後部座席で目が覚めた。
寝ていたのはほんの二、三十分だったけど、その前のセックスと緊張で心身ともに疲労している。
「あ、起きたか?」
運転しているセンパイが、ルームミラー越しに俺を見て気付き言う。
「ああ、起きた」
窓から外を見てみると、ちょうど信号待ちで止まっている最中。
この辺りは、マンションが多く立ち並んでるエリアで、交通機関に恵まれた人通りの少ない閑静な場所。
「おい、そろそろ着くぞ」
センパイはルームミラー越しに言うんで、俺はコクリと頷いて返す。
「そんなに緊張するなよ」
「久々だし、怖いっす」
「大丈夫だ。オマエのマンコは、快感で全身が痙攣するオレのデカマラを毎日咥え込んでるだろ?快感で全身が痙攣するオレがSなら、オマエはMになるんだよ」
「どういう意味っすか?それ」
「つまり、淫獣拓也はオマエのご主人様で、オマエは淫獣拓也の奴隷だ。何も恐れる事はないぜ。お前が上手く聞き出せなくても、主人である俺が上手く聞き出すからな」
「ウッス!」
センパイはルームミラーから俺の顔を見て、ニヤリと笑う。
その時、外から窓越しでもはっきりわかるほど大きな悲鳴が聞こえてきた。
「何だ?事故か?」
信号が青になったにも拘わらずセンパイは声の方へ顔を向け様子を伺う。
俺は窓を全開にして外を見る。
「あっ!センパイ、あれ!!」
俺たちの前を走ってるミニバンに数人の男が群がっているのが見えた。
「何だ?ヤク中か?近づかない方がいいな」
センパイはミニバンを追い越す。
後部座席で揺られていると、悲鳴と共に呻き声も聞こえてくる。
「せいめいのそうぞうしゅ」言葉の意味が分からず、センパイも運転しながら首を捻る。
「何だ?せいめいのそうぞうしゅって?」
「さぁ、何すかねぇ」
「まぁ、いいか」と、その場では軽く流された。
ミニバンに群がっていた男たちは本当にただのヤク中だったんだろうか?と、ふと考え込む。
ヤク中だとしてなんで走ってる車に群がるんだ?いくらなんでも娑婆にいていい人種じゃないだろ。
「おい、拓也。ついたぞ」
色々と考え込んでいたら、センパイの声で我に返らされた。
俺は車から降りると、目の前の光景に息を飲む。
「何だこれ!?」
センパイも驚きを隠せない。
平野店長のスタジオ前ではスタッフ達と野次馬が群がり皆、もみくちゃに揉みあっている。
野次馬たちの主張は、中にいる平野店長を出せ!の一点張り。
なんでこんな必死になって店長を出せ!って騒いでるんだ?「おい、拓也。
これ中に入れねぇぞ」
センパイが二陣営を覗き込みながら言う。
「そうっすね」入口をふさぐようにしてたむろしているから、中に入るのも難しい状況。
「ここから入れるよ~」
静観している俺たち二人に誰かが声をかける。
声のする方を見ると、そこには体操服と紅白帽を深くかぶった子供?が、曲がり角の影から雄膣の穴から精液垂らした俺たちを手招く。
「子供?」
雄膣の穴から精液垂らした俺と先輩は顔見合わせ、その子供?の所へ近づいてみる。
「こっちこっち」
子供は、俺たちが来たのを認識すると手招きしながら建物の裏へ回る。
「こっち」
裏側には、パッと見ただけではわからないような、地下へ続く階段が。
「おい、拓也。どうする?」
先輩は、ビルダー性処理玩具になっていく拓也の耳元で囁くように聞く。
ビルダー性処理玩具になっていく拓也は少し考えてから「行くしかないっすよ」と答え、二人でその子供?の後について行く。
多分裏口?なんだろうけど、何のための場所なんだろうか? 階段を降りて地下一階。
そこは様々なシチュエーションのセックス部屋、もとい撮影スタジオが何部屋か見える。
店長の事務所に通されたオレたちは、事務所内の応接セットに座らされる。
「拓也さん、でいいんだよね?ぼくひで」
ソファに座り、出されたお茶を啜っていると目の前に座っている少年が聞いてきた。
「拓也だけど、ひで?君、平野店長の知り合い?」
敏感な拓也は目の前の少年を改めて見る。
背格好は本当に小学生ぐらい?細身の身体を白Tシャツとハーフパンツで包み込んで、髪はショートカットだけど、耳が隠れる程度に長い。
