、私の最後の切り札であり、理性です。
呪文を学ぶ中でこの鍵を生成しました。
最後の切り札として、託します」
俺はその鍵を手に取り、まじまじと見つめた。
無限に絶頂する鍵。これが本当に奴に効くかはわからないが、とりあえず持っておくか……その後俺はマネージャーの部屋を後にしようと部屋から出かけたその時、背後から何かの気配を感じた。
「拓也」
その声を聞いた瞬間、ビルダー拓也は背筋が凍りついた。
この声はマネージャーじゃない。
藍でもない。恐る恐る振り返ると、そこには、赤い服に、赤い帽子を被った、小さな子供が立っていた。
「君は本当に藍を倒す気でいるの?」
「誰だ、お前」
子供の問に淫獣拓也は恐怖を隠しきれず声が震えた。子供は無表情で俺を見据える。只者じゃない。
俺よりはるかに小さい体格なのに、奴は俺よりも何倍ものプレッシャーを持っている。
威厳、迫力。だけどそれと同時に何か嫌な気配を感じる。
オレと同じ、いやそれ以上の化け物のオーラ。
「同じニャルラトホテプ同士、仲良くしようじゃないか。世界がどうなったって、僕達は影響されない。そうだろ?」
「確かに生きていけるかもしれないけど、俺の世界は故郷で大切なものなんだ。たとえ人間じゃなくなったとしても、俺はあの世界に戻ってみんなと暮らしたい。」
「そうかい。」
子供のプレッシャーが急に無くなった。
この場所からいなくなったんだ。
だけどマンコを種マンにされた俺は未だに動けない。
それどころか、体が硬直して動かない。
何が起きているんだ?
瞬間、視界が真っ暗になった。
何も見えないし聞こえない。
一体どうなってしまうのか、不安が俺は一気に野獣モードを包み込む。