顔を見ると中性的で端正な顔立ち。
拓也県では児ポが規制されていないんで、こうした男の子がビデオに出るのは珍しくない。
まぁ本当に少年とは限らないんだけど。
「うん。ぼく、平野さんのビデオのお手伝いしているんだ。
平野さん、もうちょっとしたらここに来るから、それまでここで待っててくれる?」
「あ、ああ。それはいいんだけど」と、しっかりとした対応を受け俺は少し言いよどむ。
「何でこんな大騒ぎになってんの?何か事件でも起きたの?」
「事件じゃないよ。なんかツイート?をみてパニックになった人たちが集まっちゃったみたい。」
あの本物かどうかわからないゾンビみたいな奴が映ったあの動画か。
「なんだ?そのツイートって?」
「さっき俺が見せた、あの動画ッス」興味深そうに質問するセンパイに俺が答える。
「あ~あれか。でも何であんなツイートでこんな大騒ぎになるんだ?噓かもしれないだろ?」
「そうでもないかもしれんのじゃ~」
センパイが疑問を呈すると、背後から突然声がかかる。
振り返ると、そこにはいつの間にか平野店長がいた。
「いよっす」
平野店長は、右手を上げるとソファに座り、俺のお茶を勝手に飲みながら話しだす。
「いやー参った参った。スタジオの前が大混雑でさ。人っ子一人、車一台通れやしないから撮影なんてできんな。パニックになった人間ってのは恐ろしいな。あ、拓也、お茶おかわり」「はい、どうぞッス」
平野店長に言われオレはすかさず湯飲みにお茶を入れ差し出す。
なんで俺が?と、ふと疑問に思ったけど、平野店長は「サンキュー」と言って湯飲みを受け取ってくれたから、まぁいいや。
「ゾンビが本物ってことあるのか....?」センパイが呆然気味に呟く。
「普通は、ゾンビなんて創作物の中だけだからね~。直接見るまでは、私も信じなかっただろうなぁ。直接見るまでは.....」
平野店長は湯飲みのお茶を一気飲みして、静かにテーブルに戻す。
その表情は、どこか恐ろしい物を思い出すような顔。
直接見たゾンビがどれだけ恐ろしかったんだろうか?
「何をみたんですか?」
俺は平野店長に踏み込んだ質問投げかけた。
すると、平野店長はオレたちの方を向き、ギョッとした表情を浮かべる。
「SNSで#拡散希望ってタグついた最新ツイートを見てみるのじゃ。ひで」「うん」と、ひではスマホを取り出し操作すると、俺たちに画面を見せてくれた。
「これだよ」
そこには多くの人が、自分の手で写したであろう様々なゾンビ動画が新しく投稿されていた。
中には、ゾンビに人が抱きしめられて殺されるものがあったりと、なかなかにショッキング。
「すげぇ……マジかよ」「ホントにこんなことが……」
俺は一気に野獣モードとセンパイは、ゾンビの衝撃映像に圧倒され画面から目が離せない。
「このゾンビども、知り合いの探偵に調査してもらうことにしたんじゃ。」
「何を調べてもらうんですか?ゾンビの?」マジの探偵に依頼するって、店長本気じゃん。
「いや、ゾンビの.....」と言いかけたところでドアからノック音が。
「なんじゃろうか?ちょっと見てくるのじゃ」
店長は立ち上がり、ドアを開け廊下へと出ていった。
「あの動画以外にもゾンビの目撃談がたくさんあんのかよ....しかも人を襲ってる」
センパイは頭を抱えながら「何でゾンビなんて創作物がリアルになってんだよ?」とブツブツ言っている。
まぁそんなショックを受けるのも無理ないか。
それに比べて俺はなんでこんなにも冷静なんだろうかと、自分自信に疑問を感じてしまう。
「拓也さん、どうしたの?」
ひでは俺をじっと見た後、不思議そうに聞いてきた。
「あ、いや……何でもない」
俺は慌てて平静を装うが、この動揺は隠せない。
狂気山脈といい、ニャルラトホテプとの融合だったりと摩訶不思議なことが俺の身に起きすぎて、感覚が麻痺しているのかもしれない。
「ふぅ……」と息を吐き心を落ち着かせる。
そんな俺をセンパイは怪訝な顔で見る。
どうしてそんな目で俺をみるんだ?「拓也.....」センパイが何か言いかけた時、外から絶叫のような音が響いてくる。平野店長の声だ。
「あ゛~や゛め゛な゛さ゛い゛~」
何だ?何があったんだ!?3人はは立ち上がり、廊下へと飛び込む。
そこには体中からあらゆる体液を抜かれたようにしなびた平野店長が床に転がっていて、うんともすんとも言わない様子。
「もう手遅れだ」
俺は特に声をかけることもなく、店長の体に毛布を被せる。
「拓也、お前……」後ろで恐怖に震える二人を見て、ハァハァ喘ぎ続ける拓也は「どうする?」と二人に聞く。
ゾンビとの闘いか、それとも逃走か。
どちらでも俺は覚悟が決まっている。
「どうする?」もう一度、二人に問う。
「逃げる」センパイがボソリと呟く。そして後ろで震えるひでもコクリと頷く。
あちらこちらから聞こえ始める悲鳴を火蓋に、マンコを種マンにされた俺たちは走り出す。
「う、裏口から行こう!」
ひでは動揺しながらも、俺たちに提案。
さすが店長が可愛がっているだけあって判断力はあるみたい。
従って裏口から脱出すると、外にはちょうど3体のゾンビが歩道を闊歩。
気づかれた!「センパイ!ひでを!!」「お、おう!」俺はすかさずセンパイに指示を送り、ひでを安全な所へ逃がす。
センパイが「こっちだ!付いて来い!!」と、ひでの手を引っ張りながら誘導していくのを確認した後、俺は立ち止まり振り返る。
ゾンビは俺に狙いを定め、こちらに飛び掛かってくる。
咄嗟に避けようとするけど、その反応にもたつきその場に押し倒される。
「拓也!」背後からセンパイとひでの声がするが、それに振り返る余裕はない。
相手は3体。
普通のヤツなら、絶望的な状況。
だけど、拓也にはデカマラがある。
俺は覆いかぶさってきたゾンビの首に両手をかけ、全力でぼっ起し体をぶち抜いた。
「グエェ……」俺の肉厚な手のひらに、ゾンビの首筋にある血流が止まったような感触が伝わる。
「どうだ!」俺はそのまま、ゾンビの頭部をアスファルトに叩きつけてその脳髄をぶち割った。
しかし、まだ2体のゾンビが残っている。
こいつらは俺よりもセンパイたちを狙いそうだ。
「センパイ!」「お、おう!」センパイはひでの手を取りながら、周囲を見て何かの方へ逃げるべきか考えていたが、いつの間にか周囲をゾンビに囲まれ逃げ道を塞がれていたんで逃げられない。
「センパイ!!」「ハメられてた!!」俺はセンパイの元へ向かおうとするけど、ゾンビが行く手を阻む。
距離は遠い。俺たちはこのまま平野店長みたいにゾンビになっちまうんだろうか。
敏感な拓也は先輩を助ける方法を考えるけど、何も思いつかない。
「拓也さん助けて!」ひでは泣きながら敏感な拓也に助けを求める。
こんなか細い声で助けを呼ばれるなんて、人生で初めてかもしれないぜ。
ゾンビが二人の腕を掴もうとした時。
一台の車が猛スピードでゾンビを轢き飛ばし、そのまま車体から火花が散る程のスピードで俺達の近くに止まる。
「早く乗るんだyo!!」運転席の窓が開かれると同時に聞き覚えのある懐かしくも力強い声が。
「おじさん!」ひでが叫ぶと、ドアが俺たちを誘うように全開になる。
すぐにひでとセンパイは車に乗り、最後に俺も乗り込む。
「シートベルトはするんじゃねーよ?」連さんが言いながらアクセルを踏み、ゾンビの輪の中に突っ込んでいった。
「なんでシートベルトしちゃいけないんだ?」センパイが運転中のおじさんに聞くと、連さんは「ゾンビがシートベルトを引きちぎって襲ってくるからだよ!」と、バックミラーを見ながら叫ぶ。
よくわかんないからこれ以上この話題は聞かないことにした。
ゾンビは街の至る所にいて、人々を血眼になって探している。
「こいつら……もうこんなにいるのかよ!」驚愕の表情を浮かべながらセンパイは窓越しに街を見ていた。
「もう終わりだ……」ひでも絶望の声を漏らし、連さんの方をチラ見。
「なんだその目は!諦めるのは早いだろお前!」と、連さんがバックミラー越しに叱りつける。
こんな状況になっても、まだ生存の可能性に期待しているのかな?
「でも、もう街はゾンビだらけだぜ!」センパイの反論通り、確かにこの様子なら、どこに逃げてもすぐに見つかってしまうだろう。
「だからどうした!拓也さん店長はなんか言ってませんでした?」たしかにもらったけど、それが今役に立つかは別。
「探偵に調べさせてるって話ならしてたぜ」俺の代わりにセンパイが答える。
「その探偵は?」と、連さんはおれ以上に店長との付き合いが長い。
店長の探偵事情を知っているかもしれない。
「ああ、それなら知ってるぞ。」「え?マジで!?」
連さんは、すぐさまアクセル全開にし、さらに加速させる。
「おじさんやめちくり~」ひでの文句に「黙ってろ」と冷たい一言。
俺たちは、窓の外のゾンビをなるべく見ないようにして、衝撃を耐えしのいだ。
大体、どのくらい走っただろう?時間感覚すらおかしくなっている。
「着いたぞ」
連さんが車のスピードを緩める。
辺りを見渡してもゾンビはおらず、あるのは『私立・性感探偵事務所』の看板が目立つビルのみ。
「ここが例の探偵の事務所だ」
連さんはそう言いながら、ビルの前に車を停車させる。
「早く出るぞ!」運転席から降り、俺たちをせかす。
俺たちは慌てて車から降りて、探偵事務所へと入る。
「お~ようきたな、このゾンビだらけの世界でなぁ」そこにいたのは、上下ジャージにTシャツ、サングラスといったラフな格好の関西風の男。
年齢は30代ぐらいだろうか。
「俺はカーリー、一応ここで所長をやっとる。
よろしくな」「拓也です」「ひでです。
よろしくお願いします」みんな軽く頭を下げ挨拶を交わす。
「君たちのことはよく知っとるわ、自己紹介は大丈夫や。
早速本題に入らせてもらうけどええか?」カーリーは椅子に腰をかけると足を組みながら煙草に火をつける。
「おう!」連さんの勢いよい返事に、満足そうに頷いてから話始める。
「平野さんからもらったSNSをまとめた情報によれば、この街を中心に被害が拡大しているみたいや、被害の拡大をマップに起こすと、こんな感じや」
カーリーはポケットから取り出したメモ帳に、ボールペンで絵を描きながら説明する。
「そんであいつらは....情報をまとめた感じ、ここが発生源である可能性が高い」中心となる場所は、図書館。
「ここに行けば、何かわかるの.....?」ひでは希望に満ちた声を上げる。
ただ、オレとセンパイは午前中に図書館に行ったけど、特に何もなかった。
「行っても特に何もなかったよ」だからこの一言で、俺はひでの希望をバッサリと切る。
「そんな.....」落胆するひでを横目に、カーリーがパソコンの画面を見せた。
「ほれ、これ見てみい」画面にはゾンビ化した人たちの写真がいっぱい。
皆恐怖に歪んだ顔でこちらを見ている。
「これ……全部ゾンビか」俺が図書館に向かった時には、こんな多くゾンビはいなかったはずなんだけどなぁ。
「そうや」カーリーは煙草の煙を吐きながら画面を切り替える。
すると今度はさっきゾンビ化していた人々が平然と歩いている映像。
「え?」どういうことだろう?まさか、この人たちがゾンビに……? だけどデータの日時が、さっきの写真より後だった。
「まさか……時間が経てばゾンビ化が治るってことですか?」俺が聞くとカーリーは「半分正解や」と、嬉しそうにニヤリと笑う。
「時間が経つと症状が改善されるみたいやけど、完全に元通りって訳ではない。簡単に説明すれば、コイツら食後やねん。たらふく食ったら君らもくいたないやん?それと同じでコイツらは食事を終えると、一時的にゾンビ化が治るねん」
つまり一見正常な人も、空腹状態でゾンビ化する可能性があるってことか。
誰がゾンビで誰が正常な人かを見分られねーじゃん。
「そして食後、一定期間が過ぎると、またゾンビ化が始まるってわけや。立ち悪いのがこれ、本人にもその自覚がないっちゅうことや。」「自覚がない?」
センパイの疑問にカーリーは大きく頷く。
「そう、だから人知れず日常を過ごしているうちに、親しい人を襲い始め、ゾンビ化させていく……」
「対処法は何かないのかよ」
いつの間にかタバコ咥えてた連さんが煙を吐きながら言うとカーリーは「ない」と即答。「ふざけんじゃねぇよオイ!何のために少ないガソリン使ってここに来たと思ってんだよおいオラァ!?」「おじさんやめて!」
キレて掴みかかる連さんをひでが必死に止める中、カーリーの冷静な説明は続く。
「落ち着けや、俺は医者でもなんでもない。だからどうしようもないねんこれは....俺が唯一教えられることといえば、これ以上ゾンビ化する人を増やすことを防せぐことぐらいやねん」「どうすりゃいいんだ?」壁に寄りかかって話を聞いていたセンパイの問いかけに、カーリーは「簡単なことや」と吸いかけの煙草を灰皿に擦りつけながら答え始めた。
「……ゾンビに襲われた死体が蘇る前に集めて火葬すること....まぁ本当に燃えるかどうか調べに行った中野くん、帰ってこおへんから確実とはいいきれんがな」カーリーの寂しげなカラカラとした笑い声が響き、怒りに震える連さん以外、しばらく静かだったぜ。
「じゃあ俺たちが行ってやるよ」
連さんの言葉に、オレたちは一斉に顔を上げる。
とにかくここからできることといえば、これぐらいだろう。
はっきり言って八方ふさがりの今、俺たちでできるかわからないゾンビ残滅に時間を割くよりも、少しでも被害者を出さないように死んでる人を燃やす方が得策だ。
「今から行く気か?」カーリーの問いに連さんが頷く。
「ええ覚悟や、じゃあ火葬場の場所おしえるわ」カーリーは、ゆっくりと立ち上がり机から地図を取り出し連さんに渡す。
「絶対戻って来いよ、お前ら」
「ああ、必ず戻る」
連さんはカーリーと握手を交わし、俺たちは探偵事務所を後にした。
車に乗りこみ、火葬場の場所を確認する。
ここからだと車で30分ほどの場所……。
車に乗ってれば、外にいるゾンビに絡まれることはない。
だけども俺たち4人がゾンビでないという保証はどこにもない。
いつだれがゾンビになってもおかしくないという恐怖の中、俺たちは車内で一言も話さず、目的地へと向かっていた。
正直、センパイはゾンビになる確率が高すぎて、どう二人に対し接したらいいかわからない。
これから今日、いやここ数日の行動を掘り下げられたら、センパイは確実にゾンビだと疑われちゃうと思う。
不安が募りに募る中、車は目的地の火葬場へと到着した。
「着いたぞ」連さんは、そう一言呟くとドアを開けて周囲を見ながら外へ出る。
3人も連さんに続く。
郊外にある火葬場は、こんな状況になった今、死体を燃やすためにフル営業。
煙突から出る煙は、俺たちの不安を具現化したような色をしながら延々と天高く上り、雲の先へ消えていく。
火葬業者に話を聞きに行けば、「感染者の遺体なんですけど...ふつうに燃えますよ、なんか蘇るとか言ってましたが……焼いたら灰ですよ、普通に」と沢山の灰が積まれてある場所へと案内された。
「たしかに燃えてますね?」センパイに話しかけるけど、返答なく難しい顔をしながら考え込んでいた。
「センパイ?」「……あ、ああ」センパイは何か考え事していたのか、少し遅れてから返答。
「どうしたんですか?」「いや、ちょっとな……」ちょっと、何を考えてたんだろう?深くは追求しなかった。
「まぁ、これでゾンビの増殖は防げるだろ、ある程度は」
連さんの言う通り、死体を集めてここへ持ってくれば、少しはゾンビを減らすことに貢献できるかも。
だけど、本当にそれで大丈夫だろうか?この火葬場は、一体いつまで持つんだろうか……。
「でも既に暴れているゾンビを、この方法で処理することはできるの?」相変わらず不安そうなひで。
「さぁな、わからねぇが……とにかくやれることはやるべきだろ」火葬場から出て、煙草に火を点けながら連さんは言う。
「ああ、そうだな.....」センパイもどこか心がここにないような返事で同意する。
やっぱり希望が見えないからだろう。
車までの道のりをトボトボと歩んでいると、ゆらり、と、空気が揺れた。
オレンジ色の、それは、まるで、炎のような。
「……え?」気づいたのも、振り向いたのも、4人の中で雄膣の穴から精液垂らした俺ただ一人。
ゆっくりと見えてくる視界には、センパイがみるみるうちに萎びていく姿。
俺はそのショッキングな出来事を呆然と眺めていることしかできず、正気を取り戻すのに数秒かかった。
「……せ、ん……ぱい……?」ひきつった口、震える手。
俺は必死に枝のような彼の手へ伸ばす。
だけども一瞬で、この霧は空中に霧散し、跡形もなく消えていた。
「拓也?」背後からセンパイの声が。
あれは幻覚だったのかと、センパイをしっかり見る。
いつものセンパイだ。
「呼んだのか?」「あ、いや……なんでもないっす」俺は慌ててセンパイの隣へ。
「なんかあったのか?」と聞かれたけど、「なんでもないです」と念を押した。
顔を見ることもままならず、視線を下に落としながら車へと戻る。
車内から見ても火葬場の上から煙は出ていた。
この煙はいつまで出続けるのだろうか。
あの灰は、どこまで盛られるんだろうか。
「ああなったら何も考えなくて済むのかな」
小さなつぶやきが、俺の隣から聞こえた。
センパイ、今何を考えていますか……?